ペーパーグラフティ

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キーンコーンカーンコーン チャイムが、学校の中を駆け巡る。 (いくら、魔術学園とはいえ、チャイムは変わらない) と、聞くたびに、静実離亜は思う。 ここは、日本魔術協会が建てた、公式には日本唯一の魔術学校。 天峰学園 「はい、それでは、授業は終わり。配布したプリントを次回に提出しなさい。」 離亜の言葉に合わせて、生徒達は立ちあがり、礼をする。 「「ありがとうございました。」」 そう、静実離亜は表向きはこの天峰学園の講師をしている。 次の授業に向け、生徒達は三々五々教室から出て行く。 「済みません、先生、ここ。教えて欲しいんですが?」 生徒の一人が尋ねてくる。 「ああ、ここは・…」 すらすらと教科書通りの無難な答えを言うが、生徒はこちらをチラチラと見るばかりで、ちっとも、聞いているようには見えない。 「…となるんだけど。解った?」 その言葉に、生徒ははっとしたような表情をし、 「解りました、ありがとうございます!」 と、威勢良く言って、一礼すると、トタトタと出ていった。 (確か、次の時間は授業は無かったはず。) その証拠に、入れ違いに入ってくる生徒はいない。 と、生徒の居なくなり、離亜だけとなった、教室を見渡す。 と、机の陰から、ひょろ高い男が出て来た。 男の肌は、何故か、ぬめぬめとしており、全体的に大き目の顔のパーツに加えて何の冗談か、長い泥鰌髭を持った、まんま泥鰌のような男であった。 男の名は 碑澱 而納(ひでん じのう) 「そして、グループ庚の最下位…」 「いや、あんた誰に説明してるんすか!ねえ!」 思わず呟いた離亜の言葉に即座に突っ込みが入る。 「で、而納。用事は?」 「流すんかい!」 「用事は?…一応ここのセキュリティも馬鹿に出来たものではない。さっさと終わらせよう。」 そこで、小さく呟く。 「本も読みたいし…」 「いや、あんた、きっとそっちが本音ですよね!」 まだ突っ込み足りなさそうだったが、離亜が無表情に見据えると、やれやれと言って、手に持っていた頭陀袋から、封筒を取り出す。 「はい、今日の夜に依頼です。この家から、データを盗ってこい、だそうです。」 「解った。」 離亜が無表情に受け取ると、而納は一度会釈をすると、ドアをがらっと開けて、普通に出て行った。 離亜は封筒の中身をさっと読んで暗記すると、そのまま、封筒を食べた。 …と言ってもデンプンで作られた封筒だったので、味はともかく、一応人間の食べられる物では有る。 「不味い。」 一言ボソッと呟いてから、離亜は椅子の一つに座ると、ポケットから、薄い文庫本を取り出した。 その時、ドアががらっと開き、生徒が一人入ってきた。 「済みません、筆箱を忘れてませんか?」 離亜は無言で、教室の隅の机に置いてあった赤い筆箱を指差す。 「ああ、ありがとうございます。」 筆箱を取って、生徒はドアを開き出て行った。 「済みません、ちょっと、補足データが有りました。」 生徒が出て行って数秒後、何時入ったのか、離亜の後方から而納が封筒を持って出て来た。 「わかった。」 封筒を受け取ると、再び而納は普通にドアから出て行った。 再び、離亜は封筒の中身を暗記して、食べる。 「…コーヒーでも飲もうかな…」 と、思ったものの、結局手にした文庫本を読む事にした。 ◆ ◆ ◆ 夜、離亜はある屋敷の馬鹿高い塀の外側に立っていた。 暫く無言で塀を見ていたが、やがて、ポケットから革張りのメモ帳と紫の万年筆を取り出した。 すらすらと万年筆でメモ用紙一杯に複雑な絵記号を書き込む。 三枚程同じようにしただろうか、その後、離亜はその三枚をちぎって闇に投げる。 