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―― 和は決してそういう事が上手な訳ではなかった。

そもそも彼女はこういう事は初めてで、性的知識が豊富って訳でもないのだ。
寧ろ、こういう事を忌避するような潔癖気味の傾向さえあったのである。
そんな和が、縛ってろくに動けない男相手とは言え、上手に出来るはずなどない。
彼女が失敗して痛みを感じた回数は片手では足りないくらいだ。

―― でも…それでも気持ち良かった。

勿論、彼女はぎこちなく、失敗する事も少なからずあった。
でも、俺もまたそういう盛りであり、性的経験に飢えていたのである。
どれだけ微弱な刺激であろうとも、眼を見張るような美少女に奉仕されていたら興奮もしてしまう。
結局、俺は彼女の身体で四回射精させられ、その内、二回は膣内に放つ事になったのだ。

「はぁ…はぁ…」
「う…あ…ぁ」

そんな彼女は今、俺の身体にそっとのしかかっていた。
初めてで無理した所為か、その肩は大きく動き、必死に酸素を求めている。
しかし、それでも身体を冷ます事は出来ないのか触れる彼女の素肌はじっとりと汗ばでいた。
紅潮した肌を微かに震わせるその姿は可愛く、何とも庇護欲をくすぐられる。

―― でも…和は…。

そう。
ついさっきまで俺がされていたのは所謂、レイプという奴だ。
抵抗出来ないまま射精させられ、人としての尊厳を弄ばれたのである。
勿論、和は俺に対して異常なまでに尽くそうとしてくれたし、気持ち良かったのだが…まぁ、それはさておき。
ともあれ、俺が合意もなく、和に襲われたという事実は変わらない。

―― どうすりゃ…良いんだろうな。

そんな彼女に俺が掛けるべき言葉というのは…一体、何なのだろうか。
それはどれだけ考えても、俺の頭じゃ分からない。
でも、このまま沈黙を保ったままで良いとは到底、思えず…俺は何か言おうと口を開いた。

「…大丈夫…か?」

そう尋ねる言葉がどれだけ馬鹿らしいものなのか、俺にだって理解している。
今も尚、主導権は和が握っているままであり、俺はただ彼女がするのを受け止める事しか出来ないのだから。
しかし、それでも、そうなってしまうまで和の事を追い詰めたのは間違いなく俺である。
だからこそ、荒く息を吐く和の事が心配で…俺はついそう尋ねてしまった。

「ふふ…」
「ん?」

そんな俺の耳に届いたのは小さな笑い声だった。
吐息と共に漏らすようなそれに俺が聞き返せば、和は胸板にうずめていた顔をこちらへと向けている。
じっとりとした脂汗を拭う事もなく、俺を見上げるその顔はとても嬉しそうに見えた。
少なくとも苦痛なんてものは影も形も見えない事に、俺は安堵を覚える。

「やっぱり…須賀君は優しいですね」
「…んな事ないよ」

本当に優しければ、もっと良い方法があったはずなのだ。
和を追い詰めず…やんわりと彼女を説得する事が出来たはずなのである。
けれど、俺がやった事と言えば、和を追い詰め、射精させられただけ。
それが自嘲となって胸を突き、俺に落ち込んだ声を漏らさせた。

「普通なら…こういう状況で相手の事を心配したりしませんよ」
「和…」

瞬間、彼女が漏らした笑みはいつも通りのものだった。
さっきのように追い詰められたが故の狂気のものではなく…俺の知る原村和の笑みだった。
それに彼女の名前を呼べば、和はそっと俺の顔へと手を伸ばす。
そのまま頬を包み込むように触れながら、彼女は優しく俺を撫で始めた。

「そんな須賀君だから…私はこんなにも好きになったんです…」
「…ごめん」

そう謝罪する言葉には沢山の意味が込められていた。
ついさっき追い詰めた事も、和の好意に気付かなかった事もひっくるめて謝罪するそれに彼女はほんのすこしだけその笑みを曇らせる。
それはきっと…そこにある一番の意味が、彼女の好意に応えられないものだと知ってのものなのだろう。

「俺はやっぱり…和と付き合えない」

勿論…それを期待する自分がいないと言えば嘘になる。
だが、こうして身体を重ねる事になって…俺は確信した。
俺が傍にいても、和の狂気が加速するだけで…ろくな結果にはならない事を。
このまま彼女を受け入れても…俺はきっと和の期待には応えられない事を…俺は悟ってしまったのである。

「勿論…こんな事になってしまった責任は取る。だけど…俺は…やっぱり和とは友達であった方が…」
「良いんですよ…」
「えっ…」

その瞬間、和の顔が俺の顔へと近づいてくる。
そこに浮かんでいたのは、何もかもを許すような優しげな笑みだった。
何処か母性すら感じさせるそれに…俺は妙な違和感を抱く。
何かがおかしいと本能が警鐘を鳴らすが…しかし、俺はそれに気付けない。
何か気付かなければいけない事があるはずなのに…意識はそれを拒むようにスルーし続けているのだ。

「何も…宮永さんと別れてくれだなんて言いません。ただ…私の傍に帰ってきてくれれば…それで良いんです…」
「でも…それは」

ただ、それだけであるならば…と思う気持ちが俺にもあった。
しかし、毎日、一緒に居てそれだけで済むはずなどないのである。
俺は既に和の味を知ってしまったのだから。
こうして関係が続く中で、俺はどうしても期待し…そして彼女も迫ってくるだろう。
その時にまたさっきのように和を拒めるとはどうしても思えなかった。

「そうしてくれるなら…私は須賀君に美味しいご飯と私の身体をご馳走してあげます。男の人は…そういうの…好きでしょう?」

けれど、それでもその暖かな言葉は俺の心にジワジワと入り込み、決意を揺さぶる。
まるで期待してしまう醜い俺ごと受け入れてくれるそれに…ついつい頷いてしまいそうになった。
だけど…そうやって頷いたところで、俺は最終的に和を傷つけるだけだろう。
自分の身体すら捧げるような彼女の好意に応えられるほど、俺は迷いなく和の事を愛してやれない。
以前ならばまだしも…俺の傍には咲がいて…そして恥ずかしながら俺は少しずつ幼馴染に惹かれているのだから。

「…ごめん」
「そう…ですか」

だからこそ紡いだ俺の言葉に和は小さく俯いだ。
今にもキス出来てしまいそうなくらい間近に迫った顔を曇らせるそれに胸がズキリと痛む。
未だに和に未練を残す俺の心が、彼女にこんな顔をさせてしまった事に苦しんでいるのだ。
けれど、それはもう消し去らなければいけない自分である。
こうやって和のことを拒んだ以上、残していたら皆不幸になる感情なのだ。

「それなら仕方ないですね…」

そう言いながら和はそっとその両手を枕元へと伸ばした。
そのままゴソゴソと何かを探すその仕草が一体、何を意味しているのかは分からない。
胸の中にはこのまま解放されるのではないかという期待はあるが、それが実現するとは思えないのだ。
こうして身体を使ってまで絡め取ろうとした彼女がここで諦めてくれると思うほど、俺はもう楽観的にはなれないのである。

「じゃあ…これを見てくれますか?」
「…え?」

けれど…そんな俺にとっても、目の前に差し出されたそれは予想外なものだった。
銀色で四角いフォルムをしたそれは所謂、ビデオカメラという奴なのだろう。
その脇に着いたモニターを広げたそこには…さっきの交わりが鮮明に映し出されている。
恐らく俺が起きる前からセットしてあったのであろうそれに俺は呆然としてしまう。
それはただ目の前の光景が信じられないからだけではなく…彼女の意図を察する事が出来なかったからだ。

