http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1374662323






今俺は初美さんと東京を歩いている。

咲から電話を受けてから本家に事情を聞くため電話を掛けたところ……


『もしもし!』

「あ、初美さん!」

『京太郎ですか!? だから忙しいときに一体なんですかー!?』

「小蒔ちゃんが咲と一緒に居るってどういうことだよ!?」

『はぁぁぁ!?』

「今から俺一人で小蒔ちゃんと咲を迎えに行くから!」

『ちょ!? 京太郎!? はるるはどうしたですかー!?』

「春なら入れ違いでそっちに戻った!」

「だから俺だけでも行くんだよ!」

『私もそっちに行きますから待ってなさいですよー!』
 


 
そんなやり取りがあった後、俺は取り急ぎ京都まで行ってそこから新幹線の切符を買って東京行きに乗った。

東京の駅に着いたら既に初美さんが待っていて何かぷんすことしながら怒っていた。

新幹線より飛行機の方が早かったようだ。

初美さんと一緒に小蒔ちゃんと咲が待っているはずであろうところに行ってみるがそれらしき姿が見当たらない。

そんな時、俺の携帯に電話が掛かってくる。

携帯のディスプレイに表示されたのは知らない番号からだった。

不審に思いながら電話に出てみると電話口から咲の声が聞こえてきた。
 


 
『あ、京ちゃん?』

「咲か? お前今どこに居るんだよ?」

『お姉ちゃんにお金借りようと思って電話したんだけど、色々あって今白糸台に……』

「はぁ? 何でそんなことになってるんだよ。」

『お姉ちゃんが迎えに来てくれたんだけど……そのちょっと話したくって……』

『あ、安心して京ちゃん、神代さんもちゃんと一緒だよ。』

「お前と小蒔ちゃんのコンビの時点で何一つ安心できねぇよ、とりあえず今から迎えにいくから変に動くなよ。」

『え、あ、うん……それじゃあね。』


電話を切ると初美さんに行き先を告げて二人で白糸台まで行くことにした。
 



 
菫Side

―― 一時間前 ――


私の親友がいきなり告げてくる。


「菫、ちょっと駅にいってくる。」


「……ちょっとまて、お前一人でか?」


「そう、咲から電話が来た。」


「で、お前が一人で迎えに行くのか。」


「そう。」


「……私も付いていく。」


「なんで?」
 



 
照が聞き返してきた。

なぜならこいつが迷子になったケースが一度や二度ではすまないからだ。

余計なトラブルに巻き込まれないためにも私が付いていったほうがいい。

そういう理由もあって私はよくこいつの世話を焼く。


「お前一人だと心配で仕方ないからな。」


「そう、菫は無駄に心配性。」


「ならもっと安心させてくれ。」


私は照に意地悪そうにほくそ笑んでおいた。
 



 
照と一緒に駅まで行くとそこには宮永咲と何故だか神代小蒔が一緒に待っていた。

話を聞く限りどうやら共通の知人で、ある男を追って大阪に向かっていたらしいのだが

何故か東京に来てしまった上に路銀を使い果たしてしまったらしい。

高校生になってまで壮大に迷子になるとか俄かに信じられんが……

だが前例が私の前にいたので信じざるを得ないだろう。

ところで宮永咲の路銀を出すのは照で良いとして、神代小蒔の路銀を出すのは誰だ? 私か?

