2・0

京太郎「俺は牌を超越するっ!!」

 そう言い残し、彼は帰っていった。

 ――ああ。

 この部室がこんなに騒がしくなったのはいつ以来だろう。

 須賀君が帰ったあと、私は部室でだらだらと過ごしていた。

 やることのない日でもついここに来てしまう。その習慣は私が一年生だった頃から変わっていない。

 待っていれば誰かが来るんじゃないかという思いに支配されているのだ。いや、実際今日は一人来た。

 私のこの習慣もあながち悪いものではないらしい。

 五時になる。

久「さてと、帰るか」

 部室の施錠をし、旧校舎の玄関から外に出る。

一太「どうでしたか会長、彼は」

 旧校舎から出るとすぐに、一太はそう尋ねてきた。

久「……用があるなら入ってくればいいのに」

一太「無理ですよ、会長。僕にはもう麻雀部はもちろん、この校舎に入る資格すらありませんし」

久「誰がその資格、与えてくれるのよ」

一太「それはもちろん自分自身です」

 私から視線をそらして、彼は言った。

久「私はまたあなたと麻雀がしたいわ」

一太「うれしいです。僕もですから」

久「なのに、麻雀部に入ってくれないのね」

一太「今の僕じゃ、昔と同じことを繰り返すでしょうし……何よりもまだ僕自身が僕を許してないんです」

 変わらない。本当に変わっていない。負わなくていい罪悪感を背負って、自分を責める。そんなところはどうしても好きになれない。

久「つくづくあなたって変なやつね」

一太「でも、もっと変なやつが来るかもしれませんよ?」

久「須賀くん、ね」

一太「彼となら、僕も麻雀を打ち続けることが出来るかもしれません」

 彼は嬉しそうにそう言って笑った。

 私は少し須賀くんに対する嫉妬心にかられたのだった。


2・

中学三年生ニ月

 受験まであと少しということで、私と京ちゃんの勉強会は追い込みにかかっていた。

 私が図書室に着いたときにはすでに京ちゃんは勉強を開始していた。

咲「ごめん、遅れちゃって」

京太郎「掃除?」

咲「卒業アルバムの仕事」

京太郎「俺の写真たくさん入れてくれたか?」

咲「だめだよ、京ちゃん。誰かをひいきしたりはできないよ」

京太郎「そう言いつつ自分の写真は極力載せないようにしてるんだろ」

咲「バレてる……」

 私は写真に映るのが嫌いで、カメラのレンズを避けるように生きている。

 たまたま映ってしまったときにはその写真を抹消するために全力を尽くす。

 昔は別に写真に映ることは嫌いじゃなく、むしろ好きだったのに、今ではどうしてもダメなのだ。

京太郎「ありがとな、咲」

咲「急にどうしたの京ちゃん」

京太郎「咲のおかげで国語で得点取れるようになったしな」

咲「国語って面白いでしょ?」

京太郎「ああ、昔は教科書を読むのも退屈だったけど今では好きな作品が増えたよ」

咲「教科書作品の中じゃ何が一番好き?」

京太郎「ピピキキだな」

咲「うん?」

 そんな作品載っていただろうか。記憶力には自信があるのだが聞き覚えがない。

京太郎「三回宙返りができるようになったピピに対してキキが強い劣等感を抱く……」

京太郎「そしてなんとかピピに勝とうともがくキキ……イェスイェスイェス! ふぅ……萌えたな、あれは」

咲「って、ああ! 『空中ブランコ乗りのキキ』のことか! 登場人物二人並べて言うからわけが分からなくてビックリしたよ」

京太郎「咲は?」

咲「そりゃもう断然『少年の日の思い出』だね。失ったものは取り返しがつかない……」

咲「その加害者になってしまったら贖罪することすら許されない……あれを読んだあとは色々考えちゃった」

 私たちは勉強を始める。勉強会をやり始めたころは頻繁に教え合っていたけど、最近では黙々と問題を解くようになった。

 教えるべきこと、教わるべきことはやり尽くしたのだ。

 それに私も京ちゃんも過去問を解いた限りでは合格ラインに十分乗っている。あとはテストに慣れるだけなのだ。

京太郎「あのさ、咲」

 勉強会からの帰り道、私たちは並んで歩いていた。

