衣「ときに京太郎、お前は異類婚姻譚を知っているか」
京太郎「雪女とか二口女のお話くらいなら。他は難しくて分かりません」
衣「それで良い。京太郎はお利口さんだな、衣お姉さんが撫でてやろう」
京太郎「へへ」
衣「コホン。してその異類婚姻譚だが、いくつかの約束ごとがある」
京太郎「約束ごと」
衣「なんなら慣例と言い換えてもよい。いずれにせよ覆しがたい筋書きだ」
京太郎「いよいよ見当が付きませんね。なんなんですか、それは」
衣「別れ」
京太郎「…………」
衣「古今東西、人間とそうでない者がまぐわるとロクなことが起きないのだ」
京太郎「そんなもんですかね」
衣「その者が取り決めた規則を破る、その者の正体を知る。理由は様々あるがな」
京太郎「衣さん」
衣「なんだ」
京太郎「怖いですか。異類婚姻譚」
衣「…………」
京太郎「…………」
衣「怖いよ」
京太郎「どうせ作り話ですよ。全部」
衣「それでもやっぱり怖いよ。だって衣は、京太郎と同じ人間じゃないもん」
京太郎「衣さん」
衣「人を外れることは衣の自己同一性そのものだ。今さら捨てることなどできない」
京太郎「うん」
衣「なあ、京太郎」
京太郎「…………」
衣「こんな衣でも、幸せになれるかな」
京太郎「…………」
衣「…………」
京太郎「先のことは分かりませんよ。人間だから」
衣「そうか」
京太郎「まして、人間同士でもうまくいかないカップルなんてごまんといます」
衣「うん」
京太郎「普通に幸せになるのって、実は何より大変なことだったりしますよね」
衣「…………」
京太郎「だから、幸せになるのに人間だとか魔物だとか、気にしてる余裕ありませんよ」
衣「へ?」
京太郎「だって当人同士が思い合ってたら、そんなもの関係ないでしょう」
衣「しかし、幸福な話など数えるほどしかなかったぞ。人間と同じようになんて」
京太郎「俺はとっくに分かってますよ。衣さんの正体」
衣「でも」
京太郎「何より誰より、衣さんが持ってる人間の部分を俺は知ってます」
衣「人間の部分」
京太郎「そりゃあ、衣さんは海底で和了るし、照明は割りますけどね」
衣「…………」
京太郎「全部が全部魔物なわけじゃないでしょう。魔物であって人間なんです」
衣「そう、かな」
京太郎「どっちの顔も好きですよ。恋人だもん、当然です」
衣「京太郎」
京太郎「なんちゃって、ちょっとカッコ良すぎましたかね」
衣「ばかめ」
京太郎「あはは」
衣「…………」
京太郎「…………」
衣「そうだったな。そういう京太郎だから、衣はお前を我が背としたのだ」
京太郎「衣さん」
衣「なあ、京太郎」
京太郎「はい」
衣「衣と異類婚姻譚、してみるか」
最終更新:2013年10月12日 21:22