マーダールール


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陰居未済はうんざりしていた。
ここはとあるファミレス。
手元には冷えたコーヒー
対面にはひたすら恨み辛みを言う老婆。
(あー鬱陶しい)
未済は仕事を受け取りに来たのだったが、依頼人は話続けており、結局20分近くこの老婆の話を聞いている。
…老婆の話によると、息子が友人の連帯保証人になったが、その友人が行方不明。で、息子は借金を返そうとぼろぼろになる程働いて結局、交通事故で死亡。
で、夫の病状が悪化して、そのまま病死。
で、ただ一人残された、老婆はその原因となった、金融業者を許していない。
と言う事で、老婆はネット上で、暮里の人間に接触し(いや、接触したのは暮里なんだけど)その金融業者の殺害を依頼した。で、実際の話を聞くために、暇だった未済がこうやって話を延々聞かされていた。
(くそ、枷のやろう、貧乏籤引かせやがって!)
心中同僚を罵る。
「ああ、もう分かった!仕事終了が判明したら。この口座に1千万振りこむ!はい終わり!じゃあな!」
飽きた未済はそう言ってさっさとファミレスを出て行った。
と、未済がファミレスから出たところで、いきなり、ファミレス前の道で人がトラックに跳ねられた。
「ああ、こりゃ死んだな。」
どこか嬉しそうにそう言って、未来の死人を介抱しようと近寄る。
「大丈夫ですか!」
慌てた振りでそう言って怪我人の様子を見る。
(これなら、よくても一生植物状態だろうな。)
誰にも見えないように一人ほくそえむと、さり気なく、首に手を近づけて、
ポキと首を一瞬で折った、小気味良い音だったが、辺りの喧騒に音は消えた。
「誰か!早く救急車を!」
(もう、死んでるけどね。)
と、思いつつ、未済はすっと死者の心臓の辺りに手をかざす。
(はい、OKでーす)
心中一人で笑う未済であった。

数時間後、未済はある貸しビルの一室に居る。
そこは、補陀(ふだ)探偵事務所。…昔は真っ当な探偵事務所であったが、現在は丙 紀介が所長を務めるチーム丙の事務室と化している。
「未済さん。仕事の話はどうでしたか?」
色んな物が雑多に置かれた部屋の中で、一人の男がパソコンに向かっている。男の名は牢牟 嘆(ろうぼう なげく)当然、チーム丙の人間である。
「ああ、もうつまんない事、この上なかったぞ!」
乱暴に言いつつ、未済は灰皿を積まれた書類の下から発掘し煙草に火を付ける。
「そうですか、それは良かったですね。」
皮肉でも何でも無く純粋に嘆が言う。なんせ、彼の夢は“一日中退屈をもてあますような生活”らしいから。何処を間違ってんだかねえ?
「ちっともだ!…他の奴等は?」
その時、嘆のいじっていたパソコンから派手なロックが流れ出す。
「できたー。これは“赤い憎悪の夢”と名づけよう。」
色々と終わっているネーミングセンスであった。
「ああ、で、他の人達ですか。丙さんは暮里に仕事の売上を持っていって、枷さんは中国まで殺しを、針金と夕寸は護衛の任務で、斜は本業のバイトに勤しんでます、で、私はここで楽しい楽しい退屈を送ってます。」
こいつがさん付けをしているかいないかは、単純に強さの関係である。
更に言うと、何故か兄のメンツは忍者として以外にも仕事をしている事が多い。例えば、静実離亜は魔術学園の教師だし、丙紀介とこの牢牟嘆はこの探偵事務所の人間。そして、斜こと、斜 以移之(ななめ いいの)はフリーターをやっている。
「ふーん。そうかい。」
大分短くなった煙草を灰皿に入れ、新しい煙草に火を付ける。
「そういえば、あなたは今日仕事は無いんですか?」
そこで始めて、嘆がその銀色と青色の両眼をこちらに向けた。(カラ―コンタクトである)
「知ってたか?今日は日曜日だぞ?」
まあ、ここに住み込んでる引き篭もりには関係の無い話か。
「ああ、暇に絶えきれない人々が町をうろつく日でしたか。」
嫌な顔をした。
「…まあ、そういう事だ。分かってると思うが、俺は今日の夜動くから。」
「ええ、根回しは万全です。」
そう言うと、嘆は再びパソコンの方を向いた。
「ん、わかってるならいい。じゃな、仕事が終了したらまた来る。」
「わかりました。」