京太郎「神社、寄ってかね?」

咲「なんか用事?」

京太郎「受験の前に最後の神頼みでもしようと思って」

咲「元旦にしたんだけどなぁ……」

京太郎「あっ、そうだよな! わるい、変なこと言って!」

咲「いいよ」

京太郎「え?」

咲「行こうよ、神頼み。一回頼んだだけだと神様も忘れちゃうかもしれないし」

 神社は自治体が管理している小さな神社で、私たちの他には誰もいなかった。

咲「京ちゃんの家、神職でしょ? 他の神様に祈ったりしていいの?」

京太郎「もしかしてダメなのか?」

咲「知らないんだ……」

京太郎「まあ、元旦にしたお願いごとは叶ったし、大丈夫だろ」

咲「あれ、京ちゃん、元旦に合格祈願しなかったの」

京太郎「実は別のことを……な。だから今日は叶ったお願いごとへのお礼と追加の合格祈願をしに」

咲「へえ~別のことをお願い、ねぇ。何を願ったんだろう」

京太郎「……秘密だ」

咲「む、もしかして私に言えないこと?」

京太郎「秘密ったら秘密だ!」

咲「ふふ……そっか」


 試験3日前。京太郎は牌に会うため再び清澄高校に来ていた。

 2日前から試験準備期間として学校内に入れなくなるので、この日がラストチャンスだった。

京太郎(忘れ物は……ない。よし!)

 部室に入る。

久「久しぶり須賀君。調子はどう?」

京太郎「お久しぶりです、完璧です」

久「別に入試前に無理して来なくても良かったのに」

京太郎「いえいえ、来たいから来たんです」

久「あら? その紙袋どうしたの」

京太郎「あ、これは……えっと、し、私物です。じゃ、じゃあ卓の調子見させてもらいます」

 この日の京太郎は、修理した卓の調子を見るという建前でここに来ていた。

 本当の目的は牌に会うことである。

 牌に触れると前回と同じように周りの空間が深海のようになった。

牌「……また来たんだ、うっとおしいなぁ……」

京太郎「ライバルなんてそんなもんだぜ?」

牌「ま、それはそうかもね。で、何の用?」

京太郎「百合姫持ってきた」

 紙袋から百合姫を取り出した瞬間。

牌「え、ほんと? えへへ、やったー! 読みたくて読みたくてしょうがなかったのだ!」

牌「ぅおおお表紙すごい! もう表紙だけでひとつの物語が完成してるよ! SS書きたい!」

牌「あ、この世界ネット環境ない!  NTTさん工事はよ! それにしても表紙の絵師、ほんと光の使い方うまい!」

牌「覆い焼きモードの魔術師! フォトショのレイヤーどうなってんだろ、うわすっごく気になるよー!」

牌「ブラシの設定どうなってるか晒してくれないかなー! メイキング希望!」

京太郎「俺と牌ちゃんの間には読んだことのある百合作品に差があるからな。このままじゃ公平に語り合えないだろ?」

京太郎「だから俺が清澄に合格して入部するまでの間、それを読んどいてくれ」

牌「ぅわお、適当に開いたページがキスシーンだった。こりゃもう次はベッドシーン!?」

牌「そうに決まってる、ここまできたならいけるところまでいけばいいよ」

京太郎「聞いてるか」

牌「聞いてるよー」

京太郎「俺の合格、祈っといてくれよ?」

牌「それはめんどくさ……」

京太郎「待て待て、戦う約束しただろ! 俺が合格しなきゃ戦えねー」

牌「はいはい、わかったって。試験の日にトラブルがいくつも重なってギリギリ合格になるように祈っとくよ」

京太郎「受験生は丁重に取り扱え」

 泣きそうだった。

 帰り、将来の部長が合格祈願のお守りをくれた。泣いた。


中学三年生三月中旬

 試験日である。

京太郎(内申点は十分ある。学力も合格ラインは超えてる。実力を出せば受かる!)

 だが。

京太郎(腹痛ええええええええっ!!)

 京太郎の人生における一つ目のピンチが、彼に襲いかかっていた。

京太郎(くそぅ! くそぅ! 試験の日に緊張で腹痛になるとかいうありきたりな展開になるなんて!)

京太郎(ひねりがないぞ俺の人生! もしかしてこれ俺が清澄にいかない世界線なのか!? 嫌だ嫌だひでーよ!)

