http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1390033543/



    ??「おやおや、これは」

    京太郎「」

    _________

    _____

    __


    京太郎「んん…」

    ??「気づいたかい。どこか痛むところとかは?」



    妙齢の女性だ、どことなく気品がある。だがおもちはない



    京太郎「ええと…体の方はなんともないんですが。この状況は…」

    ??「あんたうちの目の前に倒れていたんだよ。体には異常がないみたいだったから救急車は呼ばなかったけどね」

    京太郎「そう…なんですか。助けていただいてありがとうございます」

    ??「どういたしまして。で、あんた名前はなんていうんだい?」

    京太郎「須賀京太郎といいます。清澄高校の1年生で麻雀の全国大会に来ているんです」

    ??「全国、大会…?」

    京太郎「ええ、まっ僕はただの雑用なんですけどね」

    ??「うーん…?そういえばどうしてあんなところに倒れていたんだい?」

    京太郎「ええと、確か部長に買出しを頼まれて、外を歩いていたのは覚えているんですけど……」

    ??「倒れた理由はよく分からない、と」

    京太郎「まあそうですね、たぶん疲れがたまっていたんだと思います」

    ??「なるほどね。ところで須賀君、あんたその格好は寒くないかい?羽織るものなにか貸そうか?」

    京太郎「え?いえ体が丈夫なのが取柄なんで心配には及びませんよ」

    ??「そう、かい。うーん、なるほどねえ…」

    ??「でも体の方は大丈夫そうでよかったよ。あんまり時間をとらせてもあれだし、そろそろ行くかい?」

    京太郎「はい、みんなも待たせていると思うんでもう行きます」

    京太郎「このお礼はいつか必ず…お名前と電話番号だけ教えていただいてもかまわないでしょうか?」

    ??「私は熊倉トシ。電話番号は――だよ。それよりも須賀君、もしかしてあんた…」

    京太郎「?」

    トシ「……いや、なんでもないよ。気をつけて行ってらっしゃい。あと困ったことがあったらまた来なさい」

    京太郎「はい!では失礼します。ありがとうございました!」ペコリ


    __________

    ______

    __


    30分後


    ピンポーン

    トシ「ハイハイ、どちら様?」

    京太郎「すいません、須賀京太郎です。困ったことがあったのでまた来ました」

    トシ「来ると思ったよ。とりあえずお入り」


    京太郎「あの変なこと聞くようですいません、ここってどこですか?」

    京太郎「それに、なんというか古臭いとういか、いや失礼…なんだか懐かしいレトロな町並みですし」

    京太郎「いったい何がどうなっているのかさっぱりで……」

    京太郎「さっきの口ぶりからするともしかしたら何かご存知じゃないんですか?」

    京太郎「何でもいいんです、教えてください!!」

    トシ「まあとりあえず落ち着きなさい。ここは、茨城県だよ」

    京太郎「……へ?」

    トシ「麻雀の全国大会の会場である東京都からはだいぶ離れている」

    トシ「しかし、さっき須賀君は麻雀の全国大会に来ていると言っていたね」

    トシ「さらに今の季節は冬、そしてどう見ても須賀君、君の服装は夏服のそれだね」

    京太郎「……はい」

    トシ「普通の人ならこの季節にそんな格好はしないよ」

    トシ「さて一つ、こちらから質問してもいいかい?今は西暦何年だい?」

    京太郎「……20××年のはずです」

    トシ「そうかい、やっぱりね。でも残念ながら今は20△△年、つまり君の言った年より12年も前なのさ」

    トシ「まさかと思うかい?でもそろそろ君も気づいているはずだよ。君の身に一体何が起こったのか」

    京太郎「……」

    トシ「答えは単純、君は時空を越えたんだよ。いわゆるタイムリープというやつさ」

    京太郎「タイム…リープ?」



    そんなアホな、と思ったが口には出せなかった

    だってこの部屋の、いやこの部屋だけじゃない

    外の様子、人の服装、携帯電話、電子機器、世間話の内容、それらは明らかに過去のものだったから

    だから黙ることしかできなかった



    トシ「とりあえず、こんなところかね。何か質問あるいかい?」

    京太郎「ええと…すいません、話の内容は分かるんですが、いまいち実感がわかなくて」

    トシ「そりゃあそうかもしれないね」

    トシ「まあでも、そんなに気に病むことはないよ。君くらいの年頃の子にはよくあることなのさ」

    京太郎「え゛?そ、そういうもんなんですか……?」



    芳山和子みたいなことを言うな



    トシ「まあね。実は私は多少の知識ぐらいなら持っているんだよ」

    トシ「君だって麻雀をやるなら見たことぐらいあるだろう」

    トシ「この世の中には常識では説明のつかない力、いわゆるオカルトが存在するのさ」

    トシ「そういうものの一種と考えれば、理解できないこともないんじゃないのかな?」



    まあ分からなくもないが、なんだか煙に巻かれた気もしなくもない

    しかし、現状頼れるのはトシさんだけだ



    京太郎「まあなんとなくは理解しました。けどじゃあ、僕はこれからどうすればいいんでしょうか?」

    トシ「とりあえずは、ここでの生活に慣れることだね。ということで暫くはうちにいなさい」

    京太郎「うぇっ、いいんですか。自分で言うのもなんですけど、僕明らかに不審者ですよね?」

    トシ「不審者か、ははは、そりゃそうだ。でも大丈夫、私の人を観る目は確かだからね」

    トシ「それに迷える青少年を導くのも年寄りの仕事のうちさ」

    トシ「でもタダで住まわすことはできないよ。家事の手伝い、それと私が買い物に行くときは必ず付き合うこと」

    トシ「この二つだけはしてもらおうかな」

    京太郎「そんなことでいいんですか?それなら家事でも買い物デートでも何でもしてみせますよ!」

    トシ「デートだなんて嬉しいことを言うねえ。まあでもよろしく頼むよ、"京太郎"」

    京太郎「こちらこそよろしくお願いします、"トシさん"!!」



    その後、いろいろと細かいことを決めなければならなかった


    まず設定として、俺はトシさんの孫ということになった

    そして変な誤解を避けるため、俺は熊倉京太郎と名乗ることにした

    少々語呂が悪い気もするが、まあ我慢しよう


    元の時代に帰る方法だが、それはトシさんが調べてくれるらしい

    なんでも、トシさんはそっち方面のことには詳しいらしいのだ

    俺にはどうしようもないことなので、これについてはトシさんを信じるしかない


    またトシさんの助言で、元の時代のことはなるべく言わないようにと釘を刺された

    もちろん、トシさんに対してもだ

    どんな発言が未来に影響を与えるか不明確だからだ。注意するに越したことはない


    また、なんと信じられないことに学校に通えることになった

    俺としてはニート生活を満喫したい気持ちでいっぱいだったのだが…

    トシさんはその人脈をフルに活用し、俺を近隣の高校にねじ込むことに成功したのだ

    戸籍とか住民票とかどうしたんだろうか?トシさんにそのことを聞くと

    「世の中には知らないことが良いってこともあるんだよ」ニコ

    と言われた。トシさんあなた一体何者なんですか…


    そんなこんなで、俺の新しい生活がスタートした


    大丈夫かなぁ……





    ――3月



    この2ヶ月弱の間にこちらの生活にはだいぶ慣れることができた

    すべてはトシさんのおかげと言っても言い過ぎにならないだろう

    本当に感謝している

    お金のことを話すと、「気にしなくていい」と一蹴されてしまったことがある

    だから元の時代に戻ったら全力でお礼をするつもりだ


    12年という歳月は中々長いもので、色々と面食らうことはあった

    この時代にはスマートフォンがないのは知っていたけど、まさかあんなオモチャみたいなものを使っていたとは…

    パソコンのCPUがセレロンで回線がADSLだったのには少々呆然とさせられた

    しかし、今ではその速度が逆に心地よい

    子供のころ見ていたアニメや戦隊ものの番組を、この年になって再び見てみるのは意外と感慨深いものがある


    そうこうしているうちに4月に入った、いよいよ高校の入学式だ





    ――4月上旬 入学式



    トシ「なかなかきまっているじゃないか、似合ってるよ」

    京太郎「ありがとう、なんだか照れるね。でも今までと違う制服だからやっぱり違和感があるよ」



    ちなみに、孫設定だから敬語は基本無しだ



    トシ「はは、仕方が無いね。でも第二の母校になるんだから慣れなきゃならないよ」

    トシ「ほら時間がない、遅刻するから早くお行き」

    京太郎「はい、行ってきます!!」



    近所の人たちに挨拶をしながらバス停に向かう

    近所の人といえば、幸いなことに俺がトシさん家の前で倒れていた様子は誰にも見られなかったらしい

    なので俺は近所の人たちにも孫ということで通っている

    そして通学のためにトシさんのところにお世話になっている設定なのだ


    高校まではそれほど遠くないが徒歩や自転車では少々時間がかかる

    なのでバスを利用することになっている

    30分もすればもう目の前だ


    校門の前には初々しい新一年生が群れを成している

    桜が綺麗だ

    まさか一年経たないうちに、また満開の桜を見ることになろうとは、夢にも思わなかったが


    教室に向かい扉を開けるとすでにかなりの席が埋まっている

    自分の席に向かい着席する

    何人かの生徒は談笑しているが、おそらく同じ中学だったのだろう

    しかしほとんどの者は静かに着席し、先生が来るのを待っている

    俺もその一人だ。ぼっちだよー

    仕方ないので、隣の女の子にでも話しかけますか


    手入れのされた綺麗な黒髪のセミロング

    容姿は整っているが、少々暗い雰囲気をまとっている

    残念ながらおもちはない

    しかしこの子、前にどこかで……



    京太郎「ちょっといいか?」

    ??「う゛ぇ!わ、私…ですか?」ビクビク



    驚かれた、俺ってそんなにいかついか?地味に傷つくぜ



    京太郎「うんそうそう。俺は須…じゃなかった、熊倉京太郎っていうんだ」

    京太郎「知り合いがいなくて暇なんだ。先生来るまで少し話そうぜ」

    ??「え、はあ…」ビクッ



    人見知りだな、こりゃあ



    京太郎「実は俺長野からこっちに来たから知り合いが誰もいないんだよ」

    京太郎「だからこれからよろしくな」

    ??「は、はい…」ビクビク

    京太郎「同級生なんだから敬語はいいよ」



    これはなんだか駄目そうだぞ。出会ったころの咲を思い出させるな



    京太郎「そういえば君は地元の人なの?」

    ??「は…う、うん。小さいころからずっとこの辺に…」

    京太郎「おーそうなんだ、じゃあもうすでに知り合いとかいるのか」

    ??「い、いやその…えと」カァァ



    目線を下に向けてわずかに顔を赤らめる

    あちゃーこの反応、友達いなかったパターンだ。悪いことしたな

    とりあえず話題を変えよう



    京太郎「そういえば最初に聞くの忘れてたわ、名前はなんていうの?」

    ??「え、名前?こか…」


    ガラガラガラ

    担任「おーい、みんなー席につけー」

    京太郎「わるい。タイミング悪かったな」

    ??「う、うん…」シュン

    京太郎「……」

    京太郎「あー、また後でな」

    ??「う、うん!」ニコ



    おお、笑うとかわいいな

    しかし本当に見覚えがあるんだよなあ…

    こう、口まで出かかってるんだが……うーん分からん


    先生は簡単な自己紹介をし、今日の日程を説明した

    この後入学式で教室に戻った後、所属する委員会を決めて解散らしい

    うん、いたって普通だ



    担任「体育館に行く前に点呼しておくぞー」



    先生は次々と名前順に呼び上げていき、ついに俺の隣の子の名前を呼ぶときになった

    その名前は彼女の口から聞きたかったが、まあ仕方がない。そう思っていると――




    担任「小鍛治健夜ー」






    京太郎「…………」

    京太郎「へ?」



    驚いてすぐに隣を向くと逆に驚かれたが、それでも凝視してみる

    なるほど、確かにその面影がある、むしろそっくりだ。おもちがないのも頷ける

    気がつかなかったのが不思議なくらいだ

    小鍛治健夜プロその人である


    しかしなんでここに?なぜよりによって小鍛治プロが?

