小銭を取り出し自販機に硬貨を投入、商品を選択してボタンを押す。
足音。
音した方に顔を向けると阿知賀の中堅がいた。


京太郎「よう、憧」

憧「やっほ」


一考。


京太郎「お前なに飲む?」

憧「ん……ん~じゃあ、りんごジュース」

京太郎「あいよ」


同じ動作を反復し取り出し口から缶ジュースをもう一本取り出す。


京太郎「ほら」ヒョイッ

憧「わっとと……お、まとも。京太郎の事だからおしるとか渡してくるかと思った」

京太郎「そのネタはもうやった」

憧「誰に、とは聞かないでおくわ」

京太郎「ありがとよ」

憧「ってかなに? 120円であたしとコミュニケーションでも取ろうって? 安く見られたものね」

京太郎「これでも高く見積もったつもりだけどな。しっかり受け取ってるし」

憧「貰えるものは貰うわよ」

京太郎「ちゃっかりしてるね」

憧「それがあたしの良いところ♪」

京太郎「はは、言ってろ」

憧「そうだ、あんたどうせ暇でしょう? ちょっと付き合ってよ」


そう言って憧は右手に掲げた缶の縁を指先で叩いて鳴らす。
これは一杯付き合えって事なんだろうな。

連れ立ってサロンにやってきた。
サロンと言ってもただの応接室でもなくれっきとした麻雀の練習室でもある。
中央には自動麻雀卓が4つあり、周りにはテーブルや長椅子、観葉植物が置かれており部屋の隅には給湯用のコンロなんかもある。
幸い、と言うわけでもないが人はおらず俺達は揃ってソファーに腰を下ろす。


憧「それで、クラブのちび達が『私達も行く~!!』って聞かなくてさ」ケラケラ

京太郎「そりゃ災難だったな。ところで、阿知賀のこども麻雀クラブって無くなったんじゃなかったのか?」

憧「ん? ああ、ハルエが戻ってきたからね。インハイ終わって時間も出来たし、ちょっとずつまた集まりだしたのよ」

京太郎「ふぅん。楽しそうだな、憧」

憧「まぁそれなりにね。…………ふぁ」


可愛らしく欠伸をかみ殺す憧。


京太郎「眠いのか?」

憧「ん、少し」クシクシ

京太郎「移動で疲れたんだろ。もう部屋戻るか?」

憧「もう、少……し……」


トン。

肩に軽い重みと温かな温もり、それ混じって微かに甘いような女の子特有の香りがして僅かに動悸が早まる。


京太郎「ああ、だから言わんこっちゃないのに……」


しゃーない。面倒、ではないが……いや誰かに見付かって誤解されるのは面倒だが部屋まで運んでやるとするか。
そう思いつつも、少しだけ可愛らしく寝息を立てている少女の顔を観察する。


憧「Zzzz……ん……」


小さく身動ぎする憧。前髪が一房目元に掛かる。
途端、寝苦しそうに僅かに顔をしかめる。俺は空いている方の指先で、乱れた前髪を払ってやるとまた元の穏やかな寝顔に戻る。


京太郎「まぁ、もうちょっとだけこのままでもいいか」


缶の底に残った飲み差しのコーヒーを一気に仰ぐ。


京太郎「冷めちゃったな……」



ガチャ

京太郎「ん?」

久「あ……」


テーンテンテーン!、テーンテンテーン! テッテッテッテ、テッテッテッテ……


憧「…………」スースー

京太郎「あの、か、こ、これ勘、勘違いしちゃダメですよ?」

久「ふ~ん。もうそんな事するとこまで進んでるんだ? 意外と手が早いのね」ニヤニヤ

久「むしろ意外でもなんでもないのかしら?」

京太郎「いやだから、これはあのだから」


回らない舌と頭で必死に言い訳を捻り出していると、
部長は近くにあったテーブルの椅子を引き寄せ俺と隣で寝息を立てている憧の前に陣取る。


京太郎「なんでしょうや?」

久「いや、続きが気になるから」

京太郎「何もしませんよ!?」

久「うそん。こんな女の子が無防備な状態で近くにいるのに何もしないなんて……はっ!?」


その瞬間、我が清澄高校麻雀部部長竹井久先輩今日も緩く結んだおさげが決まっている。その額に閃光が駆け抜ける。
まるで世界の真理を見出した賢人の様に重々しく頷き、


久「実はホモ?」

京太郎「違います」


そうのたまいやがった。
そんな事実あってたまるか火サスとかそんなレベルじゃないぞ。


京太郎「これはあの、あくまで善意から偶発的に自然発生した状況であってこれ以降はなんら進展性を保持していませんよ?」

久「つまんなーい」


俺はあなたを楽しませるために生きてるんじゃありませんよ?


久「まぁいいわ。新子さんに悪いし馬に蹴られる前に退散しましょうっと」

ガタ

京太郎「良いんですか? なんか用事とかあったんじゃ」

久「良いのいいの。ブラブラしてただけだから」

久「須賀君もあんまりフラフラして、周りをやきもきさせるのはダメよ?」

京太郎「? ……はぁ」

久「じゃあね」フリフリ


そういって手を一振りし言うだけ言って部長は去っていった。
なんだったんだろうな。

ワイワイ! ガヤガヤ!


照「……」モッキュモッキュモッキュモッキュモッキュモッキュ

菫「おい照、そんな一気に頬張ると……」


誠子「この紅茶美味しい」

和「それはアールグレイのウンタラカンタラ」

尭深「紅茶も悪くない……」コクコク


灼「ハルちゃんお酌するよ」

晴絵「お、悪いな灼」

久「私も一杯いいかしら?」


優希「こういう時こそタコスだじぇ!」

宥「辛いけどあったかいね」ニコニコ


まこ「お好み焼きっちゅんわな、こうして……よっと!」

穏乃「おー!!」パチパチ

淡「上手ー!!」パチパチ


咲「カレー出来ました!」ガチャ

玄「食べる人は挙手してください!」


「「「「「「「「「「「「「「「はーい!!」」」」」」」」」」」」」」」


京太郎「って、ちょっと待てい!! なんでみん、」


「「「「「「「「「「「「「「「しーーーーー……」」」」」」」」」」」」」」」

京太郎「っ……!?」

憧「…………」スースー

穏乃「ダメだよ、京太郎。そんな大声出したら、憧が起きちゃう」ヒソヒソ


お前が、いや……お前らが言うな。


京太郎「ちくしょう、ああうん。えーみなさんなんでここに集まってるんですか?」ボソ

晴絵「それは私が説明しよう」


教師出陣。


晴絵「須賀君は衆人監視の密室って知ってる? つまりそういうことよ」

京太郎「は?」

晴絵「よし! 宴会再開!」


ワー!ワー! ガヤガヤ

こいつらただ騒ぎたいだけと違うか?


