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**500 ID:bpaYoFM0 シオンタウンに聳え立つ塔「ポケモンタワー」 明るい印象を与える名前とは裏腹 死せるポケモンの魂が最期の時を巣食うゆりかご 積み重ねられる墓標の前に立つ女が二人 哀しき無念の復讐を殺す為に REVENGE IS NEO LIFE  前戯の零話「(死屍累々+哀しき情念)÷二人の女」 一人は、目付きの鋭い黒髪の少女。すっきりとしたスタイルと切りそろえられた前髪。 手にはアンティーク人形と大きな黒革のトランクを持っている。 白肌の中にうっすらと浮かぶ薄い唇が僅かに開かれれば声は途切れ途切れに辺りに浸透していく。 普段話す事を慣れてないのか発音が聞き取り辛い。その短い言葉には怒り、悲しみ、恐れ 様々な感情が入り乱れている一言であった。その瞳は半ばトランス状態にでもなったかの様に輝きがない。 「……泣いて いる あんな 大きな 声で」 紡がれる声の内容は一見現実と矛盾している。誰も泣いていない。そして、誰も居ない。 しかし、もう一人の女。白髪の老女は杖をついたままそれに同意の頷きを示している。 その皺の刻まれた顔で塔を見上げながらも唇が僅かに端を擡げる。 老いた身の皮を被ったその魂は、挑発的なその気配に血肉を沸かせていた。 彼女等はポケモンリーグ協会より派遣された。哀しみを駆除する為に 「そして、喰っているね。とんだ大食漢じゃ」      ,,,, 「違う カノジョ 女よ この 哀しい 想いは」 **501 ID:bpaYoFM0 喰い散らかされるガスの痕跡。それは其処に生無きポケモンの亡骸。 ゴース、ゴーストなど此処にはゴーストタイプのポケモンしか生息していなかった。 時折、未練ある魂が生前の肉体のまま彷徨うことはあったがそれも長くは持たず 大抵は尋ねたトレーナーや野生のゴーストタイプポケモン同士の縄張り争いに負けて消滅してしまう。 所詮、幽霊になってしまえば、そのポケモンの本来の力は落ち、生息する場所としてゴーストタイプより優位に立てることはない。 シンプルにして、洗練された自然淘汰の弱肉強食の理が支配していた。 しかし、それはある日を堺に過去のモノとなっていた。強力な一つの存在によりその理は崩壊している。 この塔に集められる霊魂全てはその存在の糧に過ぎず、輪廻転生が崩されていく。 「足りないと 強さが 嘆いてる。 出て、フーディン ソーナンス」 「ヤミラミ、ムウマージ!出るんだよ!さて、では強行突破と行くよ」 二人の女が塔へと足を踏み入れれば、其処は地獄絵図と化している。 恐怖と混沌で気が狂ったゴーストタイプのポケモンが暴れまわって凶暴化している。 彼等は此処でしか野生では生息できない。しかし、今その住処自体が窮地に陥っている所為か 女二人を見れば、死に物狂いの襲撃を開始する。それを冷静に見送りながらも二人の女の声と共に 出された、4匹のポケモン達が隊列を組み、トレーナーをガードしながらもその場を駆け抜けていく。 「ヤミラミ! だましうちだよ! ムウマージ! サイコキネシスで吹き飛ばしな!」 「フーディン、サイケこうせんで援護を ソーナンス、ひかりのまもりで ガードを固めて」 文字通り、蹴散らされていくゴースとゴースト達。ほぼ、一撃で沈められて、姿を消していく。 幾ら凶暴化したと言っても、野生の理性無きポケモンが鍛錬されたエキスパートのポケモン相手に太刀打ちが出来る相手ではない。 まして、彼女等…セキチクジムリーダー「ナツメ」と四天王「キクコ」と言うカントー随一の対ゴーストタイプにおける専門家とも言える二人に 野良のポケモンが何匹挑もうと、それは屍を積み重ねる結果と彼女達の微々たる疲労の過程でしかなりえなかった。 **502 ID:bpaYoFM0 あまりの骨の無さにキクコは肩を竦めながらも駆け抜ける戦場にため息を残していく。 「ふん、威勢だけだね。こいつ等は」                 ,,,, 「次の階 本番 居るよ。 カノジョが」 階段を登りながら、少し息の上がっているキクコを気遣いながらも、ナツメは徐々にその存在の力を感知していった。 フーディンは握っている匙の手が震えていた。エスパータイプのカレが敏感に感じ取れるのは必然とも言えた。 凄まじい念とその溢れる哀しき想いにムウマージは今にも泣き出しそうな顔をしている。 ソーナンスは体の震えと汗が止まらず、ヤミラミは落ち着き無く周囲に目を見張っていた。 鍛え上げられたポケモン達が一斉にその気配に押されている。その純然たる恐怖の「質」を刷り込まれていた。 それはトレーナー二人にも感じられるほどの狂気、哀愁、そして血反吐を吐きながらも願われる想い。 「ほぅ? 中々どうして。やってくれるねぇ」 「………!! 酷い 誰がこんな」 その階層は破滅しか残っていなかった。永遠と響き渡る「ほろびのうた」耳を劈く「いやなおと」 その哀しみの中心は一つの黒い影。今まで見たことのない、シルエット。 ゴーストタイプのポケモンなのだろうかはっきりと目視できない。一瞬場を圧倒されて息を呑まれそうになっているが ずいっとその前に出て行く彼女達のポケモン。