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**212 ID:L7CDfDUo 「ミュウツー、ごめんな、もうお前と旅をすることはできなくなっちまったんだ」 その言葉は今まで戦ってきたどのポケモンのどんな技よりも巨大なダメージをミュウツーに与えた 旅を続ける男とミュウツー、そしてその仲間のポケモン達は今日ものんびりと一日をすごしていた ジム戦も順調にこなし、残るバッヂもあと一つ。 目的のバッヂをほとんど集めた事で、自信をつけた男は自分の夢がもうすぐ叶うかもしれないという喜びと期待で舞い上がっていた。 一方ミュウツーはというとこちらもやはり上機嫌だ、他のポケモンはモンスターボールに納まっているし まだ日は高く、次の町に着くのにもまだまだ時間がかかる。しばらく男を独占していられる その頬が完全に緩みきってしまっている事にも気がつかない様子だった 「なんだニヤニヤして。嬉しそうだな」 男が語りかけるとミュウツーは慌てて顔に手をやる 「べ、別に、ニヤニヤなどしてません。主の方こそ嬉しそうにみえますが」 「そりゃだって、もうあと一つだぜ?くー、もうすぐ俺もポケモンマスターになれるんだって思うとな」 そういいながら男は身悶えていた。傍からみれば変人以外のなにものでもないような動作だったが、ミュウツーにとってはその動作すらもいとおしく思えているのだろう 時折バッヂケースを除いては自分がゲットした七つのバッヂを感慨深げに眺める 「ほんと、ミュウツーがいてくれて助かったよ。もしお前と会ってなかったらこんなに順調にいかなかったもんな」 不意に想像してしまった、もし男と出会ってなかったら?もし出会う事が出来なかったら?怖くなった、イヤダ、絶対に。あまりの恐怖からミュウツーはつい男の服の裾を掴んでしまう 「ミュウツー?どうした?なんだ甘えたいのか、しょうがないやつだなぁ」 そういうと男はミュウツーの手を握り一緒に歩き出す。男のその行動一つでミュウツーの心に浮かんだ影は全て消し飛んでしまった ミュウツーは思う、この男に出会えてよかったと、この人に仕える事になって良かったと。その幸せをかみ締め、手のひらに男の体温を感じながら、この時がいつまでも続けばいいとそう願っていた。 ---- **213 ID:L7CDfDUo 「待て!!」 突然後ろから呼び止められる。ミュウツーは男の側に陣取り、男も慌てて振り返る そこには黒い服をきた男が、それぞれモンスターボール構えていた。 「最強のポケモンミュウツーだな。大人しくこちらに来てもらおう」 「なにいってんだ!ミュウツーは俺のポケモンだぞ!お前らなにもんだよ!」 男が叫ぶ、ミュウツーにはその男たちの目的がわかっていた。またか。 まだ男と出会う前はよくこういった輩が自分の前に現れたものだった、しかし依然とは違い今のミュウツーには主がいる 自分の事で主に迷惑をかけるわけにはいかない、ミュウツーはすぐさま黒装束の男達に襲い掛かる。 「ぐ・・が・・・」 一瞬で男の一人の首を締め上げる。 「立ち去れ、貴様らの要求に従うつもりはない」 しかしそれがいけなかった。 「離しなさい!あなたのご主人様がどうなってもいいの?」 振り向くとどこに隠れていたのか銃を持った女が男のこめかみに銃口を押し当てていた 「な・・・」 ミュウツーは黒装束の男の首を離す。ゆっくりと振り向き女を睨みつける、その目には見つめただけで人を殺せるのではないかと思うほどの殺気が篭っていた 「そ、そんな目をしても無駄よ!さぁ、大人しく私たちの言う事をききなさい」 ミュウツーにその声は届いてなかった。 主を、自分の主を自分の責任で危険な目にあわせてしまった。それと同時に見知らぬ女が自分の愛する主に密着している、その事実が許せなかった。 ミュウツーは静かに意識を集中させる・・・ ---- **214 ID:L7CDfDUo [サイコキネシス] 女の腕が曲がっては本来曲がるはずのない方向に曲がる。女は悲鳴をあげながら自分の腕を抱き寄せアスファルトの上でのたうちまわった。 「主、大丈夫ですか?お怪我は?」 「あ、ああ、大丈夫」 ミュウツーは男の身を隅々までチェックし、安堵した。良かった、どこにも以上はない。 『しかしこの女どうしてくれよう?』ミュウツーは静かに女に近づきその体を蹴りつける 「私の主に貴様のような薄汚れた女が触るとは、覚悟はできているんだろうな?」 ミュウツーの低い声が腹の底から響いてくるようで女はあまりの恐怖に失禁していた。 「ベトベター!くろいきり!」 慌てて振り向く、黒装束の男がモンスターボールからベトベターをだし指示をだしていた、辺りが黒い霧でつつまれる。 「ミュウツーどこだ!?」 叫ぶ男 「主!主!?」 叫ぶミュウツー。 落ち着け、この状況なら相手からも私は見えないはず、ミュウツーは感覚を研ぎ澄ませ、相手の気配を察知しようとした 「ヘドロ爆弾!!」 ベトベターへ指示をだす声が聞こえる、ミュウツーは咄嗟に身構える。しかし何も起こらなかった不思議に思いふと辺りを見回す 後方で爆発音がきこえる 「わああああああああ」 男の悲鳴が響いた ---- **215 ID:L7CDfDUo ゆっくりと霧が晴れる、それ以前から声のする方向へ走っていたミュウツーがそこで見たものは 爆風に巻き込まれまるでゴミのように真っ黒になった男の姿だった 「お、おれはべつに、こ、殺すつもりとかはなかったんだぞ、お、お前らがいけないんだからな、抵抗しないで着いてくればよかったんだ」 黒装束の男がそういいながら、女を担えあげる 「お、お前が素直に、ロケット団に従ってれば、こんな、そう!お前のせいだ!最強のポケモンとかいってお前が主人を見殺しにしたんだからな!」 黒装束の男・・・ロケット団の男は完全にパニックになっていた おそらくは下っ端なのだろう、今の状況が自分の責任ではないと必死で言い訳をしている しかし、その支離滅裂な言葉ですら今のミュウツーにダメージをあたるには十分だった 「わたしの・・・わたしのせいで・・・わたしがいるから・・・私の・・わたしの・・」 「そ、そう!お前のせいだ!俺はなんも悪くない!と、とにかく今日のところはこれで勘弁してやる!」 ロケット団の男は女を抱えその場を立ち去っていく 「主、主!しっかりしてください。今、今すぐに病院へ!主!主!!!」 男を抱え上げ必死で男を揺さぶる、ガクガクと頭が前後に揺れるだけで男は何の反応もしめさなかった 突然男の腰についていたモンスターボールから光が発せられる、そこにはリザードンがいた 『バシン!』リザードンはミュウツーの頬を張る 「え・・・?あ・・・?」 「あんたなにやってんだよ!私の主人を殺す気か!どけ!」 リザードンはそのまま男を背に乗せ飛んでいってしまった ミュウツーは呆然としながらも慌てて後を追う ---- **216 ID:L7CDfDUo 結論からいうと。確かに『男の命に別状はない』と医師は言った。 今は輸血の点滴や酸素マスクなどを付け痛々しい姿をしながら眠っている 「お前ふざかるなよ!」 病院の中庭でリザードンの怒声が響く 「普段から最強だとかいって、ずっと側にくっついてるくせに。なんだこのざまは!」 ミュウツーは何も言い返せなかった この時点ではミュウツーに男の無事は知らされていない リザードンの言葉も正直に言えば耳に入っていなかったのだが それが益々リザードンの怒りをかった 「もしなんかあったら絶対に許さないからな!」 リザードンはまだまだ言い足りなかったがそれでもこれ以上は無駄だと悟り、男の元へと戻っていく 残されたミュウツーはただ立ち尽くし「主・・主になにかあったら・・・主・・ごめんなさい・・主・・」 と繰り返し繰り返し呟きながら泣いていた。 リザードンが病室に戻ろうとすると中から声がした。 「・・・ですから・・・の・・・・んですが・・」 慌てて病室の扉を開く、そこには目が覚めベッドから体を起こした男と医師がいた 「え?今の・・・どういうことですか?」 リザードンには全く理解できなかった。 ---- **217 ID:L7CDfDUo 天気は晴天から曇り、雷雨へと変化していった。病室には続々と関係者が訪れ、狭い病室が窮屈になっていく。 男の母親をはじめオーキド、ライバルのシゲル、カスミ、タケシ、エリカ、ナツメといった男が制覇したジムのリーダー達、マサキも見舞いに駆けつけてくれた。 しかし、皆男の容態を聞き慌てて着の身着のままかけつけたものの病室に入った瞬間、男にかける言葉がみつからず 人が増え、また人が増えても病室内の重い空気を打破する事ができずにいた。 