京太郎「(永水の人たちの食事ってこう精進料理なイメージが強かったけれど…)」

京太郎「(普通の食事で良かった…本当に良かった…)」

京太郎「(精進料理は腹に溜まらないし、味付けも薄いから苦手だからなぁ…)」

京太郎「(流石に洋食って訳じゃなかったけれど、純和風の美味しい食事だったのが本当に有難い)」

京太郎「(お風呂も近くから温泉を引いてるからか、すげぇ良かったぜ…)」

京太郎「(しかも、露天で広々としてて…ぶっちゃけこの前の温泉合宿と同じくらい身体がポカポカしてる)」

京太郎「(唯一の懸念はお風呂がひとつしかない事だったけど、何事もなく終わったしな)」

京太郎「(ラッキースケベイベントなんて二次元の中だけなんだよ…)」

京太郎「(いや…別に期待してた訳じゃないけれど…って)」

京太郎「(あそこにいるのは…神代さんじゃないか)」

京太郎「(屋敷の庭園で、一人、池を見つめて何をやってるんだ…?)」

京太郎「(…にしても…こうやって見ると凄い神秘的な人だよなぁ…)」

京太郎「(話していると可愛くて、からかいたくなるくらいなのに…)」

京太郎「(今は殆どそんな事を感じないどころか…凄い神聖で触れちゃいけないもののように感じる)」

京太郎「(実際、巫女って神様のものらしいし、神聖なものなのは確かなんだろうけど…)」

京太郎「(でも…凄い…綺麗だ)」

京太郎「(月明かりの下で照らされる黒艶の髪も、その白さを際立たせる白い肌も…何処か憂いを含んだその瞳も)」

京太郎「(まるでそこだけ一枚の絵みたいに…完成されている…)」

京太郎「(何か…そういうの見ると悔しいよなぁ…)」

京太郎「(こんな可愛い人を独り占めとか…神様ずるいって)」

京太郎「(まぁ…さっき、その神様に祈った俺が言える事じゃないかもしれないけれど…)」

京太郎「(でも…憂い顔を見せる神代さんを励ます為に、話しかけるくらい許してくれるよな?)」



小蒔「(私…何をやっているんでしょう…)」

小蒔「(須賀さんが真剣に相談してくれているのに…私だけ頭の中一杯になっちゃって…)」

小蒔「(気づいた頃にはもうお食事も終わって…何もしてあげる事が出来ませんでした…)」

小蒔「(結局…私がやった事と言えば、須賀さんを迎えに言った事だけ…)」

小蒔「(それだって…元々は私の失敗が原因ですし…誇れるような事じゃありません)」

小蒔「(いえ…そもそも重い荷物を背負って、ここまで来てくれた須賀さんを歩かせてしまった事を考えると失敗であると言っても良いくらいです)」

小蒔「(その他の…細かい手続きも霞ちゃん任せでしたし…私は本当に…何も出来ていなくて…)」

小蒔「(頑張っているのに…失敗とか…空回りばっかり…)」

小蒔「(私…何をやっているんでしょう…)」

小蒔「(折角、頼ってきてくれた須賀さんを疲れさせるだけで…私は…)」



京太郎「あの…神代さん?」

小蒔「ひぁ!?」

京太郎「あ…すみません。驚かせちゃいましたか」

小蒔「ふぇ…あ…す、須賀さん…」


小蒔「えっと…どうかしたんですか?」

京太郎「実は風呂あがりで部屋に戻ろうとしたところで神代さんの姿を見つけて」

京太郎「もう少しお話したいなって思って、こうやって寄ってきた訳です」

小蒔「…私…とですか?」

京太郎「えぇ。だって、俺、神代さんのファンですから」ニコッ

京太郎「霞さんが来てからは霞さんとばかり話してましたし、改めて色々とお話したいな、と」

小蒔「私と…お話…」

京太郎「後…まぁ、謝りたかったのもありまして」

小蒔「え…?」

京太郎「すみません。俺の不用意な発言の所為で神代さんを追い詰めてしまって…」ペコリ

小蒔「あ…あ…」カァ

小蒔「(ふ、不用意な発言って…あ、あ…アレの事ですよね!?)」

小蒔「(え、え…えっちな気分にさせるって…あの…あの)」マッカ

小蒔「い、いいいいいえ!?まったく気にしてないですよ!」

京太郎「そ、そうですか…それなら良いんですが…」

京太郎「(…気にしていないように見えないんだけど…それはやっぱり黙っていた方が良いんだろうな…)」

京太郎「(と言うか和以上に純粋培養な神代さんが意識しない方が難しいだろうし…)」

京太郎「(怒っている訳じゃないだろうから、ここは適当に話題を変えて…)」


小蒔「そ、それにですね!須賀さんは何も悪くないじゃないですか!」

小蒔「須賀さんは本当の事を言っただけで…別に私を恥ずかしがらせようとしていた訳じゃないですし…」

小蒔「寧ろ、私の方が…その…ごめんなさい…」

小蒔「本当は色々と相談に乗ってあげなければいけない立場なのに…あんな風に狼狽えてしまって…」シュン

京太郎「(あー…そんな風に受け取っちゃうのか…)」

京太郎「(悪いのは俺の能力であって、神代さんは何も悪く無いと思うんだけど…)」

京太郎「(でも、多分、それをそのまま口にしても…きっと意味ないよなぁ…)」

京太郎「(こうやって自分を追い込むってことはそれだけ俺を何とかしようという気負いがあるってことだろうし…)」

京太郎「(まずはそれをどうにかして緩和させてあげないと何を言っても逆効果になりそうだ)」

京太郎「あー…その…ですね」

京太郎「こんな事言うとおかしいかもしれませんけど…俺はあんな風に反応されて嬉しかったですよ」

小蒔「え…?」

京太郎「その…俺の能力を知っても、警戒せずに近づいてくれた人がいて…」

京太郎「その人は俺を励ましてくれただけじゃなくって、凄い力になってくれたんです」

京太郎「でも…俺の能力はその人にも牙を剥きました」

小蒔「…」

京太郎「それを漫さん…えっと…その人は許してくれましたけれど…傷つけてしまった事に変わりはありません」

京太郎「いえ、それどころかきっと今も傷つけているんだろうと思います」

京太郎「だから…俺にとって、ああやって恥ずかしがられるのはとても有難い事だったんですよ」

京太郎「そんな風に恥ずかしがられて距離を取られた方が、間違いが起こったりする事はないですし」

京太郎「まぁ、もう能力の詳細が殆ど分かっている以上、俺が麻雀しなければ良いだけの話なんですけどね」ハハッ


京太郎「まぁ…延々と自分語りしておいてアレですが…ともあれ、神代さんの反応は間違いじゃありません」