「良く撮れているでしょう?私の顔まで…ばっちりですね」

そう。
枕元から撮影されたそれは俺の顔を殆ど映していないのだ。
代わりにそこに映しだされていたのは裸になった和である。
俺の上で腰を振るい、少しずつ艶めいた声をあげるその様が…まさしく無修正で映しだされていた。
そんなものを俺に見せて一体、どうするつもりなのか。
それがどうしても分からない俺の前で、和が再びニコリと微笑んだ。

「もし須賀君が私に従ってくれなかったら…私はつい悲しくて…これをネットに流してしまいそうです」
「っ…!」

瞬間、ゆるやかに漏らされた言葉に俺は背筋を凍らせた。
だって、それは暗に従わなければ、これを流出させると…和はそう言っているのである。
勿論、それが流出した所で、俺の顔なんて殆ど映っていない以上、何ら問題はない。
だけど…それはあくまでも…俺に限った話なのだ。

「そうなったら…私、生きていけませんね」

そう。
これが流出してしまったら…和は何も知らない世間の人間から非難され、軽蔑される事だろう。
いや、下手をしたら警察が動きだすような大事件に発展するかもしれない。
その中で…この繊細で傷つきやすい少女がどれほど傷つくのか…俺には想像もつかなかった。
下手をしたら…本当に和は自分の命を絶ってしまうかもしれない。
その想像に俺の背筋は凍え、表情が強張った。

「でも…須賀君は私の事…護ってくれますよね…?」
「あ…」

その声には…無上の信頼が溢れていた。
ここまでした自分を決して見捨てられないという確信がその言葉にはあったのである。
だけど…俺はそれを拒むべきなのだろう。
そんなもの流出させた和の責任なのだと…そう切って捨てて…下らない考えだと教えてやるべきなのだ。

―― でも…もし…本気だったら…。

いや…恐らく和は本気だ。
そうでなければこんな監禁まがいな真似をして俺をレイプしたりしない。
既に和はグレーゾーンを踏み切って、クロの世界へと入り込んでいるのだ。
そんな彼女が…今更、自分可愛さに躊躇するはずがない。
俺を手に入れる為に彼女は一度、自分の身体を投げ捨てているのだから。

―― その後、彼女がどうするつもりなのかは俺には分からない。

けれど…決して無事では済まない事は確かだ。
それを容易く想像できる選択が出来るかと言えば…答えは否である。
こうして監禁者と被監禁者という関係になっても…俺はまだ和の事を心の何処かで好いているのだから。

―― こうして拒んでいるのだって…俺は和の事を想っているからだ…。

そんな彼女を谷底に突き落とすような真似を出来るほど…俺は決断力に溢れた人物じゃない。
寧ろ、普段から咲にヘタレだとそう罵られているような男なのだ。
一番、被害が少ないと分かっているその非情な選択をどうしても選べない。
けれど、咲を裏切るような言葉も紡げないまま、無為に時間だけが流れていく。

「何を迷うんですか…?ここで頷けば…毎日、気持ち良くなれる上に…皆、幸せになれるんですよ…」
「……」

そう囁く彼女に…俺はそれが俺たちだけの問題ではない事を悟った。
こんなものがネットに流出したら…麻雀部の存続だって危うくなる。
恐らくほぼ確実に出場停止、下手をすれば部活動の停止だってありえるだろう。
今更ながら気づいてしまったそれに…俺はもう…拒む事が出来なかった。

「…分かった…」
「…あぁぁっ…」

その言葉に和は嬉しそうな声で答えた。
まるでその身体をブルリと震えさせるほどの歓喜を見せる彼女に…俺は身体からふっと力を抜く。
恐らく和を拒む為に無意識の内に入っていたのであろうそれが虚しく霧散していくのだ。
それに完全に自分が陥落してしまったのを感じる俺の顔を和が愛しそうにゆっくりと撫でる。

―― でも…その目からは涙が溢れていた。

それは自分の思い通りになった事の喜びなのか、或いはついに踏み越えてはいけない一線を超えてしまったが故なのか。
あくまで他人でしかない俺にはどうしても分からない。
しかし…それでも…それが決して正しいものではない事くらいは伝わってくる。
まるでわずかに残った理性を洗い流すようにその涙は痛々しく、そして悲しいものだったのだから。

「和…もう…抵抗なんてしないから…手錠を外してくれないか?」

だからこそ紡いだ俺の言葉は、諦観に溢れていた。
もう抵抗しても無駄なのだと…既に俺は蟻地獄へと嵌ってしまった後なのだそう認めてしまったからなのだろう。
けれど、そんな俺にも…一つだけ出来る事が…いや、するべき事がある。
それを果たすまでは…俺は心の奥から湧き上がる疲労感に身を委ねる訳にはいかないのだ。

「じゃあ…その前に…須賀君から誓いのキスしてくれますか…?」
「誓い…?」
「えぇ…絶対に私のことを裏切らないって…そう信じられるように…須賀君から…キスを下さい…」

泣きながらそう交換条件を出す和に俺はほんの少し逡巡する。
既にファースト・キスはこの前、咲に奪われているとは言え、自分からするのは初めてなのだ。
さっき無理矢理、童貞を奪われたばかりの俺にとって、それはほんの少しばかりハードルが高い。
その上、俺の身体は拘束されっぱなしで…ろくに動かせないのだから、迷って当然だろう。

「ん…」

けれど、その躊躇いも、幸せそうに目を閉じて、俺を待つ和の顔を見たら吹き飛んでしまう。
例え、その頬を歪んだ陶酔と幸福感に紅潮させていても…和はとても可憐で…そして綺麗なのだ。
そんな彼女に今にも触れ合いそうな距離でキスを強請られたら…我慢なんて出来るはずがない。
心の中で咲に謝罪しながら、俺はそっと首を起こし、和の唇に顔を近づけていく。

「ふゅぅっ!?」

その唇がそっと和に触れた瞬間、彼女の手が俺の首の後へと回った。
そのまま顔を無理矢理持ち上げるようなそれに俺は驚きの声をあげる。
しかし、俺を捉えた和の手が手心を加える事はなく…ちゅっちゅと何度も粘膜を触れ合わせた。
まるで子どもが親愛を必死に伝えようとするようなそのキスに俺の思考も少しずつ蕩け、胸が再び興奮を浮かばせる。

「ふふ…っキスって…とても良いものですね…。我慢していて…正解でした」

数分後、俺の唇から離れた和は、うっとりとしながらもそう言葉を口にする。
セックスの最中にもキスだけはしなかったので、彼女にとってこれはファーストキスなのだろう。
それに値するものであったかは途中から受け身であった俺には疑問ではあるが…その顔には辛そうなものは何もない。
それに安堵を覚えた瞬間、俺の頭は優しくベッドへと戻され、和の腕はそっと枕元へと伸びた。

「では…今、ご褒美をあげますね」

そう言って和は俺の手錠に小さな鍵を突っ込んだ。
そのままカチャカチャと数回ほど音がした瞬間、それは口をパカリと開く。
拘束能力を失ったそこから解放された手は微かに痺れ、ジィンとした感覚を広げた。
ずっと同じ姿勢のまま固定されていたのだから、それも当然なのだろう。