一方ミュウツーはまだ中庭にいた、先ほどの位置から一歩も動かず、ただうつむき「主、主」と繰り返している 始めの頃こそ何人かの看護士や別の患者が声をかけたが何の反応も見られず、今ではミュウツーの周囲に近寄る人物はいなくなっていた そこへ先ほど立ち去ったリザードンが猛スピードでやってくる、右の拳を握り締め、そのまま振り切った。 元々体格では勝っているリザードンである、その攻撃をもろに顔面に受けたミュウツーは成す術もなく吹き飛んでいく。 「おま、お前殺してやる!!!立て!!!お前のせいで!お前のせいで!!!!」 ミュウツーはゆっくりと体を起こす、それと同時に嫌な予感が頭をよぎる 慌てて立ち上がりそのまま男の病室へと走る 「待て!逃げるな!絶対に許さない!!!お前なんか!お前なんか!!!」 逃げているわけではなかったがミュウツーは止まらなかった 急ぐ、急ぐ、男のもとへと、階段を駆け上がり男が寝ているはずの病室めがけて リザードンはその凶暴性から、院内の警備員に止められていた 「離せ!あいつは!あいつを殴らなきゃ!あいつを!」 病室の前についたミュウツー、ゆっくりと深呼吸をしながら扉に手をかける 「ミュウツー・・・か?」男が問いかける 「ミュウツー、ごめんな、もうお前と旅をすることはできなくなっちまったんだ」 その言葉は今まで戦ってきたどのポケモンのどんな技よりも巨大なダメージをミュウツーに与えた ---- **218 ID:L7CDfDUo 「な、何をいってるんですか?主?」 ミュウツーはまず一歩、ゆっくりと足を進める 「こ、今回の事は本当に申し訳ないと、、、思ってます。主を守れず・・その・・」 二歩目 「で、ですが、その、も、もう絶対に、こんな事にならないように。絶対に」 三歩目 「だ、だから、わた、わたしを、すて、すてないで、、すてない、、、で、、ウ、、、ウウ」 四歩目、男に手が届く 「わあああああああああああああああああ」 男の胸に顔を埋め思い切り泣いた 「ごめ、ごめんなさい。ごめんなさい、私のせいで!私のせいで、私が悪いんですごめ、ごめんなさい」 室内にミュウツーの謝罪が響く、面会に来ていた数人の目にも涙が浮かんでいた 扉にはリザードンが、追いついてきていた。 「お前のせいじゃないよ、大丈夫、ちゃんとわかってる。でも俺がもうダメなんだ。これ以上旅を続けられなくなった。捨てるなんていってない  もう無理なんだって。治らないんだって、医者にいわれたんだ。もうお前と一緒にバトルもできない。ごめんな。」 部屋の中にいて、顔をあげている人間の姿はもうなかった、やめてくれ、そんなに自分を慰めないでくれ 「ごめ、、ごめんなさい、ごめ、、」 「いいんだ、お前のせいじゃない。ちゃんと分かってる。」 男の手がゆっくりとミュウツーの頬をなで、その輪郭をなぞる 「もう、こうしないとお前の顔もわからないんだ」・・・男の目には包帯が巻かれていた ---- **219 ID:L7CDfDUo 目の光を失ったトレーナーがポケモンマスターを目指すのは無理だと言われている 中には長い年月をかけて、ポケモンとの連携を強化しなんとかバトルをする事ができるようになるトレーナーもいるようだが しかし、それは通常のバトルでの話。ジム戦やそれ以上ともなれば話は別だ、相手の動きが見えなければ指示もできないし、当然ポケモンの反応も遅れる 目の見えないバトルの特訓の最中にポケモンが潰れるという話も少なくはない それを知っていた男は医師の話を聞いた時点で自分の夢がそこで潰えた事を悟った 自分のポケモンに無茶はさせられないし、させるつもりもない ミュウツーの力が狙われていたのはゲットする以前から知っている事だし 勿論ミュウツーの事をうらんでなんかいない、もし恨むとしたら相手のロケット団だ しかし、今自分の腕の中で泣き崩れるミュウツーをどう納得させればいいのか それが今の悩みの種だった 「ごめん皆、ちょっと二人だけにしてくれないかな?」 見舞いにきてくれた友人達を部屋の外にだし、男はゆっくりと赤子をあやす様に語り掛ける 「なぁもう泣かないでくれよ、本当にお前のせいじゃないんだ。」 「で、でも・・主の夢が、、主の、、主の・・・」 「なぁミュウツー?俺きっとお前がいなかったらこんなにバッヂ集められなかった  きっとこれはお前に頼ってばかりで楽にバッヂをゲットしてきた俺への罰なんだ。だからお前は気にする必要ない」 ゆっくり、ゆっくりとミュウツーに話しかける、『そういえば初めて会った時はびっくりしたなぁ』とか『あのバトルはすごかったなぁ』とか思い出を交えながら。 ゆっくり、ゆっくりミュウツーの心をあやしていく。 泣きつかれたのか、それともただそこが気持ちよかったのか、いつのまにかミュウツーは男の腕の中でスヤスヤと寝息をたてていた。 ---- **220 ID:L7CDfDUo 「じゃぁ、お大事にね」「気を落とすなよ」「また来るから」「いざとなったら私があんたの面倒みてあげるわよ」「元気出せよ」 見舞いに来ていた皆が帰っていく、ミュウツーは変わらず眠っていた。 自分はなんと幸せなんだろう、こんなに沢山の友人が自分の為にかけつけてくれた、ミュウツーお前にあってから良い事づくめだよ。 男はそんな幸せを噛み締めながらミュウツーの頭をなでる 「あ、、あの・・・」 「ん?どうしたリザードン」 なぜ私だとわかったのだろうか、リザードンは本当は自分の主人の目が見えているのではないかと思う 「そ、それ重くないですか?なんなら私が運びますけど」 “それ”とはミュウツーの事である。さすがにベッドに頭だけのせた状態では辛いだろうと タケシに運ぶのを手伝ってもらったが腰に回っている腕を決して放そうとはしなかいため、今は男の隣で眠っている、今も男はミュウツーを起こさないよう無理な体勢で体を起こしていた。 「いや、このままでいいよ、こいつも色々考えて疲れちゃったんだろ」再びミュウツーの頭をなでる 「リザードンもありがとな、お前が運んでくれたんだろ?」 「い、いえ、私は当然の事をしただけで・・・」「ありがと」 男に満面の笑みを向けられ、照れたのだろうか慌てて自分のモンスターボールの中へと入っていってしまった 「あれ?リザードン?」急に気配を消したリザードンの事を不思議におもいながらも ミュウツーの頭をなでながら、今日の出来事を振り返る。もう目がみえない。 あと一個だった、あとバッヂ一つでチャンピオンロードに挑戦し、四天王に挑むことができたのだ。もう少しでポケモンマスターになれるはずだった。 みんなの手前、虚勢をはったが、口でどんなに言いつくろっても、やはり悔しかった。もう少し!もう少しで!あああああああああああああああああああああああ その慟哭をミュウツーは決して聞き逃さなかった 申し訳ありません主。大丈夫、あなたの夢は私が絶対に叶えてみせます・・・ ---- **221 ID:L7CDfDUo 翌日、目が覚めるとミュウツーの姿はなかった。 どこにいったのか探しに以降にも今の男の状態ではどうすることもできず しかたなくまた見舞いにきてくれたカスミ、ナツメ、エリカに事情を説明し探してもらう事にした。 ミュウツーはトキワシティに来ていた、腕には男のバッヂケースを握っている 中に入っている七つのバッヂが少し色あせたように見える。 「待っていて下さい主」 そのままトキワジムに入ると、中にいたトレーナー達がミュウツーの姿を見るなり慌てて奥の部屋に向かっていくのが見えた (なんだ?)しかしそんな事を気にしている暇はなかった、そのまま奥へと向かう そこには昨日のロケット団の男がいた 「な!?貴様!!!!!!!!!!!」 ミュウツーが男を追いかける、扉を一つ二つと開け男を追い詰めていく。行き止まりまでくると逃げていた男がミュウツーの方へ向き直った 「へ、へへ、へへへ、お、俺の仕事はここまでだ」 男の下に突然穴があき、そのまま落ちていった 「逃がすか!!!」 しかし穴はすぐに閉じてしまう、あわててもと来た道を引き返そうとしたが扉を閉められ、鍵を掛けられているようだった 「く、とじこめられた」 慌てて壁を殴り、蹴り、破壊光線をうつ、しかしどこの壁も扉もびくともせずただ部屋が大きく揺れるだけだった 『ハハハハさすが、すごいね、君の技はたいした威力だ』 突然天井から声が聞こえてきた ---- **222 ID:L7CDfDUo 『お初にお目にかかる、ミュウツー君私はこのジムのリーダーにしてロケット団のボス。サカキだよ』 「ロケット団!?貴様が!?」 ミュウツーは怒りに我を忘れそうになった、そうか、こいつが私を狙った、こいつのせいで私は今までみじめな思いをしてきた、こいつのせいで主が!!! 