    そんなことを考えていると、いつの間にか俺の名前を呼ばれたので返事をする

    俺の挙動がおかしかったのか、隣の小鍛治さん…いや小鍛治はキョトンとしていた


    びっくりしてしばらく頭が回らなかった

    頭の中は小鍛治のことでいっぱいだった

    別に恋に恋する男子高校生ってわけじゃないが


    近くの男子と会話したけど、生返事だったと思う、正直すまん

    気付いたら式は終わり教室に戻っていた


    相変わらず小鍛治の周りには誰もいない

    というかさきほど、俺と喋った以外誰とも会話してないと思う

    本読んでるし。お前は咲か!!と言ってやりたくなるがこらえる


    しかし俄然興味が湧いたのは事実なので、思い切って小鍛治に話しかけてみる



    京太郎「さっきは悪かったなー。先生に先越されちまった」

    京太郎「小鍛治、って呼んでいいか?」

    小鍛治「う、うん。いいよ…」

    京太郎「おう分かった。俺のことは熊倉…?うーん、やっぱ下の名前の京太郎で呼んでくれ」

    京太郎「こっちの方が慣れているし」

    小鍛治「えっ、え、急に言われても……」

    京太郎「だめか?」

    小鍛治「ええと…うーん…じゃあ、きょ、京太郎くんと……呼ばせていただきます////」カァァ

    京太郎「おう、改めてよろしくな。小鍛治!」


    京太郎「そういや委員会なにやるのか決めた?」

    小鍛治「えと、私、本とか好きだから図書委員やろうかなって思ってるんだけど…」

    小鍛治「京太郎くんは?」



    俺かあ…正直いって何でもいいんだがなあ



    京太郎「そうだなあ、体育委員でもやるかなー(適当)」ボケー

    小鍛治「そう、なんだ…」

    京太郎「でも小鍛治の図書委員は似合ってるんじゃないか。少なくとも体育委員とか学級委員て感じじゃないしな」

    小鍛治「もう、なにそれ!ま、まあ…本当のことだけど」



    今の反応は少し素っぽかったな



    京太郎「はは、すまんすまん」


    ガラガラガラ

    京太郎「おっ、先生来たみたいだからまたな」

    小鍛治「うん」



    早速先生は委員決めに取り掛かる

    先生が挙手を促し、それに応じて各委員が次々と決まっていく



    担任「じゃあ次、図書委員やりたい奴いないかー」



    誰も手を挙げようとしない。小鍛治も手を挙げずになんだかモジモジしている

    なるほど、これはあれだ。誰も挙手しないから逆に挙げづらくなるアレだ

    はあー……仕方ない



    京太郎「ハイ!俺やります!」

    担任「おっ、熊倉か。ありがとな。他にはいないかー」



    すかさず小鍛治に視線を向ける。とまどいながらも何か決心したようだ



    小鍛治「は、はい、私もやりましゅ…」



    意図が伝わって良かった。しかし噛んだな。まったく世話のかかる…


    でも未来の小鍛治プロはもう少しちゃんとしてたから、これから成長していったんだろうな

    そう思うとなんだか無駄にじーんとしてしまった


    とりあえず今日の日程は終わり解散となった

    すると小鍛治の方からから話しかけてきた



    小鍛治「さ、さっきはありがとう…」カァァ

    小鍛治「それだけだから、じゃあ////」



    それだけ言うと、挨拶するまもなく、早足で教室から出て行ってしまった

    さて俺も帰りますか

    _________

    _____

    __


    京太郎「ただいまー」

    トシ「おお、おかえりなさい。学校はどうだった?」

    京太郎「うーん普通だったよ、二回目だしそりゃあね」

    京太郎「ただ気になることが一つあったよ。元の時代で知ってる人がいたんだ」

    京太郎「それも同じクラスの隣の席に」



    まあ小鍛治"プロ"のことは話さないほうがいいだろう



    京太郎「なにかあまりにもでき過ぎていて不自然じゃない?」

    トシ「ふーむ、確かにねえ…ちなみにその子の名前は?」

    京太郎「小鍛治健夜」

    トシ「小鍛治さんちの子かねえ?」

    京太郎「知ってるの?」

    トシ「ああ、この家から徒歩で10分くらいのところの家なんだけどねえ」

    京太郎「ふーん、ご近所さんかもしれないのか小鍛治のヤツ」

    トシ「おや、もう呼び捨てかい。手が早いねえ」

    京太郎「そんなんじゃないよ。なんだかほっとけないオーラがすごくてさ……」

    トシ「ああ、なるほど…京太郎は世話焼きだもんねえ。偉いじゃないか」

    トシ「しかし偶然にしては確かにでき過ぎてる…元の時代で面識とかなかったかい?」

    京太郎「いや…無いはずなんだけどなあ…」



    ただ、タイムリープ直前の記憶がないのでなんとも言えないが…



    トシ「なんにせよ、仲良くしてあげなさい」

    京太郎「もちろん」



    小鍛治で思い出したが、そういや咲の奴は元気にしているだろうか?

    タコスを作ってやれないで大丈夫だろうか?

    母さん、カピに餌ちゃんとやってるだろうか?

    いやそもそも向こうの時間って進んでるのか? 

    なら大丈夫なのか?

    分からん!




    ―4月中旬



    入学式から1週間が経った。そろそろ、部活を決めるころだ。何にするかなあ

    仮入部とか部活見学して決めるかな。まあ、麻雀部でもいいんだけどね


    ガラガラガラ


    京太郎「おはよー」



    教室の扉を開けて挨拶する。男友達の何人かが挨拶してくれる

    1週間もすればクラスの雰囲気にも慣れてくる。友達も何人かできた

    小鍛治とも最初に比べれば打ち解けてきた、と思いたい…

    そんな小鍛治は今日も一人でぽつんと読書をしている。いつものことだ

    さて今日は何を読んでいるのかな?



    『時をかける少女』筒○康隆著



    うわーお…

    でもこの時代だとまだアニメ映画はやってないんだよな

    話題に出さないように気をつけねば



    京太郎「おう、おはよう!」

    小鍛治「う、うん。おはよう」



    この1週間で挨拶くらいなら普通にできるようになったのだ

    ときどき会話はたどたどしくなるけどな



    京太郎「何の本読んでるんだ?」

    小鍛治「『時をかける少女』っていう短編集」

    京太郎「へぇー、どんな話があるんだ?」

    小鍛治「うーんやっぱりメインはタイトルにもなってる『時をかける少女』かな」

    小鍛治「他の短編も既にいくつか読んだけど、私はあんまりって感じだった」

    京太郎「ふーん、どういう内容なんだ?」

    小鍛治「主人公の女の子が偶然タイムリープできるようになって、その秘密に迫っていくんだ」

    小鍛治「そしてその中で少年少女たちの淡い…その…こ、恋心を描いていくんだよ///」カァァ



    乙女か!まあ乙女なんだけど

    しかし趣味のことになるとなかなか饒舌になるな。小鍛治プロもかつては普通の女の子だったわけだ



    小鍛治「ま、まあ、よくあるジュブナイル小説だよ」

    小鍛治「京太郎くんはこういう話に興味あるの?」

    京太郎「ああタイムトラベルものはけっこう好きかな」



    なにせ自分で体験しているんでね



    小鍛治「そ、そうなんだ。だったらこれよりも高○京一郎さんの『タイムリープ あしたはきのう』の方がおもしろいよ!」

    小鍛治「『時をかける少女』はどちらかというと少年少女向けって感じだけど」

    小鍛治「高畑さんのはタイムリープの現象を正面から扱ってるんだ」

    小鍛治「だからSFとしてもちゃんと読めて、読み応えが全然違うんだよ!」

    小鍛治「さらに主人公の相手役の男の子がいるんだけど、最初は『他人なんか興味ないぜ』って感じのクール系キャラなんだ」

    小鍛治「だけど主人公とのやり取りを通じてだんだんと心を開いていくのがまたいいの!それに――」


    京太郎「わ、分かったから、とりあえず落ち着いてくれ」



    また一つこいつのことが分かった、興奮すると止まらなくなるタイプだ



    小鍛治「あっ、ご、ごめんね、私調子に乗って…」アセアセ

    京太郎「べつに気にしてないよ。誰だって自分の好きなことは話したくなるもんだろ?」

    京太郎「だから今度その本貸してくれよ、小鍛治のこともっと知りたいし」

    小鍛治「う、うん…///」



    そんなやりとりをしていると先生が入ってきた。一日の始まりだ


    次々と授業をこなしていく。一度習ったことを再び学ぶってのも悪くないなと最近思うようになった

    まあほとんどの場合退屈なのだが。しかしその分俺はクラスでは勉強のできるやつと認識されるようになった


    また授業を受けていて気づいたことがある

    小鍛治のやつは運動が苦手で、勉強は得意なようだった。予想通りというかなんというか…こちらの期待を裏切らない


    また昼食はいつも小鍛治ととるようにしている

    一人で弁当をモソモソと食べていたので、見かねて小鍛治を誘って食べるようになったのだ

    男子連中からは最初からかわれたが、今ではそれが当たり前になり誰も気にしない


    別に小鍛治がいじめられてるとかじゃないが、クラスの皆はどう接していいのか良く分からないようだ

    からかったりすると面白いんだけどなこいつ


    授業、掃除が終わると皆は部活を見ていくようだ

    俺もサッカー部とか野球部、陸上部などに一緒に行かないかと友達に誘われたが断った

    小鍛治は文芸部に行くと言っていた

    心の中で「君には誰にも負けない麻雀の才能があるのだよ」、なんて思ったが口には出さなかった

    俺は結局麻雀部に見学に行くことにした。なんだかんだ言っても麻雀好きだしね



    ここが麻雀部の部室か…


    ガラガラガラ

    京太郎「失礼しまーす!!」



    第一印象が肝心なので元気よく挨拶する。中には女子生徒が4名いたが男子はいない

    このパターンは清澄での雑用ルートを彷彿とさせるが…とりあえず入ってみる



    部長?「おお見学かな?よく来てくれたね、ささ座って!」



    いかにも部長という感じの利発そうな人だ。容姿も整っていて、なによりなかなかのおもちの持ち主だ。

    久パイ+αといったところか



    副部長?「さ、お茶どうぞ」

    京太郎「あ、ありがとうございます」



    この人もまた美人さんだが部長さん?に比べるとこちらは落ち着きのあるタイプと見た、自己主張しないタイプの

    しかし目線を少し下に向けると、ものすごいものが自己主張していた。


    なんなんだいったいこれは!!

    ブレザーという名の拘束具がまったく役に立っていないではないか!

    これはのどパイに匹敵するかあるいはそれ以上か……いやおもちに貴賎なし!!

    みんな違ってみんないいのだ、当たり前のことだ……


    今以上にタイムリープしてきて良かった思ったことはない、いやこれからもきっと!!!

    お母さん、お父さん。俺を生んでくれてありがとう!

    俺こっちの時代で幸せになるよ!



    部員1?「おう!よろしくー。まあゆくっりしていってな」



    元気娘といったところか、雰囲気は優希に似てる。おもちなし。はい次



    部員2?「よ、よろしくお願いします」



    ちょっと緊張してる。真面目そうな人だ。おもちは平均くらいかな、このくらいのもなかなかよいではないか



    京太郎「はい、こちらこそよろしくお願いします!」

    京太郎「それで、今日は見学させていただいてもよろしいですか?」

    部長?「そんなに硬くならなくても大丈夫だよ」

    部長?「まずは簡単に自己紹介しとくね、私が部長であのでかいのが副部長、そこの二人が部員1と部員2だね」



    でかいのって…その通りだが、副部長さんが顔を赤らめてらっしゃる。セクハラとはいい趣味してる、ぐへへ



    京太郎「はい、分かりました。僕は1年生の熊倉京太郎といいます」

    部長「熊倉くんねえ……もしかして、熊倉トシさんのところに来ている孫というのは君のことかな?」

    京太郎「祖母のこと知っているんですか?」

    部長「ああ。知ってるかもしれないが、熊倉さんはここら辺の子達を集めて月に何度か麻雀教室をしてるんだ」

    部長「で、私達もそれに参加しているんだが――先月だったかやけに嬉しそうにしていてね」

    部長「それで聞いてみると長野から孫が来ているとおっしゃっていたんだ」

    部長「とても嬉しそうに君の事を教えてくれたよ。あんなこと珍しいんじゃないかな、なあみんな」

    「「うんうん」」



    そんなことがあったのか。なんだか色々な感情がこみ上げてきて、胸にじーんと来る

    今日の夕飯はうんとおいしいものしよう



    京太郎「なんだか恥ずかしいですね……」

    副部長「とういうことは、熊倉くん麻雀はもう打てるのかしら?」

    京太郎「ややこしいので京太郎でいいですよ。麻雀は初心者に毛が生えた程度ですね、残念ながら」

    部長「なあに、一年生なんだからこれからどんどん強くなっていけばいいのさ」

    京太郎「はは、そうですね。ところで質問いいですか?男子部員の方はいないんでしょうか?」

    部長「ああ、残念ながらね。だからこのまま京太郎くんが入部しても団体戦に出場するのは正直かなり厳しいと思う」

    部員1「でも、それは私達も同じだよねー」



    部員2「先輩達が卒業しちゃって、もう四人しかいないもんね…」ハァ

    清澄や鶴賀みたいに部員で苦労してるとこは他にもあるんだな

    あのときは咲がいたからよかったが……


    いやまてよ、小鍛治がいるじゃないか

    そもそも、小鍛治プロは高校生のころインターハイに出場していたと聞いたことがある

    このまま行くと、小鍛治が麻雀をやらなくなって、もしかしたら未来が変わってしまうかも

    …………よしっ!



    京太郎「あの、それだったら心当たりがあるかもしれないです」

    部長「えっ!?」

    京太郎「うちのクラスの女子に麻雀に興味持ってそうなやつがいるんで、明日にでも誘ってみましょうか?」

    部長「ぜひっ!といいたいところだが、やはり本人の意思が一番大事だからな。無理に誘う必要はないぞ」

    部員1「相変わらずかたーい。ま、でもよろしく頼むよ新人くん。我が麻雀部の命運は君にかかっているのだ!」

    京太郎「はい、了解です!!」



    とりあえず初日はこんな感じだった

    なんだかいつの間に俺の入部は決まっているかのような雰囲気だったが、俺もこの部が気に入ったので構わなかった

    決しておもちで決めたわけじゃないよ?念のため

    ちなみにその後皆と麻雀を打つことになって、とても盛り上がった。久々に麻雀を打てて楽しかったのもある

    え、結果だって? もちろんラスばっかりだったよ(笑)


    トシさーん、俺にも麻雀教えてくださーい!





    ――4月中旬 翌日の放課後



    さて放課後だ。朝に言おうかと悩んだが、小鍛治みたいなタイプは時間をかけると逆効果になりかねない

    よって速攻とその場の勢いを使う作戦を試みる

    今教室には俺と小鍛治しかいない…絶好のチャンスだ!


    ガシッ

    京太郎「小鍛治大事な話があるんだ、聞いてくれないか?」キリッ



    いきなり腕をつかむ。スキンシップには慣れていないだろうよ。さあどうだ



    小鍛治「わっ、ひゃあ! どどどどどど、どうじたのさっ////!?」



    効果はばつぐんだ!次いで肩をつかむ



    京太郎「話は後だ!何も言わずに俺について来てくれ!」キリリッ

    小鍛治「えっ!ででででででもなんで私なんかが――」



    ここで決める!!


