-恋愛ケーキバトル-

 西川保奈美と佐藤クルミは、同じ高校のクラスメイト同士であった。クラスは1年の時から同じだったが、最初から気が合って友達になった訳ではなかった。2年生になった春にクラスの席替えで偶然近所になり、自然と会話する事が多くなったようだ。クルミはクラスの中でも「不思議ちゃん」というあだ名が付けられているくらい、ちょっと変わった子だった。会話をしてみれば時々普通の子が考えないような事を考えてたり、唐突に話題が変わったりして、本当に変わってるなと思わされる点が沢山有った。が、その一方で表裏が無く、とても純粋な感じである。芯は強くて、一度こうと決めた事は貫き通すし、自分の好きな物にはトコトンこだわるタイプの子だった。友達同士になった今でも保奈美はクルミの考えていることはよく分からないが、一緒にいて結構居心地の良さを感じていたようだ。…そんな保奈美とクルミが、成り行きとはいえ、まさかあのような対決をする事になるとはクラスの誰も予想していなかったであろう。

 きっかけは、同じクラスの男子、細川晶であった。保奈美と晶は、まだ何の関係も無かったが、周囲から見ていても、保奈美が晶に好意を抱いているのは明らかだった。彼はサッカー部で、日焼けした肌と筋肉質な体であり、それでいて無骨な感じは無く、笑顔が爽やかなのが取り柄であった。彼が料理人を目指してるという事と、現在付き合っている彼女が居ないという事までは、保奈美は調査済みであったようだが、彼女が積極的に告白をすればカップル成立かというと、正直そこまでの勇気が湧かなかったようだ。『誰とも付き合ってないという事は、何か理由があるんじゃないか…』『そもそも私なんかが告白してOKしてくれるのか…』等々、色々なことが彼女の思考回路を過ぎり、今一歩の所で踏み出せずにいたようだ。しかし、とある日のこと。クルミが保奈美との会話の中で「晶君が好き!」などと言い出したものだから、そこは保奈美も黙って引き下がることが出来なかったようだ。「私も晶君のことが好き!」と言うと、普段はおだやかなクルミの表情が珍しく険しくなった。これには保奈美も驚いたようだ。「ダメ!晶君は、私の晶君!」と言い張って、だだをこねるように首を振るクルミ。…その仕草は子供のようで愛くるしかったが、それと同時に、まるで幼い少女のような聞き分けの無さを象徴しているかのようでもあった。負ける訳にはいかないと意地になる保奈美。「そしたら、どっちが晶君と付き合う資格があるか、勝負しよ。どっちもダメだったら、諦めようね!」クルミは頷いた。そして、その日の夕方。1人で下校するところの晶をねらい打ちして、2人で詰め寄った。

 晶は不意打ちをされ、しかもいきなり2人に詰め寄られて選択を迫られ、当然の事ながらたじろいだ。外見では長身かつスレンダーで、鼻も高い保奈美の方が好みではあったが、とても小柄でほんわかした雰囲気のクルミだって勿論嫌いではない。性格はどちらの事もよく知らなかったので即座に選べるはずは無かった。「…そうだなぁ、俺、料理人を目指してるんで、美味しそうに一杯食べてくれる人が好きかな。」晶はもう直感で当てずっぽうなことを言ってみた。しかし、聞き手の2人としては真剣そのものである。普段は度胸のない保奈美も、ストレートなクルミの勢いに乗じて、負けじという状態だった。「じゃあ、晶君、今から料理を作ってよ。2人で、どっちがおいしく沢山食べられるか、勝負するから!」「無理だよ。今、うちには食材も無いし、それにまだ俺、本格的に料理の勉強してないから…。」…結局、彼女ら2人の行きつけだった駅前のケーキバイキングの店で2人が大食い対決をし、晶がその審判をやるという運びになったのだった。

 初夏の夕方。日中は暑く、夕方になってもまだ熱気が残っていた。ケーキ店の中はクーラーが掛かっており、扉を開けるとひんやりとした涼しい空気が迎え入れてくれた。女子高生2人と男子高校生1人。部活の帰りかと思わせるような、不思議なグループは入り口から一番奥の席に着いた。これから真剣な対決をするということで、やる気満々の表情のクルミ。『えらい事になったなぁ…』と今更引けない状況にたじたじの晶。そして保奈美は、クーラーで頭を冷やされ、我に返っていた。『なんでこんな対決になっちゃったんだろ。私、そんなに食べられる方じゃないと思うけど、…でも小柄なクルミに負けなければ良いんだから、大丈夫かな。せっかく対決するんだから、やるからには勝たなきゃ。』クルミはすぐに立ち上がり、ケーキを取りに行った。保奈美もそれに続く。入店した以上、晶も食べなければ損だと思い、付き合いでケーキを取りに行った。

