エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグの失策


聖槍十三騎士団の本拠地たる異界ヴェヴェルスブルグ城。

一人として尋常ならぬ黒円卓の騎士たちは、ほぼ例外なく地獄のような激務に追われていた。

「少佐ー! もう無理ですダメです死にますー!」

「泣き言を言っている暇があったら手を動かさんかバカ娘! 貴様が死んでも仕事は減らん!」

そう凛々しく言い放つのは我等がそのランジェリーを追い求めて幾星そ……げふんげふん……半身に火傷の痕を負い、紅蓮を想わせる赤髪をポニーテールに纏めた妙齢の女性、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ=ザミエル・ツェンタゥア。黄金の獣に仕える三騎士の一席、赤騎士(ルベド)の称号を持つ黒円卓の第九位。氷のように冷徹であると同時に炎のように苛烈な女軍人である(そして永遠に心まで処女である)。

鬼気迫る勢いで書類の山にペンを走らせる彼女の叱咤(非常に羨ましい)を受けるのは、見ようによってはまだ学生の少女にも見える、綺麗なブロンドを同じくポニーテールに纏めた童顔のBBA、ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン=ヴァルキュリア。エレオノーレと同じく元軍属であり彼女の部下。自他ともに厳格な彼女と違い、殺伐とした連中の多い黒円卓のムードメーカー的存在である。

そんな彼らの象徴である黒い円卓は、膨大な数の書類に埋もれて最早白円卓と化していた。足下には卓に乗り切らなかった書類が膝の高さまで部屋中に積まれており、迂闊に椅子から立ちあがることすら許されない。

世界法則が座についた黄金の獣によって至高天へと移り変わってからいったいどれほどの年月が流れたのだろうか。ラインハルトが蘇らせる膨大な死者たちの処理で、黒円卓の面々は一日の休みもなく不眠不休で働き続けていた。

ある者はそんな書類の山を真っ向から凄まじい速さで処理し、ある者は倒れた紙山の雪崩に呑まれ、またある者は精魂尽き果てて放心状態。其処に労働基準法などは存在せず、どれだけ疲れようと過労死すら出来ない。まさしく地獄の法下である。

「しかしですねザミエル卿……この書類の山はいくら我々でも処理しきれるものでは……」

自身がサインしたグラズヘイムの居住区画建設書類の束を骸骨に手渡しながら、法衣を纏った初老の男、黒円卓第三位こと元聖餐杯ヴァレリアン・トリファ=クリストフ・ローエングリーンは心労のこもった重いため息を吐く。

「貴様もかクリストフ。少しはマキナを見習え。一切文句を言うことも休むこともなく書類に判を押し続けているだろう」

「確かに首から上が無い人が文句を口にすることはないでしょう……。それでも最近マキナ卿の身体から油のきれたブリキ人形のような音がするのですが……」

「…………」

黒円卓の一席にて書類に判子を押す作業を寸分の狂いもなく機械的に続けているのは、首から上がすっぽりと欠けた軍服姿の偉丈夫、黒円卓第七位ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン。仲間内からは幕引きの意味合いを込めてマキナと呼ばれる、三騎士の一人黒騎士(ニグレド)である。以前から寡黙で、必要以上に口を開かない男だった彼は、とある戦いにてその首を切り落とされてからというもの、遂に一言も発さなくなっていた。しかし彼が言葉を発さずとも全身機械の身体は激務に悲鳴を上げているのか、時折錆びた金属が擦れあうような不協和音を響かせている。

そんな同僚たちの弱音など一切聞く耳もたず、エレオノーレは円卓に座す騎士たちを統括して千人力の仕事ぶりを発揮する。

「ザミエル卿。グラズヘイム内で迷子になった子供達の数がそろそろ一〇桁になろうとしていますが」

「全員まとめてアルフヘイムに集めておけクリストフ。あとでイザークに迷子放送をかけさせる」

「エレオノーレ。闘技場内の補修資材骸骨が六百万ほど足りないそうよ」

「すぐにシュライバーを向かわせろブレンナー。その程度なら行きがけに調達していくだろうさ。作業中の工事骸骨どもは極力殺さんように言い含めておけ。効果は薄いだろうがな」

「ザミエルー……私もそろそろ限界なんだけど。せめてお風呂に入らせて……」

「マレウス……貴様もかこの軟弱者共め! 貴様らには黄金の爪牙としての自覚がないのか! イザークは貴様らの十倍は働いているぞ!」

身体的疲労がいくら積もろうとも黄金の理の下にあるかぎり死ぬことはないが、流石の黒円卓の騎士たちも精神的な疲労が表情に表れていた(マキナを除く)。それは今に至っても一切手を抜こうとしないエレオノーレも例外ではなく、最初の頃は怒声と共に火砲が文字通り火を噴いていたのに対し、今や僅かながらも表情に陰りを見せている。