京太郎「寧ろ、俺にとっては有難い事で、心情的にとても気が楽になったくらいです」

京太郎「だから、そんな風に気負わないで下さい」

京太郎「もう神代さんは俺を沢山、助けてくれているんですから」

小蒔「…本当に…そうなんですか…?」

京太郎「勿論ですよ。こんな嘘、吐いたりなんてしません」

京太郎「(実際…嘘じゃないしなぁ…)」

京太郎「(そもそも女だけの屋敷に男である俺を招き入れる時点で無警戒過ぎて気が重いくらいだ…)」

京太郎「(正直、この話が破談になったりしないレベルでもっと警戒して欲しいと思ってるくらいなんだから)」

京太郎「(…何かすげぇ贅沢な悩みだよなぁ…コレ…)」

京太郎「(一ヶ月前までは巨乳な女の子相手に警戒して欲しいと思うようになるとは思いもしなかったぜ…)」




小蒔「(私が…須賀さんの役に立っている…?)」

小蒔「(そんな事…にわかには信じられません…)」

小蒔「(でも…須賀さんの表情には嘘っぽいものはなくて…冗談でもなさそうで…)」

小蒔「(だとしたら…本当に…私が役に立てたんですか?)」

小蒔「(ただ、目を回して真っ赤になっていただけの私が…本当に…?)」

小蒔「(…分かりません…分からないですけど…でも…)」

小蒔「(それが本当だとしたら…須賀さんはどれだけ傷ついているんでしょう…)」

小蒔「(警戒される事が嬉しくて…優しさを怖いと思うほど…須賀さんの心は疲弊しているんですから)」

小蒔「(でも、須賀さんはそれを決して表には出さず…こうしてにこやかに笑っています)」

小蒔「(それは…きっと強い…と言うべきなのでしょう)」

小蒔「(ですが…私にはそれが…本当に心の底から強い訳じゃなく…弱いが故の強がりに思えるのです)」




小蒔「(勿論、それは男性である須賀さんにとって失礼な考えなのでしょう)」

小蒔「(しかし…こうやって私を見据えるその目には…微かに怯えが混ざっているのです)」

小蒔「(これまで…その能力を良く知らずに傷つけてきた女性が彼の心に翳りとなって確かに存在している)」

小蒔「(それを感じさせる色に私は…)」



小蒔「…須賀さん」

京太郎「はい?」

小蒔「私…頑張りますから…!」

京太郎「…え?」

小蒔「その…あんまり…私が出来る事は多くはありません」

小蒔「雑事は霞ちゃんの担当ですし、祓う力も初美ちゃんの方が強いくらいですから」

小蒔「運動は春ちゃんや巴ちゃんには敵いませんし、その…家事だって皆に劣るくらいです」

小蒔「でも…私…頑張ります」

小蒔「須賀さんが…また麻雀が出来るように…能力を抑えられるように頑張りますから」

京太郎「神代さん…」

小蒔「だから…その…えっと…」

小蒔「まだ私の…ファンでいてくれますか?」



小蒔「(…そんな彼に…優しくしてあげたいと思いました)」

小蒔「(私が誇れる事なんて…巫女としての力しかないけれど…)」

小蒔「(でも…精一杯、彼が本当の意味で優しくなれるように…)」

小蒔「(そうやって誰かに怯えるような目をしなくても良いように…力になりたいって)」

小蒔「(その気持ちだけは…他の皆に負けたくないって…私は…)」



京太郎「はは…何を言っているんですか」

京太郎「これからも…そしてこれまでも俺は神代さんのファンですよ」

京太郎「止めろって言われるまでは止めるつもりはないです」

小蒔「そ、そんな事言いませんよ!」

小蒔「だって…私…本当に嬉しかったんですから」

小蒔「須賀さんにファンだって言って貰えて…私でもファンになってくれる人がいるんだって思えて…」

小蒔「だから…あの…」スッ

京太郎「?」

小蒔「あ、あの…握手…して貰えませんか…?」

京太郎「…いや…とても光栄な話なんですけど…普通逆じゃないですかね?」

小蒔「え…?」

京太郎「いや、神代さんらしくて良いと思いますよ」クスッ

京太郎「これからもよろしくお願いします、神代さん」ギュッ



小蒔「あ…」

小蒔「(思ったより硬くて…大きな手のひら…)」

小蒔「(お父様とはまた違う…男の人の手…)」

小蒔「(だから…でしょうか…これはとても暖かくて…優しい感触です)」

小蒔「(須賀さんの手に包まれている私の手が…じんわりと暖かくなっていく…そんな…優しい…)」

京太郎「…神代さん?」

小蒔「はわ…っ!?」

小蒔「え、えと…な、何でしたっけ?あ、明日のお天気ですか!?え、えと…きっと晴れだと思います!!」

京太郎「あ、いえ、布団を干す都合もあるんで、それも確かに気になっていたんですが…そっちじゃなくて…」

京太郎「えっと…手…そんな両手で包まなくても大丈夫ですから…」

小蒔「え…あ…」カァァ

小蒔「ご、ごめんなさい!」バッ

小蒔「あ、あのあの…私…こういうのあんまりした事がなくって…だから…えっと…」アタフタ

京太郎「だ、大丈夫です。分かってますから!」



小蒔「は、はしたない女の子だと思わないで下さい…ね…」ナミダメ

京太郎「(いや、この程度ではしたないとかどれだけ純粋培養なんだよ…)」

京太郎「(こんな人にセックスとか見せつけちゃった時にはもう恥ずかしさで死んじゃうんじゃないだろうか…)」

小蒔「あ、あの…」

京太郎「あ、いえ、すみません…」

京太郎「でも、この程度じゃまったく気にしないですよ」

京太郎「寧ろ、神代さんの手はすべすべで柔らかいんでもっと触っていたいなーなんて」ハハッ

小蒔「そ…そうですか…」

小蒔「では…その…ど、どうぞ」キュッ

京太郎「…え?」

小蒔「う…そ…その…どう…ですか?」カァ

京太郎「い、いや…えっと…大変、結構なお点前で…?」

小蒔「そうですか…その…それなら良かったです…」マッカ

小蒔「わ、私も…ですね」

小蒔「私も…須賀さんの手は…好き…です…よ」

小蒔「暖かくて優しい…素敵な手だと…そう思います…」

京太郎「そ、そうですか…それは光栄です」


京太郎「(いや、もう光栄を通り越して何でこうなってるのか分かんないレベルなんだけどな!!)」

京太郎「(何でこんな風になってるんだよ…何処で選択肢を間違えたんだ俺…)」

京太郎「(いや…寧ろ正解を選んでるから、こんな事になってるのか…?)」

京太郎「(あぁ…やばい…思考がまとまらねぇ…)」

