• 2日目


良く晴れた、清澄高校の昼下がり。私はいつもの場所でお昼寝をしていた。
最近、とある理由で寝不足気味のため本を読んでいるとついうとうととしてしまうのだ。
放課後なら部室で部活が始まるまで備え付けのベッドで仮眠をとることも出来るのだけれど、
今は昼休みなので私はいつものように学校敷地内で風通しの良いところを探してお昼寝しているのだった。


「……うん?」


ふと私は自分が誰かに肩をチョンチョンとつつかれているのに気付いた。
私は振り返って誰が私の肩をつついているのかを確認した。すると……


「……衣ちゃん…?」

「うむ、そうだ。衣だぞ、咲」


そこにいたのは、なんと龍門渕高校麻雀部・大将であり、
県・個人戦予選では私と原村さんに次いで3位で全国進出を決めた私の友達の一人、天江衣ちゃんであった。
私は衣ちゃんを見て、不思議に思ったことを率直に訊ねてみた。


「へ…?なんで衣ちゃんがここにいるの?」

「咲は話を聞いていないのか?」

「話…?」

「そうだ。清澄の部長が清澄高校麻雀部と衣の全国へ向けて合同練習日を設けたのだ。そして、その第1回目が今日なのだ」

「そ、そうなんだ…私それ初耳だよ」


と、そこで私はふと疑問が浮かび、衣ちゃんにまた質問する。


「でも、衣ちゃん今はまだ放課後じゃないし部活はまだ始まらないのに何してるの?
衣ちゃんだって学校あるでしょ?学校はどうしたの?……それに、ほかの龍門渕の人達はどこにいるの?」

「学校は清澄と合同練習をすると言ってあるから衣たちは公欠扱いになっているはずだ……
それで、とーか達だが衣が少し目を離した隙にはぐれてしまったようでな、今探してやっているところなんだ」

「衣ちゃんがはぐれたんじゃなくて、龍門渕の人達がはぐれたの?」

「そう言っているだろう!衣は子供じゃないんだ、迷子になんてなる訳ない!子供扱いするな!」

「べ、別に私衣ちゃんのこと子供扱いなんてしてないよ」

「む…そうか、ならば良い。そうだ、もし時間があるなら一緒にとーか達を探してくれないか、咲?」

「うん、昼休みはまだ始まったばかりだから大丈夫……あっ」

「どうしたのだ、咲」


私がいきなり声を上げたので衣ちゃんは驚いたみたいだった。
衣ちゃんは何かあったのかと心配したような顔で視線をこちらに向けている。だから、私は笑って、


「ううん、今日お弁当作ってくるの忘れたから学食を食べに行かないといけないってことを忘れてたの」


大丈夫、と言うように驚いた衣ちゃんを安心させようとしたけれど、衣ちゃんの関心は別にあるようだった。


「学食!?それは如何なるものなのだ?衣は未知への希望で胸がいっぱいだ!……咲っ!」

「な…何?」

「学食を食べにいこう!」


目を輝かせて、学食に行きたがる衣ちゃんだったけれど、私は衣ちゃんが他の龍門渕メンバーを
探している途中だと言っていたのを思い出して、聞いてみた。


「はぐれちゃった他の龍門渕の人達を探しに行かなくていいの、衣ちゃん?」

「うむ、いざとなったらハギヨシがいる。心配無用、さあ未知なる学食へ行こう!」


ハギヨシ?と疑問に思う私だったが、聞いてみたらハギヨシさんというのは龍門渕さんの執事らしい。
私達は学食を食べに行くため、食堂に向かって並んで歩き出した。


  *


…ワイワイガヤガヤ……

食堂はいつでも混んでいる。
だから、私は衣ちゃんとはぐれてしまわないように衣ちゃんの手を握って先導した。
衣ちゃんは周りが知らない人ばっかりなのでなんだか少し、不安がっているようだった。
……だからかな、衣ちゃんが私の手を強く握り返してきたのを感じた。