「そりゃあだってあの子ほど城に詳しい人いないもの……。死人の扱いだって慣れてるだろうし」

魔術的なアンチエイジングを駆使して少女の姿をとるロリババ……げふんげふん……生粋の魔女、黒円卓第八位ルサルカ・シュヴェーゲリン=マレウス・マレフィカムは電話帳の厚さほどに積み上がった書類へ倒れ込むように顎を乗せて、力なくだらんと腕を垂らしている。

「イザークほど働ける人がもう一人いれば相当楽になるのですが……」

もう何度目になるかわからない重いため息を吐き出しながら、トリファ神父は苦行と言うほか無い量の書類に目を通してサインを記入する。

「無いものねだりをしても始まらん。ハイドリヒ卿にこんな雑事をさせるわけにはいかんし、クラフトはいるだけで癪に障る。ベイも櫻井の小娘も今代のゾーネンキントも役には立たん、論外だ」

「うーん……しかし誰か居たような気がするんですよ。こういう仕事が誰よりも得意な人が」

「馬鹿を言え。そんな奴がいるのなら苦労はせん」

「実は私もー。誰か忘れてる気がするのよねぇ」

『……うーん……』

神父の言う『誰か』の名前が、みんな出掛かっているはずなのに思い出せない。まるで喉に引っ掛かった魚の小骨のようだった。

そうして黒円卓は首を傾げながらも再び仕事に戻る。書類を回し、内容に目を通し、サインをして、判を押す。そうして頭の片隅でその疑問を思案しながらも、少しずつ忘我の彼方へ押し流され始めた頃、それはふと天啓のように全員の脳裏にあの名前が浮かんだ。


『……あ、シュピーネだ……』



「シュピーネ! シュピーネは一体何処にいる!?」


皆がその男の不在に気づいた瞬間、真っ先に立ち上がって声を張り上げたのはやはりエレオノーレだった。その衝撃で彼女の周りの書類の山が崩れるが、今はそんなことよりも影も形も見当たらない黒円卓第十位ロート・シュピーネの所在の方が遥かに重要である。


「円卓には着いていませんね。第十位の席も代わりに書類の山が鎮座しています」


「そうよシュピーネ! なんでアイツこんな忙しいときにいないのよ!?」


シュピーネの不在にやっと気がついた黒円卓の面々は、淡々と判を押し続けるマキナを除いて皆が紅蜘蛛の行方を探し始める。


「ええいイザーク! シュピーネは何処だ!?」
疲労故にいつもの冷静さを欠いているのか、すぐに業を煮やしたエレオノーレは城の中枢を担う黒円卓第五位、イザーク・アイン=ゾーネンキントへシュピーネの居場所を問う。グラズヘイムの心臓部として城と同化している黄金の寵児は、城の内部のことならば総住民数から落としたコンタクトレンズの場所まで何だろうと知っているからだ。


答えはすぐに中枢から反響する声となって返ってきた。


『……少なくとも城の中にはいない。どうやら私の目を盗んで現世に降りたらしい』


「イザークに気付かれずに城から抜け出すなんて……」


「影の薄さもここまで行くと創造クラスですね」


トリファ神父と共に、城からの脱走兵たるシュピーネへの憤りを通り越して感心すらしているのは、素晴らしいFカップと泣き黒子のチャームポイントを有する黒円卓第十一位リザ・ブレンナー=バビロン・マグダレーナ。非常に母性的な女性の鑑と言っても過言ではない人物で、エレオノーレとは旧知のライバルである。


「暢気に構えている場合かブレンナー! クリストフ! ……いいか貴様ら、今すぐシュピーネを連れ戻してこい! 生死は問わん!」


自分たちが無尽蔵にわいてくる仕事に今まで忙殺されていたというのに、自分だけは巻き込まれまいと早々に現世へと逃亡したシュピーネに、エレオノーレは怒髪天に達していた。戦時中ならば脱走兵は即粛正である。


『生死問わず、ということは、シュライバーも狩りに放つのか? ザミエル?』


「勿論だ。この場は私が受け持つ。貴様等は一刻も早くシュピーネを惨殺して登城させろ。イザーク、私以外全員現世に落とせ!」


『ふむ、心得た』


シュピーネは決して戦士として強いわけではないが、その情報処理などの有能さはしっかりと評価しているエレオノーレは、すぐさま自分以外の黒円卓のメンバーをシュピーネ捜索にかりだすリスクとヤツが戻ってきてから押しつける仕事の量を天秤に掛け、後者をとるだけの価値はあると判断した。


