京太郎(うぅー、さっぶ。こんな寒い日に部活やっても風邪引くだけだっつーの)

ガチャッ

京太郎「こんちわ――ってあれ」

まこ「すぅすぅ」

京太郎「……」

まこ「すぅすぅ」

京太郎「……染谷先輩?」

まこ「すぅすぅ」

京太郎「寝てんのか」

京太郎(なんだよ。腕組んで目ぇつぶってるから怒ってるように見えたじゃねーか)

京太郎(寝るならベッドで眠ればいいのに……椅子で寝るとか器用な人だな)


ヒューッ!

京太郎「うおっ!さむっ!」

京太郎(まったく、勘弁してくれよ。ただでさえボロっちくて室温一五℃の世界なのに……)

まこ「すやすや」

京太郎「……」

京太郎(染谷先輩、寒くねえのかな。……こんだけ寒いと寝ながら風邪引いちまうかもしれねーよな)

京太郎「毛布でもかぶせておくか」


ガサゴソ

京太郎「あったあった」

まこ「へ、へっくしょい!」

京太郎「!!」

まこ「うーん……Zzz」

京太郎「な、なんだよ。ビビらせんなよ……。突然くしゃみするから驚いちまったじゃねーか」

京太郎(でもそーだよな、くしゃみするほど寒いってう染谷先輩の意思表示かもしれねーな。寝てるけど)

京太郎(そもそも冬に生足さらけ出す女子って、一体なんなんだろうな。寒くねーのかな)

京太郎(まあ、俺視点から言わせてもらえば、冬にも女子高生の生足を眺めれるのは感謝すべきことなんだろうけど)

京太郎「……」

京太郎「そう考えると、女子ってすげーな」

京太郎「おっと、そんなこと考えてる場合じゃなかったぜ」

京太郎「染谷せんぱーい、毛布かけるんで大人しくしててくださいねー」

まこ「Zzz」

京太郎「……よし。これで完了、っと」

京太郎「ん?」

京太郎「そういえばなんかおかしいなって思ってたら、染谷先輩、メガネ外してたんだな」

京太郎「そうだよな。寝ながらメガネかけるやつなんていねーよな」

まこ「Zzz」

京太郎「……」

京太郎(染谷先輩のメガネの度数ってどんくらいなんだろ)

京太郎(毛布をかけたお礼ってことで、ちょっと借りていいかな)

京太郎「染谷せんぱーい」

まこ「Zzz」

京太郎「すんません、少しばかりこれお借りしますねー」

まこ「ぐぅぐう」

京太郎「……沈黙は了解と受け取っておきます。大丈夫、壊さないんで安心してください。一、二分借りるだけですから、っと」スチャッ

クラッ

京太郎「うおぉおっ!?」

京太郎(うっわ、結構キチーぞこれ。視界がぼけぼけじゃねーか)

京太郎「えっと、鏡はどこだ、鏡は」


┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛……


京太郎「ん?」


バーンッ!

優希「どおぉおおおおおおおおおおおん!優希ちゃんの登場だじぇーい!]

優希「みなのもの、私にタコスをよこすのだ!ありったけのタコスをーっ!」

京太郎「しーーーーーーーーっ!!」

優希「へ?」

京太郎(あれを見ろ、あれを)

優希「あれって……染谷先輩?」

京太郎(うんうん)

優希「あっ」

まこ「Zzz」

京太郎(わかったか?染谷先輩はお疲れで今熟睡中なんだよ、大人しくしてあげなさい!)

優希「……」ジトーッ

京太郎(どうした?俺の顔になんかついてるか?)