『いやいや、君の方から来てくれるとは思ってもみなかったよ、一体どういう心境の変化かな?我々ロケット団に仕えてくれる気にでもなったかね?』 その言葉でミュウツーは当初の目的を思い出す 「ふざけるな!誰が貴様らのなどに!貴様ジムリーダーといったな、私と勝負しろ、そしてバッヂを渡せ!」 『バッヂ?君が私に仕えてくれるのならバッヂなどいくらでもくれてやってもいいが・・・そういえば君のトレーナーはどうしたのかね?』 一番聞かれたくない事を聞かれてしまった、、、 「主は・・・来ていない。そんなことより早く勝負しろ!」 『来ていない?トレーナーが?なのに勝負を?ハハ・・・ハハハハハハハ!そうか、逃げたのだね?私の力に恐れをなして、ハハハハハ!!!!なるほどなるほど、それで戦闘狂の君だけがきたと?』 「違う!!!主は逃げてなどいない!!!」 サカキはしばらく腹を抱えて笑っていた、ミュウツーにはそれが我慢できなかったが今は何もいえなかった。 『ハハ・・・ハ・ハァ。まあいいだろう、トレーナーなしのジム戦など聞いた事もないが、そうだな、もし君が負けたら私に仕えてくれるというのであれば、その勝負受けてたとう』 「いいだろう、すぐに始めろ」 ミュウツーに負けるつもりなど初めからなかった 扉が開きバトルルームまで案内される その案内人が昨日の男だったのでミュウツーは怒りで何度も我を忘れそうになるのを押さえこむ バトルルームに着くと、そこにはさきほどの声の主がまっていた 「でわ、始めようか」 ---- **223 ID:L7CDfDUo 「その前にバッヂを見せてもらいたい」 ミュウツーは言い放つ、別に無理矢理奪って逃げてもよかったが それでは自分の主の流儀に反する、正々堂々勝利してから貰うつもりだった しかし、“ジムリーダーのサカキ”ではなく“ロケット団のサカキ”という男を信用できなかったので先に確認することにしたのだ 「なに、心配しなくてもほれ」 サカキが上着のジャケットを捲ると内ポケットの中にいくつものバッヂが入っていた 「問題ない、手間を取らせてすまなかった」 「こちらも確認させてもらいたい、本当にお前が負けたら私に従うのだな?」 「ああ」「本当に?」「くどい!!」 ミュウツーはイライラしていた 『今日は主と一度も会話をしていないな』 『もう半日、こんなに主と離れていた事があっただろう?』 もうすぐ試合だというのに考えるのは自分の主のことばかり 『目が見えないことで不自由をしていないだろうか』 『私が側にいない間に怪我をしていないだろうか』 『早くバッヂを持って帰らなければ』 試合開始の合図がなる・・・ サカキのポケモンが出現する、しかしミュウツーがまず戦わなければならないのは背中の寒さだった トレーナーゾーンにが主がいない、というのがこんなにも心もとない物だったとは。ミュウツーは気合を入れなおし、相手に向き直る。 「うおおおおおおおおおおおおお」 ---- **224 ID:L7CDfDUo トレーナー不在といってもやはりミュウツーはミュウツー、最強のポケモンだった サカキは自分のポケモン5匹中、4匹を倒され、今最後のニドキングを残すのみ そのニドキングももはや立っているのが精一杯といった様子だ しかしサカキは余裕の表情を浮かべる、それどころかミュウツーとのバトルをまるで第3者のように楽しそうに見ている 5連戦ともなるとミュウツーにもさすがに疲労の色がうかがえた ところどころにダメージも残っているし、満身創痍とまではいわないまでも辛そうなのは一目瞭然だった。ニドキングがゆっくりと倒れる・・・ 「ニドキング戦闘不能!ミュウツーの勝利!」 ジャッジの声が高らかに響く。パチパチパチ・・・手を叩く音が聞こえた 「イヤイヤイヤ、お見事、さすが最強のポケモンと噂に名高いミュウツーだ」 「そんなことは、、どうでもいい、、バッヂを渡せ、、、、」 「申し訳ないがそれはできない」 な!?ミュウツーは慌ててサカキに詰め寄る 「約束が違う!さっさと渡せ!」 「いや、『トレーナーのいないポケモンにバッヂを渡す』なんていうのはルール違反もいいところでね。私にもジムリーダーとしてのメンツもある、そんな事はできないし。初めから君に勝てるなど思っていなかったよ。」 ミュウツーはサカキの胸倉をつかみそのまま睨み続ける 「それでもあの5匹はよくやってくれたと思うよ、最強のポケモンをここまで弱らせる事ができれば・・・上出来だ」 ミュウツーの体が歪み、黒いモンスターボールの中に押し込められる。点滅を繰り返しながら黒いボールはゆらゆらと揺れていた。 -ピ-ピ-ピ-ピ-ピピーーーーーーーーーーー 「ある・・・じ・・・・」 点滅が消え、ボールは動きを止める。 ---- **225 ID:L7CDfDUo ココハドコ?ココハドコ?-ここはあなたの居場所よ- ワタシノイバショ?-そう、あなたの場所- チガウ、ココハチガウ、ココハキライ、ココハイヤダ-どうして?あなたの大好きな主の側よ?- アルジノ?アルジガチカクニイルノ?-そう、ちかくにいるわ- ドコ?ドコニイルノ?クラクテミエナイヨ?-大丈夫、側にいるわ、名前を呼んで御覧なさい- アルジノ?アルジノナマエヲ?-そう、主の名前を・・・・・サカキ様って- サカキ・・・サマ? 目が覚めるとそこは見た事もない場所だった 何もない白い部屋、白いベッド、白い椅子、白い扉 “ズキ”「痛!」頭がものすごく痛い、ここはどこだろう? ミュウツーはベッドから降りるとゆっくり扉を開ける そこには別の部屋があり、部屋の中心のテーブルで優雅にコーヒーを飲む男の姿があった 「やぁミュウツーおはよう」「あなたは?」「まだ寝ぼけているのか?私は君の主人のサカキだよ」 「サカ・・・キ・・・さま?・・・ウ!痛い!痛い頭が!!!ウウウウウウウウウウ!」 “ズキズキ”と頭痛がひどくなる。思わずその場で蹲ってしまった 「おいおい、大丈夫かね、まだ少し休んでいた方がいい」 サカキがミュウツーの肩に手をやる、ふとミュウツーの目にあるものが飛び込んできた 「サカキ・・さま・・それ・・・は?」 ミュウツーはテーブルの上にあるバッヂを指差した ---- **226 ID:L7CDfDUo 「これか?これは私のジムのジムバッヂだよ」 (バッヂ・・・・バッヂバッヂバッヂバッヂバッヂ・・・なぜだろうすごく欲しい) 「あ、あの、それを一つ、いただけませんか?」 「ん?・・あ、ああ、まあ一つぐらいならいいだろう・・・・まさか、なにか思い出したのか?」 思い出すとはどういうことだろか?ミュウツーはその言葉の意味がよくわからなかった そういえば何故自分はこんなところにいるんだろう?今より前のことが全く思い出せない 「ほら、これでいいか?」 サカキがバッヂをミュウツーの手のひらに落とす 「あ、ありがとうございます」 なぜだろう、すごく嬉しかった、これでやっと・・・やっと? やっとなんだろう?なにか、大切なことを忘れている気がした・・・必死に記憶の糸を辿ろうとする 「うあ!!う!ああああああああああああああああああああああああ!!!!」 再び激痛が走る 「やめろ、何も考えるな!思い出そうとするな!!」 サカキの言葉になんとか反応し、思考を停止する、痛みが止んだ。楽になったはずなのに、でもなんだかとても辛かった。 「さぁ、部屋に戻ろう、もう少し眠っていた方がいい」 「う・・あ・・・はい・・・・」 ミュウツーは部屋に戻る、白いベッドに横になるとコツンとなにかがふれた 「これは?」 それはバッヂケースだった ---- **227 ID:L7CDfDUo バッヂケースの中には7つのバッヂが入っていた そして一箇所、窪んでいる部分に先ほどサカキから貰ったバッヂをはめてみる 「ぴったりだ・・・」 そうか、自分はこれを集めていたのだ、でもなぜ?こんなバッヂを? こんな?“こんな”なんて言ってはいけない、これは大事な・・・大事な? 頭痛が増していく・・・しかし今は側にサカキはいない、ミュウツーは思考を止めなかった 何でこれが大事なの?だって集めていたから 私が?このバッヂを??違う。主が、主が集めていたから 主が?サカキ様が?違う、サカキさまはこのバッヂをくれた、集めてはいない でわ主とは?主はただ一人 サカキ様?そう、そのはず・・・でも・・・ ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ サカキは少しだけ焦っていた さきほどのバッヂを渡したのは失敗だっただろうか? しかしあの悪のモンスターボールの効果は立証済みだ心配する必要はない しかしあのバッヂを欲しがったということはまだ完全に悪に落ちていない しかし私を“サカキさま”と呼んだ失敗はしていないはずだ しかし、しかし、しかし、しかし。 