    グイッ

    京太郎「…なんかじゃない小鍛治、お前じゃなきゃダメなんだ」ミミモト

    小鍛治「は、はひ…////////」ボンッ



    アラフォー敗れたり。誰か俺に敗北を教えてくれ


    というわけで
     

    ガラガラガラ

    京太郎「お届けものでーす!」

    小鍛治「えっ、え、ここどこ? 麻雀部???」



    正気に戻ったか、だがもう遅いぜ



    部長「おおいらっしゃい京太郎くん、その子が昨日言っていた子かな?ささ座って」

    京太郎「ありがとうございます。さ、小鍛治座ろうぜ」イケメンスマイル


    ゴゴゴゴゴゴッ

    小鍛治「京太郎くん…これはどういうことなのかな?」グギギ



    イケメンスマイルでは誤魔化されんか…しかし、なんという圧力。咲以上か



    京太郎「す、すまん小鍛治、騙したりして悪かった。だからカン(物理)だけはゆるしてくれー」ビクビク

    小鍛治「カン(物理)ってなに!?私そんなことしたことないよねっ!?」

    京太郎「はは、悪い悪い。いつもの癖でな…」トオイメ

    小鍛治「はあ…もう分かったよ。で、話ってなに?」

    京太郎「ああ実はな――」



    先輩方が卒業して団体戦に出られないこと

    なので俺が一肌ぬいで小鍛治の勧誘をしたこと

    小鍛治の麻雀の実力がぜひ必要なこと

    俺も入部してくれると嬉しいこと

    などを一生懸命説明した



    小鍛治「話は理解したけど、私が麻雀できること言ったっけ?」



    やっべえ…そうだった、うまく誤魔化さんと



    京太郎「ほ、ほらこの前小鍛治、色川○大の本読んでたじゃないか」

    京太郎「そのとき阿佐○哲也の話になって、ついでに麻雀の話をしたじゃんか」

    小鍛治「確かに阿○田哲也の話はしたけど……うーん?」



    誤魔化しきれないか…



    部長「おーい二人とも、話は終わったかい?」



    ナイスタイミングです、部長!



    健夜「!」ササッ



    部長が再度話しかけてくると、小鍛治は俺の斜め後ろに隠れてしまった

    てかこいつ今まで興奮してて部長達のこと忘れてたな



    京太郎「はい、とりあえず終わりました」

    部長「そうか、でもダメじゃないか。ちゃんと説明してから勧誘しないと」

    京太郎「すみません」

    部長「私じゃなくて、その子に謝るべきなんじゃないかな?」

    京太郎「すまなかった小鍛治」ペコリ

    京太郎「でもさっき説明したことは本当だし、小鍛治が入部すれば俺としても嬉しい」

    京太郎「だから真剣に入部の件考えてくれないか?」

    小鍛治「う、うん……考えておく…」



    うーんこのテンションの落差、他に人がいるとこうも違うものか



    部長「京太郎くんの責任は部を預かる私の責任でもある、嫌な思いをさせてすまなかった」ペコリ

    小鍛治「い、いえ…そんなに怒っていないので…」

    部長「そうか、だが君に入部してもらいたいというのは本当だ」

    部長「だから今日は見学だけでもしていかないかな?」

    副部長「そうそう、おいしいお茶もあるわよ」

    京太郎「見学だけじゃつまんないし、一緒に打とうぜ。俺の実力見せてやるよ!」

    部員1「京太郎の実力見せられても、反応に困るだけだって」ケラケラ

    部員2「ちょっと本当のこと言うのやめなよ」

    京太郎「ひどい!」

    小鍛治「…ふふ」

    京太郎「!」

    小鍛治「分かりました。と、とりあえず見学させてもらいます//」



    やっぱり笑ってる方がかわいいな


    部活二日目はこんな感じだった

    小鍛治のやつは終始ビクビクしたりどもったりしていたが、帰るころには多少和らいでいた

    だが俺がサポートしてやらないと、まだうまくコミュニケーションを取れないようだった


    意外だったのは、対局のときだ

    俺は勝手に小鍛治は魔物クラスなのでは、と考えていたがこの頃はまだそこまでじゃないようだった

    手加減をしているという可能性もあるが、あの誠実な部長相手に小鍛治がそんなことをするとは考え難い

    確かに小鍛治は繊細で他人の気持ちに対して敏感だが、相手の思いを踏みにじるほど鈍感ではない

    きっとこれからどんどん練習して強くなっていったに違いないのだ

    そう思うと俺もやる気が湧いてくるというものだ


    ちなみにその日初めて小鍛治と一緒に帰った

    前にトシさんが言っていたことは本当だったようで、小鍛治の家とはわりと近かったのだ

    なのでバス停から少しは一緒だった



    京太郎「今日は悪かったな」

    小鍛治「もう気にしてないよ」

    京太郎「先輩達いい人だったろ?」

    小鍛治「京太郎くんに比べるとずっとね」フン

    京太郎「小鍛治にしては言うじゃないか」

    小鍛治「さ、さっきのお返しだよ//」

    小鍛治「あっ、私こっちの道だから」

    京太郎「そうか」



    なら、最後に一番聞きたかったことを聞こう



    京太郎「また明日も来てくれるか?」

    小鍛治「ふふ、考えておくよ。また明日ね!」



    まったく…素直じゃないな



    京太郎「ああ、また明日!」



    また明日、か…いい言葉だな

    さて、夕飯はなににしますかね




    ――4月下旬 体験入部終了後



    あのあと体験入部の期間中、小鍛治は毎日麻雀部に顔を出してくれた

    麻雀部が気に入ったのか、あるいは誘った俺に気をつかったのか…


    なんにせよ、ありがたいことは確かだった

    なぜなら俺達以外の一年生は結局一度も部室に姿を現さなかったから

    これで小鍛治が入部してくれれば、とりあえず女子の団体戦の人数は集まる

    部員は全員三年生なのでぜひ団体戦には出場して、悔いの残らないようにしてもらいたい



    京太郎「おはよー」

    小鍛治「うん、おはよう」

    京太郎「今日は何を読んでるんだ?」

    小鍛治「うん今日はね―――」



    こうして小鍛治の読んでる本を尋ねるのがもはや日課になっている

    こいつ意外と雑食で、いろんなジャンルのものを読むから聞いていて飽きないのだ

    興奮した様子で本の内容を話してくれるので、楽しさも人一倍伝わってくる

    このおかげか俺に対してはかなり打ち解けているといえるだろう。継続は力なり



    京太郎「そういえば今日入部届けの提出日だろ、ちゃんと持ってきたか?」

    小鍛治「もう!おかーさんみたいなこと言って、持ってきたよ!」

    京太郎「おおそうか、えらいぞ」

    小鍛治「えへへ、ありがと…じゃなくて、だから何!?」

    京太郎「ええと、小鍛治さんはどこに入るのかなーと気になりまして…」

    小鍛治「はあ…素直に麻雀部に入るか聞けばいいじゃん」

    京太郎「そうは言ってもほとんど無理やり誘ったようなものですし…」

    小鍛治「変なところで気をつかうんだから」

    京太郎「うぅ、すみません…」

    小鍛治「確かに最初のアレはどうかと思ったよ」

    小鍛治「でもいくら私だって嫌ならそう何度も行かないからね?」

    京太郎「それはつまり気に入ったから毎日来ていた、ってことでオーケー?」

    小鍛治「ま、まあ、ありていに言えばそうなるかな…///」



    この恥ずかしがり屋さんめ



    小鍛治「みんなで何かするのって久しぶりだったし」ボソ



    今のは聞かなかったことにしておこう



    京太郎「で、結局入部届けにはなんて書いたんだ?」

    小鍛治「はいっ!」



    返事の変わりに入部届けを突き出してきたが、そこには――



    京太郎「ゲスリング部……」

    小鍛治「ちがうよね!?ほら、ちゃんと麻雀部って書いてあるじゃん!」

    京太郎「すまんすまん、読み間違えた」

    小鍛治「どうやって間違えるのさ!?一文字も合ってないよね!?第一ゲスリング部ってなに!?」



    やはり小鍛治はいじってこそ、その真価を発揮する



    担任「おーい時間だ席につけー」

    担任「あとそこー、夫婦漫才はほどほどにしとけよー」

    「すごいツッコミだったのよー」 

    「ウチより目立っとるやないかい、なんとかせな」

    「ダルい…」 



    あのやりとりを見られていたとは…さすがにこれは少々はずかしい。小鍛治はというと



    小鍛治「あ、穴があったら入りたい、うぅ…//」カァァァァ



    下向いて顔を真っ赤にしていた、南無三


    その後入部届けを回収し、いつも通り授業を受けた

    ホームルームでの失態は確かに恥ずかしかったが、小鍛治がクラスの話題にのぼったのはよい傾向だと思う

    このまま俺以外にも心を開いていけばすぐに友達なんかできるはずだ

    俺以外にも、もっとその魅力を知ってほしいと思う…少々寂しい気もするが


    さて放課後、我ら学生のもう一つの本分、部活動の始まりだ



    京太郎「小鍛治ー、一緒に行こうぜ」

    小鍛治「ふん」プイッ



    あ、あれ!? もしかして朝の件、まだ怒ってらっしゃる…



    京太郎「からかいすぎたのは悪かったって、何度も謝ったんだから許してくれよ…」

    小鍛治「女の子に恥をかかせたんだから、当然の報いだよね」



    恥をかかせた、って…聞きようによっては誤解を招きかねないぞ



    「まーたはじまった」

    「熊倉は責任を取るべきだね」

    「最近の高校生は、わっかんねーな」 



    おおう、またこのパターン



    京太郎「さ、とりあえず行こうぜ」

    小鍛治「う、うん、そうだね…///」

    「ほな、またなー」

    「小鍛治さーん、またなのよー」

    京太郎「おう、みんなまた明日なー!」

    京太郎「ほら、小鍛治も」ボソ

    小鍛治「う、うん……じゃ、じゃあ、また…//」



    みんな小鍛治との接し方を学習しつつあるな

    さすが高校生、そういうとこは早い



    ガラガラガラ

    京太郎「こんにちはー」

    小鍛治「こ、こんにちは」

    部長「こんにちは、来てくれて嬉しいよ!」

    京太郎「あれだけ毎日通っていたんですから、当然ですよ」

    部長「はは、進入部員の名簿は先ほどもらっていたんだが、それでも来てくれるか不安でね…」



    結局最後まで部長達は俺達に入部するのか聞いてこなかった

    彼女達なりに配慮があったのだろう

    ということは、今の今まで俺達が来るのを不安に感じていたに違いない



    京太郎「でもこれで俺達も晴れて麻雀部員ですね。あらためてよろしくお願いします」ペコリ

    小鍛治「…お願いします」ペコリ

    部長「ああ、こちらこそよろしくな!」

    部長「ではさっそく練――」

    副部長「あだ名を決めないとね」

    部員1「おっ、それいいね!」

    部員2「えっ!? まずは歓迎会じゃないの?」

    部長「練――」

    部員1「歓迎会は部活終わった後だな」

    副部長「あらそれなら駅前におしゃれな喫茶店できたから行ってみない?」

    部員2「こんな田舎にそんなのできたんだ。でもいつものガ○トとかマ○クとかじゃ普通過ぎるもんね」

    部長「れ――」

    京太郎「俺まだ駅の方あまり行ったことないんで、ついでに駅周辺のこと教えてくださいよ」

    部員1「そういうことなら私にまかせな。嫌になるほど案内してやるぜ!」

    副部長「まあまあ、その話はまた後にしましょう」

    部員2「そうだね、まずはあだ名決めないとね」


    部長「r――」パクパク

    小鍛治「ほ、ほら部長。練習なら二人でもできますから、ね、一緒にやりましょ」アセアセ

    部長「うん」


    部員1「まず京太郎はそのまま京太郎でいいだろ?」

    副部長「そうね」

    部員2「異議なし」



    あっさりしすぎでは!?



    京太郎「ま、まあ別にそれでいいですけど…」


    部員2「小鍛治さんはどうするの?」

    部員1「女の子だし名前そのままはかわいそうだよね、『こかっじ』とか?」

    副部長「それなら私前から考えてたのよ」

    部員1「へえ、どんなん?」

    副部長「ずばり『すこやん』ね、かわいいでしょ!」

    部員2「ありきたりだけど悪くはないね」


    副部長「ね、どうかしら「すこやん」さん」

    小鍛治「えっ、わ、私ですか!?」



    隅っこで意気消沈した部長と練習をしていた(単に部長の愚痴を聞いていただけだが)小鍛治が反応する



    小鍛治「え、えとですね…」アセアセ



    案の定なかなか答えられないのでフォローする



    京太郎「いいじゃないか小鍛治」

    小鍛治「そ、そう…///」

    京太郎「うん、小鍛治のポンコツっぷりが滲み出ていて初対面の人にも安心設計だな」

    小鍛治「なにそれポンコツって!わたしそんなんじゃないよ!?」

    部員1「小鍛治さんはポンコツだったかー」

    部員2「確かに普段はちゃんとしてるけど、京太郎くんと話すとすぐボロが出るよね」

    京太郎「部屋の掃除はお母さん任せだもんな」

    小鍛治「えっ、えっ!?な、なんでそれを…///」



    本当なのかよ……



    小鍛治「あ!い、今のは違うんでひゅ。し、信じてください…」アセアセ



    もうボロボロだよ小鍛治さん



    部長「みんなもう止めないか」キリッ



    あ、部長がいつの間にか立ち直ってる



    部長「すまない、こいつらも悪気があるわけではないんだが…なかなか止まらなくてな」

    小鍛治「い、いえ、嫌ではなかったですから…」



    慣れてないだけだもんな



    部長「そうか、でも愛称というものがあったほうがいいというのは私も同意する」

    部長「だから君さえよければ、さっきのでかまわないかな?」

    小鍛治「は、はい…私はそれでも//」

    部長「そうかよろしくな、すこやん!」



    その後は麻雀卓を囲み普通に練習した

    小鍛治は、その「すこやん」という呼び名を最初こそ恥ずかしがってはいたが

    だんだんと慣れてきたようで顔を赤らめることもなくなっていった

    むしろ、そう呼ばれるたびに嬉しそうにしていたように思うのは俺だけだろうか?


