-翔と里穂-

俺の名は、翔。現在高校3年生。現在は受験勉強の真っ直中。
俺には二つ上の姉が居る。名前は里穂。現在、大学二年生。
いつもは「姉ちゃん」と呼んでいる。
現在、姉は俺と裏腹にのんびり大学生活をエンジョイしている。
大学はこの家からも通学可能な距離だが、一人暮らしをエンジョイしたいのか、
あるいはプライバシーを守りたいのか、家からはちょっと離れたアパートで暮らしている。

俺は、そんな姉の不思議な姿を見てしまった。
ある日、俺は母親から頼まれ、姉に届け物をしに行った時のことだった。
「勉強が忙しいのに…」と軽く文句を言ったが、実際にはなんとなくやる気が起きず、
勉強にも専念出来ていなかったのでそれを引き受けて、姉のアパートに行くことにした。
届ける品物は、ケーキだった。
昼間家に来たお客さんから頂いたケーキが余って食べきれないので、
姉にいくつか片づけて貰うという話だ。
俺の記憶では、姉はそんなに甘い物好きでは無かった。
しかも長い夏休みで太ってしまったらしく、只今ダイエット中だと言っていた。
もしかしたら、このケーキも余ってしまうかも知れない。
『お邪魔ついでに、姉の家でケーキとお茶でもご馳走になるか。』
そう思いながら姉の家に向かった。急行電車で二駅。
どちらかといえば大学寄りだが、実家からアパートまでは30分も掛からない距離。
夜7時半に出て、辿り着いたのは8時前。
こんな時間に家にいるという事は、姉は一人寂しい夕食を済ませている頃だろう。
デザートには丁度良い時間帯だ。

そう思って、俺は玄関のベルを鳴らす。
「はぁい。…あ、翔?ちょっと待って」
声は聞こえるが、なかなかドアが開かない。
そんなに広い部屋では無いのに。
何か取り込み中だったのだろうか?そんな事を考えながら待った。
間もなくしてドアが開く。…そして俺は驚く。
「オッス、姉ちゃ…ぬわっ!!どうしたのその…」
「うん…ちょっとね。さ、入って入って。」
姉の腹が妊婦のように膨らんでいた。目の錯覚では無いと瞬時に分かった。
姉のトレーナー姿の体は、胸からへその辺りまでが玄関上のスポットライトを浴びて、明るく見えた。
そしてへそから下は影になって見えない。へその周りが大きく張り出しているからである。
姉はちょっと恥ずかしそうな笑顔で、俺を早く部屋に入るようにせかした。

ワンルームの部屋の奥にはベッドとテレビがある。玄関から10mも離れていない。
姉のすぐ後ろを歩く。夏休みにいくらか太ったという事だったが、
姉はもともと、どちらかといえば細身だ。体の心の細さは後ろ姿からも明かだった。
肩幅なんて、俺の9割…いや、8割くらいの幅だろうか。
それなのに、トレーナーはピンとシワ無く張っている。
脇の下から胴体もそんなに太くはないが、背中側もいくらか丸みを帯びているのが伺える。
部屋全体からは、ほんのりとカレーの匂いがした。
キッチンには、小さな流しの中に置かれた大きな鍋が見えた。
「さ、どうぞ座って。よっこらしょっと。」
俺と姉は、ベッドをソファー替わりにして腰掛けた。
あらためて、隣の姉の腹を見下ろす。
細いジーンズの太股とは対照的に、大きくまるく膨らんだトレーナー。
トレーナーにプリントされた英語の文字も曲面を描いており、横に少し伸びて見える。
一体、どうしたというのだろうか。
妊娠したという話は聞いていない。というより、今の姉にそんな相手は居ない筈。
もし仮にいたとしても、一週間前に実家に戻っていた時には普通の腹だった。
妊婦の腹だって、こんなに急成長するという話は聞いた事がない。
「ど、どうしたの?このお腹…。」
姉は胸元から大きく描いたカーブに沿って撫で下ろしながら言った。
「うん。ダイエット中なんだ、今。」
「へー。…って、何でやねん!逆に膨らんどるやないか!…いや、膨らんでるように見えるんですけど。」
「そうなの。あのね、中途半端に大食いするから太るの。
でも、これだけオナカがパンパンになるまで食べると太らないんだよ。むしろ痩せるんだから。」
姉は自信満々にそう豪語した。
「好きな物を一杯食べて痩せられるなんて最高じゃない?
あぁ~今日のカレー美味しかったぁ。暑いね~この部屋。」
そういうと姉はきつくなったトレーナーをいきなり脱ぎ捨て、ベッドに寝そべった。
その部屋は、俺にとっては暑いというよりむしろ若干涼しいくらいだった。
おそらく姉の体は、食後の発熱で暖かくなっているのだろう。
「それで、どれだけ食べたの?」
「今日はねぇ~、ご飯3合と、カレー4皿分。それに、牛乳1パック。」
「でっ!…軽く4人前はあるじゃん!?…よくそんなに入ったね。」
「えへへっ。でも、食べた直後はちょっと苦しいんだよ。今はちょっと楽になって来たけど。
ホラ。あ、でも押すと苦しいから、押さないでね。」
押すなんてとんでもない。トレーナーを脱ぎ捨てた姉の腹は薄手のシャツがめくれ上がり、
今にも破裂しそうなほどの生腹が見え隠れしている。

