シゲルとのバトルを終え一夜が明け、ハナダジム前。 ハナダジムのリーダーカスミに挑むサトシとピカチュウさん。 今度の敵は水タイプを好んで使うようだ。 ピカチュウさんの敵ではないだろう。とサトシは思っていた。 サトシ「ピカチュウさん、いよいよですね」 ピカチュウ「あぁ・・10秒あれば終わるだろう」 サトシ「たのもー、たのもー」 ハナダジムの中はお洒落なホテルのプールのようで、まさに水棲ポケモンに戦 いやすい設計を取っていた。 ピカチュウ「フン・・・でかい金魚鉢だ・・・」 ピカチュウさんはこういう場所に慣れておられないようで少々苛立っておられる。 ピカチュウ「チッ・・チャラチャラした場所は好かん・・・消すか」 サトシ「ちょっ・・・ピカチュウさん・・・」 ピカチュウさんの放電が始まろうとしたそのとき一人の少女が現れた カスミ「やめさせなさい!!なんのつもり?」 ピカチュウ「やっとおでましか・・・」 カスミ「なるほどね・・・ニュースや新聞で知っちゃあいたけど、あんたが謎のピカチュウ使い・・・トキワジムを壊し、タケシを完封、ジムはボロボロ・・・ あの後タケシはもう一人、マサラのシゲルに負けたって言うわ・・・ イワークボロボロじゃあ仕方ないでしょうけどね」 サトシ「・・・」 ピカチュウさんは自分の覇業が知れわたっていくのを聞きごきげんだ。 カスミ「あんた、ジム戦で名乗りもしないらしいじゃない・・とんだ自信家か、とんだ無礼者のどっちかねッ!!名乗ってもらうわよ・・・」 サトシはオロオロしだしてピカチュウさんに尋ねた。 言わずもがな、実際の関係はサトシ<ピカチュウさん ご主人様に先だって名乗りをあげる訳にはいかないだろう。 ピカチュウ「ククク・・・どの道俺様が勝つ・・・そのあと名乗れ」 サトシ「わかりました・・・」 ピカチュウさんは威勢の良いトレーナーに興奮を隠せていない ピカチュウさんの頭の中は虐げ、蹂躙し、制圧することでいっぱいになっていた・・・ ピカチュウ「ここは『いいからはじめるぞ』くらいでごまかしておけ。サトシ・・・」 サトシ「御意」 サトシは謎のトレーナーとして自覚を持ち出したのか、落ち着いてこう言った サトシ「・・・いいからはじめるぞ」 サトシの不遜な態度にカスミは怒りをあらわにする カスミ「いい根性してんじゃない!?完膚なきまでにぶちのめして力ずくで聞き出してやるわッッ!!夜の報道は決まりね!! 『謎のピカチュウ使い○○、カスミに敗れる!!』 覚悟しなさい・・・!!」 ピカチュウさんは生きの良い餌を前に嬉しそうに言う ピカチュウ「やれやれ・・口数の多いおてんば人魚だ・・・・サトシ楽しみにしておけ・・・夜の報道は 『ハナダジム陥落、異端の新鋭サトシ現る』だ・・・」 カスミ「いくわよ・・・!!スターミー・・」 ピカチュウさんは高らかに笑い、珍しくご自分から相手を挑発する ピカチュウ「おい貴様・・・ずいぶんとごついナリだな・・・元は星型のはずだが・・・人間様になにかされたか!?もはやヒトデにはみえねーぜッッ・・・ククク」 どうやらピカチュウさんは進化の石を当てられたポケモンを毛嫌いしているようだ・・・ スターミー「あんたにそれは関係ねぇぜ・・・強くなるための手段のひとつだ・・・お前も当ててもらったらどうだ!?ライチュウにしてもらいな・・・」 スターミーはクールに返したが、ピカチュウさんへの禁忌を口にしたがためこの戦いは凄惨なものとなった。 表情を曇らせサトシに言う ピカチュウ「俺様はこの戦い、何秒で終わらすと言った?」 貌が違う・・・スターミーはなにか逆鱗に触れたのだろう。 サトシ「たしか10秒と・・・」 ピカチュウ「前言撤回だ・・・こいつは俺を怒らせた・・・じわじわとなぶり殺しにしてくれるッッ!!」 サトシは震えた・・・ サトシ「おおせのままに」 プールの水が激しく波を立て、ピカチュウさんに襲い掛かる スターミー「それそれ・・・潰れちまいなッッ!!」 電撃を体外に走らせ襲い来る波に飛び込むピカチュウさん サトシ「つぶされるッッ・・・!!」 ピカチュウさんはにやりと笑い、電磁波を螺旋状に広げる。 すると3mはあろう高波がパンッと弾けて消えた。 