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474(ID:9UA28iUv0)

やってみたくなった

―ワタシハ、アルジトトモニアリタイ―


私は「ミュウツー」だ。
ある伝説上のサイキックポケモンのクローン体であるが、詳しい事情は自分にも把握しきれていない。
分かっていることは、私が他と「異質」であるという事実だけ。

私は「究極」を求め、史上最高の形として存在を為した。
つまり、「最強」は私であり、「究極」の体現者も私である。私は私であればいい。
他の存在など必要ない。私は私個人で生存が可能だ。他の介入など無用である。

だから――、私は「あの狭い檻」から自分の足で外に出て、邪魔なモノをすべて排除した。
それから私は自分の能力を確かめる意味も込めて、「世界」とやらに飛び出してみた。
知識ではない、生で触れる「生ある動向」は新鮮である。野生に生きる逞しいポケモンも見ていて飽きない。

これが、「自然」なのだな……。「人工」の私には有り得ない本物の「生」。
ムネが……酷く痛む。劣等感というのだろうか? 理解できん……。

どうやら、私にとって風の当る「外」の空間は肌に合わないらしい。
眩しい日差しも濃厚な生物の「生きる匂い」も私には耐え難いものだ。
どうせならもっと機能的な住居を構えるべきだ。洞窟など、最適だろう。


476(ID:9UA28iUv0)

ここならば外敵の心配は殆ど無い、気配で生きる先住者は私の異常さに恐れている。
異物の排除意識よりも恐怖が打ち勝てば、彼等も不干渉を辞さなくてはならない。
しかし、よいところだ。湧き水も流れており、干からびる心配も無い。エサある。
雨風を凌げて、薄暗い環境で好きなように生活できる。差し当って不都合はない。
最高の世界だ。

だが、どうやら私に「平穏」は訪れないようだ。
「異物」は必ず目立つ。珍しい「ポケモン」の私は彼等「トレーナー」の格好の捕獲対象と見なされてしまったらしい。

加えて私は自他共に認めるほど「強い」。
最強なのだから当たり前だが……鬱陶しいかぎりだ。まったく……。

――あれから「挑戦者」は三十を数えた。
さすがトレーナーを自負するだけあり、野生の無秩序なポケモンより多少なり「骨」がある連中を繰り出す。
見知らぬ技を使われ、虚を突かれた事もあった。

それでも、私と渡り合うには生物間の「差」があり過ぎた。恐竜とアリの戦いとでも表現しようか。
いくら鍛えたところで、彼らには個体差の限界が付きまとう。
カイリューとコイキングが戦って、カイリューが負けるか? つまりそういうことだ。
無駄な、努力なのだよ……。

478(ID:9UA28iUv0)

挑戦者は次第に減った。当然、リベンジャーはいない。
挑戦してくる相手は一人の例外も無く、全員「殺した」からだ。
当然の権利だ。私の自由を拘束しようというのだから、その罪は命で償ってもらう。

ただ、私の名はあまりに広く知れ渡りすぎた。外では私の話題で大騒ぎだと聞く。
私は「平穏」がほしいのだ。出来れば、誰の意識からも消えて、認知されなくなりたい。
私はこの洞窟を出ることに決めた。ここに居ても、私の求めるものは手に入らない。

夜中、私は他の大地へ旅立つべく、久方ぶりに外気に身を晒した。
季節は私が穴に篭った頃と同じで、やや冷たい風が白い肌を撫でていく。
便利な住まいだったが、名残惜しい気は無い。執着心など不必要だ。私は私でいい。

そんな新たな土地への第一歩、私を熱烈に歓迎してくれた「かえんほうしゃ」の赤。
分かりきっていた攻撃に私の「バリヤー」がすべての熱量を遮る。
つまらぬ奇襲攻撃で私を弱らせて、ゲットしようという魂胆なのだろうが、浅はかだ。
どうやら人間は「知能面」で私に劣るらしい。よくよくも可哀相な生き物だ。

今度は空からの奇襲「そらをとぶ」を回避し、上から降ってきたリザードンを「サイコキネシス」で吹き飛ばす。
先程の「かえんほうしゃ」も彼の技だったのだろう。感触だが、相当鍛えられている。強い。
こういう相手は出し惜しみせず、早々に蹴散らすに限る。

479(ID:9UA28iUv0)

私は加減を無くし、全力の念力を練って「はかいこうせん」を即座に構築する。
どこかにトレーナーが控えているはずだが、丁度いい、隠れている奴ごと薙ぎ払ってくれる。
ダウンから立ち上がろうとするリザードンが驚愕の表情を浮かべて私を見た。随分、今更だな?