三枚は紙製の鳥となり、闇夜に飛翔する。 鳥はそれぞれ、違った航路を辿って、屋敷に向かおうとする。 しかし、屋敷の上空で、バチ!っと鳥は燃え尽きた。 それを見て離亜は、無言で頷くとメモ用紙を一枚ぺりっとちぎって、塀の上に投げ上げる。 数秒後、落ちてきた紙には、複雑な図形が所狭しと書かれていた。 離亜は落ちてきたメモ用紙を見ると一回軽く頷くと、万年筆を握り直し、更に図形に書き込みを始めた。 と、そこに塀からひょいと、男が降りて来た。 「おやおや、どんな人が侵入しようとしに来たかと、思えば、とんだ別嬪さんじゃないですか。」 下卑た笑いを浮かべ、男は何処に隠し持っていたのか、短槍を取り出す。 「おじょーさんがどんなつもりか解りませんが、ここに侵入しようとした人は好きにして良いって言われてるんで、悪くおもわないでくださいねえ。直にイかせてあげますので!」 男の長口上の間、離亜は顔をメモ用紙から上げていない。 「聞けよ!」 突っ込みつつ、男は手にした短槍を振りかぶる! ぺタ。何時の間に投げたのか、男の額に複雑な文字が書かれたメモ用紙が貼りついた。 途端、男の目が、どこか遠くを見るような眼になった。 「ここに、侵入者は居なかった。」 全くの無表情で離亜が言う。 「ここに…侵入者は…居なかった。」 男が繰り返す。 「侵入者は殺さなければいけない。」 「侵入者は…殺されなければいけない。」 「探しに行こう。」 「探しに…行こう。」 「急がないと、見失う。」 「急がないと…見失う。」 「見つかるまで、帰れない。」 「見つかるまで…帰れない。」 「さあ、行け。」 離亜の断定と共に、男はふらふらと何処かを目指して、歩いていった。 更に暫く、離亜はメモ用紙に書きこみを続けていたが、大分メモ用紙が黒くなった所で、離亜は満足したように頷くと、もう一枚のメモ用紙に更に絵記号を書きこむ。 新しく作った方のメモ用紙で、大分黒くなったメモ用紙を包むと、ひょいと無造作に塀の内側に投げ入れた。 バチ!外側のメモ用紙は焼けたが、内側に入っていたメモ用紙は焼け焦げず、ポンと庭に落ちた。 と、メモ用紙はふわふわと漂って、屋敷内に向かっていった。 当然、離亜にこの高い塀の内側は見えないのだが、その顔には本当に微かな笑みが浮かんでいた。 暫くすると、屋敷内から、バタバタと音がすると、途端静かになった。 その音を確認すると、離亜は一枚簡単な記号の書かれたメモ用紙を口にすると、普通に門から入って行った。 で、離亜は中の人々が寝静まった中で探し物をしている訳だが、ここで、軽く離亜のしていた事を説明しよう。 先ず、離亜はあの、紙の鳥で、屋敷の周りに防御用の術が張られている事を知った。(更に言うと、戦術用のかなりハードな術である。) そこで、使われている陣を知る為にメモ用紙にコピーし、それに書き加えて、陣の内容を“中の人間を眠らせる”という物に変化させようとしたのであった。 簡単に言っちゃうと、セキュリティシステムにハックした。と思っといてください。 数分後、封筒を手にして、普通に離亜が出て来た。 ◆ ◆ ◆ すっと、歩き去ろうとすると、 「ああ、離亜さん。こっちです。」 屋敷の近くの街灯の下に黒ずくめの服に黒いふちの眼鏡を掛け、優しそうな笑みを浮かべた、若手サラリーマンのような男が、黒いチェロケースを持って立っていた。何故か手には6×6×6のルービックキューブが握られていた。 男の名は 庚 理栽(かのえ りさい) チーム庚のリーダーである。 「そして、恐らく遠距離戦のプロフェッシャル…」 「…何か言いましたか?」 離亜は軽く首を横に振ると、庚の傍に立つ。 「これが,例の書類です。」 序に言うと、有る政治家の裏金リストである。 (リストなんか作らなければいいのに。) と、離亜は偶に思うが、特に言うつもりも無い。 