あとには霧状の水蒸気が一面に広がり視界はもやにつつまれた。 スターミーは驚きを隠せずピカチュウさんに問いただす スターミー「何を・・・!?」 ニヤリと笑い答えるピカチュウさん ピカチュウ「フン・・・電子レンジと同じだ・・・おまえもそのうち、こうなるかもな・・・まだヒトデのままならなッッ・・・!!」 激昂・・・!!スターミーは抑えていた何かを開放した。 『サイコキネシス』人はそう呼ぶこの技は精神力の強さ、意志の強さを具象化の元とし、物体を操る。 スターミー「ふざけるな・・・!!ふざけるなーーーッッ!!」 プールの中の水が球状に浮かび上がり、それはやがて矢のように変化し、全ての矛先がピカチュウさんに向けられる。 その数、実に300本。 ピカチュウさんは微動だにせずこう言う ピカチュウ「やってみろ・・・出来損ない・・・」 スターミー「無事ですむと思うなよ・・・くらえッ!!」 空を漂う水の矢が、全てピカチュウさんに向けられる。 完全包囲この言葉こそ形容するにふさわしい状況。 体躯40cmほどのピカチュウさんに全方位攻撃。 スターミーは怒りをあらわにした。 ピカチュウさんは静かに精神統一をし、目を閉じる スターミー「あきらめたか!?」 ピカチュウさんは無言で電気を帯びることも無く静かに立っておられる。 スターミー「終わりだ・・・あっけなかったなッッ・・・」 目にもとまらぬ速さで水の矢はピカチュウさんに襲い掛かる。 サトシがやられたと目を覆ったその瞬間だった。 目を見開き、ピカチュウさんは微動だにせず全ての水の矢をすんでの所で止めていた。 外傷はひとつも無い。 水の矢は方向を変え、スターミーの方を向く。 ピカチュウさんは歪んだ表情を浮かべこうおっしゃった。 ピカチュウ「面白い技だが・・・出来損ないは所詮出来損ない・・・ こんな程度のサイコキネシスでこの俺様がやられると思ったか・・・ククク」 スターミーの身体が動かなくなり、胸のランプが生命維持の危機を促す 身体の動きを封じたのも、水の矢の向きを変えたのもピカチュウさんだった。 ピカチュウ「サイコキネシスはここまでやってサイコキネシス・・・貴様の生温い意思ではこれは防げん・・・ッッ!!」 スターミー「う・・動け・・う・・・ごけぇぇ!!」 ピカチュウ「無駄だよ・・・!!」 音も無く無数の水の矢がスターミーを貫いた。 いや、切り取ったと表すほうが正しい。 スターミーの10本はあろう突起物はヒトデマンと同じ星型に切り取られた。 ピカチュウ「もとの姿に戻ったな・・・ククク」 スターミー「何を・・・」 悪意に満ちた笑みを浮かべながら、矢で切り取ったスターミーの5本の部位を足元に置いた。 5本の部位を五芒星の形に並べると、ピカチュウさんの身体から激しい雷光がほとばしる。 ピカチュウ「俺は電気ネズミなんでな・・・電気を操るのが一番得意なんだが・・・いいものを見せてやる」 五芒星の部位は怪しく輝きだし陣のようなものが雷で描かれるとハナダジムの明るい雰囲気はたちどころに暗く怪しい空気に変わった。 ピカチュウ「・・蝕の宴が・・・今!!・・・始まる・・・ククク」 ピカチュウさんの語尾のクククは今まで何度も聞いてきたが、今度ばかりは雰囲気が違う。 陣を描いていた雷がスターミーの部位を飲み込むと、陣から雷が発生した。 その雷は赤黒く輝き、ハナダジムの天井を貫いた。晴れ晴れとした空に似つかわしくない雷が、ほの暗いプールサイドでビリビリと唸りを上げていた。 ピカチュウ「精神力とは己の意思・・・突き詰めればこんなことも可能になる・・・覚えておくといい・・生きていればの話だがなぁッッ」 陣から渦巻く雷は地獄の雷火の如く赤黒く醜悪に輝く。 ピカチュウ「さて・・終いだ・・・遺言くらいは聞いてやる」 身体を裂かれ、動けずもなお気丈に言う スターミー「・・・誰が・・貴様なんぞに・・・!!・・悪魔め」 ピカチュウ「いいだろう・・・その言葉が最後の言葉だ・・・乙なものだな・・・ハハハハ!!!!」 ピカチュウさんが止めを刺そうとしたそのとき カスミ「待って!!もうやめて!!そこまですること無いじゃない!! ・・・・もう・・戦えないよ・・・」 ピカチュウさんはやさしく笑み陣と雷を解いた。 