タコスミで黒く染め上げられた中身がタコでいっぱいの失敗作。
それが京太郎の作った初めてのタコスだった。
あまりのマズさに卒倒してしまったのも今ではいい思い出だ。
良い師に巡り合えたお陰で、今では誰もが認める世界一のタコス職人だ。
最早この私でさえ太刀打ち出来ないのだから。
「しっとりしたタコスだなあ」
そんなあいつもたまにはヘマをするんだけども。
「へへ、もっと遊びに来てくれよな」
そんな調子の悪い時でも笑顔で出迎え、そして見送ってくれる。
「はむはむ…やっぱり京太郎のタコスはおいしいじょー」
「そっかそっか~そう言ってくれると嬉しいぜ」
「うむ、ほめてつかわす!」
「どうせなら、何か褒美とか貰えると嬉しいんだけど」
「何でも聞いてやるぞ?」
「…じゃあ、俺にキスしてくれよ」
「!?」
「何でも聞いてやるって言ったじゃん」
「え、ええと…私たちって、そういう間柄じゃないし」
「…そっか」
「お前には…したよ」
京太郎はポツリとそう呟いたが、私に一体どうしたのかは聞こえなかった。
それからしばらくして、私は久しぶりに京太郎の店を訪ねた。けど、
「とっても嫌な感じだなぁ」
あいつはもう以前のように笑顔で私を出迎えてはくれなかった。
どうしてそんな事を言うのかと尋ねれば、
「もうお前にはうんざりだよ…お前には愛想が尽きたんだ」
と冷たく返され、私は逃げるように店を去った。
「俺達は立ち上がるんだ」
去り際に聞いたあいつの言葉が、幾重にも重なって聞こえたのは何故なのか。
それに気付いていれば、あんな事にはならなかったのだろうか。
―――タコスアポカリプス。
京太郎の作るタコスによって引き起こされた未曾有の脅威。
さながらノアの箱舟物語のように、タコスが世界中を洗い流そうとしていた。
そして私は、カピと一緒に京太郎を止めに行った。
…私が止めなければならなかった。
京太郎「始まったな…もうすぐすべてが終わる」
優希「…京太郎」
京太郎「お前なら、止められたかもしれないねぇ」
優希「止めるさ…今からでも」
京太郎「無駄だよ…俺達は一つ、俺達は無敵!」
優希「…」
京太郎「優希、お前もこのタコスで狂っちゃおう!」
優希「嫌だじぇ!」
京太郎「なんでさ!」
優希「狂ったら、もうお前のタコスが美味しいって分からなくなるじゃないか!」
京太郎「何を今更!」
優希「こんなことはもう止めてよ!」
京太郎「…俺達は融合する。俺達は結合する。俺達は成長する」
優希「止めてったら…ねえ、京太郎?」
京太郎「這いつくばってずるずるともがき、今日俺達は立ち上がる」
優希「京太郎!」
戦いが終わり、私の前にはただ一人となった京太郎が横たわっていた。
「どうして?」
今更になって私はそう尋ねた。尋ねずにはいられなかった。
何が彼をそこまで突き動かしたのか、私は知らなければならない。
そんな気がした。
「…お前のためだよ、優希」
「え?」
「お前に美味しいタコスを作ってやりたくて…お前に、振り向いて貰いたくて」
「…そんな、そんなのって……」
涙と鼻水がとめどなく溢れてくる。
こんな姿、彼には…京太郎には絶対見せたくないのに。
「はは…お前のアピールを軽く流したくせに…なんとも…虫のいい話だよな……」
ホントだじぇ、とは言えなかった。
泣きすぎたせいで言葉がまともに出てこない。
それでも私は必死になって、愛する人の名前を呼んだ。
「…ぎょー…だろー……?」
「―――愛していると思ってたよ」
どうして、今になってそんなことを。
そう思った時にはすでに、京太郎は物言わぬ屍と化していた。
京太郎「で…何書いちゃってんの、咲?」
咲「あ、あのね、京ちゃんと優希ちゃんの仲にインスピレーションが湧いたって言うか」
京太郎「この…タコスアポカリプスってのは?」
咲「最近クッキーを焼くブラウザゲーにはまっちゃって…それで」
京太郎「それで、じゃねーだろ!」
咲「ひっ!」ビクン
京太郎「なんでヒロインが和じゃないんだ!」
咲「だ、だって食べ物キャラと言えば優希ちゃんだし」ブルブル
京太郎「そういう話はいい!タコスの代わりにエトペン作っても良かったじゃないか!」
咲「あー…確かにそれは考慮してなかったね」
京太郎「しょうがないなあ咲は…お前の執筆、俺が手伝ってやるよ」
咲「え、いいの?」パアアッ
京太郎「乗りかかった船だ…こうなりゃ最後まで付き合ってやるよ!」
咲「きょ、京ちゃん」///
自作小説の執筆…二人の共同作業は、まだ始まったばかりだ!
カンッ!
最終更新:2013年10月20日 17:00