流石に赤の他人に高額の旅費を貸し出せるほど学生の身分の私には余裕は無いぞ。

そのことを神代小蒔本人に聞いてみると、迎えに来てくれる人にお金を借りると言っていた。

どこの誰だかわからんが、多分そいつも苦労してるのだろうな。

何時来るかわからん人間をこうして駅で待っているよりはどこか落ち着けるところで待っていた方がいいと照が言い出す。

なので「近くの喫茶店にでも寄るか?」と聞いたところ、うちの高校に行こうと照が言い出した。

何の意図があるのかわからないが多分身内同士でしか聞かせられない『話』でもあるのだろう。

でなければわざわざ麻雀を打つなんて発想は出ないはずだ。

学校についてから宮永咲が電話をしたいと言って来たので私のを貸してやった。

照が貸してやれば良いのにこいつは携帯を持ってないことを思い出した。

迷子になった際役に立つから持っておいてほしいのだが……

宮永咲が連絡を取り終わった後、私の元に携帯を返される。

その後は照たちが開いてる部室を一つ借りて三人は閉じこもった。

その際、照は私にこう言った。


「菫、私が良いと言うまで誰も通さないで。」


「は? お前はいったい何を……」


「菫、お願い。」


「……わかった、『誰も』通さん。」
 


珍しく、というより初めて親友にお願いをされた。

今までは私が勝手に世話を焼いてきたがあいつからお願いなんてされたことは無かった。

だから親友の願いを聞いて誰も通さないことにした。

だがこのときの私はまだ気づかなかった、鼠一匹通すつもりは無いと意気込んでいたが既にうちの部員が一人入っていたことを。

そしてこのときの私はまだ知らない、あの傲岸不遜で生意気な後輩が怯えた表情を浮かべることになることを。
 

 
更に数十分ほどした頃か、私の携帯に電話が掛かってくる。

知らない番号だが私の電話には発信履歴が残っていた。

多分だが宮永咲と神代小蒔のお迎えだろう。

お迎えならば当然照が居る部屋に行くだろう、そうしたら親友との約束も果たせない。

だが無碍に返してしまえば宮永咲はまだしも神代小蒔を家に帰すことが出来なくなってしまう。

どうしたものかと思ったがとりあえず電話に出ることにした。

電話口からは男の声。

二人の知人である須賀という男からだった。

どうやら彼の話だと白糸台の校門入り口まで来ているらしい。

私は迎えに行くために信頼のできる亦野を照達が居る部屋の前に置いて校門まで向かう。

そこには巫女服というのだろうか、それを着崩した中学生くらいの少女と。

稲穂を思わせるような金髪に染めた一見軽そうな男が待っていた。
 


「君が須賀か?」


「ええ、神代小蒔と宮永咲を引き取りに来ました。」


「……こんな所ではなんだ、とりあえずこっちに来てくれ。」


私は二人の客人を一軍の部室に連れて行った。

中にはお茶を啜る尭深のみ。

部屋の中を案内して事情を話す。


「すまない、今彼女たちは照と話をしていてな。」

「少しの間、ここで待っていてくれないだろうか。」


少し間が空いて男の方がピクリと何かに反応した後、少女に耳打ちをしている。

男が何を話したのかは全く聞こえなかったが警戒したほうがよさそうだ。

少女のほうが口を開く。
 


「宮永姉妹で話すことはあるかもしれませんけど、でもそれってうちの姫様は関係ないですよねー?」

「姫様だけでも返してもらえませんかー?」


確かに宮永咲は兎も角、神代小蒔の方は完全な部外者だ。

照が何を考えてるかは知らんが何かあるのだろう。

だから私は私の成すべき事を成すだけだ。


「すまないな、友人に頼まれていて場所は言えない……だからここで待っていてくれ。」


今度は男の方が口を開く。


「こう言っちゃなんですが、ここって貴方達のホームなわけですよね?」

「うちの人間が無事に帰して貰えるかどうかの保証はないわけです。」


「……まぁ初対面の人間に信じてくれと言っても難しいのはわかっている。」

「だからこうしないか? そちらは二人、こちらも二人、そしてここは麻雀部。」

「だったらすることは一つしかないだろう。」
 


 
何か渋っているようだったのでさらに追い討ちをかける。

それは先ほどこの少女の事を思い出したからだ。


「……薄墨、君も雀士だろう?」

「だったらこれほどわかりやすい事はないんじゃないか?」


「……つまり、打って姫様の場所を吐かせればいいんですかー?」


「……私をその気にさせてくれたらな。」


勿論照が戻ってくるまではその気になる気はない。

その間の時間稼ぎとして麻雀を指しただけだ。

一半荘大体30分といったところか。

半荘を二三回程すれば照も二人を解放するだろう。

そういう思惑ではあったが突如男の方が質問をしてきた。
 

 
「ああっと、俺着替えたいんですけど、どこか使っていい更衣室はありませんか?」


「……わかった、そこを使ってくれ。」


「ありがとうございます……初美さん、着替えるの手伝ってください。」


知らない男に使わせるのは気が引けるが、ここで抜け出られて勝手に

探されたらまずいと思い私たちが普段使っている更衣室を案内した。

そこの更衣室の出入り口は一つ、ここから監視するにはちょうどいい。

二人が入っていったが、どんな作戦を立てようが私には関係ないことだ。

 