「大丈夫…ですか?辛いところ…ないですか?」

そんな俺に心配するように言うその言葉は和の本心なのだろう。
彼女とて、出来ればこんな手段は取りたくなかったはずだ。
それは申し訳無さそうなその瞳を見れば良く分かる。
けれど、和にとってはそんな逡巡すら二の次で…大事なのは俺を手に入れる事だったのだ。

「…あ…」

そんな彼女に…俺がこれからどうしてやれば良いのかは分からない。
和の感情に対して…俺はちゃんとした答えを持っていないのだから。
しかし、それでも…俺は未だ涙の跡を残す和の頬を拭ってやらなければいけない。
そして…俺がこんなになるまで追い詰めてしまった彼女の事を…ぎゅっと抱きしめてやらなければいけないのだ。

「ごめんな…俺…和をこんなにさせて…本当に…最低だ…」

そうやって謝られたところで、和が困る事も…俺には分かっていた。
しかし、それでも…俺は和に対して謝る事しか出来なかったのである。
大事な部分が壊れてしまったその身体を抱き締めながら…彼女の涙を拭いながら…謝罪する俺。
そんな俺に…和は困惑するような表情を見せながらも…そっと頭を撫でてくれた。

「じゃあ…その分…護って下さい…一生…護り続けて下さい」
「…あぁ」

ただ感情を自責の感情をぶつける事しか出来ない俺を和は受け止めてくれた。
その上で耳元で囁くその声に…俺は抗う気力を持たない。
もう俺の心は諦観と自責に満ちていたのだから。
その両方を慰撫する提案に抗えるはずもなく力なく頷いた。

―― 勿論…その果てでどうなるのかは俺にも分からない。

こうして和に屈した先で、俺に見えるのは破滅だ。
けれど、俺はそれを出来るだけ回避するように立ちまわるべきだろう。
こうして壊れてしまった和がまた元に戻れるように…俺は最大限努力するべきなのだ。
その為にはもう…咲の事を構ってやる余裕はない。
手のかかる幼馴染の事は心配だが…俺はそれ以上に手のかかる和の面倒を見なければいけないのだから。

「ふふ…まるで…プロポーズみたいですね…」
「そう言うのは…また今度な」

そう覚悟を決めたとは言え、さっきのそれをプロポーズと言われるのはやっぱり抵抗があった。
正直、今の俺には明日からの生活だって想像出来ないし、何より俺は頷いただけなのである。
勿論、こうして和を選んだ以上、責任を取るつもりではあるが、さっきのそれはあまりにも格好悪い。
何より…まだプロポーズなんて出来る年頃ではないのだから、後日改めて俺からという形の方がお互いに良いだろう。

「じゃあ…須賀君の事…アナタって呼んで良いですか?」
「ぅ…」

けれど、胡乱な瞳を鈍く光らせる和に俺の言葉は届かなかったらしい。
その頬を幸せそうに緩ませながら、俺に尋ねてくる。
勿論、俺にそのこそばゆい呼び方を拒否する権限などあろうはずもない。
俺の弱みは既に和が握っている以上、俺には従う道しかないのだから。

「…二人っきりの時だけな」
「えぇ…勿論です…二人だけの…秘密の呼び方ですね」

それでも被害を最小限にする為に紡いだ言葉に、和は上機嫌に頷いた。
それは恐らく『二人だけの秘密』 という響きが嬉しかったというよりも、彼女が元々そのつもりだったからだろう。
首肯する和の仕草には躊躇いはなく、また嬉しくて堪らないといったものだったのだから。

「さぁ…アナタ。まずは…ご飯を食べましょう?」
「もう出来ているのか?」
「えぇ」

そんな彼女はそっと俺の腕を抱き寄せながらベッドから立ち上がらせようとする。
それに従いながら言葉を紡げば、和はニコリと笑みを見せた。
普段の彼女とは違う何処か誇らしげなそれは褒めて欲しいと言っているようである。
それだけを見れば…何時もよりも少しだけ子どもっぽいだけの和に、けれど、安堵する事は俺には出来なかった。

「アナタの好物…一杯、作ってるんですから」
「それは嬉しいけれど…先に着替えないと…」

そう。
俺は殆ど制服も肌蹴たままで和は裸なのだ。
そんな状況で、家の中を出歩くのは流石に恥ずかしい。
何より出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる和の身体は目に毒なのだ。
正直、その艶やかな肌が視界で揺らぐだけで、四回は絞られたムスコが元気になってしまいそうなくらいに。

「別に良いじゃないですか。この家は私とアナタだけですよ」
「親御さんは…?」
「勿論、今日も泊まりです」

ニコリと笑う和の言葉は誇らしそうなものだった。
そこにはストーカー事件の際に垣間見せた寂しさはない。
まるで俺だけが居れば世界が幸せなのだと言わんばかりな笑みを見せている。
それに微かな寒気を感じながらもまったく恥部を隠さない彼女に興奮が高まり、一部分が膨張しそうになっていく。

「い、いや、でも…ストーカーだっているんだろ?そいつにもし和の裸を見られたら俺は…」
「ふふっ」

それでも何とか説得しようとした俺の前で、和が小さく笑った。
さっきのような誇らしそうなものではなく、ついつい漏らしてしまったと言わんばかりのそれに俺は首をかしげる。
一体、そんな風に笑われるような変な事を言ってしまっただろうか。
そう思い返すものの、彼女の身を心配する俺の発言は場違いなものとは思えなかった。

「ストーカーなんて最初からいませんよ」
「…え?」

瞬間、聞こえてきたその声を俺は最初、信じる事が出来なかった。
それも当然だろう。
だって、和はあのストーカー事件で、とても恐ろしい目にあったのだから。
下手をすれば男性恐怖症になってもおかしくはないほどのその体験を利用するだなんて到底、思えない。

「脅迫状も…何もかも全部私の自作自演です」

だが、そんな俺の思考を打ち砕くようにして和は再び言葉を口にする。
現実を無情なまでに知らせるそれに俺は崩れ落ちてしまいそうになった。
それは決して和が俺に対して嘘を吐いていた事がショックだからだけではない。
トラウマさえも利用出来てしまうくらいに…今の和がおかしくなっている事が…辛くて仕方がないのだ。

「それより…私の事…心配してくれてるんですね…」
「ぅ…」

そんな俺の身体に和がそっと寄りかかってくる。
身体そのものをすり寄せるようなそれに俺は否応なく和の身体の柔らかさを意識してしまうのだ。
自然、下腹部でムスコがムクムクと起き上がり、海綿体に血が巡っていく。
そんな自分を何とか抑えこもうとするものの…俺の胸板に押し付けられる柔らかな双丘にはどうしても勝てなかった。

「嬉しいです…胸の奥が…弾けてしまいそうなくらいに…」

そう言ってうっとりと微笑む彼女から俺はそっと目を背けた。
そんな幸せそうな和を見ると、今度は自分から襲いかかってしまいそうだったのである。
しかし、こうして和を支えるコトを選んだとは言え、俺はそこまで吹っ切った訳じゃない。
流石に自分から和を求めるのは未だ恋人である咲への手酷い裏切りにしか思えず、俺は目を背けたのだ。

「だから…良いんですよ」
「…えっ?」

そんな俺の耳に届いたのは俺の首筋に手を回す和の声だった。
まるで自分の方へ俺の顔を導くようなそれに視線を向ければ、そこには何もかもを見通すような瞳がある。
俺の中の薄汚い欲望すら見透かしているようなそれは…気まずくて仕方がない。
だが、まるで底の見えない井戸ような濁った瞳には妙な力があって…俺の意識はそこへと引きずり込まれていく。