「はい、ちょっと、待ってくださいね。」 庚は6×6×6のルービックキューブをポケットにしまって、離亜から書類を受け取る。 「では、明日も仕事があるので、これで…」 部屋に積んである本の事を考えて、そさくさと帰ろうとすると、 「ああ、ちょっと待ってください。」 「…何ですか。」 あくまでも無表情に庚を見る。 「追加任務です。」 ひょいと封筒を渡す。 「…分割で、ですか?変な依頼人ですね。」 大体、こういう事を頼む人はこちらに対して、必要以上に弱みを見せないものなのだが。 「まあね、このリストと対になって必要な物だそうですよ。」 割と、どうでも良さそうに庚が言う。 「分かりました。」 その場で、ぱぱっと読んでしまうとすぐに封筒を返す。 「ああ、書いてあったと思いますが、次は直接依頼人に渡してください。」 軽く頷く。 「あ…それと、」 ポケットから、6×6×6のルービックキューブを取り出した。 「これは?」 「戊三馬鹿トリオの作品ですよ。一杯押し付けられたんで一つ貰ってください。」 やや、呆れつつも一応受け取る。 「では、また。」 それだけ、言い残して、庚は夜の闇に消えた。 しばらく、離亜はルービックキューブをカチャカチャと動かすが、簡単に全部揃えて見せると退屈したように一息ついて、それをポケットに入れた。 (さて、今日はどれを読もう…) ◆ ◆ ◆ 翌日、学園の職員室で離亜はふと、新聞を見た。 当然、自身のした盗難事件は載っていなかったが、新聞の端の方にその屋敷の近くで頭を吹っ飛ばされた身元不明の死体が見つかった、とあった。 (庚さんのお節介…) 恐らくあの短槍使いだろう。 (気の毒に…) 簡単に死ぬ程弱いなんて。 ◆ ◆ ◆ 夜 離亜は今度はあるビルに侵入していた。 …終わったけど 入ってから数分後、離亜は封筒片手に悠然と出て来た。 「静実離亜です。これから、依頼人の元に向かいます。…ええ、依頼の通りに。」 リーダー庚理栽に簡単な連絡を入れ、離亜は依頼人の待つ倉庫街に向かった。 人気の無い其処で離亜は予め知らされていた倉庫に入る。 依頼人の名は手塚喬久、裏で、色んな所のパシリをやっている便利屋である。 (となると、彼自身も本当の依頼人ではないのだろう) と言っても、当然暮里もその程度は気づいた上で黙殺しているのだろうから、そんな事に気づいてもなんら意味は無い。 「どうも、あなたが暮里の静実離亜さんですね?」 まだ若い、堅気崩れのような格好をした男は言う。 「はい。依頼の品はこちらになります。」 こういう事はさっさと終わらせたい離亜である。 (時間の無駄だし) とか考えつつ、一歩踏み出す。 ドン!目の前を大砲の弾が横切った。 弾は倉庫の壁に直撃し壁を溶かす。 大砲が飛んできた方を見ると、体にこれでもかと銃火器を装備した男が使い捨てロケットランチャーを持って立っていた。 見渡すと、依頼人とその銃を持った男を含めて、七人の男が倉庫に居た。 「これは…敵対行動と見なして良いのでしょうか?」 面倒な事になったと思う。 手塚は驚くほどにこやかに頷く。 (…自殺志願者かどこかのバックがあるのかのどちらか。) 普通、暮里を敵に回す事はどこも避けたがる。例え月里であろうと正面から当たれば無事には済まないから。 と、銃火器を山ほど装備した男がジャキっと拳銃を構え、鉄の弾丸を放つ! 離亜は弾丸が当たる直前、いつから持っていたのか、手のメモ用紙を二枚、男に向けた。 と、弾は真っ直ぐ、逆転して、男の胸に突き刺さった。 そして、もう一枚のメモ用紙が鳥と変わり倒れ臥す男の首を両断する。 「ちっ!」 手塚が軽く舌打ちすると同時に離亜は更に三羽の鳥を出す。 逃げ損ねた一人が、鳥によって胸に穴を開けられた。 