およそ人には誰にも言えない秘密があるものだ。癖、悩み、本性、エトセトラエトセトラ。
そして人は誰の目にも触れないようにそれらを心の底に隠し、それを表に出さずに生活する。
しかし、果たして人は誰一人として自分の秘密を知る人間を作る事なく、その人生を終幕させられるものだろうか?
無論、不可能ではない。それが不可能ならばこの世はもっと混沌としているだろう。
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だが全ての人間が可能である、というわけではないだろう。
俺にも誰にも言えない秘密がある・・・・・・。
失礼、自己紹介が遅れてしまいました。
俺の名は須賀京太郎。年齢は十五歳で清澄高校に通う一年生。自宅で飼っているペットはカピバラ。現在恋人無し。部活動は麻雀部だが実力が無く雑用をする日々。
そんな俺の他人に知られるとちょっと困る秘密は、俺のおもち好きという本性だ。
いや、それだけならまだ問題はなかった。
それが俺のもう一つの癖と――いや、症候群とでも言おうかな・・・何でも気に入った物を近くに持っていなければ気が済まない症候群と組み合わさった時、その本性はとても危険な領域に突入しちまった。
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大きいのから小さいのまで、全てのおもちが大好きだった俺は、やはりそれさえも自分の物にして持ち歩かずにはいられなかった。
いくら好きでも切ったおもちを日常で持ち歩いたりするのは自分でもかなり行き過ぎて変かなァ、とは思うんだけどね、好きな物は好きなんだから仕方がない。
俺がおもち好きだというのは公言している(というよりいつのまにか周知の事実だった)ものの、ここまでのレベルだとまで公言はしていない。
みんなの認識が、俺はおもちが人並みかそれよりちょっと好きだ、と言う程度でいるからこそみんなとの関係も比較的普通なのだろう。
それでもまあ俺はおもち以外をフル装備して出歩くようになっていないだけまだ正常なはず、多分。
もっともおもち以外にそんな巨大な物なんか背負っていたら目立ってしょうがないだろうな。
おもちだけでも、そんなもの手に持っていたら目立ってしまう。
だから俺は普段からこうして紙袋の中におもちを入れている。
今日も袋の中にはおもちが1セット。
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いつでも好きな時に使えるように・・・・・・。
Side 玄
玄「えっ!?京太郎くんが!?」
思わず声を上げてしまう。
周りの人が何人かその声に驚いたようだけど、気にしない気にしない。
咲「そうそう、京ちゃんもけっこうおもちが好きなんだよ」
優希「と、ゆーよりあれはもう、けっこう好きとかそういう表現を超越してると思うけどな!」
おもちが好きだと宣言した私に二人がそう言う。
玄「へー、そうなんだあ・・・・・・」
外面は平静を装いつつも、私は内心でかなり興奮していた。
まさかこの合宿で私以外のおもち愛好家に出会えるなんて!
それもこの二人の発言から、京太郎くんはかなりのおもちマニアと見た!
やっぱり行動してみるものだね。このまま同志を増やしていくとまではいかなくとも、おもちについて語り合える関係ぐらいにはなりたいな。
玄「それで、京太郎くんは今どちらに?」
咲「京ちゃんなら建物の中をいろいろ歩き回ってみる、って言ってたからそのあたりを歩いていたら会えるんじゃないかな?」
玄「了解しました!それでは不肖松実玄、行って参るのです!」
一気にテンションをトップギアに入れて、フルスロットルで突撃!
最終目的地、実力未知数の同志、須賀京太郎くんにセット完了!
ダッ!
――そして数分後
玄「出会えないなー。どこにいるんだろう」キョロキョロ
玄「あの角を曲がって京太郎くんがいなかったらいったんみんなの所に戻ろうかな。ひょっとしたら帰ってきてるかもだし!」
そして私は速度を全く緩めることなくコーナーに突入したのであった。
Side京太郎
京太郎「うーん、そろそろこのおもちもだいぶやばくなってきたかな・・・」チラッ
袋の中を見ておもちの様子を確認し、考える。
・ ・ ・ ・
このおもちもそろそろ使いどきかな・・・
全くこの時期は傷むのが早い気がする・・・湿度とかの問題か?
まあいい、また新しいおもちを――
そうやっていろいろと考えていたからだろうか。
こちらに向かってくる足音が高らかに鳴り響いていたにも拘わらず、そのときの俺は不注意にもそのままスピードを緩めることなく曲がり角に突入した。
瞬間、鈍痛。
玄「痛たたた・・・あっ、京太郎くん!捜して・・・たんだ・・・けど・・・」
玄さんの目線が紙袋から少しのぞいたおもちに向けられ、それと同時に玄さんの声はだんだんとか細くなっていく。
まずい、引かれたか?