一枚の扉で隔てられた空間で人間とポケモンが思考の迷路を彷徨っていた ---- **228 ID:L7CDfDUo リザードンはため息をついた ミュウツーが男の前からいなくなってからというもの毎日のようにカントー地方を飛び回っていたのだ 時にはタケシを、時にはカスミを、時にはエリカを、時にはナツメを、時には全員を乗せながら。しかしミュウツー探しは難航を極めていた ただでさえ目が見えない事で不安になっている自分の主人がミュウツーのせいでよけいに心を痛めている。リザードンはそれが許せなかった 「まったく・・・一発どころか百発は殴らないと気がすまないな・・・」 日も暮れはじめた、今日の捜索はここまでにしようか。 また・・・帰ったら主人に報告をしなければならない『今日もみつかりませんでした』そういうたびに『そう、ご苦労様』と笑ってくれる。 なんと言う事だろう、自分の主人にこんなに心配をかけておいてあの“自称”最強ポケモンはどこにいったというのだろうか あの性格だ、とてもこれほどの長期間、主人と離れていることに耐えられるとは思えない。きっとストーカーのように側でみているに違いない、そう、きっとそうだ。 そんな偏見にみちた考えをめぐらせながら、リザードンは主人のいる病院へと戻っていく。 一方のミュウツーは白い部屋で目覚めてから三日がたつころ、日に日に募る謎の苛立ちと頭痛でストレスの塊と化していた 主と食事をし、時にジムでバトル、ポケモンにとってこれほどの喜びはないはずなのに 自分の中にどす黒い感情がたまっていくのがわかった。感情のコントロールができないほどに。 今日などはジム戦でサカキの命令を無視し、挑んできたトレーナーにまで危害を加えていた 「ああ・・・イライラする・・・」 もはやサカキですら近くに寄るのは遠慮したいという様子でミュウツーを遠巻きに見始めている そんなミュウツーの唯一の心の安らぎはあのバッヂケースだった、部屋にもどるとまずケースを抱きしめる。 早くもって行かなければ行けない、そんな事を思いながらも、どこに持っていけばいいのかわからずにまた頭痛と闘いながら一日を終えるのだった。 ---- **229 ID:L7CDfDUo 六日目の夕方、事件は起きた 大人しく部屋に篭っていると思っていたミュウツーが突然暴れだしたのだ サカキは慌てて部下を呼び、ポケモンやモンスターボールで取り押さえようとしたが無闇に負傷者をだすだけという結果となった 「や、やめろ。私はお前の主だぞ。ほら、よく考えろ」 サカキは必死でミュウツーを説得している ミュウツーの目が怪しく光りながら、無差別に破壊光線、サイコキネシスで攻撃をしかけ部屋は、、、ジムは崩壊寸前だった 部下の一人がミュウツーに背中から飛び掛る、とびついたまではいいがミュウツーは全く気にせず前進、ミュウツーは右腕だけを男の顔に向け、そのまま吹き飛ばす しかし、男はただでは転ばなかった、いや、ただで転んだ方がまだ幾分かマシだったかもしれない ミュウツーが握っていたバッヂケースを握っていたせいでバッヂケースを奪い取る形で吹き飛び、中身がバラバラになってしまった 「アア・・アアアアアア!!!!!アルジノばッヂだ!!!アるジノユめヲ!アルジノユメハダレニモじャマナンかサセなイ!!」 慌てて拾い集める、一個一個丁寧に傷がつかないように。一個、二個、三個、四個・・・七個目まで拾ったところでミュウツーは慌てた。一つ足りない・・・ 片腕に7個のバッヂを握り締めながら八個目のバッヂを必死にさがす、そこら中に倒れている人間やポケモンをどかしながら 「ない!ない!ナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイ!!!!!!」 サカキはこれだと思った 「ほ、ほら、バッヂだ、バッヂならいくらでもやろう、だから、大人しく私のいうこと・・・を・・・・」 バッヂを持っていたはずのサカキの手がそこにはなかった。 「アア、アッタ、ヨカッタ・・・」 ミュウツーはサカキの腕ごとバッヂを奪ったのだ 「ア、ア、あ、ああああああああああああああああ、私の!私の腕がぁぁああ!!」 ミュウツーは八個のバッヂを握り締めると、浮翌遊をはじめ、どこかへ向かって飛んでいった ---- **230ID:L7CDfDUo ミュウツーが向かったのは男が入院している病院だった ミュウツー自身は何故そこに向かっていったのかはわからなかったが ただ、そうしなければいけない、そうすればいいんだという不思議な確証はあった。 「な、ミュウツー?」 そこにはリザードンがいた 「お前、どこ行ってたんだよ!いまさら!いまさら!お前のせいでご主人が!!ご主人が!!!」 リザードンが何やら叫んでる。皆?皆とは誰だろう?おかしい、私には主だけのはずだ、主だけ、主と私だけ、主にも私だけそうそれでいい、それで十分なはずだ “ゴッ” リザードンの視界がずれる、一体何をされたのだろう、痛みを感じる暇もなくリザードンの意識は途絶えその巨体がスローモーションのように倒れていった。 病院に入るとミュウツーは何かを思い出したかのようにある場所を目指し走っていた 何があるかはわからない、でもきっとそこには何かがある、私が必要としている何かが ある部屋の前につくと、ミュウツーは立ち止まり、自分の心臓の鼓動が早くなっていくのを感じた、、ココダ ゆっくりと扉を開けるそこには見舞い客だろうか、何人もの人間が狭い部屋の中で一点をみつめていた 「ミュ、ミュウツー?」「ミュウツーが!ミュウツーが帰ってきたよ!」 口々にわめき立てる人々を掻き分け、ミュウツーは部屋の中心を目指す 人々の視線の先にあるベッドの上には・・・ 白い布を顔にかぶせた男が眠っていた ---- **231 ID:L7CDfDUo ミュウツーは全てを思い出した そうだ、この人が本当の私の主だ 良かった、そう、この人の、主のためにこのバッヂを集めていたのだ 「主!!!!主!!!!!!!」 ミュウツーは男に縋り付く、しかし男は何も答えない 不意に肩に手を置かれる 「ミュウツー・・・男はね・・・昨日急に容態が悪くなって・・・爆発の時の傷が原因だろうってお医者さまが・・・」 この女は何を言ってるんだろう、主が死ぬわけない、そういえばリザードンも似たような事を叫んでいた気がする。だがそれはおかしい、主が死ぬのは私が死ぬときだ 「主、主、ほら見てください、バッヂです八つ全てあつめてきましたよ。私一人でも勝って見せました、大丈夫、ほら、これで主の夢が叶いますね。」 ミュウツーが硬くなった男の手を開かせバッヂを握らせようとする。 ボロボロと零れ落ちるそれをミュウツーは必死で拾い上げる 「そうだ、バッヂケース。すいません、すぐに新しいのを買ってきます。でもほら、見てください、ちゃんと、ちゃんと八個あるんです」 見ている方がきつかった、「もうやめてくれ」という女性陣の意見をきき男性陣がミュウツーを引き剥がそうとする 「私に触れるな!!!私に触れていいのは主だけだ!!ほら、主、主からも何か言ってください。もう夢が叶うんですよ、明日にでもポケモンマスターにでもなれますよ」 ミュウツーは再び男にバッヂを握らせる、カチャン、カチャンと床にバッヂが落ちる 「ほら、これ、コレが八個目のバッヂです、主はまだちゃんと見ていませんでしたね」 言いながら男の顔にかかった布を取り外しバッヂを顔の側に持ってくる 「主、どうですか?これが八個目です。変な形だと思いませんか?」 しかし男は目を覚まさない 「ある・・・じ?」 ---- **232 ID:L7CDfDUo 「アア、オツカレナンデスネ?マカセテクダサイ、ワタシガハコンデアゲマスカラ」 「な、おいミュウツー?おい!誰かミュウツーを止めろ!」 ミュウツーの異常にいち早く気がついたのは誰だったか、その場にいた全員がいっせいにミュウツーに飛び掛る しかしそこにミュウツーはいなかった、男も。辺りを見回す。 ミュウツーは男を抱え、窓際でいとおしそうにその頬を撫でていた。 「サァ アルジ アナタノ ユメヲ カナエテ アゲマショウ」 “パリン”という小気味良い音とともにミュウツーが窓から飛び降りる そこに残った全員が慌ててミュウツーの後を追ったが病院の敷地内にもうその姿はなかった それから二日ほどたってからだろうか 四天王が何者かに殺されたという事件が報道されたのと 死体を担いだポケモンが現れるという噂が流れ出したのは・・・ アルジ・・アルジ・・サァツギハ・・・ドコヘイキマショウ? 終
