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366 ID:wJfeZpU80

おk、一人でも読んでくれる人がいるなら


目を開くと辺りは明るく、朝日の差す空をポッポの群れが飛んでいた。
ああそうだ、昨日は夜も遅いという事で主と野宿をしたのだった。
主。そうだ主。主はどこにいる。
周りを見渡す、居ない。馬鹿な。
居ない居ないどこにも居ない。昨日は確かに隣で寝ていたというのに。
「主!主!何処に行ったのだ主!」
胸が苦しい、締め付けられて潰れそうだ。
頭がぐらぐらする、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。主が居なくなるなんて嫌だ、許せない、あってはならない。
主。何処に行ったのだ主。まさか私を置いていってしまったのか?馬鹿な馬鹿な馬鹿な。あるはずが無い。
主、主主主。置いていかないで、一緒に居させて、共に生きさせて、私と私と私と―――。
「ミュウツー? どうしたんだ?」
暖かい声、聞き違える筈がない愛しき人の声。
「主!」
体が勝手に動く、主を求めて傍まで駆け寄る。
「何処へ行っていたのだ…心配したぞ」
例えでなく、本当に不安で死んでしまいそうだった。
主は世界だ、私の全てだ。奪われたら、消えてしまったら生きていく事など考えられない。
「ああ、ごめん。川で顔を洗ってたんだ、ミュウツーは気持ち良さそうに寝てたから起こすのもどうかと思って…」
「そんな事気にしないでくれていい、主。貴方が望むなら私は睡眠など要らぬ」
またそんな事言って、と笑って私の頭を撫でてくれる。
ああ、それだけで先ほどまでの不安など欠片も残らず吹き飛んでしまう。
冗談でも何でもないのだ、主が命じるならば私はどんな事でも果たそう。この身の全てをかけて主に尽くそう。覚悟など主と共になったその時から済んでいる。
だから、私のことを見て下さい、私だけを見ていてください、私とだけ一緒に居てください。
主。

367 ID:wJfeZpU80

午前

主が自転車で走る横に並んでサイコキネシスで飛ぶ。
主はボールに入って休んでいてもいいと優しい言葉をかけてくれるが、こうして外に出て肩を並べられる事が私にとって至高の喜びなのだ。
しばらく進むと突然見知らぬトレーナーが勝負を申し込んできた。
私を捕獲した主はどうやら世間では有名となったらしくこうして挑戦される事も少なくない。
「主、私が相手をしよう」
「敵」は私を目的に戦いに挑んでいるのだから私が相手をするのは当然の筋というものだ、と主は納得しているらしくそれに小さく頷いてくれる。
ただ本心を言えばそんな下らない筋など通す気も無いし、どうでもいい。
私は主に降りかかる災厄を全て振り払う。
私は主に仇名す者を全て薙ぎ払う。
私は主を傷つける物を許さない。
何よりも私が戦う理由は、この「敵」が私と主の時間を妨げた事。
憎い、邪魔だ、目障りな屑人間如きが…!
勝負は一瞬、6匹のポケモンはボロ雑巾と化し、トレーナーは尻尾を巻いて逃げ出した。
そんな私の背に主が労いの声をかけてくれる。
「お疲れ様ミュウツー、怪我は無いか?」
無論だ、あんな雑魚に私が手傷を負う筈も無い。
「そうか、よかった。でも少し力入りすぎじゃなかったか?」
「すまない、全力を尽くす事が礼儀だと思ってな」
そう言うと主は得心がいったようにして流石ミュウツーだ、といつもの様に頭を撫でてくれる。
本当は1秒でも早く終わらせようとしていただけで、気を使っていた事と言えば殺さないようにする事だけだ。
殺してしまうと主は怒って、悲しむ。
それは嫌だ。主がそんな気分になる事は酷く嫌だ。
それに嫌われてしまうかもしれない。
それはもっと嫌だ。主に嫌われたくない、私の事を好きでいて欲しい、私を、私だけを。