エレオノーレの要請に応えたイザークは、城の内部にいる黒円卓のメンバーを次々に奈落のように底が見えない穴へと吸い込み、現世へと落としていく。あっという間に書類の山が連なった円卓には、エレオノーレ一人となっていた。


「シュピーネ……無断で黒円卓から逃亡したことを必ず後悔させて……」


『そういうわけでザミエル。私の分の仕事も頼んだぞ』


「…………何?」


さらっと口にされたイザークの台詞に、エレオノーレは悪寒を感じた。


そのいやな予感は見事に的中し、天井からザバババババババババ!!と滝のように書類が円卓の中央に注がれるように落ちてくる。それは全てイザークがこなしていた途中の仕事だった。流石は黄金の血統にしてグラズヘイムの中枢である。ざっと見ただけでも今投下された書類は先ほどまでエレオノーレたちが全力で処理していた量とほぼ同等である。エレオノーレの仕事ぶりを千人力とするならば、イザークは軽く万人力は超えるだろう。


地獄が二倍になったことにあのエレオノーレでさえ狼狽を隠せず、ついイザークにまでシュピーネの捜索を命じてしまった迂闊さを呪いながら必死に彼を引き留める。


「待てイザーク! お前が城を降りると……」


『心配ない。父様がグラズヘイムを流れ出させた今、私がいなくても城が崩壊することはないのだからな』


「そういう問題ではない! 待て、行くな! 行くなイザァァアアアク!」


……エレオノーレの必死の呼びかけも虚しく、イザークからの返答はなかった。そうして彼女は改めて自身が背負うことになってしまったものに目を向ける。


「…………」


……エレオノーレの魂が燃え尽きて灰になるまで、それほど時間は必要無さそうだった。




  • (∴)前回で完結だと思った塵ども、お前等は残らず全員大馬鹿どもだなぁw あれか? お前ら本当にあれで終わりだとでも思っていたのか? 俺があんな連載打ち切りが決まったジャンプマンガみたいな無理やり極まりねえ終わらせ方をすると思っていたのか? 脳細胞足りてるのかむしろ頭蓋の中に脳味噌入ってるのかよ塵ども? 第一話を彷彿とさせるシーンが挟まれたらラストか? 主要登場人物が全員集合したら最終回か? 主人公がライバルポジのヤツをぶっとばしたらそれで終わりか決着か? ハハハハハハハハハハハハ!! …………ねえよ。俺が俺の天狗道をそう簡単に終わらせるわけねえだろーが! これは当初の予定通りなんだよテメエら塵どもの間抜け面をせせら笑ってやるために計画してやってたんだよオラ涙流して喜べやぁw 決して塵どもの滓みたいなコメント「これで終わりなのか……?」だの「続きがあるなら……」とかに影響された訳じゃねぇぇんだよ! 俺が俺の嫁を出さずに話し終わらせたらどうやってパンツゲットすりゃいいんだよパンツ取るまで終わるわけねえだろむしろこのSSは俺がザミルンのパンツをゲットするのが主題なんだよ! ……ふぅ、そういうわけでまだまだ続くから安心しろや俺の天狗道の塵ども。あー疲れた。やっぱパソコン使えねえからってケータイで打つんじゃねえな指が痛い。字数制限で二つに分かれたし散々だ。あとで暇な射干は1と2を適当にくっつけて片方滅尽滅相しとけや。以上、解散 -- ザミパン (2012-06-08 23:13:57)
  • 接合&削除しときました -- 正田卿のレギオン (2012-06-08 23:47:25)
  • 現世がヤヴァイ -- 名無しさん (2012-06-08 23:59:05)
  • (∴)今日も今日とて俺の天狗道の細胞の仕事が速すぎて怖い -- ザミパン (2012-06-09 00:01:57)
  • 席に座ってハンコを押し続ける首無しマキナ、何かシュール極まりない光景だ。そしてグラズヘイムは今日も地獄です -- 名無しさん (2012-06-09 00:22:24)
  • 現世に首無で落ちるマキナ -- 名無しさん (2012-06-09 01:18:48)
  • 俺の天狗道の編集に失敗した。パソコンから編集できる優秀な細胞はエレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグの失策をリンクに加えた上でうっかり滅尽滅相してしまったコメントを黄金力で蘇らせておいてほしい -- ザミパン (2012-06-09 14:04:11)
  • シュピーネさんは現世で実業家として成功していると思うんだ -- 名無しさん (2012-06-09 22:43:47)
  • シュピーネさんは大家さんじゃなかったけ? -- 名無しさん (2012-06-09 23:56:49)
  • こういう時夜行様の太極があれば、仕事も捗るんだろうなぁと何と無く思ってみたり。 -- 名無しさん (2012-06-10 04:12:38)