**212 ID:L7CDfDUo 「ミュウツー、ごめんな、もうお前と旅をすることはできなくなっちまったんだ」 その言葉は今まで戦ってきたどのポケモンのどんな技よりも巨大なダメージをミュウツーに与えた 旅を続ける男とミュウツー、そしてその仲間のポケモン達は今日ものんびりと一日をすごしていた ジム戦も順調にこなし、残るバッヂもあと一つ。 目的のバッヂをほとんど集めた事で、自信をつけた男は自分の夢がもうすぐ叶うかもしれないという喜びと期待で舞い上がっていた。 一方ミュウツーはというとこちらもやはり上機嫌だ、他のポケモンはモンスターボールに納まっているし まだ日は高く、次の町に着くのにもまだまだ時間がかかる。しばらく男を独占していられる その頬が完全に緩みきってしまっている事にも気がつかない様子だった 「なんだニヤニヤして。嬉しそうだな」 男が語りかけるとミュウツーは慌てて顔に手をやる 「べ、別に、ニヤニヤなどしてません。主の方こそ嬉しそうにみえますが」 「そりゃだって、もうあと一つだぜ?くー、もうすぐ俺もポケモンマスターになれるんだって思うとな」 そういいながら男は身悶えていた。傍からみれば変人以外のなにものでもないような動作だったが、ミュウツーにとってはその動作すらもいとおしく思えているのだろう 時折バッヂケースを除いては自分がゲットした七つのバッヂを感慨深げに眺める 「ほんと、ミュウツーがいてくれて助かったよ。もしお前と会ってなかったらこんなに順調にいかなかったもんな」 不意に想像してしまった、もし男と出会ってなかったら?もし出会う事が出来なかったら?怖くなった、イヤダ、絶対に。あまりの恐怖からミュウツーはつい男の服の裾を掴んでしまう 「ミュウツー?どうした?なんだ甘えたいのか、しょうがないやつだなぁ」 そういうと男はミュウツーの手を握り一緒に歩き出す。男のその行動一つでミュウツーの心に浮かんだ影は全て消し飛んでしまった ミュウツーは思う、この男に出会えてよかったと、この人に仕える事になって良かったと。その幸せをかみ締め、手のひらに男の体温を感じながら、この時がいつまでも続けばいいとそう願っていた。 ---- **213 ID:L7CDfDUo 「待て!!」 突然後ろから呼び止められる。ミュウツーは男の側に陣取り、男も慌てて振り返る そこには黒い服をきた男が、それぞれモンスターボール構えていた。 「最強のポケモンミュウツーだな。大人しくこちらに来てもらおう」 「なにいってんだ!ミュウツーは俺のポケモンだぞ!お前らなにもんだよ!」 男が叫ぶ、ミュウツーにはその男たちの目的がわかっていた。またか。 まだ男と出会う前はよくこういった輩が自分の前に現れたものだった、しかし依然とは違い今のミュウツーには主がいる 自分の事で主に迷惑をかけるわけにはいかない、ミュウツーはすぐさま黒装束の男達に襲い掛かる。 「ぐ・・が・・・」 一瞬で男の一人の首を締め上げる。 「立ち去れ、貴様らの要求に従うつもりはない」 しかしそれがいけなかった。 「離しなさい!あなたのご主人様がどうなってもいいの?」 振り向くとどこに隠れていたのか銃を持った女が男のこめかみに銃口を押し当てていた 「な・・・」 ミュウツーは黒装束の男の首を離す。ゆっくりと振り向き女を睨みつける、その目には見つめただけで人を殺せるのではないかと思うほどの殺気が篭っていた 「そ、そんな目をしても無駄よ!さぁ、大人しく私たちの言う事をききなさい」 ミュウツーにその声は届いてなかった。 主を、自分の主を自分の責任で危険な目にあわせてしまった。それと同時に見知らぬ女が自分の愛する主に密着している、その事実が許せなかった。 ミュウツーは静かに意識を集中させる・・・ ---- **214 ID:L7CDfDUo [サイコキネシス] 女の腕が曲がっては本来曲がるはずのない方向に曲がる。女は悲鳴をあげながら自分の腕を抱き寄せアスファルトの上でのたうちまわった。 「主、大丈夫ですか?お怪我は?」 「あ、ああ、大丈夫」 ミュウツーは男の身を隅々までチェックし、安堵した。良かった、どこにも以上はない。 『しかしこの女どうしてくれよう?』ミュウツーは静かに女に近づきその体を蹴りつける 「私の主に貴様のような薄汚れた女が触るとは、覚悟はできているんだろうな?」 ミュウツーの低い声が腹の底から響いてくるようで女はあまりの恐怖に失禁していた。 「ベトベター!くろいきり!」 慌てて振り向く、黒装束の男がモンスターボールからベトベターをだし指示をだしていた、辺りが黒い霧でつつまれる。 「ミュウツーどこだ!?」 叫ぶ男 「主!主!?」 叫ぶミュウツー。 落ち着け、この状況なら相手からも私は見えないはず、ミュウツーは感覚を研ぎ澄ませ、相手の気配を察知しようとした 「ヘドロ爆弾!!」 ベトベターへ指示をだす声が聞こえる、ミュウツーは咄嗟に身構える。しかし何も起こらなかった不思議に思いふと辺りを見回す 後方で爆発音がきこえる 「わああああああああ」 男の悲鳴が響いた ---- **215 ID:L7CDfDUo ゆっくりと霧が晴れる、それ以前から声のする方向へ走っていたミュウツーがそこで見たものは 爆風に巻き込まれまるでゴミのように真っ黒になった男の姿だった 「お、おれはべつに、こ、殺すつもりとかはなかったんだぞ、お、お前らがいけないんだからな、抵抗しないで着いてくればよかったんだ」 黒装束の男がそういいながら、女を担えあげる 「お、お前が素直に、ロケット団に従ってれば、こんな、そう!お前のせいだ!最強のポケモンとかいってお前が主人を見殺しにしたんだからな!」 黒装束の男・・・ロケット団の男は完全にパニックになっていた おそらくは下っ端なのだろう、今の状況が自分の責任ではないと必死で言い訳をしている しかし、その支離滅裂な言葉ですら今のミュウツーにダメージをあたるには十分だった 「わたしの・・・わたしのせいで・・・わたしがいるから・・・私の・・わたしの・・」 「そ、そう!お前のせいだ!俺はなんも悪くない!と、とにかく今日のところはこれで勘弁してやる!」 ロケット団の男は女を抱えその場を立ち去っていく 「主、主!しっかりしてください。今、今すぐに病院へ!主!主!!!」 男を抱え上げ必死で男を揺さぶる、ガクガクと頭が前後に揺れるだけで男は何の反応もしめさなかった 突然男の腰についていたモンスターボールから光が発せられる、そこにはリザードンがいた 『バシン!』リザードンはミュウツーの頬を張る 「え・・・?あ・・・?」 「あんたなにやってんだよ!私の主人を殺す気か!どけ!」 リザードンはそのまま男を背に乗せ飛んでいってしまった ミュウツーは呆然としながらも慌てて後を追う ---- **216 ID:L7CDfDUo 結論からいうと。確かに『男の命に別状はない』と医師は言った。 今は輸血の点滴や酸素マスクなどを付け痛々しい姿をしながら眠っている 「お前ふざかるなよ!」 病院の中庭でリザードンの怒声が響く 「普段から最強だとかいって、ずっと側にくっついてるくせに。なんだこのざまは!」 ミュウツーは何も言い返せなかった この時点ではミュウツーに男の無事は知らされていない リザードンの言葉も正直に言えば耳に入っていなかったのだが それが益々リザードンの怒りをかった 「もしなんかあったら絶対に許さないからな!」 リザードンはまだまだ言い足りなかったがそれでもこれ以上は無駄だと悟り、男の元へと戻っていく 残されたミュウツーはただ立ち尽くし「主・・主になにかあったら・・・主・・ごめんなさい・・主・・」 と繰り返し繰り返し呟きながら泣いていた。 リザードンが病室に戻ろうとすると中から声がした。 「・・・ですから・・・の・・・・んですが・・」 慌てて病室の扉を開く、そこには目が覚めベッドから体を起こした男と医師がいた 「え?今の・・・どういうことですか?」 リザードンには全く理解できなかった。 ---- **217 ID:L7CDfDUo 天気は晴天から曇り、雷雨へと変化していった。病室には続々と関係者が訪れ、狭い病室が窮屈になっていく。 男の母親をはじめオーキド、ライバルのシゲル、カスミ、タケシ、エリカ、ナツメといった男が制覇したジムのリーダー達、マサキも見舞いに駆けつけてくれた。 しかし、皆男の容態を聞き慌てて着の身着のままかけつけたものの病室に入った瞬間、男にかける言葉がみつからず 人が増え、また人が増えても病室内の重い空気を打破する事ができずにいた。 一方ミュウツーはまだ中庭にいた、先ほどの位置から一歩も動かず、ただうつむき「主、主」と繰り返している 始めの頃こそ何人かの看護士や別の患者が声をかけたが何の反応も見られず、今ではミュウツーの周囲に近寄る人物はいなくなっていた そこへ先ほど立ち去ったリザードンが猛スピードでやってくる、右の拳を握り締め、そのまま振り切った。 