読書ノート(免疫の意味論)


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免疫の意味論 多田富雄 青土社 1993年4月20日 第1刷


第1章 脳の「自己」と身体の「自己」
episode 神経管キメラ ニワトリにウズラの卵を使って、発生途上の胚の神経管の一部を入れ替える。しかし、キメラとなったニワトリはやがて衰弱して死ぬ。ニワトリの免疫系がウズラ由来の細胞を「非自己」の異物として認め、拒絶するからである。ところが、神経管移植の際にウズラから「胸腺」になる原基を取って移植すると拒絶反応は起こらない。

命題 「自己」と「非自己」を規定しているのは脳ではなく免疫系である。

解題 「自己」と「非自己」を識別するのは「組織適合抗原」であり、MHC(主要組織適合遺伝子複合体、major histocompatibility complex)と呼ぶ遺伝子群。人間ではHLA(human leukocyte antigen)抗原と呼ばれる。MHC抗原は、細胞の表面にあるタンパク質で、人間では少なくとも6種類の分子が知られている。MHC遺伝子は、人間では第六染色体上に集合して存在する。この6種類のタンパク質とその組み合わせをリンパ球系のT細胞が認識し、排除しようとする。


第2章 免疫の「自己」中心性―胸腺と免疫の内部世界
episode B.C.409年カルタゴはシチリアのセリヌス(現セリヌンテ)を攻略した。その後、シラクサを攻撃したがペストが発生し、B.C.406年には撤退。B.C.398年に再度シラクサを攻略したが再びペスト禍に遭った。前回でペストを耐過したシラクサ軍には病人が少なかったが、新しく編成したカルタゴ軍には患者が続出し、戦闘どころではなかった。

命題 免疫系からみた「自己」と「非自己」とは何か。

解題 人間では「胸腺(Thymus)」の重量は、10代前半で35gに達し、その後密度でみると40代で50%、60代で25%に縮小する。この胸腺からサプライされる細胞が(胸腺の頭文字をとって)T細胞と呼ばれるリンパ球であり、「非自己」を強力に排除するための免疫反応の主役となる。
 T細胞は胸腺から出て行く段階で役割が決まっており、以下のものを含む。
 ・ ヘルパーT細胞:免疫反応を増強させる働き
 ・ サプレッサーT細胞:免疫反応を抑制させる働き
 ・ キラーT細胞:細胞に取り付いて殺す
 これらのT細胞は、細胞の表面に「自己」と「非自己」を見分けるTcR(T細胞抗原レセプター、T cell receptor)分子を備えている。

 T細胞は直接「非自己」を発見するのではなく、「自己」に入り込んだ「非自己」を認識するらしい。
 例えば、アルブミンが人間の血液中に入った場合は、
 ①マクロファージ(白血球系細胞)によって捕食され、分解される
 ②分解されたアルブミンの断片がマクロファージの表面に出てくる
 ③マクロファージ表面にあるHLA抗原(クラスⅡHLA抗原)は細胞表面と内部を循環しており、この過程でアルブミンの断片と結びつき、細胞表面に浮上(「抗原の提示」)
 ④T細胞が、TcRによりHLA抗原に付いたアルブミンの断片を認識
 ⑤T細胞が活性化し、遺伝子が活動して様々な活性分子が合成され、最終的にアルブミンに対する抗体が合成される。
 という機序をとる。

 胸腺でのT細胞の製造
 ①造血幹細胞が胸腺に入って分裂増殖を始めると、遺伝子が動き出しTcRの遺伝子がつなぎ合わされる。
 ②TcRを持ったT細胞ができると(第一段階)胸腺上皮細胞上のHLA抗原を認識できるか、(第二段階)自己のHLA抗原と強く反応して排除してしまわないか、が試される。(96~97%のT細胞がふるい落とされる)

第3章 免疫の認識論―ネットワーク説をめぐって
命題 抗体について。B細胞の選択と教育のシステムは?

