出会い


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・8日(登校中)


見慣れぬ街、見慣れぬ風景、見慣れぬ道。
朝の爽やかな光の中、俺はゆっくりと足を進めた。

高校2年の新学期。

つい最近この街に引っ越してきたばかりの俺は、今日から新しく「エーデンベルク学院」に通う。

一度見学に行ったが今まで通っていた学校とは違い、年季の入った少し珍しい洋風のデザインの大きくて立派な校舎だ。
見た目には、いかにもエリート校といった佇まいで、見学に行った際に普段以上に緊張したのを覚えている。

そうとは言っても、そんな風に見えるのは佇まいだけで、実際はそんなに偏差値が高いと言うわけでもなく…そうだな、恐らく中の上と言うところだろうか。
まあそれでもいろいろと歴史ある学校、と言うのには変わりないが。

果たして俺は新しく通うその学校で上手くやっていけるだろうか…。

あ、そう言えば忘れ物とかしてないよな。

…とは言っても今日は始業式、入学式だけだから特に持ち物はない。

まずは学校に着いたら職員室へ行って挨拶からだな。

これからどんなことが俺に待ち構えているのか、不安の中にも少しの期待を抱きつつ俺は学校へと向かった。


・8日(校門)/ちさ菜、羽生治


ここがエーデンベルク学院。
やはり近くで見るとより一層迫力がある。

―キーンコーンカーン。

チャイムの音が聞こえる。
どうやら今から始業式が始まるようだ。

俺は今日から転入と言うこともあり一般の生徒よりは少し遅めの登校、始業式後のHRに間に合うようにで良いらしい。
…いや、その前に職員室へ行って先生に挨拶をしたり軽く説明を受けなければならないから、それよりも少し早めの登校…そう、始業式が終わる当たりか。
まあ何にせよどうやら早く着きすぎてしまったらしい。

…まあいいか。時間に余裕のあることは悪いことではない。
とりあえず職員室に行けば誰かはいるだろう。

ち「ああーやばい!遅刻遅刻―っ!」
羽「あ、おい!前…!!」
ち「え!?」

どんっ!

主「いてて…」
ち「いったー…何ぃ!?」

いきなり誰かがぶつかってきた…と言うよりタックルされた。
余程思い切りぶつかったのだろう、その拍子にしりもちを付いて倒れこんでしまった。
腰をぶつけたみたいだ、地味に痛い…。
その上鞄の中身が地面に散乱してしまっている。
一体なんなんだ…。

羽「ああもう、何やってんだよ…。」
ち「やー、ははは!前に人がいるなんて思わなくってー。」

どうやらぶつかってきたのはこの人みたいだ。
ぶつかってきた当の本人は地面に倒れこんで痛さを我慢してる俺とは違ってピンピンしている。
…なんかムカつくような情けないような。
それにしても制服を着てるってことは、ここの学校の生徒か。
ちょうど同い年ぐらいか…?

羽「大丈夫か?ほら、鞄。」
主「あ、どうも…。」
ち「ごめんねー、思いっきりぶつかっちゃって。失敗失敗!」
羽「何が失敗だよ…いきなり飛び出てタックルかましといて…。」
ち「あはは、あれは勢いが付きすぎたって言うかー…所謂事故ってやつ?」
羽「事故ですんだら警察はいらん。」
ち「警察なんて大げさな!ちょーっとドジっただけじゃん!」
主「あのー…」
ち「はっ!いやー、ごめんねー、大丈夫だった?」
主「ええ、まあ…。」
羽「鞄の中身、全部あるか?」
主「あ、大丈夫みたいです。」
羽「お前見ない顔だな、新入生か?」
主「いや、2年生。で、今日から新しく通うことになって…。」
ち「え、何々!?転入生なの!!?」
主「まあ一応。」
羽「そっかそっか、2年なら俺らと同じだな。俺は鉄野羽生治、よろしくな。」
ち「はいはーい!あたしは垂髪ちさ菜!!」
主「あ、どうも。俺は○○●●。垂髪さんと鉄野くん、な。よろしく。」
ち「あはは、丁寧に『さん』とか付けなくっていいって!それにしても皆より一足先に転入生とご対面なんてついてるねぇ。」
羽「だな。あ、俺も羽生治でいいから。まあ考えてみりゃそうだよなー、大体新入生はもう中で入学式………あ。」
ち「ん?どしたの?」
羽「…おい、今何時だ?」
ち「…え?ああああああああああ!!!!!時間!時間やばい!!!」
羽「これはもう完璧に遅刻だな。」
ち「ああもう!なんてこったい!あたしもう行くね!そんじゃ!!」
羽「おう、じゃあなー。」

