だが、宙に放り出された少女が悲鳴を上げるよりも早く、救いの手が彼女を抱きとめた
状況の落差についていけず、呆然と顔を上げる
その目に飛び込んできたのは、見慣れた横顔だ
「……ノロちゃん?」
ユニが、ふだん子狸を「ポンポコ」と呼ぶのは照れ隠しだ
ともに過ごした時間はそう多くないが、豊穣の巫女はノロ・バウマフの幼なじみと言ってもいい
リサの結晶化には願望と声明を要する
だから魔法力と記憶力の間には切っても切れない結びつきがある
変化した緑のひとの姿は、幼い頃の記憶を刺激するものだった
「な、なんで? どうして」
わざわざ子狸の姿を真似る道理が彼女にはわからない
しかし、そうではないのだと緑のひとは言う
「少し違うな。あいつが似たんだ」
彼女を抱きかかえることができて、視界を確保できる程度の大きさの生きものなら何でも良かった
それでもこの姿を選んだのは、もっとも負担が少ないからだ
記憶に焼きついた姿
一度として忘れたことはない
返しきれない恩がある
「それって……」
にぃっ、と口角を吊り上げて笑う女性の容貌に、幼なじみとの血縁を疑わずにはいられない
「巫女よ、知っているか?」
「なに、を?」
迫る白竜の鉤爪は、巨大な刃のようだ
「コロッケは揚げたてが美味しい」
女性が片腕を振ると、ひじから先が異形と化した
いや、変化を解いたと言ったほうが正しいのだろう
爪と爪が衝突し、激しい火花が散った
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