俺は初めて見る姉の光景にドキドキしながら、何とか平生を装った。
「そっか、そんなに食べたあとじゃコレは入らないでしょ。」
俺は、家から持ってきたケーキの箱を見せた。
「あっ!マリヨンのケーキ!私これ好きなの~。…大丈夫だよ。
いま、ご飯食べて1時間くらい経ったから、お腹のスペース少し空いたかも。」
ホラ、『デザートは別腹』ってよく言うじゃない。」
「空いた…って、別腹も何も、見るからに胃袋がパンパンですがな!」
「え~。でもね~、多分1時間前はもっと凄かったと思うよ。」
俺はその言葉に耳を疑って、くらっと来た。
見るからにはち切れそうなのに、これ以上に膨らんだ状態が有ったなんて。

「待ってね。今、お茶沸かすから。…よっこいしょっと…重っ!」
姉は寝そべっていた体を起こし、見るからに重そうな腹をゆっくりと持ち上げた。
姉はスポーツを今まで一切やっていないので、足腰は非力だ。
一見、風船のように膨らんだその腹も、ぎっしり詰まっているのは食べ物だとすれば
相当重いはずだ。風船というよりも、むしろ砂袋という感じであろうか。
姉は今、何kgになっているのだろうか…。

「さて、じゃあいただきます。」
箱の中のケーキは4つだった。ショートケーキが2つと、モンブランと、タルトが1つ。
俺はとりあえずショートケーキ1つを貰った。
まずはティーカップを持ち上げ、姉の煎れたレモンティーを口に運ぶ。
ティーカップの向こうに、大きな口を開けてショートケーキを食べる姉が見えた。
「おいっし~い!ありがとうお母さん。ありがとう翔くん。」
姉の目はキラキラ輝いていて、まるで夢見る子供のように屈託のない笑顔だった。
『姉ちゃん、本当に食べるのが好きなんだなぁ…』
俺は、勉強をそっちのけにしても今夜ここに来られて、良かったと思った。
「…つーか、早っ!」
俺がティーカップをそっと置き、ショートケーキの先端を切り崩して口に入れ終わった頃には、
姉ちゃんは既にショートケーキを2口か3口で平らげて、モンブランに着手していた。
その胃袋の中は今どうなっているのだろうか。
おそらくは殆ど咀嚼されずに飲み込まれたご飯粒とカレールゥと、それに牛乳が混じって薄まった
その上から、生クリームとスポンジ生地が乱暴に流し込まれて行ってるのだろう。