久「言っとくけど私じゃないわよ」


なにもゆーとらんがや。


咲「京ちゃん、スルメ食べる?」

京太郎「ありがとう。けど煙いから屋内で七輪はやめて」

咲「ねぇ京ちゃん」ヒソヒソ

京太郎「んあ?」モキュモキュ

咲「もし隣にいたのが私でも、同じようにしてくれた?」

京太郎「それは、まぁ」

咲「そっか」ニコ

タタタッ

京太郎「なんだ?」


優希「タコスもあるじぇ!」

京太郎「ありがとう。俺の作り置きだけど……」

優希「なにおう!? 犬のくせにこのゆーき様のタコスが食えんというのか!?」

京太郎「もらうっつってんだろ。あ、やめろ鼻に押し付けるな! 痛い!? スパイスが鼻に痛い!! やめろぉ!!!」


宥「大丈夫? 寒くない? タオルケット持ってきたから」パサ

京太郎「すみません。わざわざ」

宥「~♪」

京太郎「あの、なにか?」

宥「ううん。暖かそうだなって」ニコニコ


淡「む~」プク

京太郎「今度はお前か」

淡「アコばっかりズルい!」

京太郎「ズルいってなぁ」

淡「おでこにマジックで魚肉って書いてやる」

京太郎「やめなさい。ってかなんで魚肉」

淡「そんでアコが起きたらキョータローがやったって言っちゃうもん」

京太郎「おいそれやったらお前あの、あれだからな?」

京太郎「今晩寝てるお前の部屋侵入して顔と言う顔に牛タン貼り付けて油でギトギトにするからな?」

淡「じゃあ私には腕枕して」

京太郎「何故そうなる」

淡「良いもん! 私が逆に京太郎の部屋に侵入してやるもん」タタタッ

京太郎「あ、おい…………なんなんだあいつは」

玄「あはは、みんなすごいね」

京太郎「玄さん」

玄「お腹空いてない? カレー持ってきたけど」

京太郎「ありがとうございます。…………なんですか、この珍妙なものは」

玄「えっと、これが照さんがくれたマフィン、優希ちゃんのタコス、こっちが咲ちゃんのスルメでしょ?」

玄「この部分が染谷さんの広島焼きで、それと亦野さんがくれたマグロの目玉とウツボの肝かな」


ふざけたトッピングしやがって。盛れば良いってもんじゃない事を物理的に教えて差し上げたい。


玄「そのままじゃ食べにくくないかな?」

京太郎「え? まぁ片手が少し」

玄「その、ね? よかったらわわわ私が! その、た、食べさせてあげたりとかしようか?」

玄「なんて言っちゃったりなんかしてみたりして!///」テレテレ

京太郎「あ、マジですか?」


平静を装いつつ内心で盛大にガッツポーズを決める。おいおいどんだけ天使やねん。


憧「…………」


心なしか憧からかかる重みが増した気がするがそれはきっと俺の心境の変化的なそれだろう。つまり気のせい。


玄「そ、それじゃあ失礼します///」カチャ

京太郎「は、はい。お願いします」ドギマギ


晴絵「玄ー! おつまみ足りなーい!」

玄「」

京太郎「」

玄「あ、あはははは。それじゃあ先生も呼んでるし私行ってきますのだ!///」ワタワタ

京太郎「はい。ど、どうぞ……」


タタタッ

京太郎「……」


空気読めよレジェンゴォォォォォォ!!!!



穏乃「よし、1番! 高鴨穏乃、歌います!」

淡「なにおう! なら歌で勝負だ高鴨穏乃!」

穏乃「お!? デュエットだね? 受けて立とうじゃないですか!」

淡「選曲は?」

穏乃「もちろん!」


淡穏「「ルミナス!」」


穏乃「呼んだ希望辿って止めた世界を超えた」

淡「諦めない想いいつしか心繋げた」

穏乃「泣いていたって笑って」

淡「明日迎えに行こう」

淡「決めた誓い辛くて倒れても」

穏乃「君のココロを守るため」


穏淡「君の側にいよう」


シーン……

ワー! ワー! パチパチパチパチ
イイゾー! フタリトモカワイイー!

最早、収拾不可能なほどのどんちゃん騒ぎに発展していた。
3人寄れば姦しいとは言うがその3倍近い人数が集まるとこれ程の騒ぎになるのか。恐るべきパワーだ。


憧「Zzzz……ん、…………」スースー


と言うかこいつもこの状況でよく寝ていられるな。実は起きてるんじゃないのか?


憧「ん、んん……」


そう思った矢先、先程まで大人しく寝息を立てていた憧がモゾモゾと身動ぎしだす。

憧「ん、ふわぁぁ~~…………あれ、あたし? なにして?」ゴシゴシ

憧「うん?」キョトン

京太郎「おはようございます」


メインシステムパイロットデータの認証を開始します。


憧「お、おはよう……」


メインシステム通常モードを起動しました。これより作戦行動を再開、あなたの帰還を歓迎します。なんつって。


憧「ん……?」ゴソゴソ


ここで状況を整理しよう。俺と憧は今ほぼ一分の隙もないほど密着している。それはもうお互いのまつ毛の本数が数えられるほどだ。
なにかで見た恋人の距離が10cm、あれ5cmだったっけな?
まぁとにかくそんなものを超越した至近距離である。しかも仲良く同じタオルケットに包まっている。


憧「…………!?!??!?!!?!?!////////////」プシュー!!


見てわかるほどに憧の顔が急沸騰。あ、なんか嫌な予感。



憧「きゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」ドゴォッ!!



右腕のミサイルが俺の鼻っ柱に突き刺さった。
そこは普通に女の子らしくビンタとかじゃないんですか?


憧「ごめん! ほんっとごめん!」ペコペコ


さっきからこの調子で謝りっぱなしの憧。


京太郎「いや、いいよ。大丈夫だから」

憧「でも……」

京太郎「いや、お前はいい。いったん置いとくいったんな? だからいい」クルッ

京太郎「…………………………君達だよ」


「「「「「「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」」」」」」


京太郎「なんか、俺が憧の鉄拳を受けた瞬間『これが見たかった!!』みたいな顔しやがって」

久「あはは、いやーしかしなかなかいいのが決まったわね」


部長が顎先を撫でながら俺の鼻の頭をまじまじと見つめる。


菫「ふむ、これ程のヘヴィパンチャーはそうはいないな」


弘世先輩がうんうんと関心している。くそ、あなたはこっち側だと思ってたのに!!


晴絵「まぁあれね、予定調和って奴?」ケラケラ


この人本当に教師か? 教員免許偽造とかじゃないだろうな?