解題 抗体を作る細胞をB細胞(Bone Marrow=骨髄に由来)と呼ぶ。抗体分子をレセプターとしてもち、抗原を認識すると大量に抗体分子を合成分泌し始める。抗体分子は免疫グロブリン(Immunogloblin、Ig)というタンパク質に属し、H鎖(Heavy Chain)とL鎖(Light Chain)のポリペプチド鎖を持つ。
  •  H鎖 V遺伝子(Variability)突然変異を頻繁に起こす(人間のH鎖には数百個)
     D遺伝子(Diversity)多様性(4個)
     J遺伝子(Joining)連結(4個)
  •  ネットワーク説(ニールス・K・イェルネ)
  抗体分子はお互いに反応しながらひとつのネットワークを作っている。あらゆる「自己」は、「自己」にとって新しいものではあり得ない。(チョムスキーの生成文法論を引いている)
  抗体がどのようにして「非自己」と反応するレパートリーを用意できるか、という問題についての回答を与えているが、一方で、反応の大きさ、方向性(正・負)・時間・質が決定されるかという問題についての回答にはなりえていない。また、T細胞やインターロイキンの研究が進むにつれて、固有の働きを持つ分子のエスタブリッシュメントシステムがわかって、ネットワーク説は急速に力を失った。


第4章 体制としての免疫―インターロイキン王国の興亡
命題 T細胞はどのようにしてB細胞の増殖、分化、成熟、タンパク合成を助けるのか。

解題 B細胞刺激因子としてインターロイキンが脚光を浴びた。
  IL(interleukim、インターロイキン)=白血球(leukocyte)間の情報伝達分子。現在11種類が認められている。また、インターロイキンと同じカテゴリーに入る分子としてサイトカイン(cytokine)と総称されるものがある。
  •  IL1 脳の発熱中枢に働いて発熱を起こさせることなど
  IL2 他のT細胞についてその増殖を促す(谷口維紹)
  IL3 造血細胞に働いて増殖と分化を促す(新井賢一)
  IL4 抗体のクラス転換に関与する(本庶佑)
  IL5 B細胞に抗体を合成するよう指令する(高津聖志)
  IL6 B細胞が抗体を合成する際の後期過程を指令する(平野俊夫、岸本忠三)
  •  1つのインターロイキンは複数の反応に関与している。これは元々同じ元祖遺伝子の重複によって生じたことで、発現制御に共通の調節性エレメントを用いるためと解される。
  •  インターロイキンの有する冗漫性と曖昧性の上「自己」は成立している。


第5章 超システムとしての免疫―自己の成立機構
命題 T細胞、B細胞、インターロイキンという別々の免疫細胞はどのようにしてできてきたのか。

解題 すべて、1種類の造血幹細胞と呼ばれる原始的な細胞に由来する。幹細胞は、胎児発生の過程で、まず肝臓内に出現し、出生後は骨髄中にある。この幹細胞がT細胞、B細胞、マクロファージなどに分化すると、細胞表面にCD(cluster of differentiation)分子と呼ばれる、特徴のある糖タンパク質が現れる。
造血幹細胞がT細胞になるかB細胞になるかは、細胞が分化する際の環境による。胸腺に入ればT細胞に、骨髄内のストローマ細胞が指令を行うとB細胞へ分化する。TcRのレパートリーもT細胞が成熟する環境によって決定される。免疫系は、単一の細胞が分化する際の場に応じて多様化し、流動的なシステムを作る。それからさらに「自己」に適応して多様化と機能獲得を行っていく。このような変容と自己組織化を超システムと呼びたい。
その超システムが機能するための条件として
 1. システムの構成メンバーが十分に多様であること
 2. 多様な要素が、自己言及的なやり方で補充可能であること
 3. それぞれの構成メンバーが、単一あるいは複数の役割分担を持ち、相互調節関係を持つこと