「私のコトが欲しくなったのなら…いつでも言って下さい。私は…アナタの妻なんですから」

そう言いながら自慢げに微笑む和の中で、俺達はもう結婚しているらしい。
けれど、俺はそれに対して、反論する事も出来なかった。
それは決してドンドンと既成事実をエスカレートさせていく彼女のことが恐ろしかった訳じゃない。
寧ろ、俺の欲望ごと受け止め、肯定しようとしてくれている和に対して胸が詰まり、ムスコが反応してしまったからだ。

「それとも…アナタは責められる方が好きですか?私は…不勉強ですけれど…でも、アナタが望むなら…」
「い、いや!今は…良いから!」

その言葉と共にさらに擦り寄ってくる和を俺は何とか引き剥がした。
それは少しだけ乱暴なものになってしまったのが心苦しいが仕方がない。
何せ、そうやって和の事を引き離さなければどうにかなってしまいそうなギリギリのラインだったのだから。
打ちのめされた身体を奮い立たせるような欲望に、俺はもうちょっとで負けてしまいそうだったのである。

「そ、それより…飯食べようぜ。俺もお腹すいたし…さ」
「ふふ…そうですね…」

それを誤魔化そうとする俺の言葉に和は嬉しそうに笑った。
まるでそんな俺のごまかしなんてお見通しだと言わんばかりのそれに、少しだけバツが悪い。
とは言え、この状況で和を騙せるような話題なんて思いつくはずもなく、俺は力なく肩を落とした。

「その後は一緒にお風呂に入りましょうね…」
「え…?」

そんな俺の腕を愛しそうに抱きなおす和に、俺は言葉を失った。
正直、目の前で裸になられているだけでも辛いのに、このうえ一緒に風呂なんて入ったらどうなるのか。
それこそ火を見るよりも明らかであるが故に…和は反論を許さない。
スタスタと俺を引っ張るように歩き…部屋から引きずりだされていく。
その後、リビングに降りた俺は和に抱きつかれながらテーブルに並ぶご馳走を一つ一つ丁寧に口に運ばれて… ――




―― 結局、その後の風呂で我慢出来なくなってしまった俺はその日、原村邸に泊まる事になってしまったのだった。






―― それからの俺の生活は少しだけ様変わりした。

朝、咲に起こされてから学校へ。
そのまま気心の知れた友人たちと話しながら青春を過ごす。
昼休みは咲と一緒に昼食を食べ、放課後になったら彼女と一緒に部活へ顔を出すのだ。
それが終わった後は咲を家まで送り、俺もまた住み慣れた我が家へと帰る。

―― でも、いつも通りなのはそこまでだ。

その後、俺は和の家へと足を運ぶ。
それは彼女が俺にそうして欲しいと望んだからだ。
出来るれば毎日…自分に会いに来て欲しいと…和は俺にそう言ったからである。
勿論、彼女自身を人質に取られている俺に拒否権などあろうはずもない。
結果、俺は幼馴染や親に嘘を吐きながら、今日もこうして和の家を目指している訳である。

―― それに申し訳なさを感じないかと言えば嘘になる。

俺だってこんな状況が正しいとは欠片も思っていないのだ。
こんな風に咲や親に嘘を吐き続けるような関係が永遠に続く訳がないのだから。
しかし、そうと分かっていても…完全に絡め取られた俺は、和の家に向かうしか無い。
その現実に小さくため息を吐きながら、俺は夕暮れ時の住宅地で肩を落とした。

―― せめて…咲にだけは…伝えたいんだけれど…。

純粋に俺に対して好意を示してくれている幼馴染。
そんな彼女に対して、俺はまだ答えを保留したままだった。
勿論、恋人面しながらも裏では彼女を裏切っている今の状況が最低である事くらい分かっている。
だが、和は俺が咲を振る事さえも許さなかったのだ。

―― 和はそれをインターハイで優勝しなければ長野に居続けられないからだって言っていたけれど…。

勿論、それは嘘じゃないのだろう。
和自身の口から語られるそれはとても悲しい響きであり、嘘など欠片も見当たらなかったのだから。
その為に…咲の力を利用しようとしている和に思う所がない訳じゃないが…しかし、理解出来ない訳じゃない。
既に犯罪行為を犯し、俺のことを脅迫している彼女にとって、それはもう割り切った事なのだろう。

―― でも…多分、それだけじゃない。

そう思うのは和が咲の事を誰よりも意識しているからだ。
俺の傍にいる時でさえ明確な敵意を浮かべる咲の事を…和がただで済ませるとは思えない。
恐らく…和はジワジワと咲の事を傷つけるつもりなのだ。
それらしく聞こえる正当化の理由を掲げて…少しずつ咲を締め上げようとしている。

―― でも…俺に何が出来る…?

その為の道具に成り下がっている自分に…俺は幾度と無くそう問いかけた。
しかし、その言葉は無駄に胸の中に響いて…答えなど呼び起こさない。
結局…俺にだって分かっているのだ。
誰も傷つけない選択なんて無理だって事を…どちらかを犠牲にしなければ、誰も護ってやれない事を…俺も理解しているのである。

―― でも…まだ…まだ可能性は0じゃないはずなんだ。

まだ…和が正気に戻ってくれれば…可能性はある。
二人が手を取って…インターハイを目指す道だってあるはずなのだ。
そんな理想めいた考えを脳裏を横切り…ろくに行動を起こす事が出来ない。
結果、俺に出来るのはただ和の言いなりになる事で…迷いながらも彼女の家のインターフォンをそっと押し込んだ。

―― ガチャ

「アナタっ!」
「うわっ」

瞬間、俺の胸の中に一人の女の子が飛び込んでくる。
制服の上にそのままエプロンを着けた彼女はまるで弾丸のように扉から飛び出し、俺へと一直線へと向かうのだ。
そんな彼女 ―― 俺の妻であるらしい原村和を俺は驚きの声をあげながら抱きとめる。
それに安心したのか、和は一つ吐息を漏らしながら、俺の胸の中にスリスリと頬を擦るのだ。

「おかえりなさい…っ」
「…ただいま」
「ふにゅぅ…ぅ」

そのまま幸せそうに言う和に、俺は小さくそう返した。
それに和がさらに目元を蕩けさせる姿に俺の胸は興奮を浮かばせる。
それを見て見ぬふりをしながら、俺はそっと和の背中に腕を回した。
そのまま彼女の背中を撫でる俺に、和は甘えた猫のような可愛らしい声をあげる。

「でも、危ないから飛び出すのは止めろって」
「ふふ…大丈夫ですよ。ちゃんとアナタだって確認してから飛び出していますから…」

そう和が言うものの、やっぱりあまり安心は出来ない。
この家は決して俺たちだけのものでもないし、和はつい先日までストーカー被害に悩まされていたのだから。
もし、何か間違って、親御さんに抱きついてしまったら、言い訳だって大変だろう。
そう思って何度も注意したのだが、和がそれを聞き入れてくれた事は一度もなかった。

「それより…早く入りましょう?私たちの家に…」
「…あぁ、そうだな」

誘う和の言葉に俺は小さく肩を落としながらも従った。
そっと彼女の背中を解放し、和が離れられるようにしたのである。
瞬間、和は小さく笑ったかと思うと、俺の腕をぎゅっと胸の谷間を抱き込んだ。
そのまま先導するように歩く彼女に従って、俺は原村邸の玄関へと足を踏み入れる。