元々体格では勝っているリザードンである、その攻撃をもろに顔面に受けたミュウツーは成す術もなく吹き飛んでいく。 「おま、お前殺してやる!!!立て!!!お前のせいで!お前のせいで!!!!」 ミュウツーはゆっくりと体を起こす、それと同時に嫌な予感が頭をよぎる 慌てて立ち上がりそのまま男の病室へと走る 「待て!逃げるな!絶対に許さない!!!お前なんか!お前なんか!!!」 逃げているわけではなかったがミュウツーは止まらなかった 急ぐ、急ぐ、男のもとへと、階段を駆け上がり男が寝ているはずの病室めがけて リザードンはその凶暴性から、院内の警備員に止められていた 「離せ!あいつは!あいつを殴らなきゃ!あいつを!」 病室の前についたミュウツー、ゆっくりと深呼吸をしながら扉に手をかける 「ミュウツー・・・か?」男が問いかける 「ミュウツー、ごめんな、もうお前と旅をすることはできなくなっちまったんだ」 その言葉は今まで戦ってきたどのポケモンのどんな技よりも巨大なダメージをミュウツーに与えた ---- **218 ID:L7CDfDUo 「な、何をいってるんですか?主?」 ミュウツーはまず一歩、ゆっくりと足を進める 「こ、今回の事は本当に申し訳ないと、、、思ってます。主を守れず・・その・・」 二歩目 「で、ですが、その、も、もう絶対に、こんな事にならないように。絶対に」 三歩目 「だ、だから、わた、わたしを、すて、すてないで、、すてない、、、で、、ウ、、、ウウ」 四歩目、男に手が届く 「わあああああああああああああああああ」 男の胸に顔を埋め思い切り泣いた 「ごめ、ごめんなさい。ごめんなさい、私のせいで!私のせいで、私が悪いんですごめ、ごめんなさい」 室内にミュウツーの謝罪が響く、面会に来ていた数人の目にも涙が浮かんでいた 扉にはリザードンが、追いついてきていた。 「お前のせいじゃないよ、大丈夫、ちゃんとわかってる。でも俺がもうダメなんだ。これ以上旅を続けられなくなった。捨てるなんていってない  もう無理なんだって。治らないんだって、医者にいわれたんだ。もうお前と一緒にバトルもできない。ごめんな。」 部屋の中にいて、顔をあげている人間の姿はもうなかった、やめてくれ、そんなに自分を慰めないでくれ 「ごめ、、ごめんなさい、ごめ、、」 「いいんだ、お前のせいじゃない。ちゃんと分かってる。」 男の手がゆっくりとミュウツーの頬をなで、その輪郭をなぞる 「もう、こうしないとお前の顔もわからないんだ」・・・男の目には包帯が巻かれていた ---- **219 ID:L7CDfDUo 目の光を失ったトレーナーがポケモンマスターを目指すのは無理だと言われている 中には長い年月をかけて、ポケモンとの連携を強化しなんとかバトルをする事ができるようになるトレーナーもいるようだが しかし、それは通常のバトルでの話。ジム戦やそれ以上ともなれば話は別だ、相手の動きが見えなければ指示もできないし、当然ポケモンの反応も遅れる 目の見えないバトルの特訓の最中にポケモンが潰れるという話も少なくはない それを知っていた男は医師の話を聞いた時点で自分の夢がそこで潰えた事を悟った 自分のポケモンに無茶はさせられないし、させるつもりもない ミュウツーの力が狙われていたのはゲットする以前から知っている事だし 勿論ミュウツーの事をうらんでなんかいない、もし恨むとしたら相手のロケット団だ しかし、今自分の腕の中で泣き崩れるミュウツーをどう納得させればいいのか それが今の悩みの種だった 「ごめん皆、ちょっと二人だけにしてくれないかな?」 見舞いにきてくれた友人達を部屋の外にだし、男はゆっくりと赤子をあやす様に語り掛ける 「なぁもう泣かないでくれよ、本当にお前のせいじゃないんだ。」 「で、でも・・主の夢が、、主の、、主の・・・」 「なぁミュウツー?俺きっとお前がいなかったらこんなにバッヂ集められなかった  きっとこれはお前に頼ってばかりで楽にバッヂをゲットしてきた俺への罰なんだ。だからお前は気にする必要ない」 ゆっくり、ゆっくりとミュウツーに話しかける、『そういえば初めて会った時はびっくりしたなぁ』とか『あのバトルはすごかったなぁ』とか思い出を交えながら。 ゆっくり、ゆっくりミュウツーの心をあやしていく。 泣きつかれたのか、それともただそこが気持ちよかったのか、いつのまにかミュウツーは男の腕の中でスヤスヤと寝息をたてていた。 ---- **220 ID:L7CDfDUo 「じゃぁ、お大事にね」「気を落とすなよ」「また来るから」「いざとなったら私があんたの面倒みてあげるわよ」「元気出せよ」 見舞いに来ていた皆が帰っていく、ミュウツーは変わらず眠っていた。 自分はなんと幸せなんだろう、こんなに沢山の友人が自分の為にかけつけてくれた、ミュウツーお前にあってから良い事づくめだよ。 男はそんな幸せを噛み締めながらミュウツーの頭をなでる 「あ、、あの・・・」 「ん?どうしたリザードン」 なぜ私だとわかったのだろうか、リザードンは本当は自分の主人の目が見えているのではないかと思う 「そ、それ重くないですか?なんなら私が運びますけど」 “それ”とはミュウツーの事である。さすがにベッドに頭だけのせた状態では辛いだろうと タケシに運ぶのを手伝ってもらったが腰に回っている腕を決して放そうとはしなかいため、今は男の隣で眠っている、今も男はミュウツーを起こさないよう無理な体勢で体を起こしていた。 「いや、このままでいいよ、こいつも色々考えて疲れちゃったんだろ」再びミュウツーの頭をなでる 「リザードンもありがとな、お前が運んでくれたんだろ?」 「い、いえ、私は当然の事をしただけで・・・」「ありがと」 男に満面の笑みを向けられ、照れたのだろうか慌てて自分のモンスターボールの中へと入っていってしまった 「あれ?リザードン?」急に気配を消したリザードンの事を不思議におもいながらも ミュウツーの頭をなでながら、今日の出来事を振り返る。もう目がみえない。 あと一個だった、あとバッヂ一つでチャンピオンロードに挑戦し、四天王に挑むことができたのだ。もう少しでポケモンマスターになれるはずだった。 みんなの手前、虚勢をはったが、口でどんなに言いつくろっても、やはり悔しかった。もう少し!もう少しで!あああああああああああああああああああああああ その慟哭をミュウツーは決して聞き逃さなかった 申し訳ありません主。大丈夫、あなたの夢は私が絶対に叶えてみせます・・・ ---- **221 ID:L7CDfDUo 翌日、目が覚めるとミュウツーの姿はなかった。 どこにいったのか探しに以降にも今の男の状態ではどうすることもできず しかたなくまた見舞いにきてくれたカスミ、ナツメ、エリカに事情を説明し探してもらう事にした。 ミュウツーはトキワシティに来ていた、腕には男のバッヂケースを握っている 中に入っている七つのバッヂが少し色あせたように見える。 「待っていて下さい主」 そのままトキワジムに入ると、中にいたトレーナー達がミュウツーの姿を見るなり慌てて奥の部屋に向かっていくのが見えた (なんだ?)しかしそんな事を気にしている暇はなかった、そのまま奥へと向かう そこには昨日のロケット団の男がいた 「な!?貴様!!!!!!!!!!!」 ミュウツーが男を追いかける、扉を一つ二つと開け男を追い詰めていく。行き止まりまでくると逃げていた男がミュウツーの方へ向き直った 「へ、へへ、へへへ、お、俺の仕事はここまでだ」 男の下に突然穴があき、そのまま落ちていった 「逃がすか!!!」 しかし穴はすぐに閉じてしまう、あわててもと来た道を引き返そうとしたが扉を閉められ、鍵を掛けられているようだった 「く、とじこめられた」 慌てて壁を殴り、蹴り、破壊光線をうつ、しかしどこの壁も扉もびくともせずただ部屋が大きく揺れるだけだった 『ハハハハさすが、すごいね、君の技はたいした威力だ』 突然天井から声が聞こえてきた ---- **222 ID:L7CDfDUo 『お初にお目にかかる、ミュウツー君私はこのジムのリーダーにしてロケット団のボス。サカキだよ』 「ロケット団!?貴様が!?」 ミュウツーは怒りに我を忘れそうになった、そうか、こいつが私を狙った、こいつのせいで私は今までみじめな思いをしてきた、こいつのせいで主が!!! 『いやいや、君の方から来てくれるとは思ってもみなかったよ、一体どういう心境の変化かな?我々ロケット団に仕えてくれる気にでもなったかね?』 その言葉でミュウツーは当初の目的を思い出す 「ふざけるな!誰が貴様らのなどに!