死天使と悪魔


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「桂家が初めて歴史に現れるのは、かの"大乱"の際に天皇方に協力されたとされる桂統介からです。
その後、彼の孫娘である桂花月は白心家以外では初めての日本出身の特級魔術師で、桂英樹は"感染"能力を用いて裏社会に覇を唱え初期桂林会を結成。
桂勘解由と法児の兄弟は共に全身に紋様を発現させ、当時では最高峰の肉体強化を可能とし、桂英法は戦鬼とまで呼ばれスゥリール傭兵団の師団長まで登り詰め、桂無円は闇を用いる"悪人"、私の祖母に当たる桂月夜は蟲術師でした――
ということで、"桂"の能力の共通部分は"身体強化"ぐらいしかなく、それ以外には本当に多岐に渡っていまして、その本質が何であるのか――知っている人はいません。ということで、
―"七門解放"―」
淡い、幸の薄そうな微笑みを浮かべる桂圭一の肌には赤色の荊のような紋様が走り、彼の薄紫の衣には緑色の葉脈のような紋様が走る。
そして、彼の全身からは周囲の温度を下げるような高密度で冷ややかな魔力が立ち上り、彼の影からは無数の暗い蝿が溢れ出す。
「――くくっ、くくっ――我が目には"見える"ぞ。貴様のその在り方――正に"地獄"以外の何物でもない」
黒色の十二翼に血のような赤褐色のハロウ(光輪)を纏い、顔にはまるで抉られたような醜い傷跡を持ち、目を閉ざした"天使"サマエルはクツクツと押し殺したような笑いを浮かべる。
「ま、そうでしょうね。自分でもここまで行っちゃうとちょっと何だかなぁと思わないでもありませんから――」
圭一は蝿とともに影から湧き出した刀を掴み取る、と刀は一瞬にして漆黒に染め上げられた。
「まあ、さっさと終わらせてしまいましょうか――」
「そうだな。貴様のような"悪"の塊は即座に消滅させるが相応しい――」
そして、サマエルの十二翼が羽ばたきとともに血色の十二槍を撃ち出す。
同時、圭一の周囲を飛び回っていた黒蝿が集い、十二の杭と変じて空を駆ける。
槍と杭は全く同じ速度で飛び、対峙する両者の丁度中間地点でぶつかり合うと、一瞬の光のみを残して対消滅した。
その一瞬の光が消えた時また、立っていた圭一の姿も先程まで居た位置から消えている。
しかし、サマエルの"目"は圭一の姿を捉えていた。
サマエルは迷い無く自身の左――そこに現れ、刀を振り上げた圭一を指差す。
サマエルの指から赤血色の光が撃ち出されるが、それが圭一を貫くより早く彼の姿は再び消えた。
―空間移動か―
サマエルがそう思った瞬間、圭一は彼の眼前に現れ、構えた刀を真っ直ぐにサマエルの胸目掛けて突き込む。
「甘いな」
しかし、それもまたサマエルには"見えて"いた。
迷い無く彼の黒翼が、突っ込んでくる圭一を叩き落とそうと振られる。
が、黒翼が圭一をはたき落とそうとした瞬間
「―"十門解放"―」
圭一の身体は急激に空に舞い上がる。
その圭一の背にはいつの間にか二対、四枚の灰色の翼が生えていた。
翼と言っても、それはサマエルの鳥のようなそれとは遠くかけ離れた翼――まるで針金の骨格に灰色の襤褸をかけたようなそれ。到底人など支えられそうにない古びたそれを以て圭一は宙に浮いていた。
それをサマエルは"見た"のか、圭一が舞い上がると同時に追撃するために自らの黒翼から血色の槍を撃ち出す。
圭一は今度は向かってくる槍に対して、逆に自身から向かって行く。
彼は自らの翼を用いて空中で何度も方向転換を行い、減速どころか加速して槍を掻い潜り、サマエルに迫る。
と、彼の目の前にサマエルの赤褐色のハロウが立ち塞がる。
微かにハロウが明滅し、全てを腐蝕する血霧を撒き散らす。
血霧に全身を包まれようとする瞬間、圭一の刀が閃き、逆に血霧を切り裂いた。
更にそこで止まること無く、返す刀でハロウを一刀の下に両断し、サマエルを自らの間合いに収める。
「――くっ」
サマエルは微かに舌打ちして、指先を向けるが同時に圭一の姿は消える。
圭一が現れたのはサマエルの頭上――しかし、サマエルの身体は既に彼の翼、黒色に加えてハロウの赤褐色を帯びて赤黒く変じた翼に完全に護られていた。
「はっ!」
圭一は気合いとともに両手で刀を振り下ろすが、翼と拮抗し目映い光が周囲に輝くのみ。
更に圭一は力を加えて翼を断ち切ろうとしたが――
周囲に赤褐色のハロウが幾つも現れる。
「――っ!」
全てのハロウから一斉に血霧が周囲一体に撒き散らされ、圭一は咄嗟に空間を飛んでサマエルから離れる。
しかし、空間を飛んだ瞬間には既に血色の槍がすぐ眼前まで迫っていた。
圭一はほんの少し顔色を変えるが、それだけで怯むこと無く迎撃に移る。
一、二本目は刀で払い飛ばし、その間を縫って迫ってきた三、四本目は身を反らして避ける――しかし、そこで体勢を崩し無防備となった彼に更に三本の槍が迫る。
「――くすっ」
圭一は刀から右手を離し、空いた右手で飛んできた三本の槍を一呼吸で殴り飛ばした。
しかし、彼の右手は槍に含まれた毒に冒され、赤く変色し徐々に腐り落ちていく。
圭一は冷淡な笑みとともに左手で刀を振り被り――
無造作に自身の右腕を切り落とした。
同時に彼の周囲を飛び回っていた蝿が集まり、あっという間に彼の右腕と変ずる。
