-小食コンテスト- 2GMania

 僕は高瀬幸司。製造業に努めて6年目の若手のエンジニアだ。僕の職場には気になる女の子が居る。彼女の名前は沢田真奈美。22才で、昨年長崎から東京に出てきたばかりの田舎娘だ。
田舎娘と言っても、そんなに訛りがあるわけではない。通勤時に着ている私服のセンスがちょっと古い感じなのと、キャピキャピした雰囲気が全く無くておしとやかな感じなのとで、今時の「ギャル」とは180度違う路線の女の子なのだ。まぁ、私服のセンス云々といっても、職場では制服なのであまり関係ないが。
しかし育ちは良いようで、電話応対の言葉遣いとか、仕事の中で普段見せる立ち居振る舞いに美しさというか、女性らしい華やかさが有る。職場では多くの人から「真奈美ちゃん」と呼ばれ、親しまれている。
僕には、そんな彼女の存在が最初は気にならなかったのだが、ある日夢の中に彼女が出てきた時から不意にその存在が気になり、気になり出したらもう好きになっていた。今回は、そんな真奈美ちゃんと僕とが繰り広げたエピソードの報告となる。

 同じ職場とは言っても僕の業務は設計であり彼女は事務。試作費用に関する伝票作成などをお願いすることはあるが、普段の仕事の中であまり接点が無く、職場全体の雰囲気が静かなので、彼女の存在が気になっていても、話しかけるチャンスが無い。
彼女のことが気になりだしてから3ヶ月、何のとっかかりの無いままが過ぎていった。
しかしある日、そんな環境に転機が訪れた。それは、会社の夏祭りのことだった。本部長から、「夏祭りでは各職場から最低1つ出し物をせよ」というお達しが出たのだ。それは夏祭りの場で披露するなり催すなり出来れば何でも良いと言うことで、他の職場では模擬店を出したり、太鼓を叩いたり、多種多様だった。うちの職場のリーダーは「どうせやるなら他の職場と重ならないものが望ましい」という独自性にこだわり、結果として前代未聞の催し物に決まったのだ。それは何と、"二人羽織でやる大食い対決コンテスト"だったのだ。

 内容は簡単。祭りに訪れたお客さんから二名一組で参加者を募り、ステージに上がって貰って大食い対決をすると言うのだ。ただの大食いコンテストでは面白味がないという事で、どうせなら二人羽織と掛け合わせてみようという意見だ。
確かに、ただ大食いの人が勝つだけのコンテストでは在り来たりだ。食べる人と、食べ物を口に運ぶ人。二人三脚のように絶妙なコンビネーションが無いと駄目だろう。僕自身も面白い企画だと思った。さてこの企画を運営するにあたり、職場の多くの人たちは、ステージなどの会場を設営したり、大食いするための食材調達と料理を担当したが、僕を含めた4名は「手本を見せる」という名目で、お客さんと一緒にステージに上がる役になった。ただ手本を見せるだけではつまらないので、両極端なのを用意しようという事で、うちの職場で自他共に認める一番大食いの戸田さんと、逆に一番小食っぽく見えた真奈美ちゃんがオンステージする事になった。
戸田さんは、外見はオードリーの春日に似ている。僕より3年ほど先輩で、その役に抜擢されてやる気満々な顔をしていた。その相方として、オードリーつながりで若林に似ていると言われている新人の須田が抜擢された。いくら顔が似ていてもお笑いコンビのようなコンビネーションが発揮できるのだろうか?それに、食べさせ役は羽織の中に隠れるので似ていても笑いは取れないと思うのだが…。そして、真奈美ちゃんの相方には僕が立候補した。
真奈美ちゃんはステージに上がる役に抜擢されて、かなりおどおどしていたが、性格上ハッキリ断れないようだった。「本人が嫌がっていますよ、やめさせてあげて下さい」と言おうかと思ったが、ここで僕がコンビを組めればチャンスだと思い、急遽方針を変更して手を挙げたのだった。真奈美ちゃんには「大丈夫。何かあったら僕がサポートするから。」と言って落ち着かせようと思ったが、声を掛けてもやはり不安そうな顔のままだった。やっぱり作戦は失敗だったか?…と思った。

