とある釣り堀。
太陽が、眩しい。
誠子「……」
一人の女が釣竿を垂らしながら佇んでいる。
足音がする。
京太郎「こんにちは」
誠子「あぁ、京太郎か」
京太郎「はい」
誠子「……」
京太郎「……」
誠子「ふう」
京太郎「釣れそうですか?」
誠子「いや、駄目だな」
京太郎「釣り堀なのに?」
誠子「限界ギリギリまで自然に似せるとか言う誰得しようだからなぁ」
京太郎「成る程。道理で釣り堀と銘打つわりにはテーマパークみたいなのか」
誠子「ん。で、京太郎も釣りかい?」
京太郎「ええ」
誠子「そうか」
もう一つ、釣糸が垂らされる。
二時間後
誠子「ん、今日は釣れそうにないな」
京太郎「そうですか」
誠子「私はもう帰るとしようかな」
失礼するよ、と、誠子は京太郎に声をかけた時だ。
京太郎は言う。
京太郎「先輩」
誠子「ん?」
京太郎「先輩、実は一つ釣れたものがあるんですよ」
誠子「へえ、それは?」
京太郎「俺です」
小さく息を継いでから、
京太郎「実の事を言えば麻雀部の時からずっと貴女を見ていたんだすよ」
誠子「そうか」
京太郎「そうです」
誠子「それは大物が釣れてしまったな」
京太郎「それは何より」
誠子「なら、二度と逃げることができないようにしないとな」
小さな水音は、清流の流れにかき消えた。
最終更新:2013年04月07日 21:10