    ちなみ俺は未だに「小鍛治」と呼んでいる

    だってなんだか男が「すこやん」って恥ずかしいじゃん?

    小鍛治は若干不満そうな顔をしていたが許して欲しい

    男の子には譲ることのできない、チープでいて大事なプライドというものがあるのだ


    そして練習が終わると、予定通り駅前の喫茶店に行くことになった

    ________

    _____

    __


    カランカラン

    店員「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」

    副部長「5人です」

    店員「かしこまりました、ではこちらのお席にどうぞ」



    確かになかなかこじゃれたお店だ、BGMには心地よい音楽が使われている

    あ、ちなみに、注文するときに魔法のような専門用語を必要とするあのお店じゃない



    京太郎「いいお店ですね」

    副部長「そうね、この辺じゃあ珍しいくらいね」



    これは持論だが喫茶店にもっとも必要なのはリラックスできる環境だ

    たとえばド○ールや☆バックスなどはとにかく席が狭く居心地が悪い、もちろん店にもよるが

    また隣の人との間隔も狭いため落ち着いて休むこともできやしないではないか

    なので俺は都内の珈琲チェーン店が基本的に嫌いなのだが、唯一ル○アールだけはなかなか良いと思う

    よく効いた冷暖房に落ち着いたBGM、そしてなんと言っても広々とした空間にフカフカの座席

    さらに居眠りしていても起こされることはないし、メインの品の後には必ず緑茶が出される

    ただ完全に分煙されていないのは改善してほしいが

    多少値段が高かろうとも、そのことが分かっていない喫茶店など行く気にもならん


    失礼、話がずれたがこのお店は少なくともそういうことを満たしているお店ということだ

    さて、みんなの注文した品も届いたので歓迎会が始まる



    部長「あらためて入部してくれてありがとう、二人とも」

    部員2「これで今年も団体戦に出ることができるもんね」

    京太郎「そういえば何か目標とかはないんですか?部としての」

    部員1「やっぱ最後だからまた団体戦で全国行きたいなー」

    小鍛治「個人戦はどうなんです?」

    副部長「私と部長は去年個人戦で全国に行ったから、今年ももちろん狙うわ」



    通りで二人とも強かったわけだ



    部長「しかし何といっても団体戦はおもしろいからな、個人戦にはないものがあるよ」

    部員1「そうそう、自分の結果がチームの勝敗を左右するからな、燃えるぜー」

    部員2「去年は最後に捲られて順位下げてたけどね」

    部員1「うるせー」

    小鍛治「そ、それって私も出るんですよね?緊張します……」

    部長「はは、県予選が6月で今は4月の後半に入ったところだよ。まだまだ時間はある」

    副部長「そうね、それまでにゆっくり準備していけばいいわ」

    京太郎「でもみんないいですね、俺も団体戦出たかったなー」

    部長「来年にまたお得意の勧誘をすればいいさ」



    それはそうなんだが……俺に来年なんてあるのか、この時代に?



    部長「だから今年の目標は団体戦で全国出場、もちろん個人戦でも頑張って欲しい」

    京太郎「じゃあ俺の目標はどうしましょう?」

    部長「そうだな、今の実力を考慮に入れると6月の県予選で上位入賞ってところが妥当だろう」

    京太郎「けっこうハードル高いですよねそれ…」

    部員1「大丈夫、私達がみっちり教えてやるよ」

    部員2「部活では私達に、家では熊倉さんに教えてもらうといいんじゃないかな」



    けっこうスパルタですね



    小鍛治「がんばればいけるよ、たぶん…」



    たぶんかよ!?


    こうして部としての目標が決まり、歓迎会は進んでいった

    どうやらこれからの俺の生活は麻雀が中心になってきそうだ


    だが、さっきも少し考えたが俺はいつまでこの時代にいることができるのだろうか?

    トシさんの情報待ちだが、さすがに1年もこちらにいるとは考えにくい

    そんな短い時間しかこの人達と過ごせないのかと思うとなんだか……


    こんなとこと考えていると心配そうな顔をした小鍛治が「どうかしたの?」と聞いてきた

    俺は「なんでもない、小鍛治に心配されるなんて一生の不覚だよ」とごまかした


    でも本当は悲しかった

    いまこの時の思い出は恐らく未来にも、みんなの中に残るのだろう

    しかし12年後のその時、俺が熊倉京太郎であることを信じてくれる人はいない

    それがどうしようもなく寂しかったのだ

    __________

    ______

    __


    部長「ではこれで新入部員の歓迎会を終了とする」

    「「おつかれさまでしたー!」」


    副部長「じゃあ帰りましょうか」

    部員2「うん


    部員1「一緒に帰ろうぜー」

    部長「分かった分かった、今日は寄り道は無しだぞ」


    京太郎「んじゃ、俺達も行くか」

    小鍛治「そうだね」



    俺と小鍛治は他愛のない話をしながらバス停に向かい、バスに乗り込んだ

    そこそこ混んでいたので車内ではほとんど会話はできなかった



    小鍛治「けっこう混んでたね」

    京太郎「ああそうだな、俺がいないときは痴漢に気をつけるんだぞ」

    京太郎「…ま、でも、小鍛治に限ってその心配はないか」

    小鍛治「そ、そんなことないよ!私だって東京の満員電車とか乗ったら、きっと痴漢されちゃうよ!?」



    い、いや、そんなこと熱弁されましても…



    京太郎「ハハ、ソウデスネー」

    小鍛治「あからさまに棒読みだよね! わ、私だって大人になればもっとこう……」



    まあ、小鍛治プロのを見る限りそうはならないんじゃないでしょうかねえ

    そんな小鍛治も、12年も経てば俺のことを……



    小鍛治「京太郎くん? どうかしたの?」

    京太郎「い、いや、なんでもない」アセアセ



    今日2回も小鍛治に心配かけちまった、なにやってんだ俺は。いつもは逆だろうが…



    小鍛治「さっきも同じような顔してたよ、もしかしたら何か悩んでるんじゃない?」

    京太郎「ほんとに何でもないんだよ、だから――」

    小鍛治「うそだよ!入学式から今日までずっと京太郎くんといたんだよ。私にだってそれくらい分かるよ!」



    いつになく語気が強い、でも話せないことなんだよ



    京太郎「いやでも――」

    小鍛治「いつも私に構うくせに、こういうときは関わらせてくれないの!?」

    小鍛治「私たち、と、とも……同じ部員なんだから相談くらいしてくれてもいいじゃない!?」



    そこでヘタれるんだ!? 