京太郎「(とりあえず…神代さんの手が魅力的過ぎるんだよ…)」

京太郎「(巫女さんってのはこんな所まで魅力的で柔らかいのか?)」

京太郎「(それともこれは神代さんだから?)」

京太郎「(まったく…まったく分からねぇけど…とりあえず…)」ギュッ

小蒔「あ…」

京太郎「…だったら、俺の手も二つどうですか?」

京太郎「と言ってもゴツゴツして窮屈なだけかもしれないですけど」

小蒔「そ、そんな事…ありません…っ」

小蒔「二つで包まれると…さっきよりも暖かくて…」

小蒔「その…もう少し…このままでも良いですか…?」

京太郎「勿論ですよ」


………



……






小蒔「えへ…♪何だか…恥ずかしいですね…」

小蒔「お互いに…手を握り合って見つめ合うなんて…まるで恋人みたいです…」

京太郎「もう今更じゃないですか」

京太郎「それに俺なんかじゃ神代さんには釣り合いが取れませんよ」

小蒔「…」

京太郎「あれ?神代さん?」

小蒔「あの…そういうの私…好きじゃないです」ムスー

京太郎「え?」

小蒔「そうやって自分を卑下しながら、持ち上げられても…困るだけですから」スネー

京太郎「あー…すみません」

京太郎「でも…その他意がなくってですね…それだけ神代さんがこう素晴らしいって事で…」

小蒔「…私、そんなに風に持ち上げられるような人じゃありませんよ」

京太郎「…え?」

小蒔「嫉妬だってしますし…落ち込んだりもします」

小蒔「巫女だなんだって言っても…私たちは普通の女の子なんですから」

小蒔「だから…そうやって壁を作ったりしないでください」

小蒔「そういうの…結構、傷つきます…」ショゲ




京太郎「(あぁ…そうだよな…)」

京太郎「(今までだって…俺は見てきたじゃないか)」

京太郎「(神代さんがとても可愛くて、普通の女子高生だってところを)」

京太郎「(勿論、ちょっと純真過ぎる所はあるけれど…それだって壁を作るようなものじゃない)」

京太郎「(でも…これまできっと神代さんはそうやって壁を作られてきたんだ)」

京太郎「(それが家柄なのか、生まれなのか、それとも才能なのかは分からない)」

京太郎「(でも、周りにいる人たちから姫様と呼ばれ、一線を画した扱われ方をしている神代さんにとって…それは…)」

京太郎「(とても辛くて…疎外感を感じる事だったのかもしれない)」

京太郎「(だとしたら…今の俺に出来る事は一体、何だ?)」

京太郎「(目に見えるやんわりとした拒絶に傷ついた神代さんに…一体、何を言ってあげれば良い?)」

京太郎「(…そんなの…決まってるよな)」

京太郎「(ここに壁がないって…そうやって証明してあげれば良いんだ)」

京太郎「(俺は壁なんか作らないんだって…そう言ってあげれば良い)」

京太郎「(だから…勇気を振り絞れよ…須賀京太郎)」

京太郎「(例え、図々しく思われるかもしれないと恐れても…それが俺の責任だ)」

京太郎「(神代さんを傷つけてしまった…俺の贖罪なんだから)」


京太郎「あの…神代さん?」

小蒔「…何ですか?」

京太郎「…俺相手に敬語は要らないですよ」

小蒔「でも…」

京太郎「…その代わり、俺も敬語を使わないから」

小蒔「…え?」

京太郎「あ、勿論、年上だし…神代さんって呼び名は変えないけどさ」

京太郎「でも…なんつーか…こう…」

京太郎「これから友達になろうって思ってる人に…敬語使うのはおかしいだろ?」メソラシ

小蒔「あ…」ジワッ

京太郎「あ…あぁ!?そ、その…ごめん…じゃ、じゃなくて…ごめんなさい!!」アワアワ

京太郎「や、やっぱり図々しかったですかね!?本当にすみません!!」

小蒔「そ、そうじゃないんです…そうじゃ…」グスッ



小蒔「(友達…私の…『神代小蒔』の純粋な友達…)」

小蒔「(霞ちゃんたちのように…『巫女』を守る為に…友達になってくれた人じゃない)」

小蒔「(本当に…心から…『私』を友達だと思って…受け入れてくれた…人…)」

小蒔「(…嬉しい…そんな人が…いてくれる事が…とても嬉しい…っ)」

小蒔「(でも…どうして…どうして私の目尻から…涙が出るんでしょう…)」

小蒔「(本当は…嬉しいのに…大事な宝物を手に入れたくらい…嬉しくてしかたがないのに…っ)」

小蒔「(私の目からは…涙が…止まらなくて…こんな顔…友達には見られたくないのに…)」ジワッ

小蒔「う…」バッ

京太郎「おわっ…!?」

小蒔「(…須賀さんの胸の中…暖かい…)」

小蒔「(泣き顔が見られたくなくて飛び込んじゃったけれど…これ…凄い安心します…)」

小蒔「(手だけじゃなくて…身体全部があったかくて…凄い…)」

小蒔「(うっとり…しちゃいます……)」


京太郎「(なぁ、誰か今の俺の状況を詳しく分析してくれないか?)」

京太郎「(今日会ったばかりの女の人に遠回しに友達になりたいって言って泣かれるのってどれくらいの確率なんだ?)」

京太郎「(しかも、今は俺の胸の中で顔を埋めるようにして抱きついてるし…)」

京太郎「(一応、もう泣いてはいないみたいだけど…コレ…色々とやばいよなぁ…)」

京太郎「(いや…神代さんに抱きつかれるのはまったくやばくないのは逆にやばすぎるし…とても気持ち良いんだけどさ)」

京太郎「(ただ…このシーンを誰かに見られちゃうと…俺の立場がかなりやばい)」

京太郎「(今の神代さんにちゃんと事実に説明をしてもらうのは難しいし…その場でギルティされる可能性だってあるくらいだ)」

京太郎「(でも…どうしてか、そんな神代さんを突き放そうって気には全く慣れないんだよなぁ…)」

京太郎「(いや…それどころか…寧ろこう…自分からぎゅっと抱きしめたい気さえする)」

京太郎「(そんな事やったら最早、有罪確定だって分かってるんだけど…分かってるんだけどさ!!)」

京太郎「(今の神代さんは守ってあげたいオーラ全開で…このままにしておく方が忍びないって言うか…)」

京太郎「(こう…庇護欲と同時に支配欲を擽られるというか…)」

京太郎「(折角、こうして能力を制御しに鹿児島まで来てるのに何言ってるんだって言われかねないとは分かってるんだけど…)」

京太郎「(それだけ神代さんが可愛いのが悪い!!!!)」



小蒔「…あ…その…」

京太郎「あー…お、落ち着きました?」

