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----  なぁ香夜。 オレと過ごしたあの日々は、そんなに簡単に忘れるほど脆かったのか?  季節は初夏。 姫君たち源氏は、熊野水軍の協力を得るために熊野に行くことになっていた。 もちろん、涼むと言う別の目的もあるんだけど。  熊野へ行く途中で烏に声をかけられたオレは、姫君たちの目の届かない所に移動した。 木陰に腰をおろすと、気持ちの良い風邪が吹き抜けていった。 「は? もう一回言ってみろ」 「ですから、香夜殿に付いている烏からの情報に寄りますと、香夜殿に許嫁が出来たと…  それから近々還内府が熊野にやって来ると…」 オレは耳を疑った。 ―――香夜に、許嫁? 別に、おかしいわけではない。 良い年頃なのだから許嫁がいても別に変な話ではない。 それなのに。 何で……こんなに胸が痛い? 「そうか、わかった。引き続き情報伝達を頼む」 真っ白な頭が吐きだした精一杯の言葉だった。 烏が去ってからしばらくし、望美が駆け寄ってきた。 「ヒノエ君、どうしたの? なかなか帰って来ないから心配したよ」  愛しの姫君が愛らしい唇でオレに言葉を紡いでいる。 それなのに、頭の中は香夜の事でいっぱいで。 「ああ、悪いね姫君。さあ先を急ごうか」  いつもの余裕はどこにもなく、ただ先へ進むことしか出来なかった。 ----
----  なぁ香夜。 オレと過ごしたあの日々は、そんなに簡単に忘れるほど脆かったのか?  季節は初夏。 姫君たち源氏は、熊野水軍の協力を得るために熊野に行くことになっていた。 もちろん、涼むと言う別の目的もあるんだけど。  熊野へ行く途中で烏に声をかけられたオレは、姫君たちの目の届かない所に移動した。 木陰に腰をおろすと、気持ちの良い風が吹き抜けていった。 「は? もう一回言ってみろ」 「ですから、香夜殿に付いている烏からの情報に寄りますと、香夜殿に許嫁が出来たと……  それから近々還内府が熊野にやって来ると……」 オレは耳を疑った。 ――香夜に、許嫁? 別に、おかしいわけではない。 良い年頃なのだから許嫁がいても別に変な話ではない。 それなのに。 何で……こんなに胸が痛い? 「そうか、わかった。引き続き情報伝達を頼む」 真っ白な頭が吐きだした精一杯の言葉だった。 烏が去ってからしばらくし、望美が駆け寄ってきた。 「ヒノエ君、どうしたの? なかなか帰って来ないから心配したよ」  愛しの姫君が愛らしい唇でオレに言葉を紡いでいる。 それなのに、頭の中は香夜の事でいっぱいで。 「ああ、悪いね姫君。さあ先を急ごうか」  いつもの余裕はどこにもなく、ただ先へ進むことしか出来なかった。 ----

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