「ねぇ、このタルトも貰って良い?」
姉はキラキラ目を輝かせて俺の方を見る。
「あぁ、良いよ。これ姉ちゃんの為に持ってきたんだから。」
俺は笑顔でタルトを差し出した。
本当は、姉の胃袋の中に食べ物が詰め込まれる様子を想像しながら、
嬉しそうに食べる姿をもっと見ていたいという願望があったからだ。
「ホント~?わーい!いっただっきま~す。」
俺なんて、普通の量の夕飯を食って、それからもう30分以上経っているのに
ケーキは2つがやっとだろう。3個なんて、吐き気を我慢しながら食べられるかどうかだ。
それを姉は、既にこんなに膨らんだ腹に、詰め込むというよりはむしろ
もっとずっと楽そうに、味を堪能しながら食べている。
『なんだ。姉ちゃんは甘い物好きだったのか…。』
長いこと一緒に暮らしてきたのに、俺が気付いていなかっただけだったのだ。

「ごちそうさま。」
ケーキを食べ終わった姉は、ふぅと溜め息をついてベッドに戻った。
「あ~またお腹がパンパンに戻っちゃったよ。」
そう言いながらも、ちっとも苦しそうじゃない。むしろ笑顔だ。
俺は姉の「パンパン」という言葉に思わず惹かれ、こんな反応をしてしまった。
「どれ、そんなにパンパンなん?」
そう言いながら、俺は寝そべる姉の腹の上に手をかざし、
大きく膨らんだ曲面のラインを空中でなぞった。
姉とはいえ、年頃の女性の腹をいきなり触るのはどうも気が引けたからだ。
しかし姉はそんなこと全く気にしていないのか、空中に浮いていた俺の手首をがしっと掴み、
自分の腹の上に降ろし、そのまま押し付けてしまった。
「ホラ~。もうパンッパンでしょ~。」
「あ、あぁ本当だ。す、凄いね…。」
薄手のシャツ越しに、手のひらから姉の腹のぬくもりを感じて少々ドキッとしてしまったが、
それ以上にショッキングなのはその反発力だった。
その腹は、手のひらを載せたくらいでは全く凹まないのである。柔らかい感触など皆無。
少々力を加えて手のひらを押し込むと腹の表面は若干押し下がるが、
凹むと言うよりはむしろ、まるい腹全体がグイッと変形して、
上から押された分だけ横に拡がるような感じだった。
まるでぬるま湯を一杯に入れた厚手の風船を上から押しているような強い弾力感だった。
それは車のタイヤのようでもあり、あるいは…
「イカめしで、メシがパンパンに詰まったイカの腹みたいだね。」
「あ、それそれ!でしょ~?まるで、自分のオナカじゃ無いみたいなの。」
…適切に言い当てた俺の表現に、姉はちょっと感動した様子を見せた。

「あ…そろそろ、俺も帰って勉強しないといけないから。」
「あっそう。受験生だもんね。頑張ってね~。」
いつの間にか時計は9時半を回っていた。
「また、遊びに来ても良いかな?今度は姉ちゃんが食べる所を最初から見てみたいし…。」
「うん。いいよ~。」
俺は、そんな約束を交わしてして姉の部屋を出た。

帰りの電車の中で、俺は手のひらに残った思い出した。
『あぁ、あれが姉ちゃんじゃなくて、俺の彼女だったらなぁ…。』
今まで一緒に暮らしていた2歳違いの姉に対して、恋愛感情を抱く事は無かった。
今だって、姉と付き合いたいとか、そんな感情は全く沸き起こらない。
しかし、膨らんだ姉の腹は自分に特別な感情を抱かせていた。
俺は元々、女の子の腹がぷっくりと膨らんだ姿が好きだったのだ。
しかしそれは、いわゆる二次元モノに限られた空想上の話であり、
実際にそういう女の子を目の当たりにした事は無かった。
『現実の女の腹が食べ物で膨らむと、あんな感じになるんだ…。』
家に帰り着いた後も、とても勉強する気にはなれなかった。
ベッドに入っても、姉の膨らんだ腹が目の裏に焼き付いていて離れなかった。