 さて、その夏祭りの当日。社員食堂の調理室を借りて、大量の焼きそばやらチャーハンやらを作った。ステージは10組20人の容量だったが、作っている料理はどう見ても100食分はありそうな勢いだった。あまりに量が多いので、我々ステージ組も手伝うことにした。
真奈美ちゃんは黒いジャージのズボンに白いTシャツ姿。これから何かスポーツ競技でもやるかのような出で立ちになって現れた。そしていよいよコンテスト開始が近づいてきた時、真奈美ちゃんが「どうしよう…私、不安になって来ました~…。」と言ってモジモジし始めた。
真奈美ちゃんはややくせのある黒い髪をポニーテールで縛っているので、ほっぺたが露出しており、赤くなっているのが見える。その表情と顔はとても可愛かった。「大丈夫だよ。ああそうだ、気を紛らわすためにちょっと乾杯でもしましょうか。戸田さ~ん、須田君!」…僕は、打ち上げ用に用意してあった缶ビールを冷蔵庫から取り出し、「緊張をほぐすため」という理由で、アルコールを入れる作戦に出た。
戸田さんも須田も付き合わせて、本番前の一致団結を図って乾杯をした。炭酸をあんまり飲み過ぎると勝負に差し支えるという戸田さんの意見で、350mlの缶ビール1缶だけにしておいた。それにしても、戸田さんの本気ぶりには若干失笑してしまった。僕は戸田さんに冗談っぽく意見を差し上げた。「戸田さ~ん、いくらい大食いに自身があると言っても、お客さんに勝って貰わないと只の自作自演になってしまいますよ。それに、戸田さんが勝っても優勝商品のプレステ3は2番目のお客さんに渡しますからね。」「え~!?そんなぁ…。じゃあ、せめて敢闘賞くらいは頂戴よ。」本当にガックリとした表情を見せたので、僕と真奈美ちゃんは顔を見合わせて笑った。
「どう?真奈美ちゃん。少しは落ち着けた?」「ハイ、少しだけ落ち着きました。」そして真奈美ちゃんは、胸に手を当てて深呼吸をした。目を閉じた時の真奈美ちゃんのまつげは長く、素朴な可愛さを感じた。つけまつげや分厚い化粧で変に飾り付けた女性より、若いうちは真奈美ちゃんみたいにありのままの方が健康的で良いなぁ、と、今まで以上にあらためて思った。