 
京太郎Side


案内された更衣室で浄衣に着替えながら初美さんと話す。


「一体何のつもりですかー?」

「姫様と宮永姉妹が打ったら絶対碌な事にならないのですよー。」

「……もしかして何か聞いたのですかー?」


「そういうのも含まれてますけど俺なりに作戦があるってことですよ。」

「その為にも情報が必要かなと。」

「初美さん、初美さんの戦い方教えてもらっていいですか?」


「じゃあ、ざっくり言いますけど私が北家の時に東北を鬼門として

  場に晒せば裏鬼門から南西が来て四喜和で和了りなのですよー。」

「とはいえ対処されやすいから東北が鳴けなかったら終わりなのですよー。」
 


 
それを聞いて少し考える。

その後携帯を取り出し電話帳を開いてある場所に電話をかけた。

こういう時にこそ人脈は活躍するのだ。

一件一件電話をかけて用件を伝える。

計5箇所に電話をかけ終わったあと初美さんに作戦内容を伝えて麻雀のコツを聞いた。

俺が麻雀初心者じゃなかったらこんな事聴かずに済んだかもしれないが。


「あと俺完全に初心者なんで麻雀のコツとか聞いていいですか?」


「ああ……麻雀のコツは集中力と想像力なのですよー。」

「きっと京太郎は自分の武器になるイマジネーションは出来なくても相手のイマジネーションは見えるのですよー。」

「私の鬼門とか相手の弓矢とか見えれば多分それなりに動けると思うのですよー。」


「それなり、か……」


俺たちは更衣室を出た。

作戦内容を伝えた際、初美さんが意地悪な笑みを浮かべて俺にこう言っていたのを覚えている。


「それじゃあ霧島のわりこっぼ(悪ガキ)コンビ再結成ですよー!」


昔大人たちから呼ばれた名前を言いながら初美さんは奮起していた。

そうして俺たちは昔と同じように今日もお袋の拳骨が飛んできそうなことをする。

更衣室から出ると部長の弘世菫と渋谷尭深が待っていた。

俺の姿を見てこう言っていた。


「まるで神主のようだな。」


「俺は神主じゃありませんけどね。」

「それよりも弘世さん、俺にもシャープシュートってやつ見せてくれませんかね?」


「……私は君に名前を名乗っていたか?」


「白糸台のメンバーは有名ですから、誰が知っていてもおかしくはないでしょう?」


「……そうか。」

「では席に付け、お望みとあらばみせてやる。」


別に俺たちは麻雀で勝つ必要はない。


東家:薄墨初美

南家:弘世菫

西家:渋谷尭深

北家:須賀京太郎


東一局 0本場 親:薄墨初美


賽が回る、そして初美さんの起家で局が始まる。

咲と小蒔ちゃんに宮永照さんが一緒にいたら何が起こるかわからない。

そう教えられ急かされたのには理由がある。

一切教えられていないがそう急かされた。

だから早目に終わらせたいのだがそうは問屋が卸さないのはわかっている。

なので、それなりに手は打ってある。

だがまずは初美さんの言った通りイマジネーションの世界を広げるとしよう。

対面の弘世菫を注視しながら場を把握する。

上家の渋谷尭深の第一打は発。

初美さんは流すように打ち、弘世菫は息を殺すかのように打つ。

十一巡目。

俺は浮いた牌を切った。

しかもわざと。
 


 
「ロン、2000。」


「!」


切った牌に対して弘世菫の栄和宣言と同時に俺の体に鈍い衝撃が奔る。

俺が幽かに見たイマジネーションには弘世菫が洋弓を携えた姿で立っていた。

今更ながら鏑矢が飛んできて開戦の合図が響き渡る。

成る程、情報通りだ。


薄墨初美 25000

弘世菫 27000 +2000

渋谷尭深 25000

須賀京太郎 23000 -2000
 


 
東二局 0本場 親:弘世菫


俺は気を引き締めるために腕に巻いたマフラー三度程振って首に巻く。

若干体が熱くなってきた。

初美さんが北家になったのならすることは一つだ。

俺の手牌には東と北が一枚ずつ。

弘世菫の第一打は白。

続いて渋谷尭深の第一打も白。

俺の第一打は東。


「その東ポンですよー。」


俺の東を初美さんが鳴く。

鳴いて入れた東の代わりに5索を切る。

そして次の巡、普段なら恨むようなツモりと手牌だが今はそんな事は関係なかった。

自摸った南を手牌に入れ俺は北を切る。
 


 
「その北もポンですよー。」


俺の北を初美さんが鳴き、東と北を場に晒す。

鬼門が開く。

鬼の手が門から這い出る。

鬼がその巨体を晒した瞬間、対の裏鬼門が現れる。

鬼はその裏鬼門に手を伸ばしていた。

その3巡後、俺は南を切る。

初美さんがまたもや鳴く。

もうほぼ聴牌しているだろう。

俺は邪魔にならないように完オリの体勢に入る。

その二巡後。

裏鬼門が開き、鬼が完全に出てきた。

初美さんの和了宣言が室内に響く。


「ツモ、8000・16000ですよー。」


その声と同時に鬼が暴れ、周りの岩を砕き、飛散した礫(つぶて)が俺たちに飛んできて衝突する。

現実の物理ではないにしろ精神的なダメージは大きく中々にきつい。

特に俺や渋谷尭深の礫に比べて倍くらいの大きさもある石を被った弘世菫はダメージも一入(ひとしお)のはずだ。



薄墨初美 57000 +32000

弘世菫 11000 -16000

渋谷尭深 17000 -8000

須賀京太郎 15000 -8000



東三局 0本場 親:渋谷尭深

渋谷尭深の第一打は発、続いて俺が西を切る。

俺が何とか聴牌に漕ぎ着けられたのはそれから11巡後。

そしてそのときには既に弘世菫から狙われている状態だった。

