103 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/17(日) 05:11:23 ID:25RyAjLY

「ねぇ、宮永さんってちょっとカワイイよね」
「もー。やめんさい、後輩も見とるのに」
部室で先輩たちが楽しげに話している。京太郎はパソコンで牌譜をみながらそれを聞いていた。
いつもと変わらぬ麻雀部の面子は、男子生徒には若干肩身が狭い場所ではあったが、女の子
の秘密の会話ををすこし味わえるという意味では新鮮だった。
「まぁ、後輩ゆうもんはみんなカワイイもんじゃけ」
「うーん。そういうんじゃなくて、なんかこう、イタズラして困らせてやりたい、みたいな」
「部長はソノ気があるけん、洒落にならんわ」
実に楽しそうである。部長の竹井久と染谷まこは上級生なぶん、そういう話も得意なようだった。
女子生徒が多いせいか、どうもこの学校は同性愛的な風潮がおおらかで、今風に言えば「百合気質」とも言うべき空気を感じることがある。
「失礼します」
「あ、おつかれー。ねぇ、和はどう思う?」
入ってきたのは原村和だ。
胸のあたりを筆頭にみごとなプロポーションをした彼女は、京太郎のいわゆる憧れの人だった。今日もその性格どおり綺麗な折り目の入ったプリーツをなびかせて歩いてくる。
「どう、と言いますと」
「宮永さんのことよ」
「え!?」
頬を薄く染める和。ご多分に漏れず彼女もソノ手の話には反応しやすい。複雑な心境ではあったが、
意中の人を見る京太郎には余計な雑音は届かない。
「ちょっとさ、宮永さんってカワイイよね。なんか誘惑したくなっちゃう感じ」
「ホラ部長、和も困っとろうが」
(え──?)
そのとき京太郎は見た。
ほのかに憧れていた少女の、その愛らしい顔に浮かぶ氷のような瞳を。
それはかつて見たことがないほど冷ややかで、逃げ場のないものだった。
「私は・・・そう言われても」
だが、気が付けばいつもの和に戻っている。
(何だ、いまの?)
あの恐ろしい視線は。
それは京太郎が最初に抱いた違和感だった。

104 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/17(日) 05:29:49 ID:25RyAjLY

「私、きっと前世で宮永さんと恋人だったのだと思います」
「前世って・・・」
「生まれる前の、ずっとずっと昔のことです。そこでは私たちはいつも一緒で、若草物語の姉妹みたいに仲が良くて、お互いがお互いを守っていたのだと思うんです」
「前世かぁ。いいわねそういう空想。嫌いじゃないわよ」
「空想じゃない!」
「え・・・ちょっとごめん。怒ら──」
「空想じゃありません。これは空想じゃない。だって私は覚えてるんです。昔なにがあったか、どんな暮らしをしていたか、目を閉じればホラ、すぐにでも思い出せます。竹取物語ってご存知ですか?登場するお姫様は前世の行いが悪くて地上に墜とされたんです。それはぬぐえない罪。彼女は前世では天人だったんですよ。あぁ、きっと、宿縁というのは──」
「ちょっと、あなたヘンよ」
「私もきっと罪を犯したんですね」
「罪? あなた一体!」
「ぬぐえない罪。だから私は守らなければならない」
「やめて!」
「次の世も、その次の世も一緒でいるために。まず一人」

竹井久が最後に見たのは、せまりくるペンギン型のぬいぐるみだった。

112 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/17(日) 15:16:49 ID:S2BNriF9
→104

「・・・すみません少牌です」
京太郎が和のリーチに対し、赤五筒を捨てたところで勝負は意外な決着を見せた。
和が小さな声で凡ミスを宣言したからである。それは手牌の数が足りない状態を意味する言葉だった。何事にも卒がない
彼女にしてはめずらしい出来事だ。
「え・・・めずらしいね原村さん」
「これで咲ちゃんの勝ち決定だじぇー」
タコスがのけぞって大きく伸びをした。和了り放棄となるため僅差で咲の一位が確定したのだ。
「すみません・・・」
「おっぱいに栄養が行きすぎて思考がにぶってるんだじぇ」
「いってません」
いつからこんな雰囲気で麻雀を打てるようになっただろうか。京太郎は最近そのことについて考えることがよくあった。
中学生の頃からのクラスメートである咲は、消極的な性格が災いしてあまり目立つことがない。そんな彼女がこうやって積極的に誰かの輪に加わろうとするのは、正直京太郎としては意外だった。
「なんか、いいな。こういうの」
「え? なに?」
咲が怪訝そうな顔をしてコチラを見上げた。
「いや何でもない。それより部長たち今日は遅いな」
京太郎がそう言うと、忙しなく牌を卓に落とし込んでいた和はこちらを見ずにある事実を告げた。
「今日は染谷先輩もいらっしゃらないみたいですし、私も熱があるみたいなので終わりにしていただいてもよろしいでしょうか・・・」
「え!? 原村さん病気なの?じゃあこんなことしてたら駄目だよ。帰って休まないと」
「そうだな。今日はお開きにするか」

