白糸台には王者としての責任と矜持がある。
大会が近づくに連れて練習内容はより濃密に、より加熱していくようになる。
大会出場者ではない京太郎であったが、だからといって練習をしなくていいわけではない。
むしろ周りが加熱していっているのに当てられて、京太郎も自然と練習に熱が入っていく。

気がつけば日も暮れて、菫の合図とともに意識を帰宅に向けると、思った以上の疲労が全身に積もっているのが分かった。


京太郎「あー、今日は疲れたなー」

淡「あーもー、どうしてこの私がここまで練習しなきゃいけないのよー」

京太郎「うるさいぞ一年生。そんなこと言いながら楽しんでいたじゃないか」

淡「100年生ですー。麻雀は好きだけど練習は嫌いなのー」


この場合どう違うんだと京太郎は思ったが、雀卓に突っ伏してぶーたれている淡を見ていると
突っ込むのも無粋だろうと思ってそのままにした。
疲労感で頭が重い。京太郎も淡に倣って机に突っ伏したくなったが
みっともないし怒られそうだから我慢して帰宅の準備をする。


菫「おい、大星。グダグダしてないで帰る支度をしろ、遅くなっちゃうぞ」

淡「うにゅー、スミレがこんな時間までするからでしょー」

菫「まぁ、それは仕方ないと思ってくれ」

京太郎「全く、淡は。ほら、鞄持ってきたぞ」

淡「おー、くるしゅーないぞきょーたろ。ついでにお菓子なぁい?」

京太郎「ねぇよ」

菫「疲労時の糖分摂取は確かに悪くない。うん。悪くない。疲れてるし、うん、仕方ないよな……」

京「持ってませんよ?」

菫「そうか……」

淡「テルーから貰ってきてよー」

京太郎「えー、くれるかな? てか淡が行けよ」

菫「いいアイディアだ。大丈夫、須賀ならいける。私達よりも須賀が行けば確実だ」

京太郎「ちょ、照さんそこまでケチじゃないですよ?」

菫「それは分かってる、だが私や大星が行けば少ししかくれない。須賀が行けば袋ごとくれる」

照「多分私は今ひどい侮辱を受けている」

京太郎「あ、照さん」

照「あげるから。言ってくれればちゃんとあげるから」


そう言うと照は鞄からポッキーの箱を取り出し、封を開けると、
二袋入っている片方を菫に渡し、残った方を開けてポリポリと噛りだした。


菫「ありがとう照。照様」

淡「私にもちょーだいよ~」

照「菫に分けてもらって。で、はい、京ちゃん」

京太郎「ありがとうございます……って、え?」


差し出されるポッキーを受け取ろうとしたら照はなぜかそれをさせないように手を引っ込めた。
京太郎が戸惑っていると、中途半端に伸びた京太郎の腕を避けるように、ポッキーが眼前に再び差し出された。


照「ん」

京太郎「て、照さん……」

照「早く。手、疲れる。ん」

京太郎「えっとー。はい、ありがとうございます」


急かされ、仕方なく京太郎は差し出されたポッキーを口にする。
さり気なく淡の方を確認してみると、先程までダラダラしていたのはどうしたのか、
ガタンと音を立てて立ち上がり、照に食って掛かった。


淡「テル! 何してるの!」

照「? お菓子あげただけ」

淡「フツーに手渡せばいいでしょっ。きょーたろは私の彼氏なんだよっ?」

照「知ってる。ごめん、ついやっちゃった」

淡「や、やっちゃったって……」

照「昔の。長野にいた頃の癖で」


ただの癖だから気にすることはない。
そう言われてしまうと淡としても何も言えなくなる。
照と淡では京太郎に対する年季が違う。

そうやって昔の名残まで束縛するのは淡としても本意ではないし、相手を締め付けるような恋愛はしたくない。
だが照はそれを分かっているのかいないのか、時折こうして容赦なくそこを突いてくる。
京太郎には淡という恋人がいるし、私自身気にしていないんだけどーという態度を取りつつ、
京太郎にアプローチという他ない行為をするのだ。