    しかしあの小鍛治が勇気を振り絞って俺のために言ってくれたんだ



    京太郎「わかったよ、すまん、ありがとう」

    京太郎「正直小鍛治のこと見くびってた、見直したよ」

    小鍛治「わ、分かればいいんだよ…///」



    ほんとのことは言えないから何て言おうか



    京太郎「…実はな、この生活を続けることに何か意味はあるのか、って悩んでいたんだよ」



    なんだかこれだけ聞くと中二病のポエマーみたいだな…



    小鍛治「それって中島○道的な、人生に生きる意味はあるのか、ってこと?」



    中島○道って…チョイスが女子高校生じゃないよ小鍛治さん



    京太郎「ま、まあ似たようなものかな?」

    小鍛治「京太郎くんでもそういうこと考えるんだ、へえ…」



    こんな突飛なこと馬鹿にされると思ったが、小鍛治は真剣に考えてくれているようだった

    しばらく小鍛治はうーんとうなっていたが、突然しゃべり出した



    小鍛治「身も蓋もないかもしれないけど、そんなの人それぞれなんじゃないかな」

    小鍛治「そういうことって、本を読んだりしても書いてないでしょ?」

    小鍛治「…いや、書いてあるにはあるけど、でもそれって結局その人ものでしかないわけで…」

    京太郎「うん?」

    小鍛治「例えば仏教の本を読んだ人みんなが悟りを開くってわけじゃないよね?」

    小鍛治「それと同じで、私が京太郎くんにどうこう一般論を言っても意味なんてたぶんないんだよ」

    京太郎「つまり?」

    小鍛治「つまり生きる意味なんてものは、日々の生活の中で様々なもの…」

    小鍛治「例えば楽しい事とか苦しい事とかを経験して、そのたびに一生懸命自分なりに考えていく…」

    小鍛治「その過程にしかないってこと、かな?」


    京太郎「うーん……なるほど」

    小鍛治「ご、ごめんね、かっこつけて偉そうなこと言って。あまり参考にならないよね…///」アセアセ



    なんとなく理解はできる

    難しいこと言っていたが、つまり小鍛治は、そんなのは自分で考えるしかない

    取りあえず今をがんばれ、と言っているのだ


    なるほどその通りじゃないか。俺らしくなかったな



    京太郎「いやそんなことない、なんとなく分かった気がするよ」

    京太郎「俺のために考えてくれてありがとうな、小鍛治」ニコ


    ナデナデ

    小鍛治「ちちちちちょっとーーーー!!ななななななな、何してるのさ!!!?////」バッ

    京太郎「あ、わるい。その、いつもの癖でな!?嫌だったろ、すまん!」



    やべぇ、いつも咲にやってるみたいに同じことしちまった

    というか、いきなり(相手が小鍛治とはいえ)女の子の頭なでるとかありえんだろ普通



    小鍛治「い、いや。そ、そのびっくりしただけだから、そんなに嫌ではなかったっていうかそのー……//////」カァァ

    京太郎「そ、そうか!?」

    小鍛治「う、うん…///」

    小鍛治「そういえば、さっきの…癖って言ってたけど、いつも女の子にあんなことしてるの?」ジトー

    京太郎「い、いや、小鍛治さん!?誤解しないでほしいのですが、いつもってわけではないんですよ?」

    小鍛治「じゃあどういうときにしてるのさ?」

    京太郎「ええとそうだな…長野にいたとき仲の良い女の子がいたんだけど…その子がまた小鍛治に似てるんだよ」

    京太郎「すぐ道に迷うわ、何もないところでこけるわ、コミュニケーションに不安があるわ……」

    京太郎「まあ、小鍛治とは少し方向性がちがうかもしれんが」

    小鍛治「へぇー、わたしより酷い人もいるんだね」



    自覚がないって恐ろしい



    京太郎「ま、まあとにかく世話のかかる子だったんだよ」

    京太郎「で、そういう子がさ、いつもより頑張ったりするとするじゃん?」

    京太郎「そうすると何かムラムラっときて思わず頭をなでたくなっちゃうんだよ」

    小鍛治「ま、まあ分からなくはないけど…」

    京太郎「だから父性っていうのかな…娘の頑張る姿を見守る父親の気持ちというか…」

    京太郎「つまり決して小鍛治の想像するような、やましいものではないんだよ!」

    小鍛治「そ、そうなんだ」

    京太郎「おう、分かってくれて嬉しいよ」

    小鍛治「…でもそれって私のこともそういう目で見てるってことじゃあ――」ジロ



    変に追及される前にスタコラサッサだぜ



    京太郎「おおっともうこんな所か!今日はありがとな小鍛治またなー!」ダッ

    小鍛治「ちょ、ちょっと話はまだ―――」

    小鍛治「もう!」



    俺は小鍛治の追撃を見事かわし、無事自宅という名のトシさんの家に到着した



    京太郎「ただいまー!」

    トシ「おやおかえり、少し遅かったね」

    京太郎「今日は麻雀部の歓迎会があったからね、駅前の方まで行ってたんだ」

    トシ「おや、結局麻雀部に入ることにしたのかい?」

    京太郎「まあその…いろいろあってね」



    小鍛治を入部させるため、ってことが一つの理由だがこれはさすがに話せないな



    トシ「…そうかい」



    トシさんも何かを察しってくれたようだ



    京太郎「それでなんだけど、改めてきちんと麻雀の指導をお願いしたいんだけどいいかな?」

    トシ「それなら今でもやってるじゃないか」

    京太郎「それはそうなんだけど…今まで以上に真剣に麻雀に取り組みたいんだ」

    トシ「どういう心境の変化だい?」



    俺の表情を見てトシさんも真面目に聞いてくる



    京太郎「いつになるかわからないけど、俺は一年もしないうちに元の時代に帰ると思うんだ」

    トシ「……」

    京太郎「それでふと考えたんだ…ならこの時代での生活に何の意味があるのかなって」

    京太郎「確かにこの時代の思い出は元の時代にまで残るのかもしれないよ」

    京太郎「でも今の知り合いに、たとえ元の時代で会えたとしても誰も俺だとは信じてくれないと思うんだ」

    京太郎「結局みんなにとって、熊倉京太郎と須賀京太郎は別人」

    京太郎「そう考えると無性に寂しくなっちゃってさ…」

    京太郎「それでこのことを、友達にに相談してみたんだ」

    京太郎「そしたら、とりあえず今をがんばれ。意味は後からついてくる、って言われて…」

    京太郎「だから、今できることを真剣に取り組みたいと思うようになったんだ」

    トシ「……いい友達を持ったね」

    京太郎「ちょっと頼りないけどね」

    トシ「よし分かった。じゃあ今日からビシバシ行こうか」

    京太郎「ありがとう!」

    トシ「ただし、ひとつ条件を付けるよ」

    京太郎「条件?」

    トシ「私の指導を受けるときにはもう一人誰か連れて来なさい」

    京太郎「誰かって?」

    トシ「そうだね……例えばその『ちょっと頼りない友達』なんかいいんじゃないのかい」

    ばれてたか…恐れ入りました

    京太郎「了解です」


    トシ「ああそれとね…さっきの話には一つ間違いがあるよ」

    京太郎「えっ?」

    トシ「私にとっては熊倉京太郎も須賀京太郎も同じさ」

    トシ「たかが12年、私が自慢の孫を間違うはずないだろう?」



    驚くほど優しく、自信たっぷりに、いくらか茶目っ気を込めて、そう言ってくれた


    さすがにその日の特訓には小鍛治は呼ばなかった

    トシさんの指導はそのセリフ通りなかなかビシバシと行われた

    しかし麻雀がうまくなるためならと思うと不思議と苦痛ではなかった

    トシさんのあの最後の言葉はとても印象に残った

    誰かが自分のことを覚えていてくれる、そのことだけでいくらか救われた気持ちになった





    ――4月下旬 部活終了後



    「「おつかれさまでしたー!」」



    今日の部活終わりー。毎回やられっぱなしだと妙に疲れるぜ

    この状況を打開するために家に帰ってトシさんと特訓なのだが…

    さて小鍛治にはどうやって切り出そうか



    小鍛治「相変わらずボロボロだったね」

    京太郎「うるせー、こっちだって頑張ってんだ」

    京太郎「……」

    京太郎「そういや聞いたことなかったけど、小鍛治はどうやって強くなったんだ?」

    小鍛治「わ、私はそんなに強くないよ。部長さんとかによく負けるし…」

    小鍛治「でもルールなんかは本とか読んで知ったたし」

    小鍛治「それに今時インターネットで麻雀できるからね」



    この時代からネト麻って存在してたんだ…知らなかった



    小鍛治「だから実践だって一人でできるから、そこそこ強くなることぐらいならできるよ」

    京太郎「にしても俺より断然強いけどなー」

    小鍛治「ま、まあね。才能の違いなんじゃないかなー、なんて///」ドヤァ

    京太郎「……」

    小鍛治「……」

    京太郎「……」

    小鍛治「な、なんか反応してよ!冗談なんだから//」アセアセ

    京太郎「あー今の言葉傷ついたわー(棒)。なので謝罪と賠償を要求します!」

    小鍛治「謝罪と賠償って……あ、でも麻雀を教えてあげることくらいならできるかも」

    京太郎「ほー、そいつはありがたい」

    小鍛治「だったらこの後――」ボソボソ

    京太郎「でも残念! 俺には既に優秀な指導者が付いているのだ」

    小鍛治「え、そ、そうなんだ…」シュン

    京太郎「トシさんって言うんだけど…というか俺の祖母なんだけどね」

    小鍛治「ああ、熊倉さん?」

    京太郎「知ってるのか?」

    小鍛治「うん、昔よく近所の子供とか集めて麻雀教室開いてたからね。私は参加したことないけど……」



    小さい頃からコミュ障気味だったんだね、小鍛治さん…



    京太郎「実はさ、トシさんからもう一人くらいなら指導できるって言われてるんだ」

    京太郎「だから、良かったら俺と一緒にトシさんから教えてもらわないか?」

    小鍛治「え、いいの?」

    京太郎「おう、モチのロンだぜ」

    小鍛治「め、迷惑じゃないかな」

    京太郎「んなこたーない、むしろ小鍛治が来てくれるとトシさん喜ぶと思うぜ」

    小鍛治「そ、そうかな?」

    京太郎「そうとも」

    小鍛治「……」ウーン

    小鍛治「だ、だったらお願いしちゃおうかな」

    京太郎「よしっ!では早速わが家に向かおうではないか」

    小鍛治「え!?今からなの?」

    京太郎「善は急げだぜ、小鍛治!」

    小鍛治「で、でも菓子折りとか用意しなくちゃならないし。それに服装だって――」

    京太郎「おまえは彼女の父親に挨拶に行く男か!そんなこといいからとっとと行く!」

    ________

    _____

    __


    小鍛治「はぁー緊張してきたー…何か変なところない?」

    京太郎「いつも通りきれいですよ、お嬢さん」

    小鍛治「もうっ!そういうのはいいから!」


    ガラガラガラ

    京太郎「ただいまー!」

    小鍛治「え、ちょっとまだ心の準備が――」

    トシ「おかえりなさい。おや、今日はかわいらしいお嬢さんも一緒だね」

    小鍛治「あ、あの初めまして、小鍛治健夜と申します!」ペコリ

    トシ「ご丁寧にどうも、私は熊倉トシだよ。今日は遊びに来たのかい?」

    小鍛治「い、いえ。そのー…」アセアセ

    京太郎「俺が一緒に特訓しようって誘ったんだ」

    小鍛治「そうなんです」

    トシ「そうだったのかい、じゃあ今日からよろしくね」

    小鍛治「は、はい、よろしくお願いします」ペコリ

    京太郎「じゃあ俺は飲み物でも用意してくるよ、小鍛治は何がいい?」

    小鍛治「うーんと、じゃあ紅茶お願いできるかな」

    京太郎「はいよー」



    小鍛治は俺に助けを求めるような顔をしていた

    初対面のトシさんと二人でいるのに不安を感じていたのだろう

    でもあえてここは心を鬼にしてそれを無視した

    トシさんなら全く問題ないだろうと思ったのだ


    俺は先に台所に向かい飲み物の準備をした

    10分ほどしてから応接間に行くと二人の楽しそうに談笑する声が聞こえてきた

    どうやらこの短時間に打ち解けることができたらしい

    あの小鍛治相手にすごい。どうやらトシさんはコミュ力もカンストしているようだ



    京太郎「二人とも楽しそうに何の話をしてるの?」

    トシ「女性の会話には首を突っ込まないほうがいいよ」

    小鍛治「…ひみつ」



    さいですか…



    トシ「では始めようかね」



    この日も何事もなく順調にトシさんの指導が行われた

    トシさんの指導にはあの小鍛治も何度も感心していた


    何回か三麻をしたが小鍛治ですら相手にならなかった

    しかしトシさんの指導の賜物か、俺もそこそこ上達してきたと思う



    京太郎・小鍛治「ありがとうございましたー!」

    トシ「こちらこそ楽しかったよ。健夜ちゃんは明日もくるのかい?」

    小鍛治「とてもタメになったので、できれば毎日来たいくらいです」

    小鍛治がこんなとと言うなんてかなり珍しい

    トシ「そう言って貰えて嬉しいよ、ありがとう」

    トシ「じゃあ平日部活が終わったら来なさい。休日は復習でもしてるといいんじゃないのかな」

    小鍛治「はい!ぜひそうします」

    京太郎「話はまとまった?時間の方は大丈夫か小鍛治?」



    もう夜7時を少し過ぎている、良い子は帰る時間だ



    トシ「なんだったら夕ご飯の用意もできるけど…」

    小鍛治「いえ、そこまでして貰うわけにはいきません。今日は帰ります」

    トシ「そうかい。じゃあまた明日ね」

    トシ「京太郎、健夜ちゃんを送っておやり。最近は変質者だって出るんだから」

    京太郎「え、歩いて10分くらいだし、それに小鍛治なんか襲うやつ――」

    小鍛治「……」ギロリ

    京太郎「送らせていただきます」

    トシ「ふふ、いってらっしゃい」



    とりあえず小鍛治を送ることになったので、二人で小鍛治の家に向かう



    京太郎「今日はどうだった?トシさんすごいだろ」

    小鍛治「京太郎くんのおばあさんにしておくには、勿体無いくらいね」フン



    機嫌を損ねてらっっしゃる



    京太郎「さっきのは悪かったって。実際こんな片田舎に変質者なんて現れないだろ?」

    小鍛治「まあ、それはそうだけど…」

    京太郎「でも驚いたよ、行く前は緊張しまくりだったのに10分そこらで仲良くなってるんだから」

    小鍛治「うーん、それは私も不思議だったけど…でも実際すごくいい人だし」



    まあ俺みたいのを住まわせてくれるくらいだからな



    小鍛治「麻雀の腕も相当なものだよね、三麻やったときなんかたぶん全然本気出してないよ」

    京太郎「まじで!」

    小鍛治「うん、たぶんだけど私たちの実力を考えて最適なレベルで打ってたんだと思う」



    そんな会話をしているとついに小鍛治の家に着いた

    小鍛治の話によるとこれは借家らしい、だが十分立派なものだ



    小鍛治「送ってくれてありがとうね、それに京太郎くん家も意外と楽しかったよ」

    京太郎「意外とは余計だ。じゃあまた明日学校でな」

    小鍛治「うん、また明日ね」




    小鍛治を送り届けた後、家に戻ってきた

    結局変質者なんか見かけなかったけど。あ、ちなみにタヌキはいました



    トシ「おかえり、ありがとうね」

    京太郎「どうってことないよ」

    トシ「でも健夜ちゃんとてもいい子だったじゃないか。話に聞いていた以上だよ」

    京太郎「あれで人見知りがなければいいんだけどね」

    トシ「はは、それは京太郎がしっかり面倒見てあげるんだよ」

    京太郎「うん、分かってる。それで麻雀の方はどうだった?」

    トシ「健夜ちゃんのかい?」

    京太郎「うん」



    そういうとトシさんは少し考える素振りをした

    指導中何度か小鍛治のことを気にしていたので、恐らく既にその才能には気付いているのだろう

    なにせ将来は世界でもトップクラスの実力になるんだから



    トシ「はっきり言ってとてつもない才能があるね、あの子は」

    トシ「まだ開花はしてないがいずれ世界を舞台に戦うようになると思うよ」



    さすがトシさん、先見の明がおありで




    ――4月下旬 



    もう4月の最終週に入った。色々なことがあり時が経つのを早く感じる

    最近気付いて驚いたのだが、この高校は文化祭を5月中にやってしまうらしい

    いちおう進学校とのことで、受験のために学校行事は早めにすることになっているそうだ

    で、今現在ホームルームでクラスでの出し物を決めているのだが



    「ハイハイ!わたし演劇やりたい!」

    「えー、無難に喫茶店とかでよくない?」

    「お菓子食べたい…」ギュルギュル

    「目立てればなんでも構いませんわ!」

    「ダルいから動かなくていいもので…」

    「タコスしかないじぇ!!」

    「おもちもちもち、おもち喫茶だね!」ドヤァ

    「わたしは衣装が作れればなんでもいいなぁー」



    この通りみんな好き放題である。これでは一つに決まるわけがない

    ……いや待てよ、一見するとてんでバラバラな意見にも思えるが

    しかし大別すれば、演劇などの非日常空間の演出と食べ物の提供の二つに分かれる

    ならばこの二つの要求を満たしてやればいいではないか!



    京太郎「安西先生!コスプレ喫茶がやりたいです!!」



    けっして、おもち持ちの女子にきわどいコスプレさせたいなんて考えてない



    「うーん、意外と面白そうじゃない?」

    「それならわたし衣装作れそう」

    「まあタコスを出すなら構わないじぇ」

    「ダルい…けどまあいいかな」

    「んほー!!えろい衣装きたーーー!!!!」



    あれー、半分冗談だったのに意外と好感触?

    小鍛治はというと



    小鍛治「ふーん」



    正直どうでもよさそうである



    実行委員「ではここで多数決を採りたいと思います」

    ________

    _____

    __


    結局その場のノリと勢いで、俺の意見が採用されコスプレ喫茶になってしまった

    若さって時として恐ろしいね、うん



    部員1「コスプレ喫茶って、意外と大変そうなの選んだなー」

    京太郎「2年、3年になると受験とかあるじゃないですか。だから今のうちに大変なのをやっておこうかと」



    もちろん嘘である



    部長「うん、いい心がけじゃないか。しかし6月には県予選があるからな、練習の手は抜かないぞ」

    副部長「でもなかなかおもしろそうじゃない。私必ず行くわ」

    京太郎「ぜひ来てください!お客さんもコスプレできるようにしておきますから(ゲス顔)」

    小鍛治「なんか悪い顔してる」ジー

    京太郎「大丈夫、君には関係の無い話さ」キリッ

    小鍛治「なんだか知らないけどバカされた!?」



    いつも通りバカ話をしつつ、その日も部活をきちんと行った




    ――5月上旬 



    5月に入りいよいよ文化祭の準備が始まった

    俺と小鍛治は内装担当ということになっている

    正直衣装作りをやりたかったのだが、なぜか小鍛治に全力で止められてしまった

    ちょっぴり胸元の布面積が少ない衣装を提案しただけなのに……



    京太郎「小鍛治ー、そこのセロハンテープ取ってくれないか?」

    小鍛治「はいどうぞ、変態さん」フンッ



    ごらんの有様である



    しかしせっかくの文化祭の準備、小鍛治にとっても皆と仲良くなる絶好の機会なのだが

    当の小鍛治は変態である俺のそばからなかなか離れようとしない、どうしたものか



    「イタッ!針刺さったー!」

    「ちょっと!そこ縫い間違えてるよ!」


    小鍛治「……」チラチラ

    京太郎「ん?」


    「だれかー、ミシンが動かなくなっちゃたんだけど助けてー!」
     
    「ごめん針落とした、動かないでー!」


    小鍛治「……」ソワソワ

    京太郎「…」


    「あわわ、あわわわわわ…」

    「だめだこいつら…」


    小鍛治「……」ドキドキ

    京太郎「ふむ…なるほど」



    俺は持ち場を離れ、衣装作り班のところに向かう



    京太郎「大変そうだから俺にも少し手伝わせてくれよ」

    「えっ、熊倉君裁縫できるのー」

    「教えて、教えて!」

    小鍛治「えっ」

    京太郎「裁縫はそんなに得意じゃないんだけどなー」ドヤァ



    そう言って、針に糸を通し少々危なげに縫っていく



    「意外とうまいじゃん!」

    「私よりうまくできてる…」

    小鍛治「……」ソワソワ



    うーんまだか、ならば



    今度はすそ上げしたところをわざと並縫いにしていく

    「へ、へぇ意外とやるじゃない」

    「女として負けた……」

    京太郎「惚れてくれったって構わないんだぜ、お嬢さ――」

    小鍛治「それじゃダメだよ!」

    京太郎「へ?」

    小鍛治「すそ上げには並縫いじゃななくてまつり縫いにしないとだめだよ、貸して」



    そういうと小鍛治は慣れた手つきで素早く縫っていく



    小鍛治「ほら、この縫い方なら表からほとんど糸が見えないから見栄えがいいんだ」

    「小鍛治さんすごーい!!」

    小鍛治「そ、そんなこと無いよ//」

    「熊倉くんより全然うまいよ!私にもそれ教えて!」

    小鍛治「えっ、で、でも私内装担当だし…」

    「いいじゃん小鍛治さん、熊倉君に任せちゃえば」

    「内装班って男ばっかりでむさいからこっちこようよ」



    むさいは余計だ



    小鍛治「いいの…?」チラ

    京太郎「おう、こっちは任せとけ!」

    「決まりね、じゃあ小鍛治さん借りてくから」



    最初の方は小鍛治もオドオドしていたが、徐々にあの女子グループにも慣れていっているみたいだ

    べ、別に小鍛治のことが気になって、こまめに様子を伺ったりしてたわけじゃないんだからね!