その間に、離亜はメモ用紙を、まとめて十枚程ちぎって、自身の周囲に展開させる。 「では、始めましょう。」 静かに離亜が宣言した。 「おりゃあ!」 一人の男が何処から出したのか、軽く半径50mぐらいのハンマーを持って、離亜目掛けて落ちてくる! 離亜は無言で、メモ用紙を一枚取って、素早く文様を描く。 ぴっとそのメモ用紙をハンマー目掛けて飛ばす。 メモ用紙がハンマーに当たると共に、ハンマーは溶け落ちた。 「何い!」 男が驚愕の声を上げたのも一瞬、次の瞬間、男の体もハンマーと同様に溶けた。 ぼたぼたと男とハンマーだった液体が倉庫に落ちる。 「えげつなー。」 一人がそう言いつつ、懐から小さな硝子玉を出す。 彼がそれを投げると、それはあっという間に人一人分ぐらいの大きさになり、離亜目掛けて飛んでくる! 離亜は無言でメモ用紙を飛ばすが、メモ用紙は玉に当たると共に玉の中に吸い込まれた。 その分、僅かに玉が膨らむ。 「Avarice Gem(貪欲な玉)って呼んでてね、何でも美味しく頂くのさ。」 男が自身たっぷりに言う。 「そうですか…」 どうでも良さそうにそう言って、懐から一冊、薄い革張りの本を取り出す。 その間に、玉は離亜の眼前にまで迫っていた。 「来なさい。“壊れた紳士”。」 と、本が暗い光を放ち、辺りを包む。 光が消えた時、一人黒いタキシードと黒いシルクハットで顔を隠した男が、手にしたステッキで玉を押さえていた。 「ほい。」 男が軽く言うと、玉は逆の方向に猛スピードで飛んで行く。 「あ…」 間抜けな声と共に、術者は自らの作った玉に飲まれて消えた。 パチンと玉も弾ける。 「どうも、始めまして。私は“壊れた紳士”こと、幻魔ナ・ビュ・ピテュールと申します。ああ、勿論この世界での呼び名ですがね。で、所属世界はこの世界で言う所のレベル6クラス、序に私の種族としてはヒューマンタイプのデミゴット。というところです。以後お見知りお気を。」 そこまで言って、幻魔は深深と気取った仕草で一礼する。 これが、離亜の使う最高の召喚獣(なお、幻魔とは、実際の魔族と区別する為)…獣と言っても、実際デミゴット(半神)であるが。 「余り、長くは呼べない。さっさと終わらせよう。」 暗く光る本を持って離亜が言う。 (精々。五分か) まあ、それぐらいあれば十分だろうが。 「はいはい、分かりました。ご主人様。」 軽く離亜に一礼すると、幻魔は消えた。 「どこに行った!」 男の一人が怒号を上げる。 「ここですよ。」 その男の背後から幻魔が現れる。 幻魔は驚く男の首目掛けて、ステッキを振る。 ギャギャギャギャとステッキから小さな刃が現れ、高速振動している。 ズシャ!綺麗なほどスムーズに男の首が両断された。 そして、近くに居たもう一人をステッキの餌食にしようと振りかぶる! ガシッ!っと男は手にした刀で幻魔のステッキを受け止める。 「ほう、中々。」 その声は男の背後から聞こえた。 男が驚いて振りかえろうとしたが、その間も無く、後ろに居た二人目の幻魔が男を左右に両断した。 「クソ!」 遂に一人となった手塚は両手から灼熱の炎を二人の幻魔目掛けて放つ! 「おっと、危ない。」 一人に減った幻魔は炎に対し軽くステッキを振りまわす。 それだけで、炎は散った。 「「はい、終わり。」」 何時の間にか、手塚の両脇に現れた幻魔が宣告する。 閃いた銀線は四つ。手塚の体は綺麗に五等分され、バラバラと崩れ落ちた。 離亜が戦闘を宣言してから僅か五分、ただそれだけの時間で、七人は完璧に死亡した。 「終わりましたよ。ご主人様。…それでは、今回の報酬を頂きますかね。」 再び一人に戻った幻魔がそう言って、死骸を一つ手に取る。 「頂きます。」 幻魔の口は有り得ない程広がり、死骸を丸呑みにした。 