「今日もお料理一杯、頑張ったんですよ」
「そっか。それは楽しみだな」

そんな俺に小さく振り返りながら、和は自慢げに言葉を漏らす。
まるで小さな子どもが褒めて欲しいと言外に訴えるようなそれに返した言葉は嘘ではない。
彼女の料理はとても美味しくて、また今も発展途上にいるのである。
日々、俺の嗜好に合わせてくれる彼女の料理は本当に楽しみだった。

「でも、まだ出来ていないので…座ってゆっくりしてて下さい」

とは言え、俺は咲を家に送ってすぐに和に会いに来たのである。
ついさっき別れてから一時間も経ってはおらず、その間に買い物から料理まで出来るはずもない。
だが、育ち盛りでもある俺の身体は既に空腹を訴え始め、小さく腹を鳴らしている。

「いや、俺で良ければ手伝うよ」

そんな状態でゆっくりなんてしておられるはずもない。
俺の身体はもう飢えて、早く和の手料理を味わいたくて仕方がなかったのだ。
それに何より、和一人にだけ家事を任せて、他人の家でふんぞりかえるような度胸は俺にはない。
未だ原村邸に入る事に緊張を覚える俺にとって、じっとしている方が逆に辛かったりもするのである。

「でも…お仕事大変でしたでしょう?」
「…」

そんな俺に返す和の言葉に…俺はなんと言えば良いのか分からない。
それは…和がその言葉を本気で言っているからだと…俺は理解しているからだ。
彼女は本気で…俺が仕事から帰ってきたばかりだと思っている。
少なくとも…つい一時間前に別れてしまった事なんて完全に忘却しているのだ。

―― 彼女がおかしいのは…それだけじゃない。

俺も…最初はただの冗談か表現のたぐいだと思っていた。
しかし、こうして数日一緒に過ごしている間に…和が本気でそう思い込んでいる事に気づいたのである。
今の和にとって、俺は最愛の夫であり、この家は俺が汗水たらして手に入れた城なのだ。
そしてその事実は俺が何を言っても歪む事はない。
俺が同級生であり、親御さんが頑張って買った事実を完全に消去した彼女には…何を言っても無駄だったのである。

―― でも、学校での和はコレ以上ないくらいに『正常』だった。

いや、寧ろ、おかしくなる前よりも社交的で明るくなった。
まるで自分の狂気をこの時間にぎゅっと詰め込んだように…学校での和は普通の少女として生活している。
優希の奴とも仲直りし、クラスや部活の中にも溶けこみ始めているその姿を見て、俺が違和感を覚えたのは一度や二度ではない。

―― それが良い事なのか悪い事なのかは…俺には分からない。

勿論、少しずつ社交的になっていく和の変化は喜ばしいものだ。
優希の奴とも仲直りした事に、俺は心から安堵している。
だが、その一方で…こうして二人っきりの時の和はどんどんとおかしくなっていく。
まるで心のバランスを取ろうとするように…思い込みを激しくしていくのだ。

「アナタ?」
「あ…ごめんな」

でも、俺はそれにどうしてやれば良いのか分からない。
その無力感に浸っていた俺の反応が遅れた事が気になったのだろう。
和は俺に気遣うように尋ね、その瞳に心配を浮かばせていた。
そんな彼女に俺の心労の原因が和だと言う訳にはいかない。
結果、心配するその声音に、俺は首を振りながら答えるしかなかった。

「和があんまりかわいいから見惚れてた」
「も、もう…アナタったら…」

そう言いながらも和は朱色を頬に交わらせる。
そのままついっと視線を背けるが、その頬は嬉しそうににやけていた。
勿論、和だって俺の言葉が冗談だと分かっているのだろう。
それでも我慢出来ずに浮かべる喜悦の感情に俺もまた笑みを浮かべながら、リビングへと足を踏み入れた。

「まぁ、どれだけ疲れてても和の手伝いくらいは出来るよ」

その言葉は和の思い込みを暗に肯定するものだった。
日々、少しずつおかしくなっていくような和の背中を押すものだったのである。
それはきっと…してはいけない事なのだと鈍い俺にもなんとなく理解できていた。
しかし、下手に現実を突きつけても、和はまったく信じないし…もしかしたら追い詰めるだけになるのではないだろうか。
そう思うと俺はどうしても突き放す事が出来ず…そうやって迎合の言葉を紡いでしまう。

「じゃあ…お皿を並べたりして貰って良いですか?」
「勿論。そのくらいお安い御用だ」

そんな俺に和が指示してくれるのは子どもでも出来るような仕事だった。
だが、コレ以上の仕事を任されたところで、俺には何も出来ない。
何せ、俺は今までろくに料理なんてしたことはなく、家事全般の経験値が圧倒的に不足しているのだから。
そんな俺が下手に手を出したところで、幼い頃から家事を任されてきた和の邪魔をするだけだろう。

―― だけど…もうちょっと色々出来るようにならないとな。

ここ最近の俺の立ち位置は部員と言うよりは雑用に近いものになっていた。
買い出しとなれば真っ先に手を挙げるし、掃除やお茶淹れなんかの細かい仕事は率先してやっている。
それは皆に大会に集中して欲しいから…と言っているが…まぁ、半分は嘘だ。
勿論、完全に嘘ではないが…それよりも大きいのは咲の事だったのである。

―― 俺は…アイツに何もしてやれてない…。

未だ事実を話せていない幼馴染。
そんな咲に…俺は最近、メールすらろくに返す事が出来ていない。
こうして原村邸にいる時は、携帯を手に取る事さえも許されないのだから。
唯一、和の監視を逃れられるのはトイレの中だけではあるが、それだって毎回行ける訳じゃない。
それにあの寂しん坊で甘えん坊な咲が傷ついていない訳がないのだ。

―― だから…せめて雑用くらいは…。

そう思う俺の行動はきっと自己満足なんだろう。
咲の事を思うならば…もっと早くに彼女に本当の事を伝えるべきなのだ。
しかし、そう分かっていても…俺は贖罪にもならないような行為ばかりを繰り返している。
そんな自分に強い自嘲を湧きあがらせながら、俺は戸棚へと近づき、和が指定した皿を取り出していく。

「後は味見もお願い出来ますか?」
「あぁ…うん、大丈夫。すげー美味しいよ」
「ふふ…良かった…」

その間にも俺達の仮初の夫婦生活は続いていく。
それだけであれば良いものを…まるで新婚そのものなそのやり取りに…俺の自嘲は薄れていった。
まるで自分の醜さから目を背け、和に依存するようなそれに…しかし、感情は止まらない。
ダメだとわかりながらも…俺の意識もまた幸せな和との生活に引きずり込まれていくのである。

「じゃあ後は盛りつけて…完成です」
「おぉぉ…」

そう言って和が運んでくる料理は立派なものだった。
ほんの一時間ちょっとで作ったとは思えないそれらは見ているだけでも食欲をそそる。
それを感嘆の声という形で表現する俺に和が小さく笑った。
何処か微笑ましそうなその表情に俺は気恥ずかしさを覚えながら、料理をテーブルへと運んでいく。

「それでは…頂きます」
「…頂きます」
「はい。どうぞ…」

数分後、並んだ料理の前で俺たちは手を合わせながら夕食を開始する。
けれど、俺の前には未だ箸やスプーンが置かれてはいない。
代わりに俺に触れ合いそうなくらい近くに座った和に、スプーンを差し出されるのだ。