弓に矢を番える仕草、弦がギリギリと伸ばされる音。

それを感じ取り聴牌を取りやめて迂回する。

矢は放たれたがそこに俺はいない。

更にその3巡後、再び矢を番える音。

それに対応すると俺の顔の横を矢が通り過ぎていった。

それを見て弘世菫は若干苦い顔をしていたような気がする。

そしてそのまま流局、聴牌宣言をしたのは弘世菫だけだった。


薄墨初美 56000 -1000

弘世菫 14000 +3000

渋谷尭深 16000 -1000

須賀京太郎 14000 -1000



 
東四局 0本場 親:須賀京太郎


俺の親だが配牌を見るに一向に和了れる気がしない。

渋谷尭深の第一打は中。

オーラスでは大三元狙いだろうか。

一応頑張って聴牌まで漕ぎ着けようとはするものの中々有効牌が掴めない。

もたもたしている内に弘世菫の手牌は揃った様だ。

本人は気付いてないサインを拾ってまたもや迂回する。

飛んできた矢を踊るようにして躱す。

躱されたのを見たのか弘世菫の表情が焦れている様にも見える。

その4巡後またもや矢が番えられるがその矢が放たれる前に卓上へ和了宣言が言い渡される。


「ロン、7700。」


初美さんが渋谷尭深へと振り込んだ。
 



 
薄墨初美 48300 -7700

弘世菫 14000 

渋谷尭深 23700 +7700

須賀京太郎 14000 



南一局 0本場 親:薄墨初美


南場に入り再び初美さんの親となる。

初美さんは第一打に赤5筒を切った。

多分大量のリードを守るために完オリする気だろう。

そして渋谷尭深の第一打は白。

これで白二枚の発二枚、中一枚が確定したわけだ。

俺の配牌はというと相変わらず八種八牌のひどい物。

とりあえずは手持ちの白を切りながら弘世菫に挑発をかける。
 



 
「案外シャープシューターって命中率が低いんですね。」


「…………君の期待に応えられてないようで残念だ。」


返された言葉には苛立ちが滲み出ていた。

多分これで俺を意識せざるを得なくなっただろう。

自分が得意としている技術をどこの馬の骨とも知らない初心者に虚仮(こけ)にされては面白くはないだろう。

弓を引き絞る音が聞こえるが挑発するようになるべく直前で躱す。

俺を執拗に狙う矢は悉く隣をすり抜けて行った。

矢が一発も当たらず流局するも聴牌宣言したのは弘世菫だけだった。


薄墨初美 47300 -1000

弘世菫 17000 +3000

渋谷尭深 22700 -1000

須賀京太郎 13000 -1000


南二局 0本場 親:弘世菫


二度目の初美さんの北家。

当然警戒されているので和了り難いはずではあるが。

普段なら恨むようなばらばらの配牌もアシスト前提のこの場ではありがたいものだ。

穴が開くのではないかと思うほどこちらを見てくる弘世菫の第一打に続き渋谷尭深が発を切る。

それに続き俺は北を捨てて初美さんがそれを鳴く。

次の巡、今度は東を捨ててまたも初美さんが鳴く。

だがアシストできるのはここまでだろう。

なぜなら俺には南と西がないからだ。

だが数巡後、西が一切無い手牌を初美さんが晒してくれた。


「ツモ、4000・8000ですよー。」


混一・混老・役役・対々の倍満を自摸り和了る。

これで逃げ切れば俺たちの勝ちではあるが弘世菫の表情には焦りの色は伺えない。

怪訝に思い確認してみた。


 
「弘世さん、俺たちの身内の居場所を教えてくれるんですよね?」


「……ああ、私をその気にさせてくれたらな。」


やはりこの女は最初から教える気は無かったようだ。

飽くまで麻雀は余興や時間稼ぎの類でしかなかったわけだ。

そっちがその気ならこっちも手段は選ばない。

意地でも教えたくなるようにしてやるよ……


薄墨初美 63300 +16000

弘世菫 9000 -8000

渋谷尭深 18700 -4000

須賀京太郎 9000 -4000


 
菫Side


あの男……先ほどの和了りと今の会話で私が時間稼ぎをしていることに気付いたのだろうか。

しかしそれよりもこちらの矢が悉く躱されるのが気になる。

打ち方や動作を見るに初心者にしか見えないのに私の矢が一切当たらない。

いや、最初の一回は当たった。

だがそれは何か確認するために振り込んだかのようだった。

もしかしてたった一度で私の打ち筋が看破されたのか?

それはありえない、仲間ですら気付かなかったことを初心者がたった一度の対峙で見抜くなんて不可能なはずだ。



南三局 0本場 親:渋谷尭深


尭深の第一打は中。

これで発3・白2・中2だ。

オーラスで白か中のどちらかを鳴けば4飜で満貫は確定だ。

手牌を揃え、矢を番え、標的に狙いを絞る。

私は自分では冷静でいようとしていたが相当熱くなっていたのだろう。

狙いを躱され虚仮にされて黙ってはいられなかった。

対面にいる男を何度も執拗に狙うが躱される。

私はムキになっていた。



 
だが先程と違う事がある。

何か気分が少し優れない。

寒くは無いのに寒気がして身体が震える。

ふと顔を上げるとあの男がこちらにその双眸を向けている。

しかも恐ろしいほどの眼光で悪意を含ませながら。

目が合った瞬間怖気が奔る。

明らかな悪意を感じて身震いをしてしまった。

いや、悪意など生易しいものなどでは無かった。

私の直感が告げる、先程からの震えはこれを感じてだと。

明確な悪意が私の中に幻像を形作る。

これはまるで……

まるでナイフを持った殺人鬼と同じ部屋に居るみたいだ……!



