美術室*


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・1回目

なぜか今日は美術室のある棟までフラフラと歩いてきていた。
別にこれといって用事があるわけでもなく、ただなんとなく気の向くままに歩いていた結果だ。

美術を選択教科で選んでいないので、俺には縁のない教室ではあるが。

(ちょっと覗いてみるか?)

なんとなくの好奇心で俺は美術室に入ってみた。
中は思ったよりも広く、石膏なども置かれている。

主「へー、結構いろいろ置いてあるんだな…」

教室の中には、美術書がぎっしり詰まった本棚があった。
画集やら参考書やら…
へー、ルネサンス大辞典、レオナルド・ダ・ヴィンチについて…

なんとなく聞いたことのあるような芸術家の名前の書籍がたくさんある。

礼『君がこんなところにいるなんて珍しいですね?』

!!!

突然背後から声がしたので俺は吃驚して、慌てて後ろを振り返った。

礼「何をそんなに驚いているんです?」
主「あ、青木先生…」

声の主は担任の青木先生だった。
でも、この人は数学の教科担当だし、何でこんなところに現れたのだろう…

主「あの、先生は何でここにいらっしゃるんですか?」
礼「ああ、私は美しいモノを愛でるのが趣味なんですよ。だからこうして美術書を読みに来たりしているんです。」
主「は、はぁ…」

ああ、なるほど…先生に似合ってる趣味だと何か納得してしまう。
…実は、正直俺は青木先生が苦手である。嫌いではないんだけどな…
謎の多そうな何を考えてるか読めないタイプの人間ってどうも…

礼「君は何故ここにいるんですか?」
主「へ!?い、いや、なんとなく足を運んでみました。」
礼「ほう、それは面白いですね。君は美術には興味はないんですか?」
主「う、んんー。正直あまり知らないことが多いのでなんとも…」

これ以上何を話したらいいのかわからなくて俺は困った。
話を広げたいわけでもないし、とりあえず早くこの場を立ち去ろう…

触らぬ青木にたたりなし―――

主「それじゃ、俺はもう帰ります。お邪魔しました…」
礼「君、せっかく偶然が重なりこうして普段とは違う場所で出会ったのだから少し勉強(オハナシ)しませんか?」
主「え……」

どうやら俺はかなり、めんどくさい相手に捕まってしまったらしい。
青木先生は美術品のレクチャーでもしてくれるようだ。
これは話が長くなりそうである…俺は自分の不運さにちょっと泣きたくなった。

礼「知識は人を豊かにするんですよ?」
主「は、はあ…」
礼「それじゃあ、そこの机でお話しましょうか…」

俺は先生に誘導されるまま席に付く。
先生は一冊の画集を本棚から手に取り、俺に良く見えるように開いてくれた。

主「これは…?」
礼「知っていますか?」
主「あ、はい。確か世界史の教科書にも載ってましたよね?」
礼「そうですね、この絵画は時代を象徴しているために参考資料としてよく見かけます」
主「この絵画がどうかしたんですか?」
礼「この様式をバロックというのですが、バロックにはゆがんだ真珠という意味があるんですよ」
主「へぇー」
礼「そして、この……………」


………………………


そして、この話はこのあと小一時間ほど続いた。

正直、興味のない分野でつまらないだろうと思って聴いていた俺だが、
美術を熱く語る先生の話しは案外面白かった!

なんか、先生の意外な一面を見た、と言う感じだ。

礼「おや、すっかり話し込んでしまいましたね」
主「そうですね。あ、先生の話を聞いてるの結構面白かったです」
礼「それは良かった。では、そろそろ下校しないと警備の方に怒られてしまいますね」
主「はい、それじゃ失礼します」
礼「ええ、お気をつけて」

なんだか不思議な体験してしまった。
たまには悪くない経験だろうか…などと思いつつ学校をあとにした。



・2回目

放課後の美術室前の廊下、俺は何故かまた此処に来ていた。
この前は青木先生に捕まったけれど、さすがに今日はいな…

礼「やぁ、●●くん。」
主「!!」

俺はまたしても青木先生に遭遇してしまった。

礼「今日もまた私の話でも聞きに来たんですか?」
主「あ、いや、たまたま…」
礼「そうでしょうね。さて、ここで私に出会った運の悪い●●くん、また少しお話していきますか?」