穏乃「憧は男の子に免疫無いからね~。まぁ仕方ないっちゃ仕方ないよね」

穏乃「けど、京太郎には結構心許してるみたいだよ?」ヒソヒソ


耳元で小さく耳打ちする穏乃。


京太郎「ほっほぉ~~~~~う」ニヤニヤ

憧「うっわ、嫌な笑い」

咲「……」

淡「むぅ……」

玄「あうあう……」ソワソワ

久「さーて、見るもの見たし片付けしてみんなお風呂にでも行きましょうか」

最早、大晦日の年越しの感覚か? 「年明けたし寝よう」みたいな。

京太郎「あ~あ~、まったくこんなに散らかして……」


これが合宿の間ずっと続くのか……
まったくもって前途多難だ。




咲「だからね? えっとここでカンすると、次で嶺上開花を和了れるから……」

京太郎「……」

優希「タコスだじぇ。タコスを食べれば配牌もツモも良くなるんだじぇ」

京太郎「……」

久「須賀君も悪待ちやってみたら? あなた幸薄そうだし逆を突いてみるのもいいかもね」ケラケラ

京太郎「……」

照「京ちゃん京ちゃん。明日のおやつはホットケーキがいいな」

京太郎「……」

淡「だから、こう……フッ!って力を入れると配牌でテンパッてるから初手ダブリーぶっぱで後はカンして和了だけ。ね、簡単でしょ?」

京太郎「……」

尭深「各局の第一打がオーラスの配牌として戻ってくるからそれを意識して打つといいよ」

京太郎「……」

誠子「とにかく鳴くんだ。鳴けばいい」

京太郎「……」

穏乃「目の前の山を踏破すれば良いんだよ!」

京太郎「……」

玄「ドラです。ドラを集めるのです」

京太郎「……」

宥「あったかい牌がね、いっぱい集まると手がとってもあったかいんだよ?」

京太郎「……」

灼「ボウリングの技法を取り入れて筒子多面張で」

京太郎「……」

晴絵「須賀君って10回に1回くらいの確率で不要牌ツモるよね。あはははは」

京太郎「……」

京太郎「お前らみんなアホッ! 死ねばいい!」ダッ

菫「逃げたぞ、者共! ひっ捕らえろ!」

和「須賀君! 気持ちはわかりますがここで逃げてはダメです」ガシッ

まこ「あれらは例外じゃ。もっと普通に、普通にやれば良いんじゃ」ガシッ

憧「本質的にダメね。この男」


久「軽いコントも終わったところでお風呂でも行きましょうか」

まこ「相変わらず切り替えが早いな。お前さんは」

久「喜びなさい。なんとこの旅館、温泉があるのよ」

京太郎「お! 良いッスね温泉」

女性陣「……」シラー


なんか酷い誤解を招いてる気がするが。


京太郎「あの、一応言っときますけど別にそんな皆さんが思ってるような下心とか無いですからね」


ってか温泉に反応したのにあの目。普段からそういう思われてんのかな俺って。


和「須賀君は温泉好きなんですか?」

京太郎「温泉ね。まぁ人並か、より上くらいには好きよ」

咲「気持ちいいよね。温泉」

京太郎「そうそう。『日本人たる者、心の郷愁を覚えずにはいられないな!』って宮守のエイスリン先輩も言ってたしな」

久「あの娘確かニュージーランド出身よね?」

憧「一応釘刺しておくけど、お風呂覗こうなんて考えたら……わかってるわね?」ジト

京太郎「ああ? この俺が? 覗き?」

京太郎「随分と低く見られたもんですな?」


っていうか、人の肩で好き放題寝息立てといてよう言うわ。


京太郎「俺がそんなさもしい真似をするとでも思ってるんですか?」

憧「言い切ったわね。信用していいの?」

京太郎「おう、覗きなんて卑怯な手段は使わない」

京太郎「正面から堂々と一緒に入る!」バーン!!

―――――
―――

京太郎「ちくしょう! 冗談なのに! 解けちくしょう!」


ビッタンバッタン!!

憧のヤロー両手両足を縄で縛った上にその上からさらに布団でグルグル巻きの簀巻きにしやがった。
仮にそこは大譲歩するとして廊下に放置するのやめてもらえませんかね?


玄「ふぇぇぇぇ」ビエーン

京太郎「玄さん、俺のために泣いてくれるんですか?」

玄「ごめんね。京太郎君、私に力が無いばっかりにこんなことに」グスン


そう言いながら玄さんは無造作に放り出されていた俺の頭部を自らの膝に乗せてくれた。
後頭部に感じるこの柔らかさと温かさ。
そしてこのアングルから見える双丘のなんとすばらなことか。


京太郎「玄さん、行ってください」

玄「ふぇ?」

京太郎「俺はここまでみたいです。しかし同じ志を持つ者として玄さんには先に進んでもらいたいんです」

玄「で、でも……」

京太郎「泣いても、後悔しても、それでも前に進めってあんたはあの準決勝でそう決めたなんじゃなかったのか!?」

玄「それは……」

京太郎「じゃあ行けよ! 行って思いを遂げろ! 俺の心はいつでも一緒にいるから」ニコ

玄「っ……」ゴシゴシ

玄「わかりましたのだ!」ガバ 


決意を宿した瞳を湛え、玄さんは勢いよく立ち上がる。同時に俺の頭部が廊下の床に激突、鈍い音を上げる。

いって……


玄「松実玄、行ってまいります!」ビシッ

京太郎「あの、でももしどうしてもって言うならここで俺の話し相手になってくれてもいいですよ?」

京太郎「俺なんも出来ないですけど、しりとりくらいなら、」

玄「待っててね! おもちパラダーイス!!」ドヒューン!

京太郎「出来ま………………はえぇ……」


しばし一考。


京太郎「縄解いてもらえばよかったな」ビタンビタン



温泉

淡「それワシャワシャ!」アワアワ

優希「あはははくすぐったいじぇ淡ちゃん!」ワシャワシャ


晴絵「ああ~五臓六腑に染み渡るわ~」

憧「ハルエ年寄りくさぁ」

晴絵「はっ、あんたらもね二十を過ぎればこうなんのよ。せいぜい覚悟しておくことね」

憧「うわ、嫌だな」

晴絵「若い若い若さ漲るパワー最高っ」


和「気持ちいですね」バイーン

照「」テルーン

尭深「はい」バイーン

照「あの、お願いだから2人とも私を挟んで座らないで」ザバザバ

和「行ってしまいましたね。どうしたんでしょか」

尭深「さぁ?」ハテナ


まこ「京太郎には悪いことしたかもな。なにもあそこまでせんでも」

久「うーん…………面白いから許す!」

まこ「相変わらず辛辣じゃな」



みんなが風呂に行ってからそれなりに時間が経った。


京太郎「うーん……」ゴロゴロ


身動き出来ないのはいいが退屈なのは簡便してもらいたいな。


京太郎「うーん……」ゴロゴロゴロ


プ~ン……

京太郎「この音は……」

蚊「やぁ」


ちくしょう! なんか来やがった! やめろ、やめて来ないで!


プス

あ……
眉間を刺された。 どうする! どうする!?


京太郎「だぁー!」ドゴッ


手が使えない俺は咄嗟に壁にヘッドバットを叩き込んだ。


プ~ン

蚊は血を吸うだけ吸うと、何事も無かったかのように去って行った。後には痒みと痛みと簀巻き俺だけが取り残された。
このやり様の無い、言葉では言い表せない虚しさと悲しさ。
そしてなにより眉間が痛い痒い痛い痒い。
今、この両手が自由なら眉間を掻き毟ってしまいたい。

だが出来ない!!
目の前にあるのは床と壁。
ふと、その壁がとても魅力的見えた。
この痒みを抱えた額を擦り付ければどれだけ気持ちいいだろうか。
いかんとてもいい案に思えてきた。

けどそうれはどうだ? 人としてのなには大事な尊厳的なものが瓦解するんではなかろうか。
しかし背に腹はかえられない。俺は人間を捨てる!