優希「……メガネ男子?」

京太郎「……ああ、そういうことね」

優希「犬、お前って視力悪かったのか?それとも合宿の時に咲ちゃんからもらった目潰し攻撃が今頃お前の視力を奪ったのか?」

京太郎「両方ちげーよ、ってなんだよその超遅効性の恐ろしい攻撃は。そんなのくらった覚えねーぞ」

優希「ふっふっふ、ならばもう一度くらってみるかい、ぼーず!」

京太郎「断る!」

優希「そう言うと思ったじぇ。安心しろ、犬!今のは100%ウソで塗り固められたメキシカンジョークだじぇ」

優希「実際はあと100年以内にお前の命を確実に奪う――」

京太郎「はいはい。お前の超がつくほどおもしろくもない戯言にはもう付き合いきれんわ!」

優希「な、なにぃっ!?」

京太郎「それよりどうだ、きまってるだろ、俺の顔。インテリに見えるんじゃないか?」

優希「……え、えっと///」サッ

京太郎(おっ、照れてんのか?目ぇそむけちゃって。少しはカワイイとこあんじゃん、タコスも)

優希「インテリってなんだじぇ?」

京太郎(……そっちか)ズルッ

京太郎「お前に聞いた俺がバカだったわ。すまん、今のは忘れてくれ」

優希「な、なんだとっ!?犬、お前は今私を愚弄したのか!?」

京太郎「愚弄って言葉は知ってんのになぜインテリを知らないのか、俺には甚だ疑問だよ」

優希「黙れ黙れ黙れーっ!あーもう、むかついたじぇ!お前のそのひねくれた性格、矯正してやるじぇ!」

京太郎「やるかぁ~?このちんちくりんめ」

優希「くらえっ、ドンタコスタックル!」


ドンッ!

京太郎「ぐふっ!」

カチャンカラカラカラ←メガネの落ちる音

京太郎「あっ」

優希「死ね死ね死ね死ねーーいっ!犬なんかゴートゥーザヘルだじぇ!」

京太郎「おいバカ、やめろっ!メガネ落としたんだ!暴れんな、アホタコス!」

優希「うるさいうるさいうるさーーーーいっ!それに私はアホじゃなーーいっ!!ちょっと点数計算が苦手なだけだじぇ!」

京太郎「ウソつけっ!お前期末テストで赤点ばっかりだったろーが!誰がお前の追試の面倒を見たとおもってやがる!」


ガチャッ

咲「おはよーございます――ってうわぁ!京ちゃんと優希ちゃん!?」


グチャリッ!

京太郎「!?」

咲「えっ」

京太郎「あっ……あぁああああああああああああああああああ!!」

優希「ん?」

まこ「うぅーん……なんじゃぁ、騒がしいのう……」

京太郎「!!」

京太郎(染谷先輩がこのタイミングで起きただとっ!?なんという悪運!)

咲「うわわっ、誰かのメガネ踏んじゃったよ!ど、どうしようー、京ちゃん、優希ちゃん!」

まこ「んっと……あん?メガネはどこにいったんじゃ、ワシのメガネは……」

まこ「んー……?」←目を細めるまこ

京太郎「」

優希「あっ、染谷先輩。おはようだじぇ」

咲「あわわわわわ」

まこ「……それ、誰のメガネじゃ」

京太郎「……」

優希「そういえば犬、これ誰のメガネなんだじぇ。お前のか?」

京太郎「」フルフル

まこ「なあ、それ、ワシのメガネじゃろ。……咲か?咲が踏み潰したんか?」

咲「す、すみません!私、今やってきたとこなんですけど、部室に入ろうとしたらメガネが目の前に落ちてて……!!」

まこ「ほう……」

まこ「今やってきたってことは、メガネを持ち去った人物は咲じゃないようじゃな」

優希「えっ、これ染谷先輩のメガネだったのか?」

まこ「そうじゃけぇ……。なるほど、今ので犯人は優希でもなさそうじゃのう」

京太郎「」

まこ「……お前か、京太郎」

京太郎「」

まこ「なあ、黙っとるとわからんじゃろ。……はいかいいえで選べ。お前がやったのか?」

京太郎「……はい」

まこ「……」


ノシノシノシノシ

まこ「……」

京太郎(ヒ、ヒイッ!染谷先輩、ぜってーキレてる!俯いてて顔よくみえねーけど、オーラでわかるぞ……!)