「さぁ、アーンしてください」
「う…」

そう言いながらお漬物を差し出す和に俺は言葉を詰まらせる。
こうした生活が何日か続いているとは言え、やっぱりアーン攻撃というのは気恥ずかしい。
そういったバカップルめいたやり取りに憧れた事はあるが、それはあくまで二次元の事。
実際に現実となって目の前に現れるとくすぐったくて仕方がないのである。

「なぁ…やっぱり…俺の分はナシなのか?」
「えぇ。アナタにお食事をさせてあげるのは…私だけなんですから」

そんな俺の言葉に和は穏やかな笑みを浮かべる。
でも、それは一片の反論すら許さない穏やかさだった。
まるでこれが自分のするべきことなのだと硬く信じているが故の穏やかさに俺はそっと肩を落とす。
だが、それでも給餌のような真似を強要されるのは我慢出来ず、俺は小さく口を開いた。

「いや…でも恥ずかしいって…」
「二人っきりなんですから…大丈夫ですよ。どんなアナタだって…私は受け入れてあげますから…ね」

有無を言わさないその言葉に、俺は今日もまた抵抗を諦めるしかなかった。
こうして和が譲らない以上、俺が選べるのは和に従うという道だけ。
それに…そろそろ俺の空腹も限界で、我慢出来そうもなかった。
結果、俺は恥ずかしながらも、差し出された箸に食いつくしかなく… ―― 

「…あーん」
「はい。あーん…」

そう言って俺に食事を運ぶ彼女の手つきはもう手馴れていた。
ここ数日の給仕でコツを掴んだのか、あまり違和感は感じない。
流石に自分と食べる時と変わらない…とまでは言わないが、食べづらいとも言い切れない不思議な感覚。
それに顔を赤く染めながら、俺は運ばれる料理を咀嚼し、空腹を訴える胃袋へと落としていく。

「ふふ…アナタ…とても可愛いです…」
「俺としては格好良いと言ってくれた方が嬉しいんだけどなぁ…」

そんな俺に母性でも擽られたのだろう。
優しげに微笑む彼女の口からは何とも不名誉な言葉が飛び出した。
勿論、それは決して悪い意味で言っている訳ではないのだろう。
しかし、そう思いながらも可愛いと言われるのは我慢出来ず、俺はそっと肩を落としたのである。

「アナタが格好良いのは何時もの事ですから…」
「そりゃ何とも…嬉しいけれど…さ」

励ますようなその言葉はきっと和の本心なのだろう。
真横から俺を見据えるその瞳には陶酔が浮かんでいるのだから。
だが、その奥にある暗い輝きもまた俺だけに向けられているのを見て、疑うはずはない。
しかし、だからこそ、こうした歪な状況になっていると思えば、心から喜べるはずはなく、俺はぎこちなく言葉を返した。

「それに…普段、格好いいからこそ可愛さが引き立つというものですよ」
「ギャップ萌えって奴?」
「ギャップ…もえ?何ですかそれ?」

そんな俺の言葉に話題は少しずつズレていく。
それに微かに安堵しながら、俺達は下らない会話を続けた。
かつて…一番、俺達が親密であった頃に戻ったような下らないそれに心が安堵を覚える。
しかし、彼女がおかしくなってしまったという事実だけはどうあっても覆らず…俺の心に重苦しくのしかかったままだった。

―― そんな俺達が食事を終えたのは一時間ちょっと経った頃だった。

二人分の食事を一つの食器でやっているのだ。
その速度は自分たちで食べるよりも遅くなるのが当然だろう。
その上、和の料理は基本的に多めに作られており、俺でさえお腹が一杯になるくらいだ。
それらを食べきって一段落するまでに一時間は早い方だろう。

「ふぅ…」
「ふふ…どうでした?」
「今日も最高のご馳走だったよ」

文字通り一息ついた俺にお茶を淹れる和の言葉に、俺はそう賛辞を送った。
実際、今日の夕食も俺の味覚に合わた素晴らしいものだったのである。
正直、下手な定食屋で食事するよりかは和の手料理を味わった方が遥かに良い。
そう思えるほどの出来は俺にとって『最高』と言っても過言ではないものだった。

「何時もありがとうな」
「嬉しい…」

それでもまだ上を目指そうとしてくれている。
そんな和に俺はそっと手を伸ばし、頭を撫でてやった。
それだけで彼女は顔を蕩けさせ、甘い声を漏らす。
それに俺は笑みを浮かべながら暖かなお茶をゆっくりと飲み込み、一杯になった腹を落ち着かせた。

「では、お風呂掃除してきますね」
「…あぁ。分かった」

そんな俺の傍から和が離れる数少ない時間。
その一つに風呂掃除があった。
それをしに席を立つ和を俺は見送りながら、そっとため息を吐く。
そのままズボンのポケットから携帯を取り出せば、そこにはメールの着信を知らせる表示があった。

―― 咲…か。

恐らく県大会に向けて練習を続けている最中、気晴らしに送ってきてくれたであろうそれに…俺は携帯の画面を閉じた。
恐らく…数日前の俺であれば和がいない間にその返事を書いていただろう。
だが、こうして咲を裏切り続けている間に…それが正しいのかさえ俺には分からなくなっていた。
こうして下手にメールを返さずに…ちゃんと突き放した方が咲の為になるのではないだろうか。
そんな思考が脳裏を過ぎり…俺はメール返す事さえ出来なくなり始めていた。

―― なんで…こうなったんだろうなぁ…。

俺は…俺は、誰も傷つけたくなかった。
少なくとも…誰かを傷つけるつもりなんてなかったのである。
だが、今の俺はこうして暗に咲の事を傷つけ…和の妄想に手を貸していた。
そうする以外の方法を奪われたとは言え…咲から逃げ始めている自分に強い自嘲が浮かんでくる。

―― 多分…和の目的はそれなんだろう。

心の何処かが壊れたとは言え…和はとても頭の良い子だ。
こうしてどっちつかずの状況に、俺が咲の事を避け始めるのも予想しているのだろう。
それは…時折、俺に見せる満足気な…それでいて支配的な笑みからも伝わってくる。
けれど、そう理解しながらも、俺にはそれに抗う事が出来ない。
雁字搦めにされた感情は和の思い通りに動き…咲のメールに返信する事を億劫になり始めていたのである。

―― とりあえず…皿でも洗うか。

そうやって自分を責めていても仕方がない。
逃避に近いその考えに背を押された俺は和の代わりにシンクに並んだ食器を洗っていく。
一枚一枚を丁寧に洗ったそれを食器乾燥機の中に放り込んだ頃には和が風呂から上がり、リビングへと戻ってきた。

「おかえり」
「もう…またアナタったら…」

そんな和に告げた言葉に、彼女は不満そうな声で返した。
それは俺が一人で洗い物を済ませてしまったからなのだろう。
とは言え、一人でリビングに待たされていたところで思考は悪い方向にしかいかない。
それを防ぐ為にも、また和の手を必要以上に取らない為にも洗い物くらいはしておくべきだ。

「アナタはゆっくりしてくれれば良いのに」
「それは俺のセリフだっての」

そもそも俺はそれほど疲れている訳じゃない。
学校の勉強にはちゃんとついていけているし、部活でだって雑用がメインだ。
大会に向けて真剣に打ち込んでいる和たちほどは疲れちゃいない。
だからこそ、俺からすれば和の方がゆっくりして欲しいというのが本音だった。