この超システムは、その構成メンバーに一定以上の障害・欠落が生じたときに破滅に至る脆さを持っている。その典型例がエイズと老化である。

第6章 スーパー人間の崩壊―免疫系の老化
命題 超システムの崩壊として、老化現象を考える。

解題 個体の老化は分裂能力の低下だけでは説明できない(造血・免疫系細胞は老人から採ったものでもよく増殖する。試験管内で適当な条件を与えるとほとんど永久的に分裂し続ける)。老化は分裂能力の低下や老化物質のようなものが重層的に様々な臓器で起こって超システムとしての個体を崩壊させる過程。
 免疫系における老化:老人の方がインフルエンザにかかりやすく治癒も遅れる。胸腺の退縮にやや遅れて、T細胞系の免疫機能の低下が起こる。この抗体の生産能力が低くなる頃から、「自己」の細胞の核と反応するような抗体が作られ始める。この結果、結成中のIg(免疫グロブリン)の量は年齢とともに上昇する。「非自己」との中和抗体をうまく作れなくなるのはこのためである。
 胸腺の加齢による退縮は、偏ったレパートリーの自己増殖と幹細胞から胸腺の選択・教育を受けることなくサプライされるT細胞が増える(自己との反応)ことで、超システムの原則が失われ、「自己」の同一性が崩壊する。


第7章 エイズと文化―RNAウイルス遺伝子の謀略
命題 超システムの崩壊として、エイズを考える。

解題 エイズウィルスの粒子は、ヘルパーT細胞の表面にあるCD4(糖タンパク分子)に結合する。結合したウィルスは酵素作用で被膜を脱ぎ、中身だけ細胞内に入るが、ここで逆転写酵素を使ってRNAをDNA(プロウィルス)に読み替える。このDNAが細胞核のDNAに入り込み、遺伝子の一部となって複製を行っていく。
 こうしてCD4を持ったヘルパーT細胞が血液中からほとんど消失するとエイズが完成する。抗体は作られるが、結合する被膜のタンパク質をコードする遺伝子にはインフルエンザの十倍以上の速さで突然変異が起こるため、追いつけない。

 人工的に作ったCD4を血液中に加えても急速に消失してしまう(試験管内ではうまくいく)。ウィルスに直接働くジオキシニクレオシド誘導体という化学製剤だけが臨床に応用されている。私とルナール純子氏は、人間の新鮮血清中に含まれるB因子と呼ばれるタンパクが、他の血清分子との協同作用でエイズウィルスに感染したT細胞の死を防ぐことを発見した。


第8章 アレルギーの時代―あるいは相互拒否の論理
episode イタリアのジローラモ・カルダーノは1552年、セント・アンドリュース大司教の喘息を往診することになった際、白鳥の羽毛が入った枕を取り上げることで、喘息を治癒した。
また、1902年モナコでクラゲの毒の研究をしていたフランスのポルチェとリシェは、きわめて少量のクラゲ毒でショック死してしまう犬がいることを発見し、アナフィラキシーショックを発見した。

命題 アレルギー(allos<変わる>とergon<力>の合成語)はなぜ増加したのか、その意味するところは何か。

解題 アレルギーの機序は以下のとおり(花粉症の例)
1. 粘膜に捕らえられた花粉のタンパク質が溶け出し、マクロファージがそれを貪食する。
2. マクロファージ表面上に浮き出てきたタンパク質の断面に対して、ヘルパーT細胞とサプレッサーT細胞が発見し、抗体を合成する。
3. この際、サプレッサーによる抑制が働かないと、アレルギーを起こす抗体の生産が高まる。
4. アレルゲンと反応したB細胞は、ヘルパーT細胞(IL4とIL5)の指令によって、抗体(IgE)を生産する。
(アレルギーを起こす抗体、IgEと呼ばれる免疫グロブリンは、1966年石坂公成、照子によって発見された。血清中の濃度は1cc中に1/100万gしかない。)
5. IgEは体内のいたるところにある肥満細胞と血液中の好塩基球(特殊な白血球)の表面に強固に結合する。(アレルギー準備状態)
6. アレルゲンと反応したIgE抗体は、肥満細胞と好塩基球に存在する毒性を持ったアミン化合物(ヒスタミン、セロトニンなど)を遊離する。
7. ヒスタミンは平滑筋を収縮(喘息)させ、血管を拡張し(血液成分が漏れて蕁麻疹が起こる)、メディエーターと呼ばれる分子を新たに合成し、分泌する。

