10・

京太郎「さあ、一回戦だ!」

先鋒、八坂。次鋒、友人。終了。

一太「さて、僕の番ですね」

京太郎「頑張ってください!」

オーラス。

一太「あの日のことを思い出すな……」

 次々に麻雀部をやめていく部員たち。

 部員が減るたびに、久の寂しい顔を見なければならなかった。

 それが、つらかった。

 そして、やってはいけないことをした。

 自分も部活をやめたのだ。

 近くで久の顔を見ているのが辛くなったから。

 怖かったから。

 あのとき、やめるべきではなかった。

一太「ツモ!」

一二三①②③112233西西

京太郎「出たー! 一太先輩必殺、3以下の数牌を集める『ロリロリハンターズ』??」


 一回戦突破。

京太郎「さあ、決勝だ!」

八坂「気をつけろ……ここの大将はマジでヤバい」


大将戦。

京太郎「はあ……はあ……はあ……、くそっ」

近江「麻雀ってよぉ、クソみてえな競技だよなぁ」

京太郎「……運ゲーだからか?」

近江「違う違う、そういうことじゃねえよ」

近江「言い方が悪かったな……人間を悪に染める競技、ってことだ」

近江「普段は温厚な奴が、麻雀やってると怒りっぽくなったり」

近江「他人のためにいろいろやれる人間が、麻雀をやるとマナー悪く他者を貶し始めたり」

近江「虫も殺せない奴が、他人を低く見て侮ったり。負けてりゃ不機嫌。勝ったら聞きたくもねえ自分の麻雀理論を語り始めたり」

近江「初心者がいると勝てねえとか言うやつもいるな……自分よりも圧倒的に強いやつがいても勝てねえくせにな」

近江「そういう奴が欲しいのは自分よりも少し弱いやつなんだ。勝ちてえから、そんなクズみてえになる」

近江「俺は麻雀が嫌いだぜ? だから麻雀やってる奴を潰して、競技人口を減らし、この世から麻雀を消してやろうと思ってる」

 すでに、京太郎と近江以外の2人は精神を壊されている。

近江「だから、負けてくれや。俺は全国へ行ってたくさんの選手を潰す必要がある」

京太郎「……いい夢だな。応援してえよ」

京太郎「色んな俺が、みんな口を揃えて同じことを言うんだ」

京太郎「『たとえ負けても、俺は麻雀が好きだ』『才能はねーかもしれねーけど、麻雀を打つのが好きなんだ』

京太郎「『嫌いって言ったけど、やっぱり俺……麻雀のことを忘れられない。俺、こんなにも麻雀が好きだったんだ』

京太郎「『麻雀が好きなんだ』『麻雀が好きだ』『麻雀が好き』『麻雀が好き』『麻雀が好き』」

京太郎「いろんな世界の俺――みんな『麻雀が好き』としか言わない」

京太郎「気持ち悪かった」

京太郎「麻雀が嫌いだとは言えない空気」

京太郎「たとえ嫌いになっても、最後には好きになるという収束感」

京太郎「麻雀が好きじゃないといけない、みたいな強制感」

京太郎「たとえどんな理不尽なことが起こっても麻雀を好きと言わないといけないという押しつけ感」

京太郎「『麻雀が好き』というセリフで誰かを惚れされないといけないという展開の束縛感」

京太郎「麻雀を嫌っちゃいけないのか?」

京太郎「永遠に一生、嫌いなままで麻雀を続けたらいけないのか?」

京太郎「麻雀が嫌いな俺には生きる価値がないのか?」

京太郎「ずっと、そうやって生きてきた」

京太郎「だからお前の行為を否定しない」

京太郎「だからといって、理解もしない」

京太郎「お前を更生される言葉なんて俺には思いつかない」

京太郎「お前を更生されるような劇的な過去、俺にはない」

京太郎「ただ俺は、全国に行きたいからお前を倒す」


………
……


京太郎「ツモ! 字一色!」

近江「この俺がああああああ??」





京太郎「ついに来た……! 全国の舞台、東京!」

千歳「へえ……君が長野代表かい?」

京太郎「誰だ??」

本藤「て、てめえは……インハイチャンピオン千歳真!」

京太郎「インハイ……チャンピオン」

千歳「ねえ、一局打とうよ」

京太郎「出場校どうしは打てない決まりじゃ……」

千歳「いいんだよあんなルール。あんなのはただのオカルト持ちが勝ちやすくなるようにするためにできたルールだ。従う必要はない」

京太郎「だけど」

本藤「いや、やっておけ、須賀。一度体験しておいた方がいい」

本藤「インハイ史上、『最弱』のチャンピオンと呼ばれたやつの打ち方を」

京太郎「最……弱?」

京太郎vs千歳

