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s_nar02_1 | 鳴歌個別2 シーン2-1 スタート

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;背景(通学路)
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西友の練習を手伝うことにして一週間。

いきなり読み合わせしても駄目だろうということで、家で台本を読み耽る日々が続いていた。

そのおかげで、この『ディザイア・トリガー』ってラノベについて、すっかり詳しくなってしまった。

ジャンルとしては異能バトル物で、隔離された学園が舞台になっており、主人公とヒロインは、外の世界に脱出しようとする一派『エクソダス・ナイン』に属している。

それを阻止する学園内の浄化組織『パンツァー・シュツルム・ハーケン』との戦いがメインで、ストーリーらしいものは余りない。

オレも1巻を読んでいて、バトルや台詞なんかは面白いが、ずっと学園内でドンパチやってるだけだなという感想を抱いた。

だが、終盤となり物語の核心に近付くと、いきなり物語が動き出し、善悪が逆転する種明かしと驚愕の事実が待っている。

正直油断していたので、この結末には素直に脱帽した。

恐らく作者も散々バトルで引っ張ってミスリードを誘っていたのだろう。

てなわけで、シリーズ7巻まで一気に読んでしまった。

その『ディザイア・トリガー』がドラマCD化し、キャストを公募しており、西友がチャレンジするという。

今日はそのオーディションに向けての練習初日だ。

今日までオレは、家ではもちろんのこと、学校の休み時間などを利用して台本を読み込んでいた。

いまだって脳内にバトルシーンを思い浮かべてイメトレを行っているくらいだ。

<結騎 凛>
「ねえまだなの?」

背後から結騎が呟く。

そうだ。練習を行うのはオレの部屋だが、西友の他に監視役が付く。

なんでも若い男女を2人きりにしたら何が起こるか分からないという理由によるものだ。

正直、西友相手に欲情などしないと断言できるが、それを言うと西友が可哀想なので、監視することで安心できるのならいくらでもすればいいと思ってる。

<坂本 隼人>
「もうすぐだ」

オレは背後を振り返り、西友と結騎が付いてきていることを確認すると、その歩みを少し早めた。

…………

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s_nar02_2 | 鳴歌個別2 シーン2-2 スタート

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;背景(自室)
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2人を部屋に案内した直後、オレはお茶を用意するため少し席を外していた。

そうして部屋に戻ったオレが見た光景は、ちょっと予測不能で、ある意味意外だった。

なにせ結騎がこちらにケツを突きだして、ベッドの下を覗いているのだ。

目の前に西友が立ち塞がっていたので、結騎のパンツを見ることはできないのが悔やまれる。

それにしても、この場に西友が居なかったら襲って下さいと言わんばかりの姿勢である。

<坂本 隼人>
「なあ結騎。なにやってんだ?」

<結騎 凛>
「え? あれ? もう戻ってきたの? やだ、ちょっとこっち見ないでよ」

自分がはしたない姿勢でいることは自覚しているようで、結騎は慌てて立ち上がる。

<坂本 隼人>
「それで、何か見付かったか?」

<結騎 凛>
「ち、違うのよ。ちょっとコンタクトを落としちゃって。てへっ」

<坂本 隼人>
「そういうことにしといてやるから2度とやるなよ?」

<結騎 凛>
「わかったわよ。ちょっとした知的好奇心ってやっじゃない。もしも坂本くんが私の部屋に来て、しばらくひとりきりにされたら、絶対にタンスの中とか調べるでしょう?」