    一方俺はというと…



    「おう熊倉、暑いだろ?上着脱げよ、な!」

    「なかなかいい筋肉してるじゃないか、触ってもいいか?」サワサワ

    「飲み物買って来たよー、熊倉君はアイスティーでいいよね?」

    「小鍛治がいなくなって寂しいんだろ?今夜俺の部屋来いよ、慰めてやるから」



    身の危険を感じていた。なんかこの班分け偏ってません!?





    ――5月上旬 土曜日


    え、土曜日は休みだって?

    何を言っているのかな皆さん、12年前はまだ半ドンが主流ですよ


    さて、いよいよ文化祭の準備も本格的になってきた

    それと共にあのなんとも言えない、非日常的な独特の雰囲気が辺りに充満するようになってきた

    なので皆も授業中でありながら、どこかソワソワしているのを感じることができた

    そんな時、珍しく小鍛治の方から話しかけてきた



    小鍛治「きょ、京太郎君ちょっといいかな?」

    京太郎「おう、どうした」

    小鍛治「あのね、今共同で使ってるミシンが壊れちゃってね…」

    京太郎「そりゃ大変だ、家庭科室行って借りてこうぜ」

    小鍛治「いや、さっき行ったらもうストックが無いんだって」

    小鍛治「だから、私の家から持っていこうかと思うんだけど…」

    京太郎「けど?」

    小鍛治「わ、私だけじゃちょっと持っていけそうないから、授業が終わったら一緒に運んでくれないかな?」



    うーむ、まだ女子連中には頼めないか



    京太郎「おう、いいぞ」

    _____

    __

     
    午前中の授業も終わり、俺達は約束通り小鍛治の家の前までやってきた

    ていうか中に入るのは初めてじゃね?あーなんだか少し緊張してきた



    小鍛治「どうかしたの?」

    京太郎「男の子は女の子の家に訪問するとき、緊張するもんなのですよ」

    小鍛治「ふーん」


    ガチャ

    小鍛治「ただいまー」

    小鍛治母「おかえり、今日は早いのね」

    小鍛治「ううん、違うの。文化祭の準備で使うミシンを取りに来たんだ。持って行っていいでしょ?」

    小鍛治母「それは構わないけど……」

    小鍛治母「ん?あら、あらあらあらあらあら」



    俺の姿を確認してなにやら嬉しそうな顔をしている



    小鍛治母「ちょっと待ってね……もしかしてあなた熊倉京太郎くんじゃない?そうでしょ?」

    京太郎「ええ、その通りですが…」

    小鍛治母「健夜からいつも話しを聞いてるわー、お世話になってるみたいで」

    小鍛治「もう、おかーさん。そういうの止めてよ!」

    小鍛治母「あらいいじゃない。そうだ!せっかく来たんだからおばさんの世間話に付き合ってくれない?」

    京太郎「おばさんなんてとんでもない!まだまだお綺麗ですよ」



    これはお世辞でもなんでもない、十分綺麗だ



    小鍛治母「あら、ありがとう。お世辞でもうれしいわ。さ、上がって」

    小鍛治「はあ…、私は自分の部屋に行ってるから終わったら呼んでね」

    小鍛治母「あなた熊倉さんとこのお孫さんね。こんな好青年だったなんて、うらやましいわ」

    京太郎「そんなことないですよ。でもありがとうございます」

    小鍛治母「こっちこそ、ありがとうと言いたいわ、健夜と仲良くなってくれて」

    京太郎「いえ、そんな」

    小鍛治母「ほらあの子かなりの人見知りじゃない?だから最初は友達できるか心配してたのよ」

    小鍛治母「でも入学してすぐくらいだったかしら…健夜が珍しく学校での話をしてね」

    小鍛治母「まあでも、ほとんどあなたの話ばかりだったけどね」フフ

    小鍛治母「しかもいきなり麻雀部に入るって言い出したりしてね、これもあなたのおかげでしょ?」

    京太郎「はは、ほとんど無理やり引き込んだようなものですけどね」

    小鍛治母「でも本当に嫌だったら入部しなかったと思うわ、あの子意外と頑固なところあるし」

    小鍛治母「きっとあなたがいたから、入るのを決めたんだと思うわ」



    なんだか歯がゆいことを言ってくれる



    京太郎「そうでしょうか?」

    小鍛治母「ふふ、そうよ」ニコリ



    その笑顔は小鍛治にそっくりだった



    京太郎「すみません。そろそろ時間なんで行かないと…」

    小鍛治母「あら、そうなの?引き止めてしまってごめんなさい」

    小鍛治母「あとこれお詫びに貰ってくれないかしら」



    そう言うと、なにやら水族館のチケットを手渡された



    京太郎「いいんですか?」

    小鍛治母「私が使うことなんてないからいいのよ、彼女とのデートにでも使ってちょうだい」

    京太郎「彼女なんて生まれてこのかた、いたことなんてありませんよ」

    小鍛治母「あらそうなの?なら尚更ね」ニコ

    京太郎「?」



    その言葉の意味はよく理解できなかったが、とりあえず頂くことにした

    そして小鍛治を呼び、ミシンを携えて再び学校に向かう



    小鍛治「結局お母さんと何の話をしてたの?」

    京太郎「小鍛治が家でいかにゴロゴロしてるかとか、未だに服はお母さんに買ってきてもらっている事とか――」

    小鍛治「えっ!う、嘘だからそんなこと!?信じたりしたらダメだからねっ!?」

    小鍛治「もうおかーさんたら、帰ったら……」ブツブツ



    あとは、如何に小鍛治のことを愛しているか、とかね――





    ――5月中旬 文化祭二日目


    いろいろあったが無事文化祭を迎えることができた

    (特定の)男友達からの執拗な攻撃に耐えることができたのは奇跡といってよいくらいだ

    だって彼ら、自分の仕事は韋駄天の如き早さで終わらせてほとんど俺にセクハラしてたもん


    衣装作りの方は小鍛治が加わったおかげか、何とか終わらせることができたみたいだ

    初日は学内のみでの開催だったが、今日2日目は一般公開される日だ

    なので今日が文化祭本番と言って差し支えないだろう

    俺と小鍛治は午前中クラスの出し物を手伝い、午後は遊べることになっている



    小鍛治「はぁー、何か緊張してきたよ…」

    京太郎「昨日大丈夫だったんだから、今日も大丈夫だろ」



    小鍛治は店員役はやらない、全力で拒んでたからね



    小鍛治「それにしても…その衣装妙に似合ってるよね……」



    俺はというと、上は工事済みで下は未工事の緑色の髪をしたキャラクターのコスプレをさせられている

    最初は俺も慣れなかった。しかし時々男子の熱のこもった視線を浴びるうちになんだか…



    京太郎「き、んきもぢいいぃぃ///」

    小鍛治「どうしたの!?」

    京太郎「すまん、少しトリップしてた」キリッ

    小鍛治「そ、そう…」ドンビキ



    アホなやりとりをしているといつの間に開始を告げる放送が流れ、ついに2日目が始まった

    30分もするとお客さんがそこそこ入るようになってきて、忙しくなってきた

    しかし俺はまったく別の意味ですごく忙しくしていたのだが…



    「すみません、こっち向いてください!」パシャパシャ

    「ポーズお願いします!そう、いいねっ!!」パシャパシャ



    なぜか俺のみコスプレ撮影会が開催されていた…他にもいるじゃん!?

    どうやら昨日の噂を嗅ぎ付けて、特殊な性癖をお持ちの大きなお友達がご来店してしまったようだ


    でも止めてなんて言えない、だって気持ちいいだもの

    ああ今ならアイドルとかレイヤーの方々の気持ちがよく分かる


    だから…



    「いいね、いいね!ほらもうちょっと裾上げてごらん、ほーら(ゲス顔)」



    仕方が無く…



    「ふおおおーーーきたああああーーー!!!!」

    「ブヒーーー!!ブヒブヒブヒ!!!」



    こんなことを…










    小鍛治「て、だめでしょ!!!?」


    _________

    _____

    __



    京太郎「すまない小鍛治、迷惑をかけたな」キリッ

    小鍛治「もう京太郎くんはコスプレ禁止!!分かった!?」

    京太郎「はい…」



    小鍛治の懸命の阻止もあり、撮影会は中止となった

    男子のみんながネガの没収をしたが、その内何人かはそれをくすねようとしていた

    さらにそれを発見した女子がそいつらに金的を食らわせていた、おおう…

    そういうわけで俺は接客を外され主に料理を担当するようになっていた



    「いらっしゃませー!」

    小鍛治「あ、熊倉さんと……おかーさん!?」

    小鍛治母「えへへ、きちゃった」テヘ

    トシ「ちゃんとやっているかい、京太郎」

    京太郎「まあね。来てくれてありがとう!さ、こっちに座って下さい二人とも」



    そういって2人分の席を引いて着席を促す



    京太郎「2人は知り合いなんですか?」

    小鍛治母「そうよ。でも会ったのはたまたまなの」

    トシ「学校の前で出くわしてね。聞いてみたら行き先は同じみたいだから一緒に来たのさ」

    京太郎「なるほど」

    小鍛治母「でも京太郎くんと健夜はコスプレしてないのね、楽しみにしていたのに」

    京太郎「まあ、その、いろいろありましてね……」トオイメ

    京太郎「代わりにといってはあれですけど、最高のものを振舞いますよ。なにします?」

    トシ「私は京太郎にまかせるよ」

    小鍛治母「私もそうしようかしら、京太郎くん料理得意みたいだし」

    京太郎「かしこまりました、では少々お待ちくださいませ」ペコリ



    母親が来てコソコソしていた小鍛治を呼ぶ



    京太郎「せっかく来てもらったんだ、コソコソしてないで手伝ってくれ」

    小鍛治「別にコソコソなんてしてないもん!」

    京太郎「はいはい」



    まあ小鍛治の気持ちも分からなくない

    なんか知らないけど家族を友達に見せるのってちょっと恥ずかしいよね


    しかしお二方が来るのは予想していたので、準備は万端だ。特別に食材も調達してある

    まずは退屈させないように、食前の飲み物だ

    さて頑張るか


    __________

    ______

    ___


    小鍛治母「信じられないくらいおいしかったわ。まるで高級料理店のお料理みたい」

    京太郎「そう言ってもらえて嬉しいです、作ったかいがありますよ」

    小鍛治母「特にあの煮込み料理はよかったわ、作り方を教えて貰いたいくらいよ」

    京太郎「それだったら、今度教えに行きましょうか?」

    小鍛治母「いいの?ぜひ来て頂戴。ついでに健夜にも料理を教えてほしいくらい」



    ちなみに小鍛治は全然料理できないみたいで、ほとんど雑用をしてもらった



    小鍛治「私だってちゃんと手伝ったんだよ!?」

    小鍛治母「あなた食材運んだり、レンジで温めたり…ほとんど雑用だったじゃない」

    小鍛治「うっ…」

    トシ「まあまあ、暇があれば私が教えてあげるから」

    小鍛治「ほんとうですか!ありがとうございます」


    俺達と会話を終えると2人は帰っていった

    もともと俺達の様子を見に来たのだから当たり前だが

    小鍛治のお母さんは、娘が思いの外がクラスに溶け込んでいて安心したようだ


    午前の、俺達の店番が終わりに近づいた頃、麻雀部の先輩達が遊びにきた



    副部長「遊びにきたわよー」

    部員2「あら、2人はコスプレしてないんだ」

    京太郎「いろいろありましてね…」

    小鍛治「私は全力で拒否しました」

    副部長「なら私が代わりにしようかしら、たしかできるんだったよね」



    そのセリフ待ってましたよ副部長



    京太郎「ええ、もちろんお客様にも貸し出ししてますよ」

    京太郎「副部長には特別な衣装をご用意したんで、こちらで着替えてください(ゲス顔)」

    部員2「うーん、なんか悪い予感するし私はいいや」



    ちくしょう!だがまあいい、メインディッシュの副部長さえいればね、ククク

    この時のためにどれだけ苦労したことか…

    副部長のための衣装を作るために何度徹夜したことか…

    さらにトシさんの高級一眼レフカメラも土下座して借りたのだ、抜かりは無い



    小鍛治「京太郎くん、また変なこと考えてるでしょ」ジロリ



    滅相も無い


    しばらくすると副部長が俺が秘密裏に作成した衣装を身にまとい現れた



    副部長「ど、どうかしら。なんだか少しスースーするけど////」カァァ

    京太郎「すばらっ!すばらっ!!」パシャパシャ

    小鍛治「やっぱり……」

    部員2「うわあ……」ドンビキ

    副部長「ちょっと恥ずかしいわね////」

    京太郎「恥ずかしがることないです!これこそ長野スタイルなんですよ!!」パシャパシャ

    京太郎「さあ、こちらの個室で記念撮影しますのでどうぞ」パシャパシャ

    部員2「既にめちゃくちゃ撮ってるじゃん、それに個室ってなに!?」

    京太郎「さあ、好きなポーズをとってー。はい、いい表情ですね!」パシャパシャ

    副部長「そ、そうかしら////」

    京太郎「素材がいいですからね!さあさあ前かがみになって!!」パシャパシャ

    副部長「こ、こう///?」

    京太郎「はあはあ///いいですよその調子です!さあ全てをさらけ出してっ!!!」パシャパシャ
     
    副部長「///////」

    京太郎「んほーーー!!すばっ!すばらーーー!!!!すばらすばら、す、すば――」ブヒブヒブヒブ




    小鍛治「いいかげんにしようか」ニコリ


    ____________

    _______

    __


    京太郎「ハッ!?ドリームか……?」

    京太郎「あれ!?副部長達は??」

    小鍛治「2人とももう違うところに行ったよ」

    京太郎「そうだっけ!?なんだか記憶が飛んでるような…」

    小鍛治「これ、大切なものでしょ」ニコリ



    小鍛治は手に持っていた俺のカメラを渡してくれた。あれなんで小鍛治が持ってるんだ?