夜、未済は或る豪邸の前に立っていた。
「さて、どうするか…」
見ると、ボディーガードらしき、黒服のごつい方々が数名、家の周りをうろついている。
「見た感じ、普通のヒトみたいだしなー…よし。」
一枚コインを取りだし、ピンと弾く。
コインは表の女神の模様を見せて、地面に落ちた。
「じゃ、まあ本人だけ、殺せば良いか。」
そう言って、煙草を口に銜えると、ひょいと門扉を飛び越し静かに邸内に侵入した。
数分後、未済は誰にも見咎められる事も無く、標的の居る部屋のドアを開けた。
「どーもー。こんばんわー。」
中は書斎らしく、正面には標的が机に向かってなにやらやっており、その傍らにはボディーガードらしき、人影が立っていた。
「何者だ!」
ボディガードが懐に手を入れ―
ぐしゃ。ボディーガードはそのまま、車に撥ねられたかのように一瞬でひしゃげた。
ポキ。更に次の瞬間、良い音を立てて、首がへし折れた。
「…お・・・お前は、誰だ…」
標的は顔を青くしつつも机から動かない。(どうやら腰が抜けているようで)
「通りすがりの殺し屋でーす。」
おどけて、一礼する。
「だ…誰に依頼された…」
この状況にしては頭が回るらしく青い顔でそれだけ言う。
「それを言ったらいけませんで。」
と言いつつ、未済は標的に歩み寄る。
「ま…まて!金なら払う!い…一億だそう!だ…だから…」
男の哀願には耳を貸さず、未済はなおも歩きつづける。
「た…助けてく―」
……
翌日
「おはようございまーす。」
欠伸と共に未済は自身の職場である大学病院のとある研究室に入った。
「やあ、おはよう。陰山君。」
上司の羽田氏がコーヒー片手に未済を見た。
なお、陰居未済の戸籍名は陰山明太となっている。…これは暮里から与えられた物であり、実際彼には戸籍どころか、親も本当の名も無いわけだが。
「どうもー。新しい、死体は入ってます?」
「んー交通事故のがニ件。それと、焼死体…自殺らしいけどね。が一つ。まあ、昨日の内に剖検は済ましたよ。」
ここは,法医学部。死体をばらすのがお仕事です。
「へえ、一日に三件もあったんですね。」
「そ、大変だったよー。あ、そうそう。面白い事にね、交通事故の二件だけど、なぜか、両者とも殆ど同じ状態でね。まあ、もうかなりグチャグチャになってたから。気のせいかもしれないけどね。」
気のせいじゃありませんよ。と、言い掛けて寸でのところで思い止まった未済。
「じゃ、僕はもう上がるから、今日は宜しくねー。」
コーヒーカップを置くと夜勤明けの羽田氏はコート片手に研究室から出て行った。
「さて、お仕事しますかねー。」
と言っても、未済が居た間、一件も運ばれてこなかったのだが…
……



再び夜
未済は昨日と同じファミレスでコーヒーを啜っていた。
昨日との違いは、目の前に居るのが、老婆では無く、老婆の死骸だという事。
老婆はまるで、夢でも見るような穏やかな顔でしかし、確かに心臓はその鼓動を止めていた。
未済は老婆が飲もうとした水にほんの少し、筋弛緩剤を入れていたのだった。
未済は暫く無言でコーヒーを啜っていたが、コーヒーが空になると、諦めたように立ち上がり、外の雑踏に消えた。
… 
回想
昨日、未済は確かに標的を殺そうとした。
「た…助けてく…」
標的が哀れなほどうろたえる間、静かに未済は標的を殺そうと…手を伸ば―
「二億、い…いや、三億払う!だ…だから…」
標的の言葉を聞くと共に、未済の手は止まった。
「言ったな?」
未済がニヤリと笑った。
「三億な。確かに払えよ?」
そう言うと、未済は手を引っ込め、代わりに一枚の紙を取り出す。
「ここの口座に、三億。きちんと振りこんでくれよ。―もし、振りこんでくれなかったら…その時はきちんと殺してやるよ。」
そこまで言うと、くるりと、背中を向け、歩き始める。
「ま…まて。」
「ああ?まだ何か?」
不機嫌そうな顔を向ける。
と、元標的は悪人の笑いを浮かべる。
「私の命を狙った者が居るとなると、安心して眠れない。」
ふん、軽く未済は鼻を鳴らす。
「いくら出す?」
「5千万でどうだ?」
「受けよう…翌日には結果を出す。おっと、三億の方は朝一番に入金してくれよ。」
「わかっている。」

「これが、我々暮里のルールってね。」
雑踏の中、何時の間に現れたのか、未済の隣にはロッドを片手に持った小柄な若い男が居た。
「金さえ貰えれば、寝返り、裏切り、何でもござれ。…裏を返すと、金には唯一信用が置けるということだ。」
詰まらなさそうに、未済が返す。
「それが、僕達、人殺しの唯一のルールなのさ。」
未済は深く、頷いた。
そう、暮里は金以外の何物も信じない。
ヒトを捨てたモノ達にヒトの心は解らないから…
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