ゴリゴリ、ズリズリ

ああ、俺、今すごく気持ちいい。
ちょっと気持ちよがり過ぎな気もしなくも無いが。


カラーン

京太郎「え?」

咲「京、ちゃん……」

京太郎「咲?」


乾いた音が響き、そちらに目を向けるとそこには風呂上りの咲が立っていた。
音源はどうやら手に持っていた風呂桶を落っことしたためらしい。え? 普通備え付けのがあるだろ。まさか自前?


咲「京ちゃん!」ダッ

咲「ごめん、ごめんね。辛かったんだね? 苦しかったんだね?」


なに言ってんだこいつ。
咲は一生懸命、俺に巻かれたプーロ……違う。ロープを解いてくれる。


京太郎「え、なに? …………ああ」


なるほど、客観的に見て今俺は簀巻きのままデコを壁に押し付けててなにはやっている状態だったのか。

…………………我ながら頭おかしい。


咲「大丈夫? 頭」


言葉だけ聞くと心配されてるのかバカにされてるのか判断に困るな。
なぜかまったく意図していなかった幼馴染の同情を買うことに成功してしまった。
今思い出しても恥ずかしい。死にたい。
俺と咲はマブだ。

ここに集まってるメンバーの中でもっとも付き合いが長い古馴染みだ。
お互いの結構恥ずかしい失敗談なんかももちろ知ってる。
だからこそ逆に見られた無かった。
これからしばらくの間、あの雨に濡れた捨てられた仔犬を見るような憐憫の眼差しで見つめられるのかと思うと、
悔しさと悲しさで枕を濡らさずにはいられなかった。


京太郎「う~ん……」ゴロゴロ

京太郎「う~ん…………」ゴロゴロ


なんとなく寝付けずに自室(仮)を右往左往。
右往左往っていうか狭い上に寝転がっているので言うほど動けないんですがね。
興奮して眠れないとか、しかも前日でもなく当日とは。小学生とも言えない謎の感性。


コンコン

京太郎「ん?」


小さく響いたノックの音。こんな時間に?
トイレに立った咲が道に迷ってたまたま通りかかったから泣き付きに来たか?
俺はのそのそ起き上がりずれた寝巻きを正しつつ戸を開ける。


京太郎「はいはいどちら様?」

和「こんばんわ♪ 須賀君」


そこにいたのはチームメイトの和だった。
意外な人物に思わず目を丸くする。


京太郎「和? どうしたんだこんな時間に」

和「ふふふ」トン

京太郎「え?」


俺の疑問に答えず、軽く胸を押される。
それほど強い力でも無いのに抗えない何かに気圧されるように、俺は一歩、自室(仮)に後退る。
一歩引いた事でその分、和が一歩踏み込む。
踏み込んだ勢いのまま和はゆるゆると俺の身体に両腕をまわしてきた。


京太郎「の、和……?」


行き成りの事で事態が飲み込めない。
それと抱き締められる事で押し付けられるあれこれが、なんというか、その……すごく柔らかいです。


和「やっと、やっと……この時が来ました」ギュゥ

京太郎「は? いや、あの……」

和「須賀君、いえ京太郎さん……」


下の名前で言い直しながら潤んだ瞳で見上げてくる。


ゴク

正直、堪りません。


和「ずっとこうしたかったんです」ギュウ


そういっていっそう身体を強く押し付けてくる和。
おいおいおい、これってもしかしてそういうことなんですかね?


京太郎「それってその……和は俺のこと?」

和「はい。ずっとお慕いしてました」


遂に来ちゃったかぁ~俺の時代が。


京太郎「あの、いやでもほら。ここ合宿場で他にみんなとかいるし」

和「京太郎さんは、私のこと嫌いですか?」


京太郎「もちろん好きだよ。好きか嫌いかって言われりゃもちろん好きだけど、でもたぶん和の言う好きとはたぶん違うって言うか」


たぶん俺の好きは麻雀に、そしてそれ以外にも真剣に向き合う憧れ的なもので。
それに俺には咲が…………あれ? 俺なんで咲に義理立てしてるんだっけ?
よく考えりゃ咲とか別にどっちでもよかった。俺は「ちょっと!?」っとむくれる幼馴染の顔を遠投で遠くに追いやる。


和「…………ん」


これは……
目を閉じ、そっと唇を上に向けている。つまりそういう事で良いんですよな?

ってか、今更だけど憧れてた女の子が夜自分の部屋に逆夜這いをかけに来るなんて、
こんな男心をくすぐる様な俺好みな展開は強引過ぎるって言うかまるで夢見たいな……え? 夢!?


和「ピピピピピピピピピ……」


あ、夢だこれ。

―――――
―――


pipipipipipipi


ムクリ

ゆっくりと上体を起こし、鳴り止まぬ目覚まし、っというかケータイのアラームに手を伸ばす。
頭を掻きながらあたりを見回すと、まぁ当然だが自室(仮)の布団の上だった。
カーテン越しに差し込む薄白んだ明かりからするともう朝らしい。いつの間にか寝てたようだ。
立ち上げってカーテンを開き、窓を開け放つ。














京太郎「夢ならもっといろいろサービスしてくれよぉぉぉぉぉ!!!!!!」



京太郎「っていう夢を見たんですけど、どう思います?」

菫「そのいかがわしい夢の話を何故私にする?」

京太郎「誰でもいいからブチ撒けたかったんです!」

菫「バカか君は」


一刀のもとに斬って捨てられた。
確かに自分でもちょっと頭悪いかなって思わなくもないけど。


淡「むぅ……」グデーン


それとさっきから俺の背中に乗っかってくるのが1人。


京太郎「なんなのさっきからあなたは?」

淡「な~んで私じゃなくてノドカが夢に出てくるの!? 私の夢を見ろ!」

京太郎「はぁ? お前、俺が夢を自在にコントロール出来る系の能力者かなにかと勘違いしてないか?」

京太郎「もしそうならもっとこう、……さぁ」チラ


ついつい視線がおも、渋谷先輩の方へと引き寄せられてしまう。


尭深「ポッ(棒)」

淡「なんか見詰め合ってるー! タカミーも満更じゃない感じだしてるー!」アワーン!