私はこの場から逃げたくなった。

だがまだ逃げる事が出来ない。

親友の望みを成し遂げずにこの場を逃げ出すことは親友としてしたくない。

そして何より卓を途中で放棄して逃げ出す事は雀士としてしてはいけない。

そういう思いがあるから逃げるに逃げられなかった。

生物としての私の本能がここから逃げたいと告げる。

雀士としての私の矜持がそれを許さない。


逃げだしたい。

逃げてはいけない。

逃げたい。

逃げるな。
 


ただ只管浮かぶそんな葛藤が私を苛む。

だが何とかそれを押さえ込んで私は卓に居続けた。

再び弓を引き絞り狙いを定める。

何度も矢を放つが当たらない。

その度に矢を番えるが時間と共に体調が悪化する。

焦りからか普段の私ならしないようなミスをする。


「ロン、2000ですよー。」


薄墨初美に私は振り込んだ。


薄墨初美 65300 +2000

弘世菫 7000 -2000

渋谷尭深 18700 

須賀京太郎 9000 



南四局 0本場 親:須賀京太郎


オーラス、あの男の親だ。

尭深が収穫を行える局になったが、こちらに三元牌はないので助力は出来ない。

だが万が一あの男が和了ってこの卓が続行されれば私に纏わりつく悪意も長引く。

体調が先程よりも悪化している。

冷や汗が大量に吹き出て止まらない。

頭が万力で締め付けられているかのように痛い。

物が何重にも見えるほど眩暈がする。

周囲の音を掻き消すくらい強烈な耳鳴りが止まない。

胃の中を全て吐き出したいほどの吐き気を催す。


誰でもいい、誰か早くこの卓を終わらせてくれ……


そんな思いも空しく巡がゆっくりと進む。

微かに草を焼く火の様な匂いが感じられた。

その感覚を訝しげに思っていると男がポツリと呟いた。



 
「内はほらほら、外はすぶすぶ。」


どういう意味なのかわからない。

というよりもどんな意味か気にしてる余裕は無かった。

何故なら今の私は火の幻像に囲まれていたからだ。

じりじりと私を囲むように炎は迫ってくる。

身を焦がすような炎の温度と私の周りにある酸素まで奪われているのような幻覚に陥る。

早くこの幻覚を終わらせようと思ったが私の手には矢が(牌が揃って)無かった。

番えるものも無く、ただ火に焼かれるのを待つ身は絶望に打ちひしがれ心が折れそうだった。

そんな時和了宣言が上がる。


「ツモ、2000・4000。」
 


 
尭深の和了りだった。

しかし不自然なところがある。

尭深の川には白が二枚出ている。

恐らく出ないと判断して切ったのだろうが高目の役をそんな簡単に諦められるのか?

尭深の思惑はどうにせよ私は内心助かったと思ってしまった。

尭深が渋い顔をしていた意味に気付かないまま安堵してしまっていた。


薄墨初美 63300 -2000

弘世菫 5000 -2000

渋谷尭深 26700 +8000

須賀京太郎 5000 -4000


あの男と同点だったが席順の関係で3位になった。

席順が一つずれていれば負けていたのは私だった。

席順のおかげで勝ったのだ、初心者同然のしかも焼鳥のあの男に。

感情が屈辱と恐怖に満ちた私に男が話しかけてくる。

 
「弘世さん、少しはその気になりましたか?」

「それともまだ足りませんか?」


「!」


まだ眩暈が治まらない私はその言葉を聴いて固まった。

もしかしてあの責め苦をもう一度味わうのか?

私の身体が再び震え始めるが男は構わずに続ける。


「もしその気になってないならもう一回卓に着きましょう。」

「勿論断りませんよね? そちらがこの条件を提示してきたんですから。」


私は男の残酷な目を見て疑問に思った。

そしてそれを男に問う。


「何で君はそこまで……残酷になれるんだ……?」


 
「……覚悟の差ですよ。」

「大切な人の近くに居るために俺は今までの生活を捨てた。」

「大切な人を守るために俺は命を差し出す覚悟を決めた。」

「大切な人が願ったから俺は片腕を犠牲にして生き永らえた。」

「あんたはただ友人に頼まれたからというだけでそこにいるのか?」

「その程度の覚悟だったらへし折ってやるよ。」

「あんたの覚悟を折るためなら俺は喜んで畜生だの外道だの呼ばれてやる。」

「あんたと俺では端から覚悟が違うんだ。」

「さぁ、卓に着けよ、今度はあんただけじゃない、あんたのお仲間にもさっきのをぶち当ててやるぜ。」


私はその言葉を聴いてまた心が折れそうになる。

今度は最初からあの責め苦を味わわせると言ってきた。

しかも尭深も巻き添えにする気で。

私は尭深にも犠牲になってくれと言わないといけないのか?