咲「だ、大丈夫、京ちゃん? 顔色ひどいよ」

京太郎「……咲は緊張してねーの?」

咲「うーん……私、あんまり緊張したことないから」

 でしょうね……。

 関わりの薄かったとき、京太郎は咲のことを少しポンコツな少女だと思っていた。

 しかし関われば関わるほど、知れば知るほど少女に対する見方が変わっていった。

 まず咲は他人に対して物怖じしない。自分から知らない人に話しかけるようなことは少ないのは確かだ。

 だが逆に話しかけられたときはたとえそれが誰であれ何の緊張感もなく接する。

 頭の回転が速い。会話をしていても、こっちの話したことに対し一手二手先を読んで返答する。

 そして驚いたのは体育の内申点が10であったことだ。

 しょっちゅう何もないところでこけているため、運動は苦手だと思っていた。

 ……正直な話、今でも体育の内申点が10であることが信じられない。

 あ、それに料理がうまい。これは素晴らしいことだ。毎日味噌汁飲みたい。

 そして何よりも特筆すべきなのはこの精神力である。

 さっぱりまったく緊張しない。緊張という感情を知らないのではないかと思うぐらいだ。

京太郎(……もう二ヶ月も咲と会話してる俺でも、まだ咲と話すときは緊張するってのに)

 咲は初めから緊張していないようだった。たいした対人スキルである。

咲「あうっ」

 こけた。平らな道で。

京太郎「だ、大丈夫か?」

 やっぱり体育の内申点が10あるのはおかしい。保健体育力がえげつないパターンか?

咲「右手ひねっちゃった」

京太郎「お……おいお前それはマズイんじゃ」

咲「どうして?」

京太郎「今から試験だぞ……文字書けるのか」

咲「あ、大丈夫! 左手で書くの得意だし」

 本当に無駄なところで超人だ。

咲「さ、京ちゃん! 早く行こう」

京太郎「そっちは清澄とは真逆の道だ」

 やっぱりポンコツなんじゃなかろうか。


 咲とは試験を受ける教室が違った。

友人「腹痛てーの、お前?」

京太郎「き……緊張で」

友人「ストッパ飲むか? 水なし1錠」

京太郎「さ……、さんきゅーゆーと。よく……持ってきてくれた」

友人「まあ京ちゃんならこうなるだろうなと思ってたからな」

京太郎「さすが伊東」

友人「エスパーじゃねえよ」

 一時間目、数学。

京太郎(薬が効くまで約20分……! 痛みの波は五分に一回! 四回耐えれば俺の勝ちだ!)

 五分。

京太郎(くそ……来やがった……!)

 詳しい描写をする精神的余裕はない。

 便意に耐えるために脳内でBGMを流す。

♪(深いー闇を俺は抜ーけー出した~疾風みたいに逃ーげー出した~)

♪(生きた屍みたいだった俺達は、ケツの外へ~またっ会おうぜ~便器のない場所で――!)

京太郎(便視点になってどうする俺! JASRAC申請不可!)

 十分。

京太郎(やべえ……パロネタしか思いつかねえ……。あきらめたらそこで云々ぐらいしか言うことがねえ……!)

京太郎(ジョジョネタ使っていいだろうか? いや、ジョジョネタ使いすぎって言われたらショックで立ち直れねえ!)

京太郎(ちくしょう、便意がここまで人間のアイデア力を損ねるなんてよぉ……!)

京太郎(助けて安西先生! 下剤先生に殺される! いや下剤飲んでねーよ!)

 十五分。

京太郎(今の俺を救える人はいない。頼れるのは自分だけ。これはまさにフリテンの状態……!)

京太郎(これがフリテン人生……! くっくっく、おもしれー……乗り切ってやろうじゃねーか!!)

 二十分。

京太郎「トイレ行かせてください」


 ――1科目終了。

京太郎「終わったあああああ! 数学得意なのに半分しか解けてねえええええ!!」

京太郎「もう俺、私立の龍門渕に行く! 《京太郎「龍門渕ですか?」衣「よく来たな!」 スレ》でまた会おう!」

友人「誰だよ衣って」 

 十五分間の休憩。本来なら次の教科の最後の見直しをしたり、リラックスしたりする時間。

 だがそんな気分にならない。

京太郎「どこか……落ち着ける場所……ないのか」

 見つけたのは自動販売機の隙間。人ひとり分しかないスペース。

 狭いとこがおちつくのってなんだろうねあれ。

京太郎「って、あれ? 先客か」

 そこにいたのはおそらく京太郎と同じ受験生の少女。制服から判断するに高遠原中学の生徒だろう。

京太郎(高遠原か……制服がものすごい百合っぽいんだよなぁ……何でだろう、白いからか?)