「さ、咲…一体学食とはどうしたらこの手にはいるのだ?衣はもう空腹で我慢できないぞ…」

「えーとね、そっちの方にある券売機で食べたいものの食券を買って、あっちの方にあるカウンターで
買った食券を渡して、学食を貰うんだけど……結構混んでるね…とりあえず並ぼうか…
あっ、あと上の方にメニューがあるからそれを見ておいて、買うものを決めておくと良いよ…………衣ちゃん?」

「むむむ……学食は実に多種多様、なかなか決断することが出来ない…」


私は学食のシステムを教える。なんだか今日は食堂がとても混んでるみたいで食べれるのが遅れちゃいそうだ、と思っていたら
いきなり壁の上の方にあったメニューを見ていた衣ちゃんが私の方を振り返った。


「咲、学食はどれが一番美味なのだ?」

「うーん、一番って言われると好みは人それぞれだし分からないけれど、
私のオススメはメニューの右の方にある『日替わりレディースランチ』かなぁ?」

(京ちゃんもいっつもおいしそうに食べてるしね……)

「よし、そうか!ならば『ひがわりれでぃーすらんち』に決定だ!」

「そういえば、衣ちゃん。『日替わりレディースランチ』は840円(税込み)なんだけど…衣ちゃんお金持ってる?」

「む…衣は今日は金銭の類は持ってきていないのだ……」


ここまできて学食を食べることが出来ないのか、と落ち込む衣ちゃんだったけれども
私は当然のように(実際そのつもりだったしね)衣ちゃんに言った。


「じゃあ、今日は私の奢りだね」

「えっ…いいのか、咲?」

「だって私達友達でしょ?今日は私から衣ちゃんにプレゼントだから」

「ともだち、ともだち……そうか…ともだち……ふっふっふーん」

「だからさ、せっかく私と衣ちゃんは友達なんだから、今度よかったら私の家にお泊まりで遊びに来て?」

「咲…………うむっ!!」


衣ちゃんはとても嬉しそうにしていた。私に向けられたひまわりのような、太陽のような笑顔。
それを見ていると私は毎日思い悩んでいることなんていつの間にか頭からなくなっていた。

結構並んだけれど結局、列がこんなに長かったのはとある1年生が、
タコスの食券を沢山買おうとして食券のボタンを押しまくったら券売機がおかしくなったかららしい。
それで、券売機で注文した食べ物とは違う食べ物の食券が出てきてしまう、
といったことが頻発して回りが悪くなってしまったということらしい。

だが、私と衣ちゃんは最終的には無事『日替わりレディースランチ』を手に入れることが出来たし、
衣ちゃんは学食が気に入ったみたいで良かった。


  *


放課後、数時間続いた特別麻雀清澄・龍門渕合同練習(第1回目)も無事に終わった。龍門渕の人達には何度もお礼を言われた。
やはりと言うか何というか、衣ちゃんは他の龍門渕メンバーがふと目を離した隙に迷子になったらしい。

衣ちゃんは打ち方がこの前とはまったく違っていて、大将戦の時に感じた妙な威圧感が有ったりなかったり、
私はそれほどではなかったけれど、原村さんはかなり苦労している様子だった。
私は時々視界の端に映る京ちゃんの姿に気を取られて、小さいミスなら何度も、大きいミスも何回かしてしまった。

そして、練習が終わってすぐに衣ちゃんは「よし、衣は咲の家にお泊まりだ!」と、私を引っ張っていってしまった。
部室を出る直前、原村さんが私に向かって何か言い掛けていたが聞こえなかった。なんて言おうとしてたんだろう?

というか、私は確かに食堂で衣ちゃんに「今度私の家にお泊まりで遊びに来て?」とは言ったけれど、いくらなんでも急すぎるよ~!

