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ZAC2099 11月16日 天気:晴天   備考:おなかが減って死にそうです … 「落書きしてんじゃないぞエリー。」 アークが私の書いた定期記録を覗き込んでいった。 「兵士の状況も立派な記録!」 私はそう言って立ち、今書き終った記録を小隊長であるアークに渡した。彼は嫌な顔で受け取ると、それを持ってテントを出た。ここは前線からそう遠くない場所であるが、最前線というわけでもないので、こんな報告書などを書いているヒマがあると言うモノだ。共和国軍はオリンポス山の奪回に失敗した後、前線を次第に引き下げ、とうとうミューズ森林地帯まで撤退してしまった。いまや、かろうじて踏みとどまっているというのが事実だ。帝国軍は勢いに乗り次々と防衛網を突破しつつある。このままゲリラ戦が長引けば、私たちに援軍が来るかもしれないという危機意識からだろうか? 「ちょっとケベック、これ何とかしてよ!」 私のウルフの周りに散らかった部品を指さして、小隊の新しいメンバーであるケベック・カミンスキー軍曹に怒鳴った。彼は以前の戦闘で部隊がほぼ全滅し、今は私たちの小隊に“一時的に”所属している。ちなみにゾイドは大破してしまっているため“一時的に”私のウルフの背部ガンナーズシートを担当している。一時的…とは言うがほとんどの場合、これは”戦争終結までの一時的所属”を示す。上層部は前線の1人の人事などには当然興味はないのだから。 「すいません。少尉のガンナーとして登場するわけですから万全を、と思いまして…」 この露骨な好意の表し方は今流行なのか?と思いつつ軍曹の話を聞き流す。 「もし今敵がきたら万全どころか全然ね。」 私は自分でもつまらないなと思った。 *** 状況は悪くない。とさえ俺は思っていた。共和国軍は押されてはいるが、その分帝国軍も広い領土に兵を配置しなければならず、近いうちに勢いはなくなると予想できるからである。 「初戦で勝ちすぎたのが仇になってくれればいいが。」 俺は戦況ボードを見ながらそう言った。いま、この会議室には俺を除いて誰もいない。他の将校たちも作戦会議意外ではわざわざここを使おうとは思わないらしい。かくいう俺もエリーが書いた報告書を置きに来ただけだが。 「アーク大尉か?」 後ろの扉が開き、ヘンダーソン大佐が入ってきた。グレイ・A・ヘンダーソン大佐は俺たちが属する特殊工兵師団第107戦闘連隊の連隊長、つまりトップである。俺はこの人とは案外長い付き合いで、中央大陸時代から面識はあった。今いるこの中規模キャンプも、ほとんどの駐留部隊が107連隊で構成されており、その長である彼も一昨日ここに合流した。 「遊撃任務ご苦労だった。今のところ人的損害は出していないようでなによりだ。」 「はい。なんとかやってますよ。色々問題はありますが。」 彼は人命を尊重し犠牲を最小に収める事こそが本当の任務だ。と昔言っていた事がある。おれもそうだと思う。 「そうか…6小隊は面倒な面子ばかりだからな。まあ、だからこそ君を隊長に任命したのだがね。」 どういう意味かわからい。あいつ等をコントロールする事ができるのは俺だけだと?それは買いかぶりすぎと言うモノだ。おれじゃなくてもできる奴は他にいるんじゃないのか?と思い、口に出した。 「あいつ等をまとめる事ができれば“おまえが”成長できるという話だよ大尉。」 「はい?」 俺は思いがけない返答に、思わず聞き返してしまった。あいつ等とチームを組む事が俺のため?説明されても一向に見当がつかない。 「では、そろそろ時間なので失礼する。」 そういって大佐は話半分で去っていってしまった。 「まとめる…か」 俺は再び一人になった会議室で、一人そう言った。 *** ここ数日なかなか寝付けない。自分でもわかるくらい、闘争本能とかいうやつが高ぶってるのがわかった。 共和国軍としてはゲリラ作戦で時間を稼ぐのが、無駄な労力を裂くことなく援軍を待つ手段として適当なのだろうが、俺からしてみればそれは既に逃げだ。戦争は常に攻めに転じていなければいけない。一度負けだすと歯止めが利かなくなる…。最近はそんな事ばかり考えているような気がする…。 今の状態が共和国にとってベストだと思うし、これ以上今の戦力ではどうしようもない事だというのもわかってはいる。しかし、唐突にこのような気分になる。 地底族というのはそういう種族なのだろうか?いままで自分が地底族であることに、なんの疑問や不安も感じた事は無かった。しかし、俺に流れる祖父たちの血は闘争本能の塊のようなものなのだろうかと考えてしまう事が最近多い。