音楽室,


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・1回目

探検と称して、この無駄に広い学校内をうろうろしている俺。
ふだん滅多に行く事も用事もないであろう音楽室にたどり着いてしまった。

さすがに授業時間外だと誰も居ないようだ…

『らー、らー、らー』


微かだが歌声が聞こえる。

とても綺麗で清んだ歌声だが…

こ、これは学院の七不思議のひとつ…『音楽室の幸子』さんが現れたのだろうか?
放課後、誰も居ない教室でひとり歌い続け、その歌声を聴いた生徒を異世界へ連れ去るという…あの幸子さんか!?
だとしたら俺は、連れ去られてしまうのか??
ココから逃げなくてはマズイ…。

俺は音楽室の扉の前からさっさと立ち去ろうとした。
と、その時…

小「ちょっと、なにやってんのよ?」
主「ひぃ!!!!」
小「は?あんた何そんなに驚いてるわけ?」
主「へっ??…」

いきなり扉が開いたと思って驚いていたら、音楽室の中から有栖川がでてきた。
な、なんだ『幸子さん』じゃなかったのか。

主「なんだ、有栖川か」
小「は?なんだとは何よ?だいたいなんでアンタみたいのがここにいるのよ?まさか覗き??うわ、悪趣味ね」
主「ちょ、有栖川、誤解だって!」
小「あ、そう。だったら練習の邪魔しないでくれるかしら?そこで立ってられてると迷惑なのよ」
主「…はあ、わかりました」

ったく毎度、変わらずの毒舌っぷりである。
この会話にもだいぶ慣れてきたが、いちいち言葉が刺々しく刺さる。

主「なぁ、なんの練習してるんだ?」
小「なによ、急に?別になんの練習でもいいでしょ!アンタに関係ないし」
主「さっき、歌声が聞こえてきたけど、あれっておまえの声なのか?」
小「…そうだとしたら何か?」
主「いや、別に文句があるんじゃなくて、綺麗な声だと思ったから、その…」
小「…ふーん、一応音楽を理解しているようじゃない。まさかアンタに褒められるとは意外だわ…」

ホントに高飛車というか、俺のことを何だと思ってるんだよ、コイツ。

小「さっきの歌は、賛美歌よ。教会の礼拝で歌うからちょっと練習してみただけよ」
主「賛美歌か…」
小「『アメージング・グレイス』有名だから知ってるでしょ?」
主「ああ、よくテレビで使われてるやつだろ?あれって賛美歌だったのかー」
小「そうよ。さ、まだ歌うんだから邪魔しないで頂戴」

ほんと可愛げないよな、有栖川って…

小「まだいるの?それとも私の歌声を聴いていたいのかしら?」
主「…ああ」

歌の続きを聴きたいと思ったのは確かなので素直に答える。

小「!…べ、別に聴くのは構わないけど、邪魔はしないでよね!」
主「はいはい。」
小「…なら、入りなさいよ。ほら、そこに座って。」

有栖川に案内されるまま、俺はピアノの横の椅子に腰掛けた。

小「…なんか、アンタにみられてるの気持ち悪いけど、しかたないわね」
主「おいおい…」
小「アー、アー、アアアアアアアアア~♪」

俺に構うことなく有栖川は発声練習を始める。
体に見合わず、案外声量は大きくよく響く綺麗な声に俺は感心する。

小「ねえ?アンタ歌は得意?」
主「…へ?」

唐突に有栖川が聞いてきた。

小「歌は得意かって聞いてるのよ!」
主「あ、ああ、いや。俺はあんまり…」
小「そう。」
主「え、それで終わり?」
小「ちょっと聞いてみただけよ。上手いなら合わせられるかもって思っただけ!」
主「ああ、そうですか。どうせ音痴な自分は一緒には歌えませんよ」
小「……ん、んアー、アアアアアアアアアアアア~♪」

ちょっとふてくされてる俺を無視して、有栖川は再び発声練習を始める。
練習すればこんなふうに歌えるものなのだろうか…

主「あのさ、有栖川。発声練習って音痴矯正になったりするのか?」
小「はぁ?何よ急に?音痴なの気にしてるわけ?」
主「…まあ」
小「うーん、そうね、声は出やすくなるわね。リズム感の問題もあるけど、まぁ多少はマシになるんじゃない」
主「そういうもんかー」
小「…じゃ、ちょっとそこに立って発声してみなさいよ。あああで音階上げてくヤツ。」
主「お、おう。ん、んー。」
小「ピアノに合わせて行くわよ?さんはい!」