………………。

行ってしまった。ずいぶん賑やかな人だったな…。

主「あれ…ええっと、は、はい…?」
羽「羽生治だ、羽生治。」
主「あ、その、羽生治は行かなくて良いの…?」
羽「ん?ああ、俺はもう諦めた。」
主「…それはなんとも潔い。」
羽「そうそう、人間諦めが肝心ってやつ。」
主「あー…。」
羽「式の途中に行って怒られるよりも、終わった後にこっそり紛れとく方が得だろ。常識的に考えて。」
主「…確かに。頭良いね。」
羽「常識常識。で、お前は今からどうすんの?」
主「あ、そうだ、職員室行こうと思って。」
羽「そっかそっか。んじゃ俺は式が終わるまでそこら辺で見つからないように時間つぶすか。そんじゃーね。」
主「あ、職員室の場所って…」
羽「んー?ああ、玄関のとこに校内見取り図があるからそれ見てみ。」
主「分かった、ありがとう。」

羽生治は校舎裏の方へ行くのを見送ってから、俺は玄関の方へと向かった。


・8日(職員室)/礼


見取り図はあるものの、何せ馬鹿でかい学校だ。
少し迷いながらも何とか職員室を発見できた。

主「失礼します。」

垂髪や羽生治と話していたり、迷ったりしていたせいだろう。
職員室へは丁度良い時間帯に着くことができた。

礼「あ、○○くん、こっちです。」
主「あ、はい。」

中に入ると一人の男の先生に呼ばれた。
まだ年の若い、20半ばぐらいだろう。

礼「おはよう、○○くんのクラスの担任を務める青木礼です。よろしく。」
主「こちらこそよろしくお願いします。」
礼「ちなみにクラスは2年1組です。転入早々で分からないことも多いと思いますが、何かあったら気軽に聞いてください。きっとクラスの皆もいろいろと力になってくれるでしょうから。」
主「はい、ありがとうございます。」

優しそうな先生で良かった。
その後も俺は少しこの学校についての説明を受けた。

礼「よし、そろそろ教室へ行きましょうか。まあ緊張せず、気軽にね。」

先生はそう言って軽く俺の肩をポンと叩いた。

礼「それじゃあ案内するから付いてきてください。」

俺は先生に案内されるままに教室へと向かった。


・1日目(教室)/礼、ちさ菜、羽生治、白雪姫


礼「じゃあとここでちょっと待っててください。呼ばれたら入ってきて挨拶してくださいね。」

教室に着くと俺は入り口で待たされ、先に先生が入っていった。
ざわめいていた教室が静かになり、先生の話が始まった。
教室の中が気になりながらも俺は廊下で呼ばれるのをじっと待つ。
ああ、ドキドキする…落ち着け、俺…!

礼「じゃあ○○くん、入って。」

そうこう考えているうちに名前を呼ばれた。
よ、よし、とりあえず中に入って挨拶だ。

主「初めまして、○○●●です。よろしくお願いします。」

ぐるりと周りを見渡す。
視線が俺に集中してる…。
当たり前のことだが、やはり知らない人ばかり……ん?

ち「やっほー!同じクラスだったんだ!よろしくぅ!」

見覚えのある顔がこっちに向かって手を振っている。
あれは、確か垂髪…同じクラスだったのか。

礼「おや、知り合いですか?」
主「あ、いや、今朝ちょっと…」
礼「今朝?ああ、垂髪さん、もう転入生と会ったんですか。…○○くん、何かちょっかい出されたりしませんでしたか?」
主「あ、はい、ちょっと話してただけで…」
ち「いやいや、優しい優しい垂髪さんとしては困ってる転入生をほっとけなくってー。」
礼「なるほど。遅刻した上に話し込んでる余裕がよくありましたねぇ?」
ち「え、あ、ちょ、それとこれとは話が別…!」

ボロがでたな。

礼「まあそれについては後で詳しく話すとして…」
ち「ええー!?それくらい多めに見てくださいよ、先生様ー!」
礼「それで○○の席ですが…あそこ、窓際の1番後ろです。」
ち「無視ですか!?」

「ひどい」などとまだ喚いている垂髪をよそに、俺は指定された席へと行き、荷物を置いた。
一応隣の子に挨拶もしておこう。

主「よろしく。」
白「あ…。」

隣の子は軽い会釈で答えてくれた。
で、あとこれからお世話になりそう…と言ったら前の席なんだろうけど、机に突っ伏して…寝てるのか?
でも、これも一応超えかけておいた方がいいよな…。
とりあえず軽く肩を叩いてみようと思った瞬間、前の奴が勢いよくこちらを振り向いてきた。