だが照との約束を反故にするわけにもいかない。

悩んだ挙句、私は卓に着こうとして……止められた。

私を制止させる為に肩に掛けられた手。

振り返ると親友の顔があった。


「菫、それ以上無理したら菫が壊れちゃう。」


「照……?」

「……思ったより早く終わったんだな。」


「ううん、親から電話が来たから。」


「?」

「それより……須賀に一つ聞いていいか?」


「何ですか?」


「どうやって私の矢を潜り抜け続けたんだ? そもそも私に何をした?」


「マジシャンが種を明かすと思いますか? 悪いけど俺は敵に塩を送るほど親切じゃないんでね。」


当然の返答だった、私は何を馬鹿な事を聞いているんだろうか。

あまりよくない体調のせいか思考が短絡的になっていたのだろう。

そう思っていたが思わぬところから返答が帰ってきた。

先程まで尭深と軽く話していた照だった。

 
「多分……菫の癖が見抜かれて居たんだと思う。」


きっと尭深から対局の様子を聞いていたのだろう。

照が発した言葉に対し、割と小声でやりとりをする。


「そんな馬鹿な……会って間もない、しかも初心者同然の相手にか?」


「彼の実力だけじゃないはず。」


「?…………!」

「思い出した、あのマフラーどこか見覚えが有ると思ったが阿知賀の……」


そこでやっと思い出した、確かにあの男がつけているマフラーはどこか見覚えがあった。

それは準決勝・決勝と対戦した阿知賀の松実宥が着けていたものと同じだった。

私が思い出したことを意にも介さず照が続ける。


 
「多分彼が更衣室か何かに行ったときにでもアドバイスを貰ったんだと思う。」

「挑発したのも菫と実質一騎打ちするため、そして自分を狙わせて注意を逸らす為。」


「私は見事にしてやられたわけか……」

「毒を吐いてくるから一体どんな物を含ませてくるかと思ったら……」


乾いた笑いが出てきそうだったがそれよりも前に須賀が口を出してきた。


「俺が口に含んでいたのは赤土(あかつち)ですよ。」

「まぁ貴女達を研究していた協力者は一校だけじゃありませんがね。」

「もし弘世さんが俺に負けたと思ってるんならそれは松実宥に負けたという事です。」


須賀の言葉を受けると目が少し眩んだ。

それと同時に一瞬幻覚とも思えるビジョンが見える。

この男の後ろについてる人間がとんでもない数だった。

彼が宮永咲を迎えに来た事から察するに恐らく清澄の関係者……

さらに元々鹿児島出身の者も居る……新道寺と何処かで繋がっていてもおかしくは無い。

しかも彼の口振りから察するに他の高校もそうだろう、例えば千里山とか……

そうか、恐らくだがうちの高校が準決勝で当たった全校と決勝で当たった高校が協力者だったわけだ……

勝敗は元から決まっていたのか。


「とんだ、パイプの持ち主だったわけだ……」


 
「俺のようなちょろちょろする鼠に自慢の矢が当たらなかった気分はどうですか?」


「鼠に一矢報いようと思ったが……逆に鼠に齧られてぼろぼろで最悪の気分だな……」


「機会があったらまた打ちますか?」


「あんな対局二度とはごめんだな。」


「それは残念です、貴女みたいな綺麗所に穴が開くほど見つめられる機会なんて滅多に無いですから。」


「口の減らない男だな。」


軽口を叩く様に会話をするが空気は未だにひり付いていたかのようだった。

終わったのを見計らってか照が口を開く。

そういえばこいつがここに来た理由を聞いてなかった。


 
「彼、借りるね。」

「来て、二人が待っている。」


「そうですか、では……初美さん。」

「渋谷さんと一緒に弘世さんを診ててもらっていいですか? 何かあったら電話で呼んでください。」


「はぁ……わかったのですよー。」


薄墨が軽く溜息を付くと了解をして照と須賀を見送る。

なんとも抜け目の無い男だ。

介抱と称して監視役を付けていくとは。

しかし私が何かするとしても視界が霞むこの状況では何もしようがない。

今の私は何かする事もないのでまだ答えられていない疑問がある事を薄墨に聞いてみる。


「薄墨、私は彼に何をされたんだ?」


「……完全に気枯れ状態だから多分気当たりですよー。」


気当たり……確か武道か何かであった気もするが……

どうやら薄墨が言っているのはそれとはまた違うもののようだ。


「神社に来る方で偶に頭痛や眩暈を訴える人がいるんですよー。」