520 ID:wJfeZpU80


見晴らしのいい草原で昼食を取る事になった。
私以外のポケモンも外に出て太陽の光を満喫している。
主は料理をしながらそれを見て幸せそうにしている、複雑な心境だがまあ良しとしよう。
主の料理はいつも美味だ、栄養面でもポケモンの事を良く考えているのが分かる。
「主、何か手伝える事は無いか?」
少しでもそんな主の力になりたい、料理の間にそう尋ねてみる。
残念な事に私には料理というものが出来ない、だが手伝いくらいなら出来るかもしれない、主の役に立てるかもしれない。
「それじゃあカバンから食器を出してもらえるか?」
優しい笑顔、思わず顔が綻ぶのを止められない。
「了解した」
そんな顔を見られるのが気恥ずかしくて急いで言われた仕事に取り掛かる。
私の主の2つ、それとついでに他の5匹分の皿とスプーン…当然一つは主のスプーン。
手が止まる、まて何を考えている。
主のスプーン、当然主の口に運ばれているもので、羨ましいぞ、違う、無機物に嫉妬をしてどうする。
まて、まてまて。そんな主に隠れてコソコソとそんな真似をこの私がする訳には、いやだがしかしこれは主のスプーンで。
手の中の小さな鉄の棒が凄まじい引力を放っている、流石だ我が主。
…まてよ、これをもし私のスプーンと入れ替えたとしたら、あ、主は、私のスプーンを口に…!!
「どうしたー?食器壊れてたりしたかー?」
遠くからかけられた主の声に思わずビックゥと体が震える。
「な、何でもない!今持って行く!何の心配も無い!!」
そうかー、という主の声。心臓がバクバクと波打つ。
あああああああああああ、どうしようどうしよう、私ならねんりきで二つのスプーンの名前の書かれている柄を入れ替えるなど造作も無いが、だからといって主を騙していいものか、でも主と間接キス主と間接キス、ばれたら怒られるかも、でも間接キスが、主とキスが。

その激しい葛藤に幸か不幸か、男が気付く事は無かった。
加えるならば食事にミュウツーはいつもの倍時間を費やし、男は食欲が無いのかと心配する一幕があった事を追記しておく。

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午後

主はこの草原の居心地が気に入ったようで午後はここで休養を取るとの事だ。
もしかすると先ほどの一件で私の事を気遣ってくれているのだろうか。主が私を想ってくれるのは何者にも代え難い喜びだが、心配をかけてしまったなら反省をせねば。
ふとその「一件」を思い出すと自分で顔が赤くなるのが分かる、まずい。
「ミュウツー、調子はどうだ?」
食事の片付けを済ませた主が近寄ってくる、真っ直ぐに顔を見ることが出来ない、顔が熱い。
どうやら主はそれを私の具合が悪いと捉えたらしくあわてて駆け寄ってくる。
「大丈夫か!? どこか痛いのか!?」
痛いかと問われれば痛い、胸の奥が酷く痛い。
主と出会ってからこの痛みは消えない、この先も恐らくずっと。
私が私でなくなってしまうような痛み、私を狂わせる痛み。
体が自然に主にもたれかかる様に動く。
「ミュウツー!?」
「心配ない、少しだけ疲れていただけだ。…こうしていると落ち着くんだ、しばらくこのままでいさせてくれないか」
ああ、また嘘をついてしまった。
そんな暗い後悔が襲ったが、主の体の温もりが、主の匂いが、主の体の感触が全てを包み込んで麻痺させる。
胸の傷が疼く。いつかこの傷が深く広がって、私は壊れてしまうのではないか。
主は黙って私の体を受け止めて、背中を優しく撫でてくれる。
壊れても構わない、主と一緒ならば壊れても怖くない。だから主、私を離さないで下さい。

その様子を傍から見ていたリザードンとイーブイが呟く。
「あの二人の周りを飛んでるスピアーの群れは放って置いてもいいのかなぁ?」
「いいんじゃないか? 襲おうとした奴は念力で肉団子になってるし、お前も近づくなよ」
「はーい」
そんな晴れた日の午後。