淡の髪がふわりと浮いてきた。何か言い返したいけど何も言い返せず、
鬱屈が溜まっているんだろうな、と京太郎は察した。いつものことだ。
京太郎が照に対してもっと線引をするべきなのだろうが、
困ったことに京太郎もあまり深く考えずに照のことを受け入れているので始末に負えない。
何はともあれ何もしない訳にはいかない。


京太郎「うっし、とりあえず帰ろうぜ淡」

淡「うー。でもぉ」

京太郎「さっさとしないと置いてくぞー」

淡「あ、待ってよきょーたろ~」


京太郎が淡の鞄も持って出てしまったので必然、淡も京太郎についていくしかない。
一瞬照に恨みがましい目を向けたが、京太郎に駆け寄って追いつくと、
その腕に抱きついてぶら下がるように身を寄せて歩いて行った。


菫「……修羅場に置かれる身にもなってくれ」

照「…淡が気にしすぎ」

菫「そうかぁ? 照も遠慮が無さすぎだろう」

照「昔からやってきたことなのに邪推するのはおかしい。淡が京ちゃんが信じきれてない証拠」

照「京ちゃんが淡をフォローしきれてない証拠」

菫「ほぅ、恋愛未経験者だと思っていたが、照からそんな言葉を聞けるとは」

照「経験ならある」

菫「なんだと!?」

照「たくさん読んできたから」

菫「さて、帰るか……」


一方、帰り道を歩いている京太郎と淡。相変わらず淡は京太郎の左腕にぶら下がるように抱きついて離れない。
京太郎は淡に選ばれたと思っている。淡は見た目は可愛いし、不遜な態度も見方によっては愛嬌がある。
基本的に人懐っこいし、そのくせ麻雀の腕は恐ろしく強いのだから、相当モテただろうと思っている。
そんな雲の上の相手が凡夫極まりない自分と恋人なので、京太郎は「選ばれた」と思っている。

対して淡は、京太郎という難攻不落の要塞を陥としたとは全く思っていない。その防壁にようやく指をかけた、
程度にしか思っていない。淡はモテるか? 区分するならモテる方になるが、京太郎が思うほどではない。
それよりも京太郎のほうがよっぽどモテる。高倍率の競争をかいくぐって淡は京太郎の彼女の座を手にしたのだ。
淡の目から見れば京太郎は選り取り見取りの摘み放題なのだ。強く出すぎて機嫌を損ねるようなことは、絶対にしたくない。


京太郎「淡ー、いい加減ちょっと重い」

淡「重いってゆーなー」

そう言いつつ淡は素直に京太郎から身を離す。腕は組む程度にとどまり、二人は並んで歩いている。

淡「ねぇ、きょーたろ。私、重いかなぁ?」

京太郎「え? いや別に重くないんじゃないか。そりゃ片腕で支え続けるには辛いけど、それが出来る時点でむしろ軽いと思う」

淡「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


淡と京太郎では重いのニュアンスが違うようだ。
察せなかった京太郎に対して淡はこれ以上話を続けるかどうか悩むのに対し、
言い淀んでいる淡を見て京太郎は何を考えたのか、淡の前に進み出て背を見せてしゃがみこんだ。


淡「へ?」

京太郎「重くねーから。ほら、おぶされ」

淡「え? へ? なんでそうなんの?」

京太郎「いや、淡が気にしてるみたいだし」

淡「だからそういう意味じゃ……ていうか何でおんぶなの? 恥ずかしいよっ」

京太郎「う、そうか。いや、さっきからなんだか疲れてるみたいだしさー」

淡「それはそうだけど、おんぶはないよ」


選択肢を間違ったか。いくら何でも突飛すぎたかなと後悔する京太郎。
しかし体重を気にしてる淡に対して他にフォローが思い浮かばなかったのだった。
京太郎は立ち上がり、バツが悪そうに適当に言い訳をする。