有栖川に促されるように俺は歌い出す。

主「ア”ア”ア”ア”ア”~」
小「ちょっと!!アンタふざけてるの!!?」

いたって真面目に発声したつもりだったが、有栖川は眉間に皺を寄せ不快な顔をしている。
よっぽどひどい音程だったようだ。

主「だから言ったろ、音痴だって!」
小「音痴にも程があるわよ!ふー、重症ね…」
主「おまえみたいにカッコよく歌えたらどんなにいいか…」
小「それじゃあ、練習しかないわ。とりあえずちゃんと発声できればいいけど…」
主「ボイトレ通うかなー」
小「お金の無駄じゃない?」
主「……はぁ…」
小「……そうね、発声練習くらい、なら別に見てあげてもいいわよ…」

有栖川がぽそりといった。
俺の音痴っぷりに、なんだか同情されてる気もするが…

主「本当か??」
小「何よ?文句あるの?」
主「いや、有難いと思って。音痴なの気にしてないって言ったら嘘になるし。発声に付き合ってもらえるとは思ってなかったから」
小「そ。…有難く思いなさいよ?」
主「はいはい。」
小「じゃあ、まずは姿勢を正して、口のあけ方にも気をつけなさいよ?ピアノの音をちゃんと耳で聞くようにね」

有栖川は俺にいろいろと発声の極意を叩き込んでいく。

小「ギリギリで裏声に変えるより、少し前の音から裏声で出して滑らかに音を繋いで!」

小「息をちゃんと切って、音をだらだら続けない!」

小「姿勢悪い!口の形も忘れないの!!」

俺はあれやこれや徹底的に指導される。
いささかスパルタ過ぎて疲れるが、ココまで見てくれる有栖川には感謝せねば。

………

小「そうね、今日はこのくらいにしておこうかしら…」

一通り、声を出し終わり、キリがいいので今日はもう帰ることにした。

主「ありがとな、有栖川!」
小「…フ、フン!どういたしまして!!」
主「これで上手くなったら、カラオケ行くか?」
小「は?何でアンタと二人でカラオケ行かなきゃならないのよ!」
主「ですよねー。調子に乗りました」
小「まったく。それじゃあ、また音楽室に来たら見てあげるわ。じゃあね!」

そういうと有栖川はピアノの周りの楽譜をさっさと片付けて、先に出て行ってしまった。
俺も帰るとするか…
ん?なんだか、声の通りが心なしか良くなった気がするな。

また、音楽室に行ったときは見てもらうとしよう。



・2回目

(今日は有栖川居るかな?)

この間のようにまた発声練習を見てもらいたいと、俺は音楽室を訪ねる。

『ら、ら、ら、ら~♪』

どうやら今日はもう有栖川は来ていて、練習しているらしい。
ドアを軽くノックし中に入る。

主「お疲れー」
小「別に疲れちゃいないけど?」
主「挨拶だよ、挨拶」
小「そんなこと分かってるわよ。で、今日も発声に付き合えと?」
主「うっ、…そうだよ。音痴直したいんだよ」
小「…ま、いいわ。じゃ、とっとと始めるわよ?」
主「よろしくお願いしまーす」

有栖川が弾くピアノに合わせて俺は声を出す。

小「ほら、音に合わせて!自分の音を聞く意識を持ちなさいよ!」
主「らー、らー…」
小「あんた、ホントに音楽のセンスないのね…」

若干あきれ気味に有栖川がため息をつきながらこぼした。
そ、そうか…センスか……

小「まぁ、でも鍛え甲斐があるわ。ほら、ぼさっとしないで練習しなさいよ!」
主「はいはい」
小「じゃ、続きから。鼻から額へ、額から頭の先まで声を響かせるイメージでやって」

相変わらずのスパルタ指導で俺の音痴矯正は続く。

『な、な、な、な、ななななな~♪』

言われたとおり声を響かせってっっと…

『ちゃらっちゃら~♪』

!!