「くくっ。お前のモチーフは"蝿"か――まさかとは思うが、お前は"右腕"か?」
サマエルは頬のひきつったような歪な笑みを浮かべている――その表情の意味するのは歓喜か、驚愕か、それとも人には理解できない天使としての感情なのか――少なくとも、圭一には彼が悦んでいるように見えた。
「やれやれ、闘争の何が面白いんですかね?」
やや困ったような微笑みを浮かべつつ、圭一は刀を両手で握り直す。
「知れたこと――貴様等のような"悪"。それを滅ぼし、我らが神の意をこのあまねく世界に知ろ示す。それこそが我らの存在理由であり、その意に従うことこそが我らの悦び。その壁が高ければ高いほど、その悦びは増すものだ」
自らの言葉に酔うように熱を帯びた口調でサマエルは語る。
圭一はそんなサマエルを微笑みながら、どこか羨ましそうな目で見ていた。
「ほんの少し、羨ましいですね。
――そうまで、単一の概念を盲目的に信じられるというのは」
ボソリと呟き、圭一は再び動いた。
先程より更に速く宙を切って圭一は真っ直ぐにサマエルに突進する。
「また、同じことの繰り返しか?」
サマエルはややがっかりしたように呟き、黒翼から再び槍を放つ。
と、圭一の周囲を飛び回っていた蝿が集い無数の杭を形作る。
初めと同じように槍と杭はぶつかり合い、対消滅する。
が、先程とは異なり対消滅した時にはサマエルの頭上のハロウが圭一の方へと血霧を撒き散らす。
圭一は血霧を斬ろうと身構える。
その時、サマエルの両手から血赤色の二本の光が圭一目掛けて放たれた。
圭一がそれを確認すると同時、蝿が集い彼の周囲を包む黒い壁と変ずる。
光は壁に当たり、暫く何も起こらなかったが三秒もしない内に突如黒い壁は赤変し溶け落ちた。
しかし、壁の先に既に圭一の姿はなく――
圭一の姿はサマエルの背後にあった。
圭一の刀はサマエルの背の翼ごとサマエルを貫こうと一直線に放たれ――
そこを狙ったように、サマエルの翼からは既に幾つもの槍が放たれていた。
回避も間に合わず、圭一は槍に取り囲まれ――
全身に槍を受けた。
「くくっ――この程度か?」
圭一は自らの血で全身を朱に染めつつも確かな足取りで地面に立っている。
「――少し、油断しましたね」
軽く血を吐きつつも、圭一の笑みは揺るがない。
「ここまで"解放"する気は無かったんですが……まあ、仕方無いですか
―"十三門解放"―」
瞬間、圭一の身体が真っ黒に変わった。
「――っ!」
いや――違う。身体が真っ黒になったのではない、一瞬にして彼の身体から流れる血が漆黒よりも尚暗い、真なる暗黒へとその姿を変えていた。
同時、真っ暗な血が彼を包み込む。
そして血は彼の全身を包むと同時、奇妙なことに彼の身体を別の存在へと作り替えていく。
その四肢は針のように鋭く細く、その翼は先程よりも尚暗く紅く大きな――まるで堕天した天使のような傷ついた翼と変わり、その顔は血に覆われまるで別の顔に変わっていた。
その真っ暗な顔に浮かんでいるのは、確かに笑み――但し、先程まで浮かべていた弱い微笑みとは百八十度異なり、まるで世界の全てを確たる意思を以て軽蔑し嘲笑するかのような悪意に満ち溢れた笑みだった。
その笑みは、サマエルの永い永い永遠とも言える生涯の中でもたった一度だけしか見たことが無かった。悪意を悪意でもって精錬し、ただただ純粋な悪意のみ形作られた笑みを――
「き……貴様はまさか生きていたのか……」
恐怖に身を震わせながらサマエルは熱に浮かされたように呟く。
ソレは、サマエルを愚弄するかのように一層笑みを深くする。
「貴方の知っている存在は既に"死んで"いますよ。私が、誰に似通っていたとしても、その本質が"桂圭一"であることは何も変わりはしません――ですから、そう怯えないで下さい」
――何にしろ、貴方はここで死ぬのですが。
ソレはこれ迄以上に馬鹿丁寧な、しかし敬意など欠片も感じ取れない慇懃無礼というより最早悪意その物とでも言うかのように笑んだ。
「くくっ、くくっ。たとえ……貴様がかの者であろうと無かろうと、我が我である限り貴様のような悪など一秒たりとも生かしておくわけにはいかん!」
サマエルは体の震えを止めるためにきつく歯を食い縛って吼える。
「そうそう、その意気ですよ。頑張ってくださいね?」
ソレが右手を閃かせると、その手に一メートル近くはある長大な杭が握られていた。
その杭はまるで漆黒をそのまま杭の形に切り出したかのような純黒で、周囲を闇に沈めるような禍々しい空気を湛えていた。
「――我が神に、敗北はない!」
サマエルの十二翼、その羽根の一枚一枚が一つ残らず槍に変化し、その全てが一斉に圭一に襲いかかる。
百は悠に超え、千――いや万にも届こうとする槍の大群を前にして彼は不敵に笑い、手にした杭を一振りした。
と、杭から暗い血のようなものが放たれ、それは槍の大群を一瞬にして暗く染め尽くし――次の瞬間、槍の大群は跡形も残さず消滅していた。
その時、既に圭一の姿はサマエルの眼前に在り、その手の杭を振り被っていた。
「では」
心臓目掛けて真っ直ぐ杭が突き出される。
サマエルはどうしようもなく自身の死が迫り来る事を確信し、
―我が身が滅びようとも"悪"は滅ぼす!―

