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「ミュウツー」

暗い洞窟の奥底に、俺の声だけが響く。

「ミュウツー」

深淵。深い闇。何も見えない。何も感じない。
ずっと彼は、此処にいたのだろうか。何も考えず、只管周りを破壊して。
――俺と、出会うまで。

「出てこいよ、ミュウツー」

そっと、手を差し伸べる。その指先が、闇に溶ける。

「帰ってこいよ。もう、一人にしないから……」

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ぴたり、と、冷たい者が触れた。
あいつの、手だ。
人間に似た、しかし異なる肌の感触。
三本しかない、先の丸い指。

――本当に?

静かなテレパシーが、俺の中に入ってくる。

――本当に、一人にしない?

俺はミュウツーの手を握り、頷いた。
そして一気に闇から引きずり出す。

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ミュウツーをボールに戻すと、俺はゆっくりと息を吐いた。
何だか、ものすごく疲れた気がする。
普段の数十倍は精神力を消耗したような……

と、何か気になって、そっとミュウツーが潜んでいた洞窟をもう一度覗きこんだ。
やめておけばいいのに。そう思ったが、遅かった。

そこは、言い表しようのない空間に変貌していた。
砕かれた壁。拉げた地面。落盤を起こした天井。
辺りには、何か赤黒いものが零れ、鉄の嫌な臭いがした。

ミュウツー、お前、何したんだ?

答えは、帰ってこなかった。