<坂本 隼人>
「しねえよ!」

<結騎 凛>
「そ、そうなんだ」

<西友 鳴歌>
「あの、そろそろ、練習を……」

<坂本 隼人>
「そうだな。監視の人が邪魔して練習できないって、どんなジョークだよ」

<結騎 凛>
「ごめんごめん。ちゃんと大人しくしてるから許してよ。これからは私は居ない者と思っていいから」

<坂本 隼人>
「ああ。暇なら原作本でも読んでればいい。机の上に置いてあるからよ。意外と面白いぜ」

<結騎 凛>
「わかったわ。ありがとう」

結騎はそういうと、机の上から『ディザイア・トリガー』の原作本を掴むと、ベッドの上に寝転んだ。

学校ではスキのないやつという印象を受けていたが、意外と行儀が悪いんだな。

…………

さて、気を取り直して練習に入るか。

<坂本 隼人>
「どこから始めようか?」

<西友 鳴歌>
「とりあえず一冊目、ま、間違っても良いから、通しでやってみていいですか?」

<坂本 隼人>
「棒読みでテンポ悪くても恨むなよ」

<西友 鳴歌>
「うん。相手をしてくれるだけで、とてもうれしいから、だから大丈夫です」

<坂本 隼人>
「お、おう!」

なんだろうな。少しキュンときた。

本人は意識してないのだろうけど、時々カワイイことを言うよな。

…………

この小説の長所であり欠点は、登場人物が極端に少ないことだ。

基本的に主人公のアマデウスとヒロインの音無静恋(おとなしせれん)、それから敵の女幹部ティアナ・ヴァルハラ・フォン・ヴィッセンシャフトくらいしか出番と台詞がない。

なので、オレが主人公役で、西友はヒロインと女幹部の声をあてている。

ちゃんとキャラによって声色を変えているのは凄いなと思う。


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s_nar02_3 | 鳴歌個別2 シーン2-3 スタート

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;背景(自室)
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1時間ほど通しで台本の読み合わせを行っていると、流石に疲れてきた。

西友はまだ疲れの色は見せていないが、オレの方が先にバテてしまった。

<坂本 隼人>
「すまん西友。ちょっと休憩していいか?」

<西友 鳴歌>
「あっ! ご、ごめんなさい。わたし、夢中になってて」

<坂本 隼人>
「気にすんな。10分後に再開しよう」

そう呟いて一息いれると──。

<結騎 凛>
「ねえ。私も手伝おうか?」

いきなり背後から結騎が声をかけてきたので、少しだけ驚いた。

そういやこいつ居たんだったな。練習に熱中していて存在を忘れていた。

<坂本 隼人>
「手伝うって言ってもなぁ。原作は読んだのか?」

<結騎 凛>
「1巻はもう読んだわよ。いまは2巻を半分くらい読んだところよ」

早いな。いくらペラペラのラノベとはいえ、1時間で1巻と2巻の半分を読みきるとは。

<坂本 隼人>
「そうか。それじゃ1巻でいうところの4章に、ヒロインと敵の女幹部との舌戦があるからこれの敵役やってくれるか?」

<結騎 凛>
「いいわよ」

<坂本 隼人>
「西友もいいか?」

<西友 鳴歌>
「うん。どちらかひとりに集中したかったので助かります」

いままでは主人公とヒロイン、主人公と敵みたいな会話だったので、オレと西友だけで問題はなかったが、ヒロインと敵となると西友ひとりでやることになるので、結騎の参加はありがたい。

…………

<坂本 隼人>
「あのさ結騎、結騎凛さん?」

<結騎 凛>
「なにかしら斉藤くん?」

<坂本 隼人>
「暑苦しいんでもう少し離れてくんない?」

結騎はオレの隣に座って肩と肩を密着させ、台本を覗きこんでいた。

<結騎 凛>
「だって仕方ないでしょ。台本2冊しかないんだし、こうしないと見えないのよ」

オレが離れようとすると身を乗り出してくっついてくる。

すると、なにを血迷ったか、無言で対面に座っていた西友が立ち上がり、反対側に回り込んで座った。

漢字に嬲るという文字があるが、いまのオレは、その男と女を入れ替えたような感じになっている。

つまり、女男女である。

両手に花で嬉しいなんて言ってられるほど面白いものじゃない。
喉が渇いて冷たい汗が全身から噴き出してくる。

両肩を左右から押さえられて身動きができない。

<坂本 隼人>
「おい、西友までどうした?」

<西友 鳴歌>
「あ、あの、役とはいえ、これから口論する人と向い合せだと、その、萎縮してしまって」

だからオレの隣に来たと?