こんな事なら、ちゃんと学校にいって民族学を勉強するべきだったか…。 「…リー」 小さな声が聞こえたような気がして、テントの入口のほうを見る。夜中の暗さの中にエリーの顔が浮かんだ。 「なんだよ?」 俺は隣で眠っている同室の曹長を起さないように、テントを出た。エリーは近くのベンチを指差した。 「最近どうしたの?寝てないでしょ。」 エリーはベンチに座るとすぐにそう言った。 「なんでわかった?」 俺は感情を入れないような言い方だった。 「だって夜歩き回ってるでしょ。あれ案外迷惑。アークも心配してたよ、なんか悩みでもあるのかって。」 たしかに眠れずに夜中散歩した事もあった。…あれはどこが迷惑なんだ? 「隊長が?」 俺は聞きかえした。 「うん。なんか怒ってるような感じとはちょっと違うような感じだ、って言ってた。」 「そうか…ごめん。」 俺は素直に謝った。でも、俺の問題で仲間に心配をかけるのは一番嫌だとも同時に思った。 「でも、関係ない。俺の種族の問題だ。」 言った後に後悔した。関係ないと言いつつエリーに情報を与えてしまった…。最後のほうを聞き逃さなかったのか、エリーは眉をひそめた。彼女も俺が地底族だという事は知っている。 「それって父が地底族ってのが問題ってこと?それなら気にする事無いよ。私だって地球人の血入ってるから純血とかじゃないし。」 彼女なりに励まそうとしているのだろうというのがわかった。珍しい事もあるもんだ。 「そう言う問題じゃない、と思う。」 俺はそう言って立ち上がった。正直この問題に対して目下解決策は無い。 「どこ行く気だ?話はまだ終ってないぞ」 エリーがアーク隊長の口調を真似して言った。似てなかったが…。 「いまの俺にはどうすることもできない。…しばらくしたら元に戻るだろうから、それまでは放っておいてくれ…。」 それが現状の俺が言える、精一杯だった。 「納得できないけど、まああんたがそんだけ言うなら、そうする。だから早く戻ってきて。」 エリーの“戻ってきて”が妙に遠く聞こえた。 「ああ。努力する。」 「あんたのせいで、明日寝不足よ。」 エリーがそう言った。「尋ねてきたのはそっちだろ」といいたかったが、不自然になりそうだったので、やめた。 時計は14時を回ったところだった。 END ----
ZAC2099 11月16日 天気:晴天   備考:おなかが減って死にそうです … 「落書きしてんじゃないぞエリー。」 アークが私の書いた定期記録を覗き込んでいった。 「兵士の状況も立派な記録!」 私はそう言って立ち、今書き終った記録を小隊長であるアークに渡した。彼は嫌な顔で受け取ると、それを持ってテントを出た。ここは前線からそう遠くない場所であるが、最前線というわけでもないので、こんな報告書などを書いているヒマがあると言うモノだ。共和国軍はオリンポス山の奪回に失敗した後、前線を次第に引き下げ、とうとうミューズ森林地帯まで撤退してしまった。いまや、かろうじて踏みとどまっているというのが事実だ。帝国軍は勢いに乗り次々と防衛網を突破しつつある。このままゲリラ戦が長引けば、私たちに援軍が来るかもしれないという危機意識からだろうか? 「ちょっとケベック、これ何とかしてよ!」 私のウルフの周りに散らかった部品を指さして、小隊の新しいメンバーであるケベック・カミンスキー軍曹に怒鳴った。彼は以前の戦闘で部隊がほぼ全滅し、今は私たちの小隊に“一時的に”所属している。ちなみにゾイドは大破してしまっているため“一時的に”私のウルフの背部ガンナーズシートを担当している。一時的…とは言うがほとんどの場合、これは”戦争終結までの一時的所属”を示す。上層部は前線の1人の人事などには当然興味はないのだから。 「すいません。少尉のガンナーとして登場するわけですから万全を、と思いまして…」 この露骨な好意の表し方は今流行なのか?と思いつつ軍曹の話を聞き流す。 「もし今敵がきたら万全どころか全然ね。」 私は自分でもつまらないなと思った。 *= = = = = 状況は悪くない。とさえ俺は思っていた。共和国軍は押されてはいるが、その分帝国軍も広い領土に兵を配置しなければならず、近いうちに勢いはなくなると予想できるからである。 「初戦で勝ちすぎたのが仇になってくれればいいが。」 俺は戦況ボードを見ながらそう言った。いま、この会議室には俺を除いて誰もいない。他の将校たちも作戦会議意外ではわざわざここを使おうとは思わないらしい。かくいう俺もエリーが書いた報告書を置きに来ただけだが。 「アーク大尉か?」 後ろの扉が開き、ヘンダーソン大佐が入ってきた。