突如、音楽室の中にこうるさい電子音が響き渡る。

小「あ、サイレントにしてなかったわ…」

どうやら有栖川の携帯が音の発信源らしい。
カバンから携帯を取り出して、確認する有栖川。

小「メルマガね…まったくうるさいわねぇ…」
主「いや、うるさい音に設定してるのは有栖川だろ…?」
小「は?あんたなんか言った?」
主「いえ、なんでもありません」

まったく有栖川の女王様っぷりにはまいったぜ。
携帯を開いてなにやら他にもメールチェックしているのか、俺は暫し放置プレイを食らっている。

主「あの~有栖川さーん?」
小「ちょっと待ってて」

ジャラジャラとストラップの付いた携帯を見つめ、メールを打ち込む有栖川。
携帯の外側にはラメやスパンコールのデコレーションが可愛く施されていた。

(女の子のって、携帯の装飾でも自己主張してるんだな…)

ストラップも何の飾りもないシンプルな携帯派の俺には、あまり良さがわからないのだが…。

主「すごい、デコレーションだな」
小「へ?ああ、この携帯?いいでしょ?ラメが可愛くて気に入ってるのよ」
主「これ、自分でやるのか?」
小「あたしは自分でやったわよ。好きに飾れるから楽しいのよね」
主「へー器用だな。おまえ、音楽以外にもこういうセンスがあって羨ましいぜ」
小「そうね、あんた不器用そうだものねー」
主「……」
小「さて、じゃもう一回オクターブ反復したらキリがいいから帰るわよ?」
主「了解」

有栖川が携帯をしまってピアノの前に戻る。
俺たちは再び練習をはじめる。

『ら、ら、ら、ら、ららららら~』

小「うん、いいんじゃない。じゃ、今日は終わりよ」
主「アリガトウゴザイマシタ」
小「じゃ、また来たいなら来なさいよ」
主「ああ、よろしくお願いします」
小「じゃあね!」

そういうと有栖川はさっさと帰り支度をして音楽室から出て行ってしまった。
ホント可愛げないけど、憎めないんだよな…有栖川って。

さて、俺も帰るとするか―――。



・3回目

さて、俺は今日も音楽室へと足を運ぶ…いつもの発声練習のために。
有栖川に歌を特訓してもらってだいぶ経ったが、彼女いわく、少しは音程を正確に捉えられるようになったらしい。
あれだけ、厳しく指導してもらえば、上達も早いか…
音楽室に入るとまだ有栖川は来ていなかった。
俺はピアノの前に立ち、ひとりで声を出してみた。

『あー、あー、あああああー』

最初に比べれば、まあ滑らかに音が出るようになったかもしれない。
練習って結構大事なんだな…

『あ、あ、あ、え、え、え、い、い、い、お、お、お、う~~~♪』

小「ふーん、先に来て練習してるとは、感心ね。」

俺よりちょっと遅れて有栖川が教室に入ってきた。
今日の彼女は見慣れない大きな荷物を抱えている。

小「別にあたしに構わないで続けて練習しなさいよ」
主「あ、ああ。…ところで、その荷物は一体…?」
小「ああ、これ?ま、アンタには縁がないモノだと思うけど…」
主「なんだよ、その人を馬鹿にした言い方は?」
小「馬鹿にしてるんじゃないわよ、だってアンタ乗馬なんて絶対しないでしょ?」
主「乗馬??」
小「ほら、だから言ったのよ。コレはあたしの趣味でやってる乗馬用の馬具よ。明日ちょっと乗りに行こうかと思ってたの」
主「へえーそりゃすごい。って、確かに俺には遠い世界だな…」

さすが有栖川、というべきか…
俺は乗馬運動する某ダイエットマシーンくらいしか乗ったことはない。
本物の馬に乗るとはすごいな…

主「馬って怖くないのか?」
小「はあ?…アンタ、結構小心者なのね」
主「いや、違うって!ただ振り落とされるとかしたら危ないだろうしって…」
小「アタシのパートナーはとっても素直でいいコだから、そんな事しないわよ。」
主「へぇー。」
小「小さい頃から可愛がってるし。それに、ちゃんとお互いに信頼関係が出来てれば大丈夫なのよ」
主「なるほどなあ…」
小「機会があったら乗ってみなさいよ、すごく楽しいから」
主「乗ってみたいが、そんな機会…俺にあるか?」
小「ないわね」
主「即答かよ!」