貴様ジムリーダーといったな、私と勝負しろ、そしてバッヂを渡せ!」 『バッヂ?君が私に仕えてくれるのならバッヂなどいくらでもくれてやってもいいが・・・そういえば君のトレーナーはどうしたのかね?』 一番聞かれたくない事を聞かれてしまった、、、 「主は・・・来ていない。そんなことより早く勝負しろ!」 『来ていない?トレーナーが?なのに勝負を?ハハ・・・ハハハハハハハ!そうか、逃げたのだね?私の力に恐れをなして、ハハハハハ!!!!なるほどなるほど、それで戦闘狂の君だけがきたと?』 「違う!!!主は逃げてなどいない!!!」 サカキはしばらく腹を抱えて笑っていた、ミュウツーにはそれが我慢できなかったが今は何もいえなかった。 『ハハ・・・ハ・ハァ。まあいいだろう、トレーナーなしのジム戦など聞いた事もないが、そうだな、もし君が負けたら私に仕えてくれるというのであれば、その勝負受けてたとう』 「いいだろう、すぐに始めろ」 ミュウツーに負けるつもりなど初めからなかった 扉が開きバトルルームまで案内される その案内人が昨日の男だったのでミュウツーは怒りで何度も我を忘れそうになるのを押さえこむ バトルルームに着くと、そこにはさきほどの声の主がまっていた 「でわ、始めようか」 ---- **223 ID:L7CDfDUo 「その前にバッヂを見せてもらいたい」 ミュウツーは言い放つ、別に無理矢理奪って逃げてもよかったが それでは自分の主の流儀に反する、正々堂々勝利してから貰うつもりだった しかし、“ジムリーダーのサカキ”ではなく“ロケット団のサカキ”という男を信用できなかったので先に確認することにしたのだ 「なに、心配しなくてもほれ」 サカキが上着のジャケットを捲ると内ポケットの中にいくつものバッヂが入っていた 「問題ない、手間を取らせてすまなかった」 「こちらも確認させてもらいたい、本当にお前が負けたら私に従うのだな?」 「ああ」「本当に?」「くどい!!」 ミュウツーはイライラしていた 『今日は主と一度も会話をしていないな』 『もう半日、こんなに主と離れていた事があっただろう?』 もうすぐ試合だというのに考えるのは自分の主のことばかり 『目が見えないことで不自由をしていないだろうか』 『私が側にいない間に怪我をしていないだろうか』 『早くバッヂを持って帰らなければ』 試合開始の合図がなる・・・ サカキのポケモンが出現する、しかしミュウツーがまず戦わなければならないのは背中の寒さだった トレーナーゾーンにが主がいない、というのがこんなにも心もとない物だったとは。ミュウツーは気合を入れなおし、相手に向き直る。 「うおおおおおおおおおおおおお」 ---- **224 ID:L7CDfDUo トレーナー不在といってもやはりミュウツーはミュウツー、最強のポケモンだった サカキは自分のポケモン5匹中、4匹を倒され、今最後のニドキングを残すのみ そのニドキングももはや立っているのが精一杯といった様子だ しかしサカキは余裕の表情を浮かべる、それどころかミュウツーとのバトルをまるで第3者のように楽しそうに見ている 5連戦ともなるとミュウツーにもさすがに疲労の色がうかがえた ところどころにダメージも残っているし、満身創痍とまではいわないまでも辛そうなのは一目瞭然だった。ニドキングがゆっくりと倒れる・・・ 「ニドキング戦闘不能!ミュウツーの勝利!」 ジャッジの声が高らかに響く。パチパチパチ・・・手を叩く音が聞こえた 「イヤイヤイヤ、お見事、さすが最強のポケモンと噂に名高いミュウツーだ」 「そんなことは、、どうでもいい、、バッヂを渡せ、、、、」 「申し訳ないがそれはできない」 な!?ミュウツーは慌ててサカキに詰め寄る 「約束が違う!さっさと渡せ!」 「いや、『トレーナーのいないポケモンにバッヂを渡す』なんていうのはルール違反もいいところでね。私にもジムリーダーとしてのメンツもある、そんな事はできないし。初めから君に勝てるなど思っていなかったよ。」 ミュウツーはサカキの胸倉をつかみそのまま睨み続ける 「それでもあの5匹はよくやってくれたと思うよ、最強のポケモンをここまで弱らせる事ができれば・・・上出来だ」 ミュウツーの体が歪み、黒いモンスターボールの中に押し込められる。点滅を繰り返しながら黒いボールはゆらゆらと揺れていた。 -ピ-ピ-ピ-ピ-ピピーーーーーーーーーーー 「ある・・・じ・・・・」 点滅が消え、ボールは動きを止める。 ---- **225 ID:L7CDfDUo ココハドコ?ココハドコ?-ここはあなたの居場所よ- ワタシノイバショ?-そう、あなたの場所- チガウ、ココハチガウ、ココハキライ、ココハイヤダ-どうして?あなたの大好きな主の側よ?- アルジノ?アルジガチカクニイルノ?-そう、ちかくにいるわ- ドコ?ドコニイルノ?クラクテミエナイヨ?-大丈夫、側にいるわ、名前を呼んで御覧なさい- アルジノ?アルジノナマエヲ?-そう、主の名前を・・・・・サカキ様って- サカキ・・・サマ? 目が覚めるとそこは見た事もない場所だった 何もない白い部屋、白いベッド、白い椅子、白い扉 “ズキ”「痛!」頭がものすごく痛い、ここはどこだろう? ミュウツーはベッドから降りるとゆっくり扉を開ける そこには別の部屋があり、部屋の中心のテーブルで優雅にコーヒーを飲む男の姿があった 「やぁミュウツーおはよう」「あなたは?」「まだ寝ぼけているのか?私は君の主人のサカキだよ」 「サカ・・・キ・・・さま?・・・ウ!痛い!痛い頭が!!!ウウウウウウウウウウ!」 “ズキズキ”と頭痛がひどくなる。思わずその場で蹲ってしまった 「おいおい、大丈夫かね、まだ少し休んでいた方がいい」 サカキがミュウツーの肩に手をやる、ふとミュウツーの目にあるものが飛び込んできた 「サカキ・・さま・・それ・・・は?」 ミュウツーはテーブルの上にあるバッヂを指差した ---- **226 ID:L7CDfDUo 「これか?これは私のジムのジムバッヂだよ」 (バッヂ・・・・バッヂバッヂバッヂバッヂバッヂ・・・なぜだろうすごく欲しい) 「あ、あの、それを一つ、いただけませんか?」 「ん?・・あ、ああ、まあ一つぐらいならいいだろう・・・・まさか、なにか思い出したのか?」 思い出すとはどういうことだろか?ミュウツーはその言葉の意味がよくわからなかった そういえば何故自分はこんなところにいるんだろう?今より前のことが全く思い出せない 「ほら、これでいいか?」 サカキがバッヂをミュウツーの手のひらに落とす 「あ、ありがとうございます」 なぜだろう、すごく嬉しかった、これでやっと・・・やっと? やっとなんだろう?なにか、大切なことを忘れている気がした・・・必死に記憶の糸を辿ろうとする 「うあ!!う!ああああああああああああああああああああああああ!!!!」 再び激痛が走る 「やめろ、何も考えるな!思い出そうとするな!!」 サカキの言葉になんとか反応し、思考を停止する、痛みが止んだ。楽になったはずなのに、でもなんだかとても辛かった。 「さぁ、部屋に戻ろう、もう少し眠っていた方がいい」 「う・・あ・・・はい・・・・」 ミュウツーは部屋に戻る、白いベッドに横になるとコツンとなにかがふれた 「これは?」 それはバッヂケースだった ---- **227 ID:L7CDfDUo バッヂケースの中には7つのバッヂが入っていた そして一箇所、窪んでいる部分に先ほどサカキから貰ったバッヂをはめてみる 「ぴったりだ・・・」 そうか、自分はこれを集めていたのだ、でもなぜ?こんなバッヂを? こんな?“こんな”なんて言ってはいけない、これは大事な・・・大事な? 頭痛が増していく・・・しかし今は側にサカキはいない、ミュウツーは思考を止めなかった 何でこれが大事なの?だって集めていたから 私が?このバッヂを??違う。主が、主が集めていたから 主が?サカキ様が?違う、サカキさまはこのバッヂをくれた、集めてはいない でわ主とは?主はただ一人 サカキ様?そう、そのはず・・・でも・・・ ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ サカキは少しだけ焦っていた さきほどのバッヂを渡したのは失敗だっただろうか? しかしあの悪のモンスターボールの効果は立証済みだ心配する必要はない しかしあのバッヂを欲しがったということはまだ完全に悪に落ちていない しかし私を“サカキさま”と呼んだ失敗はしていないはずだ しかし、しかし、しかし、しかし。 