三日後の夕方。気が付くと俺は、学校の帰り道でそのまま姉の家に向かっていた。
居ても立ってもいられなくなったのだ。
勉強に集中している時は良いのだが、電車に乗っている時など、
暇になるとどうしても姉のことが頭に浮かんでくる。
そんな中、実にタイムリーに「今日はパスタをドカ食いで食べるよ~!!」などという
予告メールが姉から飛び込んできたのだった。
家には、「今日は友達と図書館で勉強して帰るから夕飯要らない」とメールを送った。
家の下車駅を通り過ぎ、そのまま急行で二駅。
まだ5時過ぎだが、この時期は日没がだいぶ早く、辺りは暗闇に近い。
姉のアパートは、玄関脇の窓から温かい光が漏れていた。
そこはキッチンだ。換気扇からの排風からはミートソースの匂いが漏れている。
ドアをノックすると、すぐさま扉が開く。
「…こんばんは。ゴメンね急に来たいなんて言っちゃって。」
「翔、おつかれ~。さ、どうぞ入りな。ちょうど今茹で上がった所だから。」
姉の体はまだ、いつも通りの細さだった。痩せ形というよりは標準体型だと思うが、
先日のシルエットが目に焼き付いていたので、この時は妙に細く見えた。
キッチンの小さなコンロには、それに似つかわしくない程大きな鍋がドンと載っていた。
そして、流しには大きなザル一杯に盛られたパスタが。
「翔も食べるんでしょ?」
「あぁ、お腹減ったから食べたいけど、二人分も有るの?」
…実際、そこにあるパスタは二人分どころではない。大家族かと思うほどの量だが…。
「ううん、いいの。足りなかったら、まだパンとか他に食べる物有るし。」
「じ、じゃあ、俺も大食いに挑戦しようかな。」
「ふふん。そう来ると思って、一応今日はいつもより多めに茹でたの。」

小さな座卓に置かれたのは、某100円ショップでも315円とかで売られていそうなくらいの大皿が二つ。
その上に、パスタとミートソースが均等に山盛で盛りつけられた。
更にその横には2Lペットボトルのオレンジジュースが一本と、それが一杯に注がれたグラスが2つ。
姉は、それを目の前にして目を輝かせている。
「さぁ、食~べよ。いただきま~す!」
「あ、ちょっと待って。食べる前に測っておきたいモノが…。」
「あ~ハイハイ。体重ね。」
「うん。それとあと、ウェストのサイズ…かな…。」
俺は、極めて平然と言おうとしたが、内心の興奮と恥ずかしさとで声が若干うわずってしまった。
「うんうん。どのくらい変わるんだろうね。あたしも興味ある~。」
姉はそんな事を気にもとめず、洗面台の下から体重計を引っ張り出してきた。
最近の体重計なので、デジタル式で体脂肪率まで出るようになっている。
姉は上に羽織っていたシャツを脱ぎ、Tシャツになった。下はハーフパンツだ。
そして靴下も脱ぎ、体重計のスイッチを押し、ブザーの合図を待ってから乗る。
「…ピピピッ」
電子音と同時に、数字が出た。体重は47kg。体脂肪率は28%だ。
やや体脂肪率が高い気もしたが、確か女性の体脂肪率は25~35%くらいだった気がする。
そう考えると、やっぱり標準のようだ。身長は、高校の時から変わっていないようで、156cm。
そして姉は、テレビ台の下からメジャーを引っ張り出してきた。
薬局で買い物をした時に貰ったものらしい。メタボリック症候群にはほど遠い姉の体型でも全員貰えたようだ。
俺は、立て膝でTシャツをめくりあげた姉のウエストにメジャーを巻き付けた。数字は61cm。…細い!
脇の下から骨盤までの間が、まるで糸巻きのようにキュッとくびれている。
「ほ、細いね…。」
俺は思わず、姉の両脇腹に両手を当てた。手から感じ取る細さは、目で見る以上に大袈裟に細く感じられる。
実際、姉の腹周りの細さは、体重や体脂肪率から想像するよりずっと細かった。
どちらかといえば太股とお尻が標準以上にむっちりとしている気がするので、出っ張り引っ込みが合わさって
結果的に標準なのだろうか。俺の脳は、刹那に色々な事を考えていた。