恐怖はもちろんあるが彼等は目の前の「哀しみ」に何もせずには居られないらしい。 その自らが育ててきた強さに二人は支えられながらも、声を張り上げる。それに気付いたのかそのシルエットもゆらりっと 頭を擡げながらも4匹と二人の方向へと滝の様に涙を流している眼を向けていく。 「ソーナンスはかげふみをしつつミラーコート! フーディン、かなしばり発動!」 「ヤミラミ! アイツをみやぶるんだよ! ムウマージはくろいまなざし! 絶対に逃がすんじゃないよ!」 ナツメの言葉と共にソーナンスとフーディンは威圧されるプレッシャーの中さらに一歩前に出る。 キクコは不可思議な発音の呪文を唱えながらもその言葉に反応を僅かに 4匹のポケモンはその哀しみを取り囲む様に配置につき各々の指示通りの動きをする。 ヤミラミがその瞳で哀しみの本質を探り、ムウマージはその憂いに満ちた瞳を離さぬ様にまなざしを向けている。 ソーナンスがその哀しみの影を踏みこたえながらもキクコとナツメと自分の前に壁を作り守り抜く。 **503 ID:bpaYoFM0 何かをされる前にフーディンがかなしばりを仕掛けていく。そのシルエットは何も出来ぬまま捕縛されつつあるが その強い力の念に少し気を緩めたら4体とも一遍に吹き飛ばされてしまいそうであった。 キクコが僅かに頷き、ナツメへと合図を送ると手に持っていた黒革のトランクが開かれる。 「オン・キリキリ、オン・キリキリ、オン・キリキリ!彷徨える魂よ。汝の存在は何也や!汝の哀しみは何也や!」 「ヴィジャ盤起動。シンクロ開始……20、40……47…60%キープ」 トランクから取り出されるのはアルファベットと数字、YESとNOが扇状に書かれた木版と それを示す矢印のパーツのセット。西欧のこっくりさんとも言える儀式装置で「ヴィジャ盤」である。 キクコの呼びかけと何時の間にか握られていた数珠の音と共にかなしばりを打ち破ろうとしていたそのシルエットが その抵抗を止めて、ぎゅっとナツメのほうへと顔を向けていく。それと同時にナツメの矢印のパーツを翳してる手が 人間ではありえないほどの速さで動き始め文字を順に追っていかせる。 「言霊捕捉 A I T A I W A T A S…だめ 速すぎる」 「オン・サラサラ、オン・サラサラ、オン・サラサラ!彷徨える魂よ。 汝の名を示せ!」 「……M Y U やっぱり」 「最後は2。コレは確定じゃな。おまえさんだったか」 キクコの一喝と共に翳されていく文字の速度は落ち着きを取り戻し、その名を二人へと示していく。 その名とそのシルエットは似ても似つかないものであった。 白き力強さを誇る以前のその姿は跡形も無く、ただただ黒い影と闇を纏いながらも 怯えた仔犬の様に、周囲に哀しみを吼え散らかしている臆病な存在。 **504 ID:bpaYoFM0 しかし、その情念が徐々にシンクロしていったナツメの心をへと侵食を始めていく。 ナツメの体はガタガタと震えが収まらず、シルエットはかなしばりとかげふみ くろいまなざしを振り切ってナツメへとその体へと潜り込もうとしている。 「くっ! だめ 入って やぁぁっ…私の中が溶ける。 シンクロ 86%超過 キクコさん ごめんなs――」 「オン・アサンマギニ、オン・アサンマギニ、オン・アサンマギニ! つぅっ――ナツメ、負けるんじゃないよ! お前達、ナツメを呪い殺させる気かい!? もっと気張れ!」  キクコの叱咤激励と共に、再び念と能力による束縛を引き寄せられながらも、金縛りをかけられたまま暴れていく。 とてもではないが捕獲できる状態でも無く、一度に指示が可能な二匹のポケモンでようやく維持している事に二人は焦りを覚え始める。 ナツメは顔こそ無表情を貫いているが、背中にはじっとりとした汗で僅かに後ろの下着が透けて見えながらも そんな些細な事になりふり構っているほどの余裕は微塵も消えうせている。 肩で息をしながらもその瞳には焦りと恐怖の他に猛り狂う哀しみに導かれてか大量の雫が零れ落ちている。 シンクロした心理、流れ込まれる記憶と無念。そして、最後の死の淵でカノジョが見た残像がナツメの心を犯している。 「キクコさん カノジョ 根が深い 無理矢理しても ダメ」 「オン・アサンマギニ、オン・アサンマギニ、オン・アサンマギニ!  そんなのあたしだって解ってるよ。……で、如何するんだい?」 「知る必要がある カノジョの声で 全てを 人形を私に使う キクコさん 後は頼みます」 「解ったよ。ちゃんと元に戻してあげるからしばし辛抱してるんだよ」 「エスケープドール起動 対象は私自身」 言葉は途切れ途切れのまま、ナツメはヴィジャ盤を捨てて、もう一つ持っていた人形を手にする。 目を閉じながらもその人形の目がゆっくりと開かれれば、光無き瞳がほの暗い蒼の瞳を輝かせていく。 それと共にナツメの目から徐々に生気が消え失せながらもくたりっとその場に倒れてしまう。 その状態にフーディンとソーナンスは気付いたのか思わず振り返ってしまうと同時に そのシルエットはナツメの体へと襲い掛かっていった。                                     続く

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