「ああ、最後のは残しておきなさい。」 離亜の言葉に軽く頷くと幻魔は残り五つの死骸を丸呑みにすると、離亜の手にしていた本に吸い込まれていった。 (…ああ、そうか。) 暫く、なぜあの幻魔が嫌いなのか考えていたが、ようやく、その理由に思い当たった。 (椋涙に似ているからか。) 一人納得して、ニ三度頷くと、携帯を取り出す。 「想像通りでした。庚さん。確かに手塚の方は始末しました。」 “はい、お疲れ様。” 実は指令書の中に、手塚は裏切る可能性が有るので、その際は始末すること、と書かれていたのだった。いや、暮里を騙したのなら始末するのは当然か。 「で、この書類はどうしましょうか?」 今夜ビルから盗って来た書類を見て言う。 “それなら、その辺に置いといてください。手塚の死体は有るんでしょう?なら、その近くに置いておけば良いですよ。” 「わかりました。…ああ、それと一つ。」 “何ですか?” 「これはやっぱり、任務達成にはなりませんよね?」 微かに残念そうな口ぶり。 “まあ、それはそうだけど…まあ、掛け合って、ノーカウントにしてもらおうか?” 暮里の報酬基準は臨時収入やチップを除けば基本は一年間の任務達成率に応じて払われる。 まあ、教師もやっているから、金は充分有るのだが、やっぱりタダ働きは精神的にきつい。 「そうしてくれると、助かります。」 “はい、分かりました。それじゃあ、急いで撤収して下さい。” 「分かりました。」 通話を切って、倉庫から出ようとした時、 ドカーン!轟音と共に、天井を突き破って人ぐらいの大きさの真っ赤な火球が落ちてきた! 556.Re: ペーパー・グラフティ 名前:土埜 日付:2007/6/23(土) 15:46 咄嗟に、メモ用紙を取り出す離亜。 と、火球から、火が消えその中から一人の男が現れた。 大柄で、彫りの深い顔に顔の半分を覆う程の火傷の跡をした、40代ぐらいの壮健とでも言えそうなその男に離亜は見覚えがあった。 「なんだ、もう終わってんじゃねーの。」 男が意外と若い声で残念そうに手塚を見る。 「火宮豪炎(かみや ごうえん)さんでしたね。」 離亜の声で、豪炎はこちらを見る。彼は現在火宮の最強戦力にして、歴代含めても並ぶものが無いと言われている程の猛者である。 「えーっと、あんたは確か…」 「静実離亜です。その節は大変お世話になりました。」 離亜は昔、ある件で豪炎に偶然助けられた事がある。 「ああ、そうだったな。ふん、暮里が動いたとか聞いていたが、あんただったか。」 つまらなさそうに豪炎は鼻をならす。 「どうして、あなたがこんな所に?」 豪炎は足元の頭を蹴っ飛ばしつつ答える。 「これはそもそも、うち(火宮)の遠縁にあたるらしくてな、それでまあ尻拭いとでも言う所か…ま、もう終わってたけどな。」 帰ろ帰ろとか言って、普通にドアから出て行った。 「では、私も帰りましょう。」 … 翌日 天峰学園職員室 まだ、早朝の職員室に一人、離亜が本を読んでいる。 「どうも。おはようございます。離亜さん。」 軽薄な声に目を上げると、其処に居たのは、モデルでも出来そうなほど、格好をきめた男。 男の名は 東 北西南(あずま きせな)表向きはこの学園の教師、しかし実際は七宮の一つ木宮の第一分家、東家の当主であり、五行を使いこなす魔術の天才である。 「そして、恐らく木宮にも叛旗を翻そうとしている野心家。」 「いや、誰に言っているんです?」 よく見ると、彼の顔には幾つか引っかき傷があり、そして、左腕を吊っていた。 「…男性教師ナンバー1の顔が台無しですね。」 やる気なさそうにそう言って、再び本に目を落とす。 「それ言ったら、あなたは女性教師ナンバー1らしいですよ。知ってました?」 離亜は軽く頭を振る。 「こんな朝早くに来るとは、珍しいですね。」 