……と言うわけで、今は私と衣ちゃん、2人で手を繋いで私の家に向かって歩いているのだった。
衣ちゃんは明日の朝、ハギヨシさんのお迎えで帰るらしい。
だから今日明日はお父さんもいないから1晩私と衣ちゃんの2人っきりと言うわけ。

突然、ずっと考え込むように黙っていた衣ちゃんが口を開いた。
なにかを考え込むように、言葉を探しながら話しているようだった。


「咲、とても強くなったな。ののかも強くなったが、咲は特に大会の時から見違えるように強くなった……
衣はまだこの打ち方に慣れていなく、毎日苦戦苦闘する日々だが」


と、一旦言葉を切る衣ちゃん。
衣ちゃんは衣ちゃん曰わく、「能力の傀儡となるのではなく、能力を選択肢の1つとする打ち方」を
目指しているらしい…が、そう簡単に打ち方なんて変えられるはずもなく、苦労しているみたいだった。
かくいう私もネット麻雀で練習したときは牌が見えなくて本当に大変だったけれど。

そこで、衣ちゃんは私の手を離して私の正面に回って微笑んだ。


「今は、咲のお陰でとてもとても麻雀が楽しい!強い相手と戦うのは本当にワクワクする!
……だが、咲?衣に麻雀を打つ楽しみを気づかせてくれた咲は、衣と麻雀を打つのが楽しくないのか?
今日は衣と打っていて…まったく楽しそうではなかったぞ……?」


私はハッとした。
まるで心の中を見透かされているかのようだ、と思った。
衣ちゃんはなんだか泣きそうな少し潤んだ瞳をこちらに向けていた。
口には出さなかったけれど衣ちゃんが言いたいことが私には分かった。


(“一緒に楽しもう”と言ったのは咲だろう?あのときの咲の自信はどうしたんだ?)


私は感じた。――私は衣ちゃんに、この女の子に絶対嘘はつけない――と。
私は覚悟を決めて、衣ちゃんにすべて話すことに決めた。
私に想い人がいることを。そしてその人を想うばかり毎日オナニー、つまりは自慰行為に及んでしまうことを。

私は口を開いた。


「別に麻雀が楽しくない訳じゃなくて――」

「な、ならば衣と打つのが楽しくないのか!?」


私が話し始めた途端、話を折られてしまった。
私の心も一緒に折れかかるが、衣ちゃんがいよいよ泣きそうな顔をしていて、私は再び話し始めるしかなかった。


「ううんっ、そうじゃなくて、衣ちゃんと麻雀を打つのはとてもとても楽しいよ。
普段は他の人と打ってるけど衣ちゃんと打つのは新鮮だし、比べてもずっと楽しいよ」

「そ、そうなのか……?よかった~」


衣ちゃんは私の言葉にようやく安心してくれたみたいで、私もそれを見てほっとしていた。
すると、衣ちゃんは不思議そうな顔で訊ねてきた。


「ならば、何故対局中に度々あんな悲しそうな顔をしていたのだ?」

「え……っと、それは……」


私は急に恥ずかしくなってきてしまった。これから自分が話そうとしていることを、
さすがに誰か全くの他人に聞かれることは恥ずかしいと思ったから。慌てて周りに人がいないか確認してしまうほどに。
結局、今の私の精神状態では衣ちゃんに言うことが出来ないと判断した私は、


「詳しい事情は家で話すから、とりあえず私の家に行こう?」


と言った。衣ちゃんはあまり納得している様子じゃなかったけれど、
私が再び手をつないで引っ張っていくと、顔を綻ばせて嬉しそうについて来た。


  *


今日の夕飯はハンバーグだ。
実はあんまりハンバーグは得意な料理じゃないし(ちなみに私の得意料理は生姜焼きと汁物系)、
普段あまり頻繁に作るものじゃないからどうしようかと少し真剣に悩んだけれど、
お父さんの好物であることもあって数回の経験があるので、きっと作れると思う。

