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前回のあらすじ
ゴールドブイドラモンの圧倒的な強さで、ブラックメガログラウモンをギルモンまで退化させ、とどめをさそうとしたところで、なんと、少し前にウッドタウンを襲ったソウエンが現れた。ソウエンを連れてきたデジモンは、少年とギルモンを回収するなり撤収。とどめをさせなかったもののとりあえず戦いは終わったのだった。そして、信一達はパルモンが『賢者』だったことに驚きながらも、案内された部屋で眠りについたのだった。

第三十話 理由と意味

愛は夢を見ていた。
白馬に乗ってやってきた王子が、愛をお姫様抱っこして森の中を歩いていくという、小学三年生が見るにしては恥ずかしく、かつ、わけのわからない夢である。
しばらく歩くと王子は立ち止まり、森の中に忽然と現れたイスに愛を座らせると、王子は微笑みながらひたすら「アイちゃん」と呼ぶ。その口調は徐々に強くなり、ついには怒鳴り声になって、その時愛はやっと、本当に耳元で誰かが自分の名前を呼んでいることに気づいた。
そのとたん、わけのわからない夢の世界は消え、代わりに、さらにわけのわからない現実が現れた。ゴツモンに案内された部屋のベッドで寝ていたはずなのに、いつの間にか真っ暗な部屋のイスと思われる物に座っているのだ。
「やれやれ。やっと起きたみたいだね」
また耳元で声がし、慌ててそちらを向くが、暗闇でなにもわからない。
「ちょっ、ちょっと、なにがどうなってるのよ!」
混乱し、立ち上がろうとする愛を、誰かの手が押しとどめる。その手は服の上からでも感じられるほど温かく、なぜだか安心できた。
「アイちゃんにちょっと尋ねたいことがあるんだ」
なぜ自分の名前を知っているのか、ここはどこなのか、一体相手は誰なのか。疑問も不安も山ほどあったが、それらは、まだ自分の肩に乗っている温かい手に吸い取られるようにして消えていった。
「アイちゃんはどうして戦っているんだい?」
「……ルーチェモンがこの世界を破壊している悪い奴だから」
「そうか……。でもさ、破壊ってそんなにいけないことかな?」
「え?」
思いもよらない質問に一瞬言葉につまるが、やっぱり破壊はいけないことだ、と思い直し、再び口を開く。しかしそれを遮るように相手が話し始めた。
「破壊と創造は表裏一体だと僕は思うよ。新しい建物を建てるときだって、古いほうは壊すだろう。ルーチェモンも古きなにかを壊そうとしているんじゃないかな?そして、それは今のデジタルワールドに必要なことかもしれない」
「でもっ……」
愛はその後の言葉が続かなかった。相手の話になんとなく納得できてしまったこともあるし、なにより、今まで戦ってきた理由が簡単に崩されてしまいそうな気がしたからである。
「アイちゃん」
ふと、愛は、この声は聞き覚えがある、と思った。
「じっくり考えてごらん。自らの戦いの意味を。ルーチェモンがこの世界を破壊している理由を」
それを聞き終わるか終わらないかのうちに、愛の鼻になにかが押し付けられた。それは、甘ったるい匂いを放っており、それを嗅いでるうちに、愛の意識がだんだんとぼんやりしてきた。
「おっと、言い忘れていたけどこれは夢……」
こうして、愛は再び眠りについた。