小蒔「は、はい…お見苦しい所をお見せして、すみませんでした…」

京太郎「いや…俺はまったく気にしてませんよ」

京太郎「寧ろ、すばらなおもちが二つ押し付けられて…」

小蒔「…おもち?」キョトン

京太郎「あ、いえ、と、とにかく…男として悪い気分じゃなかったのは確かです」

小蒔「そ、そうですか…それなら良かったんですが…」

小蒔「でも…お召し物を汚してしまって…」シュン

京太郎「ははは、この程度で汚れたなんて思いませんよ」

小蒔「でも…それじゃ、私の気が済みません」

小蒔「それに…あんな…は、はしたない真似までしてしまった訳ですし」カァ

京太郎「(はしたないのかなぁ…アレ…)」

京太郎「(まぁ、突然、抱きつかれて驚いたのは確かだけど…)」

京太郎「(でも、俺の胸に隠れてたってことは泣き顔を見られたくなかったんだろうし…)」

京太郎「(寧ろ、途中までそれに気付けなかった俺のデリカシーの無さが問題な気がする…)」



小蒔「だ…だからですね…その…」モジモジ

京太郎「(まぁ…それを言った所で…神代さんの認識を変える事は難しいし…)」

京太郎「(ここは適当にお礼か何かを飲んで、水に流した方がお互いに気が楽だろう)」

京太郎「(幸いにして、神代さんにはその案があるようで、俺をチラチラと見てきている)」

京太郎「(…でも、何でこんなに恥ずかしがるんだろう…)」

京太郎「(まさか…あーんな事やこーんな事を…いや、ないか)」

京太郎「(和もそうだけど、神代さんにはそんなのありえねぇよな)」ハハッ

京太郎「(まぁ…恥ずかしがっていると言っても手を繋ぐとかそういうレベルの可愛らしいもんだろ)」

小蒔「あ、あの…す、須賀さんさえ…良ければ…なんですけれど…」

小蒔「えとえと…旅でお疲れな時にこういうことを言うのは恐縮で…」

小蒔「は、恥知らずと思われるかもしれませんが…で、でも…でも!」シドロモドロ

小蒔「これから…お暇でしたら…わ、私の部屋に…来ませんか?」

京太郎「…え?」



………



……






京太郎「(拝啓、お父様お母様)」

京太郎「(巫女さんの部屋は思ったより普通でした)」

京太郎「(家具なんかはとても和風ではありますけれど、ぬいぐるみやクッションが置いてあったりとかなり女の子してます)」

京太郎「(そして、何より…凄い柔らかい匂いがするんです)」

京太郎「(神代さんの匂いが染み込んでいるような…それは和の時とはまた違った興奮を俺に与えます)」

京太郎「(ぶっちゃけ、すげぇドキドキする…)」

京太郎「(何で女の子の部屋ってこんな異次元なんだよ…男とは絶対に違う構成要素で出来てるだろ…)」

小蒔「あ、あの…座布団をどうぞ」スッ

京太郎「あ、有難うございます…」スワリ

京太郎「(そしてそんな部屋の主は一体、俺に何をさせたいのかまったく分からない…)」

京太郎「(正直、出会って一日も経ってないような男を自室に招き入れるとか正気の沙汰じゃないだろ…)」

京太郎「(でも…涙を浮かべて上目遣いをする神代さんに断るだなんて出来ないし…)」

京太郎「(のこのこ着いてった俺に邪な考えがまったくないとは言えないしなぁ…)」

京太郎「(これは…神様的にはセーフなんだろうか…?それともアウト…?)」

京太郎「(それとも…神様なんて最初っから居ない…のか?)」




小蒔「え、えと…そんなに畏まらなくて結構です…よ?」

小蒔「あの…リラックスして…普通にしておいて下さい…」

京太郎「は、はは…その…難しいですけど頑張ります…」カチコチ

小蒔「ぅ……」

京太郎「…?」

小蒔「あ、いえ…その…何でもありません…」シュン

京太郎「(あれ…何で神代さん落ち込んでるんだ…?)」

京太郎「(難しいって言ったのがやっぱり拙かったのか…!?)」

京太郎「(いや…でも…ぶっちゃけ難しいだろ…)」

京太郎「(それなりに知ってる和の部屋でも結構、緊張してたんだぞ…)」

京太郎「(それなのに神代さんとは正直、まだ距離も図りかねていないし…)」

京太郎「(そもそも和を超えるお嬢様なんだ…)」

京太郎「(その上、さっき一世一代の申し出が有耶無耶になった今、ぶっちゃけ場違い感が半端ない…)」

京太郎「(神代さんが泣いたり傷ついたりしないなら、今すぐ部屋に戻って布団に逃げ込みたいくらいだ…)」


小蒔「(また…敬語使われちゃってます…)」

小蒔「(さっきもう使わないって言ってくれたのに…友達に…なってくれるって言ったのに…)」

小蒔「(いえ…結局、有耶無耶のまま…ここまで来ちゃっているのが悪いんでしょう…)」

小蒔「(私があの時泣いちゃったから…須賀さんはきっと嫌がられているって勘違いしているんです…)」

小蒔「(だから…まずはその誤解を解かなくてはいけません)」

小蒔「(それは…分かっているのに…分かっているのに…どうしてでしょう…)」

小蒔「(もし…嫌がられたらと思うと…怖くて仕方がありません…)」

小蒔「(須賀さんは…こんな気持ちで…私に言ってくれたんですね…)」

小蒔「(こんなに怖いのに…友達になりませんかって…)」

小蒔「(それを…怖いからって私だけ逃げる事なんて出来ません…)」

小蒔「(私だって…出来るんです…!)」

小蒔「(怖いけど…嫌われてしまったら…と思うけど…でも…!)」

小蒔「もう私に向かって伸ばされた手くらいは…掴みたいですから…)」



小蒔「あ、あの…」

京太郎「え…あ…はい…」

小蒔「あの…その…えっと…」カァァ

小蒔「だ、だから…その…」ギュッ














小蒔「と、とりあえず…お召し物を拭きますね!」

京太郎「あ、はい、お願いします…?」

小蒔「ふぁい…」シュン

京太郎「(な、何か良く分からないけど落ち込んでる…)」

京太郎「(また俺の迷惑だとかそんな事考えてるのかなぁ…)」

京太郎「(とは言え…そもそもパジャマが神代さんの涙で濡れたくらいじゃ特に気にならないし…)」

京太郎「(こうやって拭いてくれるだけでもかなり有難いんだけど…)」

小蒔「うぅ…」フキフキ

京太郎「(まぁ、強いていうなら急接近する神代さんにドキドキしちゃうって事くらいかな!?)」

京太郎「(ある意味、こういうシチュエーションに耐性がなかったらスタンダップしてたかもしれないな…)」