サマエルの身体に何も触れていないにも関わらず十字の傷が走る。
そして、サマエルの傷痕からほとばしる紅い血は槍のように真っ直ぐに圭一の胸に走った。

そして、サマエルの血槍と圭一の黒杭が交錯し、お互いの心臓目掛けて止まること無く走り――!

――ズッ――

「くくっ……」
サマエルの胸を黒杭が貫くと同時、サマエルは満ち足りたような笑みを残して欠片も残さず消滅した。

「くすっ――」
圭一の真っ黒な胸の中心には深々と血槍がその切っ先を突き刺していた。
圭一の身体は、サマエルの用いる万物を溶かし尽くす毒に犯されていく――が、それだけ。普通なら溶かし尽くす筈の毒は圭一の身体に何の影響も与えていなかった。
「まあ、"死後の世界"で誇ると良いですよ――この私に傷をつけたんですから」
圭一は傷が広がるのも構わず無造作に胸に刺さった血槍を引き抜き、そのまま握り潰した。
血槍は黒く染まり、塵も残さず消滅する。
「――この程度の概念で私を殺せる。と思われたのなら心外ですね」
少し嘲るように笑い、
「―"全門閉門"―」
呟きと同時、圭一の姿を覆い尽くしていた黒が赤い血に戻り重力に従って地面を真っ赤に染めた。
「ん……これはちょっと血を流しすぎましたかね?」
常人ならとっくに貧血、いや失血死していてもおかしくないような血の量を確認して、圭一は少し首を傾げ――そのまま地面に倒れた。
「あれ……これで、終わりですか?」
彼は嬉しいとも残念ともつかないような口調で弱々しく呟いた――
ツールボックス

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