 そしていよいよ夕方5時を迎え、夏祭りは開始された。夏祭り会場は会社のグラウンド。我々のステージとは反対側の隅から、オープニングセレモニーの太鼓の音が響き始めた。そして、近所の住民の方々や社員の家族の人たちがドヤドヤと会場に入ってくる。やがて大食いコンテスト会場にも人が集まって来た。そしてその30分後、我々4人がステージに登る準備を始めた。
夏なので、暑くないように二人羽織用の羽織は白い薄手の生地で作られている。これはおそらく、誰かの家の人がレースのカーテンを持ってきて作り替えたんだろう。食べる人の背中側に回るのでその手元や口元こそは見えないものの、ステージの下に集まるお客さんやステージの上に一緒に並んで勝負するお客さん達の様子も見えそうだった。
僕はその即席の羽織に袖を通して、真奈美ちゃんに被せた。…こうなる前から十分に予想は着いていたが、二人の距離がもの凄く近い!これは、羽織が無ければセクハラを指摘されそうな状況だ。レースのカーテンは会場の照明が当たっているので、外から中は見えないのだろう。こんな事になっちゃって良いのだろうか。真奈美ちゃんのポニーテールのうなじから匂ってくる香りはシャンプーかリンスの匂いだろうか?はたまた健康な若い女の子が本来持っている体臭なのだろうか?いずれにしても、香水や化粧などでは出せない、とても清潔感のある匂いだった。「ささ、こっちですよ~。ここから階段3
段ですからね、気をつけて下さい。」この誘導は会場設営役の北島さんの声だ。僕と真奈美ちゃんは、その距離を遠ざけないようにしてヒョコヒョコと不自然な歩みでステージに上った。座布団の上に正座をする。
真奈美ちゃんの身長は、おそらく160cmギリギリ無いくらいだろう。僕も170cmは無いので、僕がちょっと背筋を丸めれば、そんなに不自然な高低差にはならないだろうと思った。しかし実際には、僕が背筋を丸めなくても頭の高さはぴったり同じくらいになったのだ。身長は10cm違う筈なのに座高が一緒とは…確かに日本人体型だとは思っていたが。僕はあらためて、羽織の中で真奈美ちゃんの背中を上から下まで見直した。座布団の上にドッシリと据えられた真奈美ちゃんのお尻。柔らかそうなそのお尻がムニッと潰れて広がっている影響もあるのだろうか?…とにかくその幅は、明らかに僕の腰幅を上回る広さだった。普段職場ではちっちゃく見える真奈美ちゃんの体も、そうしてぴったりと寄り添って見るとグッとボリューム感を出しているというか、存在感を出していた。元々、真奈美ちゃんはそんなに痩せ形ではない。かといって、勿論肥満体型でも無い。例えるなら、元モー娘。の安倍なつみのように程よくふんわりとして物腰の柔らかさを醸し出しているスタイリングだ。肩幅は狭く、脇の下からムニッとしたそのお尻まで、大らかなできれいな曲線を描いていた。腰のくびれは背中側からもわずかに伺える。

 真奈美ちゃんの体をまじまじと見ている余裕はあまり無かった。司会の松永によるお客さん8組の紹介が終わり、最後に我々2組の紹介に移った。「春日さんです。あ、違った、戸田さんでした。そしてこちらは、小柄だけどやる気は満々の沢田さん。さあ皆さん、春日さん程は食べなくても大丈夫なので、沢田さんには負けないように頑張って下さ~い!」会場と観客からドヨッと笑いが起こり、大食い勝負はスタートした。
「さぁさぁ皆さん、制限時間は60分ですよ~。どんどん食べちゃって下さい。あ、鼻からじゃないですよ。ちゃんと口から食べて下さいね~。」…腕の役は皆、一斉に卓上の料理を取り、食べ役の口に運ぼうとする。しかし、上手くいかないチームは案の定、口では無い所にボロボロこぼしているようだ。嬉しいことに、僕と真奈美ちゃんの息はぴったりだった。やきそばを取り、真奈美ちゃんの小さい口に合わせて少量だけ取り、口元に運ぶ。すると真奈美ちゃんはそれに吸い付くように前屈みになり、パクッと箸をくわえて抜き取る。「お、あの子は上手いな~」観客からの声が聞こえた。

 「さぁ皆さん、こぼしている量は食べた量にカウントされませんからね。これじゃあ皆さんがどれだけ食べたか判らなくなっちゃいますね~。…ハイ、しかしそんな事くらい想像していましたよ我々も。皆さん、この紙エプロンを着けて下さい。エプロンにはポケットが付いていますからね。この中に入った分量だけ、差し引きさせて頂きます。それに、このエプロンにはちょっとした仕掛けが付いております。」松永は僕ら4人すら聞いていないアイテムを持ち出してきた。
こんなエプロン、打ち合わせにないアイテムだ。いや、僕ら4人の参加役を抜いてひそかに相談をしていたのだろう。「このエプロン、背中側を皆さんの体にぴったりと密着するように取り付けさせて頂きます。テープになっているので、一度貼り付けると調整は出来ません。そして6cmでしょうか、あるいは7cmでしょうか。ある長さを超えて引っ張ると、はち切れてしまう仕掛けになっているんです。つまり、皆様が食べ始めてからおなかの膨らみが一定量を超えた時にはじける訳です。さあ、一番始めにエプロンがはじけた人には、優勝商品とは別にボーナスがあります。こちらは、私達スタッフの戸田さんと沢田さんにもチャンスがありますからね、頑張って下さい!」

