恋するオカルト能力:渋谷尭深

最初に出会ったときは、ちょっぴり怖かったのを覚えている。
人を見た目で判断しちゃイケナイとは分かってるけど、どうにもあの派手な見た目は距離を取りたくなってしまう。

それでも、私は先輩で、彼は後輩だから。関わり合いを避けることは出来ない。ましてやここは麻雀部。対局を避けるなんてもってのほか。
挨拶をして、軽く自己紹介して、席に着く。我ながら単純だけど、それだけで私は彼に対する警戒心を解いてしまった。だって彼ったら、ウケを狙って見事に滑って、見て分かるくらいに落ち込んでいたんだから。
初心者の彼は本当に弱くて、筋も無視して生牌をどんどん捨てて、気の毒なくらい振り込んでいた。
そのたびに彼は情けない声を上げて、対局している他の人や、後ろで指導している部長の苦笑を買っていた。
それでも、彼は嬉しそうに楽しそうに麻雀を打ってくれた。きっとこれからどんどん上手になって、どんどん楽しくなっていくんだろうな。
今の私が失って久しい、芽吹いたばかりの新芽のような溌溂さがあった。
それを、とても微笑ましいと思った。


明るいんだけど、どこか情けない彼を見てると、どうにも放っておけない。
同学年の淡ちゃんみたいに、喜怒哀楽がすぐに顔に出るんだけど、彼女と違って彼は天真爛漫というわけではない。麻雀に負けて簡単に落ち込むし、ほんの小さな上がりで大げさに喜ぶ。
だからついつい私も慰めたり、気を引き締めさせようと、色々と声をかけてしまう。そのたびに彼は誠実に答えようと、努力してくれる。
頑張り屋さんだ。四苦八苦して、懸命に私たち麻雀部に根を張ろうとしているのが見て取れる。

通学のバスの路線が同じであることを知ったのは、少し経ってからだ。お互い目があって、気持ち頭を下げ合う。
部活が終わった後、同じバスを使っていることを尋ねると、今日は日直らしく、バスの便を2本ほど早めたらしい。結構お寝坊さんなんだな、と思った。
それまで私と彼は、部活が終わっても微妙に変えるタイミングが違って同便のバスに乗り合うことがなかったということ。
よくもここまですれ違い続けたものだと、笑いあった。

その時は、いや、その時も私と彼はただの先輩と後輩。麻雀部の中でたくさんある組み合わせの一組に過ぎない。
日によって朝のバスは会ったり会わなかったり。話すこともなく、黙礼が多かった。
帰りのバスは、それなりに一緒になることが多くなった。彼は初心者で私は大会メンバー。指摘することもたくさんあって、それが会話になった。
そんな短い一時だけど、塵も積もれば山になる。麻雀や部活のことだけでなくて、身の上話や世間話も少しはするようになった。
私は、あまり人と話すのが得意じゃないけど、彼は得意というか、上手なのだろう。私でも負担を感じない程度に話が弾んだ。
今思えば、私の中に種が植えられたのも、この日々の中だったんだろう。


季節は巡り、私は3年生に、彼は2年生に。いつの間にか帰りのバスはいつも一緒で、行きのバスも自然と時間が合うようになっていた。
相変わらず彼の麻雀は弱い。でも、彼の気さくさは部にはなくてはならないだろう。立派な麻雀部の一員だ。あの頼りない新芽も今では力強くしなやかな幹と葉を付けている。
小さな仕事から大きなことの報告までキチンとこなしてくれる。頼れる後輩だと思う。数ある先輩後輩関係の中でも、彼との関係は大きいものになっていた。
大会に向けて部の皆も準備を進めていく。宮永先輩や弘世先輩がいなくなって不甲斐ない成績を残すわけにはいかない。私にとっても高校最後の大会。ただ、がむしゃらに練習をし続けた。彼も、彼に出来る範囲でそれに付き合ってくれた。本当に、頼もしい。

でも、結果は実らなかった。全国行きはしたものの、白糸台は1回戦で敗退。短い夏を終えてしまった。
私は、悲嘆に暮れた。高校チャンプのいない私たちは、この程度なのかと。宮永照という傑物におんぶにだっこのお荷物でしかなかったのか。
落ち込む私に、彼は色々と話してくれた。相手が悪かった、相性が良くなかった、白糸台は警戒され、研究され尽くされていた。
来年はきっと勝ち上がってみせる、そして偉大な先輩の指導のおかげで勝てたんだとか、気の早いことも言っていたっけ。男子のくせに何を言っているのか。思わず笑ってしまった。
悔しい。悲しい。申し訳なさでいっぱいだった。それでも、この滑稽ながらも必死な後輩を見てると、どこか温かい気持ちになっていく。

私の中に、次々と花が咲き誇っていくのを感じた。


あぁ、そうか。まだまだ私の収穫の時は来ていないのか。インターハイで負けた後に何を考えているんだと、少し自責したが、それでも私はまだ麻雀部にやり残したことがあると理解してだいぶ前向きな気持ちになった。
休みが明けてまた学校が始まる。行きのバスには相変わらず彼がいる。帰りのバスも一緒。受験のことは心配ない、君にも部のみんなにもまだまだ強くなってもらわないと困ると、図々しくも私は部に通い詰めていた。
今まで以上に彼と濃密な時期を過ごせたと思う。彼はきっと来年の部の精神的支柱になると踏んで、つきっきりで付き合った。部のため、と言いつつ、それ以上の意図が私の中にないとはとても言えないけど。
来る日も来る日もおはようで始まってさようならで終わる。放課後の麻雀部室で対局しつつ指導してお茶を飲んでお菓子も頬張って。麻雀の話も世間話も四方山話もたくさんした。
文化祭を一緒に廻って、一緒にテスト勉強もして、部室で皆と一緒に色気のないクリスマスを過ごして、年を跨いで初詣をして初日の出を見た。あ、これってひょっとして初デートだった? うわぁ…。
心臓が張り裂けそうなセンター試験も応援してくれた。二次試験の勉強も部室でした。もう、彼がいるそこでないと私は落ち着けなくなっていた。もちろん、合間を見つけてチョコも作って渡した。
出会って、知り合って、共に過ごして。励まし合ったし、少し険悪になったときもあってまた仲直り。情けないところも見せたよね。いろんな時をいろんな場所で過ごしていろんな貴方を知ることが出来たよ。
でも、やっぱり思い出の中心は部室だったね。全部全部大切な思い出。一日一日積もり積もって、私の心を育んできたんだよ。
貴方の心は、どうかな。なんてね。分かってるんだ。貴方の心の中にしっかりと大きな実が付いてること。

今日は卒業式。私の収穫の時。私と貴方の思い出が、実を結ぶとき。