ZAC2100年3月 -西方大陸-

俺たち第6小隊は、勢力圏の一番端、ミューズ森林地帯にいた。
共和国の勢力圏といっても、未だに帝国軍の攻撃は執拗に繰り返され、明日にはここも帝国領といわんばかりの苦しさだ。

「アーク、前方600にヘルキャットが2機いる。…まだ気付かれてないみたいだけど。」

スピーカーから聞こえる女の声に、俺はセンサーを見る。しかし、まだ愛機のシールドライガーのセンサーには引っかからないようだ。彼女、エリー・ベッケロイドのコマンドウルフは、センサー、索敵能力強化したH1型といわれるタイプで、シールドライガーよりも広域を見ることができるソナーを持っていた。


「わかった。ヘンリー、いいか。タイミングを合わせて一気にやる。最初の一撃が肝心だ。」

俺はライガーの右を移動中のコマンドウルフのヘンリー・ライトリー少尉に言った。

「了解。しかし妙ですね…。この付近は第2小隊が警戒にあたってるはずじゃ?」

「あぁ…。俺もさっきからそこんとこがひっかかってる…。ヘルキャット2機にやられる連中じゃないんだが。」

俺はそう言いいながら、レーダーの端にヘルキャット2機が入るのを確認した。
ライガーの姿勢を下げ、敵に接近して行く。

「あと少し…」

ヘンリーがそう言った瞬間だった。ヘルキャットがきびすを返し帝国領に走り出す。

「何だ?!」

俺はエリーの方を見る。彼女は「わからない。でも、気付かれたわけじゃないと思うけど…」と言った。それを聞いたヘンリーは機体を起す。

「とにかく、深追いは避けるべき…ですね。」

彼にしては珍しく冷静だ。しかし、俺はヘンリーのウルフが首を振っているのも見逃さなかった。

「お前にしては懸命な判断だな。」

俺はそう言って火器管制を切ろうとした。しかし、直前のエリーの叫びで手を止める。

「前方700に敵。識別不明!速いわ!」

俺は目標がレーダーに映る前に前方を見た。反応からして大型ゾイドであることはわかっていたが、目の前に現れたそいつは、全高がゆうに10mを越える黒と紫のツートーンカラーの恐竜型ゾイドだった。

「このサイズのゾイドがこの機動で?!」

ヘンリーが驚きの声を上げる。敵もこちらとの遭遇に驚いているようで、動きが一瞬止まる。しかし、こちらが動くのとほぼ同時に脚部に装備された8連装ミサイルポッドを発射する。


俺はかろうじて避け、ライフルで撃ち返す。敵は恐るべき運動性で回避し、背面に装備された大型のレーザーガンを放つ。いくらシールドライガーでもシールドなしであれの直撃を受ければ間違いなくやられる。

「ヘンリー、背中の砲塔がうるさい。やれるか?」

俺は木の陰に回りこみミサイルを発射する。ヘンリーは「余裕です。」と答え、敵の側面の林に移動する。俺はそれを見て、敵の注意を引くべく姿を現す。狙い通り、敵は俺に向けてレーザーライフルを発射した。その瞬間にヘンリーのウルフが林から飛び出し、近距離からライフルに攻撃を加える。基部を破壊されたライフルが煙を上げて本体から死別するのとほぼ同時に敵は飛び退く。ヘンリーの機体もまた、近距離でのライフルの使用で銃身を焦がしてしまっていた。

「ヘンリー、さがって!」

エリー機が援護に入る。ヘンリー機はすかさず後退する。
ここまでやれば敵機は後退すること俺は思っていた。いやこれは希望だったのかもしれない。しかし、奴は脚部を地面に固定して、口内に装備された砲塔をエリー機のほうに向けた。

「なんだ?あんなところにまだ砲塔が…?」

俺は攻撃を加えるべく接近する。足を固定したということはそれなりの威力。しかし、固定しているため、機動性で翻弄すれば…。その時、奴の口内が青白く光る。俺はそれを見て直感的にやばいと感じ叫んだ。

「エリー!逃げろ!」

その声をかき消すように奴の口内から光が発射され、直線上にあった木という木を焼き払った。

「ば…ばかな…あのサイズでこの武器…だと?」

俺は慌ててエリーの安否を確認する。彼女の機体は無事ではあったが、倒れた木によって自由を奪われた状態だった。さらに敵は動けないエリーにに向けて再チャージを開始した。
「くそっ!!」
俺はエリー機と敵機の間に割って入り、敵に突進して行く。無謀な策だが仕方が無い。今は愛機のシールドを展開した。どこまで持つかは怪しいが…。



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…それは一瞬だった。

敵の口内から発射された光は、シールドライガーのEシールドを貫通し、機体もろとも焼き去った。
私は言葉が出なかった。

「エリー!無事か?!」

ヘンリー機が森から飛び出して、敵機を威嚇する。敵はあの火器を連続して使用したからか、動きが鈍くなっていた。ヘンリーが攻撃に移る前に私たちに背を向けて去って行った。

「アーク…アークは?!」

私ははっとしてシールドライガーのほうを見る。頭部が半分削れ、左半身が無くなり、断面が赤黒く焦げていた。

「アーク!!」

私はひしゃげたウルフのキャノピーを何とか押し開けて、ライガーのもとに走る。ライガーの周りはすごい熱気で、私は立ち止まり声を張り上げ彼の名前を呼んだ。

…返事は無い。

「どけっ!」

ヘンリーが私を押しのけライガーのコクピットに登る。それからすぐ、ヘンリーが「大丈夫だ!隊長は生きてる!」と言った。
私は安心してその場に座り込んだ。


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私は深呼吸した後、ノックなしでアークの部屋のドアを開けた。

「アーク?」

アークは少しも驚かずに、「なんだ?」とこっちを見た。その顔には未だに傷があり、左腕はまだ吊った状態だ。

「いやぁ…調子はどうかな、と思って。」

私は笑ってみせた。少し変になってしまったかも。

「まあまあだな。昨日よりは良いさ。しかし、片手ってのはずいぶん大変だな。書類がさっぱりはかどらない。」

そうやって右手で報告書をひらひらさせる。それを知ってか、ヘンリーは手伝おうとしたが、彼は高温の装甲板の上を登ったため両手が火傷でしばらく使えないから無理だ、とアークが言っていた。

「私、手伝うよ。」

彼の手元を見て私は言った。冗談に聞こえないように少し真面目な口調を心がける。

「なんだって?めずらしいな、エリーがそんなこというなんて。」

とアークが言って私の顔を見る。私はなぜか慌てて
「そう?…だよね?うん、今の撤回、撤回!やっぱり一人でがんばって。」
早口でそう言って私は2歩さがった。

「あ?なんだよ、それ。…まあいいか。やってもお前じゃできないだろうしな。」

その通り!わたしは頷きかけて「そんなこと無いわよ。」と言った。アークは私をたしなめると再び椅子に座った。

「とりあえず、本隊からケベックの件に関して回答があるまではここに待機だ。それにあの敵機についての報告もあるしな。」

「りょうかい。じゃあゆっくり休んで。」

そういって私は部屋を出た。


いままでアークに対して抱いていた気持ちはやっぱり恋とかそういう類のものなのでと、今回のことでわかった。
私、アークのことが好きなんだ。いつも先延ばしにしてたけど、今回はきちんと結論にたどり着ける。
…でもアークはきっと私のことなんか見向きもしないだろう。…そんなのわかってる。それでも…私はアークが好きだ!!
心の中で叫んで拳を突き上げた。…途端に豪快にこけた。


END


初出:バトスト同盟様
最終更新:2008年01月16日 14:14