522 ID:wJfeZpU80


楽しい時間程早く過ぎると言うのは本当で気付けば日が暮れ、辺りはうっすらと闇に包まれていた。
主はあの後も他のポケモンの面倒を見ながらも私の事を気にかけてくれた。
本当ならずっと傍にいて欲しかったが嘘をついた罪悪感からそれを言うのもはばかられたし、体に残る主の感触だけでも私は幸福感の中を漂う事が出来た。
ただ気にかかる事がある、午後の休養の事だ。
楽しい一時を過ごせはしたが、その所為で旅の予定を大きく崩してしまった。
私の所為で、である。
主は怒っていないだろうか、否、そんな人では無い事は誰よりも知っている。
それでも面倒な奴だとは思われていないだろうか、旅の邪魔になると思われていないだろうか。
考えれば考えるほど不安になっていく。
…そうだ、せめて今からでも謝ろう。
主がそんな事を気にするような人間でない事は知っている、だがそれでも何かをしなければ収まりがつかなかった。
いつもと同じように料理をしている主の元へと歩み寄る。
「あ、主…その、話があるのだが」
「ミュウツー、もう起きて大丈夫なのか?」
主は料理の手を止めてこちらに向き直る。
そもそも弱ってなどいないから大丈夫も何もないのだが、もう大丈夫、心配をかけたと答えた。
「その、今日の事なのだが。 午後は私の為に休養にしてくれたんだろう?」
そう聞くと主はこめかみの辺りを指で掻きながら笑顔で答える。
「ミュウツーが心配だったのもあるけど、最近皆頑張ってくれてたからそろそろゆっくり休もうと思ってたんだよ。 別に気にしないでも大丈夫だよ」
私の質問の意図をすぐに察してそう優しく言ってくれる、その一つ一つの気遣いが、思いやりが嬉しい。
だが私は知っている、こめかみを掻くのが彼の嘘をつく時の仕草だという事を。
やはり、迷惑をかけてしまったようだ。彼は休む予定など無かったのだ。

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その事実が酷く辛い、彼にとっては些細な事なのだろうがそれでも彼の邪魔になったという言葉が私を苛めていく。
何か、そうだ、何かで役に立ってこの汚名を挽回しなければ。
「主!手伝える事は無いか!? 何でもする、お願いだ、何か命じてくれ!」
気付けば私はそう叫んでいた。主が驚いたような顔をしている。
ああ、糞、何故私はこうなのだ。
自分の愚かさに吐き気がしてくる。何が最強のポケモンか、こんな役立たずがっ…!!
こんな妙な、面倒なポケモンを誰が好んで連れるというのか。ならば捨てられる?
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。捨てられるなんて、置いていかれるなんて嫌だ。主、私から離れないで、何処かにいかないで、私とずっと、ずっとっ―――!!
瞬間、頭が暖かくて大きくて柔らかい、そんな何かに包まれた。
胸に広がる主の匂い。主が私の頭を抱きかかえるようにしてその身に寄せているのだ。
「そんなに怖がらないでも大丈夫だよ、俺はお前が怖がる事は何もしない、お前を怖がらせる物からは俺が守ってやる。だから、安心しな?」
胸の奥の傷を疼かせる、甘く優しい声。
視界が歪む。何で私は泣いているんだ、情けない。こんな事で我が主のポケモンを名乗れるものか。
涙が止まらない、主は変わらぬ笑顔でいつものように、また頭を撫でてくれる。
「う、…うぅ、ううう、うううぅぅううううぅうぅうううぅううぅううううううううううっ!!」
撫でてくれる手が、涙を受け止めてくれる胸が、見守ってくれる視線が、その心が、全てが暖かい。
私は主以外は何もいりません、ただこの温もりにいつまでも触れさせていて下さい。
いつまでも、いつまでも。