①話を聴いていく→
②このまま帰る→


①話を聴く場合

主「…そうですね、また美術について面白い話ししてくださいよ。」

特に用事もないし、先生の話は興味深かったので聴いていくことにした。

礼「では、なかへどうぞ。今日は石膏像の話でもしましょうか?」
主「あ、それでお願いします」

先生に連れられ、美術室の中へ俺は足を踏み入れる。
教室内には何故か石膏像がいくつか机の上に並べられていた。
何のためだろうか?…

礼「○○くんはデッサンに使われている石膏像の人物たちを知っていますか?」
主「いえ、そういうのはちょっと見たことあるくらいで…」
礼「そうでしょうね。まあ授業でもない限り、普通はデッサンなんてしませんからね。」

いつもと違う美術室に戸惑っていると青木先生は並べてある像たちを何個かに分けて、机の上に並べなおした。

礼「これはギリシャ時代の彫刻で、こちらがローマ時代の彫刻、そしてこっちはルネサンス期の彫刻のレプリカです」
主「へー」
礼「見分け方として、大雑把に言いますと、鼻の付け根と額の高さが高く、目が極端に落ち込んでいて、瞳が彫り込んでいないものはギリシャ時代のモノ、瞳がないのはもともと着色して瞳は描き込んでいたためなんですよ。よりリアルで、顔のしわなど個人的特徴が強調されているものがローマ時代、作者がはっきりしているもの、瞳が彫り込んであるものはルネサンス期という場合が多いようです。もちろん例外もあって、ブルータスは瞳がありませんが…。それから、その他エジプトの彫刻などもありますね。」
主「なるほどー。」
礼「ギリシャ時代の彫刻のモチーフはビーナスやマルス、ヘルメスなどギリシャの神様が多く、
ローマ時代の彫刻はシーザーやカラカラなど、だいたいがローマの政治家で、
ルネサンス期の彫刻はモリエールやブルータスなど、歴史上の人物を中心に様々なモノがあります」
主「なんだかすごい迫力ですね」
礼「…個人的にギリシャ彫刻の特徴である、この力強い曲線に美しさを感じるんですけど、君はどう思いますか?」
主「えっと、美しさとかはよく分からないんですけど…俺もこの像はかっこいいと思います」

俺は急に話を振られてちょっとしどろもどろになりながら答える。
教室内に無造作に置かれた像たちを、こんなにじっくり見たのは初めてだった。

礼「動きのある彫刻ですよね」
主「あ、でも先生がこういう彫刻がお好きなのは意外かもしれません」
礼「おや、そうですか?」
主「はい。なんかもっと繊細で細やかなものが好きそうかと…」
礼「いえいえ、私は美しいと感じられるもの全てを愛していますから…」
主「は、はぁ。」

なんか普通にこんな台詞をサラリと吐ける青木先生はすごい。

礼「それでは、そろそろ私は職員会議がまだあるのでもう失礼しますよ」
主「あ、はい、ありがとうございました。さようなら」
礼「そうそう話が聞きたくなったら、またどうそ美術室で…」
主「はい、そうします。それじゃ…」

そう言って、俺は青木先生と別れ、家へと帰る。

なんだかんだで、放課後の美術室は面白いかもしれない…そんなふうに思えた。


②帰る場合

うーん、やっぱり帰ろう…

主「すいません、ちょっと用事があるので失礼します。」
礼「おや、そうですか…それは残念です」
主「また今度お願いします!さようなら!」
礼「お気をつけて…」

そう言って、青木先生と別れた。
長話になると大変だからな…俺はそう思いながら下校した。



・3回目

またしても、俺は美術室に足を運んでいる。
なんとなく放課後、青木先生から美術のレクチャーをされるのが面白くなってきたからだろうか。

美術室の扉を開けると、もうそこに青木先生がいた。

礼「おや、今日は偶然ではなく、来ていただけたようで…」
主「あ、はい。」
礼「君が美や芸術に関心をもってくれて嬉しいですよ。部活動には興味持っていただけなかった様なので、ね…」
主「あ、いや…」
礼「まぁ、こうして来てくれると私も楽しいんですよ?さて、今日は君に見せたいものがあるんです、さ、こっちへ…」
主「は、はい。」

何を見せてくれるのだろう?俺は期待と不安を胸に先生の後についていった。

礼「●●くん、ここに立って外を眺めてみてください」

俺は先生に促され、窓際に立って外を見る。

!!!