    それに何かとても大切なものを写真に納めた気がするのだが…気のせいだろうか

    それになんだか顔がボコボコなんですけど……


    いろいろとハプニングはあったものの、何とか自分達の仕事は全うできたと思う

    午後の自由時間は小鍛治と一緒に部室で過ごすことにした


    ちなみに初日には俺は男子連中と一緒に回った

    小鍛治も、あの衣装作りをしていた何人かと一緒に回ったらしい。たいした進歩だと思う

    小鍛治は普段しないようなことをこの2週間しっぱなしで疲れたのだろう

    だから静かに過ごせるここを敢えて選んだ


    小鍛治は本を読んでいたが、ふと顔を上げた



    小鍛治「そういえば、これ返し忘れてたよ」



    すると俺が作った長野スタイルの衣装を渡してきた



    京太郎「ド、ドウシテコレヲ」ビクビク

    小鍛治「どうせ副部長にでも着せようと思ってたんでしょ?」

    京太郎「ナ、ナゼソレヲ」ダラダラ

    小鍛治「はぁー、もういいよ、別に怒ってないから…」

    京太郎「あ、ありがとうございます!小鍛治さまー」

    小鍛治「調子いいんだから、まったく…」アキレ

    小鍛治「あとこれ、すこしほつれてた所あったから直しておいたよ」

    小鍛治「素人が作ったとは思えないほどきれいにできてたから、勿体ないしね」

    京太郎「……そうか?まあ頑張って作ったからな」

    小鍛治「裾上げの所のまつり縫いも、びっくりするくらいちゃんとできてたしね」

    京太郎「……ふーん、そうだったか」

    小鍛治「そうだよ。だから、そ、その……ありがとう////」

    京太郎「ふふ、どういたしまして」

    小鍛治「あーでも///よく考えたらこの服京太郎くんが持っていても仕方ないよね?」

    小鍛治「だ、だからしばらく私が預かっておきます///」

    京太郎「ひどい!」



    その後もまったりと部室で過ごし、俺の高校生活始めての文化祭が終了した





    ――後日小鍛治家にて


    小鍛治「あ、これ名前の刺繍までしてある…凝りすぎだよ京太郎くん……」



    私、小鍛治健夜は今、京太郎くんの作った衣装を着ている



    小鍛治「うわ、胸の部分ブカブカ…」



    別に自分にも似合うかな?とか思って着たのではなく、単なる好奇心…ということにしておこう

    だからちょっとポーズをとったりしたっておかしくなんか無い、ついでに笑顔になったりして



    小鍛治「キャハっ!」グギギ



    あ、だめだこれ


    でもこの格好はあまりにもきわどすぎるよ!胸なんか角度しだいでは見えちゃうしね!

    こんな痴女服着て外歩いたら一発で捕まっちゃうよ、犯罪だよ!?

    だからこの服を世に出さないためにも、私が管理しないとダメだよね、うん


    ふぅー、そろそろ着替えよう。こんなとこと誰かに見られたら変態だと思われるちゃうもんね


    ガチャ

    小鍛治母「健夜ー、さっきのことなんだけど――」

    小鍛治「あ」

    小鍛治母「」

    小鍛治「……」

    小鍛治母「……」

    小鍛治「……」

    小鍛治母「……」

    小鍛治「…なんか言ってよ」

    小鍛治母「ごめんね、今度からそういう服買ってくるわね」ニコリ


    ガチャ

    小鍛治「………」グスッ

    小鍛治「ちがうよ!私の趣味じゃないよ!!」

    小鍛治「お願い信じて!!おかーーさーーーん!!!!」



    この後誤解が解けるのに2週間かかった

    もう絶対あんな服着ない!そう心に誓った





    ――6月 県予選前日

    文化祭も終わり、いよいよ明日から県予選が始まる

    俺を含め部員全員が集中して部活に取り組んできた

    俺もこの二ヶ月でだいぶ上達することができたと思う

    だがそれと同時に他人との実力差を肌で感じることができるようになった

    部長と副部長は全国区の選手だが、この2人には未だになかなか勝つことができない

    だからこそ簡単に、自分が全国大会へ進めるとは正直思っていない

    なので難しいことを考えず全力を尽くす、それだけだ



    部長「今日はここまでにしよう、お疲れさま」

    部長「いよいよ明日から県予選が始まる」

    部長「日程はもう知っての通り、団体戦が先で個人戦は後だ」

    部長「1年生は不慣れな部分もあると思う、なのでそこは3年生がしっかり面倒を見るように」

    部長「細かいところはこのプリントにまとめてある、各自見ておくようにしてくれ」

    部長「戦術、戦略はしっかり頭に叩き込んであると思う」

    部長「実力だって、昨年と遜色ない…いやそれ以上だと私は考えている」

    部長「だから今日はゆっくり休んで明日に備えてほしい」

    部長「以上、解散!」


    小鍛治「はぁー…緊張して今日は眠れなさそうだよ」

    小鍛治「なんで部長は私を大将に置いたんだろう…ストレスで試合中吐くかもだよ……」

    京太郎「たのむ、それだけはやめてくれ」

    小鍛治「いいよね、京太郎くんは個人戦だけで」

    小鍛治「一回団体戦に出て、この苦しみを味わった方がいいよ」

    京太郎「はいはい分かりました。だから今日はゆっくりお休み」

    小鍛治「もう!またおかーさんみたいなこと言って」



    帰り道、分かれるまでずっと小鍛治の愚痴を聞かされた

    まあいきなりの本番で試合のトリを勤めるのは大変だろう。小鍛治ならなおさら

    ちなみに団体戦のオーダーは、部長、部員1、部員2、副部長、小鍛治の順番だ

    さて、明日の初戦どうなることやら…




    ――6月 インターハイ県予選大会初日


    俺達6人は会場に到着し、荷物を控え室に置き待機することになった

    俺達は去年団体戦で全国に行ってるので、シード扱いだ

    だから一回戦はお休みで二回戦からなのでけっこう余裕がある

    それまで俺は観客席で他の試合と見ることにした

    会場の雰囲気に慣れたかったし、他校の実力を知っておきたかったからだ

    二回戦が始まる頃に控え室にもどると、小鍛治以外はほとんど緊張した様子はなかった



    部長「じゃあそろそろ行くよ」

    部員1「いってらー」


    _________

    _____

    __


    結果だけ見れば圧勝だった。なにせ次鋒で決着がついてしまったからだ



    部員1「ごめん、飛ばしちった」テヘ

    部長「すこやんを試合に慣らすために抑えとけと言ったろうが、アホ」

    小鍛治「べ、別に大丈夫ですって。雰囲気には慣れましたし」アセアセ

    部員1「ほら、すこやんもそう言ってるからいいじゃん!」

    部員1「それに、そういう部長さんだってかなり相手を削ってたような」ニヤリ

    部長「うっ、それは部の代表としての威厳をだな――」クドクド



    結局初日はこれだけで終わってしまった、あっけない





    ――6月 県予選2日目 

    今日は団体戦の決勝だ

    昨日の試合振りを見る限り大丈夫そうだが、最後まで何があるか分からない

    部長も決して気を抜かないよう注意していた



    部長「昨日はたまたま圧勝してしまったが、今日の決勝はそう簡単にはいかないだろう」

    部長「なのでみんな気を抜かず、全力で試合に臨んで欲しい」

    部長「特に小鍛治は昨日、誰かさんのせいで打てなかったから十分注意してくれ」

    部長「他校の試合を見る限り、恐らく大将戦までには2位とそこそこ差をつけられると思う」

    部長「だからと言っていきなりの決勝で緊張するなというのは無理だろう」

    部長「なので状況しだいでは最初から守りに徹してしまっても構わない」

    小鍛治「は、はい!がが、がんばりましゅ」



    なんだか駄目そう……

    _________

    ________

    __


    試合開始から順調だった

    昨日ほどではないが火力のある先鋒、次鋒のふたりが点を取る

    その後堅実なうち方を得意とする中堅、副将のふたりが確実に守る


    結局小鍛治の大将戦までには、2位と約3万点の差をつけて1位だった

    普通ならもうほとんど勝ちは決まったようなものだが、肝心の小鍛治がなあー



    小鍛治「い、いいいいいってきます」ガクガク



    はあー…



    京太郎「うーん、なかかなあがりまで持っていけないですね」

    部員2「あ、満貫」

    副部長「まだ大丈夫だろうけど、緊張するわね…」

    部長「当たり牌か、らしくない」

    部員1「やばい追いつかれたぞ…」

    副部長「ついにオーラスね…」

    部員1「おっ、聴牌!」

    「「…………」」

    京太郎「うっしゃあーー!!ロンきたーーーー!!!!!」

    部長「うるさい!」ポカ


    小鍛治「た、ただいまです……」グッタリ

    京太郎「おう!内容はともかく良くやったな、おめでとう!!」

    部員1「2位のやつに追いつかれたときはさすがにやばかったけどな」

    部長「まあいい、今日の試合は中身より結果が大事だった。勝ててよかったよ」

    小鍛治「あ、ありがとうございます」グスッ

    京太郎「お、おい!大丈夫か」



    慌ててポケットからハンカチを取り出す



    小鍛治「ち、違うの。追いつかれたとき、もうダメだって思って…それでも何とか勝つことができて――」

    京太郎「そうか…わかったわかった」ナデナデ

    小鍛治「うぅ…よかったよ~」ポロポロ



    しかし普段あまり感情を表に出そうとしない小鍛治が人前で泣くなんて

    相当のプレッシャーだったに違いない

    そりゃそうだ、自分が負けてしまえば先輩達のインターハイが終わってしまうんだから

    まあ今は落ち着くまで存分に泣かせてやりますか

    ああもう、こんなに涙と鼻水が……制服、後で洗わないとな



    京太郎「落ち着いたか?」

    小鍛治「うん…」



    先輩達には先に帰ってもらった

    団体戦が終わったとはいえまだ個人戦があるし、それに小鍛治のこともあったから

    先輩からは



    部員1『すこやんのことよろしく頼むぞ、王子様!』ニヤニヤ



    とからかわれたが…



    京太郎「改めておめでとう、小鍛治」

    京太郎「まあ、その…内容はなかなかひどいものだったが勝ててよかったじゃないか」

    小鍛治「ひどいって……まあぐうの音も出ないよ」シュン

    小鍛治「勝てたとはいえ悔しかったよ…自分が思っていた以上に」

    京太郎「………なら次、それでもダメならまた次打って、俺にかっこいいとこ見せてくれ」

    小鍛治「…前向きなんだね」

    京太郎「それくらいしか取り柄がないからな。約束だぞ」

    小鍛治「うん。今度は絶対先輩達の足手まといなんかにならない。本当の意味で勝ってみせるよ!」






    ――6月 県予選 個人戦

    いよいよ俺の本番、個人戦だ

    俺のいた時代とはルールが異なり、普通のトーナメント形式だ

    ちなみに小鍛治は参加しない。小鍛治いわく



    小鍛治『団体戦だけでもやばかったのに、個人戦なんて出たら絶対雀卓にリバースするよ!』



    とのことだ。まあ昨日の決勝戦を見る限り、胃に穴が空いてもおかしくなかったからな


    さて初日の午前の結果だが俺は見事三回戦を突破し、準決勝に駒を進めた

    先輩達は部員1さんだけ三回戦で敗れたが、他3名は見事に1位通過をすることができた


    そして、三回戦を終えた俺は、今まさに準決勝の真っ只中

    ここで最低2位なれば、部長の言った目標である上位入賞が確実となり決勝に進める



    「ツモ、3000・6000!」



    っ…!終盤でこれはきつい。2位でも決勝に進めるが…なんとか凌いで

    おっ、ツモった



    京太郎「ツモのみ、1500・800」



    よしっこれでいい!このまま無理せず2位通過を目指す!!

    それにしても1位の人やけにあごが尖ってるような…



    ???「きたぜ。ぬるりと……」

    ____________

    _______

    ___


    部員1「おう!どうだった大将!!」

    部員2「なにそのノリは…」

    京太郎「………」

    小鍛治「ど、どうしたの?」

    副部長「あまりよくない結果だったのかしら」ボソ

    小鍛治「きょ、京太郎くん元気だしなよ。ほら準決勝までこれたんだし十分頑張ったじゃない」

    京太郎「………」

    部長「京太郎くん…?」

    京太郎「………」

    京太郎「や、やりましたよ俺!!2位通過ですけど決勝進出ですっ!!!」

    部長「へ?…………やったじゃないか!!上位入賞を目標にしろとは言ったが、ここまでやるとは…」

    副部長「やったわね、すごいわ京太郎くん!」ムニュムニュ



    あ、ちょっ!たわわに実った果実の感触が……



    京太郎「いやぁー…そ、そんなことないっすよー//」デレデレ

    小鍛治「むっ…!まだ全国行きが決まったわけじゃないんだからデレデレしない!!」



    そういうと無理やり副部長を引き剥がしてしまった、おのれ小鍛治!



    京太郎「そういえば、先輩達はどうだったんですか?」

    部長「残念ながら副部長のみ決勝進出だ」

    京太郎「そう、なんですか」

    部長「なに、気にすることはない。君は次の試合のことだけ考えていればいいんだ」

    小鍛治「今度は私たちも応援するから、頑張って!」

    京太郎「おう!」



    そしてついに決勝戦

    まさか自分がこの舞台に立てるとは入部当初は全く考えてなかった

    最初の大会ではすぐに負けてしまって、悔しさを感じることもなかったように思う

    だが今は違う。トシさん、小鍛治、部活のみんなに教えてもらって頑張ってここまで来たんだ

    きっと負ければ泣きたくなるほど悔しくなるだろう。だからこそ負けられない!!