 松永とその他の会場設営役の何人かは、一人一人、二人羽織の中に紙エプロンを回し、脇腹のところで両面テープの剥離紙を剥がして、キュッと取り付けた。羽織の中で、僕と真奈美ちゃんの間に薄い隔たりが1枚入ったが、それは極めて薄いものであった。僕と真奈美ちゃんは紙エプロンの恩恵など受けることもなく、皿の上のやきそばを確実に一口ずつ運んでいった。
「どう?真奈美ちゃん、美味しい?」僕は聞いてみた。「ハイ。おいしいです。」…僕は、真奈美ちゃんが美味しそうにパクパクと食べている顔が見られないのを少々残念に感じたが、その代わり、食べている女の子にこんなに密着するチャンスは滅多にない事や、その女の子の口に食べさせているのは自分であるという事から来る満足感が、その残念な感覚を遙かに上回った。

 やきそばを3皿食べたところで、次は何にしようかという相談をして、僕たちはホットドッグに移った。ここで僕は少々疑問というか、感動を覚えた。
真奈美ちゃんは小食だと思っていたけれど、やきそば3皿は結構な量だ。女の子にだって男と同じくらい、もっと言えば、真奈美ちゃんが僕と同じくらいの量の量を食べられるだけの胃袋を持っているんだ、という親近感が湧いた。ホットドッグは手に持ちっぱなしだから、二人羽織では一見簡単そうに思えるが、これは食べる人の食いつくペースと送り込むペースが揃っていないといけないので以外と難しい。口が大きい人なら別だが、送り込みが押しすぎると鼻の周りがケチャップでべたべたになってしまう筈だ。僕は、少しずつ、真奈美ちゃんのほっぺたが咀嚼する様子を後ろから伺いながら、ホットドッグを口元に送り込んでいった。
思った通り、ここへ来て真奈美ちゃんのペースが落ちていた。さすがにそろそろ限界なのかと思った時、真奈美ちゃんは、「高瀬さん、そろそろ水をお願い出来ますか?」と言った。僕の失敗だった。パンなので、早食いするにはある程度の水分が必要だ。僕はホットドッグを置き、グラスに持ち替えようとした。グラスはテーブルの前の方に置いてあったので、腕をだいぶ伸ばさなければならない。その都合で、僕の胸板は真奈美ちゃんの背中にギュッと密着し、顔面には真奈美ちゃんのポニーテールがくしゅくしゅと当たった。
この時、真奈美ちゃんの体がだいぶ熱くなっているのを感じた。ステージの照明を浴びていたからなのか、それとも体がやきそばの消化活動に入っていたからなのかは分からなかった。

 真奈美ちゃんはグラスの水をゴクッゴクッと音が聞こえるほど勢いよく飲み干した。そしてホットドッグを、今度はさっきの倍くらいのスピードで食べ始めた。2本、3本…。僕にとっては、信じられない出来事だった。
これは、普通に自分が大食い勝負してももう適わない領域に入り始めていたからである。普段は自分よりだいぶ小柄に見えた真奈美ちゃん。それが今、自分の目の前に座った時に、そのボディは自分と大差ない、あるいは自分より若干偉大な存在感を持ってそこに据わり、そしてその中には今、確実に自分の限界容量より多い分量の食物が入りつつあるのだ。僕にはそれが信じられなかった。
信じずにいさせてくれるたった一つの要素は、食べている口元を直接見ていないので、それら全てが必ずしも真奈美ちゃんの口に入った訳では無いという可能性。…しかし、僕たちのコンビは食べ物を殆ど全くこぼしていないという事実。胸の高鳴りと驚きに、僕の手は若干震え始めた。