  • 確かに。夜行様を軍勢変生したら獣殿の蘇らせるのと同等まではいかんでも黒円卓の仕事相当楽になりそうだよな。……まじめに働いてくれるかしらんけどw -- 名無しさん (2012-06-10 16:49:27)
  • というか、事務仕事が得意そうな骸骨たちを臨時の職員として採用できないのだろうか? -- 名無しさん (2012-06-10 22:47:21)
  • ↑やってたとしても仕事内量てきに骸骨たちが燃え尽きそう -- 名無しさん (2012-06-10 23:37:40)
  • やってた仕事って目を通したりサインしたり判子押したりだったから、骸骨とかじゃなくてあくまで『黒円卓の認可が必要』ってことじゃないの? ……いや、ザミパンがそこまで考えてるわけないか -- 名無しさん (2012-06-11 16:07:57)
  • ↑ちょっと其処の塵は放課後俺の天狗道裏まで来い -- ザミパン (2012-06-12 12:35:42)
  • ↑ お前学生だったのか…!? あ、いや、…体育館?何だそれは、要らんぞ。 -- 名無しさん (2012-06-12 21:18:38)
  • あの…ザミパン卿。屑兄さんはどこ行ったの?学生とはいえ「頭良い組」野一人のはず…。 -- 名無しさん (2012-06-13 20:54:46)
  • 屑兄さんは普通に黒円卓で働いとったよ。ただ一話でいっぺんに何人も登場人物紹介書くのがめんどかったから省いただけ。屑兄さんは他のみんなの出番のために犠牲になったのだ……! -- ザミパン (2012-06-13 22:14:49)
  • 仕事漬けになるエレオノーレたん…萌え。あ、じゃあ、暫く部屋には帰らないですね。ちょっと行ってきまーす。 -- 名無しさん (2012-06-14 23:28:45)
  • あ、気をつけないと扉開けた瞬間にシュマイザーの一斉射が……もう遅いか。ザミパンのエロ曼荼羅の住人ならば誰もが通る道よ -- ザミパン (2012-06-15 00:00:18)
  • ↑ならば俺が盾になりましょう ザミパンさんには一発も通しませんよ・・・ -- 正田卿にレギオン (2012-06-15 00:17:59)
  • ↑く…っ、聖餐杯は限界してしまったか -- メル専 (2012-06-15 01:01:39)
  • ↑ミス ↑く…っ、聖餐杯は現界してしまったか。そうだ、獣殿だ、各員獣殿の私物を携帯せよ。これぞまさしく必勝の法!! -- メル専 (2012-06-15 01:03:16)
  • ↑それはたぶんザミエル卿のパンツを入手するより難しいぞ…… -- 名無しさん (2012-06-15 13:33:15)
  • 何を言っている!!貴重なザミエル卿の萌え顔が拝めるのだぞ!!パンツと一石二鳥ではないか。しかも今ハイドリヒ卿は現世でハーゲンダッツを食しておられる。これ以上の好機はもはやなし!!!!俺は行くぞ、ザミパンにこれを托せれば本望。 -- メル専 (2012-06-15 22:05:12)
  • そんな熱く語るメル専さん、一緒にチャットしません? -- 正田卿のレギオン (2012-06-15 22:11:05)
  • うん、ゴメン。求道神を若干目指しているから無理。ガチで一回チャットやって、メンバー滅尽滅相しちゃったし、テヘッ(θεθ)\ -- メル専 (2012-06-15 23:46:59)
  • (∴)「ヒャッハー! 俺はパンツだぁああああ!!」 ←これが俺の天求道 -- ザミパン (2012-06-16 03:10:35)
  • ↑6 バカよせ! ハーゲンなされている獣殿は触覚で本体はグラズヘイムだ!? -- 名無しさん (2012-06-16 05:24:56)
  • ↑ そこは、全面金色に輝く部屋だった…覚えているのはそれだけ、そしてここは何処だ、暗い見えない感じない。自分が何処から何所までかが分からない。あああああああああ -- メル専 (2012-06-16 15:02:35)
  • ↑覇道神のオーラに迂闊にふれて魂まで染め上げられそうになったとあるバカの末路 -- 名無しさん (2012-06-17 07:42:16)
  • 今度から鬼ごっこをシュピーネさんごっこにか改名しよう!! -- 名無しさん (2012-09-06 11:03:21)
  • 우주에, 무한한 그물이 둘러쳐진다. 횡사씨실. 빗나가는 밧줄ち공간 경사. 그것이 가리키는 것은 시간. 실의 교차. 하늘의 하나. 또 하나. 각각의 사람이, 이뤄야 할 것이 있다. -- 他化自在天喇叭 (2013-03-21 13:36:20)
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