京太郎「そか、悪いな。へへ、慣れないことはするもんじゃないね」

淡「……テルーにも」

京太郎「ん?」

淡「テルーにも、こういうことするの? その、昔みたいに」

京太郎「しないしない。そりゃ怪我とかしたんなら話は別だけど……その……淡だからするんだよ」


思いがけず。
思いがけず、淡が聞きたい言葉をスラっと出す。
淡だから。
トクン、と一つ高鳴りとともに淡は思わず一つ、前に踏み出した。


淡「じゃあ、して」

京太郎「え?」

淡「おんぶ、して?」

京太郎「いいのか?」

淡「うん……してほしい。きょーたろ、だから」


お返しとばかりに淡も言う。
相手の存在そのものを動機とするその言葉、なるほど中々心にクルなと、京太郎は胸の高鳴りを自覚する。
背中に相手の重みを感じ、両手に足が乗ったのを感じて京太郎はスックと立ち上がった。


京太郎「うわ、軽いな淡」

淡「そ、そう?」

京太郎「もっと食べたほうがいいんじゃないか?」


と、おもわず京太郎は淡のほっそりとした太腿を撫で回した。
それは暑さによるものかそれとも緊張によるものなのか、少しだけ湿っているようなそんな摩擦があった。


淡「ふっきゃう! きょ、きょーたろ、なにしてんのよ!」

京太郎「ごめん! つ、つい……」

淡「もう、いいよ……。あの、きょーたろは、もう少し、もちもちしたほうが好き?」

京太郎「え?もちもち?あ、あぁ、その、好きか嫌いか以前に、淡は痩せ過ぎじゃないかなって思っただけだ」

京太郎「太ってるかどうかは関係ない」

淡「そう……。きょーたろは、がっちりしてるね」

京太郎「まぁ、男だしな」

淡「鍛えてるの?」

京「運動が嫌いなわけじゃないけど、特別なことはしてないなぁ」

淡「そっかぁ」


女所帯の麻雀部に居続けたせいか、あまり異性と深く交流のなかった淡にとって、やはり男の体は物珍しい。
軽々と自分を持ち上げられたことも、この思った以上に大きくてたくましい背中も。短いこのお揃いの金髪も、ほのかに香る体臭も。

知らなかった。
京太郎のこの感触も匂いも普段何しているかも好きも嫌いも。
全く恋人らしい会話をしてきていなかった。
淡も京太郎も、互いのパーソナルを把握していなかった。
それがわかると、淡は喉から切ないものが込み上がってくるのを感じた。


淡「きょーたろ~」

京太郎「なんだ~」

淡「好きぃ……」

京太郎「…………」

淡「大好き……」

京太郎「俺も、大好きだよ淡」


淡は京太郎の首に回している腕を少しきゅっと強めに抱きしめた。背中に顔を埋め、声が自然と涙声になる。
こんなに相手のことを知らないのに、どんどん気持ちが溢れてくる。情けないのに愛おしくてしょうがない。
京太郎もまるで哀願するかのような淡の切ない告白を聞いて、自分を殴りたくなっていた。

淡から選ばれた? 雲の上の相手? そう思い続けて煮え切らない態度をして、
挙げ句の果て淡を差し置いて他の女ともなぁなぁの付き合いをして。
淡と付き合ったのはどうしてだ? 告白されたから? 違うだろう、好きだから恋人になったんじゃないのか?
俺は、今まで淡に恋人らしいことをしてきたか? 遠慮ばかりして、淡は今までずっと待っていたんじゃないのか?


京太郎「淡ー」

淡「なによぅ」


踏み出さなければならない。自分の気持を。
きちんと、もっと誠意を込めて応えなければならない。淡の気持ちに。


京太郎「顔、上げろよ」

淡「むー」


心臓がバクバク暴れまわってうるさくて仕方ない。心臓に、ジャマをするなと言いたい、少しは静かにしろと。
淡を支えている手が湿り気を帯びてきているのが分かる。口の中がどんどん乾いてきて、瞬きも急速に増えてきている。
行け、行くんだよ、意気地なし野郎。女を泣かせて恋人気取り、まったくもってふざけるんじゃねェ。