<坂本 隼人>
「OK! わかった。というかオレの台詞はないんだから台本は結騎に貸すから、ふたりとも離れてくれ!」

オレは無理矢理立ち上がり、西友たちをオレの正面に座らせた。

<坂本 隼人>
「その位置なら西友も結騎も文句ないだろ?」

<西友 鳴歌>
「うん。大丈夫だと思います」

<結騎 凛>
「まあいいけどね。でも坂本くんに見られながら演じるのって少し恥ずかしいわね」

<坂本 隼人>
「結騎もコンクールに出るんだろ? 人前で色々喋る練習だと思えばいい」

<結騎 凛>
「それもそうね」

<坂本 隼人>
「それじゃ始めてくれ」

<結騎 凛>
「了解。それで西友さん。どこからやればいいの?」

<西友 鳴歌>
「えと、ここです。149ページの最初からです」

こうして西友と結騎の読み合わせ、というか女の戦いが始まった。

結騎の方は最初こそぎこちなかったものの、ヒロインになりきった西友が繰り出す容赦ない罵倒にカチンときたのか、その怒りをセリフに込め、上手い具合に言い争うようになってきた。

2人とも演技だと思いたいのだが、その迫力はまるで日頃言えない鬱憤を晴らしているかのようだった。

なんといってもこの4章は、まるごとヒロインと敵の女幹部(ティアナ)の舌戦と言っても差し支えない内容で、主人公は傍観者というかセリフ一つない。

主人公はこれが原因で、ヒロインとの仲が巻を重ねても進展しない伏線というか、言い訳になっているほどだ。

…………

<音無 静恋>
「だいたい敵はアタシたちだけじゃないってのに、どうしていつもアタシたち、いえ、アマデウスばかり付け狙うのかしら?」

<ティアナ>
「こちらにも都合というものがある。それこそ下種の勘繰り、語るに落ちたな小娘。それは嫉妬なのだろう? 魔力も乏しく、技もスキルもスタイルまでもまるで我には敵わない。屈折したコンプレックスなのだろう?」

<音無 静恋>
「ななな、なにいってんのよこのクソババァ! その歳で露出が多い衣装とか、なんの罰ゲームですか? いつも失敗してばかりだからそんな恥ずかしい格好させられてるんでしょ? まさか好きで着てるってことはないわよね?」

<ティアナ>
「フン。見せる価値もない貧相な棒(デク)女には分からない世界だろうね。キサマはその短いスカートで女をアピールしないと少年と間違えられてしまうのだろう?」

<音無 静恋>
「べっ、別に短くないし。これくらい普通だし。オバさんの時代とは違うし。それに男の子と間違えられたことなんてないわよ」

<ティアナ>
「当たり前だ。男と間違えられるような女が居たならもうそいつは女として終わってる。自慢するようなことじゃない」

<音無 静恋>
「さすが女の武器で成り上がってきた人のいう言葉には重みがありますわねぇ。アタシにはとても真似できそうにないし、真似するつもりもないけど、それで幸せ? ねえ幸せなの?」

<ティアナ>
「キャンキャンと五月蠅いねぇ。悔しいなら悔しいっていっていいんだよ? おっぱい凄いですね。わたしも大きくなりたいんですって教えを請えば、そのえぐれた胸に僅かな膨らみを与える秘訣を教えてやってもいいのよ?」