大抵彼は遅刻ぎりぎりを狙って来ている。 「まあ、ちょっと、昨日の事について説明でもしようかなーと気まぐれを起こしまして。」 昨日の件とは、先ず間違い無く、手塚の件だろう。 「傀儡師はあなたでしたか。」 本から顔を上げずに無感動に言う。  「そうです。と、言っても今回は散々でしたけどね。」 「ああ、そう。では、折角ですので今回の件の説明でもして下さい。」 流石に本を畳み(名残惜しそうではあったが)、真っ直ぐに東を見る。 「では、役者を説明しましょう。まず、あなたが盗ったデータ、あれは実は華村系の政治家と金宮の内通を証明するものだったんですよ…はい、これで、金宮が舞台に上がった。」 「で?」 「更に手塚はそもそもが火宮の遠縁に当たります。はい、これで火宮が舞台に上がる。そして、手塚は木宮の分家である、東…つまり私の部下…というか私からすれば手駒で、彼からすれば協力者ということです。で、手塚は暮里にデータの強奪を依頼します。」 「結局、火宮、木宮、金宮、そして、暮里が出た。」 「そうです。で、青写真としては、金宮のデータを盗った暮里を手塚が始末して、そのデータを火宮に売ります…とすると、火宮対暮里…そして対金宮となります。…で、そうなった所で木宮が火宮に同盟を持ちかける…ま、軽くこんな事を考えていたんですけどね…おっと、この話、言い出したのは手塚ですよ。私はそれに協力しただけ。」 「…あなたの青写真は何だったの?」 「いや、まあ、あれが巧く行けばそれはそれで良かったんですけど、それだといまいち火宮と木宮のリスクが、高過ぎる事には気付いたでしょうね。そう、これ本来は手塚が自分を犠牲にして、恨みの有る火宮を滅ぼそうとしたんですよ。」 「あなたとしては、ここは火宮に恩を売っておきたかった。あくまでも自分自身で。」 「その通り。なんで、結局手塚は遅かれ早かれ死ぬのは免れなかったんですよ。ま、本人はそれでも良かったのでしょうが。」 「で、結局、あなたは手塚を火宮に売った。」 「その通り。…あなたは知らなかったでしょうが同様に金宮にも売ったんですよ…あなたが消えてから数分後には金宮の鋏さんが来て、八つ当たり気味に倉庫をばらして行かれました。」 「あなたはその時あそこに居たの?」 「ええ、まあ誰も気付きませんでしたね。…そうそう、あなたの幻魔凄かったですね。どうやって契約したんです?」 完璧に見られていたらしい。 「それは企業秘密。」 あ、やっぱりと演技で肩を落として見せる東。 「で、まあどう転んでも、あの書類を火宮か金宮のどちらかが来るまでに隠しておけば、金宮と暮里、火宮の仲が悪くなって良かったんですが、思いのほか豪炎さんが早すぎたせいもあって、結局、空中分解。で、私は大怪我。」 「そういえば、それは犬にでも噛まれましたか?」 流石に冗談である。 「犬なんて生温い物じゃありませんよ、ありゃ、飢えた狼の大群って感じでしたね。」 「そう。」 東にここまで言わせるとはどうやら、庚理栽が動いたらしい。 (相変わらず、良いヒト…) 有る意味理想の上司だと思った。 「ま、説明はここまでですね…では、ま、暫く大人しくしていますよ。」 「そう。」 話が終わった事を知ると、再び本を読み始める離亜であった。 「まるで、道化だったというのに何の感想も無いんですね。」 やや、感心したような声色だった。 「…所詮、世界は紙の上に書かれたお芝居にしか過ぎない。ただそれだけ、所詮死ぬまで舞台からは降りられない。」 当たり前の事を言わせるな、と離亜は東を睨んだ。 (そう、所詮、世界はお芝居にすぎない。いくら怒っても悲しんでも、それも所詮作り物…)

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