京太郎「えっと、清澄の控え室は確か……」すたすた

どんっ

京太郎「す、すいません! ぼけっとしてて……」

「……」

京太郎「!?」

「いえいえ。こちらこそごめんなさいですよー……ってあれ?」

京太郎(うわぁあ…! あの子何であんなすげえ格好してんだ!? 思わず逃げちゃったぜ)すたすたー



初美「あの人、何か面白い気配が……」

初美「!」ぴくっ

ひょいっ

初美「この包みは……タコス、ですかー?」じぃー

初美(届けないといけませんねー……)すたたた



優希「なぬっ!? 貴様、タコスを失くしただと!?」

京太郎「ほんっとごめん!」ぺこぺこ

久「まだ時間はあるわ。須賀くん、行ける?」じっ

京太郎「任せて下さい!」びしっ

優希「京太郎! 頼んだじょ!」

京太郎「おう!」

京太郎(俺の作ったタコスの味を楽しんでもらいたかったけど、仕方ないか……)がちゃ



初美(結局、あの金髪の人を見つけられませんでしたー)

初美(もはや窓口に届けたほうがよさそうですねー)


「あ、はっちゃん?」


初美「!」

初美「姫様、巴ちゃん!」

小蒔「ちょっと気分転換に、散歩でもしようかと思いまして」

巴「はっちゃんも遅かったですから、探すついでにですね」

小蒔「はっちゃん、その包みは……?」

初美「落とし物ですよー。これから窓口に届けに行くところですー」

小蒔「落とし物……」

巴「……姫様?」

小蒔「はっちゃん、それ、渡していただけませんか」

初美「いいですよー」ひょい

小蒔「……」すー

初美「姫様?」

小蒔「感じませんか? これに宿る心を」

巴「え?」

小蒔「これは私が責任を持って、持ち主の方に届けに行きますね」



巴(結局、姫様を一人にさせるわけにもいかないので、私たちもついていくことになりましたが……)

初美「まさか外に出るとは思わなかったですよー」

姫様「……」すたすた

初美「それにしても、姫様は本当に解るんですかー? 持ち主の居場所が」

巴「はっちゃんは信用していないと?」くすっ

初美「そう言う意味じゃありませんー!」くわっ

姫様「……」たん

巴「わっ、急に立ち止まりましたね。もしかして見つけましたか?」

初美「あっ! 居た! あの金髪がそうなのですよー!」ぐいぐい

巴「ち、ちょっと引っ張らないで下さい……!」あたふた

京太郎(ふぅ、疲れた)

京太郎(ま、何とかタコスも買えたし、ひとまずは安心といったところか)

かつっ、かつっ

京太郎(ん?)

かつっ、かつっ

京太郎(あれは……)


初美「また、会いましたねー……失くしたものを、届けにあがりました」


京太郎「えっと……」

京太郎(目の遣りどころに困るな……)てれてれ

巴「ごほん!」

京太郎「!」

巴「初めまして。私たちは、永水女子の者です」

京太郎「えっと、初めまして……清澄高校の須賀といいます……」

巴(清澄……!)

初美(何というか、珍しいこともあるものですねー)

京太郎「それで、一体……?」


小蒔「世に同じ料理はただ一つとして存在せず」


京太郎「!?」


小蒔「貴方のタコスは、これ以外には無いでしょう?」すっ


京太郎「! それは、俺が落とした……」

小蒔「はっ!」

小蒔「その、失礼しました……! 私は神代小蒔と申します」

小蒔「あの、タコスの声が、聞こえたものでしたから……」

京太郎「???」

小蒔「受け取って下さい……!」

京太郎「は、はい。ありがとうございます……」

京太郎「あー……、その……」

初美「!」

初美「私と貴方がぶつかった時にそのタコスは落ちた」

初美「私はそれを届けようとして、この二人と貴方を探していた」

初美「他に何か、疑問はありますかー?」

京太郎「……」ふっ

京太郎「無いですよ、疑問なんか。失礼かもしれませんが、服装、正したほうが良いですよ」にこっ

初美「なっ……お、お節介ですよー!」ばっ

京太郎「あははは」

初美「む、むー……何ですか、この人……」どきどき

京太郎「何か……不思議な感じだ」

巴「……?」

京太郎「ああ、いや……」

京太郎「神代さん……でしたよね?」

小蒔「は、はい!」

京太郎「貴女とは、あまり初めて会った感じがしません」

小蒔「……」

巴(もしかして……口説こうとしてる?)じとー

小蒔「実を言うと、私もそう、感じていました」

小蒔「貴方を見付けた時、私の心は喜びの声をあげていました」

小蒔「初めて会う筈なのに、まるで何年も前から知っているかのような──」

小蒔(やっと、見付けられたというように──)

