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229 ID:AzReO8s0


ツー様分が不足しているようなので、余計なこととは思いながら書いてみる。


音が鳴っている……。
当然、「音」とは何時でも鳴っているし、鳴らすことが出来る。
では、この場合で言う「音」とは一体何物であるのか?

それは――、一本の木の幹にすがる女性だけが知っている。
『純白』に“彩られた”ドレスに身を包み、そこから覗く『純白』の肌は儚い。
そして、外界の様子を見渡す血を零したように赤い……深紅の瞳。

彼女は取り巻く環境では「ミュウツー」と呼ばれる。
彼女は、木陰の下で何かを食い入るように見詰めている。
視線の先で、仲が良さそうに戯れる青年と、若年を思わせるポケットモンスターが二人。

フリスビーを投げあい、とても楽しげに“青年”が笑っている。
それを、遠くから眺めているだけで、彼女は満足げに微笑む。
ここから見ていれば、彼女の視界に二つ以上の異物が入り込まない。

そして、特有の「音」に注意を傾けることができる。
音は絶えず動いていて、時には大きくなり、時には断続に鳴ったりする。
流動して、軋む音ならそれこそ最良の「音量」となって彼女を喜ばせた。

「主の……“筋肉”のしなる音は、私にしか知覚できない……“音”」

だから、彼女はその妨げになる音を切り捨てるため、敢えて運動の場に赴かない。
むしろ、聞きたい音の為に、自分の中で鳴る“音”すら耳障りで堪らなかった。
抉り出して……カメックスにでも料理させれば、少しは“食える”モノになるだろう。



230 ID:AzReO8s0


だが、そんな真似をすれば、当然二度と主の音を聞く事は叶わない。
だから、今は可能な限り“心音”を抑える事で賄っている。
動きが緩慢になり、息苦しくて胸に針を刺された心地になるが、それも我慢の次第でどうとでもなる。

「ああ……なんて、男らしく力強い“音”なのだろう?」

思わず惚れ惚れして、自分の動悸が騒がしくなるのを必死に押さえ込む。
念力で力一杯圧力を加えると、途端に血液が逆流して喉を焼く“苦味”が拡がり吐血した。

「これも……愛する人を思うが為にやってしまう、私の詰まらない癖の一つ」

多量に垂れ流す血量を見ても、彼女は動じるどころかむしろ悦に浸って状況が見えていない。
そして、そのまま彼女は地面に倒れ伏し、純白のドレスをヘモグロビンの色に染めた。

それから数時間、彼女は近くのポケモンセンターのベッドの上で目覚めた。
点滴の針が腕を貫き、視線を上げると黄色い袋が目に入る。
どんな栄養成分か分からない物を注入されて、彼女はほんの少しだけ、寝覚めが悪くなった。
咄嗟に引っこ抜こうとする手を……見知った細い腕が遮る。

「リザードン……手をどけろ」
「そう嫌がるもんでもないぜ?」
「?」

疑問に眉を吊り上げると、リザードンが理由を説明する意味で指をドアに向けた。
そこでは、愛する男性が椅子に腰掛けたまま眠っている。
そこで、ミュウツーの視線がリザードンに返る。

「主と関係が?」
「関係もクソも……お前がきっと嫌がるだろうからって、荷物から使えそうな物を抽出して点滴に代用したんだよ」
「そんな手間を……」



231 ID:AzReO8s0


感無量、ミュウツーはこれ以上ないほど感激に身を震わせて、泣き出してしまった。
なんとも言えない表情で、リザードンは泣き崩れるミュウツーを見下ろしている。
本当の意味で、「こいつは何がしたいのか?」と、考えているに違いない。

実際、彼女が倒れた理由は、外野にいたフシギバナとカメックスがしっかり目撃している。
次第に顔が青白くなり始め、次の瞬間、吐血したものだから、さぞカメックスは驚いたに違いない。
何となく彼には、心中、察するべきところがある。――ご愁傷様だ。

「まあ、これに懲りたら……怖い真似するの止めろよ?」

それだけ言うと、リザードンはそそくさ医務室から飛び出していった。
後には……ミュウツーと青年だけが残った。
不意に、ミュウツーの泣き声が止んで――シーツに押し付けた顔を引き上げる。

「主と……二人っきり?」

興奮気味に鼻を鳴らし、充血する目で眼前に居る青年の無防備な姿を見やる。
すでに邪魔する存在は皆無で、彼女はあらゆる所業が完全となった。
後は――何をするも「モラル」の問題だ。

そして、そんなものは「要らない」!

「主、主……!」



232 ID:AzReO8s0


動悸が胸を叩きつけ、急激に血圧が上昇する。
もう――、我慢できない!

「あぁるぅじぃーーーーーーーーーーっ!?」

飛び掛らん勢いでベッドから飛び出すと、瞬間的に意識が混濁する。
そして、そのまま意識が跳んでしまった。



「病み上がりに何してんの……お前?」
「……」

目覚めたのは三日後、今度は傍に主が居ない。
もっと大きな病院に搬送されたので、それに応じて彼も町のホテルに泊まっているらしい。

「抜け駆け厳禁……だろが、ボケ」
「うるさい……!」

もはや、そんな応酬しか出来なかった。


<了>