<音無 静恋>
「えっ、ほんとに?」

<ティアナ>
「あはは。本当にバカねぇ。嘘に決まってるでしょ。それにキサマの胸はもう手遅れよ」

<音無 静恋>
「だ、編したのね!」

<ティアナ>
「編される方が悪いって知らなかったのかい?」

<音無 静恋>
「よくも……よくも編したわね~~っ! 絶対に、絶対に絶対に許さないっ!!」

<ティアナ>
「なっ、この闘気はなんだ? こいつにこのような力がまだ眠っていたというのか?」

<音無 静恋>
「うわあ~~~~~~~っ!!」

<ティアナ>
「ひいっ! く、くそう。まさかキサマもトリガー発動者だったとはな。クハハッ! いい土産ができたぞ。今回は引くが次はないぞ!」

<音無 静恋>
「卑怯者! いますぐ決着をつけなさいよ」

<ティアナ>
「2対1は卑怯じゃないのかい? そう焦らなくともすぐに逢えるさ」

…………

女幹部が撤退して、このシーンは終わりとなる。

結騎は10分以上に及ぶ舌戦シーンを終え、肩で息をしていた。

一方、西友の方はまだまだ余裕がありそうだった。

どんだけ肺活量鍛えてんだよ。って思う。

それにしても、ヒロインの西友と、敵幹部の結騎、ふたりとも役にぴったりというか言い争いも迫真の演技というか、やや鬼気迫るモノがあった。

<結騎 凛>
「あ¨あ¨あぁぁ~~~、疲れた。少し休ませて」

結騎はそういうとベッドに向かってダイブし、仰向けになる。

人の家でどんだけくつろいでるんだこいつは……。

<坂本 隼人>
「西友は疲れてないか?」

<西友 鳴歌>
「うん。大丈夫、まだ平気です」

痩せ我慢ではなく、本当にまだまだ大丈夫なようだ。

結騎は見かけ倒しだったが、西友は見かけによらずタフだな。

<坂本 隼人>
「そっか。それじゃ女幹部は退場したし、残りのパートやっちまうか」

<西友 鳴歌>
「うん。お願いします」

オレと西友は、ベッドの上で「う~ん」と唸っている結騎の存在を忘れるくらい、残りのパートを演じきった。

…………

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;背景(通学路、夕方)
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<結騎 凛>
「お邪魔しました。またね坂本くん」

<坂本 隼人>
「ああ。最初は本当に邪魔しにきやがってと思ったが、後半は助かった」

<西友 鳴歌>
「ゆ、結騎さん。本当にありがとうございます」

<結騎 凛>
「ううん。こちらこそ楽しかった。またやりましょう」

結騎はそういうと、やや駆け足で帰ってゆく。

オレたちはしばらく結騎を見送っていたが、突き当たりの交差点を曲がることにより、結騎の姿は完全に見えなくなった。

<坂本 隼人>
「駅まででいいか?」

<西友 鳴歌>
「え? あのっ」

<坂本 隼人>
「家まで送らないと駄目か?」

<西友 鳴歌>
「いいい、ぃぇ、違います。ここで結構ですっ!」

<坂本 隼人>
「わざわざ走って帰った結騎の厚意を無駄にするわけにいかないだろ」

<西友 鳴歌>
「結騎さんの厚意、ですか?」

<坂本 隼人>
「そうだよ。西友をちゃんと送ってあげなさいよって語ってたぞ。あの後ろ姿は」

<西友 鳴歌>
「そ、そうなんですか?!」

<坂本 隼人>
「あ、ああ。多分……そうなんじゃないかなと思ってる」

そうだよな?

というか、あそこは「ちゃんと西友さんを送って行きなさいよね」とひとことあっても良いシーンだろ。

<西友 鳴歌>
「そ、それでは、駅までお願いします」

<坂本 隼人>
「わかった。それじゃ行こうか」

オレは駅までの道のりを、西友の歩調に合わせて、ゆっくりと歩いた。

そういえばこうやって女の子と並んで歩くのって、随分と久しぶりな気がする。

オレは駅までの道すがら、西友ととりとめのない会話を楽しんだ。

家から駅まで、徒歩で10分程度だった気がするが、それはオレの歩調であり、西友の歩みに合わせて駅まで向かうと15分近くかかるということが分かった。

正直どうでもいい情報だな。

<西友 鳴歌>
「坂本さん。あ、ありがとう」

駅まで直線で100mというところで、西友はそういうと、手を振って駅に向かった。

西友が駅の構内に消えるまで、オレはその場で立ち止まっていた。

なんとなくだが、こういうのっていいな。

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;個別2 END
;ジャンプ(s_nar03.ks)
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