尭深「お茶美味しい」ズズ

淡「とにかくキョータローは今晩は私の夢を見ること!」

京太郎「前から思ってたけどお前なんでそんな偉そうなの? どこの立場の人間だお前は」

淡「そうだ! 枕の下に写真入れるとその人の夢が見れるっていうよね」

京太郎「ああ、まぁ言うな。思いっきり眉唾だけど」

淡「写真、写真を撮ろう!」

京太郎「言うけどカメラなんて無いぞ?」

淡「んーと、んーと……そだ! ケータイで撮ろっと」グイグイ

京太郎「……」


ノータッチ。


淡「さっさと屈め! このジャイアントバーバリアン一族!」グイグイ


どこの部族だ。
腕に抱きついて引っ張ってくる淡に急かされ、俺は頭の位置がちょうど同じくらいの高さになるように腰を屈める。


淡「イェイ~ ピースピース♪」

京太郎「はいはいピース」


ピロリン

淡「やったー!ツーショット! 待ち受けにしよーっと。見て見てテルー!」タタタ


枕云々の話はいいんだろうか? 敢えて突っ込もうとは思わないが。


京太郎「淡はバカだなぁ」


まぁそういうとこ嫌いじゃないけどね。



照「京ちゃん京ちゃん」ツンツン


突然背中を突かれる。

京太郎「? 照さん?」

照「私も、写真」フリフリ


どうやら淡のツーショットが羨ましいらしく、自分も自分もと言った具合にケータイを振ってみせる。羨ましいか?


京太郎「ん、わかりました。使い方わかりますか?」

照「む、京ちゃんは失礼。お姉ちゃんはけーたいでんわくらい使えます」

照さんは昔からこのお姉ちゃんアピールを俺に対してよくしてくる。

照「えっと、えっと……」アセアセ

京太郎「やりましょうか?」

照「う、うん……///」


ケータイの操作がわからなくて四苦八苦してる照さん萌。
違うそうじゃない、照さんからケータイを受け取り慣れた手付きで操作する。
今時ガラケーかよと思わなくも無いが照さんらしいといえばらしいのでなんとなく微笑ましい。


照「ごめんね。私こういうのぜんぜんダメで……」シュン

京太郎「……」ナデナデ

照「き、京ちゃん!?」

京太郎「はっ!? すいませんつい」


しょげてる照さんがなんと言うか庇護欲を誘うのでつい反射的に頭を撫でてしまった。
咲とか穏乃とかにもついやってしまうのだが、憧なんか言わせれば気安くそういうことをするのダメらしい。よくわからん。


照「もっと撫でていいよ……」

京太郎「え?」

照「頭……」

京太郎「あ、ああ! 頭ね」


ナデナデ

照「///」テルテル

京太郎「……」


うむ、なんともすばらな手触り。
しかし、この先端の……なんだこれ? この鋭い部分はなんなんだろうな。
咲にもあるんだよな、宮永の血統なのだろうか?
そういえば以前、薬局に寄ったとき咲が『超強靭ワックス!!戦闘民族専用』とかいうのを買っているところを目撃してしまった。
結果の程は推して知るべし。


照「京ちゃん、そろそろ」

京太郎「おっとそうでした」


脱線してしまった。当初の目的を思い出し照さんと肩を並べる形で身を寄せる。
なんだろう。なんか照れる。


京太郎「いいですか? 撮りますよ」

照「う、うん///」


ピロリン

京太郎「淡みたいに待ち受けにしますか?」

照「うん。お願い」

京太郎「了解ッス」カチカチ

京太郎「はい、これでオッケー」


ケータイを照さんに返し出来栄えを確認してもらう。


照「ありがとう。京ちゃん」


柔らかくはにかむ照さん。可愛い。


京太郎「どういたしまして、お姉ちゃん」





急須に茶葉を入れる。ケトルから湯のみにお湯を注ぎ冷めるのを待つ。
その間に、鶴口ポットで沸騰させておいたお湯を、ネルドリップでむらしを行いながら外から円を描くようにサーバーに注ぐ。
注湯の茶色の濃さを見つつ、適度なところで手を止める。コーヒーはこれで良し。
冷ましておいた湯を急須に注ぎ、再び湯のみへ絞るように注ぎきる。
マグカップを5つに湯のみを1つ、ミルクの容器、砂糖の容器、それからもう一つをお盆に載せお嬢様方が待つ席へ向かう。
まずは、


京太郎「どうぞ、渋谷先輩。今日は深蒸し煎茶にしてみました」

尭深「ありがとう。須賀君」ニコ


白糸台屈指のお茶マイスターである渋谷先輩に本人愛用の湯のみを目の前に置く。
唯一のお茶なので最初に渡しただけで、ゆっときますけど俺の好みとかは関係ないですからね?


京太郎「亦野先輩はブラックでしたよね」

誠子「ありがとう。うん、良い香りだ」


亦野先輩はコーヒーをブラックで飲む。この年代の女子学生にはなかなか珍しい好みだと思うが、
本人によると「夜釣りなんかのときに眠気覚ましに飲んでたらブラックじゃないと飲めなくなった」らしい。
相変わらずワイルドな人だ。


照「京ちゃん京ちゃん」

淡「キョータローキョータロー」

京太郎「はいはい、今行きますよ」


二大甘党の前にそれぞれマグカップを置く。


京太郎「照さん、砂糖の数は?」

照「3つ!」テルテル

京太郎「はいはい」


苦笑しつつ、角砂糖を3つ投入しミルクをたっぷり注ぐ。


京太郎「どうぞ」コトッ

照「ありがと、京ちゃん」

京太郎「淡は……」

淡「苦……!?」


聞く前からすでに飲んでいた。そんでもって苦さに顔をしかめていた。


京太郎「お前は……ホント、バカだなぁ」


淡のカップに砂糖とミルクを足しつつ用意しておいた茶菓子を前においてやる。


淡「あむあむ、あんでコーヒーってこんな苦いの?」ポリポリ

京太郎「だから紅茶にするか? って聞いたんだろうが……ほら」スッ

淡「ん……ズズ ……あわーい」ニパァ

京太郎「はいはい、甘い甘い」


最後に弘世先輩の前にカップを持っていく。


京太郎「お待たせしました。先輩」

菫「いや、ありがとう。いつもすまないな」

京太郎「いいですよぉ。好きでやってんですから」

京太郎「先輩はミルクと砂糖は?」

菫「そうだな……」チラ


僅かに亦野先輩の方に視線を送る。
実は弘世先輩も照さん達程ではないがなかなかの甘党である。だが、後輩がブラックで飲んでる手前あまりそれを見せたくないらしい。
もうみんな知ってますよ? とは言ってはいけない雰囲気。一見クールに見えて結構可愛い人だよね。


