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機体から降りた彼に、私は飛びついた。しばらく体に顔を埋めて抱きしめていたが、息が苦しくなり顔を上げる。

「おかえり、ヘンリー。」

私はそう言って、彼の首筋にキスをした。

「わかった。わかった」と彼は言って私を離す。おでこに軽くキスをした後、一緒に帰ってきたカーティスのほうへ行ってしまった。カーティス・アビンレン中尉は、私たちが新たに配属になった独立第2中隊の戦闘面でのリーダー的存在。この部隊に配属になる前は、特殊部隊にいたって噂。

ちなみに彼と、ヘンリーの階級は同じ「中尉」だけど、専任であるカーティスが隊長。それはみんな納得してる。だって誰が見たって、カーティスのほうが大人だしね。

二人は少し喋った後、格納庫の出口へと歩き出す。ヘンリーは振り返って、「少佐に報告してくる」と私に叫んだ。私は小さく手を振る。


私とヘンリーがこういう関係になって、もう半年以上になる。彼は私を大切に想ってくれるし、私も彼を大切に想ってる。でも、ヘンリーの”それ”はちょっと過剰な感じ。

「先輩はいいですね。昼間からラブラブする相手がいて。」

と後ろで声がしたので、振り返る。そこには褐色の髪を後ろで束ねた、大きい目が特徴的な女の子が立っていた。

彼女はアリス・クゥエイフ。独立第2中隊のオペレーターだ。私は向き直って彼女の顔を見た。以前は私と同じような身長だと思ってたが、こうしてみると少し彼女のほうが大きい。

「何バカなこと言ってんの」

ため息を吐きながら私はそう言って、アリスの横を通り過ぎる。彼女は、移動通達を私の部屋に届けに着た時に、ヘンリーと一緒にいるところを見られて以来、この件でよく茶化してくる。本人はそのつもりは無いのかもしれないが。

「あ、また逃げる気ですね!」

といってアリスは私の後ろをついてくる。抜けた調子で喋っているが、オペレーターとしての才能は十分すぎるほど持っており、途中でパイロットへと転向した私とは大違いだ。

通路に入り、一つ目の角を曲がったところで、オズと会った。オズワルド・ディーフェンベーカー軍曹は、ヘンリーと同い年のパイロットで、独立第2中隊に所属していた。前の所属はアリスと同じだったと聞いている。

「カーティス隊長たちが戻ったのか?」

彼は私の顔を見てそう言った。声は静かなトーンだったが、不思議と無愛想な感じはしない。彼はいつもこんな感じだ。

「そうだけど、なんで?」

今さっき着いたばかりの彼らのことを何でオズが知っているのかと、私は思った。

「顔がにやけてる。ヘンリーが帰ってきた証拠だ」

と彼が言う。私は思わず「え?嘘!」といって両手で頬を触った。

「さっすがオズ」

とアリスが笑う。その間にオズは左手を上げながら去っていった。肩まで伸びた黒い髪のせいで、後ろから表情を読み取ることは難しい。(別に悪い意味で言ってるんじゃないよ)


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「この戦いはまだ終わらない。おそらく敵さんもそれを承知で無理な攻撃はするまい」

デスクのダグラス・エインズワース少佐は言った。彼は右手に持ったペンをもてあそぶ。俺とカーティス隊長は黙った。今日見てきたものは鳴り止まない戦火、戦士たちの叫び…そんなものばかりだ。…だから終わらせなければいけない。こんな戦争は。

…ガイロスを倒す。

「近いうちに、我々本隊も動く。準備しておけ」

彼はそう言って終わりの合図を出す。俺たち二人は部屋を出てもと来た道を戻る。基地内は、仮設であるが故の簡素なつくりになっていたが、それももう慣れた。

それより、近いうちに本隊が動く。つまり、エリーも火の粉をかぶる場所に行くということだ。俺が止めても彼女はきかないだろう。アーク隊長の仇を二人で取るといったが…あれは間違いだった。彼女を戦いに立たせるべきじゃない。

「どうした?」

カーティスは気遣わしげに俺を見た。よほど真剣な顔をしていたのだろう。俺は髪をかきあげ「大丈夫、なんともないです」と言った。

「本当か?遠慮しなくていいぞ?階級だって同じだ。気にすることない」

彼は俺の首に手を回す。彼女の唇が触れた首に。

そもそも、ひとつの部隊に隊長と同じ階級の士官がいること自体がおかしい。まあ、本来この独立第2中隊の隊長はダグラス少佐なのだから、その下は何が何人いようとかまわないのかもしれないが。これは、独立第2中隊という部隊そのものの特性が関係している。

ニクシー基地戦で西方大陸戦争がひと段落したときに、それまで曖昧だった部隊や、極端にダメージを受けた部隊を、解体、再編した際にできたのがこの部隊であり、階級の重複は仕方の無いことだといえる。

「こういうときだけ”同じ階級”ですか?戦術隊長殿」

と俺は言った。カーティスは「それもそうだな」と言って大きな声で笑った。

「まあ、あんまり悩むなってことだ。戦場で足枷になるぞ」

彼はそう言って自分の部屋に戻る。一人残された俺は、すっかり暗くなったニクスの空を窓越しに見上げながら、エリーの屋のドアをノックした。