京太郎「……」

小蒔「これも何かの縁です。明日、落ち着けるところで、お話しませんか?」

京太郎「いいですね。じゃあ連絡先を……」すっ

初美「あっ、そこは私にお任せ下さいー」ぴこぴこ

巴(何だろう。この感じ)

巴(目の前の男のことを、私は何も知らない)

巴(けれど、害は無さそうだと思う。私の勘と言うと、霞ちゃんには怒られちゃうかな)

巴(何より……姫様が、心を開いておられる)

巴(そのことに、本来感じるべき危なっかしさを、欠片も感じなかった……)

巴(これが、運命の相手、ってやつなのかな……)

巴(あれ、なんだろう、この気持ち)

巴(なんか厭だな。ざわざわする。心が落ち着かない)


小蒔「――今日――先鋒戦で――」

京太郎「うちの――も、負けませんよ――」

初美「対戦校の――」


巴(疎外感?)

巴(違うな。もっと荒々しくて、砂嵐みたいにごわごわしていて)

巴(――ああ、そっか……)

巴(私、彼に一目惚れしてたんだ)かあっ

巴(だから、今、こんなにムカついてるんだ……)

巴(運命、運命、ね。これが、憎いという感情なんですね、姫様)

巴(ごめんなさい。姫様)

巴(ごめんなさい。みんな――)

巴(姫様から須賀くんを奪おうとしている、この私の矮小な心を)

巴(――どうか許さないで欲しい)


数ヶ月後

巴「それでは、行ってきます」

霞「明日には戻るんでしょう?」

初美「そのつもりですよー」

小蒔「ふあ……あ ……」

春「すごいくま……」ぽりぽり

霞「小蒔ちゃん、大丈夫かしら?」

小蒔「今日を楽しみにしすぎてしまって、最近夜はあまり眠れなかったので……ふあ ……」

初美「向こうで寝てしまわれないように、電車の中でお休みになりましょうー」

小蒔「……」うとうと

霞「大丈夫かしら……?」

巴「安心して下さい。何かあればすぐ連絡をつけます」

霞「頼むわね、巴ちゃん」


巴(今日から長野旅行)

巴(名目上は、だけど。みんな京太郎くんに会いたくてうずうずしてるみたいだから)

巴(ふふ……♪)かちゃかちゃ

『To:須賀京太郎
今、家を出ました。
京太郎くんと遊ぶのは久しぶりだから、とても楽しみ♪
たくさん思い出、つくろうね♪』

ぴろりろりん♪

京太郎「ん……メールか。巴さんから……」

京太郎「ははっ。俺も楽しみだよ。それに ――」

京太郎(久しぶりに小蒔さんと会えるー!)ばたばた

京太郎(髪型、よし! 服装、よし!)さっさっ

京太郎「ごほん! あ、あー……」

京太郎「……上がってけよ……」きりっ

京太郎(よし! いける!)かちゃかちゃ

『To:巴さん
俺もすげえ楽しみで、夜も眠れないくらいでした(笑)
麻雀も超上達しましたから、今日は負けませんよ!』

がたん ごとん


初美(ふふふー、今日の"夜這い計画"は自分でも驚くほど、隙がありませんねー)

初美(イメージトレーニングも完璧。この身体を逆に武器にして、京太郎くんを誘惑して、メロメロにさせてあげます、ですよー……♪)

初美(えへへ……♪)にやにや


小蒔(京太郎、くん……)すうすう

小蒔(今日こそは、伝えられるでしょうか……)すうすう

小蒔(貴方に、私の心を)すうすう


巴(特別な小細工は要らない。ただ自然に、滑らかに、京太郎くんの"本妻ポジション"に就く)

巴(当の京太郎くんは、今はまだ、姫様に心を預けるつもりでしょうが ――)

巴(いずれそれは、私に預けていただきますから、ね……♪)



カンッ