いや、確か聞いたところによると玄さんもかなりのおもち好きだったはず。
このままいっそ勢いで押していった方がいいんじゃあないか?
京太郎「あっ、玄さん。奇遇ですね。えっと・・・」
玄「きょ、京太郎くん・・・それは一体・・・?」ブルブル
おやおや、そうもいかねーか!この状況はまずい!完全に引かれたッ!
だがこのまま突っ切るしかねえ!
京太郎「玄さんもおもちが好きだって聞いてますよ。どうです?ちょっとそこの部屋まで行って、このおもちを使いませんか?」グイグイ
このまま無理にでも連れて行って・・・うん、そうするしかないかな。
Side玄
曲がり角を曲がった瞬間に何かにぶつかった。
あちゃー、さすがに不注意すぎたかな?
玄「痛たたた・・・」
とにかく相手に謝らないとね。間違いなく非があるのはこっちだし。
でも誰にぶつかっちゃったんだろう?
ぶつかった感じおもちがない子っぽいけど・・・。
玄「あっ、京太郎くん!捜して・・・たんだ・・・けど・・・」
京太郎くんを見つけた!それは確かに私にとって喜ぶべき知らせだった。
でもそれと同時に京太郎くんがもっていた紙袋から少しのぞいているものを見て、その感情は一気に吹き飛んだ。
そこにあったのはおもちだった。
でも私が普段から言ってるおもちのことじゃない。
おもちとは女性の体に付いている優しさやら愛情やら母性やらの象徴としての物である。(Byクロペディア)
瞬間。
二人が言ってた京太郎くんのおもち好きってこういうことだったの?とか
なんでおもちなんて京太郎くんは持ち歩いているの?とか
一体そのおもちで何をする気なの?とか
いろんな疑問で頭の中がいっぱいになる。
京太郎「あ・・玄さん・・・ですね。・・・」
京太郎くんが何か言ってるみたいだけど、全然頭に入ってこないくらいに私の頭の中は疑問で飽和していて、いろいろ聞かなくちゃと思ってはいたけれど結局できたのは・・・
玄「きょ、京太郎くん・・・それは一体・・・?」ブルブル
震えながら、自明の質問をすることだけだった。
京太郎「玄さんも・・・・・・・・好きだって・・・・ちょっとそこ・・・・行って、このおもちを・・・・」グイグイ
呆然としている私を京太郎くんが連れて行く。
一体京太郎くん、何をする気なんだろう。
私、これからどうなるんだろう。
そんな事を考えながらも、私はただ引きずられていくだけだった。
~調理室~
京太郎「いやあ、でも玄さんの言ってるおもちと俺の言ってたおもちが全く違ってたなんて驚いたなあ」オモチウニョーン
玄「ようやく同志を見つけたと思ったんだけどなー・・・」モッチモッチ
京太郎「えっと・・・おもち?でそういう母性や何やら的なサムシングを表すなんて初めて聞きましたが、奈良ではそういう言い方が一般的なんですか?」ウニョン
玄「いえいえ、それは私だけの言い方でして」モグモグ
・ ・ ・
玄「というか、京太郎くんはこっちのおもちには興味おありでない?」ムシャムシャ
京太郎「いやー、そうですね・・・さすがに俺も男子高校生ですんで、全く興味ないとは言い切れませんが・・・」
玄「じゃあ嫌いなの?」
京太郎「それだけは絶対にないです!」
玄「その熱き思い、お姉ちゃんしかと受け取りましたぞ」
玄「おもち同盟、結成だね!」ニコッ
これが、後に全国を揺るがすおもち同盟、結成の瞬間であった。
カン!
京太郎「ところでおもち同盟って何するんですか?」モニュモニュ
玄「そうだねー、いろんな所のおもち少女に会いに行ってそのおもちを評価して回るとか?」ムシャコラ
京太郎「評価っつっても俺玄さんの言うところのおもちを触った事無いですよ」モッキュモッキュ
玄「うむむ、おもち同盟の副会長としてゆゆしき事態!」
京太郎「そもそも男の俺がおもちなんて触ったら――」パクパク
玄「それじゃ、ちょっと恥ずかしいけど私が自らのおもちを使い何とかしましょう!」スルスル
京太郎「うっ!(やばい、予想外の衝撃からくる動揺で餅が喉に詰まったァ!)」ンーッ ンーッ
玄「京太郎くん、興奮してるんだね・・・。いいよ、京太郎くんなら」ソットメヲトジル
京太郎「んーっ!んーっ!(誰か助けてくれえ・・・)」バタッ ビクビク
その後、あまりに何もしない京ちゃんを不審に思って目を開けたクロチャーの手によって京太郎は死を免れました。
もいっこカン!