主「ぅわ!」
羽「よ!」
主「え…羽生治!?」

それは今朝会った羽生治だった。
そうか、垂髪だけじゃなく羽生治も同じクラスだったのか。

主「びっくりしたー。寝てるのかと思った。」
羽「いや、寝てたんだけどさー、途中で目ぇ覚めてさ。でも起きるのもめんどかったしそのままの姿勢で声だけ聞いてた。」
主「そっか。まあいいや、よろしく。」
羽「おう、よろしく…って今朝も言ったな。ま、分からんことがあったら何でも聞けよ。ただし勉強以外でな。自分で言うのもなんだが、俺の情報網は凄いからなー…これしだいで何でも教えてやるよ。」

と言いながら羽生治は手でお金のマークを作る。

主「金取んのかよ!?」
羽「はは。冗談だ、冗談。」
主「ったく…。」
羽「悪い悪い。」

そう言いながらも、まったく悪びれもせずに羽生治は笑った。俺もつられて笑う。
見ず知らずの人たちの中に、今朝あったばかりではあるが知ってる人を見つけて幾分か緊張がやわらいだようだ。
なんとなくだが、このクラスで上手くやっていけそうな気がした。


・1日目(教室、放課後)/暁子、日向、小兎


―キーンコーンカーン…

今日は入学式、始業式のあとにHRで終わりのようだ。
終了と告げるチャイムの音と共に教室中がざわめきだした。
さて、俺も帰る準備でもしようかと思っていると…やはり、とでも言うべきか。
みんな始めてみる転入生に興味があるのだろう、新しいクラスメイト達は次々と俺に話しかけてきた。
あっと言う間に人だかりが出来る。

暁「ちょっと良いかな?」

その時女の子の声がして人だかりに穴が開いた。
そこにはそっくりな一組の男女が立っていた。

暁「お話中にごめんね。初めまして、茨暁子です。あ、こんなのでも一応委員長やってるの。もし困ったこととか分からないことがあったらなんでも聞いてね。」
日「僕は副委員長の茨日向、よろしく。あ、見ての通り分かると思うけど僕たち双子なんだ。」
主「こちらこそよろしく。えっと…茨さんと、茨くん…。」
暁「あはは、それじゃ分かりにくいでしょ!私のことは暁子でいいよ!」
日「僕のことも日向でいいからね。」
主「暁子ちゃんと日向くん、ね。あ、俺も下の名前でいいよ。」
暁「了解。あ、●●くん、まだ学校のことよく分からないよね?案内しなくっちゃね!」
日「あ、姉さん、それなら僕が案内するよ。」
主「ありがとう、実はまだ全然分ってないんだよな。」

二人ともさすが委員長と言うべきか、しっかりしていて気が利くなあ…。
それに感じも良い。

小「あ、あの日向くん!えっと、それと暁子さん…。」

二人に感心していると随分小柄な女の子が話しかけてきた…と言っても俺じゃなく日向くんと暁子ちゃんにだが。

日「どうしたの?」
小「せ、先生が今から委員長会だって!」
暁「先生が?どうもありがとう。」
小「あ、いえ、別に…。」
日「いや、ホントにわざわざありがとう。」
小「そ、そんな…どういたしまして…。」

…絶対この子日向くんの好きだろ。分かり安すぎる…。
初対面の俺にも一目瞭然だ。

あ、目が合った。

小「………………。」

…あからさまに嫌そうな顔で目をそらされた。

日「あ、でも●●くんの案内もしなきゃいけないし…あ、そうだ!有栖川さんお願いできないかな?」
小「え!?あ、あたしが!!?ななななんで…!」
日「頼むよ。」
小「あ、う、うん…あたしで良かったら!」
日「ありがとう、それじゃあよろしく頼むね。」
暁「それじゃあ私達は委員長会に行ってくるね。」
日「うん、行こうか姉さん。」
小「あ………。」

そう言うと二人は教室から出て行ってしまった。
えーっと…俺はこの子に案内される…のか?

