京太郎「はじめまして、清澄の須賀京太郎です。どうぞよろしくお願いします」
晴絵「赤土晴絵よ。こちらこそよろしくね」
京太郎「急にお邪魔してすみません。ですが、どうしてもお願いしたい事がありまして」
晴絵「何?私に出来る範囲でなら、そのお願いに応えてあげられるけど」
京太郎「…俺に、麻雀を教えてくれませんか?」
晴絵「はい?」
京太郎「ですから、俺に麻雀を教えて欲しいんです」
晴絵「えーと、何で私なのかな?」
京太郎「和から、赤土先生なら上手く麻雀を教えてくれるって聞きまして」
晴絵(和の奴…どうせなら前もって話くらいはして欲しかったよ)
京太郎「色々おかしな話ではありますが…どうかお願いします」
晴絵「…その前に、一つ聞いていいかな?」
京太郎「何でしょう?」
晴絵「須賀君はさ、どうして麻雀を上手く打てるようになりたいのかな?」
京太郎「それは勿論、いつか咲達みたいに強くなれたらなって…」
晴絵「悪いけど、それじゃあ引き受けられないね」
京太郎「っ!」
晴絵「私だって、今はプロ復帰に向けて色々努力しないといけないからね」
京太郎「それはブログを見て存じてます。ですが俺は…」
晴絵「何も私の都合だけでこう言ってる訳じゃないよ。ただ、君じゃ不足が過ぎるんだ」
京太郎「仰る通り俺は初心者です…しかし」
晴絵「けどそれよりも、君が強くなりたいという理由があまりに希薄すぎる」
京太郎「…」
晴絵「君は宮永咲という人間を間近に見てきたのだから、それに憧れるのは仕方ない」
晴絵「彼女は以前に麻雀をした経験があったとはいえ、相当なブランクもあったのだから」
晴絵「でもね…県予選で早々に敗退した君では彼女のようには決してなれない」
晴絵「まして、ここ数年のIHは男子より女子の方が強くなってる。だから…」
京太郎「…ってるよ」
晴絵「?」
京太郎「そんな事、言われなくたって分かってるよ!でもどうしようもないじゃないか!」
京太郎「俺は咲達の麻雀を打ってる姿に憧れたんだ!あんな風に打てたらなって思ったんだ!」
京太郎「自分には無理だって分かってても、その憧れは失せちゃくれねえんだ!」
京太郎「だから…だから俺は…」
晴絵「…そっか」
京太郎「それでもやっぱり、ダメですか?」
晴絵「…いいよ。引き受けてあげる」
京太郎「えっ?」
晴絵「お姉さんが、手伝ってあげるって言ったのよ」
京太郎「でも…さっきは引き受けられないって…」
晴絵「その気持ちが単なる憧れなら、私だって断ったよ。でもね…君にはそれ以上のものを感じたんだ」
京太郎「自分で言うのもなんですけど、俺…ズブの素人ですよ?」
晴絵「そうね。でも、君の場合はそれがかえってよかったのかもしれない」
京太郎「…どういうことでしょう?」
晴絵「実は私達、抽選会の前に宮永さんと道ですれ違ったの」
京太郎「そうだったんですか…それから、一体どうしたんです?」
晴絵「私を含め、全員がその圧倒的なプレッシャーにやられたよ…私は彼女が怖くて仕方なかった」
京太郎「…咲」
晴絵「須賀君、君は彼女を…あの圧倒的な存在をどう思っているのかな?」
京太郎「ポンコツです」
晴絵「へっ?」
京太郎「麻雀は勿論、勉強や料理はそこそこ出来るけど…それ以外は大概ダメダメな奴です」
京太郎「何よりアイツは方向音痴で…抽選の前もトイレに行ったら、そのまま迷子になりました」
京太郎「あの時のアイツは…相当必死だったと思います」
晴絵「あ…はははっ」
京太郎「赤土先生?」
晴絵「そっかー…そうだったんだ。それであんな風になってたんだ…ビビらされちゃったんだ…」
京太郎「だ、大丈夫ですか?」
晴絵「あーだいじょぶだいじょぶ。何と言うか…拍子抜けしちゃっただけだから」
京太郎「…それじゃあ、よろしくお願いしていいですか?」
晴絵「勿論!この阿知賀のレジェンドに、二言なんてないんだからね!」
京太郎「は、はあ」
晴絵「大船に乗ったつもりでいなよ。小鍛治プロに一矢報いた打ち手なんて、そうはいないし」
京太郎「ええ…まあそうなんですが」
晴絵「何?不満なの?」
京太郎「い、いえっ!決してそんなつもりで言ったんじゃ…」
晴絵「ふふ、怒ってないよ。実際一度はボロボロにされちゃったしね」
京太郎「赤土先生…」
晴絵「晴絵でいいよ。ボロボロにされた者同士、これから一緒に頑張りましょ?」
京太郎「…晴絵さん。ボロボロってのは余計ですよ!」
こうして生まれた二人の挑戦者。彼と彼女の物語は、これから始まる――――。
カン!
最終更新:2013年11月01日 23:10