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多分、ダークライが仲間になるイベントを書きたかった筈だけど、何時の間にか応援文になっていたお話。


「おい……“ゴミ袋”」
「…………?」

多分、自分を呼んだのだろうと思い。その特徴ある佇まいの少女は声のする方に顔を向けた。
案の定、自分よりも遥かに背の高い女性が立っており、さも嫌そうに眉間を寄せている。
ともかく、自分は呼ばれたのだから、それに応じる事が第一の行動である。
少女は咄嗟の返事として――頷いて見せた。

途端に目の前の女性の表情が強張る。
明らかに不快感を滲ませて、怒りを隠しもせず少女にぶつけ始めた。

なぜ? 少女は目を白黒反転させながら、困惑する思考で理由を考えた。
しかし、答えは出てこない。
それなのに、女性は少女を見下ろして不快感を被っているのだ。

「私に顎で指図するとは……いい度胸だな」
「…………!?」

どうやら怒っている理由は分かった。
喋らず頷く、いわゆる「動作」での対応が気に食わなかったようだ。
これは確かに彼女の方に非があるのかもしれない。



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だが、それは表面上での“見方”の問題だ。
実際は、どうすることもできない問題が、そこにあったのだから。

「もう、そのくらいにしてやれよ?」

困り果てる少女に助け舟を出したのは、多くは男性が好む服装に身を包んだ女性。
ワイルドな風貌が醸し出す雰囲気は荒々しいが、それも見た目が招く誤解だろう。
確かに彼女は今、詰め寄られて困惑する少女を助けたのだから。

お陰で、今度は――全身の色素を抜き取ったように白い肌の女性の怒りの矛先が、その男装に身を包む女性に及んでしまう。
強烈に鋭い深紅の瞳が男装の女性を睨み、それを真っ向から彼女も受けて立つ。
元より、この二人は同じ穴の狢でありながら、それほど仲がよくなかった。

「変温風情……私に意見するとはどういうつもりだ?」
「人をトカゲ呼ばわりしてっけど……“尾っぽ”が生えてる分、てめえも似たようなもんだろ?」

互いに相容れない罵詈雑言を応酬して、男装の女性はジャケットから煙草を取り出して口にくわえた。
連動して、燃え盛る火炎が灯る長い尾の先端を口元に近づけて、煙草に火をつける。

「それに機能的だろ? お前のは伊達で付いてるだけで、なんの役にも立たないな」

白い煙を吐き出すと、直後に周囲の流れる風の動きが変わる。
まどろみ、停滞するように、ぬかるんで息が詰まる。ひどく気分が悪くなった。

「怒ったかい? 事実を言ったまでなんだがなあ~?」



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挑発気味に笑い、それを皮切りに――風が「質量を持って」襲い掛かってくる。
吸い始めの煙草を吐き出し、背中を後方に押し出して地面を蹴ると、女性はそのまま上空に飛び出す。
脚力で自身の身長の三倍を跳ぶと、今度は張り出した背中から髪の色と同じ橙の“両翼”を羽ばたかせて、天高く舞い上がった。

予備動作の長い飛び立ちを終えると、その足で地面の様子を見渡す。
まあ、大体の予想はついていたが、「やっぱり」と言うべきか。
アルビノの女性が平手を構えて、前方へ押し出していた。「サイコカッター」でもやる気だったか?

「はん! ミュウツー、てっめえ……口喧嘩に負けたからって、やりすぎだろ!?」

アルビノの女性を呼び、まるで御伽噺にでてくるような偉容で空を巡回すると、彼女は地面に足をつけた。
正面からは常に威圧感が発せられ、強烈な怒気を孕ませた――ミュウツーの視線がある。

「この程度で虚を突かれるなら、主の共は無理な話だ……リザードン?」
「不意打ち食らわすのは、『ロケット団』かそういう『団体』だけだよ」

再度、応酬を交えて、リザードンと呼ばれた野性味の強い女性は、同じようにジャケットに手を伸ばし、煙草を取り出した。
だが、火はつけず、指の間に挟んでペンを弄るように揺らしている。