京太郎「じゃあこれはどうですか?」


俺はお盆に残されていた最後の一つを弘世先輩の前に差し出す。


菫「なんだこれは?」

京太郎「塩です」

菫「なんだって?」


塩。塩化ナトリウム。NaCl。舐めるとしょっぱい。白い粒。


菫「なぜ塩なんだ?」

京太郎「それはコーヒーに入れるためですよ」

淡「塩ってコーヒーに入れるものなの?」


横から淡が口を挟んでくる。
言葉にはしないが他の3人も興味深げにこちらも伺っている。


京太郎「弘世先輩はコーヒーに塩を入れて飲んだことはありますか?」

菫「いや無いが」

淡「コーヒーに塩なんて、ただでさえ苦いのにその上しょっぱくなっちゃったらますます美味しくないと思うな」

照「……」コクコク

京太郎「そうかな? 世界にはコーヒーに塩を入れて飲む地域だってある」

京太郎「そこに住み人たちにはコーヒーは塩で飲むのが常識で、逆に砂糖やミルクを入れる方が非常識ってことになる」


俺が今言ったセリフとまったく同じことを昔ある人に言われたことがある。


―――
―――――

京太郎「コーヒー入りましたよ、部長。インスタントですけど」コト

久「ありがと」


短くお礼を言いつつ、部長は俺の手からマグカップを受け取る。


久「ん……」ズズ

久「これはブラック?」

京太郎「はいそうですけど。部長ってブラック派じゃありませんでしたっけ?」


以前にふと見かけた飲み差しのカップはそうだったと思うのだが。


久「ふふ、私は塩派よ」

京太郎「は? 塩?」


なに言ってんだこの人? 前々から変な人だとは思ってたけどまさかここまで極まってたとは……


久「意外かしら? けど世界にはコーヒーに塩を入れて飲む地域だってあるわ」

久「そこに住み人たちにはコーヒーは塩で飲むのが常識で、逆に砂糖やミルクを入れる方が非常識ってことになるわね」

京太郎「まぁ……」


そうでしょうけども。


久「ところでコーヒーにミルクを入れるとコーヒー牛乳になるけど、紅茶にミルクを入れると紅茶牛乳じゃなくてミルクティーになるわよね」

久「このミルクティーを作るとき紅茶とミルク、どちらを先に入れるかというここ何百年もの間、未解決な命題があるの」

久「これについて須賀君はどう思う?」

京太郎「いや、どうって言われても……っていうかまたテレビかなんかの雑学ですか?」

久「話のネタにはいいでしょう?」



~数日後~

京太郎「部員集まりませんね」

久「まぁそんな簡単に集まったら苦労しないわね」

京太郎「2年の先輩の、えぇっとなんて人でしたっけ? その人を連れ戻すって話は……」

久「染谷まこ、ね。そうねぇ須賀君もやっとルールを覚えてきた頃だしそろそろ突撃しようかしら」

京太郎「は? 突撃?」

久「まこの実家の麻雀喫茶にね」

京太郎「その先輩のご実家喫茶店なんですか?」

久「そそ、それもあって部活離れしてたってとこかな」

京太郎「はぁ……」ポカーン

久「よし! じゃあ行きましょうか」

京太郎「え? もしや今から?」

久「もちろん! 思い立ったら吉日って言うでしょ?」

京太郎「この場合は行き当たりばったりの方が合ってるような」

久「いいから来る!」

京太郎「わかりました! わっかりましたよもう!」

久「っと、その前に……」ズズ、コクン

久「ん、良い塩加減。やっぱり須賀君の入れるコーヒーが1番美味しいわね♪」ニコ


―――――
―――

京太郎「っと、つまりゆで卵に塩をかけて食べるように、コーヒーに塩を入れて飲んだら意外と美味しいかも」

京太郎「って俺はそう言いたい訳ですよ」


俺の話をふんふむと聞いていた一同。
俺が話し終えると、そこで口火を切るのも白糸台チーム虎姫賑やかし担当の淡・大星。


淡「ん~、けど私、ゆで卵にはマヨネーズなんだけど」


しばし一考。


京太郎「なるほどマヨネーズか……」


マヨネーズ、コーヒーにマヨネーズか。
マヨネーズinコーヒーを想像しながら自分の分に口をつけるとなんと言えない味が広がる。
どうしようか迷った末、苦々しい表情をしながらなんとか飲み込む。


菫「塩のコーヒーか……」


呟きながら、塩の小瓶から一匙掬い自分のコーヒーへ。
俺の長話の所為で少し温くなったコーヒーをかき混ぜ、一口啜る。


菫「ふむ……」

京太郎「どうですか?」

菫「あまり美味しくないな」


部長、どうやらここでは塩は非常識に分類されるようです。





京太郎「……」ペラッ


午後の昼下り。俺は1人でソファーに腰を沈めながら読書に耽る。
こう見えても俺はそこそこ本を読む。っというのもまぁ単純に身近に重度の読書家がいてそいつがあれこれと熱心に勧めてくるので、
いつの間にかそういう習慣が身についただけで、別に瀟洒を気取ってるとか知的さを振り撒いて女の子にモテたいとかそういうことじゃ……
いや、すんません。ちょっとだけ期待してました。


京太郎「…………」ペラッ


ガチャ

淡「……」キョロキョロ

淡「あ! キョ、っ……」


扉が開き顔を覗かせたのは、ここではもう見慣れたメンバーの1人。
一瞬だけ顔を輝かせ俺の名前を呼び掛けるが、こちらが本を読んでいたことに気付くと慌てて口を噤む。


淡「……」タタタ


ボフ

俺が座っていたソファー、その右横に勢いよく腰を下ろす淡。
俺は特に無い言及せず読書を続ける。

ちなみの俺は学校の授業や、こういった読書の時に俺はメガネをかけている。
オススメというだけありつい内容に引き込まれて夜中に暗がりで熱中して読みふけっていたら
最近少し視力が下がってきてしまったからだ。
晴れてメガネデビューを果たした俺がそれについて部内でからかわれた事もあったのだがそれについては今は割愛。


淡「キョータローってメガネ掛けてたっけ?」

京太郎「ああ、ちょい前くらいから」


知っての通り普段は掛けてないから未だにこうやって驚かれたりすることもままある。


京太郎「頭良さそうだろ?」

淡「うん! 知性があるように見える」

京太郎「……」


お前もっと言葉を選べよ……
内心で呆れつつ再び本に視線を戻す。
淡もそれ以上なにも言わず、裸足のつま先にスリッパを引っ掛け楽しそうに脚をパタつかせているだけだった。


淡「~♪」


淡は特になにかをするでもなにかを話すでもなくただ俺の隣に座っているだけ。
それにしてはいやに機嫌が良さそうだ。
俺が読んでいる本は文庫本サイズ。
それを左手で持ち替え、空いた右手でメガネのフレームを押し上げつつ隣に座る淡の頭に手を伸ばす。


京太郎「……」ナデナデ

淡「! にゅふふ~♪」


頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細めながら、満足気に声を漏らす。


淡「ねぇねぇ、それなに読んでるの?」


けどやっぱりというか堪え性が無いため質問を投げかけてくる。


京太郎「官能小説」


ズサササ!

思いっきり距離を取られた。


京太郎「いや、あの冗談ですよ?」


さすがにながらでいられないので落としていた視線を上げ淡に顔を向ける。


淡「な、なんだ冗談か~」

淡「もうもう! キョータローのジョーダンは質が悪いよ!」プンスコプン

京太郎「そうむくれるなよ。大体お前こそなんだその反応。いつもならここからもう一言二言遊ぶだろ?」

淡「それはまぁ……そうだけど」


まだ少し警戒の色を残しながらおずおずと元の位置に戻ってくる。


淡「それでなに読んでたの?」

京太郎「フランス書院」

淡「なにそれ?」

京太郎「いややっぱ今の無し。普通のミステリー小説だよ、ほれ」


ページを閉じてしまわないように気を配りながら淡の方に向ける。


淡「ふ~ん、あ! これ知ってるこないだテルーが読んでた奴だ」

京太郎「へぇ照さんがね」


ってことは照さんから咲に、そんで俺にといった感じだろうか? 読み切ったら是非語り合いたいな。


淡「なんか実は、真犯人の共犯者が主人公の弟だったとかって驚いてた!」

京太郎「え……」

淡「それで、えっとえっとなんだっけ……キョータロー?」

京太郎「まだ、そこまで読んでない……」

淡「え、あ!? あわわわわわわ……ごご、ごめん!」

京太郎「いや、いいけど……」


俺は本を閉じ、ソファーの肘掛けにぐったりとうな垂れる。栞を差し込む気力も無い。


京太郎「冷水ぶっ掛けられた……」ガックシ

淡「もーごめんって! キョータローってばー!」アワアワ!