少女「タコス……タコス……」

 高須? 高須はいないよ。ちなみに自動販売機の隙間にいるヒロインは負けヒロインらしい。

京太郎「……数学、できなかったのか?」

少女「……うっさい」

京太郎「川嶋! お前がいなくなったらみんながっかりするぞ!」

少女「え……いや、カワシマじゃないじぇ」

京太郎「じゃ、逢坂?」

少女「いや、ぜんぜん違う」

京太郎「じゃ、なんだ」

少女「……片岡」

京太郎「下は」

少女「……優希」

京太郎「ま、優希ちゃん。元気だそーぜ」

優希「何だお前……なれなれしいな」

京太郎「まあまあ……いいだろ? 実は俺も……数学に殺されてな……」

京太郎「数学に殺された者同士、仲間じゃないか……はぁ……つらいやめたい消えてしまいたい」

優希「お、落ち込みすぎだじぇ」

京太郎「清澄高校受験生連続殺人事件――犯人は数学」

優希「東の高校生探偵――困惑」

京太郎「そういうわけで優希、俺にもここでリラックスさせてくれよ……」

優希「…………」

 無言を同意と受け取り、優希の近くに座る。

京太郎「さっきうわ言のように高須高須呟いてたのは何だったんだ」

優希「クリニックじゃない、タ・コ・スだ!」

京太郎「タコスがどうしたんだ」

優希「ここの食堂にはタコスがあるんだじぇ……それ目当てに清澄受験したのに……このままじゃ、ううっ」

京太郎「それ目当てに受験って」

優希「むっ、悪いか」

京太郎「いや、俺も似たよーなもんだし」

優希「そ、そうか」

 ちなみに俺は咲と図書室目当てである。

京太郎「……なんか俺達、いろいろ似たもん同士だな」

優希「いきなりなんだじぇ」

京太郎「まだ四教科ある」

優希「……うん」

京太郎「受かって、一緒に食堂で飯食おうぜ」

優希「……うん、やってみる…………じぇ」

 教室に戻る前にトイレに入る。個室は3つ。一番奥にある個室に小走りで駆け込む。

京太郎(恥っずううううううううぅぅぅぅぅぅっ!!)

 咲とはまだ食堂で飯食う約束できてないのに! 初対面の女の子誘っちゃったよ!

京太郎(でもなんか放っておけなかったんだよな……)

 それは優希が自分と似たような境遇に陥っていたからだろうか。

京太郎(ま、いいや。残り時間を使って優希で百合妄想を……)

京太郎(……………………………………………………)

京太郎(……………………あれ)

京太郎(どうしちまったんだ俺の前頭葉? 発達し過ぎて怖いと医者に言われた俺の前頭葉。何も……何も思いつかない)

京太郎(咲のことは好きだけど、それでも咲を使って百合妄想は出来た)

京太郎(百合男子な俺と一般男子な俺は共存してるから)

京太郎(なのにどうして優希じゃ百合妄想をできない?)

 ルックスの問題か? いやいや、むしろルックスに自信がない少女と美少女の百合ってかなりそそる分野だし。

 格好の問題? 高遠原の制服は百合のための制服だぞ?

京太郎(もしかして百合妄想できないあいつこそが)

 ――俺のお姫様なんじゃないだろうか?

京太郎(違う違う違う!!)

 トイレの個室からダッシュで抜け出す。

 そのまま廊下へ飛び出て――一応手を洗っとくべきだと思い直してトイレに戻り手を洗い。

 咲のいる教室に向かった。

京太郎「咲!」

咲「ぅわわ!? どうしたの京ちゃん」

京太郎「……お姫様」

咲「へ?」

京太郎「残りのテストも頑張れ、俺のお姫様!」

咲「なにが姫だ」

京太郎「応援してるぜ、ピーチ姫!」

咲「さらわれてない」

京太郎「じゃあまた後でデイジー姫!」

咲「誰がモブだ」

 そのあとの教科はストッパが効き始めたのか順調だった。ストッパはすごい。

 12錠入りなら薬局に行けば千円以下で買えると思うので是非。

 五時間目、国語。試験開始の合図を聞いた京太郎は一息深呼吸。

京太郎(いける……これはいけるぞ! この国語でヘマをしなきゃ、俺は受かる)

 問題の表紙をめくる。

京太郎(小説は……ウンター・デン・リンデンの薔薇?)

 よかった。「薔薇」なのだから百合とはまったく関係ない話だろう。

 もしここで百合ものの話とか出たら大惨事。テストそっちのけでSS速報にスレ立てして百合もののSSを書いてしまうところだった。

京太郎(さて、まずはざっと読んでみるか)

 ゆりーんれずーんゆやゆよん。

 結果。

京太郎(百合ものじゃねーか!!)

 途中でエスから男役女役に分かれるとはいえ、完全にレズビアン。薔薇という言葉の筋ひっかけに惑わされ、見事な振り込み。

京太郎(イェスイェスイェス! スレ立ての時間だ、コラァ!!)

