龍門渕「透華の…バカ…」
メイド服を着た少女は、悲しそうな顔で呟いた。
うつむいたまま、何処へ行くでもなく、ただ歩いている。
「僕も…バカか…」
メイド服の少女は自嘲気味に笑った。
彼女の名は、国広一。龍門渕に通う女子高生である。学校以外の時間は龍門渕家でメイドとして働いている。
透華とは、一が仕える主人である。だが、お互いに主人と従者だけではくくれない、そんな関係であった。…筈だった。
「僕の独り相撲だったんだ…。そうだよね、透華…お嬢様が僕のことなんて」
物思いにふけていた一に、突然衝撃が襲った。
「あ!」
「いってー!気を付けろよな。ててて…」
一は背の高い金髪の男にぶつかってしまっていた。
「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてたから…あ!」
一は男の学生服のボタンが取れかけているのを発見した。
「ボタン、僕がぶつかったせいで…、その…」
「いや、これは元々…」
「上着、脱いで下さい」
「え、えー!?」
一は強引に男の上着を脱がせた。

一は手際よく上着のボタンを繕いなおした。取れかけていたボタンは頑丈に補強され、強く引っ張っても取れないくらいだった。
「本当にごめんなさい。僕、考え事してて…」
「いいって、いいって。寧ろ、取れかけていたボタンを直してもらってラッキーだったよ」
と、男は爽やかに返した。
男の笑顔に一は少し胸がざわめいたような気がした。
「あの…名前はなんて言うんですか?あ!いきなり変ですよね、こんな」
「名前?須賀京太郎」
「須賀…京太郎さん」
その名前は強く一の心に触れていた。

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