デッドマンズインワンダーランド

とある海岸、この殺し合いで設けられたエリア分布ではD-1と呼称される場所にて。
無垢な少女の姿があった。
頼るべき大人に無条件に甘えるように、少女は横になった大人に対して感情を語る。
曰く、海なんて、砂浜なんて、物語の中でしか知らなかった。こんなにも広いものなんだ。
曰く、歩くたびに足を取られるその感触がうっとおしいけど新鮮で嬉しくなってくる。
曰く、少し歩き疲れてしまった
曰く、赤おじさんと黒おじさんはどうしているだろう?
曰く……
この場に集められてからの本当に短い時間だけで見つけた幾つもの快も不快もひっくるめて、思いつく限りの言葉を贈る。
返事を期待したその言葉に返ってくるものは身じろぎ一つないのだけれど。

それも当然、目前の大人は誰がどう見ても死んでいる。
薄暗闇の中でもはっきりわかるほどに血の気の引いた顔色も、身動き一つせず血の滴るその体躯も。
認識できる全ての状態がそれが“死体である”と示しているのだ。
ただのしかばねは返事を返すことは決してない。
幼さゆえに、それに気付いていないのか、
あるいは、幼さゆえに、気付き、狂ってしまったのか。
言葉は止まず一方的な話声は続いて行く。


おお、運命よ!なんと残酷たるか!
願わくば彼女に救いを賜れんことを!


と、語りたい事を全て語り終えたのか、少女の言葉が一度止み、これまでとは違った調子の言葉が投げかけられた。
「私お友達が欲しいの。ねぇ、私のお友達になって。ねっ!良いでしょ!」
どこか怯えを含んだ表情で、声音で、そんな言葉を。
ここで何一つ返事がなければ、拒まれたと感じてしまえば、か弱い少女はそれだけで崩れ折れてしまいかねないだろう。

もしもここに良識ある人がいれば少女に駆け寄り抱きしめたいと願うだろう。
少女に吹く冷たい風をほんの少しでもいい、遮ってやりたいと願うだろう。
言葉を、温もりを、救いを、なんでもいい、何かを与えてやりたいと願うだろう。
されどここにはそんな誰かはいない。
故に救いは無く、後には静かな沈黙だけが残る……
その筈だった。

「私はカリョストロ、みてのとおりのかっこいいお兄さんだ。コンゴトモヨロシク……」
死体以外の何者にも見えなかった男はそんな事を起き上がり言った。
その姿はまるでコミック・ブックのスーパーヒーロー。
マントをたなびかせるその姿は妙に似合っていたが、血がべったり貼り着いた衣装ではどこか滑稽でもあった。
そんな男の姿を見て少女は花が咲くように笑う。
「あたしアリス、アリスっていうの!コンゴトモヨロシクね、お兄さん」




ほほう!私の死んだふりをみぬくとは!ではごほうびにわたしがキミをやっつけてやろう!


“死んだふり”で疲労を極限まで抑えて生き残る。
狂った計画に焦る心を鎮めるために、弱い心を隠す傲慢な言葉を胸に浮かべる。
いや、狂ってなどいないのだ。
どういうわけか完全に私が生きているという前提で語りかける少女だが、私なら瞬く間に殺してしまえる。
そうして始末を終えたなら少し離れた場所でまた死んだふりを再開してしまえばいい。
情報を聞き出す意味でも言葉が止むまでは付き合うが終わり次第に実行に移そう。
完璧な死んだふりを続けながらに他愛のない話を聞き流して行く。

と、言葉が止んだ。相手の息遣いさえも聞きとれる静かな状況だ、ここからが本題だと言う意図もしっかりと伝わってくる。
「私お友達が欲しいの。ねぇ、私のお友達になって。ねっ!良いでしょ!!」

なるほど、同盟のお誘いと言うわけか。
確かにたった一人が生き残る、そんな状況の中であえて誰かと組むという事のメリットは計り知れない。
裏切りを前提とした人間関係の構築難易度も合わさってほぼ全ての敵対者に対して優位に働くだろう。
私の場合はほとんど起こり得ないケースだが、格上が存在した場合、そういったものをも倒しきる有効な戦術の一つだとも言える。
だが、そのようなものよりも死んだふりを続行することの方が私にとってははるかに確実性のある作戦だ。
まったく、時間を無駄にした。
そんな苛立ちすら抱きながら起き上り少女の姿をその目に捉え、目を奪われた。