京太郎「(だって、あの神代さんがおずおずと拭いてくれてるんだぜ?)」

京太郎「(何処見れば良いのか分かんない以上に、神代さんの甘い匂いがですね…)」

京太郎「(その上、さっき抱きつかれた時の魅惑的な感触を思い出せば、そりゃあムスコだって元気になるぜ…)」

小蒔「(結局…須賀さんに言えませんでした…)」

小蒔「(いえ…勿論…こうして須賀さんのお召し物を拭くのは大事なことなんですが…)」

小蒔「(でも…それよりもっと先に言いたい事が沢山あったはずなのに…)」

小蒔「(私の馬鹿…意気地なし…ぃ…)」

小蒔「(…でも…こうして触れると…須賀さんの身体…全然、違います…)」

小蒔「(硬くって逞しくって…私とは違う…男の人の身体…)」

小蒔「(さっき私をあんな風にしてくれたそれがそこにあると思うと…その…)」

小蒔「(こうして触れるだけなのに…凄い…ドキドキして…)」

小蒔「(もっと触ってみたいって…私…)」

小蒔「(な、何を…考えているんですか!!)」

小蒔「(そんなはしたない事…考えちゃいけません…)」ブンブン



小蒔「で…出来ました…」マッカ

京太郎「あ…有難うございます」

小蒔「い、いえ…元々…私が悪かった事ですから…」ウツムキ

京太郎「…?」

京太郎「(何で服を拭いてただけでそんなに赤くなんだろう…)」

京太郎「(浴衣でもないし…肌蹴てたとかじゃないと思うんだけど…)」

小蒔「そ、それでですね…!!」グッ

京太郎「あ、はい」

小蒔「えっと…その…」

小蒔「一つ…聞きたいというか…確かめたい…事がある…んですけど…」

京太郎「え、えぇ。何でもどうぞ」

京太郎「宇宙の神秘とかそういう知らないのは無理ですけど…家族構成とかでもバンバン答えますよ!」

小蒔「そ、それはそれで後で聞きたいですけど…でも…今はそうじゃなくって…」モジモジ

小蒔「あの…じ、じゃあ……えっと…」スーハー

小蒔「どうして……その…どうして須賀さんは……」

霞「姫様ー」スゥゥ

小蒔「ひぁぁ!?」

京太郎「うぉわ!?」


霞「…あれ?何で須賀君がココに?」

京太郎「い、いえ、神代さんに招かれて!だ、だからこそ、決して不埒な事をしようと思って入った訳じゃなくってですね!?」

霞「クスッ…大丈夫よ。分かっているから」

霞「そもそも巫女の部屋は許可がないと入室出来ないようになってるもの」

京太郎「…普通の襖戸にしか見えないんですけど…」

霞「あら?じゃあ、私の部屋で試してみる?」

京太郎「完全不審者になりますし、絶対、誤解される未来しか見えないんで遠慮します」

霞「あら、残念…まぁ、それはともかく…姫様?」

小蒔「うー…うーっ」

霞「…何で姫様は布団を被ってるのかしら?」

京太郎「いやぁ…俺にもさっぱり分からなくて…」




小蒔「(な、何でこんな時に霞ちゃんが来るんですかぁ…)」

小蒔「(折角…勇気を振り絞ろうとしたのに…頑張ろうと思ったのに…)」

小蒔「(これじゃ…絶対に聞けません…)」

小蒔「(でも…霞ちゃんは悪くなくて…寧ろ…私の為に色々とお仕事してくれていて…)」

小蒔「(なのに…何なんでしょう…このもやもやとした気持ち…)」

小蒔「(霞ちゃんが来た途端に…二人で仲良く話しているのを見ると…私…)」

小蒔「(さっき感じた時よりも…ずっとずっと大きな『面白くない』で出来てるこれは…)」

霞「あの…小蒔ちゃん?」

小蒔「う…な、何ですかぁ…?」

霞「とりあえず顔を見てお話したいんだけど…」

小蒔「い、今の私はかたつむりさんなので無理です…」

京太郎「か、かたつむりって…」




小蒔「と、とにかく…今はダメなんです…」

霞「…私、小蒔ちゃんをそういう風に育てた覚えはないんだけど?」

小蒔「う…」

霞「ちゃんとお話する時は顔を見るようにって…教えたわよね?」

小蒔「う、うぅぅ…」

京太郎「(…あぁ、これお母さんだ…)」

京太郎「(石戸さん本人に言ったら絶対、怒るだろうけど…これ完全にお母さんだ…)」

小蒔「い、嫌…です…」

小蒔「(今…霞ちゃんの顔を見たら…このもやもやが大きくなっちゃいそうで…)」

小蒔「(だから…今は絶対、嫌なんですっ…)」

霞「そう…残念ね」

霞「それじゃあ、須賀君、行きましょうか」

京太郎「へ?」

霞「ここに来たのは親睦を兼ねて、お茶でも一緒にどうかなって聞きに来たのよ」

京太郎「…良いんですか?」

霞「勿論。とは言っても…須賀君がまだ大丈夫そうだったら…だけどね」

霞「移動疲れとか色々あるだろうし…眠いなら眠いで休んで頂戴」

霞「それならそれでまた明日、一緒に三時のおやつでも囲みながらお茶会をするのも良いでしょうし」

京太郎「(凄い有難い申し出なのは確かだ)」

京太郎「(部外者である俺にとって、一刻も早く皆に慣れてもらうのは必要不可欠な事なんだから)」

京太郎「(確かに少し眠くはあるけど…それだって今すぐ布団に飛び込まないといけないほどじゃないし…)」

京太郎「(それに石戸さんを始め、皆美少女ばっかりだから、仲良くなりたいってのはある)」デヘヘ

京太郎「(それを考えれば…ここは頷くのが一番なんだろうな)」

京太郎「(寧ろ、そうする事で石戸さんが神代さんを布団から引っ張り出そうとしている事を考えれば…)」

京太郎「(ここで頷かない理由の方が少ないだろう)」

京太郎「(…でも…)」チラッ

小蒔「う…うぅ…」

京太郎「(…仕方ないな…)」

京太郎「折角の申し出ですけど…遠慮します」

霞「あら…どうして?」

京太郎「実は俺、かたつむりとか結構好きで…」

京太郎「こうやってやってるのを見ると構いたくなるんですよね」

京太郎「だから…神代さんが一緒に来てくれれば、お茶にも行けるのになーって」チラッ

小蒔「……」

霞「そうねー皆で一緒にお茶出来るのにね」クスッ

京太郎「あー残念だなー。皆と仲良くお話したかったのに」

京太郎「こんなに可愛いかたつむりがいると傍を離れられないじゃないですかー」

小蒔「う…うぅぅ…」

霞「ちゃんとお茶請けも用意してるのにね」

京太郎「それは楽しみだなー。でも、神代さんが出てきてくれないと…それも食べられないなー」

小蒔「むー…むーぅぅぅ…」

小蒔「…二人とも卑怯です…」