 真奈美ちゃんは、そんな僕の様子は気にも留めることなく食べ進んでいく。結局そのままホットドッグ5本を平らげ、また水を一杯飲んだ後にチャーハンに移った。紙エプロンは真奈美ちゃんの汗をいくらか吸収して、表面がだいぶしっとりとしていた。
観客席の殆どはエントリーしたお客さんに注目していたようだっだが、ここに来て「あらあの子、見かけに寄らず随分食べてるんじゃない?」という囁き声が聞こえるようになって来た。開始から20分。他の参加者の様子と言えば、ボタボタこぼしてしまってエプロンに餌付けしているチーム、要するに勝負になっていないチームが3組、何とかやきそばを片づけてホットドッグに入っているチームが2組、まだ焼きそばで立ち往生しているチームが3組だった。そして隣の戸田さんと須田のペアも、口の周りをベタベタにしながらも、ホットドッグを片づけてチャーハンの2杯目に入ろうとしている所のようだった。
戸田さんは元々体格が良いせいか、ここまで食べても外見上は全く変化が無いようで、紙エプロンがちぎれたとか、そういうアナウンスはまだ聞こえてこなかった。
そして真奈美ちゃんはと言えば……!!何と、早くもエプロンの下の方がピンピンに突っ張っていて、ちぎれ始めようとしていた。今まで背中ばかりを見ていたので、腰のあたりがこんなに突っ張っていることに気づかなかったのだ。そんな状態になってもチャーハンを一口一口、確実に呑み込んでいく真奈美ちゃん。
やがて紙エプロンは「バリ…バリ…」とかすかな音を立てて裂け始め、チャーハン2皿目が片づくとほぼ同時に「バツッ!」という音を上げて緩くなった。真奈美ちゃんはその瞬間「…あっ!」と声を上げた。「…今、少しお腹が楽になった感じがしました。高瀬さん、切れてますよね?」と小声の真奈美ちゃん。
僕は後ろから少し声を張って「すいませ~ん!司会の松永さん、エプロン一着です」と呼びかけた。その様子を確認しに来る松永。「どれどれ~?あ、本当ですね。確かに切れています。ハイ、特別賞は予想外にも沢田さんが獲得しました~。おめでとうございま~す!」「おいおいウソだろ、マジかよ~」という戸田さん。やはり戸田さんの方はまだ避ける兆候もないようだった。

 僕はあらためて真奈美ちゃんの容量の凄さを見せつけられ、衝撃を覚えた。そして、それと同時に気になったのは、エプロンが下の方から切れ始めたという事だった。
この位置はおそらくへそからその下あたりの筈。真奈美ちゃんは胃下垂なのではないだろうか。日本人女性の3割が胃下垂というのを見たことはあるが…。失礼ながらこの長い胴体の中で、胃袋がこんなに下まで垂れ下がっているとすれば、その容量はかなりのものであることが想像が付く。
こんな控えめな性格で柔らかな女性である真奈美ちゃんが、体の中央にそんなに堂々とした容積の消化器官を備えているのは信じがたく、信じがたいが、とにかく容積の大きさと膨らんだ腹の位置という事実だけは突きつけられ、僕は激しく興奮した。同時に、真奈美ちゃんに対する大きな憧れの念が生まれつつあった。