京太郎「キス、してぇ」

淡「ふぇ」


京太郎は立ち止まる。淡に向かって振り返る。今までかけられなかった言葉の何倍の気持ちを込めて、ひたむきに彼女を見つめる。
淡は驚く。ぼうっと京太郎を見つめる。微かに感じる彼の震えやその緊張した面持ちを見て本気なのだと実感する。
淡は肩に乗せている手をぐいっと押し付け、京太郎の手に乗せている足も踏ん張って、身を乗り出して京太郎に顔を近づける。
吸い込まれるように、二人の唇が触れ合う。


京太郎「ん」

淡「ふ。んっ」


数秒。そして離れ合う。至近に迫った互いの瞳がそこにある。
京太郎の目には淡しか映っていないし、淡の目にも京太郎しか映っていない。
歓喜が膨れ上がる。


京太郎「もっと」

淡「きょーたろーーっ」


位置関係の都合上、京太郎から淡に迫れないのがもどかしい。京太郎は淡に催促しか出来ない。
だがその催促こそが淡を堪らなくさせる。今まで閉じきっていた城門が誘うように開かれているのだ。

淡は重心を上の方へずらす。おぶさると言うよりはのしかかるように、
京太郎の腰に重心を置く。すると淡は腰から上の動作範囲が大きく広がる。
肩においていた手を、まるで抱きかかえるかのように京太郎の頭に回す。
もう二度と逃さないとばかりに、強く抱きしめ、それ以上の気持ちを込めて京太郎の口に吸い付く。


京太郎「ん、ぷ、むぅ、ふぅ」

淡「むぅ、うー、あむ、まむ」


甘噛するように何度も互いの唇を啄む。もどかしさばかりが募っていた今までを払拭するが如く。


京太郎「ちゅ、は、むぅ、れろ、ちゅる、あぅる、れう」

淡「ん、む、はぁ、るる、ぅる、くちゅ、りゅる」


高まる気持ちを満足させ続けていれば、互いの口が開き、舌の交換が始まるのは当然の事だった。
唾液の交換は想いの交換であると言わんばかりに、二人の舌は躍動し、口内を蹂躙し合った。


京太郎「んー………むー………」

淡「ちゅ………ん………」


そしていつしか二人は唇を半開きのままピタとくっつけあい、空気すら漏れないその密室の中、静かに互いの舌を舐め合うようなった。
それを、いつまで続けただろうか。時間を忘れた代償は、淡の疲労だった。
乗り出す姿勢に疲れ、淡は「ごめん」と呟いて残念そうに口を離して、京太郎に身体を預けなおした。
興奮冷めやらぬ二人。しばし荒い息のまま立ち尽くすと、京太郎は歩きはじめた。背中に淡の鼓動を感じる。


京太郎「俺さ」

淡「うん」

京太郎「もっと大事にするから」

淡「…うん」

京太郎「ホント……」

淡「……」

京太郎「淡のこと、好きなんだよなぁ」

淡「……私も、だよ?」


まったく。まったくこの男は。
どこまで胸を切なくさせればいいのか。
唇が寂しい。この鬱積した思いを伝えきるのに、あの程度のキスではまだまだ足りない。
淡は、せめてとばかりに京太郎の項に唇を這わした。


淡「きょーたろ~……」

京太郎「くすぐってぇ」


京太郎はそうは言うものの、その声の響きに喜色が滲んでいるのは隠しようがない。
淡はそれに気を良くして唇だけでなく、歯を使って齧ったりしてみる。


淡「あむ、あむ」

京太郎「なんですかー淡さんは甘いさんでしたかー」

淡「かぷかぷ。ふふ、どーだろーね」

京太郎「それともあわニャンですかー。いや、ゴロが悪いな。あわワン。うん、淡って犬っぽいし、あわわんの方がいいかな」

淡「どこが犬っぽいよ」

京太郎「うーん。強いて言うなら……髪?」

淡「髪?」

京太郎「あぁ。さっきから腕に巻きついたりうねうねしたり、動きが激しい。どうなってんのこれ?」

淡「うぇぇ!? ばっ、どこ見てんのよ!」

京太郎「ぃって」


感情がそこに現れてるとは思いもしなかった淡。照れ隠しに強めに噛んでしまった。
とはいえまだ甘噛の範疇だ。ただ不意打ち気味になってしまっただけで、京太郎としては驚いてしまっただけである。
しかし淡はそうは取らなかったようだった。