だが、もう遅い。純粋な破壊のエネルギーは私の手を離れて直線に放たれた。
全力で撃ち出した「はかいこうせん」は接触の直前でリザードンを塵にまで分解する。
更に放射状に広がっていき、洞窟の前に群生する木々を問答無用に焼き払っていく。
そして、光線の輝きが収まる頃には、直線方向に火の手の上がる町の様子が窺えた。

私の勝利だ。

――?

足元に西瓜大の球体が転がった。暗がりでよく見なかった。――爆発した。
これは「ビリリダマ」の「だいばくはつ」。
気付くのが遅すぎた。私は全身を焼かれ、圧倒的爆発に吹き飛ばされる。
リザードンを捨て駒にし、更にビリリダマを嗾けて、このトレーナーはそうまでして私が欲しいようだ。

怖気が走る……。すごく、いやなきぶんだ。ころしてやりたい――。

爆ぜた西瓜の後に、倒れる私の傍に人間の足音が近付いてきた。
ひどく興奮した、下卑た笑い声が耳に入り込んでくる。
手の内にはモンスターボールが握られているに違いない。遠くから投げ込めばいいものを……。

483(ID:9UA28iUv0)

勝利を確信した笑いが天に木霊する頃、私の足は素早く人間の脛を蹴り付け、骨を砕いた。
飛び出す黄色い脂肪にまみれた骨を一瞥し、倒れる人間に代わって今度は私が立ち上がる。
天に収まる満月の光を遮り、呆然とする人間を目に捉え、私は手の平を向けた。

サイコキネシス。

瞬時に肉片が飛び、汚い液体ががらんどうの森を穢す。
今度こそ、勝利を手にして私は新たな住居を目指して旅を始めた。
満身創痍の体は今にも意識が途絶えそうだが、この場に止まるのは危険が多すぎる。
少々派手に暴れすぎた節がある。已む無くだ。

しかし、生体には限界がある。私は町を二つ越したところで、体力を使い果たしてしまった。
何も無い、鬱蒼と茂る森の中、ただ静かな草木の擦れる穏やかな音色だけが奏でられる。
とてもよい環境だ。これこそ、私の求めた「平穏」かもしれない。

「死」……悪くないものか? 生きていて甲斐があるのだろうか?

意識が混濁の闇に引き込まれる寸前、諦観した思考を巡らす私の意識を覚醒させるモノが訪れた。
人間の足音――いや、もう「目の前」にいるから、逃げようとかそういう考えは浮かばないな。
兎にも角にも、外見様子から判断して、彼も「トレーナー」であることが判明した。


488(ID:9UA28iUv0)

夜の明けかけ、互いの表情が窺える時分に彼は驚いた表情を私に向ける。
当然だ、どこの世界にこんな奇想天外な形をした「生き物」がいるだろうか?
それが「ポケモン」だというのだから、これは一種の御伽草子と言えよう。

彼は手の平を口に当てて、困惑したように私と周囲を見回している。
何を考えているのか分からないが、ゲットされる訳には行かない。
私は誰かに束縛されたくない。私は個人で生きていたい。

貴様はそれを否定するのか? 人間よ……。

敵意に満ちた私の視線は確実に眼前の彼を捉え、一切の干渉を断ち切った。……つもりだった。

??? しみる……。

私の全身に至る傷口に向けて無遠慮に降りかかる「きずぐすり」。
……いや、「すごいきずぐすり」なのか? 見る見るうちに傷が塞がっていくようだ。
彼の行動が完全に理解出来ない。何をしたいのか? それをして何が満足なのか?

彼は背中に負ったリュックから、旅の道具を地面に広げ、そこから回復効果のあるものを選んで私に使用している。
使用……して“くれて”いる?

何故だろう……人間の手に触れられるくらいなら、観賞動物として生き恥を晒したほうがマシだと思っていた。
その考えが、覆される……。丁寧に包帯まで巻いてくれている。



489(ID:9UA28iUv0)

……いやいや、ポケモンフードはいらない。手持ちのポケモンに遣るべきだ。
何故だ? 何故、見ず知らずの、それも見るからに一癖ありそうな私を助けるのだ?

――なに? ……それは「論理的」ではない。だが……。

とても、心地のよい言葉に聞こえる。冷たい風が妙に温かくて気持ちがいい。
私の中に穏やかさを……感じる。単なる一度限りの応急処置にこんな感情を抱いては可笑しいか?
泣くのは……愚かな事か?

……そうか、笑わないでくれるのか。――ありがとう。

最後に微笑を向けて彼は私に背を向けた。その背を――私は呼び止める。
無償の「厚意」をかけてくれた彼の存在を、私はこれ以上に出会えない気がする。
だから、私の愚かな「わがまま」を聞いて貰えないだろうか……?

「私をゲットしてくれ……」

貴方が……私の初めてになる「主」だと、信じたい。

<了>

病んでない・・・