こうなることを望んでいたかのように。 ピカチュウ「フン・・・スターミー・・身体を愛えよ・・・」 すぐに表情を戻し、サトシに言う ピカチュウ「勝ち名乗りだ・・・言えよ・・・名前・・・」 サトシはピカチュウさんに少しずつ認められつつあった。 これだけ凄絶な試合をみてもなお傍に居るサトシに信頼を覚えていたのだ。 サトシはまだそのことには気付いていないが、むずがゆくなりつつも名乗りをあげる。 サトシ「お前を倒したのは・・・サトシ!!マサラタウンのサトシだ!!」 ピカチュウさんはいぶかしげな顔でサトシにいう ピカチュウ「・・・あの小娘に、ヒトデマンをスターミーに進化させた理由を聞け・・」 サトシは理由もわからず聞いてみた サトシ「カスミ・・・なんでヒトデマンをスターミーにしたんだ?」 カスミ「この子と海で遊んでる時に、黒い服の怪しい人がこの子を連れ去ったの・・・わたしはまだ9歳で何も出来ずだったわ」 サトシとピカチュウさんは顔を引きつらせる サトシ「それで!?」 カスミ「3日後ボロボロで帰ってきたときにはスターミーになっていたわ・・・ まだ進化の石がデパートに売りに出される前の話だから・・・」 ロケット団の生体実験だった・・・それでスターミーは嘘をついていたのだ・・・自分の意思ではなく・・・ ピカチュウさんは顔色を変える。 ピカチュウ「今度ロケット団を見つけたときは・・・俺は何をするかわからねぇ・・・!!サトシ、そのときは頼む・・・」 ピカチュウさんがお願いをされた。事の重大さよりサトシにはそのことが嬉しくて仕方なかった。 サトシ「はい!任せてください!!」 ピカチュウさんはニヤリと笑うと指定席に戻られた。そう、サトシの頭の上へ。 こうしてハナダジムの激闘は幕を閉じる。 夜のニュースでハナダジムの敗北、そしてサトシの名前は報道された 見出しはこうだ 『カスミ完敗・・・マサラから四天王へ刺客!!サトシ現る!!』 異端の新鋭どころの騒ぎではなかった。 当然だろう・・・ピカチュウさんの技の苛烈さときたら普通のものではない。 それを操っていると報道や世間は思っているのだから。 ピカチュウさんはちやほやされるのが好きではないので報道関係へのインタビューは全て無視するようにおっしゃっている。実にクールだ。 一夜が明け、ハナダ南の地下通路を通りクチバシティへ向かうサトシとピカチュウさん。 間に位置するヤマブキシティは現在ロケット団のテロ関係で警察に封鎖されているため通り抜けが出来なかった。 ピカチュウさんにとってはロケット団をつぶすチャンスを逃すこととなったため2倍歯痒い思いをしている。 取り巻く報道屋を尻目に道をゆくが、相変わらずバトルの申し込みは無い。 そのままクチバシティに到着した。 ピカチュウさんは朝から落ち着かない。これから戦う敵はクチバジムリーダーマチス、ライチュウを使う。 解せない、という表情でピカチュウさんはおっしゃった。 ピカチュウ「サトシ・・・よく聞け。本来、進化の石は天然資源だ・・ 例えば野生のライチュウなんかは群れの長として認められたピカチュウが自分の意思で進化するか決めるんだが・・・ 普通は偶然座り込んだ石が進化の石で偶然取り込まれてしまった、なんて時以外好んでするもんじゃあない・・・ 進化は形態の変化からくる苦痛に耐えなければならない・・・ その苦痛は通常の進化では考えられないほどだ・・・ なんせ石に取り込まれるんだからな・・・」 わかるか?というような表情でピカチュウさんは続ける ピカチュウ「マチスがライチュウつかいというのはトキワの森でも有名で、も う何年も前かららしい。 しかも奴は軍に属していたらしい。いや、今もか・・・」 サトシは深く考えた。そして出た答えは・・・ サトシ「軍の・・・生体実験・・・!!カスミのときのはロケット団でしたが・・・」 ピカチュウ「俺様が生まれる前、トキワの森のピカチュウの群れが一夜にして消えたことがあるらしい・・・もうわかるな?」 サトシ「捕獲と実験・・・でしょうね・・」 ピカチュウ「マチスは軍の犬だ・・・必ず潰す。ライチュウも救い出す・・・!!・・・必ずだ」 サトシ「わかりました」 決意を新たにマチスとの戦いがはじまる