まこ「……」

京太郎「す、スンマセンっしたああああああああ!!俺が悪いんです、弁償するんでどうか許してくださいっ!!」

まこ「…………」

京太郎(とりあえず目をつぶって、歯を食いしばるんだ、俺っ!)

京太郎(そして10発のグーパンチは覚悟しろ!)

京太郎(それくらいで染谷先輩の怒りが静まると思えば安いはず!)

京太郎(さあ、こいっ!)


カチャリッ……カチャリッ……

京太郎(……!!)


カチャリッ……カチャリッ……

京太郎(……ん?)

京太郎(なぜ殴ってこないんだ。いつもの染谷先輩なら今のわずかな時間で、10発は軽く打ってくるだろうに……)


ヒッック……ヒック……

京太郎「えっ」


目を開くと、咲の足下で染谷先輩がコナゴナになったレンズと、フレームを拾い集めていた
俺は、なにがおこったかわわからないような顔をして、ただ呆然と彼女を見下ろしていた
そして、彼女はそれらを全部拾い集めると、俺の方へ向き直って涙声で、
「最っ低じゃ……」と言い残し、部室から去っていった。

その言葉はグーで何発も殴られるよりも、重く、冷たく、俺の心をえぐっていった。
甘かった。
殴られてすんで終わりだと思った自分が恥ずかしくて、自己嫌悪におちいった。
最っ低、か。まったくだ。女の子を泣かしてただ立ち尽くす俺は本当にクズで最低野郎かもしれない。


優希「きょ、京太郎……その、ゴメンだじぇ……私がお前にタックルしたばっかりに……」

京太郎「……っ!」


なんでお前が謝るんだよ。俺が染谷先輩のメガネを持ちだしたのが原因なのに……。
こういう時だけ、しんみりするのはやめてくれよ。俺が余計に惨めになるじゃねーか。


咲「ご、ごめんね……私がおっちょこちょいで染谷先輩のメガネをふまなければ……うっ、うぅうう」

京太郎「ち、違う!俺が全部悪いんだ!咲、お前は悪くない!」


そして、言葉にしてから気づいた。
俺はもう一人の女の子を傷つけてしまったことに。
咲は、きっと自分のせいで染谷先輩を泣かせてしまったと考えてる。
自分一人で罪を背負おうとしているんだ。だから彼女は涙を流してるんだ。


咲「ううん、私が、悪いのっ……! 私が、染谷先輩、をっ……!」

優希「咲ちゃん……」

京太郎「……」


さっきまで吹いていた木枯らしはまったく顔を見せなくなり、
部室には咲の嗚咽だけが響きわたっていた。
それから何分経っただろう。
咲が泣き止むのを待ってると、思わぬ客が来訪した。


久「ハローエブリワン!いやー、久しぶりねー、みんな!」

京太郎「部長……」

久「やーねー、須賀くん。あたしはもう麻雀部引退したから元部長よ。それか竹井先輩!」

咲「うっうう……」

優希「……」

久「……って、あれ?もしかして今、お取り組み中?」

久「あたし、おじゃまかしら……?ゴメンなさいね、また別の日に改めて訪ねるわ、あははは……」

京太郎「部長!」

久「だから、あたしは元部長、もしくは竹井先輩――じゃなくて、なに?須賀くん」

京太郎「俺っ……俺っ!」


俺は弱い人間だ。
久しぶりに部長の姿を見てすぐに頼ってしまった。
目の前に泣いてる一人の少女を慰めることもできずに。
咲から逃げるようにして部長にすがってしまった。
俺が事の顛末を話すと、部長は「あらら……」と呟き、一度大きくため息をついた。
そしてわざとらしく咳払いをして間をとると、俺の知らなかった事実を部長は話してくれた。


久「まこのメガネはね、おじいちゃんから譲り受けたものなのよ」






俺は弱い人間だ。
その後、部長から事の顛末を聞いた俺は自分のしでかした罪科を前にして怖気づいき

自宅に引きこもりニートになった。

清澄の麻雀部は空中分解の憂き目にあい、彼女たちの輝ける高校生活は露と消えた
あぁ……今日はこんなにも、月が綺麗だ


カン