何で夕飯がハンバーグに決定したかというと、衣ちゃんに何が好物なのか、
何が食べたいのかを聞いてみたら、ハンバーグを食べたいと答えたからだった。
なので私は今、必死にハンバーグのレシピを思い出そうとしていて、衣ちゃんはそんな私の横で私の指示を待っている。
衣ちゃんの役目は私のサポートである。


「衣ちゃん、そっちの棚の中にある黒胡椒取ってくれる?」

「こ、これか……?咲、これは一体何に使うんだ?」

「少しだけ入れると、スパイスが利いて風味がでるかなって思って」

「そういうものなのか……?」

「衣ちゃん、今度は冷蔵庫の中にある玉ねぎ1個と挽き肉1パック取ってくれる?」

「む……さ、咲?玉ねぎは見つかったのだが、挽き肉が見つからぬ…」

「えっ……ない?」


私は冷蔵庫の中に挽き肉があるものと思っていたので、びっくりした。慌てて挽き肉を探したけれど、いくら探してもなかった。


(…………む……)

「咲…?衣は咲と一緒にハンバーグを口にすることが出来ないのか?」

衣ちゃんが少し泣きそうになりながら寂しそうにする。
私は少し考えてから、台所の奥の方にある引き出しから、小さめのハンマーを取り出す。


「挽き肉じゃない普通のお肉はあるから、潰して挽き肉の代わりとしてハンバーグをつくろう!」

「それでいいのか……?」

「うん、歯ごたえが強くなるけど問題はないよ」


――ドン、ドン、ドン、ドン


「楽しそうだ!衣もやりたいぞ!」
「うん、一緒にやろう?」


そんなこんなでようやく完成した特製・ハンバーグ。
私もそれを食べて美味しいと思ったけれど、衣ちゃんはすごく喜んでくれていて、なんだかその笑顔を見ていると私も嬉しくなった。


  *


チャプン……
夕食を食べ終わって少ししてから、衣ちゃんと一緒にお風呂に入ることにした。
体を洗って(背中の流しっこをした)お湯に浸かったが衣ちゃんはしばらく黙っていて、何かを考えているようだった。
私はこれには覚えがあった。今日の帰る時もそうだったし。そのときは衣ちゃんは私に問いかけてきたのだけれど。
案の定というか、何というか、私の予想通り衣ちゃんが質問してきた。


「なぁ、咲……そろそろ話してくれてもいいのではないのか?」

「うん…」


私は衣ちゃんが何のことについて話しているのかすぐに理解した。
衣ちゃんは俯いて話しているので、私にその表情を伺い知る術はない。


「衣は、とても心配だ。咲の様子が少しおかしいことに気づいてから、何をしていても衣の胸は不安でいっぱいになる」

「うん…」

「咲と衣で作ったハンバーグも絶品もの、頬が落ちそうなほど美味しかった。
いつでも咲と一緒にいると楽しいし、先程の背中の流しっこも楽しかった。咲は衣の友だちだから、だから……」

「……うん…」


衣ちゃんと私はお風呂から上がった。
私は栓を抜いてお風呂のお湯を抜いて、風呂場を先に後にした衣ちゃんの後について洗面所に行く。
その後着替えて、衣ちゃんの今にも消え入りそうな呼びかけを聞きながら、私は衣ちゃんを連れて私の部屋に向かう。


「……衣は咲が笑っていて欲しいと思うし、悲しそうにして欲しくないと思う。
咲が咲の姉君と仲直りするのも、家族一緒に暮らすのも、応援するし、出来るだけ協力したいと思う……
だがな、咲。咲から話してくれないと衣は何もすることは出来ないのだ……」

「……うん…」

「話してくれないか、咲?」

「………」


私と衣ちゃんはベッドに腰を下ろした。
私はその呼びかけにすぐに答えることが出来なくて、黙っていた。
すると、しかし、衣ちゃんは別に私をせかすようなことはせず、こちらをじっと見つめているのみだった。
私はその視線がとてつもなく辛くなり、顔を背けようとした、そのとき。

私の心の中に懐かしい声が響いた。

――咲、逃げちゃダメよ。

お姉ちゃんの声。
私の心臓はかつてないほどにどきどきしていた。

――逃げるの?