のんびりとした午後。いつものとおり部活に参加して、いつものとおり皆で帰宅する日々を送るはずだった
京太郎たちは、今日に限ってはその普遍的な日々に追いつくことはできなかった。
帰宅を決めて帰る準備をしていたとき、にわかに校内が慌しくなったかと思うと、制服を着た警官が数名学校にやってきたからである。
竹井久殺害の報せを受けたのはそのすぐあとだった。

113 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/17(日) 15:19:10 ID:S2BNriF9
→112

「京ちゃん、私ゆるせないよ・・・」
「あぁ・・・」
泣きじゃくるタコスをなんとか落ち着かせ、気を失いかけた和に帰宅を促したあと、混乱する京太郎たちは都合、ふたりで帰宅することになった。
「ナイフで刺されたらしい」
遺体は校舎の裏にそのまま放置してあったのだという。周囲の血の量から、殺害現場は別の場所だと推察されているらしく、明日は部室へも警官がやってくるそうだ。これは先生から聞いた話だった。
「ねえ京ちゃん。もし部長が学校内で殺されたんだとしたら」
「お、おい。滅多なこと言うなよ」
「だって、もしそうだとしたら、犯人は鍵を持ってたってことになるよね。それから学校の構造を熟知していた人物で、簡単に遺体を持って運べた人・・・私、絶対に許さないよ」

その声はとても真剣で。
だから京太郎には何もいえなかった。

「いっしょに大会行きたかったな・・・」
「京ちゃん!」
突然咲が大声を出した。
「な、なんだよ」
「私、捕まえるよ。犯人を!」
そのあと咲は、何故かお祖父さんの名前にかけてどうのこうのと言い直していたが、それは聞かなかったことにした。

120 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/17(日) 17:47:16 ID:S2BNriF9
→113

「部長が学校の誰から恨みをかってるなんて、とても信じられないよ」
咲は妙にしっかりとした声でそう言った。部長の死を乗り越え、もう別の方向に思考を転換している。
京太郎はそんな咲を頼もしいと感じていた。
「でも行きずりの犯行って線もあるだろ。それに恨みって・・・」
「ないよ。わざわざ犯行現場を移動して、その──遺体を運び出す意味がないじゃない」
咲は『遺体』の部分はひどく言いにくそうにしていた。さすがに昨日まで元気だった部長のこととなると、あかの他人の死体とは全然違う。そのきもちは痛いほどよくわかった。
「それもそうか。じゃあ咲はやっぱり学校の関係者だと思ってるんだ?」
「うん。考えたくないけど。移動させたからには、移動させるだけの理由があったんだよ」
そんな理由があるだろうか。京太郎にはイマイチ思いつかなかった。
「それに・・・」
「なんだ?」
「校舎裏っていっても、教室のベランダから遺体を降ろせばすぐに移動できるじゃない? 大人じゃなくても簡単にアソコに置くことはできると思うんだ。ロープかなにかあれば」
「お、おい、じゃあお前は、大人じゃない、学校の生徒が犯人だって言うのかよ!」
京太郎は思わずそう叫んでいた。それから、何ともいえない空気がながれ、二人は黙してしばらく歩いた。

「和、大丈夫かな」
学校ではひどく辛そうにしていた。
「うん。原村さんずっと調子悪いみたいだったしね。麻雀もはやめに切り上げたいみたいだった」
「え? お前気が付いてたのか?」
「ひょっとしたらって。原村さん、最後のときリーチのみの手で上がろうとしてたみたいだから」
確かにリーチのみで和了る、というのは珍しいことだった。
「それがどうして切り上げたかったってことになるんだ? ひょっとしてわざと少牌したってのか?」
「ううん。そうじゃなくて、だって、私との点差だと最低でも二飜はないと逆転できないから・・・」
「そか。リーチのみじゃ千点だもんな。和は負けん気が強いから必ず逆転狙ってくる・・・負けてもいいから早く終わりたかったのか。確かタンヤオも付かない手でドラは八萬だったから、確かにリーチのみだ」
「そう──え?」
咲は突然立ち止まって口に手をあてた。
「おい、どうした?」
「原村さんの待ちは、少牌だったけど手役は完成してたから・・・だから・・雀頭だけ。京ちゃん、どうしよう・・・」
咲は口にてをあてたまま小さく震えている。その大きな瞳には涙がいまにもあふれ出しそうだった。
「だからどうしたんだよ」
「わ、わたし・・・わたし・・・・・・」

犯人わかっちゃったかも。

咲は震えながら、京太郎に残酷な考察を語り始めた。

126 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/17(日) 23:44:25 ID:8FLwpUvp
→120