試しに自分も測ってみた。体重計は55kgで体脂肪12%。ちなみに身長は168cmなので若干痩せ形だと思う。
ウェストは70cmだった。自分では普通より細い方だと思っていたが、実際に測ると姉より9cmも太い。
「でも、こないだの姉ちゃんの方が太かった気がする。」
「そりゃあそうだよ。だって食後にはコレが、重くて動けないくらいパンッパンになるんだから。」
という事は、姉のウエストは食事の最中に俺を追い越すという事だ。だとしたらそれはいつだろうか…。
「じゃあ、確かめてみようか。」
俺はその時、名案を思い付いた。姉から要らない雑誌とハサミとセロテープを借り、
雑誌のページを短冊状に切ってセロテープでつなげた。
そしてメジャーで測って70cmのところで切り取り、それを姉のへそ回りで輪っかにつなげた。
70cmの輪っかは当然ゆるゆるで、へその上ではなくハーフパンツの上にかぶさっていた。
「あはは~。ぶかぶかだよ。ほら、握りこぶし1個ぶんくらい空いてるよ。」
「でも食べてるうちにそれがピンと張って、しまいには切れちゃうんだろうね。」
「信じられないよね~。あ、ヨダレ垂れちゃった…。」
姉は食べ物を目の前にしておあずけをくらっている状態なので、口の中には沢山の涎が分泌されているようだった。
「さ、それじゃ今度こそ、いただきま~す。」
我々はようやくミートソーススパゲティを食べ始めた。
姉はスプーンなど使わず、大きなフォークでパスタをくるくるっと巻き取り、
小さな顔にある小さなその口を前開にして押し込んでいく。
「あふっ!…モグモグ…えも、おいひ~ぃ!」
相変わらずその目はキラキラ輝いていて、本当に幸せそうだ。
見とれている場合ではない。自分は一応、姉に挑んでいる立場なのだ。
口は姉よりずっと大きい自身があるので、早食いでは負けない筈。
そう思い、パスタを巻き取って口に入れる。ちょっと熱いが、やはり美味しい。
ミートソースは姉の手製だ。レトルトや缶詰ではこの味は出せない。

3分くらい経過した頃。普通のレストランで出される分量の1人前は食べただろうか。
残りの量が多すぎて、最初からどのくらい減ったのか見当も付かない。
全く減っていないようにも見える。
とりあえず一息ついて、オレンジジュースを一口、二口…グビッと流し込む。
ミートソースの油っ気が一掃され、口の中がリセットされた。まだまだいけそうだ。
俺は再びパスタにかじりついた。姉はジュースには手を着けず、黙々と食べている。
さらに5分くらいが経過しただろうか。さすがにペースが落ちてきた。
皿の上に残る量では、パッと見は姉より俺の方が減っている気がする。
これでおそらく2人前は達成した。俺はまたジュースをとり、今度は一口だけ飲んだ。
あんまりジュースばかり飲んでしまうと、それで腹一杯になるおそれがある。
口の中は一掃されたが、今度は先ほどより食べる気が湧かない。
ここからは満腹感をこらえながらの我慢大会だ。
しかし、姉の顔は相変わらず笑顔のままだ。一体どうなっているのだろうか。
さて、ここから3人前に挑戦…しかし、早食いしたせいかゲップが出た。
ゲップでガスを抜くといくらか楽になる。ここで俺は一気にペースアップを計った。
今度はなるべく空気を飲み込まないように一口、二口…。