またしても。私は怖くなった。お姉ちゃんとはある些細なことで喧嘩したまま、仲直りすることも出来ずにいる。
もし、今衣ちゃんを信じることが出来なければ衣ちゃんとも、もしかしたら……

いやだ。それはいやだと思った。

そして、私は衣ちゃんにすべてを打ち明けることを、再び決心した。


「……衣ちゃん」

「何だ、咲?」

「……実は、私今好きな人がいるの」

「……!」


さすがに驚いた顔をする衣ちゃん。だけど、すぐにその事について私に聞いてきた。


「それは……一体誰なのだ?」

「ん…えっと、私の幼なじみで同じ麻雀部の男の子。覚えてない?」

「む…すまない、衣の記憶にはない……だが、咲がずっとおかしかったのは恋の病が原因か…」

「…………ううん…それだけじゃないの」

「??」


私のその言葉に不思議そうな顔を浮かべる衣ちゃん。だけれども、私はすぐに続けるようなことはせず、間を空けることにした。
ここから先を話すのは、さすがに心の準備が必要だった。私は自分の目の前にいる少女、天江衣を見つめる。
見た目は高校生になんて到底見えない少女。だけど……その瞳を見ていると、私はだんだんと不安が消え失せていくようだった。


「毎日…私、毎日その人のことを想って……お、お、お…」

「…お?」

――勇気を出して、咲!

「……オナニーしちゃうの!!」


静寂。私はこんなにも沈黙が辛いものだとは知らなかった。
衣ちゃんはじっとこっちを見つめていたが、ふと首を傾げて


「おなにー……?なんだ、それは?」


私の予想外のつっこみをした。


「へっ!?…えーっと、なんて言えばいいのかな?…オナニーって言うのは、うーんと…自慰行為、かな?」
「!?」


自慰行為という言葉で衣ちゃんはようやく意味を察したようだった。それから衣ちゃんはずっと黙っていた。
私は衣ちゃんが私の悩み事を聞いたことを後悔してしまったのかと、不安でいてもたってもいれなくなってしまった。
もしかしたら衣ちゃんは夜な夜なオナニーをしてしまう私に、呆れて友達でいることが嫌になっているのかと心配になってしまった。
私は、無我夢中で衣ちゃんに話しかけた。


「ごめんね、衣ちゃん。私、こんな事を相談しちゃって…こんな友達やだよね…?」

「…………」


衣ちゃんはただ黙っている。
私は衣ちゃんに話しかけて何がなんだか訳が分からなくなってしまった。
私は目をギュッと瞑り思いついたことをそのまま口に出していった。


「ごめんね、衣ちゃん。ごめんね、私は……私は……っ!こんな事、こんな事――――!!」

「咲っ!」


気がついたら何か暖かいものに包まれている感覚がした。衣ちゃんだった。
衣ちゃんはその小さい躯と小さい腕と小さい手では、私の体に完全に抱くことは出来ていなかったけれど、
それでも衣ちゃんは必死に私に抱きついていた。とても、暖かかった。

それは、衣ちゃんの体温が暖かかっただけなのではなくて、衣ちゃんの存在が暖かかったのだった。
衣ちゃんの言葉だけじゃない優しさが胸にしみてきて、気がついたら私の目からは目から涙が零れ落ちていた。