西洋人形のようなその容姿はそれだけならただありきたりな少女とも言えるかもしれない。
裕福な家で甘やかされて健やかに過ごした世間知らず。
普通であればそんな評価で終わることも出来たのかもしれない。
だがグラップラー四天王の一人にも数えられる彼は普通とは縁遠い。

苛酷な時代を生きる洗練された感性が目の前のこれをゾンビのようなものだと示す。
一流のアーチストとしての審美眼が否定する。目の前の存在はゾンビではありえない。
死体であるにも関わらず死を否定するようにごまかし蠢くのがゾンビだ。
それはチグハグに接ぎ合わされたパッチワーク。
すでに訪れた死を否定する醜い言い訳の塊こそがゾンビだ。

翻り少女はどうだろうか。
そこには人造ゾンビの不気味の谷を越えられぬ哀れな非人間性も、自然発生的なゾンビの知性の欠如も感じ取れない。
確かに死臭を振りまきつつも、それは取り繕われるべき汚臭ではなく生を際立たせる死に化粧。
未成熟な生と完結した死が同居した佇まいは、矛盾しつつも醜さではなく魅力としてその目に映る。
そこにあるのは一つのアートであった。
このようなゾンビを人が生み出すことも、自然が生むことも決してありえない。
つまり目の前の存在は生身の人間で、“死んだふり”の達人アーチスト!

ならば前提が変わってくる。
この少女を殺すのは手間がかかるだろう。
ひょっとしたらその戦闘音によって多くの参加者を引き付け“死んだふり”を再開することが不可能な状況に陥るかもしれない。
そして少女がただの観察力に優れた一般人ではなく一流のアーチストならば同盟のメリットも膨れ上がる。
私の“死んだふり”にあてつけるかのように動き回る“死んだふり”の技には若干の羨望と多大な苛立ちを感じたが。
メリットとデメリットが膨らみ主導権を握られつつあることを自覚しながらもこのような言葉を返すしかなかった。
「私はカリョストロ、みてのとおりのかっこいいお兄さんだ。コンゴトモヨロシク……」



あるところにかわいいかわいい女の子がいました。
女の子は神様に愛されず、理不尽に命を失ってしまったけれども、悪魔には愛されました。
その綺麗な魂を惜しんだ悪魔は思いました。

「この綺麗なものが、それを壊した神様のところに行ってしまうなんて耐えられない」
そうして悪魔は女の子に尽くすことを決めました。

その悪魔はとても偉い地位の持ち主で、神様と戦う集団で幾つもの軍団を束ねる立場にありましたが、女の子のために抜け出しました。
形も重さもない魂はそれだけでは飛んでいってしまうので、その綺麗な魂に相応しいとってもかわいい女の子の体を作りました。
女の子がさみしくないように人が集まる街も作りました。
強い神様にまた奪われてしまわないように街自体にも細工を施しました。

そうして出来たのがロッポンギ。
悪魔が作った、少女のためのやさしい揺り籠。




前提の話をしましょう。
少女はカリョストロの死んだふりを見抜いていたわけではありません。
彼女にとって死は隣人で友人です。
死体であることと友達になれることは矛盾しないし、少女はいつものように過ごしていただけなのです。

ここに来た少女はただ喜んでいました。
文明の残り香の中、建物に囲まれた狭い空しか知らなかった少女にとって、ここはとても新鮮な美しさが溢れていました。
赤おじさんも黒おじさんも大好きでロッポンギも、街の人たちも大好きでしたが、
ロッポンギの中でしか過ごせなかった少女にとってここは遊園地よりも心躍るアトラクションに満ちているのです。
少女は確かに幸せでした。
いつもの緩慢な幸せとは違う、とても刺激的でたまらない幸せで胸が一杯でした。


【エリアD-1/海岸/1日目/深夜】

【カリョストロ@メタルマックス2:リローデッド】
[状態]:健康、血糊がべっとり、血の気の引いた肌の色
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、血糊、化粧セット、不明支給品(0~1)
[思考・状況]
基本:生き残る
1:アリスを警戒
2:死んだふり作戦への未練
3:アリスの死んだふりの技術に興味
[備考]:アリスの事を常に死んだふりをし続けるアーチストだと考えています。

【アリス@真・女神転生Ⅰ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1~3)
基本:友達100人できるかな~♪
[備考]:カリョストロの事を既に死んでいる人だと思っています。

021:大爆発!これがワイアルドの魂だ! 投下順 23:心壊
021:大爆発!これがワイアルドの魂だ! 時系列順 23:心壊
018:状態表探すのダルいから頭に持ってこよう カリョストロ 039:見えない境界線
初登場 アリス 039:見えない境界線

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最終更新:2012年12月01日 15:48
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