主「えっと…有川さん?」
小「違うわよ!有栖川!有栖川小兎よ!間違えないでちょうだい!まったく…。」

なんなんだ、このさっきとの態度の違いは…。

主「あ、悪い、有栖川さん。えっと学校の案内を…」
小「はぁ!?なんで私がアンタなんかの案内しなきゃいけないのよ!!」
主「え、だって…」
小「だいたいアンタも子供じゃないんだから自分でどうにかなんないの!?」
主「どうにかったって…」
小「あたしはもう帰るのよ!それじゃあね!!」
主「あ……………。」

行ってしまった。一体なんなんだ…。

まあ今朝羽生治が言ってたように玄関に見取り図があるし、教室移動は誰かについていけば良いとして問題はないだろう。

………仕方ない俺も帰るか。


・1日目(帰り道)/白雪姫


…それにしても今日は疲れた。
やっぱり初めて会う人たちには普段以上に気を使ってしまう…ような気がする。
きっと自分でも思っていた以上に緊張していたんだろう。
早く何の気遣いもなしにクラスに溶け込めるようになりたいものだ。

ふと通りがかった公園に目をやる。
子供が何人か遊んでいる。小学校低学年くらいだろうか。

…?
いや、遊んでいるわけではないのか、何やら子供たちの様子がおかしい。
何か起こったのだろうか?

近づくと子供たちはベンチの周りに群がっていた。

主「どうかしたのか?」

声をかけると子供たちが一斉に振り向いた。
一人の子が泣きそうになりながら口を開く。

子「お姉ちゃんが…」

群がっている子供たちの隙間からベンチに目をやると一人の少女が横たわっていた。
あれ…この顔には見覚えがある。
確か、隣の席の…名前は分からないが…。
倒れたのか、顔が真っ青でベンチに横たわっている。

主「大丈夫ですか?」

とりあえず声をかけてみた。
が、返事がない。まるで屍のよう…………

…いや、ふざけている場合ではない。
一応息はしてるみたいだが…
こう言うときはどうすれば良いのか…普段めったにないであろう状況に戸惑う。
とにかくこの場合は救急車か?

そう思って慌てて携帯を取り出そうとしていると、ゆっくりと彼女の目が開いた。
彼女のうっすらと開いた目と視線が合う。

瞬間彼女はビックリしたように目を大きく開いて身体を起こしたが、またすぐに倒れこむようにベンチの背もたれに身体をあずけた。

主「あ、平気ですか?」
白「え、あ、あ…はい、だ、大丈夫…です。あ、あの、ただの貧血で…いつものことですから…」
主「あ、そうですか…」
白「はい…」
主「…………」
白「…………」
主「えっと、確か隣の席の…」
白「あ、は、はいです!」
主「…………」
白「…………」

…駄目だ、会話が上手く続かない。

主「…あ、そうだ、名前。名前は?」
白「え、あ、白雪姫…、です。上城白雪姫です…。」
主「上城さんね。平気?立てるか?もしまだ駄目そうなら、俺で良かったら送って行こうか?それか病院…」
白「大丈夫です!!」

俺の言葉を遮るように彼女が大声を出した。
吃驚して言いかけた言葉を飲み込む。

白「あぅ、ご、ごめんなさいです!でもでも、本当に平気なので…失礼しますっ!!」
主「え、あ、ちょっと!!」

そう勝手に会話を終了させると彼女は行ってしまった。
まだ顔色もそんなに良くなってなかったのに…。
さっきの有栖川さんと言い、俺、何か気に触ることでもしたのだろうか…。


・2日目(放課後)/リヨ


初めての授業が終わった。
2年からと区切りがいいこともあって、前の学校とも進んでいたところはは同じ。
どうやら学習面での心配はしなくても良さそうだ。

リ「○○さん。」
主「はい?」

ふと呼ばれて振り向くと一人の女生徒が立っていた。

主「えっと…」
リ「同じクラスの灰塚です。先生から、まだわたしていない書類があるそうなので、職員室へ来てください、とのことです。」
主「あ、わざわざどうも。」
リ「いいえ。」

そう言われて職員室へ行こうと思ったが…あれ…確か職員室は…教室を出て右だったかな?いや、左か…?
そう言えば昨日案内され損ねたんだっけ…。
玄関まで見取り図を見に行くのも面倒だし…やっぱり聞くのが一番か。

主「あの灰塚さん…」
リ「まだ何か?」
主「ごめん、まだ場所が覚えきれてないんだけど、職員室ってどっちだったかな?」
リ「あ、そうですか…そうですよね、すみません。職員室は教室を出て…」
主「出て…」
リ「…いえ、ご案内します。付いてきてください。」
主「ありがとう、悪いね。」
リ「いいえ、気になさらずに。こちらです。」

俺は生徒達の声でざわめく廊下を、無言で進む灰塚さんの後ろについて歩いていった。