主「うわ、すごい…ですね!これって先生の所有物なんですか?」
礼「ふふふ、素敵でしょう?所有しているのは学院ですが、私の趣味のために使わせていただいてるんですよ」

そう、そこから見えたのは、裏庭に咲き誇るバラ園だった。
地面からではなく、二階のこの場所から眺めるバラ園は手入れが行き届き、花一つ一つの美しさと、全体のバランスが計算されているようで、
とても美しい。

礼「いかがですか?」
主「とても素晴らしいと思います!なんか上から見てみるのも新鮮ですね…」
礼「そうでしょう。視点を変えて、全体を見たときのことを考えて作られているんです」
主「先生が考えたんですか?」
礼「ええ、まぁ。デザインというか、少しだけ、業者の方に意見して変えて戴いただけですけどね」
主「”だいぶ”の間違いじゃないですか?」
礼「ふふ。さあ、どうでしょうねえ?」
主「はあ…………」
礼「見てください、あの薄いピンクのバラを。あれは私の一番のお気に入りなんですよ」

青木先生が指差す方には、綺麗なピンク色をしたバラが咲いている。

礼「スノーホワイトという名前なんですよ。品種改良の結果生まれたものなんですが、とても繊細で儚い色をしているでしょう…」
主「…………」

花を愛でる先生の視線の先には、美しいバラよりも何か別のものを重ねて見ているようで、俺は何も言えなかった。

『ピンポンパンポーン…青木先生、青木先生、いらっしゃいましたら至急職員室へお戻りください…』

突如、沈黙を破るように、校内放送が教室内に響き渡った。

礼「おやおや、呼び出されてしまいましたね。それでは今日のところはこの辺りで…」
主「あ、はい。お疲れ様です。俺もそろそろ帰ります。さようなら」
礼「ええ、お気をつけて。」

青木先生って、ほんとミステリアスで何考えてるのか分からない人だな…
そんなことを思いつつ、俺は美術室を出て、家へと帰った。



・4回目

放課後、またしても俺は美術室へ立ち寄る。
教室の中に入ると、青木先生が居て、机に上には裏庭のバラ園から取って来たバラたちが並べられていた。

礼「また、こちらに足を運んでくれたようで、嬉しいですね」

俺に気づいた先生が、花を生けながら話し掛けてきた。

主「何をされてるんですか?」
礼「バラを使って、砂糖漬けやティーを作ろうかと思いましてね…」
主「食べれるんですか??」
礼「鑑賞するだけではなく、香りを生かしてそういったモノにも出来るんですよ」
主「へー」
礼「とてもいい香りですよ。ちなみにバラを摂取し続けると体内からもバラの香りがするようになるといわれてるんですよ」
主「体臭がバラってすごいですね…」
礼「バラのような高貴な香りに包まれるのは素敵だと思いませんか?」
主「そ、そうですね」

青木先生はよっぽどバラが好きなんだろう。
バラの花弁を一枚づつ丁寧に分けながら、ビンに詰めていく。

礼「さ、これで蜂蜜に漬けておきましょう。君もバラがお好きでしたらジャムやティーを分けてあげましょうか?」
主「え、ホントですか??」

バラの香りは嫌いじゃないし、これは有難く貰っておこう。

主「ちょっと、頂けたら…」
礼「ちょっとと言わず、お好きなだけどうぞ?」
主「あ、ありがとうございます」
礼「いえいえ、いつも私の長話に付き合ってくれているお礼、ですかね」
主「そんな、別に俺も好きで話を聞いてるんですから…」
例「それなら良かった。そういわれると嬉しいですね…さて、これでよし」

一通りバラの花びらを集め終わった先生は、机の上を片付ける。
俺も洗い物を水道まで運んだりする。

礼「おや、ありがとうございます。」
主「いえいえ」
礼「さあ、今日はまたこれから職員会議なので、私はこれで…本当はもう少しバラの話もしたかったんですがね。そうそう、ジャムやティーはそのうちまたココに来てくれたらお渡ししますよ」
主「あ、はい。ありがとうございます」
礼「それでは…」
主「さようなら」

先生は瓶詰めにされたバラの花弁を手提げ袋に入れて、美術室から出て行った。
俺も帰るとするか…
それにしても、あのバラのジャムや紅茶をもらえるなんて、ちょっと楽しみだな…