 クルミが最初に選んだのは、苺のショートケーキ。保奈美はモンブランだった。その選択が、何となく2人の性格を反映しているようだった。晶が選んだのはミルフィーユ。特に理由は無かった。「それじゃあ、いただきます。」…制限時間は2時間だが、そんなに居たら夜の7時を回ってしまう。これはただの大食い対決ではなく、いかに美味しそうに食べるかが勝敗のポイントにもなるため、時間ギリギリまでねばって胃袋に詰め込む対決では無い。だから、決着はもっと早くに着くはずだった。

 「美味しい!」…最初の一口でそう声を上げたのは保奈美だった。実際、この店のケーキはどれも美味しくて評判だった。ただ量を並べるだけの”質より量”のバイキングであったとしたら、こんな駅前の一等地に店を陣取って長続きする筈がない。美味しい物を食べて「美味しい」というのは芸がないが、その幸福そうな表情に嘘は無かった。保奈美はケーキのクリームに舌を絡め、その甘さとふんわり感を十分に堪能して呑み込む。一口呑み込めば一口分、二口呑み込めば二口分、ケーキは皿の上から保奈美の口を経由して、保奈美のしっとりと細い体内の管を滑るように落ちていき、胃袋の中に落ちる。小さいモンブランは、あっという間に皿の上から消えた。

 一方、クルミは無言でケーキを頬張っていた。ケーキの甘さによってその表情がとろけるように、目がトロンと閉じ、口の中でケーキを味わっている様子だった。さっきまでの闘争心をむき出しにしたような表情はどこかへ消えていった。それ程、お菓子というのは人の心を幸せにする魔力を持っているのだ。晶もミルフィーユを食べながら、『あるいはパティシエになるのも良いかもな』と、その味に感動していた。

 保奈美はもう2皿目のアップルタルトに移っていた。「甘~~い!」「なんじゃそりゃ。」今やテレビではすっかり見なくなったスピードワゴンのネタの真似に、すかさず晶が突っ込みを入れる。「本当、美味しいねっ。美味しいねっ!」大きくこぼれ落ちそうな瞳をウルウル、キラキラとさせながら2人を交互に見つめるクルミ。フレンドリーに接する美形の保奈美と、可愛い癒し系のクルミ。果たして晶はどっちを選ぶ事やら。

 食べ始めから15分が経過。保奈美はもう12皿を平らげ、13皿目に行こうとしていた。しかし開始時には空っぽで空腹感を促していた保奈美の胃袋も、そろそろケーキが適度に詰まったことと、血糖値が上昇したことによって、『もうそろそろ食べ終えて良いよ』というサインを出し始めていた。通常なら保奈美の胃袋はここで入ってくる食べ物を保奈美の脳にストップさせてもらい、消化液を沢山分泌し、ゆっくりと幸せそうに蠕動運動のダンスをすることになっただろう。しかし、勝負を引き受けた以上、保奈美の脳は胃袋のストップサインを受け入れなかった。『まだいけるよね。頑張って!』保奈美は席を離れてケーキの陳列棚の前に立ち、そっとお腹を撫でて元気づける。クルミはゆっくりペースで9皿を食べ終え、13皿目を取り終えた保奈美と入れ替わりで10皿目を取りに立ち上がった。クルミの後ろ姿を目で追う晶。肩に掛かるかどうかくらいのショートヘアで、白い制服のブラウス、ちょっと裾を上げたスカートからは健康的な白い太股の裏が見える。脚はちょっと開いて、悪く言えばがに股っぽく、よく言えば幼い子供のような純粋なたたずまい。お腹の中に蓄えたケーキの重みを受けてしっかりと踏ん張っているようにも見える。クルミは小柄だが、細身ではなかった。ちょっとぽっちゃりなのを本人も気にしているようだが、身長150cm弱の背の低さの方が際だち、太めであることは周囲に気づかれにくかった。一方、保奈美は身長165cmで、女子高生としてはかなり長身だ。バレーボール選手やモデル志望の子のように、それほど高身長という訳ではないが、とにかくスレンダーでその細さがスラリとした長い手足を際だたせていた。うっすらと日焼けをし、17才になり立ての若さでありながら、どこか大人っぽい魅力を持っていた。