雨が降っている。
嵐の晩は唐突におとずれた。雷鳴がとどろき、あたかも古い電球のように室内に光を差し入れていた。
その部屋では洗牌の音が絶え間なく続いている。全自動卓からではない。手で丹念にまぜている音が。
「探し物はソコにはないよ」
雷鳴がいっそう強くなる。京太郎の声にその人物はゆっくりと振り向いた。
天の光が差し込んでその少女を一瞬強く照らす。
「貴方は──」
原村和。
それは見てはいけない秘密の儀式だった。
たったひとりの麻雀を目撃されてなお、その少女には威厳がある。しかしその威厳も、京太郎のあとに続く人影があらわれるとわずかに陰りを見せた。
「原村さん」
「宮永・・・さん」
暗闇の中で相対する二人の少女。それは彼女たちの最初の邂逅よりもずっと運命的であった。
「宮永さん。何故ここに」
「必ず来ると思っていたから」
和は怪訝な顔をしてみせる。
「原村さんが、犯人だったんだね」
「犯人・・・? ひょっとして部長の・・・・・・さすがに無礼でしょう。何故そう思うのですか?」
「それは原村さんが和了りを放棄をしたから。本当は京ちゃんからあがる予定だったんだよね?」
そのひとことで和の表情が変わる。
「何故──そう思うのです」
「原村さんなら、いつもの貴女なら必ず二飜以上で和了るはず。でもそうしなかった・・・できなかったから」
「できなかった? あたり前です。私は少牌をしていたのだから」
「違うよ。原村さんは元々少牌なんかしてない。リーチした原村さんが少牌なんて考えられない。あれは原村さんがわざと雀頭を隠して少牌に見せかけたから」
「ならばいずれにせよ不可能ではありませんか。私の手はリーチのみ。ドラの八萬は宮永さん、貴女が啼いていたではありませんか。残り一枚の八萬では、頭にならない」
「ドラは赤五筒。京ちゃんが捨てた牌とは別にもう一枚、赤五筒があったんだね原村さん」
雨音はいよいよ強く降り出してきた。
そして和が息を呑む音までもを奪い去った。
「だから原村さんは京ちゃんの赤五筒でロンできなかった。二枚目の赤五筒が見えてしまうから。そしてそのまま手牌を公開するのも避けなければならなかった」
「それは──」

「ここで、部長を殺したんだね」

127 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/17(日) 23:48:35 ID:8FLwpUvp
→126

「ここで、部長を殺したんだね」
咲の一言は、和から最後の威厳までも奪い去るかのようだった。
「すべて、ご存知なのですね宮永さんは」
「知りたいなんて思わなかったよ。でも行かなきゃと思った。原村さんはきっとこの、部長の血が付いた五筒を抜きに戻ってくると思ったから」
咲は手に持った牌を和に見せた。
それは京太郎が最後に捨てた赤五筒。実際は普通の牌の溝に竹井久の血が付着したままになっていた
ものだった。赤黒く変色してかたまり、一瞬ではそれとわからない。
「その五筒が捨てられたときには混乱しました・・・あるはずのない赤五筒がもう一枚・・・しばらく考えて、証拠の不始末が原因だと思い当たったときに、私は和了りを放棄することを選びました。血は全部ふき取ったと思っていたのに。その五筒が私の手牌のなかにあったなら、こうして戻ってくることもなかったでしょう・・・」
自ら犯罪を告白する少女の顔には、何故か満足げなものが見て取れる。
京太郎はそれを物悲しく見つめていた。
それはある意味では究極の失恋だった。
「私には偶然など必要ないと思っていました。でも──」
あるんですね。こういう偶然が。
和の声が呪文のようにあたりに響く。
「原村さん、なぜこんなことを・・・」
「貴女にはわからないでしょう。前世でも、次の世でもきっとわからない。私たちはそういう関係なんです」
そういうと和は部室のドアを空け、雨の降りしきる屋上へと走っていった。
「和!」
「京ちゃん捕まえて!」
京太郎は急いであとを追う。和は屋上の一番端に行くとこちらを振り返った。
それは幽鬼のように艶やかで、頬にはりつ髪と濡れた服が妙になまめかしく、京太郎を圧倒した。
「来ないでください。誰にも見られたくないの」
「やめろ! 戻って来い和!」
「平気です。私はきっとまた同じ過ちを繰り返す。でもまた来世でいっしょだもの。そのために部室は綺麗にしておきたかったのです。血の穢れは、絶対に許せなかった」
そのまま一歩後ろへさがる。
「和!」

飛びつく京太郎の手は届くことなく、少女の体を下方へと奪い去っていった。

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     `''|/ノ
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   ヽ,    ,r      .|
     ヽ,rヽ!'-‐''ヽ、ノ
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 ヽ、__/ ./ハレハ i`ヽ、 `''r`ミ_
   .レ//r,,,、 レ'レハヾ,  L,,_ `ヽ、
    "レ, l;;;l   l;;;l`i.リレ' リ ̄~~
     ヽ、 ワ `"/-'`'`'
       `''【咲 -Saki-】 麻雀探偵宮永咲 【夫婦】

             おわり

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