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9

「ハルフォード中隊はオリンポス山の中腹まで到達、ロックランド中隊はこれの援護にあたり半数が壊滅。」

通信兵のハリスがオリンポス攻略の現状を伝える。未だ上層部がなぜ必死になってオリンポスを奪還したがっているのかは不明だ。しかし、重要拠点と言っても全軍が決死の突撃をしていい局面じゃないのは確かだ。今は中央大陸からの支援を待つ事も苦しいと言うのに…。ため息をつきそうになった俺は地響きにも似た小さな揺れを感じた。と同時に仮司令室の入口の布が上がり、エリーが顔を出した。

「アーク、ヘンリーが帰ったわ。」

俺は急いでコマンドウルフの元に向かった。ウルフは背部がごっそりやられており、修理が必要だった。コクピットから降りたヘンリーは俺の姿を確認したのか、ばつが悪そうな顔でこちらに向かってきた。

「すみませんでした。」

ヘンリーは目をそらして言った。俺は「おまえ一人の行動で部隊が全滅することだってありうるんだぞ。」と言ってウルフの方を見た。ヘンリーはまだ顔を上げない。この様子だとタイガーは仕留め損なったらしいことがわかる。ヘンリーはいつもそうだった、腕に自信があるゆえに倒す事ができないと目に見えて落ち込む。

「とにかく休め。と言いたいところだが、今回はそうも言ってられないんだ。帝国軍の攻撃は今は止んでいるが、じきに再開される。」

現状を打開する策はほとんどないに等しかった。ここにあるゾイドも既に能力の限界で、次の攻撃にはとても耐えられそうに無い。隊長機であるアイアンコングを直接攻撃できれば、指揮系統の乱れに乗じてオリンポスまで突破、あるいは撤退できそうではある…。そう考えていたときヘンリーが同じ様な事を言った。
「見つけましたよ、敵の隊長機を直接攻撃する方法!」
俺はあまり期待せずに「なんだ?」と聞いた。するとヘンリーは近くにあったボードに現在の敵と友軍の配置を示す図を書いた、のだと思う。汚すぎて理解するのに数秒を要したが…。

「友軍Aが後退するフリをして戦線を下げます。それに釣られて帝国軍は前に出る。そしたら隠れていた少数の友軍Bが敵の大将を殺る。」

ヘンリーがもっともらしく言うので思わず「なるほど」と言ってしまうところだった。

「しかし、今の俺たちに分散するだけの戦力は残されて無いぞ?分散したところで各個撃破されたらどうするんだ?」

俺の問いにヘンリーは簡単そうに「俺が囮として矢面に立ち粘ります。」答えた。それは明確な回答にはなっていない。ヘンリーの技量は俺も認めるが、いかんせん数が違いすぎる。ヘンリーの案を却下しようとしたとき、ワンツ大尉が近付いて来た。

「俺は乗ったぞ、その作戦。だが小僧、矢面に立つのはこのワンツ・ハント大尉の役だ。」

そう言って大尉は、ヘンリーの肩を軽くたたいた。


= = = = =



「で?それで、そのヘンリー案で決定なワケ?!」

アークから次の作戦を聞いて、私は思わずテーブルを叩いていた。どう考えてもイカレてる。わざと退いてそのまま殲滅されたら?少数で都合よくアイアンコングをピンポイントで倒せるの?私は矢継ぎ早にアークに質問を飛ばす。アークは「さあな。」を連発した。そもそもなんでそこまでして戦う必要があるのか私には理解できなかった。一旦ロブ基地なり、中央大陸なりに引き返してまた立て直せばいいじゃん…。

「静かに食えよ。ただでさえまずいメシが一層まずく感じる。」

ヘンリーが言った。聞けば彼の立案だと言う。戦闘のセンスは並外れているけど、作戦のセンスはイマイチどころか最低だ。

「これ、あげる」

私はそう言ってレーションのトレーをヘンリーに渡し、席を立つ。「あ?もう食わねぇの?」と彼が言ったのが聞こえたので、とりあえず「ダイエット中」と私は振り返らずに答えた。

空を見上げる。遠くのオリンポス山の向こうから黒い雲が迫ってきているのが見えた。帝国領土は雨だろうか?明日にはここもあの雲の下だろうか…。などとなんとなく考え事をして歩いていると、見張り用の棟のところまで来てしまっていた。帝国の動きを即座に感知できるようにとハント大尉がここに設置したのだ。私はなんとなく、ハシゴを登り上に上がる。上には見張りの青年がいたが、山のほうを見ているためまだ私には気付いていないようだった。

「替わりましょうか?」

私は声をかけてみた。案の定彼は驚いたように振り返る。「大丈夫です。えっと…」と言ったので私は、「エリー・ベッケロイド少尉よ。よろしく。」と手を差し出した。

「ケベック・カミンスキー軍曹です。」

彼はそう言って私が差し出した手を取った。彼、ケベックはかなりの長身で、並んだ私は小人のようだった。ちょっと居心地が悪くなった私は壁側の椅子に座った。

「なんで今さらオリンポスに総攻撃なのかね。」

なんとなくその話題を振った。今この場で共通の話題としてはこれが一番適当であると思ったからだ。すると彼は私が想像もつかない回答を返してきた。

「デス…ザウラー」

私は思わず「は?」と言ってしまった。

「連中…襲ってきた帝国軍の通信を傍受していたときに、その単語が。」

デスザウラー?あのデスザウラー?私たちの世代でその名前を知らないものはいないといっても過言ではないほど、メジャーなゾイドだった。その凶悪さは教科書で痛いほど教わった。「でもそれがどう関係してるの?」

「わかりません。でもきっと上層部が焦っているのは“それ”のせいではないかと俺は考えるんです。」

状況が把握できない。つまり、帝国軍はオリンポス山で“あの”デスザウラーを作ってるってわけ??
私が難しい顔をしているのに気付いたのか、彼は「忘れてください。きっと俺の思い過ごしです。」と慌てて弁解した。彼の言う通り、忘れる事にしようと思う。無駄な心配が増えるだけだ。

「その傷、前の奇襲攻撃で?」

ケベックは私の腕の包帯を指差した。「あ、うん。」と私は気の利かない返事をする。