 食べ始めから30分が経過。15分あたりから保奈美の笑顔は作り笑顔の様相を呈していたが、ここに来てさすがに苦しくなってきたようだった。食べ終えたケーキは何と20皿。丸いケーキのホールで言えば2ホール分は保奈美の胃袋に収まっている計算になる。見た目の大きさでいえば凄い体積だが、ケーキはその殆どがスポンジとクリームだ。見た目の体積のうちの大部分は空気なので、呑み込んだ後は胃袋の復元力あるいは収縮力を駆使して、スポンジが膨張しないようにギュウギュウに押さえ込めさえすれば、意外と大量のケーキを詰め込むことが出来る。保奈美がそこまで計算していたかどうかは分からないが、そこからは、いかに苦しさを紛らわし、作り笑顔である事をばれないようにしながらケーキを食べていくかが保奈美の課題であった。一方、クルミの方は全くペースが落ちていなかった。15分目で10皿なら30分目で20皿。なんとここへ来て保奈美と皿の数が並んでしまった。クルミは相変わらずトローンとした幸せそうな笑顔で、大きな口をパックリ開けてケーキを放り込み、モグモグした後、ゴックンと呑み込む動作を繰り返している。ただ、クルミのおでこはいつしか汗でじっとりとしていた。クーラーが効いて涼しい店内に居る女の子としては、ちょっと異常な光景であった。クルミの体は代謝がとても良いのだろうか。

 25皿目を食べ終えた保奈美の口はもう唾液を十分に出さなくなっており、その苦しさからアイスティーのストローをくわえ、キューッと全部一気に飲んでしまった。しかし、これは失敗だ。通常、液体のアイスティーだけなら浸透圧の関係で胃壁から体内に吸収され、胃の中に残る体積としてはとても少なくなる。コーラやコーヒーなどの濃い飲み物では逆に胃壁から水分が染み出し、胃内の体積が一時的に上昇してしまう。喉が渇いた時にビールやコーヒーを飲むと脱水症状になるのはその為だ。今回はアイスティーという選択までは良かった。しかしこの時、既に20個のケーキを詰め込まれていた保奈美の胃の中では、圧縮されていたケーキのスポンジが流れ込んできたアイスティーを吸収して膨らみ、胃壁から水分として吸収されない状態になってしまったのだ。突然、腹部にキリキリと張りを感じる保奈美。『頑張れ!どうしたの?私の胃袋…きゃっ!!』自らの腹をさすろうとした保奈美は、その違和感に驚いた。普段なで下ろしている自分の腹よりも、ずっと前に自分の腹のを感じるのだ。しかも腹の皮膚からは自分の手の感触を感じる。間違いなく自分の腹がそこまで突出していたのだ。見下ろせば、自分の腹部はみぞおちから下がギュンギュンに突出し、白いブラウスとお腹とがせめぎ合っている状態だった。今週から夏服に衣替えをした為、それを覆い隠す術がなかった。既にブラウスの下は吊り上がり、まるでヘソ出しルックのようになってしまっていたのだ。保奈美の胃袋は、収縮運動どころか内容物の圧力に負け、腹壁を突っ張らせてしまっていた。筋肉があまり着いていない保奈美の腹壁は胃袋に押されてそのまま伸びてしまい、今、最後の砦となって膨張を取り留めていたのは薄手のブラウスのボタンだけだったのだ。全くもって、慣れない人が大食いをした場合の悲惨な結果となってしまうような、そんな兆候が伺えた。

 「…ああっ!」保奈美は小さく悲鳴を上げた。対面の席から「西川、どうしたの?」心配する晶。「お、おなかが…おなかが、は、はちきれちゃう!」「!!…無理しないで。もう食べなくて大丈夫だから。楽な姿勢になって!」「ハア、ハア、おなかが、したの方から、裂けちゃいそう!…あっ!」「大丈夫~?保奈美ちゃん、大丈夫~?」隣に座るクルミも心配そうな顔をして覗き込む。そのクルミの胃袋の中にも、保奈美よりもだいぶ多い30皿のケーキが収まっている筈だったのだが、不思議といささかも苦しそうではない。小柄なクルミは元々ブラウスのサイズに余裕があったのだろうか…。保奈美は、ややうつむいて苦しさに耐えながら、隣に座るクルミの腹を見つめる。そこで保奈美が初めて気づく、友人クルミの厚みのある体型。背中からお腹まで、お腹からお尻までの距離が遠く、どっしり安定感を呈して座っている。大量の汗でブラウスのお腹が透け始めてはいたが、膨らみに関しては、食べ始めた時より少しはお腹が膨らんだか?という程度の変化しか無かった。つまり、そもそも保奈美とクルミでは、体内に食べ物を蓄積するための内容積が根底から違っていたのだ。15cmの身長差から言えば、保奈美の胃袋の容積に軍配が上がりそうな気がするが、安定感をもって低く広くドッシリと作り込まれたクルミの体内は、保奈美の限界などものともしない程の容量の胃袋を備えていたのだ。『あ…ああ…、クルミちゃんは、こんなにおっきなお腹の中にケーキを溜め込んでたんだぁ…とても、私じゃ適わないや…』保奈美は絶望感を覚えた。勢いとはいえ、軽自動車で4トントラックに綱引き勝負を挑んだかのような無謀な自分を悔やんだ。そして、保奈美の胃袋はヒクヒクと痙攣を始め、苦しさのあまりに失神してしまった。痙攣の振動で、ブラウスのボタンが1つ、プツンと外れて飛んでしまった。