「うちの神社は気が強いからそれに当たることがあるみたいなんですよー。」


言ってる事はよくわからないがそこまで問題のある事ではないらしい。

それから薄墨の勧めもあって私はしばらく休んでいた。



京太郎Side

俺は事前に電話をかけていた。

場所は清澄、阿知賀、千里山、新道寺。

新道寺は和と優希の伝で二人の先輩である花田煌という人から。

最後にかけた五箇所目の電話先は咲の親父さん。

咲も小蒔ちゃんもこのご時勢だというのに携帯電話を持っていないので咲の親父さんに

掛けて宮永照に連絡を取るように頼んでおいた。

その保険が花開くように宮永照がやってきた。

おかげで弘世菫の心を砕く前に目的を達する事が出来そうだ。

そして俺は初美さんを残して咲と小蒔ちゃんを迎えに行くために白糸台の廊下を二人で歩いている。

しかし五分ほど歩いているが一向に目的地まで着かない。

もしやと思って先導している人に聞いてみた。


 
「あの、いつになったら着くんですか?」


「……もうすぐ。」


「でももう既に結構歩きましたよね……」


「……うちの学校は大きいから多少は歩く。」


そう答える彼女は前を歩いているので表情は窺えない。

いやまさか……ここは彼女にとって通いなれている場所なわけで。

しかもクールな雰囲気で私に付いて来いと言わんばかりのオーラなわけで。

更に言うならさっき俺達の居た所まで来たわけで。

まさか迷っているとは思えないわけで。

ましてや彼女は咲の血縁者なわけで……

……一気に不安になってきた。

それから数分後、そろそろ沈黙に耐えられなくなってきたので意を決して聞いてみる。
 


 
「あの……もしかして迷って……」


「ちがう。」


「あ、そうですか。」


会話終了。

しかもこれ絶対に迷ってる。

携帯を取り出して弘世さんに道を聞こうと思った矢先、前方の扉が開いた。

中からは長い金髪の少女が顔を覗かせている。

その少女がこちらをみて大声を出しながら駆け寄ってきた。


「テルー! 遅いよもう!」

「職員室に行ってから三十分も何してたのさ?」


 
三十分? 俺たちが歩いてきた時間は長くても十分くらいだ。

つまりこの人はここを出てから二十分もの間何をしていたんだ?

そう思って俺は前を歩いていた人物の顔に視線を送る。


「……ちがう。」


そう言って露骨に目を合わせない人は置いといて部屋の中を見ると二人が待っていた。

咲と小蒔ちゃんがこっちに気付くと目を輝かせてこっちに寄って来た。


「京ちゃん!」
「京太郎君!」

「会いたかったよ! だって京ちゃんいきなりいなくなるんだもん!」


「そうですよ! 京太郎君がいきなりいなくなって二人で探しに来たんですから!」


むしろ探す羽目になったのはこっちなんだけど……

しかし何でこの二人はこんなに暢気なんだ……


 
「とりあえず帰る用意をしてください、初美さんを待たせているんですから。」

「ほら咲も、長野に帰る準備をしろ。」


「ちょっと待って。」


さっさと帰りたい俺に制止の声がかかる。

どうやら宮永照はまだ用事が済んでいないと言いたい様だった。


「あの、出来れば手短に終わらせてくれると嬉しいんですけど。」


「私は君とも少し話がしたい。」


「? 俺とですか?」


彼女がこくりと頷くと咲と小蒔ちゃんに指示を出す。

一体俺に何を求めるって言うんだ?
 

 
「咲、神代さん、卓について。」


「テルー、私はー?」


「淡は見学、悪いけど今回は家族同士の話だから。」


「えー? つまんなーい!」


文句をたれる大星をよそに宮永照が促してくる。

明らかに俺より大星のほうが打てるだろうに。


「さぁ、君も卓について。」


「何で俺なんですか?」


「君は神様を信じる?」


 
何を思ってかそんなことを聞く宮永照に。

眠るように静かになっていった小蒔ちゃん。

咲もついさっきとは雰囲気が違う。

逃げる場所なんてない。

だから俺は質問に答えながら席に着いた。


「俺に神様の事を信じているかどうか聞くなんて愚問ですね。」


「そう。」


宮永照が短く答える、その瞳には何が見えていたのだろうか。

俺の事は見ていないように見えるその瞳は何か不思議と引き込まれる光があった。

席に着くと頭の中に響く声。

ああ、聞き覚えのある声だ。

だけど呼んでいないのに来るなんて……

そう考えているとうちの御祭神がこう言った。
 

 