淡「あ、ごめん! きょーたろ……痛かった? ごめんね……ん」


一転、しおらしく謝って、痛みを紛らわそうとしているのか、噛み付いた部分をペロペロと舌で舐めはじめた。


京太郎「いや、別に大して痛くないんだけど……」

淡「ん。れも、ごへんね」

京太郎「ちょ、ちょっと、淡」


しつこいくらいに肌を舐めていた淡だが、彼女の中で昂ぶるものがあったのか、だんだんその範囲が広がってきていた。
首筋を集中的に舐めていたのが、項、背中と来て、鎖骨まで行き、今では耳を咥えられている。
京太郎の耳に、直接。淡の艶めかしい舌の動きが、その粘ついた音が、伝わる。


京太郎「う、く。淡、やばいって」

淡「んー。はにが?」

京太郎「その……やばいんだって」


この刺激によってもたらされる昂ぶりは、女にとって危険なものだ。
事実、京太郎は腰が熱くて疼いて、段々臨戦態勢を整えつつあるのを自覚している。
先ほど大事にしたいと誓ったのに。


京太郎「このままじゃ……淡を大事にできなくなる」

淡「んー? ほーゆーほとなのかなー?」


京太郎は耐えようとしているが、淡はすでに完全に恍惚として、京太郎を味わうことに余念がない。
気の抜けた淡の言葉に、京太郎の抑圧感も抜けて出て行く。
頭がボゥっとする。少し投げやりな気分だ。
このまま突っ走ってもいいのか? いいだろう、淡はもう突っ走ってる。
弱い思考でそう言い訳し、京太郎は淡の足を支えている手を、その腿の内側内側へと這わせていく。


淡「ん、あ、その、きょーたろ?」


敏感な部分に手を添えられ、流石に淡も口を離して反応せずにはいられなくなる。


淡「きょー、そこは、あ、えっと」


戸惑う淡をよそに、京太郎の手はついに淡のパンツの縁に触れる。
この奥、数センチの先に。淡の、禁断の領域がある。
それを思うと、いよいよ京太郎の頭と腰に、静止の効かない暴熱が宿る。
少し止める。いいのかな? と思う。しかし触れたことに対して淡はリアクションをしたが、
止めたことにリアクションをしないので、このままいいか、と判断する。


淡「あ、んっ……!」


下着の下に指を潜り込ませると、真っ先に感じたのは信じられないくらいの熱さと、ぬめりだった。
ぬめり。ぬめり? 湿り気というべきか。少し指を動かしてみる。


淡「んにゅ、ふっ……」


淡が気の抜けた喘ぎを上げる。動かした指はヌルヌルと抵抗らしい抵抗もなく下着の中を動いた。
汗だったらこういう感触はしないだろう。となると、まさか失禁したということもないだろうし、残りは……。


淡「あ、きょーたろ、そ、そこは、はぁっ」

淡「や、指、爪がひっかかって、あぁ、撫でて……!」

淡「ひ、ぃ、速いよ、もと、もっと、ゆっくり、ひぃぁ」

淡「え……い、入れてる……?」

淡「あ、や、あ、ん、ふ、ふぅ、ふうぅ、は、や、とめ、て、ぇ」

淡「はぁー、はぁー、い、いつまで、指入れて……あ、動かさな、い、で……」

淡「あ、あぁ、あああぁぁぁぁ広げて……いやぁ」

淡「っ!! だ、だめ! きょーたろ、もうぅやめてぇ!!」


夢中になって淡の中心を弄り回していた京太郎は淡の悲痛な叫びを耳にして、ようやく我に返った。
淡は京太郎の肩を強く掴み、小刻みに震えて荒く息を付いている。


淡「もう、やめてきょーたろ……うぅ」

京太郎「あ、う、ごめん、淡……」

淡「あ……」


詫びとともに指を引き抜くと、淡からどこか切なげな声が漏れる。
京太郎の中は今罪悪感の暴風雨だ。やってしまった、一気にやってしまった。
つい先程ファーストキスを済ませたばかりというのに、興奮と情欲のままに淡を汚しかけた。