ま、乗馬できる機会なんて普通に暮らしてたらそうそうないだろう。

主「ほら、どうせ俺は超一般庶民ですから、そんなハイソサエティな趣味はもてません、てね」
小「ふーん、そう。せっかくウチの乗馬クラブで体験させてあげてもいいかと思ったんだけど…別に興味ないならいいわ」
主「へぇ?!」

何だって?!乗馬クラブ所有してるのか、コイツんちは…
というか、乗せてもらえるならぜひ本物の馬に乗りたいんですけど…

小「何よ、興味ないんじゃないの?」
主「えっと、乗せてもらえたら嬉しいんですけど…」
小「そ、じゃあアタシの時間が空いたらそのうち連れてってあげるわ」
主「お願いしマース」

…コイツ、凄いお嬢様じゃん。
それにしてもすごいよなー…

主「じゃ、いつでもいいから呼んでくれよ。」
小「わかったわ。さあ、それじゃ時間もあんまりないからそろそろ発声の続きやるわよ?」
主「ああ、そうだな」

こうして乗馬にいけるかもしれない約束を有栖川と交わした俺は、ちょっと浮かれ気分で、
音楽室が使える時間ギリギリまで発声練習を特訓した。

………………

小「今日はココまでやればいいわ。」
主「ああ、お疲れ!」
小「それじゃあね。アタシ急いでるから、ばいばい!」

有栖川はもう帰る支度は整えさっさと教室から出て行こうとする。

主「俺も帰るからちょっと待てよー」
小「は?アンタってば、一緒に帰る気?!ずうずうしい!」
主「ひでー」
小「用事、もうないでしょ?じゃあね!」

有栖川はすたすた先に歩き始めている。
ったく、いきなり態度が変わったり、ほんと気まぐれなやつだよなー有栖川って。

教室に一人取り残されてもしょうがない。
さ、俺も急いで支度して、家に帰るとしよう。



・4回目

今日も音楽室に向かう俺。
目的はただ一つ、ボイストレーニングのためだ。

ひょんなことから有栖川に指導してもらうことになったのだが、
この発声練習のおかげで俺の極度の音痴はだいぶ直りつつある。

有栖川の指導はかなり厳しいが結構身になるのだ。

小「遅いっ!」

音楽室の扉を開けると、有栖川が眉間に皺を寄せて腕組みをして仁王立ちしていた。
ちょっと小腹が空いたので購買でお菓子などを買っていたら、落ち合う時間がいつもより少し遅くなってしまったのだが…
今日の有栖川は相当ご機嫌斜めのご様子だ…
ここは慎重に扱わないと後でどんな目にあうか――

小「ちょっとアンタ、どんだけ待たせる気?!」
主「いや、ちょっと野暮用があって…」

嘘ではない。
ただ、俺が空腹を満たさないと発声できないという、野暮な用だ。

小「で、このアタシを待たせたわけ?」
主「待たせてたのは申し訳ない、ただ俺にもやることとかあるし…」
小「……」

うわ、有栖川のイライラが限界まできている。
ここはなんとかしないと

……
……
……

そ、そうだ!購買で買ったお菓子で宥めてみよう。
丁度、有栖川の好きそうな甘めのお菓子を大量に買い込んだし!
コレで少しは機嫌がなおるといいんだが……

主「あ、あのな、さっき購買に寄らなくちゃいけなくて、その時についでに差し入れ買ったんだよ。一緒に食わないか?」

とりあえず、有栖川を刺激しないように、お菓子は差し入れとして買ったことにして話を切り出してみた。

小「は?ついでに?」
主「…あ、いや…」

有栖川的には”ついで”という言葉が気に入らなかったようだ。
え、っと、こういう場合は……勢いで誤魔化そう!

主「あ、ほら、いつも有栖川には時間割いてもらってるからそのお礼をしたいなと思ってて…。とりあえず、まずはお菓子をと思って…」
小「ふーん。」
主「五時間目は体育だったし、ちょっとはお腹すいてるだろ?ほら、甘い系のやつ結構あるんだぜ?」
小「そう。」
主「これ、これ。先行販売のチョコレート、夏季限定のドラゴンフルーツ味のソース入りだぜ。」
小「……」
主「…有栖川?」

有栖川は俺が買ってきたお菓子の入った袋をじっと見ている。
あれ?逆効果だったか??

『ぐぅ~~~~~』

小「!!!!」
主「えっ?????」

今のは有栖川のお腹が空腹に耐えられず鳴った音だよな…
もしかして機嫌が悪かったのは空腹のせいなのか??