「パルモン様、結界システムの修復、終わりました。ブリンプモンもほぼ回復して、今離陸したところです」
「ご苦労様。もう休んでいいってみんなに伝えて」
「かしこまりました」
疲れきった顔のゴツモンが出て行くなり、パルモンはため息をつき、持っていたティーカップをテーブルに置いた。
信一達が眠った後の艇内はてんてこ舞いだった。ブリンプモンは体のあちこちに穴をあけられてデリート寸前、結界システムは当然のことながら壊れていたし、ガードロモンがデジタマに戻ったから人手が足りなかったし……。
とはいえ、それらの面倒ごとを片付けていたのはゴツモンやプチメラモン達であり、パルモンは自室でお茶を飲んでいたのである。しかし、パルモンにはパルモンなりに少々落ち込んでいたのだ。
「なんでお茶を飲んでいるときに限って敵がやってくるのかしらね……」
パルモンの恨みがましい視線の先には、ハンカチにのせられた、粉々になったティーカップの破片があった。ブラックメガログラウモンとの戦いの中で壊れてしまったようだ。
「エリーからもらったカップ壊れちゃった……」
もう一度パルモンがため息をつくと同時にドアがノックされた。
「どうぞ」
過去の思い出に浸っているパルモンは生返事で相手を中に入れてしまう。そして、訪問者のほうに顔を向けると、思わぬ顔見知りの登場にパルモンは驚きに目を見開いた。
「マイケル……!」
部屋の入り口に立っていたのは、一時期信一達とともに行動していたあのマイケルだった。
相変わらず、なにを考えているのかわからない薄茶の瞳は楽しげに光っているし、肩にはパートナーであるピコデビモンを乗せている。そして、今日はなんと、肩にぐっすり眠った愛を抱いている。それに気づいたパルモンはさらに目を丸くした。が、すぐに平静さを取り戻すと、
「しばらくなにをやっているかわからなかったあなたが、愛ちゃん担いで私のところに来るなんて、まさか、あなたまで愛ちゃんを人質にして私に『秘伝書』を出せって迫る気?」
と言って、マイケルを見据える。
するとマイケルはにこりと笑った。
「さすが、デジタルワールドの賢者、話が早いや。そういうわけだから、早いところ『秘伝書』を出してくれないかな?」
「ルーチェモンの味方についたのね」
パルモンの声は、なにかを押し殺したものがあった。それは、敵の戦力が増えたことに対する焦りなのか、味方と思っていた者に裏切られた悲しみなのかわからないが。
「僕は言ったはずだよ。『ルーチェモンを見極めてくる』って。さ、無駄話をしている時間はないんだ。さっさと『秘伝書』を出してくれないと、アイちゃんの命はないよ」
マイケルが言い終わるか終わらないかのうちにピコデビモンが愛の首に牙を突き立てた。
突然、パルモンが笑い出した。楽しくてしょうがないというより、人を小馬鹿にするような笑い方だ。
「残念ながら、『秘伝書』は本ってわけじゃないのよ。『秘伝書』っていうのはあくまで通り名。本当の名は『テスタメント・チップ』。私のデジコアに埋め込まれているわ。さあ、場所は教えたわよ。取れるものなら取ってみなさい」
「じゃあ、取らせてもらおうじゃないか」
予想外の反応にパルモンがぽかんとしている間にマイケルは愛を降ろすと、D-ウィッシを取り出し、ピコデビモンに向けた。D-ウィッシから闇が広がりピコデビモンに集まる。
「ピコデビモン進化――デビモン」
ぼろぼろの黒い翼を生やした墜天使を見た途端、パルモンの顔が青ざめた。
「デスクロウ」
「ポイズンアイビー!」
パルモンは普段は指として使っている手のツタを伸ばし、迫り来るデビモンの腕を払いのけようとするが、簡単に弾かれ、デビモンの腕は易々とパルモンの胸に突き刺さった。
パルモンはデジコアを直に触られる痛みに意識が遠のきそうになる中、自分の判断を悔いていた。ピコデビモンが進化すればデビモンになる可能性が高いのに……、デビモンのデスクロウはデジコアをわしづかみすることができる技なのに……、『テスタメント・チップ』がやつらの手に渡っちゃう……。
ふと、痛みが楽になった気がして、しっかり目を開き、周りを見てみると、デビモンはすでにピコデビモンに退化しており、マイケルの手には、フロッピーディスクのようなものがあるし、愛は、ぐっすりと眠ったまま床に横たわっている。そして、最後に、パルモンは自分がまだ生きていることに気づいた。
「何で……?」
部屋を出て、ドアを閉めようとしていたマイケルがパルモンの呟きに気づき、静かに言った。
「君は、デジタルワールドを破壊しているルーチェモンを倒すことでこの世界を救おうとしている。けど、この問題の根はそんな浅いところにあるんじゃない……。パルモンにも賢者としてもっと深くこの問題を見つめて欲しいと思った。だから、デジコアは残してあげたんだ」
そして、最後に付け足すように「アイちゃんをよろしく」と言うと、小悪魔を連れた少年は、ドアを閉めたのだった。

つづく