「ぷはああっ!…もう駄目だ~。」
10分が経過しただろうか。早食いによる勢いで押せると思っていた自分が甘かった。
皿の上にはまだ半分くらいのパスタが残っていた。
この先もう一口、二口を根性で詰め込んだとしても、
ここから更に今まで食べた量と同じだけの量を詰め込む気になれない。
ゴールにはほど遠かった。
もし無理矢理詰め込んだら、おそらく俺は死んでしまうのではないだろうか。
とにかく途方もない量だ。でも自分なりによく頑張ったと思う。
産まれてから今までの、一度に食べたパスタの量の記録はこれで更新した筈だ。
さて、姉はと言えば…
「なに翔、もうリタイア?意外と早かったね~。」
俺の皿と顔とを交互に見ながら、姉はペースを落とさず淡々と食べ続けていた。
そのペースもいつの間にか逆転しており、皿からは半分以上のパスタが消えていた。
いや、消えたのではない。全て、姉の胃袋の中に移動して、こちらから見えない所に行っただけだ。
皿の上と姉の胃袋の中。距離にして数十cmしか離れていないが、その違いは大きい。
「姉ちゃんは、そんなに食べて苦しくないの?」
「うん。まだ平気。胃が張ってる感じはするけどね。それに、ホラ。」
姉は手を休め、座ったまま背筋をピンと伸ばし、Tシャツの裾を引っ張って体にフィットさせた。
「…!!」
胸の下あたり、みぞおちの辺りが、既にボッコリと膨らんでいる。
Tシャツの上からでもその膨らみがにわかに分かる程だ。
ウエストの紙帯は、相変わらず弛んだまま赤いハーフパンツの上に乗っている。
その膨らみの位置からして、姉が胃下垂では無いことが分かった。
人間の体において、本来、胃袋のある位置だけが膨らんでいるのだ。
まるで胃袋が、胸の皮一枚の奥からその存在をアピールしているようだった。
「その、膨らんでる所の奥に、姉ちゃんの胃袋が…」
「そうだよ。この中に、スパゲティーが、えーと、1.2kgの半分の半分だから、…300gくらいかな。」
そう言いながら、姉はみぞおちの膨らみをまるく撫でた。
…何と。姉は1.5kg入のお徳用パスタをまるごと鍋で茹でてしまったようだ。
パスタは茹でると水分を吸って、重さが2.5倍になる。
つまり、最初の時点で更に盛りつけられたスパゲティは、麺だけで3kgという訳だ。
ミートソースと合わせれば、ざっと3.5kgはあることになる。
姉は、ここで初めてオレンジジュースを手に取り、コップ一杯を一気に飲み干した。
喉仏が脈動し、ゴクッ…ゴクッ…と大きな音が静かな部屋に響く。
「ぷはぁ。さて、まだまだだよ。」
再び食べ始めた姉のペースは、先ほどより上がっている。
クルクルっと巻き付けて、パクッ。そして、口の中でモグモグ、ゴックン。
クルクル、パク、モグモグ、ゴクン。非常に単調でリズミカルだった。
俺にとってそれは、いつまで見ていても見飽きない光景だった。

「あぁ、オナカの、脇腹のあたりがちょっと苦しくなってきた。」
姉の表情が一瞬曇った。皿の上の残りはもう普通の1人前程度にまで減っている。
「…そりゃそうだよ。そんだけ食べりゃ、普通の人だったらもう胃袋破裂してるよ。」
「ううん、そうじゃなくて。胃袋はまだまだ余裕があるんだけど、脇腹が。でも、
いつものことだから。5分くらいで慣れるよ。」
どういう事だろうか。俺は最初、姉の言っている事が分からなかった。
しかし、Tシャツをめくりあげて脇腹をさすっている姉を見て、
俺は不意にウエストのくびれが無くなってきている事に気づいた。
糸巻きのようにくびれていたラインが、今では真っ直ぐに。へそも、さっきまでは窪んでいたのに
腹の表面と同ツラになって来ており、へそが丸見えだ。
そして何と、腹に巻き付けた紙帯は、ハーフパンツの上から持ち上がり、
いよいよへその直下で突っ張り始めていた。さっきまでこぶし一個分と言われた弛みは、
今では指一本入るかどうかだ。
『なるほど。姉からウエストのくびれが無くなると、俺との差は無くなる訳か…。』
感心している場合ではない。身長差は12cmもある男の俺との差が無くなっているのだ。

「よ~し。2杯目行っきま~す!」
手を休めてまだ2分か3分。姉は突然、一人で気合いを入れ始めた。
ジュースを手に取り、コップの縁一杯まで注ぎ、またしてもグビッグビッと一気に飲み干した。
姉自身も、ここでようやく帯の存在を思い出したようだ。
「あっ!…ホラ見て翔、さっきの輪っかがピンピンに張ってるよ~。」
「うわぁ…。これ、姉ちゃんの腹がもうちょっとでかくなったら、はち切れちゃうよ。」
「そっか。よぉし。」
そして大皿を片手でヨロヨロと持ち上げ、片手のフォークを使って、
パスタを蕎麦のようにすすりながら一気に流し込んだ。さっきまでの停滞は何だったのだろうか。
…空気を入れているゴム鞠のように徐々に膨らんでいく姉の腹。
それと対照的に、全く伸び縮みしない紙の帯。
紙だって、切れ目が入っていなければ引っ張られる力に対してはかなりの抵抗力を発揮する。
しかし、食物の嚥下によってしたたかに膨張する腹を抑制するにはあまりにも無力だった。
どこから切れ目が入ったのかは分からなかったが、それは一瞬だった。
「ピッ」とかすかな音をたてた後、ただの紙紐となった雑誌の切れ端は、
姉のハーフパンツの上に力無くはらりと落ちた。
「あら~?もう切れちゃったの。意外とあっけなかったね~。」
姉はそれをまるで勲章のように見せ付けた。