アレルギーの発症差は、遺伝的(アレルギーを抑制する働きの方が遺伝する/九大 笹月健彦)に決定されている。

アレルギーの増加要因として、子供の鼻や喉の感染症の変化が重要と考える。青洟には多数の細菌があり、免疫系を強く刺激していたはずである。こういう化膿菌に対してはIgG抗体は作られるが、IgE抗体の生産は抑制される。抗原によってはIgG生産を促すTh1ヘルパーT細胞が選択的に刺激されるからである。

これまで共存してきた雑菌という本来の敵を失った局所の免疫系が、過剰の拒否の姿勢を示しているように見える。


第9章 内なる外―管としての人間
命題 人間を消化管という管を内腔とした巨大な管と見たとき、消化管の免疫学的意味について

解題 消化管粘膜下の血管の周囲、粘膜固有層には多くの免疫系細胞が分布するが、中でもB細胞が一番多い(全身のB細胞の70~80%が存在)。消化管は外部と接触する場であり(腸の内部は「外界」)、それに対応するための強力な免疫学的戦略が配備されている。
 粘液には共通して抗体が含まれ、それも血液中には少ないIgAに属している。IgAは一日で4g(体重60kgの人)生産される。IgGが0.034g、IgMは0.008g、IgEは2/10万gであることから、IgAが突出して多いことがわかる。
 免疫グロブリンには、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEがあり、IgGとIgMは抗原の破壊白血球の遊走、炎症などの強烈な反応を起こす。これに対してIgAは炎症も起こさず、破壊もしない。アレルギーも起こさないが、大量に存在することで抗原を中和し、抗原が過剰に増えるのを抑えるといったゆるやかなバリアーを作っていると思われる。
 消化管は、外界の異物を拒否するのではなく、「寛容」(特異的に免疫反応を起こさなくなる現象)になるための働きかけをしているらしい。


第10章 免疫系の叛乱―自己寛容と自己免疫
命題 自己免疫の意味について

解題 「自己中毒の恐怖」"horror autotoxicus"(自己に対する免疫は元々起こらないようにできている)と語ったパウル・エールリッヒ(1908年ノーベル賞)にかかわらず、ほとんどすべての臓器に自己免疫性の病気がある。
 これは、T細胞ほどには、B細胞の自己反応性の排除がはっきりしていないこと、B細胞では抗原の刺激を受けるとIg遺伝子に高頻度で突然変異が挿入されることがある。にもかかわらずB細胞が自己抗体を作らないのはT細胞からの指令がないからだとされている。
 しかし、試験管内での培養結果からは、T細胞は自己とも反応する。自己反応性T細胞は完全には消去されていない。T細胞の指令がないという以上に複雑なメカニズムが働いているらしい。
 考えられものとして以下の2つを挙げる
 1. 自己反応性のB,T細胞は過剰に存在する自己抗原と反応した結果、「無能力(アネルギー)」になってしまう。
 2. 自己反応性T細胞がサプレッサーT細胞を強力に刺激し、自己破壊を起こさないようなメカニズムを働かせているらしい。

  いろいろな自己免疫疾患が、特定のHLAの型と強い相関を示している。自己抗原が入り込みにくいHLA分子を持っている人では、自己反応性T細胞が呼び覚まされず、そういう形での自己免疫病は起こらないはずである。

第11章 免疫からの逃亡―癌はなぜ排除されないか
episode イタリアの孤島サルディニアは様々な他民族に征服されてきたが、土着の民族性は2000年にわたって維持された。この要因のひとつに風土病がある。サルディニアには悪性のマラリアがはびこり、内陸までの征服を許さなかった。しかし、島民の方は地中海性貧血という遺伝病を持ったため(発症率で20%、遺伝子保有で70%に達する)、赤血球が変形し、マラリアが感染できなかった。