京太郎「うえぇ、さっぶ……」ガタガタ


湿った肩を自分で抱きながら、全身に纏わりつく寒さをなんとか誤魔化そうとする。


京太郎「ちくしょうついてな、ふぁ……っくしゅん!!」


あー、ついてない。まさか外の水道が老朽化していて捻った瞬間爆発しようなどと誰が予測出来ようか。
濡れた前髪が顔面に張り付いてなんとも不愉快だ。
着替えを片手に暖簾を潜り、浴場へ続く脱衣所への戸を開ける。


ガラララ

穏乃「うん?」

京太郎「…………え?」


そこにいたのは生まれたままの姿の高鴨穏乃だった。


京太郎「す、スッポンポンのポンポコポーン……」

穏乃「おっす京太郎。京太郎もお風呂?」タタタ

京太郎「前を隠せぇぇぇぇーーーっ!!」


俺は絶叫しながら手から着替えの袋が落ちるのも気にせず、両手で顔を覆いながら穏乃に背を向ける。


京太郎「すすすす、すまん! すぐ出るから」

穏乃「えー京太郎お風呂入りに来たんじゃないの? なら一緒に入ろうよ」


出来るかボケェ!!


穏乃「ねー聞いてる?」グイグイ

京太郎「ちょ、おおい!? なに引っ付いてきてるの!?」

穏乃「って、京太郎ビショビショじゃん! 早く温まらないと風邪引くよ!」


そういって入り口付近で二の足を踏んでいた俺をズルズル引き摺っていく。
なにこのパワー!?


京太郎「ちょ! やめて、俺今あの、あれ! すごい、極限状態だから!」

穏乃「なにゴチャゴチャいってるの! ほら早く!」

京太郎「大体、穏乃! お前俺に一瞬とは言え裸見られてんのにそれについてはなんかないの!?」

穏乃「ん~?」

穏乃の視線が自分を見下ろし、それからゆっくりと正面に戻ってくる。

穏乃「わああああああああああああああああ!?!?!??!!!////////////」


パタパタパタパタ


突然の足音。

シズ~ドウカシタノ~


戸口の向こうから聞こえたこの声は、……憧!?
やばい、この状況。バレればあの、えぇっと……とにかくとんでもないことになるよ!?


穏乃「な、なんでもな~い! ちょっと滑って驚いただけー!」

京太郎「!?」


キヲツケナサイヨ~

穏乃「わかった~!」


パタパタパタ……

足音が遠ざかっていく。

シーン……

残ったのは静謐。


京太郎「じゃ、じゃあ俺出直すからまた後で……」

穏乃「ダメだよ! 風邪引くって」

京太郎「だけどお前なぁ」

穏乃「私は大丈夫、平気……だから///」

京太郎「はぁ……わかったよ」ポン


俺はなるべく穏乃の裸体を見ないようにしつつ頭に手を載せる。


穏乃「あ……」

京太郎「そんかわり、お前は先浴室いっとけぶっちゃけ今の穏乃のが風邪引きそうだ」

穏乃「あ、うん!」パァァ


勢いよく頷くと穏乃は勢いよく駆けていく。
途中でホントに足を滑らせかけ「どえぇぇぇ!?」などと女の子が口にするにはいささか奇特な声を漏らしながら、
浴場へ繋がる戸口へ消えていった。


京太郎「あいつ、俺がこのままバッくれるとか考えないのかな?」


カポーン

鹿脅しに似た幻聴が聞こえる。


京太郎「…………」ボケェー

穏乃「…………///」ポー


俺と穏乃は近すぎずさりとて遠すぎず、微妙な距離を保って肩を並べて湯船に浸かっていた。
あのまま逃走も考えたがそれはそれで後からなに言われるかわからないので大人しく穏乃の意向に従うことにした。


京太郎「…………悪かったな」

穏乃「なにが?」

京太郎「不可抗力とは言えその、なんだ……裸見ちゃって」ポリポリ

穏乃「あ、ああ! うんまぁ、私も悪かったし。別に」

京太郎「そうか? そう言ってくれると助かる」

穏乃「うん。それに恥ずかしかったけど、京太郎になら別に嫌じゃないって言うかブクブクブク……」

京太郎「は?」

穏乃「なんでもない! なんでも///」

京太郎「いや、今……」

穏乃「私逆上せたみたい! 先に上がるね? それじゃ!」


バシャ、タタタタ

京太郎「ちょ、おおい。だから走るなって! ……聞いちゃいねぇ」


一人残された俺は、何の気なしに天を仰ぐ。


京太郎「あー……」


両手で湯船を掬い顔に思いっきり叩きつける。
去っていく穏乃の顔が赤く見えてのは果たして本当に逆上せたからだったのか。
そして俺自身のこの顔の熱さも。
俺の疑問はその答えを得る事無く、熱い水面に落ちて溶けた。


玄「京太郎くん」

京太郎「玄さん?」


玄関で上履きから外履きに履き替えているところへ後ろから声をかけられた。
振り返ると白いワンピースにつば広の帽子を被った玄さんが立っていた。


玄「お出かけ?」

京太郎「はい、少し。玄さんもですか?」

玄「うん。少しお散歩」

京太郎「あ、じゃあそこまで一緒に行きますか?」

玄「お邪魔じゃないかな?」

京太郎「まさか。こちらこそ、お供させていただいてよろしいですか?」

玄「ふふ。うん、よろしくお願いします」

京太郎「あれ? 玄さん、髪……」


後ろに立たれていたときには気付かなかったけど並んで立つことでその事に気付いた。


玄「あ、うん。今日は熱かったから結んでみたんだ。へ、変じゃないかな?」


無茶苦茶可愛いです。この滾る感情を打ち明けたかったがまぁここは紳士・須賀としてね。その名に恥じぬ振る舞いをしようか。


京太郎「無茶苦茶可愛いです!! うなじがチラチラ見えてすごく興奮します!」


あ……


玄「かわっ!?」


川?