京太郎「勝ってしまった……!」

千歳「ふー強いね須賀君。……悔しいな。でも」

千歳「麻雀って楽しいな!」

京太郎「……負けたのに楽しいのかよ」

千歳「そりゃ、勝ったり負けたりするのが麻雀じゃないか」

千歳「勝ってるときだけ『楽しい!』って言って、負けてるときだけ『麻雀はクソゲー』とか言うやつもいるけど」

千歳「そういうやつは麻雀を楽しんでるんじゃない」

京太郎「……じゃあ、何を楽しんでるんだ」

千歳「そういうやつらが楽しんでるのはね、勝つことだよ。勝つことを楽しんでるんだ」

京太郎「いったいこの世に、お前が言う意味で麻雀を楽しんでる奴は何人いるんだろうな」

千歳「さあね。ま、君との再戦、楽しみにしてるよ」

 そう言うと千歳は去っていった。

本藤「千歳真……。やつの全対局の連対率は三割を切る」

京太郎「それなのにどうやってインハイチャンピオンに……?」

本藤「やつには、ここぞというときに必ず勝つ魔力がある」

本藤「……逆に負けてもいい場面は必ずと言っていいほど負ける。手を抜いているわけではなく、そういう風になってるんだ」

京太郎「だから……『最弱のインハイチャンピオン』」


 全国一回戦。先鋒。

八坂「よろしく」

霊山「よろしく」

八坂「(アイドル雀士、霊山祥哉……。あいつの力は……)」

オーラス。

モブ 140000
八坂 130000
モブ 130000
霊山    0

八坂「(宮永顔負けの得点調整力……!)」


 咲のプラマイゼロは29600~30500点という幅がある。もちろんこれを狙ってやるのは十分化け物じみているが……。

八坂「(こいつは、本当の意味で0点……。幅はない、少しでも間違えたらトビ終了だ)」

霊山「さーて、0点完成。反撃といきますか」


 彼がアイドル雀士と呼ばれる理由は顔の良さだけではない。

 0点からの逆転という華やかさ。

 これが観客を惹きつけるのだ。

霊山「親は俺だ。まずは天和」

八坂「くっ」

 それが霊山の力。一度0点になると最強の力を発揮する。

霊山「リーチ」

霊山「ツモ。12000オール」

八坂「(……強い! この状態になった霊山は上崎にも匹敵する!)」

 あの日、麻雀をやめることを決めた日を思い出す。

 憧れであり、自分の目標だった小鍛治さんが始めて負けた日のこと。

 決勝は9番勝負だった。

 そのとき卓にいたのは、永世七冠「小鍛治健夜」。

 世界ランキング一位「ライアン・グリーン」。役満率一割越え、役満のクイーン「雪蘭」。

 そうそうたるメンバーの中に異彩を放つ存在がいた。

 当時、六歳の少年「上崎永楽」だった。

 その9番勝負は、たった5戦目で終わってしまったけど、対局時間は過去最長だった。

 親である上崎がテンパイし続け、それ以外の三人がノーテン罰符を払い続けることを25回×5局し続けたのだ。

上崎「牌の神様を殺したから」

 インタビューでそう答えた上崎を見て、八坂は麻雀をやめた。

八坂「……だけど、決めた」

八坂「上崎を、倒すことを」

八坂「だから、こんなところで立ち止まれねえ!」


………
……


八坂「ロン! 12000!」

霊山「ぐはあああああ」






決勝、オーラス。

千歳「こ、このボクがこんな大切な場面で負けるなんて」

京太郎「悪いな……俺にはこいつがいる」

 首から下げたチェーンの先に、一萬がつけられていた。

京太郎「もう一度、会うと決めたんだ」

 ――おめでと、きょーにぃ。

京太郎「!」

「紅」べに色の花。あでやかな花。転じて、花のような女性。

「姜」美しい娘。美女。

「生」生きていること。

「紅生姜」とは、生きている美しい少女のこと。

 つまり、「紅生姜のない」は、美しい少女が死んだことを表す。

 つまり、みなもの死。

「牛」で思い出すのは、牽牛――つまり、彦星だ。

「丼」の「真ん中の点」は清い水の溜まった様子。

 牽牛が俺で、清い水が天の川。紅生姜がみなも。

 この物語は、七夕伝説と同じだ。

 天の川の向こうにいるみなもには、会えない。

京太郎「でも、やっぱりいたんだ」

 直接触れ合えなくても、俺のことを見ている。

 天の川の向こうで、確かに。

 京太郎とみなもの物語は、一言で言うと。

京太郎「紅生姜のない牛丼屋――か」



カン!