命題 なぜ癌に対して免疫系は積極的な抵抗をしないのか。

解題 なぜ、有効なマラリアのワクチンが開発されないのか。

マラリアの機序は以下のとおり
1. マラリアを媒介する蚊が人を刺すと、唾液腺の中にいたスポロゾイトと呼ばれる時期の原虫が皮膚に送り込まれる。
2. スポロゾイトは血液を通って肝臓に達し、そこで形を変えて増殖し始める。
  (この段階で原虫はメロゾイトと呼ばれる)
3. 1個の肝細胞から4万個のメロゾイトが血中に放出される。(激しい発熱悪寒が起こる)
4. メロゾイトは赤血球に入り込み、何段階もの変化を起こしながら増える。
  やがて赤血球は破裂し、さらにメロゾイトが新しい赤血球に感染する。

 マラリア原虫は頻繁に形を変えるため、抗原性を変化させる。赤血球中にいる間は(赤血球にはHLA抗原は無いので)抗体もリンパ球も触れることはできない。放出されたメロゾイトの表面のタンパク質は深く折り畳まれた形になっていて、抗体と結合できる部分は露出していない。

 癌に対する免疫は存在する。「自然」に存在するNK細胞(Natural Killer Cell)がそれである。癌細胞が出現しやすい消化管の上皮などではたくさんのNK細胞が集まっていることで知られている。NK細胞は正常の細胞とは微妙に異なった部分を見つけて細胞膜に穴を空けるような物質を吹き出して殺してしまう。NK細胞の機能は青年期に最も高く、40歳代で半減し、高齢者では著しく低い。

 癌抗原の一部はHLAクラスⅠ抗原とともに癌細胞の表面に現れる。癌免疫が起こるためには、まず、癌抗原とHLAクラスⅠ分子が結合できるかどうかであり、その次に、ヘルパーT細胞(CD4T細胞)がHLAクラスⅡ分子に結合した癌抗原を認識する必要がある。さらに、癌抗原によってサプレッサーT細胞が刺激されないことが必要である。

 これに対し、癌細胞ではHLAクラスⅠ分子が消えてしまう例がある。また、癌抗原のいくつかは人間が胎児の頃に作っていた分子であり、「自己」と認識されてしまう。HLAクラスⅠ分子に結合し、キラーT細胞によって「非自己」と認識されるような癌抗原は、実は著しく少ない。
 癌遺伝子は、実は人間にもともとあった遺伝子を、ウィルスが自分の中に組み込んで持ち出したものであることがわかった。しかし、どんな小さな違いでも免疫系は発見することができるはずである。微細な変化部分を含むタンパクを人工的に合成してうまくHLAクラスⅠ分子に結合させられないか。またHLAを癌細胞に強く発現させられないか。サプレッサーT細胞の刺激を抑制することも考えられる。


第12章 解体された「自己」―再び「自己」について
命題 再び「自己」とは何か

解題 免疫系が見ている「自己」では、人間に寄生しているウィルス(内在性ウィルス)を「自己」の中に包含している。また、マラリア原虫や住血吸虫も「自己」と同様に扱う。これに対して自分の遺伝子でコードされているタンパクでも、甲状腺のコロイドタンパクなどは「非自己」として認識し、免疫反応を起こす。
 免疫系が発生してくる環境に存在していた物質の総体が「自己」である、という回答もあるが、母乳タンパクなど、成熟した初めて作り出されるようなタンパク質があることから、これも否定される。
 正確には免疫学的「自己」というものが存在しているわけではない。反応する「自己」、認識する「自己」、認識される「自己」、寛容になった「自己」というように、「自己」は免疫系の行動様式によって規定される。そうすると、「自己」というのは、「自己」の行為そのものであって、「自己」という固定したものではないことになる。現代の免疫学は、「自己」の行為が「自己」を規定するという部分について理解しようとしているのである。

 (ねずみの同系統では移植できるが他系統には移植できないなど)移植が成立するかどうかを決定している因子は、組織適合抗原といい、最も強力な抗原を主要組織適合抗原、それを決定している遺伝子座をMHC(主要遺伝子組織適合遺伝子複合体)と呼ぶ。人間のそれはHLAである。

 免疫は、ウィルスや細菌の感染防御にとりあえず成功している反面、自己免疫も決してまれな事例ではない。「自己」と「非自己」は互いに曖昧につながっている。それにもかかわらず「自己」の同一性はその時々で保たれている。その「自己」も、時とともに変貌する。
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