「まあ、何でもいいが……とにかく、だ――!」



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リザードンは額を手の甲で叩き、もう一方の煙草を握った手でミュウツーを指した。
念を押すように突き出して、そのまま注意が乗ると――右手にずらした。
その動作に釣られて、ミュウツーと少女の視線が煙草の向けられた方に傾く。

一瞬で、ミュウツーの表情が固まった。

「主……見てた、の?」

驚愕で固まる端正な顔立ちを苦笑いで迎え入れ、その場に立つ青年は若干引き攣った表情で頷いた。

「見てました……」
「あ……あああああ……!?」

なにやら呻き声を上げて蹲り、ミュウツーは頭を抱えて自分の殻に引き篭もってしまった。
それをリザードンと青年が見やり、同時に困った溜息を漏らす。

「…………?」

一人……いや、正しくは『一匹』であろうか、蹲って呪文の詠唱を始める奇怪な物体を見つつ、少女はどうしたものか首を傾げていた。
と、そこで不意に逸らした少女の視線と青年の視線がぶつかる。

「ん……? ああ、忘れてたよ――ダークライ。君を呼んでくるように、彼女に頼んだんだ」
「?」

いきなり言われ、確信を持てず少女――ダークライは自身を指差して確定を求めた。
同時に、青年が微笑みを浮かべて頷く。

「そう、君のことだよ。晩御飯が出来たから、皆を呼びにきたんだ」
「…………!」



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『ご飯』というキーワードに反応し、ダークライは両手を掲げて飛び上がった。
その際、彼女の着衣である漆黒塗れのプリーツスカートが浮き上がり、瞬時にそれを少女が叩き落とす。
そして、少々恥かしげに頬を染める。

途端に青年は可笑しげに噴出して、頭一つ分以上に開きのある少女に向けて手を差し出す。
ダークライは差し出された手の平と青年を見比べて、首をかしげた。
見上げられて、すぐに柔和な笑みを浮かべて安心感を促す。

「さあ、行こう。今日の献立はカメックス特製のシチューらしいよ?」
「…………!」

青年の広げた手の平に自身の小さな手の平を重ねると、少女は満面の笑みを浮かべて必死に握り返した。
それがとても愛おしく感じられて、咄嗟に青年とリザードンは無意識に頬を緩ませた。
そして、夕焼け空が綺麗な丘の高みへ向けて、三人の足が運ばれ出した。

「そういや、『ボス』よう?」

道中、リザードンが口を開き、彼女特有の呼び方で青年に話しかける。
青年も首を横に傾けて、何時の間に咥えたのか煙草の煙の影からリザードンの表情を窺う。
何か、腑に落ちないことを巡らせて、それが吐き出す煙の色に表れているようだ。

「なに?」
「いや……“カメックス”?」



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ぼやくように言って言葉を切り、やはり考えるように腕を組んだ。

「あいつ……死んだんじゃなかったっけ?」

当然の理解を言葉に表し、彼女は眉間に皺を寄せて考えていた。
青年は視界に映る橙の光を片手で遮り、静かに息を零した。

「便宜上……生きててくれた方が何かと都合がいいし」

とても、大人の意見だった。
それ以上、リザードンは何も言わず、咥えた煙草をフィルター寸前まで吸引して捨てた。
それを見咎めたダークライが吸殻を踏んで、リザードンが申し訳なさそうに頭をかく。

父親と母親が娘を挟んで歩いている。
一般に、そう見て取れる温かい風景が丘の坂に引き摺って残り、沈みかけの光が尾を引いた。
美味しそうなシチューの香りが漂って、ダークライは頬に笑窪を浮かべる。

悪夢といわれ、何者からも拒絶された少女は輪の中に入って、心底から微笑んだ。
望むものはこの仲にあり、自分もこの仲に求められている。
今日の晩御飯も、きっと美味しいものにちがいない。そう、ダークライは思った。

<了>

その頃、忘れられた存在が一人。

「私が悪いんじゃない……私はちゃんとゴミ袋を呼びにきた……それをトカゲが邪魔をして……」

まだ、やってたりする。@wikiへ

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最終更新:2007年12月09日 22:18