これが切れ落ちたという事は、今の姉のウエストは文字通り70cmの俺を追い越したのだった。
俺は思わず座卓を回り込み、それに吸い寄せられるように姉に近寄った。
無意識のうちに、俺は姉の脇腹に顔を近づけて覗き込んでいた。
「なに~翔、あたしのオナカ見たいの?」
俺はその声で今の自分の客観的な異様さに気づき、ドキッとした。
食事中の姉の脇腹を、前屈みになって食い入るように見つめる自分。
「いいよ~。見ててもいいけどさぁ、それ、もう食べないんでしょ。あたしにちょうだいよ。」
姉は空っぽになった皿を置き、対面に置いてある俺の皿を指さした。
まだ半分以上、400g分のパスタ(茹で上がりの重さ1kg+ソース)が載っている皿だ。
「えぇ、勿論良いけど、まだ入るの?」
「当たり前じゃない。今ようやくエンジンが掛かってきた所なんだから。」
そう言うと姉は、俺の皿を引き寄せ、自分の皿を押しやって入れ替えた。
元々は俺が自分の腹に詰め込まれる予定だったスパゲティーだったが、
あまりに量が膨大すぎて放置されていた。しかしそれも束の間、
今ではどんどん姉の腹の中に吸い込まれている。
このスパゲティーの本当の主は、俺の姉の胃袋だったのだ。
このスパゲティーが生き物だったなら、今どんな思いで呑み込まれていっているのだろう。
もし俺自身が…。
「ん?どうしたの翔、そんなに見つめて。もしかしてまだ食べたかった?」
姉が自分の脇の下にいる俺の視線に気づいて、一瞬手を止める。
「いや、その…もし俺が、今そのフォークにからまってるスパゲティーだったらと思って想像してた。」
姉はきょとんとして、それをフォークごと持ち上げ、寄り目になって見つめ…。
「えいっ!!」
何を思ったのか、突然それを勢いよく口の中に放り込んだ。
「…ひょうらかふぱげひーらかわかぁぁいえど、あえやっやよ。」
姉の小さな口の中はスパゲティーで一杯のため、何て言っているのか聞こえない。
そして少し上を向き、そのままゴクッと呑み込んだ。大きく動く喉仏。
「翔だかスパゲティーだか分かんないけど、食べちゃったよ。」
口の中が落ち着いてから、姉はもう一度言い直した。そして俺を見下ろしながらにっこり笑って、
「翔が痛くないように、噛まずに呑み込んであげたよ。」
「…!?」
何と言う事だ。俺の心は姉に見透かされているのだろうか。

その後も、姉の食事は止まる事なく続いた。
目の前で下腹部がみるみる膨らんでいくのが分かる。
紙帯どころか、今度はハーフパンツのゴムすらはちきれそうな勢いだ。
Tシャツの裾も胸元まですっかり上がってしまって、へそ回りが丸見えだ。
「ハァ…ハァ…さすがに苦しくなってきたよ~。」
ここでようやく姉のペースが落ちてきた。どうやら今度は本当に限界が近づいているようだ。
「ハーパン脱げばもうちょっと楽に入りそう。あ、でも今は翔が居るからやめとくよ。」
姉は俺の顔を見てニコッと笑った。俺は既に固まっていて、何の反応も返せなかった。
一口、もう一口…。姉はスパゲティを少しずつ着実に高圧の腹の中へチャージしていった。
まるでコンプレッサーのようだ。


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