 開始から45分後。この会場は真奈美ちゃんと戸田さんの一騎打ちになっていた。まぁ、そもそも夏祭りの中の1イベントであり、予告を出していなかったので、お祭りに来てくれたお客さんの中にもの凄い大食いの人が居合わせる確率は少なかったとは思うが。
結局、チャーハンにたどり着いた人が2、3組でそれ意外はやきそばかホットドッグ止まりだった。そして戸田さんのペースも明らかに落ちていた。チャーハン5皿を片づけ、デザートのケーキに入っていた。
戸田さんは酒飲みなので、甘い物が嫌いなのかもしれないが…。そして真奈美ちゃんは、明らかにチャーハンの5皿目よりもケーキでペースが上がっていた。僕は後ろから「ケーキだけに景気の良い食べっぷりだね」と言おうと思ったが、そんなつまらない親父ギャグで幻滅されると嫌なので黙っていた。
観客も、司会の松永も、それから羽織を脱いでしまって16人に戻った参加者のお客さん達も、みんなこの一騎打ちに注目していた。真奈美ちゃんは控えめでシャイな性格なので、おそらく今までの人生の中でこんなに人々から注目を浴びることは無かっただろう。真奈美ちゃんはずっと黙ったままになってしまい、後ろに居る僕からはどんな表情をしているのかは分からなかった。ただコンビネーションは開始時より良くなっており、真奈美ちゃんの食べるペースや水を飲むタイミングなどは、もう阿吽の呼吸になれていたと思う。僕は小声で「大丈夫。一人じゃないよ。」と応援した。

 「…ひゃあ、もう駄目だ。降参、降参!」先に悲鳴を上げたのは、やはり戸田さんだった。戸田さんは羽織を着たままスックと立ち上がり、何かをこらえるように仁王立ちになっていた。突如羽織を脱がされて、正座したままの状態の須田があらわになった。
しばらくして戸田さんは羽織の前から見えている紙エプロンをビリビリと手で破くと「ハァ、これで少しだけ楽になった。」と言った。結局、戸田さんもエプロンをお腹の圧力で破くことは出来なかったようだ。男には腹筋があるので、それが内蔵の膨らみの妨げになっているのだろうか。大食い選手権の男を見ても、そんなに腹が膨らんでいる人は見たことが無い。
…さて、この時点で勝ちは決まっているので、僕たちはいつ食べ終えても良いことになるのだが、ここで久しぶりに真奈美ちゃんが口を開いた。「ケーキあと1皿だけなので、食べさせて下さい。」信じられない。戸田さんを打ち負かした上、まだ目の前のケーキに食欲が湧いているとは。女の子にとってデザートは別腹とはよく言うが、これは次元の違う話だ。一体、真奈美ちゃんが今食べているケーキはどこに消えていっているのだろう…。いや、消えているのではない。確実に今見えているこの背中の前側に詰め込まれて行っている筈だ。
そう考えながら、僕はケーキの残りを右手のフォークに突き刺し、左手は皿をテーブルの上に置き、その左手を、どさくさに紛れながら真奈美ちゃんのお腹の上にポンと下ろしてみた。…すると僕の中に、言葉では伝えきれない衝撃的な感覚が走った。まず、お腹が遠いのである。自分の体が密着している真奈美ちゃんの背中(後ろ側)から、自分の手が当たったお腹(前側)までの奥行きの距離が、通常あり得ない程の遠さなのだ。そして、そんなに膨らんでいるからにはパンパンに張りつめている筈なのに、程よく柔らかくてゴム鞠のようにポンと跳ねる感触…。
真奈美ちゃんは案の定、僕の手が自分のお腹に当たったことなど気にも止めずにケーキを頬張り続けていた。そして最後の二口、一口を食べ、ついに全てを完食してしまった。やきそば、ホットドッグ、チャーハン、ケーキを各5皿、計20皿である。特にチャーハンは一皿の盛りが多く、普通の料理屋の大盛りまでは行かないものの、中盛りくらいはあった。それらが全てテーブルの上から消え、あのおしとやかな真奈美ちゃんのボディの中に収まってしまったのだ。