そして…私は気づいた。私は渇望していたのだと。人の温もりに飢えていたのだと。ようやく、気づけた。


「咲…………衣は咲の友だちだぞ……なにがあっても」

「でも、衣ちゃんはこんな事言われても迷惑……でしょう?」

「そんなことはない!……そんなことはないんだ……だから、だからっ…そんなに自分を責めるのではない、咲」

「衣ちゃん……ありがとう!」

「…………咲」

「ん……何、衣ちゃん?」

「キス、するぞ…?」

「へっ?」

「いや、咲が嫌ならば別に強要したりなどしない。だが、母上がまだ現し世にいた頃に
“寂しいときは人と触れ合うことが大事だ”と言っていた」

「わ、私は別に嫌じゃないけれど衣ちゃんは嫌じゃないの?」

「嫌なわけなどないだろう……咲」


そして衣ちゃんは唇を私の唇に重ねてきて……私たちはキスした。

ちゅ…ちゅ……っぱ

淫らな音が、私と衣ちゃんが唇を交わす音が、人と人とが触れ合う音が、私の部屋にやけに大きく響く。
私達はどちらからともなく、ベッドの縁に座った姿勢から体を倒してもつれ合ったまま寝ころぶ。
一旦口を離すと、私は確認の意味で衣ちゃんに問い掛けた。


「…っぱ、こ、衣ちゃん…こんなことしていいの…?」

「ちゅ…大丈夫だ」

「それに、衣ちゃんにはこういったのは――」


早いんじゃないか、その言葉は衣ちゃんに遮られた。衣ちゃんは怒ったように


「衣を子供扱いするなと言っているだろう!!それに衣はどうすればいいのかぐらい知っている!」


と言って、なんと衣ちゃんは私の口の中に舌を挿れてきて、私の舌に絡めてきた。
私はどうして衣ちゃんがそんなことを知っているのか少し疑問に思ったけれど、
衣ちゃんの舌で息が苦しくなって体の奥深くが不思議に熱くなって、思考が断絶されてしまった。

すると、なんだか私はどきどきしてきて、顔が熱くなってきたのを感じた。いつもの夜の自慰とは違う感覚。
人がいると言うこと。人と触れ合うということ。


(それとも、衣ちゃんとだからかな……?)

「…どうだ、咲?(確か、いつもとーかと一はこうしていたはず…)」


衣ちゃんも息が苦しくなったのか、口を離してなぜか自信満々に問い掛けてきた。


「……っふぅ、はぁ、はぁ……うん、なんか…体が熱くなる感じ…だよ……」


私はディープキスで息が絶え絶えだったため、辛かったがなんとか答えた。衣ちゃんは満足げに数回うなづいて、またキスしてきた。
長い、永いキスの後、ベッドに座り直して私が息を整えている間に、衣ちゃんは立ち上がって電気を消して私をベッドに押し倒してきた。
そして、私のパジャマの上を脱がせて、ブラジャーを上にたくし上げた。


「う…や、やはり咲は衣よりもずっと胸が大きいのだな……触るぞ…」


衣ちゃんは少し顔を赤らめて、私の胸を揉みしだいてきた。私の胸の頂点にあるピンク色の突起はすぐに硬く尖っていった。
衣ちゃんは私の乳首を指で挟んで、引っ張って、弾いて、転がした。

刹那。


「っあ、ふぁ……んぁ、あ…」


独りでやるときとは明らかに違う強い、電流が私を駆け巡る。私は自分の秘所が濡れてきているのに気づいた。
普段ならそんなこと、気になりさえしないのに、衣ちゃんにきっとこの後こんなにもいやらしく濡れたそこが見られちゃうんだ、
そう考えると一気に恥ずかしくなってしまい、余計に私の秘所は濡れていってしまった。その間も衣ちゃんは私の乳首を触り続ける。
私は、日々の自慰で体の各部が敏感になってしまっている私は、
衣ちゃんの前だからなるべく声を抑えようと思っても、あまりの快感に喘ぎ声を洩らしてしまう。