いや、もう汚したと言ってもいいかもしれない。少なくとも、
掴まられている肩の痛みと背中から伝わる震えは、十分に淡の恐怖を代弁するものだった。
精神的に追い詰めてしまったのは、間違いない。
京太郎は、今すぐ淡を放り出して逃げてしまいたい衝動に駆られた。
それを、唇を血が出るほどに噛み締めて押し殺し、絞りだすような声で、


京太郎「……ごめん、淡。本当に…」

京太郎「ホントに、申し訳ない……もう、しないから……」

淡「そんな……」


先に止まらなくなったのは淡だ。調子に乗って相手を弄んだのは自分が先ではないか。
京太郎は事前に警告した分、非はないはずだ。
それよりも何よりも、自分の制止の声で、京太郎がビクリと身を震わせ、
今にも罪悪感で潰されそうな京太郎の謝罪の声を聞くほうが、淡いには堪えた。


淡「あの、嫌じゃなかったから……」

京太郎「え?」

淡「その、びっくりしただけだから」


淡は再び京太郎の首に手を回し、ぎゅっとしがみついた。
仕切りなおした形になってはいるが、淡いの中に灯った熱が失せたわけではない。
ここから先はもう止められなくなる。否、そもそも自分には止める気がないのだと、淡は自覚している。
京太郎の耳に呟く。


淡「ここじゃ、嫌」

淡「ねぇ、京太郎……たしか、アパートに下宿してるんだよね……」

京太郎「あ、あぁ。そうだけど」

淡「……泊めて、よ」


淡は京太郎が息を呑んだのを感じた。
京太郎も、淡の覚悟を感じた。ならば、それに答えるのが男だ。


京太郎「今度こそ、大事にするからな……」

淡「ううん」

京太郎「少し、乱暴にするかも」

淡「うん。よろしく、おねがいします……」


夜の道を二人は歩いて行く。所々にある街灯が二人を照らすと、互いの金色の髪が混ざり合って一つになるようだ。
京太郎が後ろを見遣る。淡と目があって、彼女は顔を赤くしながらはにかむ。
京太郎は淡を抱え直し、もう絶対に不安にさせるものかと決心した。


淡「あー疲れたー。ふぃ~~お疲れ様ー」

菫「ほら、大星だらけるな。後片付けが残ってるんだから」

淡「あいあいー」

大会は間近だ。今日も今日とて白糸台麻雀部は夜遅くまで練習に励む。
全身が心地よい疲労感に包まれている。一仕事終えたときに感じるあの特有のかったるさだ。
ふと京太郎の方を見ると、機材を片付けながら照にお菓子を餌付けされているのが見えた。


淡(器用だなー)


ぽてぽてと京太郎の方へ歩む。腹が減っているのは淡も同じなので、


淡「テルー、私にもひょーらい」

照「ん? ん」


大口開けた淡に、照は淡々とクッキーを入れた。


淡「むふふ、あまーい。もっともっとー」

照「ん。淡を餌付けしてるみたい」

淡「あわわんだよ! にゃー」

京「どっちだよ」

淡「あ、きょーたろ。終わったの?」

京「おー。帰るか」

淡「むふふ。今日はおんぶして欲しい気分かも」

京「……はいよ。俺は、毎日でもおんぶしてやりたいくらいだけどな」

淡「も、もー。そんなんじゃ私の身がもたないよー」

という会話をしながら二人は腕を組み合って部室を出て行った。

照「淡は身体が弱いのかな。最近よくおんぶされて帰ってるよね」

菫「運動不足かもしれないな」

尭「え、いや、あれは多分……」

誠「えー、想像ですが、多分『運動』はしてるんじゃないですかね……」

照「? まぁ、とにかく……仲良くなってよかった」


夜の帰り道、重なりあった二つの金色がある。
長い金色が短い金色の上に乗っかって陶酔している。


「ふふ。ねぇ」

「どうした?」

「おんぶっていいね」

「うん。おんぶっていいよな」


カン