『童(わっぱ)、少々その身体を借りるぞ。』


俺はその理由を聞く前に自分の身体の制御を奪われ意識を手放す羽目になった。

そして俺が再び意識を取り戻した頃には対局は既に終わっていた。

周りを見回すと室内で嵐か台風でもあったのかと疑うほど物が散乱した状況。

その中で暢気にぐうすかと眠っている小蒔ちゃんに晴れやかな顔をした咲と満足そうな笑みを浮かべる宮永照。

そして俺の後ろの方でがたがたと怯える大星淡。

一体俺が寝ている間に何があったのか。

多分真実を知っているのは咲と宮永照と大星淡だけだろう。

だが俺は聞く気は無い。

立ち上がって小蒔ちゃんを揺り起こす。

すると小蒔ちゃんが欠伸(あくび)をしながら眠りから覚めた。
 



「あれ? 私また寝ちゃってましたか!?」


「ぐっすりと寝てたと思います。」


「た、対局中に、失礼しました!」


「別にいい、楽しかったから。」


「またしようね、神代さん。」


慌てて謝罪する小蒔ちゃんに笑って応える宮永姉妹。

咲が宮永照に向き直っておずおずと質問する。


「ね、ねぇお姉ちゃん……」


「何?」


「また一緒に打って貰っていいかな……」


「別に……かまわない。」



咲の顔が明るくなった。

ここでようやく二人はインターハイで出来なかった仲直りを果たした。

宮永照がまだ続ける、だがその声は何か重なったものであり宮永照の背後に何か見えたような気がする。


「『だって、私はあなたのお姉ちゃんだから。」』


「うん、また会おうねお姉ちゃん。」


『ふん……俺はもう行くぞ童。』

『……京太郎、礼を言う。』


「いえ、そのようなお言葉、俺には畏れ多いです。」


宮永照が発した言葉は果たして咲だけに向かった言葉だったのだろうか……

でもそれは対局中眠っていた俺にはわからないことだった。

俺たちは初美さんと合流して東京を出る事にした。

駅までたどり着けば、そこで咲とお別れかと思ったがまだ鹿児島には戻る気は無かった。

だから道の途中で咲に告げる。


 
「咲一人じゃ不安だから俺も付いていく。」


「え? いいの?」


「ああ、お袋にも顔見せなきゃいけないと思っていたからな。」


「うん、ありがとう京ちゃん。」


「あ、あの……私も京太郎君と一緒に長野に行きます!」


そう言ったのは小蒔ちゃんだった。

隣では初美さんが露骨にゲッと声を出しそうなくらいに嫌な顔をしている。

吃驚する俺たちを残して小蒔ちゃんが続ける。


「京太郎君が今まで住んでいたところもみたいですし、それからおば様にもご挨拶しないといけないですし……」

「それから、それから……」
 


どこか焦っている様にアタフタと慌てだす小蒔ちゃん。

長野なんて何もないと思うがそんなに行きたいものだろうか。

それとも鹿児島にはまだ戻りたくないのだろうか。

そんな考えが浮かんでは消えていくがどれも核心を突くものではない。

別に付いて来られて困るものでもないので返事をする。


「小蒔ちゃんが来たいと言うならいいですよ。」


「!! 本当ですか!」


小蒔ちゃんの顔が明るい笑顔に変わる。

そんなに嬉しいものなのだろうか。

みんなの行き先が決まり長野までの旅程を決めはじめる。

そこで愚図り出したのが初美さんだった。


「いやですよー! 絶対行きたくないですよー!」


「大丈夫ですよ初美さん! 長野は怖くないですよ!」

 
「長野が怖いんじゃないんですよー! 浪おばさんが怖いんですよー!」

「京太郎は一人で折檻を受ければいいんですよー! 私を巻き込まないでくださいですよー!」


「そんなこと言わないで一緒に怒られましょうよ!」


「絶対に嫌ですよー! 一人で鹿児島に帰るですよー!」


俺の必死の説得も空しくこんな具合に初美さんは愚図っていた。

無理矢理引きずりながら連れて行く途中、道行くおばあさんにかわいい妹さんね、と笑われたのは非常に恥ずかしかった。

尚も愚図る初美さんをよそに咲と小蒔ちゃんが話し始める。


「京ちゃんのおばさんって別に怖くないですよね?」


「はい、とても優しい方です。」

「でもあの二人はよくいたずらとかしていましたから……」


「ああ、それで……」
 


 
帰ったらお袋にどやされるだろうな。

だから道連れにするために初美さんを一緒に持って行こうと思ったのだけど。

大丈夫、長野にはパッと戻ってパッと鹿児島に戻ればいい話だから!


【京太郎「神代の守人~鏡晒し編~」】

カン




菫Side


薄墨たちが帰り、私の体調も回復して照の所に行くとかたかたと震える淡がいた。

様子がおかしいので何があったのかと聞くとただ呟く様に淡がこう漏らしていた。



「あんなの……麻雀じゃない……雀士じゃない……」

「ただの暴力と暴君だよ……」


さっぱり要領を得ない。

照に聞いてもこう言っただけだった。


「麻雀をしただけ、淡は打ってない見てただけ、ただ私達に当てられたかも知れないけど。」


やはりわからない。

一体ここで何があったっていうんだ。


カン


火(松実宥)と矢(弘世菫)と鼠(カピバラ)に関して


スサノオの娘のスセリビメはオオナムヂ(後の大国主)と恋に落ちる。

その後二柱は夫婦となって父のスサノオの元に訪れるが父親としての
嫉妬かオオナムヂを邪険にして蛇・蜂・百足がいる部屋に泊めさせる。

オオナムヂは妻のスセリビメより蛇やムカデや蜂の比礼(女性が首に掛けるもの)を受け取りそれ三回振って難を逃れる。

次にスサノオは野原に鏑矢を射ち、それをオオナムヂに取ってこさせようとした。

オオナムヂが野原の中に入った際、野原に火を放ちオオナムヂを焼き囲む。

オオナムヂが難儀しているところに鼠が現れ「内はほらほら、外はすぶすぶ」
(穴の内側は広い、穴の入り口はすぼまって狭い)といってオオナムヂを穴に入れて助ける。

しかもその上鼠は鏑矢も持ってきてそれをオオナムヂに差し出す、
だが鏑矢は鼠の子供たちによって齧られぼろぼろになっていた。

戻ってきたオオナムヂに対しスサノオは頭の虱を取るようにいう。

その髪の中には百足が潜んでいたがオオナムヂはスセリビメからもらった椋の実と赤土を口に含み唾と共に吐き出す。

それを見たスサノオは百足を噛み千切ったと勘違いしてかわいいやつだと思って、寝てしまう。