京太郎「じゃあ、出てきてくれます?」

小蒔「…霞ちゃんがあっち向いていてくれるなら…」

霞「はいはい…もう…反抗期かしら…」クルリ

京太郎「ほら、あっち向きましたよ?」

小蒔「……」コソコソ

小蒔「……」ジィィ

京太郎「?」

小蒔「(さっきの気持ち…少しはマシになってます…)」

小蒔「(勿論…完全に消えてる訳じゃないですけれど…でも…)」

小蒔「(今はそれほど大きくなくて…これなら…多分…大丈夫かも…)」

小蒔「…霞ちゃん、もうこっち向いても大丈夫だから…」

霞「あら…反抗期は終わり?」クルリ

小蒔「は、反抗期なんかじゃないですよっ」

小蒔「でも…生意気な事言ってすみませんでした」ペコリ

霞「そうね…これはお仕置きが必要かしら?」

小蒔「ひゅい!?」

霞「冗談よ。そんなに怒ってる訳じゃないし…」

霞「ただ…」

小蒔「?」

霞「いえ…何でもないわ」



霞「(流石に…違うわよね)」

霞「(今、一瞬だけど垣間見えた…あの表情…)」

霞「(まるで自分のものが取られたようなそれは…)」

霞「(私の目には『嫉妬』に見えたけれど…でも…)」チラッ

京太郎「?」

霞「(ほんの数時間で…小蒔ちゃんがそんな感情を向けるほど須賀君に執着している?)」

霞「(そんな事…あり得ないわよね…)」

霞「(今まで一緒だった私達だってそんな風に見られる事はないんだもの)」

霞「(きっと私の見間違えだったんでしょう)」

霞「それじゃ…姫様の機嫌も治った事だし…行きましょうか」

京太郎「ですね。ちなみに皆さんは何処に?」

霞「最初に自己紹介した所があるでしょう?あそこよ」

京太郎「なるほどー。じゃあ、早く行きましょうか」



………



……






初美「へー…それじゃあ須賀君はカピバラを飼ってるですかー」

京太郎「えぇ。色々と世話をする必要がありますけど、可愛い奴ですよ」

春「…須賀君って意外とお坊ちゃま?」ポリポリ

巴「え?どうして?」

春「カピバラは…値段もさる事ながら温水施設なんかの建造も必要…」

京太郎「あ、良く知ってますね」

初美「はるるは動物とか結構、好きですもんねー」

巴「だからと言って、気に入ったら黒糖あげようとするのはどうかと思うけど」

春「…黒糖美味しいのに」ポリポリ

春「お茶にも…合う…」ズズ

霞「だからって、お茶請けに手を出さず、黒糖ばっかり食べるのは止めなさい」

霞「太るわよ?」

春「……」ジィ

春「……」ウーン

春「…………」ウーンウーン

春「…須賀君、要る…?」

京太郎「いや、俺も黒糖好きですけど、山盛りになってる袋まるまる一個はちょっと…」

春「…でも…食べてくれないと太る…」

京太郎「いや…食べなきゃ良いだけじゃないですか」

春「黒糖が目の前にあるのに…黒糖を食べないなんて…冒涜」

京太郎「え…えぇ…」

春「だから…食べて?」

京太郎「いや…がんばりますけど…でも、あんまり期待しないで下さいね?」ポリポリ

京太郎「…あ、美味しい」



小蒔「わ、私も…」

霞「姫様はダメです」

小蒔「そ、そんなぁ…」

初美「姫様がお菓子食べると虫歯になっちゃうですよー」

小蒔「それは他の皆も一緒じゃないですか」

巴「一応、お茶請けの方は糖分その他控えめに作ってありますし」

初美「でも、はるるの黒糖は違うですよー」

小蒔「むぅぅ…は、春ちゃん…?」

春「…意地悪するつもりじゃないけど…ダメです…」

小蒔「えー…」

京太郎「はは。それだけ皆に大事にされてるって事ですよ」ポリポリ

京太郎「実際、この時間から黒糖食べるのは身体にあんまり良くないですって」

小蒔「そう言いながらも目の前で食べられると無性に食べたくなります…」ショボン

京太郎「あー…」

小蒔「…じぃぃぃぃ」

京太郎「……」

小蒔「じぃぃぃぃぃぃぃ」ウワメヅカイ

京太郎「……石戸さん?」

霞「もう…甘やかせちゃダメよ」

霞「こういうのはちょっとした甘えから癖になっちゃうんだから」

京太郎「でも…一口だけとかなら…」

霞「ダーメ」

巴「何て言うか…」

初美「何だか凄い仲が良いんですよー」

春「…小さな子どももいる夫婦的な…会話?」

霞「ふ…夫婦!?」カァァ

京太郎「はは、石戸さんみたいな美人のお嫁さんがいれば、俺も人生勝ち組になれるんでしょうけどね」ハハッ

霞「す、須賀君もそうやって乗らないで…」

京太郎「無理ですって。だって、石戸さんすげー美人ですし」

京太郎「んな事言われたらどうしても想像しちゃいますよ」

霞「び、美人…って…もう…す、須賀君ったら…」

巴「あれ…もしかして満更でもない感じですか?」

霞「め、免疫がないだけです!」

春「男日照り…?」

霞「ち、違うわよ…!そういう意味じゃなくって…あぁ…!ほら…もう良いから…」

霞「つ、次の話題!次に話題に行きましょ?」

小蒔「むぅ…」


小蒔「じゃあ…私はどうですか?」

京太郎「え?」

小蒔「その…私は…美人じゃないですか?」

京太郎「か、神代さん!?」

小蒔「…違い…ますか?」グスッ

京太郎「い、いや!な、何て言うか!神代さんは可愛い人ですよ!!」

京太郎「霞さんみたいな美しいって感じないですけど、護ってあげたくなるものがあるというか!」

京太郎「小動物的な可愛さがあって、ついつい構ってしまうというかですね!!」

京太郎「タイプこそ違いますけど、小蒔さんも凄い魅力的な人ですよ!!」

小蒔「…本当ですか?」

京太郎「え、えぇ!こんな事で嘘なんて吐きませんよ!」

京太郎「俺は本当にっ心からっ神代さんを魅力的だと思ってます!!」

小蒔「そ、そうですか…」カァ

小蒔「……えへへ…♪」


霞「ほう」

春「私たちの前で」

巴「姫様を口説くとは」

初美「いい度胸なのですよー」

京太郎「…い、いや…こればっかりは仕方ないじゃないですか!」

霞「それでも何か釈然としない気持ちが私たちの中にあるのよ」

春「これは教育…」

京太郎「えぇぇ!?」

巴「とりあえず…他の私達もどう思っているのか聞かせてもらおうかしら?」

初美「勿論、姫様にやったみたいに『本当に』『心から』思っている事を言わないとダメですよー」

京太郎「羞恥プレイってレベルじゃないんですけど!?