「それよりほら、勉強手伝ってくれよ」
「…はい」

けれど、それを和が決して聞き入れない事くらい俺にも分かっている。
だからこそ、俺はすぐさま話題を変え、和を手招きしながら、机の上に宿題を広げた。
それを一体、おかしくなった和がどういう風に見ているのかは分からない。
しかし、彼女も俺に従うようにして宿題を広げ、黙々とそれを解き始めた。

「なぁ、和、この問題って…」
「それは…」

そんな俺達の間に流れる会話と言えば、そんなものが殆どだ。
けれど、それでも和は嬉しいのか、顔を綻ばせながら答える。
その教え方は理路整然として分かりやすく、納得出来るものだった。
お陰で一時間もたった頃には予習も済ませ、完全な空き時間が出来る。

―― いや…出来てしまうと言った方が近いかもな。

そう思うのは机の上を片付けながら、俺をチラリと見る和の目が期待しているからだ。
明らかに俺に何かを乞うようなそれに…俺は全力で気付かない振りをする。
その先に待っているのがどれほど甘美で気持ちの良いものだとしても…俺はそれに気づく訳にはいかないのである。

「ねぇ…アナタ」
「ん?」

しかし、それでも迫ってくる和を止める事は出来ない。
そう思うのは…和がそっと俺の首へと手を回し、顔をのぞき込んだからだろう。
その頬を赤く紅潮させながら寄りかかるその顔に俺はドキッとしてしまった。
何せ、そこにあったのはいつものように可憐で美しい原村和ではなく、艷やかで色気を滲ませる一人の女性だったのだから。

「お風呂…入りませんか?」
「あー…」

そんな彼女の言葉に俺は即答する事が出来ない。
それは勿論、それからどうやって逃げるかを模索しているからだ。
何せ、ここで聞かれているのは『一緒に』お風呂に入らないか、という事なのだから。
それは俺にとって全力で回避しなければいけない事だったのである。

―― 正直…耐えるなんて無理だ…!

これまでも俺はなし崩し的に和と一緒に風呂へと入る事になった。
けれど、その度に俺は我慢出来なくなり、和の事を…その…女性として求めてしまっているのである。
その肌の柔らかさを、バストの張りを、そしてその下にあるアソコの気持ち良さを知った俺は…分かっていてもそれを止める事が出来ない。
流石に自分から襲いかかる事だけは今まで堪えられているものの、それも今日はどうなるか分からなかった。

「い、いや、一人で入るよ」
「ダメですよ。アナタの身体は…私が洗うんですから」

そう思いながらの言葉に和はその瞳を鈍く光らせながら近づいてくる。
まるで有無を言わさないその仕草に、俺はそっと視線を逸らしてしまった。
それは勿論、今にもキスしてしまいそうな距離にまで近づいてきたのが気恥ずかしいというのも無関係ではない。
だが、何より大きいのは…俺に近づく和の濁った瞳が恐ろしくて仕方がなかったからだろう。

―― 人間は…あんな目を出来るのか…?

狂気に浸った人間の目。
日々、その底知れぬ暗さを強めるそれは覗き込んでいるだけでもおかしくなってしまいそうだったのである。
まるでその瞳に全てを委ねてしまいそうになる感覚に、俺は耐えられない。
だが、そうやって逃げても和の視線は俺から離れず、じぃぃと俺の事を見つめてくるのだ。

「…分かった」
「ふふ…っ」

結局、その日もその圧力に耐えられなかった俺が首肯と共にそう呟く。
それに和が浮かべるのは陶酔に満ちた笑みだ。
でも、それはさっきのような幸せで堪らないというものとは…少しだけ違う。
それは俺が今日もまた和の思い通りになった事を喜ぶ…支配的な歓喜だったのだ。

「もう…素直じゃないんですから…私は何時どんな時だってアナタのものですよ?」
「…分かってる…けど…」

既に何度も過ちをおかしている以上、俺がやっているのは意味のない事だ。
だが、そう分かっていても…俺は素直に頷く事が出来ない。
例え、和がそれを求めてくれていると理解していても…俺がやっているのは咲への裏切りなのだ。
誰よりも俺の身近にいてくれた幼馴染を裏切りたくはないという気持ちはまだ俺の中にもあったのである。

「でも…今日も私の事…選んでくれましたよね」
「っ…!」

瞬間、聞こえてきたその言葉は俺の逡巡を読み取ったようなものだった。
それに弾かれたように内面から和に意識を向ければ、そこには蕩けた笑みを浮かべる彼女の顔がある。
まるで絶頂に達しているようなその幸せで気持ち良さそうなそれに、俺はあっという間に引きこまれ、ゴクリと生唾を飲み込んでしまった。

「私…とても嬉しいです…アナタが傍にいてくれるだけで…とっても幸せ…」
「和…」

うっとりと言葉を漏らす彼女はそっと俺の腕を抱き込んだ。
そのままそっと椅子から離れていく彼女に俺の身体は抵抗出来ない。
スルスルと立ち上がらせられた身体は、先導する彼女に従って洗面所へと連れ込まれる。
三畳ちょっとの空間に洗濯機や洗面台、脱衣カゴなどを置いたそのスペースは決して広くはない。
寧ろ、人二人が一緒に入ると手狭と言っても良いくらいだろう。

「だから…こんなに幸せにしてくれるアナタに…一杯、お返ししたいんですよ…」

だが、和はそんな中で幸せそうに俺に身体を寄せる。
そのまま俺のボタンを外し、ゆっくりと服を脱がしていく彼女に俺は一人で出来ると突き放すべきだったのだろう。
だが、俺の身体はまるで魅入られたように動かず…和にされるがままになっている。
その口から言葉一つ漏らす事も出来ず…

「だから…私の事を想うなら…一杯、求めて下さい。女として…妻として…私はアナタの事を満たしてあげたいんです…」

そう和が囁いた頃には俺の服は完全に剥ぎ取られてしまっていた。
下着一つすら身に着けていない俺に…和がその頬をさらに紅潮させる。
清楚な顔つきの彼女がそうやって頬を染めるのは可愛らしいが…それは恥ずかしさなどではない。
裸になった俺に和が向けているのは欲情にも近い興奮なのだ。
その証拠に…和の視線は俺の下腹部へと向けられ、その瞳に浮かべた期待を強めている。

「さぁ…私の事…脱がせて下さい」
「でも…」

そのまま紡いだ和の言葉に、俺は何とかそう返す事が出来た。
しかし、和の表情は変わらず、俺に欲情を伝えてくる。
それに充てられたように俺のペニスも大きくなり、ゆっくりと反り返っていった。
そんなムスコに彼女は何も言わず、ただただ見つめ続ける。
それに結局、俺は根負けして…彼女の制服にそっと手を掛けた。

「あ…ん…」

瞬間、和が嬌声とも嬌声ともつかないような声をあげる。
それに俺の身体は否応なく口から熱い吐息を漏らしてしまった。
はぁはぁと熱気がこもるそれに和は穏やかな笑みを浮かべる。。
何処か勝ち誇ったようにも思えるそれは、俺がさらに絡め取られ、堕ちていくのが分かっているからなのだろう。

「こうして脱がされると…アナタのものだって実感して…凄い…ドキドキします…」
「…俺も…ドキドキするよ」

それに無力感を感じながらの言葉は決して嘘じゃない。
何をしても無駄なのだと、和の言うとおりにするしかないのだと思いながらも…俺は今のシチュエーションに興奮している。
それは決して和の肢体が男子高校生には魅力的過ぎるから…だけではないだろう。
そうやって彼女の期待に応えた後に、和が俺を気持ち良くしてくれる事を身体はもう理解しているのだ。