    この人達に、俺は勝つ!!!












    「狂気の沙汰ほど面白い………!」

    「あンた、背中が煤けてるぜ…」

    「御無礼」


    ____________

    _______

    ___


    京太郎「あわ…あわわわ、あわわわわわわわ……」

    小鍛治「だ、大丈夫…?」

    京太郎「な、なんだよあれ…部長達はおろかトシさんより強いじゃんか……」ブツブツ

    小鍛治「おーい」

    京太郎「ぜってー高校生じゃないよ……強くてニューゲーム何度もしてるよ………」ブツブツ

    小鍛治「……」

    京太郎「そんなん考慮しとらんよ…」

    京太郎「」ブツブツ

    小鍛治「いいかげんしなさいっ!」スパーン

    京太郎「はっ…!俺はいったい何を…」

    小鍛治「いつまでグチグチ、京太郎くんらしくない」

    小鍛治「いくらあの人外みたいな人達にボコボコにされたからって」

    京太郎「そうだな……ありがとう」

    小鍛治「でも負けて、ちゃんと悔しかったんだよね?」

    京太郎「そりゃあ、まあ、かなり…///」

    小鍛治「なら大丈夫だよ。熊倉さんも言ってた、悔しさを感じるうちはまだまだ強くなれるって」

    小鍛治「さ、先輩達のところに行こう」

    ???「ちょっと待ちな」

    京太郎「あ、あなたは…アカギさん!」

    アカギ「今日は酷い死合だったな…」

    京太郎「っ……!!」

    アカギ「だが…」

    京太郎「?」

    アカギ「だが、可能性は感じた…」

    京太郎「!!」

    アカギ「だから、また来い…!もう一度死線をくぐりに……!」

    京太郎「は、はい!!」

    アカギ「じゃあな」



    こうして、俺達の県予選は終了した


    女子の決勝では見事副部長が1位になり全国大会出場が決まった

    結果だけ見れば、女子は団体戦優勝、副部長は個人戦でも優勝、俺は決勝まで進むことができた

    かなり上出来といえるのではないだろうか


    しかし負けは負けだ、いくらあの決勝の相手が人外の化け物だったとしても悔しいのは変わらない

    だから次こそは必ず、たとえ化け物相手だとしても、勝って全国に進んでやる!





    ――7月上旬



    部員1「うい~、あっつー」パタパタ



    県予選からしばらく経ち7月、かなり暑くなってきた

    県予選を突破した俺達はインターハイに向けて猛練習を繰り返してきた



    副部長「確かにここのところ妙に暑いわね~、なかなか集中できないわ」



    汗でおブラが透けてますぜ、ぐへへ



    小鍛治「こらっ!」スパーン

    京太郎「いてっ!」

    部員2「すこやんのツッコミも板についてきたね」

    部長「ほら夫婦漫才はそこまでにして、対局に集中する」

    小鍛治「め、夫婦なんかじゃありませんからっ///」

    京太郎「その通りです。わたしはおもちにしか興味のない紳士ですから」キリッ

    部員2「うわぁ…」



    しかし暑い。クーラーは無いし、風もなかなか入ってこない。集中できないのも納得だ



    部員1「ううーあちいよう~、集中できないよう~、やる気がおきなよう~」

    部員2「うるさいなー、さっきから。なら一人で海でも行ってくれば?」

    部員1「それだっ!!!」

    部長「ダメに決まってるだろうが」

    副部長「あらいいじゃない、県予選の打ち上げも結局しなかったし、ちょうどいいんじゃないかしら」

    部長「いや、しかしだな…」

    部員2「まあ、たまには息抜きも大事だと思うよ」

    部長「うーむ」

    京太郎「いいじゃないですか海!」

    京太郎「照りつける太陽、砂浜を行く恋人達……はじける青春の象徴ですよ!!」

    京太郎「先輩ッ!共に青春を謳歌しようぜっ!!」

    部長「お、おう…」



    ククク、見える見えるぞ!海=水着=ポロリ。完璧じゃあないかね、諸君



    小鍛治「私は別にどっちでも――」



    それは悪手じゃろ、小鍛治んコ

    ちっ!仕方ねえ…



    京太郎「アー、小鍛治ノ水着姿タノシミダナー。キットスゴク似合ウンダロウナー」

    小鍛治「た、たたたた楽しみ///!?」

    小鍛治「んんっ…実は私も行きたかったんですよねー」スットボケ



    ちょろい



    部長「んー、まあみんながそう言うなら、今週の日曜日にでも行くか?」

    「「よっしゃーーーー!!!」」

    部員2「私まだ水着買ってないんだよね、誰か一緒に買いに行かない?」

    部員1「いくいくー!」

    小鍛治「私も行っていいですか?実はそういうのよく分からなくて…」

    副部長「なら私がいいの選んであげるわ」

    部長「私も同行させてもらおうかな」


    京太郎「私も行きますぅー。先輩にぃ似合うの選んであげるんだからっ!(裏声)」キャピッ

    「「…………」」

    京太郎「あげぽよ~(裏声)」

    「「…………」」


    部長「今日はもう終わりにしようか」

    部員2「そうだね」

    部員1「水着買いにいくのは土曜でいいよな?」

    副部長「そうね、今から楽しみだわー」

    小鍛治「どこに買いにいくんですか?」

    副部長「えっとね駅前のデパートがやっぱり品揃えがいいわね。それに――」


    ガラガラガラガラ



    京太郎「……」

    京太郎「……」

    京太郎「ありえんてぃ~、まじウケるんですけど~(裏声)」キャピッ

    京太郎「……意外とイケルなこれ」マガオ




    ――7月上旬 日曜日


    ピンポーン

    トシ「はーい」

    小鍛治「おはようございます」ペコリ

    トシ「おはよう健夜ちゃん、今日はかわいらしい格好だね」

    小鍛治「そ、そうですか//ありがとうございます」

    小鍛治「ええと…京太郎くんお願いできますか?」

    トシ「はいはい、分かってるよ。今呼んで来るからね」



    --------------------



    小鍛治「お、おはよう///」



    めずらしく、というか小鍛治の私服を見るのは初めてかもしれない



    京太郎「おうおはよう、待たせたな。さっそく行くか」

    トシ「こら、女の子がおめかししてるんだから、何か言うことがあるんじゃないのかな?」

    小鍛治「べ、別におめかしなんてしてませんから///」



    と言いつつ顔を赤らめてるんだから世話無い

    下からブラウンのサンダル、白~ベージュのロングスカート、紺色のシャツ

    手にはさっきまで被っていたであろうキャスケットを持っている

    まあ、正直言えば…



    京太郎「かわいい」ボソ

    小鍛治「え?」

    京太郎「い、いやその…似合ってると思うぞ」

    小鍛治「そ、そうかな//ありがと///」

    京太郎「……」ジー

    小鍛治「///」

    トシ「……」

    トシ「あーこほん、時間は大丈夫なのかい?」

    京太郎「あ、そうだった早く行かなきゃ!じゃあ行ってきます」

    小鍛治「い、行ってきます//」

    トシ「はいはい、気をつけて行ってらっしゃい」



    その後先輩達と駅で合流し、そのまま近くの海水浴場まで向かった

    長野には海がなかったので、こういう行為自体とても不思議に感じたものだ

    そして俺は今、荷物番をしながら着替えに行った女性陣を待っているのだが…



    京太郎「おうふ、緊張してきたでござる」



    あー早く部長と副部長の水着姿を拝みたいものだぜ

    なんたって今日のメインイベントにして、人生最高の瞬間が目の前に迫っているのだ

    緊張しないということがあるだろうか、いやないっ!!



    部員1「京太郎ー!またせたな」

    部長「荷物番ありがとう」

    副部長「ふふ、おまたせ」

    部員2「ごめんね、荷物番させちゃって」

    京太郎「……」



    おお、神よ……トイレを我慢してるときにしか信じないけど、あの神よ

    この機会を私に与えてくれたことを心より感謝しております



    京太郎「エイメン…」

    部長「どうした!?」



    部長は黒を貴重としたビキニ、ビキニですよっ!?しかも紐!?

    もともとモデル体系なので、そのシンプルさが逆にそのスタイルを際立たせている、実にけしからん



    京太郎「ブラボー、ブラボー!!」

    部長「頭大丈夫か?」



    副部長もまたビキニなのだがこちらは明るい色が基本だ。だがなんといってもそのパレオ!

    うーむ、エロいことこの上ない。その隙間から見える太ももがたまらんですたい

    胸なんかこぼれそうになってるしね。支えてあげなきゃ(使命感)



    京太郎「名前を付けて保存!名前を付けて保存!!」

    副部長「大丈夫?日陰で休んできたら?」



    部員2さんは控えめなワンピースタイプで、その性格と非常にマッチしている、うーん実にいい

    なんかこういうの見るとおじさん脱がせたくなっちゃうよね、ぐへへ



    京太郎「エクセレントッッ!」

    部員2「うわ…きもっ!」



    部員1さんは……まな板かな?



    京太郎「そういえば小鍛治はどこ行ったんですか?」

    部員1「あれ、私は!?ひどくね!」



    すると先輩達の後ろからオズオズと小鍛治が姿を現した



    京太郎「ってパーカーかよ!?」

    副部長「どうしてもって言ってきかなくてねー」

    小鍛治「あぅ…///////」モジモジ



    まあ小鍛治らしいといえばその通りか…

    はあー…


    それからは全くの平和そのものだった

    みんな思い思いの過ごし方をしていた

    ビーチボールで遊んだり、泳いだり、砂遊びしたり、肌を焼いたり


    決して、副部長がヤンキーに絡まれて困っているところを俺が颯爽と登場して解決したり…

    部長が遊泳中に足をつって溺れかけてるところを俺が助けて、ついでに人工呼吸したり…

    なんてことはございません、ポロリもございません

    ただ、俺が作ってきた昼食をみんなに振舞ったらすごく喜ばれたのは素直に嬉しかった


    そして日が沈み始めて、そろそろ帰ろうという頃に小鍛治が話かけてきた



    小鍛治「ね、ねえ…」

    京太郎「ん、どうした?」

    小鍛治「ちょっとこっち来て////」グイッ



    小鍛治に連れられて、歩いていく

    すると人目のつかない岩場まで案内された

    この状況は…ま、まさか!?



    京太郎「やめて! 私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに!」

    小鍛治「何言ってるの!?」

    京太郎「すまん、言わなきゃいけない気がして…」

    小鍛治「もうっ!」


    京太郎「んで、どうしたんだ?」

    小鍛治「ええと…さ、その…」モジモジ

    京太郎「どうした?も、もしかして具合が悪いのか?」

    京太郎「待ってろ、今先輩達呼んでくるから!」

    小鍛治「いや、違くて……その…見たい…?」カァァ

    京太郎「へ、何をだ?」

    小鍛治「だ、だから!その……私の水着…姿//////」ゴニョゴニョ

    京太郎「う゛ぇ!?そ、そりゃあ…まあ…できれば///」



    なに正直に言ってるんだ俺のおバカ



    小鍛治「わ、わかった///」

    小鍛治「でもあくまで京太郎くんが見たいって言ったから!仕方なくなんだからね!」

    京太郎「お、おう」



    パーカーのジッパーを下ろし、恐る恐るといった感じで脱いでいく

    なんだか知らんが、手汗がびっしりと出てきた。つまり俺も緊張している

    脱ぎ終わると…



    小鍛治「///////」モジモジ



    白を基調としたシンプルなビキニだ



    京太郎「意外、だな…」

    小鍛治「せ、先輩達がこれがいいっていうから//」

    京太郎「そ、そうか」

    小鍛治「で、どう…かな?」



    いつもならからかう場面だ

    しかし、夕日を浴びたその姿は正直言ってとても…



    京太郎「すごく、き――」








    部員1「おーい、すこやんと京太郎ー!どこだー!帰るぞー!!」

    小鍛治「ひゃ、ひゃい!?」

    京太郎「Oh…」



    タイミング良過ぎませんかねぇ、先輩…


    その後、帰り支度をすぐに済ませ、帰途についた

    先ほど先輩の邪魔(?)があったせいか、小鍛治とは気まづくなってしまっていた


    駅で先輩達と別れ、今は小鍛治と一緒にバスが来るのを待っている



    京太郎「今日は楽しかったな」

    小鍛治「う、うん」

    京太郎「いい気分転換になったし、これでインターハイに向けての練習に集中できるな!」

    小鍛治「そう、だね」

    京太郎「…なあ、あの時の水着姿だけど」

    小鍛治「っ…!!さささささ、さっきあれは無し!!無しですっ!!」

    小鍛治「京太郎くん忘れて!私も忘れるからっ!!そうっ、これでイーブンだから!!」

    京太郎「お、おう」



    なにがイーブンなのだ…



    京太郎「あ、バスきた」



    乗車すると俺達以外は誰もいなかった

    この時間帯、それに加えて元々利用者が少ないから仕方ない

    小鍛治はというと相当疲れたのかバスに乗るとすぐさま『寝て』しまった



    京太郎「……」

    京太郎「……」

    京太郎「……」

    京太郎「あー小鍛治、寝てるよな?」

    小鍛治「……」ピク

    京太郎「一回しか言わないからよく聞いておいて欲しいんだが…」

    小鍛治「……」

    京太郎「さっきは悪かった。せっかく勇気出して俺に見せてくれたのに感想も言えないなんて」

    小鍛治「……」

    京太郎「でもあのときすぐに言葉が出てこなかったのは、その…見とれてたからなんだ」

    小鍛治「…//」

    京太郎「すごく似合ってたよ。部長や副部長よりずっと」

    小鍛治「…///」

    京太郎「はい、恥ずかしい話おしまい。おれも寝るから着いたら起こしてくれ」







    小鍛治「……ばか///」ボソ