 …保奈美が目を覚ましたのは、それから15分後であった。失神後も体内では胃袋が健闘し、アイスティーを吸収したスポンジを搾り込んで強引に水分を奪いつつ、幽門を開いて強引にケーキを腸内へと送り込み、腹圧を下げていたのだ。膨満感は感じつつも、その感覚は少し楽になっていた。「あ、保奈美ちゃんが気が付いた。」「おお、西川、大丈夫か!?」そこはケーキ店のスタッフの休憩室だった。クルミと晶は意識を取り戻した保奈美に駆け寄った。「保奈美ちゃんが突然、苦しそうにして気絶しちゃったから心配したよ。」「本当だよ。勝負の趣旨から言っても、こんなに無理しなくても良いのに。」「…そうだね。ごめんね。それに私、負けちゃった。クルミ、晶と幸せになってね」「何言ってるんだよ。俺、この勝負の勝敗、まだ言ってないし。…勝負は、引き分け。」「えぇ!?何それ。」「確かにクルミちゃんの方が最後まで美味しそうに食べてたけど、あの保奈美ちゃんがこんなお腹になるまで必死に頑張ってたってのを考えると、勝敗なんてつけられないよ」「あぁ、ありがとう。それにしても私、これじゃ帰れないよ。ホントに凄いお腹だよね。」保奈美は体を起こし、あらためて砂袋のようにパンパンになった自分の腹を撫で下ろす。『この私のお腹の中に、25皿のケーキが…』保奈美は、今まで体験したことのない、未知の状態になった自分のお腹の有様にちょっと興奮していた。「ホントだよね。食べる前と凄く違うね~。でも、ホント~に綺麗なぽっこりだぁ。」クルミも保奈美のお腹を見ながら、興味津々の様子。「ねぇクルミ、クルミのお腹も触って良い?」「うん、いいよぉ。」柔らかなクルミのお腹は、見た目ではあまり変化がなかったが、触ってみると、中に大量の内容物を蓄えてドーム状に膨らんで熱くなっているのが分かった。彼女の胃袋はケーキ30皿全部を優しく大らかに包み込んで、今まさに彼女の体内にゆっくりと取り込んで1つになろうとしていた。「すごいお腹。私なんて全然適わないよ。まさかクルミがこんなに一杯食べられたなんて。」「すごいでしょ。このお腹、あっついし、重いんだよ。ケーキも30個になるとこんなに重いんだね~。でも、クルミも保奈美ちゃんのこんなお腹、初めて見た~。ねぇ、今度また、次はこんなに苦しくなるまで我慢しなくて良いから、勝負しよ。私も、保奈美ちゃんの頑張ってるお腹が大好きになっちゃった。」「勿論良いよ。私も、もっと食べられるように特訓しなきゃ。」保奈美とクルミは、お互いのお腹を触りながら抱き合った。ボッコリと縦長に膨らんだ保奈美のお腹と、ポッコリと丸く膨らんだクルミのお腹は向かい合わせになり、合計55皿分ものケーキを蓄えた両者のお腹同士は、まるでキスをするかのように大きくギュッとくっついた。クルミのお腹は保奈美のお腹の張りによる硬さを、保奈美のお腹はクルミのお腹の柔らかさと熱さを、それぞれ感じ合った。

 「ねえ、その戦いに俺も混ぜてよ。これからも。」一人取り残された感のあった晶が横から口を挟んだ。「うん、勿論。どっちと恋人同士になるのかなんて、もっとずっと後でいいよね。」「そうそう。これからは3人、友達同士で。勿論、晶君は料理担当だよ。」「わかったわかった。」3人はケーキ店の店員にしっかりとお礼を言い、裏口から店を出た。…夜になり、もうすっかり暗く涼しくなった頃、3人は友情を誓い合って家へと帰っていった。

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