「お揃いですね…ふふ…とっても嬉しいです…」

そう言いながら和は自分の身体を隠そうとしない。
寧ろ、胸を張るようにして少しずつ顕になる肢体を見せつけてくる。
まるで自分の身体が魅力的であるを自覚しているようなそれに俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。
これがもう少しで…自分のものになる。
そう思うと張ったムスコがピクピクと反応し、今にも先走りが滲みそうになった。

「だから…今日も一杯、サービスしてあげますね」
「い、要らない…って」

そう拒絶するのは俺の最後の理性だ。
そこで頷いてしまったら…俺は自分で定めたラインすら踏み越える事になってしまうのだから。
だが、そんなものは和にとってはお見通しであるらしい。
全裸になったその身体を俺に密着させる和には拒絶に対する悲しみや寂しさなんて欠片もなかった。

「じゃあ、入りましょうね」
「う……」

ただ、勝ち誇るような笑みを浮かべながら、お風呂場への扉を開く和。
そんな彼女に手を引かれながら、俺もまた茶色のタイルへと踏み出す。
瞬間、俺を暖色系の空間が迎え入れてくれた。
何処か安心させるようなその色に、けれど、俺の身体はまったくリラックスしない。
寧ろ、条件反射のように身体を興奮させ…透き通るような和の肌を見つめてしまう。

「さぁ…アナタ、こっちへどうぞ」

そう言って和が招くのは正面にある椅子だ。
灰色の小さなそれに俺はおずおずと座る。
瞬間、彼女はそっとシャワーのコックをひねり、俺の身体へと温水をかけ始めた。
それは胸から始まり、少しずつ肩へと移動し、最後には俺の髪へと行き着くのである。

「良い子ですから…目を瞑ってて下さいね」
「そこまで子どもじゃないって」

そう言いながらも俺はそっと目を瞑り、彼女にされるがままになる。
ここまで来てしまった以上、和に逆らっても無駄だ。
そう思うのは…きっと諦観だけではなく興奮も関係しているのだろう。
俺自身…この先に待っているであろうものを期待して…こうして風呂場に足を踏み入れたのだ。
それを思うと情けなくて涙が出てきそうになるが…俺の興奮はそれでも冷める事はない。

「痒いところはないですか?」
「…大丈夫」

そんな俺の髪にシャンプーを掛けながら、和がそう囁く。
そのままシャワシャワと泡立てるその指先は力強く、そして気持ち良い。
丁度良い力加減で刺激してくれるそれはとても丁寧で、隅から隅まで洗ってくれる。
少なくとも俺がするよりも上手であろうそれに身体がリラックスしていった。

―― でも…どうしてか髪は洗い流される事はなかった。

念入りにしっかりと洗われた泡は俺の目元近くにまで垂れてきている。
故に俺は目を開く事が出来ず、状況を把握する事も出来ない。
けれど、近くに和は存在する事だけははっきりと感じるのである。
一体、この間に和は何をやっているのか。
それが分からずに首を傾げた瞬間…俺の腕に柔らかな感触が押し当てられた。

「うあ…っ」
「今日はこのまま…おっぱいで洗ってあげますね…」

そう言って俺の耳元に囁く声に、俺はそれが和の胸である事を知った。
柔らかでプリプリとした張りのある感触もそれを肯定している。
だが、だからと言って、俺の興奮が収まる訳じゃない。
寧ろ、こうしている間にもドンドン高まり…ペニスの付け根を熱くするのだ。

「の、和…っ!」
「どうですか…?エッチな動画で…ちゃんと勉強したんですよ…」

それを拒むように声をあげる俺に、しかし、和は離れない。
寧ろ、その魅力的過ぎる身体を俺に押し付け、揺すって来るのだ。
それに微かに泡だった感触を肌が感じるあたり、本当に洗っているのだろう。
しかし、そんなもの俺にとっては何の慰めにもならない。

「アナタもドキドキして…ここももう…こんなになってますね…」

瞬間、和は俺のペニスにそっと触れ、表面を撫でる。
甘く擽るようなそれにガチガチに勃起したムスコが耐えられるはずがない。
その浅黒い肌をピクピクと震わせて、自己主張を繰り返す。
まるでもっと触って欲しいと訴えるようなそれに、しかし、和は答えずにそっとその手を離してしまった。

「でも…これはただ洗っているだけですから…ね」
「ぐ…ぅぅ」

そう言って和は俺に密着させた身体を揺すり始める。
だけど…そんな洗い方なんて普通はしない。
それは一部の性風俗で使われている極限定的なものなのだから。
しかし、和はそんなのお構いなしに…俺の柔らかな双丘を押し付けてくる。
その感覚に俺の身体が興奮を高めるのを、俺は必死になって噛み殺そうとした。

―― でも…駄目だ…!

まるで自分の身体全部を使って愛撫するような和の奉仕。
それに俺の理性がどんどんと緩み、興奮が強まっていく。
しかし、和は俺のムスコには触らず、それ以外の部分だけを洗っていった。
それは恐らく、和が俺を焦らしているからなのだろう。
俺から何かアクションを起こさせる為に…こんな淫らな方法まで勉強し始めたのだ。

―― こらえろ…堪えるんだ…須賀京太郎…!

しかし、それに負ける訳にはいかない。
ここで和を求めてしまったら…それこそ俺を止める歯止めはなくなるのだから。
意地でも理性でも…体面でも…何でも良い。
このままなし崩し的に和へと飲み込まれない為にも…俺はここで耐えなければ… ――

「じゃあ…最後はここですね…」

そう言って和が俺の腰にそっと触れる。
それはさっきまで俺の身体に触れていた部分よりもむっちりとしていて、肉付きが良かった。
まるで太もものようなそれは俺の下腹部に絡みつき、密着する。
自然、それは俺のペニスにも触れて…熱く滾ったそこを刺激した。

「大変です…これじゃ…アナタが動いたら…私、犯されちゃいそうです」
「う…」

その瞬間、和が囁くその声に…俺は小さく声をあげてしまった。
それはその言葉が俺が淫らな想像を湧きあがらせるのには十分過ぎるものだったからである。
恐らく…今の和は対面座位のような格好で俺の腰に座り…洗おうとしてくれている。
だが、後ほんの少し動けば…それはただの奉仕ではなく…セックスへと様変わりするのだ。

「後ほんのちょっと腰を浮かされちゃったら…アナタを洗っている間にヌレヌレになっちゃったアソコに…ずぷぅ…ってぇ…」

それを何とか堪えようとする俺の耳元に…和の間延びした声が届く。
はぁはぁと荒い吐息と共に鼓膜を揺らすそれは俺を誘惑しているのだろう。
だが、そうと分かっても、俺には何も出来ない。
まるでその誘惑の言葉が聞きたいと…そういうように俺は耳を塞ぐことすら出来なかった。

「でも…私も本当は…欲しいんですよ。アナタの事洗いながら…準備できちゃうくらいに…興奮しちゃったんですから…」
「は…ぁ…はぁ…!」

そんな俺が…和の言葉に抗えるはずもない。
そもそも耳元で俺の理性を囁く彼女には何の制限もないのだから。
ただただ、俺を誘惑し続け、動くのを待ち続けば良いだけなのである。
そんな彼女に対して…視覚を閉じる俺は受け入れる事しか出来ない。
それでも一分ほどは耐えたものの…ついには素股を始める和に俺は我慢出来なくて…  ――







―― 結局、俺はそのまま和の事を自分から求め…最後のラインまで超えてしまったのだった。