霞「大丈夫よ。別に告白してる訳じゃないんだし…」

霞「それに既に須賀君が『そういう人』だってのは皆、能力の話を聞いた時に大体、分かってる訳だし」

巴「後…私達って男の人との接触が少ないからね」

初美「地味にそういう評価が気になったりするのですよー」

春「…黒糖あげたからきっと高評価…」

京太郎「いや、そういうの関係ないですけど」

春「」ガーン

初美「ほらー早く早くぅ」

京太郎「いや…んな事言われても…困ったなぁ…」

小蒔「(はっ…い、いつの間にか須賀さんが困ってます…)」

小蒔「(こ、ここは…お、おおお…お友達として助けなければいけませんよね…!)」

小蒔「だ、ダメです!!」バッ

京太郎「…え?」

小蒔「そ、その…須賀さんを虐めるのは私が許しません!!」

京太郎「あー…いや…あの神代さん?」

小蒔「だ、大丈夫ですよ。私が必ず皆から須賀さんを護ってあげますからね」

京太郎「(その割には俺の前で広げた手がプルプルしてるんだけど…)」

霞「…あの…姫様?」

小蒔「な、何ですか…?か、霞ちゃんに何を言われてもこの場は譲りませんよ…?」

小蒔「例え、明日のおやつが抜きでも…わ、私の意思は固いんですからね…!!」

霞「いや…別にそれは構わないんだけど…その…ね」

霞「別に私達、須賀君の事を虐めている訳じゃないし…」

小蒔「でも…須賀さん困ってたじゃないですか…」ムスー

霞「…須賀君?」

京太郎「あぁ…はい」

京太郎「神代さん、こっち向いてもらえますか?」

小蒔「はい…?ふにゅっ!?」




京太郎「別に俺は困ってた訳じゃないですよ」

京太郎「ああいうイジラレ役なのは、立場上慣れていますし…」

京太郎「困ったと言ったのも返事に困っただけでそうやって囃し立てられるのが嫌だった訳じゃないです」

小蒔「にゅぅ…」

京太郎「でも、俺を護ろうとしてくれて有難うございます」

京太郎「正直、かなり嬉しかったですし、頼もしかったです」スッ

小蒔「…じゃあ、何で私の頬を引っ張ったんですかぁ…」

京太郎「いや…イジラレ役の気持ちを感じてもらおうと思って」

京太郎「後、凄い触り心地が良さそうだったのでつい」

小蒔「…そんなに良かったんですか?」

京太郎「えぇ。ぷにぷにで柔らかくて…おもちみたいでした」

小蒔「そ、そうですか…」カァ

小蒔「だ、だったら…もうちょっと触ってみます…?」

京太郎「え…?」


霞「」無言の圧力

京太郎「あ、あはは…え、遠慮しておきます」

小蒔「え…でも…」

京太郎「あんまりやっちゃうと頬が柔らかくなって輪郭変わっちゃうかもしれませんから」

京太郎「そうなっちゃうと神代さんの可愛さが損なわれてしまいます」キリリッ

小蒔「そ、そうですか…それなら…」シュン

小蒔「(でも…ちょっとだけ…もっと触って欲しかったなって…)」

京太郎「(あ、危ないところだった…)」

京太郎「(なにもかも素直に受け止めてくれるからついついエスカレートしがちになるな…)」

京太郎「(理性の手綱が緩んだ時には一体、どうなるのかなんて…想像もしたくねぇ…)」

京太郎「(でも…神代さんが可愛かったからって咲みたいに頬を摘んじゃったって事はいい加減、俺も眠いんだろうな…)」

京太郎「(今日はもうそろそろ休ませて貰うか…)」


京太郎「じゃあ、俺は今日はこれくらいでお暇させてもらいます」

霞「そう…疲れているところごめんね」

京太郎「いえいえ、とても楽しかったですから」

京太郎「また次も誘って貰えると嬉しいです」

小蒔「はい…必ずっ」

初美「また明日ですよー」

巴「寝坊しないでね」

春「黒糖…」

京太郎「あ、返した方が良いですか?」

春「ううん…須賀君が持ってて」

春「後で黒糖について語る…」

京太郎「はは…それじゃあ俺も頑張って食べますね」

春「うん…楽しみにしてる」ニコッ

京太郎「はい。では、皆さん、お休みなさい」






霞「さぁ…それじゃあキリキリ吐いてもらおうかしら?」

小蒔「え…な、何がですか…?」

霞「勿論、須賀君との事よ」

初美「明らかに様子が変でしたよー」

巴「まぁ…色々と露骨でしたよね…」

春「驚き…」

小蒔「え…え…な、何もないですよ?」

初美「裁判長!被告は明らかに虚偽の証言をしているですよー」

霞「認めます。さぁ、本当の事を話しなさい」

春「話せば楽になる…」

巴「私もやっぱり気になりますね」

小蒔「味方がいません!?」

小蒔「それに…本当の事も何も…まったく…その…普通でしたよ?」

霞「へぇ…小蒔ちゃんは普通の相手と会って数時間で部屋にあげるような子だったのね」

春「ガタッ」

初美「ガタッ」

巴「何やってるの二人とも…」

春「…衝撃の証言に驚きを隠せない弁護人ごっこ?」

初美「椅子とかないから口で言うしかないのですよー」

霞「私、姫様をそんな不埒な女性に育ててきたつもりはないんだけど…これは教育方針の変更が必要かしら?」ニコッ

初美「で、出たー!」

春「霞さんの…数時間お説教の構え…」

巴「これから逃れられた人は今までにいません…勿論、私達も…」ブルブル

小蒔「はわわ…はわわわ…」ブルブル

霞「それが嫌だったら…早々に本当の事を言いなさい?」

霞「そうじゃないと…今日は寝られないかもしれないわよ?」ゴッ

小蒔「…はぅぅぅ…」



………



……






霞「…そう。つまり…友達発言が嬉しくて思わず泣いちゃったと」

巴「しかも、そのまま抱きついちゃってろくに返事も出来なかったんですね」

春「…その上、お詫びと返事をしようと部屋に誘ったけれど…」

初美「霞さんに邪魔された訳なのですよー」ジッ

霞「わ、悪かったわよ…まさかそんな事になってるなんて思っていなかったし…」メソラシ

小蒔「でも…決心がつかなかった私が悪いんです…」

小蒔「霞ちゃん…八つ当たりしてごめんね…」シュン

霞「だ、大丈夫よ!そんな状況だって知らなかった私が悪いんだし…」アセアセ

初美「やれやれ…霞ちゃんはエアリーディング能力検定C判定なのですよー」

春「空気読み人知らず…」

巴「知らぬは霞さんばかりなりって奴ですね」

霞「貴女達には後でお話があります」ニコッ

三人「ひぃ!?」

霞「まぁ、それはともかく…その…姫様?」

小蒔「?」キョトン