 勝者の真奈美ちゃんは、観客から拍手喝采を浴びた。僕は羽織を脱ぎ、あらためて正面から真奈美ちゃんを見た。それは先ほど手で感じた感触と同じくらいの衝撃。
白いTシャツは胸から下が不自然に盛り上がっており、裾が捲れ上がって今にもお腹が見えそうになっていた。
ジャージの方は、ウェストの紐は完全にほどかれて垂れ下がっており、ゴムも伸びきって下腹部の圧迫に完全に降伏していた。顔は真っ赤でうつむき加減であり、ちょっと息が上がっていておまけに汗だくだった。おそらく注目を浴びている事を再認識して緊張したのだろうと思うが。

 優勝商品のプレステ3はお客さんの中でトップだった人に渡される予定だったが、その人は既にプレステ3を持っているという事もあり「今回は頑張ったお姉さんにあげて下さい」と譲渡された。
更に、紙エプロンをいち早く破いた特別賞としては、カップヌードル1ケースがプレゼントされた。真奈美ちゃんは何とかその授与式を乗り切り、その後はすぐにステージをスタスタと降りて控え室に向かって行った。僕は慌ててその後を追った。あれだけ詰め込んでおきながらスタスタと移動する速度はたいした速さだと思った。戸田さんはまだステージの上から動けず、立ったままだった。

 コンテストの催し物の全てが片づき、我々は打ち上げに参加する予定だったが、戸田さんは苦しくて参加できなそうだった。そして勿論、真奈美ちゃんも参加できる筈は無さそうだった。
少なくとも僕は、例え真奈美ちゃんがまだ食べられると言っても、「それ以上、そのお腹を虐めるのは勘弁してあげてくれ」とドクターストップを掛けただろう(ドクターでは無いが)。真奈美ちゃんはそれ以前に、こんな姿では電車に乗って帰れないと言っていた。それに賞品のプレステとカップヌードルを持って帰らなければならないので、今の真奈美ちゃん一人では到底無理であろう。
僕は即座に「大丈夫、僕が車で送りますから」と申し出た。今晩は会社の駐車場に車を置いて帰らなければと思っていたが、幸いまだ打ち上げが始まる前でまだ一口も飲んでおらず、開始前に軽く乾杯した一杯からはもうとっくに醒めていたので、非常に良いチャンスを獲得できたと思った。

 職場のみんなと挨拶をしてその場を去る。そして駐車場で車のリアシートに賞品を積み込み、助手席に真奈美ちゃんを乗せる。もう真っ暗になった夏の空の下を、僕の愛車のランエボは走り出した。
この車はスポーツ仕様であり、静かに走ろうとしても揺れが激しく伝わる。真奈美ちゃんは今更になって、その振動がお腹に応えているように見えた。段差を乗り越える度に「あっ!」「あっ…」と小声を上げていた。時間にして十数分だったが、とても会話が出来る状態では無かったようだ。

 真奈美ちゃんの住むマンションの下に車を止める。すると真奈美ちゃんは「どうしよう…。歩けなくなっちゃいました。」と言う。
どうしたのかと慌てて聞くと、恥ずかしそうにモジモジしながら「その…おトイレに行きたくなっちゃって…。」…なるほど。僕も、極端にオシッコを我慢した時、歩くのも辛くなることがある。僕は「歩くとやばいんでしょ?大丈夫。僕がお姫様抱っこで部屋まで連れて行くから。」と言った。
真奈美ちゃんは「えぇ?…無理ですよ!私、ただでさえ元々体重がある方なんです。だから高瀬さんには絶対無理だと思います。あぁ、でもどうしよう…。」真奈美ちゃんは自分の体の重さに絶対の自信を持っているようだったが、同時にかなりせっぱ詰まっているようだった。「もう持たないんでしょ?大丈夫。こう見えても僕は強いから。」
「じゃあすみません、お願いします。無理しなくて良いので…」


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