主「オマエ、お腹すいてるのか??」
小「……わ、悪い?」

なるほど、それであんなにイライラしてたんだな~

お腹が鳴ったのを俺に聞かれた有栖川は照れたような気まずそうな顔をしていた。

よし、ここは機嫌を直してもらうチャンスだ。
お菓子で買い込んでおいて助かったぜ…

主「いやぁ、実は俺も小腹がすいてしょうがないんだよ、これ食おうぜ?」
小「あ、そ、そうね!」
主「有栖川への差し入れだから好きなの食べろよ。俺は残ったやつでいいから」
小「あらそう?じゃ、これもらうわ。」

まだちょっと引きつった顔で受け答える有栖川だが空腹には屈したようだ。
俺の買ってきたガトーショコラクッキーに手を伸ばす。

小「頂くわ」
主「どうぞ、どうぞ!」
小「はむ……んん、あ、美味しいじゃない、コレ」

とりあえずお菓子は気に入ってもらえたようだ。
ふー、これで機嫌よくなってくれるとよいが…

小「そっちも食べたい!」
主「ほら」
小「ん…このムースのコーティングもなかなか悪くないわね」
主「ドーナツもあるけど、食うか?」
小「あたりまえでしょ、食べるわよ!」
主「はいはい」

どうやらすっかりお菓子に夢中になってくれたらしい。
よほどお腹がすいていたのだろう、俺が差し出すお菓子を次々に頬張っていく。
あまりのがっつきっぷりに俺は笑いがこみ上げてきた。

小「ちょっと!!アンタ何笑ってるのよ?」
主「いや、別に」
小「…ったく、気持ち悪いわねー」
主「ああ、すいません。って、ホント口が悪いよな…有栖川って黙ってれば……」
小「黙ってれば…なに、かーしーらー?」

一瞬、有栖川が再び眉間に皺を寄せてこっちを睨んだ。
おっと、余計なことをうっかり言ってしまいそうになった。
いかんいかん、ここで再び怒らせたら面倒なことになってしまう。

主「いえ、なんでもないです。それより腹はいっぱいになったか?」
小「!…ま、まあね。とりあえずは満たされたかしら」
主「ならよかった。やっぱお菓子買ってきて正解だったな」
小「そうね、今回遅れてきたコトはお菓子に免じて許してあげようかしら」
主「はは、そりゃどうも。」
小「まあ、次待たせたらどうなるかわかってる?」
主「あ、はい。わかってます」

ふー、今日のところは、なんとか機嫌も直ったし、これで一安心だ。
今度は遅くならないように気をつけるとしよう。

小「やだ、もうこんな時間じゃない!ちょっとのんびり食べてないで練習するわよ!!」
主「ちょ、おまえ…」

一人だけ先に満腹になったからって…俺はまだ小腹が空いているというのに。

小「やっぱり、グズグズしてるのねー。ほら早く始めるわよ?」
主「あー、はいはい。」

俺はしょうがなく練習に取り掛かる。

小「今日は普通に一曲歌ってみて、細かいチェックしてくわよ」
主「了解。じゃ、よろしくな」

ピアノの横に立ち、有栖川の伴奏にあわせ俺は歌いだす。

『~~~♪』

小「うん、前よりはぜんぜんマシだわ。ちょっと上手くなったんじゃない?」
主「ほんとか?!」
小「まあ。でもホントちょっとだけよ?」

ちょっとだけであろうと、音痴が少しでも改善されたなら嬉しい限りである。

主「ありがとな、有栖川」
小「ど、どういたしまして!このあたしの指導だもの上手くなって当然よ!後はビブラートや息継ぎやら細かいところよね…」
主「ああ。」
小「練習すればもっと良くなるわよ」
主「そうか。っと、そろそろ時間大丈夫か?」
小「あ、そうね。そろそろ帰るわ」

俺はお菓子のゴミをまとめ、帰る支度を始めた。

小「お菓子、ご馳走様!じゃ、先行くから。ばいばい!」
主「あ、ああ。またな」

相変わらず日向君のことを気にしてるのか、有栖川は俺と一緒に居るところを見られたくないらしい。
そういうところは女の子らしいというか、可愛らしいというか…

そんな有栖川の姿を見送ってから、俺もまとめたゴミを捨てて、家へと帰った。