霞「その…須賀君とはお友達以上の感情はないのよね?」



小蒔「?えぇ…そうですけど…」

小蒔「あ…でも…須賀さんは私のことファンだって言ってくれました」カァ

小蒔「だから…私にとっても大事なファンの人で…」モジモジ

霞「なるほど…つまり…まだそれ以上じゃないのね?」

小蒔「???それ以上って…何かあるんですか?」

霞「いえ…分からないなら良いのよ…有難う」

霞「(姫様のそれに嘘は無さそう…)」

初美「(それならさっきの嫉妬めいた反応はファンを取られそうになったものだと思っても良さそうですよー)」

巴「(ただ…明らかに男性として意識しているのは確かだと思います)」

霞「(そうね…姫様は今まで周りに女の人しかいなかったから…)」

初美「(色々と免疫ないですからねー)」

巴「(友達の一言だけで泣いちゃうくらいだとは正直、思っていませんでした…)」

春「(…黒糖食べたい…)」


霞「(でも…正直、ここから先は…分からないわよね…)」

巴「(そうですね…実際、かなり意識しているのは否定出来ないですし…)」

初美「(きっかけがあったらこのまま一気に踏み越えちゃう可能性は高いですよー)」

春「(きっかけ…能力とか…?)」

霞「(…そうね。それが一番、不安)」

霞「(須賀君の言葉を本当だと思っている訳じゃないけれど、もし、そうだったら洒落にならないわ…)」

霞「(何の関係もない子に、神代の…しかも、九面を全て下ろす事が出来る姫様を任せる事は出来ない)」

霞「(だから…明日からそれとなく小蒔ちゃんと須賀君を引き離す方向で行きましょう)」

霞「(それなら…どう転んでも、姫様の傷が浅くて済むわ)」

巴「(了解です)」

小蒔「あの…」

霞「あぁ、ごめんなさい。何でもないのよ」

霞「それよりほら、お茶請けもう一個食べる?」

小蒔「え?良いんですか!?」

霞「えぇ…折角、色々と自供してくれた訳だしね」

初美「何だかんだ言って霞ちゃんは姫様に甘いのですよー」

霞「あ、後でちゃんと歯磨きさせてあげれば大丈夫よ」

小蒔「ワーイ」モフモフ


霞「(それにしても…なんでご当主様はこの屋敷に須賀君を招き入れるように言ったのかしら…)」

霞「(普通で考えれば…もしかしたら娘が危ないかもしれないって分かるでしょうに…)」

霞「(何より…姫様は九面を全て下ろす事が出来るのよ?)」

霞「(今まで誰も出来なかった偉業をなしたからこそ…皆、その後継者決めには敏感になっているのに…)」

霞「(ここで須賀京太郎と言う名の爆弾を抱え込んで…ご当主様は何がしたいのか…)」

霞「(それとも…私には見えていない何かが…彼にある?)」

霞「(ただ、人の良いだけのような須賀君に…能力以上の何かが…ご当主様が有利になるような背景があるのかしら…)」

霞「(もし…そうだとしたら…彼をこれまで以上に警戒しないといけないわよね…)」

霞「(確かに…始まりこそ普通じゃなかったかもしれないけど…私たちは皆、小蒔ちゃんの事を大事に思ってるんだから)」

霞「(そんな小蒔ちゃんを政争の道具になんて…させてやるものですか…!)」



【鹿児島編一日目リザルト】


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      |ト、::::::::: 、    ̄        `¨゚  ':::::::::/:/
       \{、::::`ヽ /i/i    '   /i/i':::::/}/
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     -= ニ::::::::::/ { ` .    . イ`'く::`ー=-_
   .ィ´:::::::::::_ イ {  ヾ 、`¨ァf´Y⌒T´\:::::::::-==-
  /::::::::-=     、  ヽ\ .//  |     \:::::::::::ミ、
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// .ノ            \  ゙/   .l     /  \::::::::i
/  〈      、   -  \{   ./     { /  {ヽ::::|
 r--}、     ゙y       }  ./      丶_厶 '.:::|
 Y  ノト-、   /        l  .l        `く} Λ|
  `Z__j`ー ニ7        l   l、          Y{ /
   | 、  .′       /  .ハ           l{ /
   }  \ l        / /            ll
   '   \、       / /  ,,         八
   ノ   _ヾ、    /./  / 、        ィ .{
  〈  /   子`'' < ∠ イ'" ̄≧=---- 彡=ニ≧=-




          ↓          ↑





        ,..-―へ/ . : : :ヽー- 、
        彡';´.:/.: : : ; : : ヽ: : .、ヽ
         //: : i: : : : :ハハ: : ;ハ:i、 iヾ、
   ー--‐':´: : : : |: : : | |   ゙、: ! И人ト、
   \__: : : /: :ヽ!、: |!    V     ハ
       / : /: : :/   r- 、 __, -‐'   !     神代さん可愛い!
        !:∠:イ´   丶、 _     _,..ノ      これからも俺は神代さんのファンを続けるよ!!
        |ハ:(        U   ̄ ̄   /
        |;ヘー\            /
            \: ;ヽ、   r--‐'′
           r―┴┐ ├┬┐
          ノ::::::::::::::|i  ! _|O|_
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最終更新:2013年05月25日 18:29