懐かしい、夢を見た。
――なんだおまえ、ないてるのか? まいごか?
――え、えいごか!? かっこいいな!
幼い頃に一度、日本に来たことがあって。
言葉も何もわからない土地で迷子になって。
――えーっと、えーっと・・・こ、こーばんだ! ケーサツ! ポリスががんばる!
――ほら! いっしょにいこ!
どうしようもなくて、泣いていた私を引っ張って行ってくれたあの男の子。
きっとその子がいなかったら、私はずっと泣いていたと思う。
――え? なんだこれ? おれかいたのか!? うまいな!
――それじゃ、またな!
お礼に、その子の絵を描いてプレゼントした。
結局その子とまた会うことはなかったけれど……あの時に描いた絵は、あの子はまだ持っているのかな。
「……?」
そんな、懐かしい夢を見た。
インターハイで東京という初めて来た場所にいるせいか、あの時のことを思い出したのかも。
胸のあたりが暖かい。なんだか、素敵なことがありそうな気がする。
「……ウン!」
「あれ? どこいくの?」
「サンポ、イッテキマス!」
「迷子にならないようにねー」
「保護者か」
「ハイ!」
きっとなにか、いいものが描けそうな、そんな予感がする。
期待に胸を膨らませて、ホテルから出た。
――迷子になった。
「ウゥ……」
この街は同じような建物が多すぎるし、ゴチャゴチャし過ぎていると思う。
何で同じ看板のコンビニがたくさんあるのか。何で建物に向かって歩いているのに一向にたどり着けないのか。
「ア、アノ……」
「えーと、I can`t speak English?」
話せてるじゃない、と思ってもさっさと行ってしまう人。
「アノー……」
「……」
そもそも無視して歩き去ってしまう人。
「アゥウ……」
まるであの時の再現のよう。
ただ違うのは、あの時の男の子がいないということだけ――
「あー、えーっと……May I help you……で、いいんだっけ?」
――でも、なかった。
背の高い男の人。制服を着てるから、多分私と同じ高校生。
「あ、あー……えーっと……麻雀、インターハイの人ですか?」
「ハイ!」
「日本語、分かります? 困ってるように見えたんですけど」
「!」
ボードに、困っている私の絵とインターハイ会場の絵を描き込む。
デフォルメされたものだけれど、この人ならわかってくれると感じた。
「あー、ここに用があるんですね。もしかして選手の人?」
「ハイ!」
「なら良かった、ウチの高校も出てるんですよ。一緒にいきますか?」
「ア、アリガトデス!!」
「はぁ良かった、それじゃあ行きますか」
と言って、私の手を握って歩き出す男の人。
「エッ……」
急なことだったので、ビックリしてペンを落としてしまう。
「あ、すいません! つい、癖で……」
「ダ、ダイジョブデス……」
慌てて手を離す男の人。つい驚いてしまったけど、悪い気はしなかった。
金髪の彼に手を引かれていると、あの時のことを思い出す。
確か彼も、こんな感じで、困ったように頭をかきながら笑っていたような――
「……キョー、ちゃん?」
「え?」
カンッ
最終更新:2014年03月06日 20:54