凶月刑士郎の疾走


「いい夜だぜ……月に照らされながら走るってのはやっぱ最高だなァ!」


心地いい月明かりを全身に浴びながら、花屋ローゼン・カヴァリエの跡取り息子にして暴走族の総長・凶月刑士郎は愛車のシュバルツ・ヴァルドに跨って爆音と共に深夜の街を駆け抜けていた。道行く車両は因縁をつけられることを恐れて道を譲り、開けた公道を『チーム・呂雨漸・禍罵裡獲(ローゼン・カヴァリエ)』のバイク集団が我が物顔で突っ切っていく。


……あぁそうだ。俺はもう何ものにだって縛られちゃいねぇ……。受験?進路?将来の夢? なんだそりゃ食いもんか!? 花屋の跡継ぎなんざ咲耶にやらせりゃいいんだよ。ああいう細かいことはあいつの方がよっぽど向いてる。俺はもうどうだっていい。月光と共に夜の街を駆け抜ける……それだけで十分なんだよ。


「……け、刑士郎さん……ちょっと話が」


「……あン? なんだ一体?」


思い出したくもないものを速さの中に置いていこうと更にアクセルを入れようとした瞬間、先ほどまで自分の少し後ろを走っていたメンバーが刑士郎の隣を並走し、バツの悪そうな表情で声をかける。大方走っているときの刑士郎の気分を損ねたらどうなるかを察しているのだろう。どうなるか詳細までは記せないが、全身の血と骨が半分以上残れば運がよかった、と語られている。


「その、う、後ろのほうで変なことが……」


「あ゙ァ? おい、人が気持ちよく走ってるってのに煮え切らねぇ言い方してんじゃねぇよ。ポリ公か? それとも他のチームか? まさかパンピー相手にキョドってんじゃねぇだろうな?」


若干死語を交えながら、メンバーの予想通り刑士郎は不快を露にし眉間に皺を寄せる。元々一人で深夜の街を爆走していた刑士郎を総長として勝手に担ぎ上げ、虎の威を借りようとしたつまらない連中だ。後ろにいるだけなら大して気にもならないし、自分の気を損ねないのなら最低限の面倒くらいは見てやるが、そうでなければそこに一切の容赦はからまない。月光の夜が血染花の夜に変わる。


「い、いえ……その、わけがわからなくて……なんとも」


…っ…ん……ぉ……


「だーかーらー! 一体なんだってんだ! 役にたたねえ顎なら引き千切んぞ、オイ?」


獰猛に犬歯を剥き出して、刑士郎はメンバーの胸倉をあろうことか走りながら掴み寄せる。転倒すれば死は確実の速度。しかしそんなことには頓着せず、むしろ更に加速させていく。胸倉を掴まれながらバランスを崩さないようついていくメンバーは必死のようだ。


「は、はいっ! う、後ろから……」


……じ……っ……ぉ……―――


はっきりしないメンバーの態度に煮え始めていた刑士郎のフラストレーションは更に加熱される。マズイ、このままでは本当に顎を引き千切られる……そう直感したメンバーは意を決した様子で口を開いた。



「後ろから金髪ガングロのチビが物凄い形相でママチャリこいで迫って来てます!!」



「―――滅ぇぇええつ尽ぃぃぃぃん、滅っ走ぉぉぉおおおおおおお!!!」



「わけわかんねぇぇぇえええええええ!?」


  • ママチャリこいでバイクに追いつく波旬……シュールすぎるわwww -- 名無しさん (2012-06-01 12:31:08)
  • 今更だがパンピーって死語じゃ……中尉ェ…… -- 名無しさん (2012-08-17 13:25:32)
  • チャリこぎながら叫ぶと舌噛みそうだが波旬だしまあいいか。 -- 名無しさん (2013-02-27 19:42:36)
  • もう少しだ。もうすこしで満たされるぞ。 -- 他化自在天喇叭 (2013-03-21 13:12:56)
  • というか波旬なら走ってバイクに追い付ける気がガガががが -- 刹那主義者 (2013-11-05 09:16:49)
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