「おはよう」
私は先に起きていた彼に挨拶をする。
ちょうど彼は寝起きのティータイムだったらしい。
もっとも彼はコーヒー派なので、コーヒーブレイクといった方が正しいのだけれど。
私の挨拶に、彼は何も言わずこっちに軽く頭を下げてくるだけ。
普段の彼ならそんな省略はしないけれど、この時間だけは別だ。
私と彼が恋人になって、真っ先に取り決めたこと。
それは朝起きてからのお互いの目覚めの儀式は邪魔しないという、単純明快なものだ。
私は緑茶で、彼はコーヒーで一日を開始する。
なので私より起きるのが早い彼は直火式のメーカーでコーヒーを作るついでに私用のお湯も沸かしておいてくれる。
そして私はそのお湯で緑茶の準備をし、彼とともに朝の穏やかな時間を過ごすのだ。
でも、今日は。
「ん?どうしました、尭深さん?」
「ちょっとね。…ねぇ。私もコーヒー…一杯もらえるかな?」
別にコーヒー派に鞍替えをしたというわけではない。
ただ、私たちが付き合うようになったきっかけは…丁度、一年前。
彼が、緑茶で共に朝を過ごしてみたいと…そう言ってくれたからだ。
彼は一瞬驚いたあと…こちらまで嬉しくなるような笑顔で、
「もちろん、大歓迎ですよ」
こう言ってくれた。
この日の朝はいつも以上に幸せな時間が流れたことは、言うまでもない。
カンッ
最終更新:2013年10月14日 14:52