 今まさに二次創作を開始しようとしたそのときだった。

京太郎(……ダメだ)

 今までどんな思いで勉強してきたと思っているんだ。

 動機は咲を追いかけるという不純なものだ。だが真剣だったのだ。

 足りない成績を唯一自分が誇れる根気で底上げし、ようやくここまでやってきたのだ。

 その積み重ねを無駄にしていいはずがない。

京太郎(それに今日は……SS速報恒例である月一の鯖落ちの日! どっちにしろ書き込みは出来ない!)

京太郎(書き溜めなんてめんどくさいことはやらねーし)

 だから目の前の問題を解くしかないのだ。 


 試験終了後。

友人「えーっと……どうだったよ」

京太郎「まさか……古文に清少納言と中宮定子が出てくるとは……百合じゃねーかもうあんなのよぉ」

京太郎「しかも論説文まで同性愛の話……概ねは著者に同意できたけど一部どうしても相容れない部分があったぜ」

京太郎「今すぐ会談の場を設けていただきたい」

友人「めんどくせーな百合男子」

京太郎「はっきし言って異常だ今年の長野県。百合だらけじゃねーかすばらしい」

友人「……で。受かるのか」

京太郎「わ……からねぇ。ギリギリな気がする」

友人「は……はは……今日のことは忘れてパーッと遊ぼうぜ」

 特に仲の良い友人5人で集まってカラオケパーティーを敢行。

 ゆりゆららららゆるゆり大事件はこの日に歌うために創られたのだと思う京太郎だった。

 そして迎えた合格発表日。

京太郎「咲ー」

咲「おはよう、京ちゃん」

 二人は一緒に合格発表の場へ行くことになった。

 正直なところ落ちている可能性はそこそこあるので一緒に行くべきではないのかもしれない。

 せっかく咲が受かっていても俺が落ちていたら、彼女は気を使って喜べないだろうからだ。

京太郎「自信、あるか」

咲「うーん……一応、できたと思うけど」

京太郎「受かる確率はどれくらいだ?」

咲「ビックリした人が心を落ち着かせようと素数を数えるときに、まちがえて奇数を数える確率と同じくらい、かな」

京太郎「ほぼ100%か……すげー自信」

咲「京ちゃんは? どれくらいの確率で受かると思ってるの?」

京太郎「邪気眼と中二病を正しく使い分けてる人の割合と同じくらい」

咲「10%……もっと自信を持っていいと思うけど」

 発表の時間は10時。

 現在の時間は10時10分。

 混雑を避けるために少し時間をずらした。

京太郎「……行くか……」

 ここで運命が決まる。

 もし受かっていたら――そろそろ決着をつけよう。

 叶わないとわかっているけど、咲に気持ちを伝えよう。

 そういう思いで京太郎は校門をくぐ――。

友人「おっす、京ちゃんに咲ちゃん! よかったな二人とも受かってて。なんか知らんが感動しちまったぜ」

 ――る前に、人生で最高のネタバレを喰らった。

京太郎「」

咲「あ、そうなんだー、よかった」

京太郎「え」

友人「おっと俺のことは心配するな。もちろん俺も合格だ」

京太郎「お、おい」

咲「よかった、また一緒の学校に通えるね、京ちゃん!」

京太郎「あ、はい、ソウデスネ」

 現実なんてこんなものだ。

京太郎「……しまらないよなぁ」

京太郎「……俺らしいといっちゃ、俺らしいのか、これ」

 予想外のことは起こったが、それでも一度決めたことだ。

 京太郎は咲を例の小さな神社に呼び出していた。

京太郎「ここも、久しぶりだな」

咲「あの神頼み、無駄じゃなかったね」

京太郎「ああ、2つも願い事がかなったしな」

 その日はきれいな夕日だった。

 夕日で染まった咲はどこか神秘的で、手が届かないところにいるようだ。

 こんなに近くにいるのに、咲との距離は遠かった。

咲「……この前は教えてくれなかったけど、今日は教えてくれるんだよね」

京太郎「…………」

咲「京ちゃんがした、1つ目のお願いごと」

京太郎「……そのつもりだ」

 咲との関係に、特別な何かはない。

 命を救ったとか、結婚の約束をしたとか、そういうわかりやすいものなんて、あるわけがない。

 だから、かっこいい言葉なんて思いつかないけど。

京太郎「――咲。俺は、お前のことが――」

 森が揺れた。

 その日、京太郎の一度目の恋は終わりを告げた。

 しかしそれは新しい恋への始まりで。

 咲への想いは、まだ消えていなかったけど。

2・終