玄「そ、そっかぁ~えへへ、そっか///」テレテレ


よし! よし!!
なんかわからないけど上手く誤魔化せた。


京太郎「そういえば聞くの忘れてたんですけどいいですか?」

玄「なにかな?」


並んで歩いていた玄さんにスッと一歩歩み寄る。


京太郎「おもちの方はいかがでしたか?」ヒソ

玄「! ふふふさすが我が同志。やはり気になしますか?」ヒソ

京太郎「そりゃあ」

玄「それで誰のおもちが聞きたいのですかな?」


どこか得意気な玄さん。


京太郎「ふむ。いろいろ聞きたいですがじゃあここは渋谷先輩で」

玄「ふんふむ。渋谷さんですか、大きさではやや和ちゃんに負けるけど張り、艶、そして柔らかさも申し分なく」

京太郎「柔らかさ!? 玄さん、あなたまさか……」

玄「触らせていただきました///」ポッ

京太郎「なん……だと……」

玄「ご本人に似てなんともやんごとなき手触りで」

京太郎「羨ましい!?」グギギ

玄(血涙……)

玄「やっぱり触ってみたいのかな? 男の子だし」

京太郎「そりゃ、いや……でも俺、学者タイプだし」


今度こそ紳士・須賀でいきたい。そう願って今を生きる。


京太郎「というわけで、宇宙飛行士タイプの玄さん。その辺りのいろいろはすべてお任せします!」ペッコリン

玄「おまかせあれ!」


そういって胸を張る玄さん。


京太郎「……」


うむ。すばら。


京太郎「それでじゃあ和は……」

玄「和ちゃんは、ガードが固くて……」

京太郎「ダメだったんですね」

玄「うん。タオルできっちり巻いてて、湯船に浸かるときもそれはもう神業の如く脱着も一瞬で」

京太郎「そうですか……」グヌヌ


さすが和としか言いようがない。


京太郎「あ、じゃあ弘世先輩は……」

玄「弘世さん、か……」


玄さんが憂いを秘めた遠い眼をしてる。


玄「レギュレーション変更とはかくも恐ろしい」

京太郎「?」


それはまるで要領を得ない説明だった。


京太郎「しかし宥さんも含めてすばらなおもともちな方々揃ってなんともすばらですね! 玄さん」


後、玄さんも。とは口が裂けても言えない。


玄「ん、うん。そうだね」

玄(京太郎くんとおもちの話をするのはすごく楽しいけど、なんだろうおもちの辺りがもちもちする)モヤモヤ

京太郎「どかしました?」

玄「ううん。……京太郎くんはこの後どうするの?」

京太郎「俺ですか? そうですね、このまま街の方まで行ってついでに夕飯の買出しでもしようかなって」

玄「じゃあ荷物持ちとかいた方が良いよね! 私も一緒に行くよ!」

京太郎「そうですか? じゃあお願いします」ペッコリン

玄「こういうのもデートって言うのかな?」ボソ

京太郎「ふぁい? なんか言いました?」

玄「んーん。なんにも」

玄(もしそうなら)


ギュウ

京太郎「ちょ!? くくく玄さん!?」


いきなり玄さんが俺の腕に自身腕を絡めてきた。そしてこの肘に当たる柔らかいものは……
紳士が……! 俺の紳士が……!!


京太郎「な、なんでもないです……」

玄「ふふ、そっか」

玄(久し振りに会えたんだもん。ちょっとくらい大胆になっても良いよね?)


【おまけ】

ドドドドドドドド、バーン!!

京太郎「え? なに? なに事!?」


凄まじいラッシュの後、盛大に戸が開け放たれる。


穏乃「やっほー! 京太郎! 遊びに行こう!」

京太郎「は!? し、穏乃!?」


まるでパパスの様に現れたのは阿知賀女子の大将、高鴨穏乃。ぬおおおお。
突然だが状況を整理しよう。
現在ここは俺の自室(仮)、時間は早朝。そして今さっき起きたばかりの俺はまさに着替えの真っ最中。
しかも今日に限って自分でもなぜかわからないが下から脱ぎだしたので、
上は寝巻き用のTシャツで下は現在パンツ一枚という最悪の絵面でお送りしております。


京太郎「きゃあああああああああああああ!! いやあああああああああああああ!!」

穏乃「あ、ごめん。着替え中だった? って、うわ……京太郎の部屋狭いね」


あれ!? 意外と冷静……


穏乃「じゃあ終わるまで待ってるね」

京太郎「あの、ちょっと……」

穏乃「ん?」

京太郎「お前、俺の渾身のボケをスルーするのやめてもらえません?」

穏乃「とりあえずズボンはいたら?」

京太郎「大体なんださっきのノック……ノック?」

京太郎「ゴエモンインパクトの殴りこみかと思ったぞ」

穏乃「だってこんないい天気なんだよ! 元気よくいかないと勿体無いよ!」


ガラッ

俺の横を通り過ぎ、閉められていた窓ガラスを盛大に開け放つ。


穏乃「」


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーー……………カキーン

どこかで七色石が割れる音がした。


穏乃「え!? なにやだっ、怖いっ!?」ゴフ

穏乃「え? 京太郎こんな極限状態みたいな部屋に泊まってるの?」

京太郎「ああ、まぁうん。とりあえず窓から離れとけ」


ガラララ

穏乃「う、うん……後そろそろズボンはいた方がいいよ?」

京太郎「しかしお前、さっきのは無いんじゃないの?」

穏乃「なにが?」

京太郎「仮にも女の子が同年代の男子の着替えをうっかり覗いてしまった」

京太郎「ともすれば恥じらいの一つも見せて然るべきでは無かろうか?」

穏乃「ふ~ん……」

京太郎「こいつ、もしや自分ちに全裸の男とかいても『ふ~ん』で済ますタイプか……?」

穏乃「そんなこと無いよ。誰でもじゃなくて、京太郎だしまぁいっかなって」

京太郎「お、ふっふ~ん。そんな意味深なこといわれるとお兄さんちょっと穿った捉え方をしちゃいますよ」

穏乃「ん? よくわかんないけどズボンはかないの?」

京太郎「だいたいお前さぁ見ろよこの状況。このシャツの丈がもうちょっと長かったらアレだよ?お前とペアルックみたいになっちゃうよ?」

穏乃「ホントだ! 京太郎ジャージとか持ってないの? ペアルックで闊歩しようよ!」

京太郎「バカかお前は! 穏乃でもかなりギリギリのラインなのに俺がそんな格好してたら通行人腰抜かすわ! そんで補導されるわ!」

穏乃「じゃあズボンはけよ!」

京太郎「はいはい。今はきますよ、ちぇっ」

穏乃「なんでなんか私が悪いみたいな空気出してるの?」

京太郎「いやお前は悪いだろ。穏やかなこの朝のこの、……そういえばお前の名前にも「穏」って字が入ってるな」


それでこの性格か。穏やかさの欠片もないな。


京太郎「遊びに行くのはいいが、とりあえず朝飯食ってからな。お前なに食いたいよ?」

穏乃「う~ん……目玉焼き!」

京太郎「おう! 準備してくるから穏乃はみんなを起こしてきてくれ」

穏乃「わかった」タタタタ


元気よく返事をするとそのまま部屋をとび出していった。今のあいつは朝飯のことで頭がいっぱいなのだろう。


京太郎「扱いやすいのは良い事だ」


今日も騒がしい1日になりそうな予感はするが。