グレイ・A・ヘンダーソン大佐は俺たちが属する特殊工兵師団第107戦闘連隊の連隊長、つまりトップである。俺はこの人とは案外長い付き合いで、中央大陸時代から面識はあった。今いるこの中規模キャンプも、ほとんどの駐留部隊が107連隊で構成されており、その長である彼も一昨日ここに合流した。 「遊撃任務ご苦労だった。今のところ人的損害は出していないようでなによりだ。」 「はい。なんとかやってますよ。色々問題はありますが。」 彼は人命を尊重し犠牲を最小に収める事こそが本当の任務だ。と昔言っていた事がある。おれもそうだと思う。 「そうか…6小隊は面倒な面子ばかりだからな。まあ、だからこそ君を隊長に任命したのだがね。」 どういう意味かわからい。あいつ等をコントロールする事ができるのは俺だけだと?それは買いかぶりすぎと言うモノだ。おれじゃなくてもできる奴は他にいるんじゃないのか?と思い、口に出した。 「あいつ等をまとめる事ができれば“おまえが”成長できるという話だよ大尉。」 「はい?」 俺は思いがけない返答に、思わず聞き返してしまった。あいつ等とチームを組む事が俺のため?説明されても一向に見当がつかない。 「では、そろそろ時間なので失礼する。」 そういって大佐は話半分で去っていってしまった。 「まとめる…か」 俺は再び一人になった会議室で、一人そう言った。 *= = = = = ここ数日なかなか寝付けない。自分でもわかるくらい、闘争本能とかいうやつが高ぶってるのがわかった。 共和国軍としてはゲリラ作戦で時間を稼ぐのが、無駄な労力を裂くことなく援軍を待つ手段として適当なのだろうが、俺からしてみればそれは既に逃げだ。戦争は常に攻めに転じていなければいけない。一度負けだすと歯止めが利かなくなる…。最近はそんな事ばかり考えているような気がする…。 今の状態が共和国にとってベストだと思うし、これ以上今の戦力ではどうしようもない事だというのもわかってはいる。しかし、唐突にこのような気分になる。 地底族というのはそういう種族なのだろうか?いままで自分が地底族であることに、なんの疑問や不安も感じた事は無かった。しかし、俺に流れる祖父たちの血は闘争本能の塊のようなものなのだろうかと考えてしまう事が最近多い。こんな事なら、ちゃんと学校にいって民族学を勉強するべきだったか…。 「…リー」 小さな声が聞こえたような気がして、テントの入口のほうを見る。夜中の暗さの中にエリーの顔が浮かんだ。 「なんだよ?」 俺は隣で眠っている同室の曹長を起さないように、テントを出た。エリーは近くのベンチを指差した。 「最近どうしたの?寝てないでしょ。」 エリーはベンチに座るとすぐにそう言った。 「なんでわかった?」 俺は感情を入れないような言い方だった。 「だって夜歩き回ってるでしょ。あれ案外迷惑。アークも心配してたよ、なんか悩みでもあるのかって。」 たしかに眠れずに夜中散歩した事もあった。…あれはどこが迷惑なんだ? 「隊長が?」 俺は聞きかえした。 「うん。なんか怒ってるような感じとはちょっと違うような感じだ、って言ってた。」 「そうか…ごめん。」 俺は素直に謝った。でも、俺の問題で仲間に心配をかけるのは一番嫌だとも同時に思った。 「でも、関係ない。俺の種族の問題だ。」 言った後に後悔した。関係ないと言いつつエリーに情報を与えてしまった…。最後のほうを聞き逃さなかったのか、エリーは眉をひそめた。彼女も俺が地底族だという事は知っている。 「それって父が地底族ってのが問題ってこと?それなら気にする事無いよ。私だって地球人の血入ってるから純血とかじゃないし。」 彼女なりに励まそうとしているのだろうというのがわかった。珍しい事もあるもんだ。 「そう言う問題じゃない、と思う。」 俺はそう言って立ち上がった。正直この問題に対して目下解決策は無い。 「どこ行く気だ?話はまだ終ってないぞ」 エリーがアーク隊長の口調を真似して言った。似てなかったが…。 「いまの俺にはどうすることもできない。…しばらくしたら元に戻るだろうから、それまでは放っておいてくれ…。」 それが現状の俺が言える、精一杯だった。 「納得できないけど、まああんたがそんだけ言うなら、そうする。だから早く戻ってきて。」 エリーの“戻ってきて”が妙に遠く聞こえた。 「ああ。努力する。」 「あんたのせいで、明日寝不足よ。」 エリーがそう言った。「尋ねてきたのはそっちだろ」といいたかったが、不自然になりそうだったので、やめた。 時計は14時を回ったところだった。 END ----

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