「あぁっ……や、ぁぁ…」


衣ちゃんは私の乳首から手を離し、(おそらく真っ赤になってしまっている)顔を覗き込んでこう言った。


「咲、そろそろこちらもいいのではないか?」

「こっち……?…っ!ダメェェェ!」


私はパジャマの下に手を伸ばす衣ちゃんに拒否の意を示すが、ぎりぎりのところで間に合わなかった。
衣ちゃんは私のパジャマの下を下ろして、驚いた顔をした。


「咲……これはまさか…」

「お願い…あまりじろじろ見ないで……」


私の秘所は既に濡れきっていて、下着もびしょびしょ、ベッドシーツもびしょびしょに濡れていた衣ちゃんは1度大きく息を吸うと、
私の下着を下ろして迷わず、露わになったそこに口づけた。衣ちゃんは小さく可愛らしい舌で、そこを一嘗めした。

その瞬間、私の腰はビクン、と持ち上がった。おそらく秘所を舐められるという未知の感覚に体が驚いてるんだと思う。
いや、軽い絶頂すら迎えたかもしれない。


「んあ!…あぁぁぁ!!」


私はそれだけで絶頂へと昇らされてしまう。さらに衣ちゃんの舌が私の愛液をなめ取るように動く。


「あぁ!んあ、ふぁ、ゃあぁ!!」


とめどなく続く絶頂。私の膝は痙攣し始めてしまいそうな程だった。
そして、衣ちゃんが私のクリトリスを舌で探り当てて刺激を与えた瞬間、私はかつてないほどの絶頂を味わった。


「っ~~~~~!!」


目の前が真っ白になって、何も考えることが出来ない感じ。そこで私の意識が飛んだ。


  *




「どうだ、咲?大丈夫か?」


気がつくと、衣ちゃんが心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。


「うん、大丈夫……ありがとう」


で、実際はどうかというと。かなりだるい。衣ちゃんが呼び掛けてたから起きられたけれど、
もし呼び掛けられなかったらきっと朝まで爆睡していたと思う。いや、朝を通り越して昼まで眠っていただろう。


「衣は心配で心配で……やりすぎてしまったと思ってた、すまない、咲」


衣ちゃんがすごく哀しいような、泣きそうな顔をして謝ってきた。
私はそんな衣ちゃんを見ていると、自分が衣ちゃんのことを本当に愛おしく思っていることに気づいた。

数ヶ月前、麻雀部に入る前にはその存在すら知らなかった少女。
麻雀大会県予選、決勝大将戦にて一緒に卓を囲んだ少女。大会後、「友だちになろう」と声をかけてきた少女。
友達として一緒に戦い、個人戦で共に全国行きを決めた少女。
そして、今。「悩み事が有るの」という私の言葉に真剣に向き合ってくれ、解決しようと尽力してくれた少女。

天江衣。

私は目に涙が溜まるのを感じた。だけど、私はそれを無視してしっかりと衣ちゃんの方を向いて答えた。


「ううん、そんなことないよ、衣ちゃん。衣ちゃんは私のことを心配してくれて、話を聞いてくれた……私、自分が他人の温もりに
飢えていたって気づいてなかった。きっと、気づいてくれたのは衣ちゃんだけだった。だから……だからっ……」


私は胸が急に苦しくなった。続ける言葉がどこかになくなってしまった。もっと伝えたい。そんなことがあるはずだ。きっとあるはず
なのに、見つからない。どこにもなかった。こんな薄っぺらな言葉じゃない、本当に心のこもった言葉が、見つからなかった。

沈黙ほど痛いものはない。その通りだった。
伝えなくちゃいけないと思う。衣ちゃんに。でも、丁度いい言葉はやっぱり見つからなくて……
気がついたら、私は衣ちゃんに抱きついていた。そして、何度も唱えるように言った。

――ありがとう、って。

“ありがとう”、それはとても簡単な言葉だけど、変に気取ってしまって薄っぺらになってしまった言葉よりも、
ずっと良い言葉だ、そう私は思った。最後に、私は衣ちゃんにこう約束した。


「明日。明日きっとその人に想いを告げてみせるから!」


衣ちゃんは笑って頷いてくれた。
星空を背に、指切りげんまん。私は自分の思いを再確認した。


(私……京ちゃんのことが大好き!……だから、絶対に告白する!)





2日目 終了