一枚の扉で隔てられた空間で人間とポケモンが思考の迷路を彷徨っていた ---- **228 ID:L7CDfDUo リザードンはため息をついた ミュウツーが男の前からいなくなってからというもの毎日のようにカントー地方を飛び回っていたのだ 時にはタケシを、時にはカスミを、時にはエリカを、時にはナツメを、時には全員を乗せながら。しかしミュウツー探しは難航を極めていた ただでさえ目が見えない事で不安になっている自分の主人がミュウツーのせいでよけいに心を痛めている。リザードンはそれが許せなかった 「まったく・・・一発どころか百発は殴らないと気がすまないな・・・」 日も暮れはじめた、今日の捜索はここまでにしようか。 また・・・帰ったら主人に報告をしなければならない『今日もみつかりませんでした』そういうたびに『そう、ご苦労様』と笑ってくれる。 なんと言う事だろう、自分の主人にこんなに心配をかけておいてあの“自称”最強ポケモンはどこにいったというのだろうか あの性格だ、とてもこれほどの長期間、主人と離れていることに耐えられるとは思えない。きっとストーカーのように側でみているに違いない、そう、きっとそうだ。 そんな偏見にみちた考えをめぐらせながら、リザードンは主人のいる病院へと戻っていく。 一方のミュウツーは白い部屋で目覚めてから三日がたつころ、日に日に募る謎の苛立ちと頭痛でストレスの塊と化していた 主と食事をし、時にジムでバトル、ポケモンにとってこれほどの喜びはないはずなのに 自分の中にどす黒い感情がたまっていくのがわかった。感情のコントロールができないほどに。 今日などはジム戦でサカキの命令を無視し、挑んできたトレーナーにまで危害を加えていた 「ああ・・・イライラする・・・」 もはやサカキですら近くに寄るのは遠慮したいという様子でミュウツーを遠巻きに見始めている そんなミュウツーの唯一の心の安らぎはあのバッヂケースだった、部屋にもどるとまずケースを抱きしめる。 早くもって行かなければ行けない、そんな事を思いながらも、どこに持っていけばいいのかわからずにまた頭痛と闘いながら一日を終えるのだった。 ---- **229 ID:L7CDfDUo 六日目の夕方、事件は起きた 大人しく部屋に篭っていると思っていたミュウツーが突然暴れだしたのだ サカキは慌てて部下を呼び、ポケモンやモンスターボールで取り押さえようとしたが無闇に負傷者をだすだけという結果となった 「や、やめろ。私はお前の主だぞ。ほら、よく考えろ」 サカキは必死でミュウツーを説得している ミュウツーの目が怪しく光りながら、無差別に破壊光線、サイコキネシスで攻撃をしかけ部屋は、、、ジムは崩壊寸前だった 部下の一人がミュウツーに背中から飛び掛る、とびついたまではいいがミュウツーは全く気にせず前進、ミュウツーは右腕だけを男の顔に向け、そのまま吹き飛ばす しかし、男はただでは転ばなかった、いや、ただで転んだ方がまだ幾分かマシだったかもしれない ミュウツーが握っていたバッヂケースを握っていたせいでバッヂケースを奪い取る形で吹き飛び、中身がバラバラになってしまった 「アア・・アアアアアア!!!!!アルジノばッヂだ!!!アるジノユめヲ!アルジノユメハダレニモじャマナンかサセなイ!!」 慌てて拾い集める、一個一個丁寧に傷がつかないように。一個、二個、三個、四個・・・七個目まで拾ったところでミュウツーは慌てた。一つ足りない・・・ 片腕に7個のバッヂを握り締めながら八個目のバッヂを必死にさがす、そこら中に倒れている人間やポケモンをどかしながら 「ない!ない!ナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイ!!!!!!」 サカキはこれだと思った 「ほ、ほら、バッヂだ、バッヂならいくらでもやろう、だから、大人しく私のいうこと・・・を・・・・」 バッヂを持っていたはずのサカキの手がそこにはなかった。 「アア、アッタ、ヨカッタ・・・」 ミュウツーはサカキの腕ごとバッヂを奪ったのだ 「ア、ア、あ、ああああああああああああああああ、私の!私の腕がぁぁああ!!」 ミュウツーは八個のバッヂを握り締めると、浮翌遊をはじめ、どこかへ向かって飛んでいった ---- **230ID:L7CDfDUo ミュウツーが向かったのは男が入院している病院だった ミュウツー自身は何故そこに向かっていったのかはわからなかったが ただ、そうしなければいけない、そうすればいいんだという不思議な確証はあった。 「な、ミュウツー?」 そこにはリザードンがいた 「お前、どこ行ってたんだよ!いまさら!いまさら!お前のせいでご主人が!!ご主人が!!!」 リザードンが何やら叫んでる。皆?皆とは誰だろう?おかしい、私には主だけのはずだ、主だけ、主と私だけ、主にも私だけそうそれでいい、それで十分なはずだ “ゴッ” リザードンの視界がずれる、一体何をされたのだろう、痛みを感じる暇もなくリザードンの意識は途絶えその巨体がスローモーションのように倒れていった。 病院に入るとミュウツーは何かを思い出したかのようにある場所を目指し走っていた 何があるかはわからない、でもきっとそこには何かがある、私が必要としている何かが ある部屋の前につくと、ミュウツーは立ち止まり、自分の心臓の鼓動が早くなっていくのを感じた、、ココダ ゆっくりと扉を開けるそこには見舞い客だろうか、何人もの人間が狭い部屋の中で一点をみつめていた 「ミュ、ミュウツー?」「ミュウツーが!ミュウツーが帰ってきたよ!」 口々にわめき立てる人々を掻き分け、ミュウツーは部屋の中心を目指す 人々の視線の先にあるベッドの上には・・・ 白い布を顔にかぶせた男が眠っていた ---- **231 ID:L7CDfDUo ミュウツーは全てを思い出した そうだ、この人が本当の私の主だ 良かった、そう、この人の、主のためにこのバッヂを集めていたのだ 「主!!!!主!!!!!!!」 ミュウツーは男に縋り付く、しかし男は何も答えない 不意に肩に手を置かれる 「ミュウツー・・・男はね・・・昨日急に容態が悪くなって・・・爆発の時の傷が原因だろうってお医者さまが・・・」 この女は何を言ってるんだろう、主が死ぬわけない、そういえばリザードンも似たような事を叫んでいた気がする。だがそれはおかしい、主が死ぬのは私が死ぬときだ 「主、主、ほら見てください、バッヂです八つ全てあつめてきましたよ。私一人でも勝って見せました、大丈夫、ほら、これで主の夢が叶いますね。」 ミュウツーが硬くなった男の手を開かせバッヂを握らせようとする。 ボロボロと零れ落ちるそれをミュウツーは必死で拾い上げる 「そうだ、バッヂケース。すいません、すぐに新しいのを買ってきます。でもほら、見てください、ちゃんと、ちゃんと八個あるんです」 見ている方がきつかった、「もうやめてくれ」という女性陣の意見をきき男性陣がミュウツーを引き剥がそうとする 「私に触れるな!!!私に触れていいのは主だけだ!!ほら、主、主からも何か言ってください。もう夢が叶うんですよ、明日にでもポケモンマスターにでもなれますよ」 ミュウツーは再び男にバッヂを握らせる、カチャン、カチャンと床にバッヂが落ちる 「ほら、これ、コレが八個目のバッヂです、主はまだちゃんと見ていませんでしたね」 言いながら男の顔にかかった布を取り外しバッヂを顔の側に持ってくる 「主、どうですか?これが八個目です。変な形だと思いませんか?」 しかし男は目を覚まさない 「ある・・・じ?」 ---- **232 ID:L7CDfDUo 「アア、オツカレナンデスネ?マカセテクダサイ、ワタシガハコンデアゲマスカラ」 「な、おいミュウツー?おい!誰かミュウツーを止めろ!」 ミュウツーの異常にいち早く気がついたのは誰だったか、その場にいた全員がいっせいにミュウツーに飛び掛る しかしそこにミュウツーはいなかった、男も。辺りを見回す。 ミュウツーは男を抱え、窓際でいとおしそうにその頬を撫でていた。 「サァ アルジ アナタノ ユメヲ カナエテ アゲマショウ」 “パリン”という小気味良い音とともにミュウツーが窓から飛び降りる そこに残った全員が慌ててミュウツーの後を追ったが病院の敷地内にもうその姿はなかった それから二日ほどたってからだろうか 四天王が何者かに殺されたという事件が報道されたのと 死体を担いだポケモンが現れるという噂が流れ出したのは・・・ アルジ・・アルジ・・サァツギハ・・・ドコヘイキマショウ? 終 [[@wikiへ>http://kam.jp"><META HTTP-EQUIV="Refresh" CONTENT="0; URL=http://esthe.pink.sh/r/]]

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